●リプレイ本文
●戦い終わって‥‥後始末
先の戦いが終わってより後、魔女の希望を受けた一行‥‥その際に出たもう一つの懸念である戦場となった森を少しでも修復すべく今、揃い顔を突き合わせていた。
「‥‥しっかし、一人歩きした名前に群がる悪魔共ってのもどうよ。伊勢の情勢にゃ明るくねえが、余程にギリなんだろうかな?」
「さてな、だが天岩戸と斎宮で同時に起きた戦いから後に大きな動きがないのは確かだ」
「今一つ、動きが読めませんね」
とは言え、上がる話題はやはり何を考えてか魔女の奪還に動いた妖魔の存在で、伊勢の情勢をつぶさには知らない木賊崔軌(ea0592)がその行動に対し呆れれば、少なからず彼よりは把握しているカノン・リュフトヒェン(ea9689)が素っ気無く応じると頷く緋芽佐祐李(ea7197)が敵の動向に困惑を覚えた、その直後。
「因みに天候は暫くこのまま、穏やかな様です」
「それなら早めに済ませないといけないよねっ」
「えぇ、それではカノンさん。一足先に伊勢の方へ行っております」
「分かった。後程、ギルドで落ち合おう」
「それでは、こちらも先ずは森の復旧を可能な限りしてしまいましょう」
「はーい!」
乾いた音が響けば皆、そちらを見やると掌を叩いた宿奈芳純(eb5475)が僅か先だけとは言え魔法にて天候を読んだ結果を告げると慧神やゆよ(eb2295)は元気に声を発し皆を促せばそれを機に今、やるべき事をすべく一行が顔を上げると頷いてそれぞれに行動を開始するのだった。
「森が一部朽ちたのは私の罠のせいですね‥‥申し訳ありません」
それより森に残った一行は佐祐李が言う程に酷くこそないが、痛ましい姿を見せ付けている木々の群れを見つめれば彼女はその光景へ詫びるも、それへ首を振ったのは『魔女』のシリル。
「しょうがありません。そこまで気にしていたらもっと被害が広がっていたかも知れませんし、全てを守ろうとするのなら相応に覚悟を決めないと達する事は難しいですから」
「そうさね、それにもう過ぎた事。余り気にし過ぎていてもしょうがないさ」
「‥‥えぇ、そうですね。それではどういたしましょうか?」
紡いだ言葉こそ何時もの様にのんびりと響くも‥‥その響きの奥には何かしら秘められている様な気がし、だからこそネフィリム・フィルス(eb3503)が普段通りにあっけらかんと同意すれば頷いて佐祐李が皆へ意見を求めると
「自然ってのは俺達が思っている以上に逞しいもんだ。だから荒れた場や散らかったモンを片付ける程度に留めて、余り触り過ぎない方が回復は早いかも知れねえぜ?」
「ふーむ、そう言われてみるとそうなのかも知れませんね‥‥では一先ず、残っている罠の方を片付けましょうか」
「賛成だ。では紗祐李、罠の詳細について頼む」
先ず応じた崔軌の声が場に響けば、農業関係に関して深い知識のあるドナトゥース・フォーリア(ea3853)は暫し思案するも、お世辞にも時間がない事にすぐ気付けば彼の意も汲み判断下すと、滋藤柾鷹(ea0858)も同意すればその罠を仕掛けた主へ尋ねるが
「罠、とは言っていますが単純に木々の間に縄等を張り巡らせてあるだけですから低い所を皆さんが、高い所は私達が解いて片付けましょう。偽装している物だけ、気を付けて下さいね」
「あいよ、じゃあ早速始めようぜ」
意外にあっさりと答えを返してきた佐祐李にすぐ崔軌が答え返せば、妖魔の迎撃に際し一役を買った罠としての役目を終わらせるべく、作業に取り掛かった。
●
一方、隣町まで村人達を迎えに行ったのは急ぎ宴の買出しを済ませ戻って来たカノンに芳純。
「皆を守る為とは言え、急な申し出に感謝する」
「状況が状況じゃ、そうする他にあるまいて‥‥それで、村へ戻れる目処は?」
「シリルさんの協力のおかげで敵は退き、村は守り切れましたので今ならば」
改めて村長を前にカノンが頭を垂れ言えば、二人を前に尋ねる彼へ応じて芳純は次の句を紡ぐ、肝心要の本題を。
「また、戻られた暁にはシリルさん本人より皆様と交流する機会を得たいとの申し出がありましたので、宜しければご参加頂けませんか。これを機に暫し、こちらを離れるとも申しておりますし」
「妖達はどこからか『魔女』の噂を聞きつけ襲ってきたと分かった。そして撃退した以上、もうこんな事もないだろう」
「‥‥そう、か」
その問い掛けを聞いて、微かではあったが渋面を湛える村長へカノンはその心中を察してそれだけは確かに伝えると、うな垂れて村長。
「自身の目と口で確かに見聞きした訳でなく、ただ子供達だけが聞いて来た『魔女』とたった一つの単語だけで距離を置いてしまった私達は‥‥同じだの、村を襲った妖怪達と」
「そうとも言えるでしょう。ですが歩み寄ろうとしているのなら、違うと言えるでしょう」
今は自責の念を持ってそれだけは二人の前で呟くと‥‥果たして芳純、村長へただ眼前にある事実だけを連ねれば
「ともかく、村へ戻りましょうか。考える時間ならば道中にもありますから今からでもどうすべきか、どうするべきだったか考えて貰えますか?」
未だ思考する余地だけはある事も伝えると、今まで村人達が目を背けて来た事だからこそ今からでも対して貰いたいと思い彼はそれ以上何も言わず、踵を返して村人達の先導をすべく歩き出すのだった。
そして村へ辿り着いた二人と村人を残る冒険者達が出迎える中‥‥果たして村長は決断を下し、その場にて皆へ告げるのだった。
「シリル殿の申し出、受けさせて貰う‥‥今からでも遅くないと言うのなら」
●始まる宴、氷解の刻
「えーと‥‥初めまして皆さん、シリルと申します。今回は私の我侭に着き合って頂き、ありがとうございます。それと‥‥今まで色々とご迷惑をお掛けしました」
宴の始まりを前に、果たして村人達の目の前に初めて現れた魔女は口を開くとその最初に村人達へ先ずは挨拶と‥‥深々と頭を垂れお詫びをするがしかし、何時もののんびりとした調子に口調は変わらないままやがて顔を上げては笑みを湛えると、その最後にシリルははっきりとした声音で自らが望んだ宴の開始を告げるのだった。
「それでは、始めましょうか?」
「ま、パーッと行こうさねっ!」
「さて、今日も元気な子供達のお相手でも勤めてこようかねぇ」
それより程無くして聖夜祭風にアレンジされた宴が始まるとネフィリムの雄叫びが轟く中、場の片隅にてじゃれあっている子供達を見かけたドナトゥースはやおら立ち上がり、宴席では暇を持て余し気味な彼らの相手をすべくそちらへ猛然と駆け出し、唐突に彼らを驚かしてみれば
「ま、色々と思う所はあるだろうけど‥‥今は難しい事なしで、飲めば良いと思うぜ。あ悪いけど俺は飲まないぜ? 指先が命なんでな」
村長の判断とは言え、複雑な心中を抱いている者も多くないながらいる村人達のはけ口にと崔軌、酒を片手に自身は遠慮しながら皆へは酒を進める。
「男の酌もなんでござろうが、如何か?」
「はい、ありがたく頂戴します」
それぞれが楽しむその中、シリルは柾鷹からの酌を受けては意外にも早いペースで酒を飲み干していたその時‥‥彼女の眼前、村長と数人の村人達が訪れれば開口と共に頭を垂れる。
「今まで本当に、済まんかったの‥‥」
「でも‥‥」
だがその彼らを前、シリルの傍らから離れないやゆよが口を開けば魔女の服の裾を引っ張り、彼女へ向けて言葉を発する。
「シリル先輩おねぇーさんがどんな人か、村人さん達に知られていなかったのもいけなかったと思うんだよー」
「そうですねぇ‥‥確かに、やゆよさんが言う通りです。だから、余り気になさらなくて構いませんよ?」
「‥‥忝い」
すると年幼い陰陽師の話に耳を傾けるシリル、笑顔と共に頷き彼女へ応じれば村長達へそれだけは伝えると漸く顔を上げる彼らへ今度はネフィリム。
「まぁさ、今度シリルっちが戻ってきた時は今日みたいな宴会でも催して、歓迎してやれば良いと思うさ。後はシリルっちも‥‥そうだなぁ、今度この村に戻って来た時は村人の皆に、何か教えられる事を教えてあげるといいさ」
「そうですね」
整った面立ちに豪快な笑みを湛え、村人達とシリルへそれぞれ言葉掛ければ‥‥果たして双方とも頷いた彼らを前に彼女、頷き返せば今度は密かに目論んでいた計画を実行に移す。
「よっし、話も纏まった所で‥‥ちと前だったみたいだけど、アシュドっちの誕生日をついでに祝ってやろうぜ!」
すると無論、アシュド・フォレクシー本人はそんな事を知る筈もなく大いに驚くが‥‥その話を端にして村人達と魔女は初めて揃い、彼の為に祝杯を挙げるのだった。
一度生まれたしこりとは、思う程簡単に解ける筈はないものの‥‥それでも互いに向き合う事が出来たのなら氷解する時はそう、遠くはないのだろう。
●
「ふむ、上手く行っている様で何よりだな」
その一方で宴が催されている家屋を一人、遠くの木陰から見守っていたのはカノン‥‥シリルの為にも余り出しゃばらない様に、と言う彼女らしい配慮から今は静かに保存食を口にしながら今回の出来事を脳裏に蘇らせる。
「伝聞だけで動くとはいささか、らしくない気もするが‥‥何か動きがあるとでも言うか」
少なからず今回の一件、お世辞にも賢明とは言えない焔摩天の行動を訝る彼女は持ち合わせている情報こそ少ないながら、彼らの真意を探ろうとするが
「ん、あれは‥‥」
意識が完全に思考の波へ埋没するより早く、木立の中にある異変を察すればカノンはそちらへ視線を向けると、そこには‥‥人に化けた妖孤達が尻尾だけはそのままに佇んでは何をする訳でもなく自身と同じく、宴が催されている家屋へ視線を注いでいた。
「邪魔立てするなら‥‥」
無論その光景を傍目に捉えれば彼女、得物の柄を握り締め追い払おうかと考えるも微かに聞こえた彼らのやり取り‥‥飯が美味しそう、怖い奴がいるから近寄れない、お腹減った等々を耳にして毒気が抜かれれば嘆息を漏らしてカノンは妖孤らが何もせず去るまでの間、気を張り巡らして監視だけ続けた。
「全く、分からん事ばかりだ」
●
「そう言えばシリルさんはこの土地について研究をしてらっしゃったとか」
「あ、はい」
そんな事になっている事等知らず宴もたけなわな頃、先までは村人達を前に手品を披露していた佐祐李はシリルの傍らにて、今まで気になっていた事を漸く尋ねていた。
「この伊勢の地には何かあるのでしょうか、例えば‥‥そう、例えば土地神様、天照様に関する事が」
「強いて言うのなら、そうですね」
それは彼女がこの地へ足を運んだ理由、引いては彼女の研究題目になるか‥‥その確信へ迫ると魔女、首を縦に振れば口を開く。
「自然宗教とは別に、個人的ですが神々の話について興味を覚えておりましてそちらの方も色々と齧っているのですが‥‥そもそも、他の国では悪魔と対するのは天使なのに此処ジャパンでは悪魔の個体数こそ多くないとは言え、他の国とは違い高位の精霊が対していると言う事実がある事に気付いたのがそもそもの始まりですね」
「そう言えば‥‥」
先ずその切っ掛けについて語り出すと、それを受けて考えれば確かに彼女が言う様に精霊の神ばかりを良く耳にする事に思い至る佐祐李を前にシリル。
「何故、ジャパンではその様な構図になっているのか気になって最初こそ英国で調査をしていたのですが、限界を悟ったその時にある人の先導がありまして現地‥‥強くその影響に置かれている、伊勢へと足を運んだのです」
「成程、ですが『その方』とは一体?」
「‥‥秘密です、でも決して悪い方でない事は誓って約束します」
再び口を開き、此処に至るまでの経緯を全て語るもその一端に出てきた先導者の存在を気に止めた佐祐李の問いへは魔女‥‥穏やかな笑みだけ浮かべ答えるのだった。
●いざ、伊勢へ
そして翌日‥‥件の村を後に、門前にて一行と魔女を見送る村人達を背に伊勢へと至る道を歩く皆。
「とは言えまだ、やるべき事は残されていますのでもう少しだけ。それと私達が伊勢までの道中、お付き合い致しますが‥‥宜しいでしょうか?」
「えぇ、こちらこそ宜しくお願いします」
その歩き出した中、今更にも拘らずシリルより同道の許可を貰っていない事をドナトゥースは思い出すと、後ろを歩く彼女へ振り返っては礼節を持って恭しく頭を垂れ尋ねるとそれを否定する筈もない彼女は首を縦に振れば、喜んだのはやゆよ。
「わーい、もう少しだけだけどこれで色々、一杯話せるねっ」
魔女の腕に飛びつけば、彼女との別れまで暫ししかないからこそ笑顔で言葉紡げば‥‥何時もと変わらない笑みだけを浮かべると
「でも‥‥勝手に外国に帰ったりしちゃ嫌なんだよ」
「はい、それは約束しましょう」
その反応を前に、何かを察してかやゆよは唐突に表情を曇らせて不安げな言葉響かせると、それを前に魔女は益々顔を綻ばせればやゆよが差し出した左手の小指に自身の右手が小指を絡め、約束を確かに交わせば
「それでは、行きましょうか」
その光景を前に芳純、小面の奥にある表情はどうなっていたか気になるものの僅かにだけ覗く瞳の光は確かに穏やかな光を湛えており、しかし道中はあるかも知れない妖達の襲撃を考慮すれば余りのんびり出来る筈もなく、それだけははっきり告げるとドナトゥースとやゆよが先導して伊勢への道を急ぎ、歩き出す一行。
「とんだ一月ではあったが‥‥村人も、魔女も事なきを得て何よりだ」
「そうですね、とは言え予断の許さない状態は相変わらずの様で」
そして魔女の背を見つめたまま、殿がカノンはそれでも今の状況に安堵を覚え呟くと佐祐李もまた頷くが‥‥久々に垣間見た伊勢の現状に眉根を顰めると
「斎宮は掌握されたまま、焔摩天に三匹の妖孤と‥‥最近、姿は見ぬが恐らくはアドラメレクも健在となると」
柾鷹も彼女に続き、今回の依頼で見た者らの名を連ねては厳かな面持ちのままに言葉を織るが‥‥それは途中、崔軌によって遮られる。
「まぁあんま伊勢の事は分からねぇけどさ、湿った話をしてもしょうがねぇだろ。魔女の折角の門出なんだからさ」
「‥‥そうでござるな。まだ、これから如何様にでも変えていける筈‥‥ならば惑わず、正しき信念を持って進むべきだな」
そして響いた言葉の直後、柾鷹はやゆよと楽しげに話しているシリルの背中を見つめ頷くと確かに今、分かる事だけを言葉にして今回の一件から改めて自身の標としてそれを掲げるのだった。
そしてそれより後‥‥伊勢へと至った魔女は他の英国人も身を寄せている斎宮幹部の神野珠が家に身を寄せる事となり、自身の研究を続ける事となる。
果たして彼女は研究の末、何らかの道を見出す事が出来るか‥‥それは未だ誰も知る筈はないものの、彼女の動向は密かにアシュドだけが気になっていたがそれはまた別な話。
「‥‥何処かで見た記憶があるのは、気のせいか?」
〜終幕〜