魔女ありけり

■キャンペーンシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:29 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月22日〜01月27日

リプレイ公開日:2007年12月31日

●オープニング(第2話リプレイ)

●村の様子
「‥‥まずいっつーか、早過ぎんだろ」
 風の流れに逆らう形で、とある村がある方へ徐々に迫る異形の黒き雲‥‥それを見た村人達が駆け出しては自身の家へと舞い戻っていく中、黒き雲をただ見つめては呻いたのは一行の中で唯一、村に残っていた木賊崔軌(ea0592)だった。
「ま、間に合っただけでもマシってなもんだが。とりあえず急がねぇとな‥‥先ずは」
 だが漏らした嘆息はそれだけ、次いで頭を掻きながらも何をすべきか見出せば辺りへ視線を配して彼、村人達へ指示を出している村長を見付ければ大声にて叫ぶのだった。
「うぉーい‥‥見ての通り、ちぃとばかし面倒な連中が近付いてる。一旦皆を集めて貰えるか?」

●魔女達の動き
 村に残る崔軌が村長と掛け合い村人達を一箇所へと集めている頃、魔女と自称するシリルが家の近辺では他の皆が頭を寄せ合い黒き雲を最小限の被害で打倒すべく、知恵を集めていた。
「妖の類がやって来るとの事ですが‥‥もしかしてまた、何時もの方々でしょうか」
「かも知れぬでござるな」
 近付いてくる雲を一瞥し、緋芽佐祐李(ea7197)が微かな溜息と共に伊勢にて暗躍‥‥と言う言葉は似つかわしくないか、妖孤らの存在を思い出しては呟くと普段と変わらぬ表情ながら滋藤柾鷹(ea0858)も小さく肩を竦め言えば
「本当にマメな方々ですね、しかし‥‥目当ては」
「シリルお姉さん‥‥?」
「私、ですか」
 視線を黒き雲からシリルへと視線を移しつつ佐祐李が言葉紡ぐと、その続きは魔女と言う存在に夢見ている陰陽師の慧神やゆよ(eb2295)が言えば小首を傾げる魔女だったが
「可能性として、無くはないな」
「えぇ、貴女の事を知る以前から既に魔女の二つ名が小さな範囲とは言え一人歩きをしていた‥‥それを嗅ぎ付けたのなら」
「あらあら」
「麗しい貴女、笑っている場合ではないと思いますが」
 カノン・リュフトヒェン(ea9689)が応と頷けば、その根拠は巨躯なる陰陽師の宿奈芳純(eb5475)が明示すると、それを受けて困惑こそ表情に浮かべながらも微笑む魔女に流石のドナトゥース・フォーリア(ea3853)が穏やかな口調で釘こそ刺すが、変わらない笑顔につい笑みを返す彼。
「だとしたら尚の事、好き勝手にやらせる訳にはいきませんわね」
「‥‥天岩戸の二の舞は御免被りたいしねぇ」
「ならば時間が限られている以上、早急に動くとしよう」
 そして推測ではあるも、黒き雲が此処へ迫る理由を聞けば佐祐李とネフィリム・フィルス(eb3503)、伊勢にて過去にあった出来事を知るからこそそれぞれに掌を硬く握り締めると、その時の事情を多少なりとも知っているカノンが限られている時間を上手く使うべく皆を促せば、魔術師のアシュド・フォレクシーも頷けばそれを合図にして一行は散った。

●妖魔跋扈
「えーと、数はどれ位なんだっけ?」
「良く分かんないけど‥‥足りるかなぁ?」
「飛べる奴で強いのって僕ら以外にいないじゃーん、それなのに数も微妙ってそれどうなの?」
 一方、冒険者達が待ち受けている事は未だ知らない黒き雲を率いる三匹の妖孤‥‥相変わらず、微塵の緊張感もない口調にてのんびりと『魔女』の家を目指していた。
「まぁ、『魔女』の奪還だけだからねぇ」
「あー、そっか。えーと、それじゃあ‥‥」
 だがその内の一匹‥‥七枝だか八亦だか九重だか、どれがどれだかは分からないが今回の目的を今更に思い出して言うと、別の一匹が頷けば次にすべき事に逡巡するが
「取り敢えず全軍、『魔女』の家へ突撃〜!」
「あ、それ言いたかった!」
 また別の一匹が声を発すれば、悩んでいた一匹がそれへ抗議する中でいよいよ黒き雲は散り魔女の家へと殺到するのだった。

 その頃、村人達の全員を何時でも避難出来る様に隣村へと至る道の前へ崔軌が集め終えていたが状況の詳細が知れないからこそ、彼も表情にこそ出さないながら多少の困惑を覚えており、先ず村人達へ何と言おうか逡巡していたその時。
「すいません、遅くなりました」
「よ、助かったわ‥‥とりあえず村の皆に状況の説明を頼む。俺は向こうで聞くわ」
「えぇ、お任せ下さい。崔軌さんはシリルさんのお手伝いを」
「任せとけ」
 その後方より空飛ぶ箒と木臼に乗って二人の冒険者がその場へ飛来すれば、地へ降り立つなり崔軌の元へ歩み寄ると遅参を詫びる芳純にそれは気にせず彼が応じれば、今までの役割を交代して海沿いの方へ駆け出す崔軌と村人達に対する芳純とやゆよ。
「なぁ、あんたらは細かい状況を知っているみたいだけど‥‥何が起きているんだ?」
「粗方は皆さんがご存知の通りで、伊勢周辺を騒がしている百鬼夜行の類がこの村へと近付いています」
「もしかして、村外れの‥‥」
「残念ながら、あの群れの狙いまでは分かっていませんが彼女が関与して起きた事ではありません。ですが、他の冒険者や魔女のシリルさんが海沿いにて防衛線を引いていますので今の内に村から村人全員を隣村まで避難させて下さい。そして撃退するまでの間、そちらでお過ごし下さい」
 その中でやがて、初めて村人の一人が今は散り散りとなっている黒い霧を見つめ口を開くと、至って穏やかな声音で芳純が答えれば‥‥それを機にして密かな声で一部の村人達がさざめくが、その光景を見止めた彼がすぐに言葉を紡いで他の村人達へ余計な不安を与えない様、今起きているだろう『魔女』の家近隣での事態を打ち明ける。
「あの、魔女が‥‥か」
「シリルおねぇさんはとっても良いおねぇさんだよっ!」
 だが、それでも腑に落ちないのか一人の村人がまた密かに毒づくが今度はそれを確かに聞き止めたやゆよがその彼を真直ぐな眼光にて射抜き叫べば、後ずさる村人だったが
「申し訳ありませんが時間も余りありません、詳しくはまた後程としましょう」
「‥‥うん。それじゃ、早く逃げよー!」
「それとどなたか、隣の村と多く接点のある方は居ませんか? この状況を先んじて隣村へ伝えて頂きたいのですが‥‥」
 やゆよの肩へ掌を置いて芳純が彼女を無言で宥めると、大きく息を吐いた彼女を見た後に村人達を見回しては陰陽師と揃い、一先ずこの村よりの脱出を促す。
「‥‥っ」
 そしてそれぞれが動き出す中、落ち着いたやゆよは一つやるべき事を思い出すと移動が始まる直前の今、フォーノリッヂの詠唱を織ってはそれを確かに成功させると垣間見えたビジョンは執拗に拡散した黒い雲の断片に追われているシリルの姿。
「シリル先輩おねーさんが狙われている‥‥?」
「それだけ、確かに向こうへ伝えとくぜ」
 その映像を前、果たして息を飲み狼狽する彼女だったが直後に己の肩を叩かれて身を震わせ、振り返ると最後に様子だけ見に来た崔軌がそれだけは約束を交わすと、頷くやゆよに腕だけ掲げ応じれば魔女の家を目指し、今度こそ駆け出すのだった。

 そして、シリルの家周辺にて身を潜めていた七人は魔女の家目掛け殺到してきた妖魔の群れと漸く、激突を果たす。
「何処から誰の差し金で、何の目的で来たかを聞きたいのでアイスコフィンで是非!」
「対象はそれなりに選別させて貰うが‥‥それよりも先ずはその鼻柱、へし折る!」
 とは言え相手の大部分が飛翔している以上、地に足をつけている一行がその高みへ至る事は出来ず‥‥だからこそ、アシュドはドナトゥースの申し出を受けつつも先ずその先手に空の高み目掛け、氷乱の嵐を叩きつけると抑えられた威力ながらもそれを回避し切れなかった一部の妖魔は地へ舞い落ちる。
「所で、何か心当たりは?」
「いいえ、特には。呪法に手を染めている訳でもありませんし」
「となるとやはり、『魔女』の名に引き寄せられた、か」
 その最中、一先ず相手の出方を伺いつつ柾鷹は傍らにいる魔女へ今更に問いを投げるも独特の空気が流れ始めている場の中で相変わらず笑みは絶やさないまま彼女が応じれば、カノンはその答えから敵の目論見を確定付けるも、目前にて崩れていた妖魔の群れが次々と身を起こせば
「しかし、それよりも先ずは眼前の敵を!」
「えぇ」
 その事態をいち早く察知したからこそ地を蹴ると、目の前の悪魔を地へ縫い止める様にその背中を貫いては振り抜き、上半身だけを両断すれば速度をそのままに駆けながらも叫ぶと佐祐李は声も高らかにして妖魔の群れへ確かな事実を告げる。
「ここに貴方方の求めるモノはありません、お帰り下さい。シリルさんは魔法の使い手と言うだけです‥‥っ!」
「すまん、遅くなった!」
 しかしその最後、木々の枝に張り巡らされている罠を意にも介さず凄まじき勢いで高みより突貫してくる以津真天に舌打ちする彼女、他の悪魔と対していたからこそ突かれた隙に回避する術がなかったが寸での所、その場に割り入ってきた崔軌がそれを打ち落とせば場にいる皆へ詫びるなり携える得物を空へ突き付け、不敵に笑むのだった。
「さぁて、やろうか」

 それから多少の距離を置きつつも互いの状況が確認出来る形で布陣する一行はアシュドが放つ氷の嵐と、紗祐李が木々の枝へ巧みに張り巡らせた縄に誘われると持つ翼を封じられ地へ落ちれば、次々と蹴散らしていく一行。
「しかし、しつこいなぁ‥‥おたくらっ」
 個々でのレベルで見れば間違いなく一行の方が上ではあったが、数に勝る妖魔の群れはそれでも引かず崔軌が呆れる程に魔女の家の方へ押し寄せてくる。
「ん‥‥?」
「少々、向こうの手勢を屠るのに梃子摺ったが‥‥シリルは無事」
 その中、一度戦線より後退するシリルに連れ添ってネフィリムと柾鷹が辺りを警戒する中で木陰より姿を現して二人へ近付いてきたのはアシュドだったが、紡がれた言葉が言い終わるより早く、銀髪の剣士が振るった拳は容赦なく魔術師の顔面を打ち据える。
「ぷぎー、いてー!」
「悪いけどさ、二番煎じ‥‥ってジャパンでは言うんだっけ? まぁ、この前と全く同じ事じゃあ通じないねぇ」
 すると何時もとは違う口調で悶絶する彼の姿はやがておぼろとなり、本来の姿を取り戻せば眼前にいた狐の姿を見てネフィリム、内心で安堵こそしながら鼻を鳴らすが
「鬼ー、悪魔ー、外道ー、人でなしー!」
「お前の母ちゃんでべそー!」
「ばーかばーか」
「‥‥どっちがだ」
 口だけは達者な妖孤、何時の間にやら集まった三匹に揃い小馬鹿にされると唇をわななかせて彼女は怒りに震えるが
「ともかく、今の内に」
「その場より、動くな‥‥二人ともな」
 シリルの傍らにつく柾鷹が妖孤を捕まえようと提案するも、その途中‥‥響いた声の後に魔女を除く二人、唐突に体の自由が利かなくなれば視線だけを辺りへ巡らせた侍はやがて、暗がりの中に何時から潜んでいたか焔摩天の姿を捉える。
「駒に余裕がある訳ではないのでな。一応、返させて貰う‥‥」
『一応ー?!』
「‥‥隙ありぃっ!」
 だがその抜き身の視線を受けても現れた焔摩天は動じず、三匹の妖孤へ歩み寄ればその首元を掴み嘆息を漏らすと三匹が叫んだその間隙、地に突き刺さっていた聖剣の柄を掴み抜いたネフィリムは一気に焔摩天へ肉薄するが、刹那の間で残る片手に携えていた刀にて彼女が剛剣を受け止めれば
「ふん、抵抗したか」
「生憎、レジストマジックさ」
「どちらでも構わん。だが、らしくもなく話に振り回されていた事は事実だったな‥‥ならば戦う必要は既にない」
「‥‥そっちにゃなくともこちらはあるんだよっ、ルルイエっちを返して貰うってな!」
 次いで互いに嘲笑し合うネフィリムに焔摩天だったが、先まで戦場の様子を見ていたからこそ焔摩天がそれだけ告げれば彼女が二撃目に放った渾身の一撃は寸で受け流し、飛翔すれば舌打ちする剣士だったが敵は既に手の届かぬ高みへ至り、シリルも健在なら深追いする理由がなく虚空に浮かぶ焔摩天を睨み据える。
「焦っていた? 焔摩天が‥‥」
 そしてその中、身動きが叶わない柾鷹だったが先のやり取りの中で僅かにだけ垣間見えた焔摩天の表情を思い出せば、その理由が思い浮かばないからこそその表情を心の片隅に留め‥‥それから程無くして妖魔の群れは去るのだった。

●雲去りて
「‥‥ともかく、一難は去ったと見て良いのでしょうか」
「腑に落ちない所こそ、あるがな‥‥」
 妖魔の群れは去りゆく光景を見つめたまま、佐祐李は未だ気を抜かず呟くとカノンも言葉こそ濁らせつつ一先ずの収束と判断すれば漸く、ぶら下げていた聖剣を鞘へ収めるも
「しかし、元々は子供を驚かせる為にとは言え安易に『魔女』と言う言葉を使った事でよもやこの様な事態になるとは‥‥思慮が甘く今回、この様な事態を招いてしまい申し訳ありませんでした」
「シリル先輩おねぇさんは悪くないよぅ、悪いのはあいつらなんだから」
「えぇ、それにこの様な事になるとは‥‥誰しも予想はしていなかったでしょうから、余り気になされなくとも」
 しかしシリルは漸く落ち着いた風景の中、今回の事態について過去を振り返って皆へ頭を垂れては詫びると、唐突な告白を前にやゆよが先輩魔女を慰めれば佐祐李も多少うろたえつつ、彼女を宥めるようと声を掛けるも‥‥暫しの間を置いて顔を上げた彼女の顔色はそれでも、芳しくなかった。
「‥‥で、これからどうする?」
「そうさねぇ」
 だが一先ず場も落ち着けば崔軌、今後の行動について皆を見回し尋ねるとネフィリムもまた彼に倣って首を傾げるが
「宜しければ、伊勢か冒険者ギルドまでご同行と言うのはどうでしょう。確約は出来ませんが、あちらでなら受け入れて貰えると思いますし私達もその為の尽力は惜しみませんので」
「そう、ですね‥‥」
「一段落が着いた時に此処へ戻られた方が良いかと思いますよ」
「それなら、一つだけ事を済ませてからにさせて下さいな」
「と言いますと?」
「今までの経緯からすれ違いもあったかと思いますし、今回の一件も考えると‥‥お詫びも兼ねて村人の皆さんの為に何か、したいです」
 シリルを眼前にかしまづいてドナトゥースが先ず一つ、予め考えていた案を言うと頬に掌を当てては考え込む魔女へ尚、巨躯の彼は言い寄るもシリルがやがてその答えを発すれば、簡潔なそれの詳細を尋ねる紗祐李を見つめ彼女は抽象的な答えを紡ぐが
「でも先ずは森のお手入れを少々、した方が良さそうですね」
「‥‥確かに」
 それよりも先ず今回の主戦場となった森を見回して魔女はもう一言だけ添えれば、同意して芳純は呻くのだった。

 一先ず、今回の戦闘にて人的な損害は出る事こそなかったが物的損害としては村と魔女の家の間にある森の一部が朽ち、欠けてしまった事位か。
 そして『魔女』はこれを機にして一時、この地を離れる事こそ決意するもその対価として村人達との交流を一行へ望む旨、申し出る。
 果たしてそれに皆はどの様に応じるか‥‥出来得る限りの手を尽くして森の復旧を行いながら一行は、残されたもう多くない時間の中で考えるのだった。

 〜続く〜

●今回の参加者

 ea0592 木賊 崔軌(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3853 ドナトゥース・フォーリア(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2295 慧神 やゆよ(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●戦い終わって‥‥後始末
 先の戦いが終わってより後、魔女の希望を受けた一行‥‥その際に出たもう一つの懸念である戦場となった森を少しでも修復すべく今、揃い顔を突き合わせていた。
「‥‥しっかし、一人歩きした名前に群がる悪魔共ってのもどうよ。伊勢の情勢にゃ明るくねえが、余程にギリなんだろうかな?」
「さてな、だが天岩戸と斎宮で同時に起きた戦いから後に大きな動きがないのは確かだ」
「今一つ、動きが読めませんね」
 とは言え、上がる話題はやはり何を考えてか魔女の奪還に動いた妖魔の存在で、伊勢の情勢をつぶさには知らない木賊崔軌(ea0592)がその行動に対し呆れれば、少なからず彼よりは把握しているカノン・リュフトヒェン(ea9689)が素っ気無く応じると頷く緋芽佐祐李(ea7197)が敵の動向に困惑を覚えた、その直後。
「因みに天候は暫くこのまま、穏やかな様です」
「それなら早めに済ませないといけないよねっ」
「えぇ、それではカノンさん。一足先に伊勢の方へ行っております」
「分かった。後程、ギルドで落ち合おう」
「それでは、こちらも先ずは森の復旧を可能な限りしてしまいましょう」
「はーい!」
 乾いた音が響けば皆、そちらを見やると掌を叩いた宿奈芳純(eb5475)が僅か先だけとは言え魔法にて天候を読んだ結果を告げると慧神やゆよ(eb2295)は元気に声を発し皆を促せばそれを機に今、やるべき事をすべく一行が顔を上げると頷いてそれぞれに行動を開始するのだった。

「森が一部朽ちたのは私の罠のせいですね‥‥申し訳ありません」
 それより森に残った一行は佐祐李が言う程に酷くこそないが、痛ましい姿を見せ付けている木々の群れを見つめれば彼女はその光景へ詫びるも、それへ首を振ったのは『魔女』のシリル。
「しょうがありません。そこまで気にしていたらもっと被害が広がっていたかも知れませんし、全てを守ろうとするのなら相応に覚悟を決めないと達する事は難しいですから」
「そうさね、それにもう過ぎた事。余り気にし過ぎていてもしょうがないさ」
「‥‥えぇ、そうですね。それではどういたしましょうか?」
 紡いだ言葉こそ何時もの様にのんびりと響くも‥‥その響きの奥には何かしら秘められている様な気がし、だからこそネフィリム・フィルス(eb3503)が普段通りにあっけらかんと同意すれば頷いて佐祐李が皆へ意見を求めると
「自然ってのは俺達が思っている以上に逞しいもんだ。だから荒れた場や散らかったモンを片付ける程度に留めて、余り触り過ぎない方が回復は早いかも知れねえぜ?」
「ふーむ、そう言われてみるとそうなのかも知れませんね‥‥では一先ず、残っている罠の方を片付けましょうか」
「賛成だ。では紗祐李、罠の詳細について頼む」
 先ず応じた崔軌の声が場に響けば、農業関係に関して深い知識のあるドナトゥース・フォーリア(ea3853)は暫し思案するも、お世辞にも時間がない事にすぐ気付けば彼の意も汲み判断下すと、滋藤柾鷹(ea0858)も同意すればその罠を仕掛けた主へ尋ねるが
「罠、とは言っていますが単純に木々の間に縄等を張り巡らせてあるだけですから低い所を皆さんが、高い所は私達が解いて片付けましょう。偽装している物だけ、気を付けて下さいね」
「あいよ、じゃあ早速始めようぜ」
 意外にあっさりと答えを返してきた佐祐李にすぐ崔軌が答え返せば、妖魔の迎撃に際し一役を買った罠としての役目を終わらせるべく、作業に取り掛かった。

 一方、隣町まで村人達を迎えに行ったのは急ぎ宴の買出しを済ませ戻って来たカノンに芳純。
「皆を守る為とは言え、急な申し出に感謝する」
「状況が状況じゃ、そうする他にあるまいて‥‥それで、村へ戻れる目処は?」
「シリルさんの協力のおかげで敵は退き、村は守り切れましたので今ならば」
 改めて村長を前にカノンが頭を垂れ言えば、二人を前に尋ねる彼へ応じて芳純は次の句を紡ぐ、肝心要の本題を。
「また、戻られた暁にはシリルさん本人より皆様と交流する機会を得たいとの申し出がありましたので、宜しければご参加頂けませんか。これを機に暫し、こちらを離れるとも申しておりますし」
「妖達はどこからか『魔女』の噂を聞きつけ襲ってきたと分かった。そして撃退した以上、もうこんな事もないだろう」
「‥‥そう、か」
 その問い掛けを聞いて、微かではあったが渋面を湛える村長へカノンはその心中を察してそれだけは確かに伝えると、うな垂れて村長。
「自身の目と口で確かに見聞きした訳でなく、ただ子供達だけが聞いて来た『魔女』とたった一つの単語だけで距離を置いてしまった私達は‥‥同じだの、村を襲った妖怪達と」
「そうとも言えるでしょう。ですが歩み寄ろうとしているのなら、違うと言えるでしょう」
 今は自責の念を持ってそれだけは二人の前で呟くと‥‥果たして芳純、村長へただ眼前にある事実だけを連ねれば
「ともかく、村へ戻りましょうか。考える時間ならば道中にもありますから今からでもどうすべきか、どうするべきだったか考えて貰えますか?」
 未だ思考する余地だけはある事も伝えると、今まで村人達が目を背けて来た事だからこそ今からでも対して貰いたいと思い彼はそれ以上何も言わず、踵を返して村人達の先導をすべく歩き出すのだった。

 そして村へ辿り着いた二人と村人を残る冒険者達が出迎える中‥‥果たして村長は決断を下し、その場にて皆へ告げるのだった。
「シリル殿の申し出、受けさせて貰う‥‥今からでも遅くないと言うのなら」

●始まる宴、氷解の刻
「えーと‥‥初めまして皆さん、シリルと申します。今回は私の我侭に着き合って頂き、ありがとうございます。それと‥‥今まで色々とご迷惑をお掛けしました」
 宴の始まりを前に、果たして村人達の目の前に初めて現れた魔女は口を開くとその最初に村人達へ先ずは挨拶と‥‥深々と頭を垂れお詫びをするがしかし、何時もののんびりとした調子に口調は変わらないままやがて顔を上げては笑みを湛えると、その最後にシリルははっきりとした声音で自らが望んだ宴の開始を告げるのだった。
「それでは、始めましょうか?」

「ま、パーッと行こうさねっ!」
「さて、今日も元気な子供達のお相手でも勤めてこようかねぇ」
 それより程無くして聖夜祭風にアレンジされた宴が始まるとネフィリムの雄叫びが轟く中、場の片隅にてじゃれあっている子供達を見かけたドナトゥースはやおら立ち上がり、宴席では暇を持て余し気味な彼らの相手をすべくそちらへ猛然と駆け出し、唐突に彼らを驚かしてみれば
「ま、色々と思う所はあるだろうけど‥‥今は難しい事なしで、飲めば良いと思うぜ。あ悪いけど俺は飲まないぜ? 指先が命なんでな」
 村長の判断とは言え、複雑な心中を抱いている者も多くないながらいる村人達のはけ口にと崔軌、酒を片手に自身は遠慮しながら皆へは酒を進める。
「男の酌もなんでござろうが、如何か?」
「はい、ありがたく頂戴します」
 それぞれが楽しむその中、シリルは柾鷹からの酌を受けては意外にも早いペースで酒を飲み干していたその時‥‥彼女の眼前、村長と数人の村人達が訪れれば開口と共に頭を垂れる。
「今まで本当に、済まんかったの‥‥」
「でも‥‥」
 だがその彼らを前、シリルの傍らから離れないやゆよが口を開けば魔女の服の裾を引っ張り、彼女へ向けて言葉を発する。
「シリル先輩おねぇーさんがどんな人か、村人さん達に知られていなかったのもいけなかったと思うんだよー」
「そうですねぇ‥‥確かに、やゆよさんが言う通りです。だから、余り気になさらなくて構いませんよ?」
「‥‥忝い」
 すると年幼い陰陽師の話に耳を傾けるシリル、笑顔と共に頷き彼女へ応じれば村長達へそれだけは伝えると漸く顔を上げる彼らへ今度はネフィリム。
「まぁさ、今度シリルっちが戻ってきた時は今日みたいな宴会でも催して、歓迎してやれば良いと思うさ。後はシリルっちも‥‥そうだなぁ、今度この村に戻って来た時は村人の皆に、何か教えられる事を教えてあげるといいさ」
「そうですね」
 整った面立ちに豪快な笑みを湛え、村人達とシリルへそれぞれ言葉掛ければ‥‥果たして双方とも頷いた彼らを前に彼女、頷き返せば今度は密かに目論んでいた計画を実行に移す。
「よっし、話も纏まった所で‥‥ちと前だったみたいだけど、アシュドっちの誕生日をついでに祝ってやろうぜ!」
 すると無論、アシュド・フォレクシー本人はそんな事を知る筈もなく大いに驚くが‥‥その話を端にして村人達と魔女は初めて揃い、彼の為に祝杯を挙げるのだった。

 一度生まれたしこりとは、思う程簡単に解ける筈はないものの‥‥それでも互いに向き合う事が出来たのなら氷解する時はそう、遠くはないのだろう。

「ふむ、上手く行っている様で何よりだな」
 その一方で宴が催されている家屋を一人、遠くの木陰から見守っていたのはカノン‥‥シリルの為にも余り出しゃばらない様に、と言う彼女らしい配慮から今は静かに保存食を口にしながら今回の出来事を脳裏に蘇らせる。
「伝聞だけで動くとはいささか、らしくない気もするが‥‥何か動きがあるとでも言うか」
 少なからず今回の一件、お世辞にも賢明とは言えない焔摩天の行動を訝る彼女は持ち合わせている情報こそ少ないながら、彼らの真意を探ろうとするが
「ん、あれは‥‥」
 意識が完全に思考の波へ埋没するより早く、木立の中にある異変を察すればカノンはそちらへ視線を向けると、そこには‥‥人に化けた妖孤達が尻尾だけはそのままに佇んでは何をする訳でもなく自身と同じく、宴が催されている家屋へ視線を注いでいた。
「邪魔立てするなら‥‥」
 無論その光景を傍目に捉えれば彼女、得物の柄を握り締め追い払おうかと考えるも微かに聞こえた彼らのやり取り‥‥飯が美味しそう、怖い奴がいるから近寄れない、お腹減った等々を耳にして毒気が抜かれれば嘆息を漏らしてカノンは妖孤らが何もせず去るまでの間、気を張り巡らして監視だけ続けた。
「全く、分からん事ばかりだ」

「そう言えばシリルさんはこの土地について研究をしてらっしゃったとか」
「あ、はい」
 そんな事になっている事等知らず宴もたけなわな頃、先までは村人達を前に手品を披露していた佐祐李はシリルの傍らにて、今まで気になっていた事を漸く尋ねていた。
「この伊勢の地には何かあるのでしょうか、例えば‥‥そう、例えば土地神様、天照様に関する事が」
「強いて言うのなら、そうですね」
 それは彼女がこの地へ足を運んだ理由、引いては彼女の研究題目になるか‥‥その確信へ迫ると魔女、首を縦に振れば口を開く。
「自然宗教とは別に、個人的ですが神々の話について興味を覚えておりましてそちらの方も色々と齧っているのですが‥‥そもそも、他の国では悪魔と対するのは天使なのに此処ジャパンでは悪魔の個体数こそ多くないとは言え、他の国とは違い高位の精霊が対していると言う事実がある事に気付いたのがそもそもの始まりですね」
「そう言えば‥‥」
 先ずその切っ掛けについて語り出すと、それを受けて考えれば確かに彼女が言う様に精霊の神ばかりを良く耳にする事に思い至る佐祐李を前にシリル。
「何故、ジャパンではその様な構図になっているのか気になって最初こそ英国で調査をしていたのですが、限界を悟ったその時にある人の先導がありまして現地‥‥強くその影響に置かれている、伊勢へと足を運んだのです」
「成程、ですが『その方』とは一体?」
「‥‥秘密です、でも決して悪い方でない事は誓って約束します」
 再び口を開き、此処に至るまでの経緯を全て語るもその一端に出てきた先導者の存在を気に止めた佐祐李の問いへは魔女‥‥穏やかな笑みだけ浮かべ答えるのだった。

●いざ、伊勢へ
 そして翌日‥‥件の村を後に、門前にて一行と魔女を見送る村人達を背に伊勢へと至る道を歩く皆。
「とは言えまだ、やるべき事は残されていますのでもう少しだけ。それと私達が伊勢までの道中、お付き合い致しますが‥‥宜しいでしょうか?」
「えぇ、こちらこそ宜しくお願いします」
 その歩き出した中、今更にも拘らずシリルより同道の許可を貰っていない事をドナトゥースは思い出すと、後ろを歩く彼女へ振り返っては礼節を持って恭しく頭を垂れ尋ねるとそれを否定する筈もない彼女は首を縦に振れば、喜んだのはやゆよ。
「わーい、もう少しだけだけどこれで色々、一杯話せるねっ」
 魔女の腕に飛びつけば、彼女との別れまで暫ししかないからこそ笑顔で言葉紡げば‥‥何時もと変わらない笑みだけを浮かべると
「でも‥‥勝手に外国に帰ったりしちゃ嫌なんだよ」
「はい、それは約束しましょう」
 その反応を前に、何かを察してかやゆよは唐突に表情を曇らせて不安げな言葉響かせると、それを前に魔女は益々顔を綻ばせればやゆよが差し出した左手の小指に自身の右手が小指を絡め、約束を確かに交わせば
「それでは、行きましょうか」
 その光景を前に芳純、小面の奥にある表情はどうなっていたか気になるものの僅かにだけ覗く瞳の光は確かに穏やかな光を湛えており、しかし道中はあるかも知れない妖達の襲撃を考慮すれば余りのんびり出来る筈もなく、それだけははっきり告げるとドナトゥースとやゆよが先導して伊勢への道を急ぎ、歩き出す一行。
「とんだ一月ではあったが‥‥村人も、魔女も事なきを得て何よりだ」
「そうですね、とは言え予断の許さない状態は相変わらずの様で」
 そして魔女の背を見つめたまま、殿がカノンはそれでも今の状況に安堵を覚え呟くと佐祐李もまた頷くが‥‥久々に垣間見た伊勢の現状に眉根を顰めると
「斎宮は掌握されたまま、焔摩天に三匹の妖孤と‥‥最近、姿は見ぬが恐らくはアドラメレクも健在となると」
 柾鷹も彼女に続き、今回の依頼で見た者らの名を連ねては厳かな面持ちのままに言葉を織るが‥‥それは途中、崔軌によって遮られる。
「まぁあんま伊勢の事は分からねぇけどさ、湿った話をしてもしょうがねぇだろ。魔女の折角の門出なんだからさ」
「‥‥そうでござるな。まだ、これから如何様にでも変えていける筈‥‥ならば惑わず、正しき信念を持って進むべきだな」
 そして響いた言葉の直後、柾鷹はやゆよと楽しげに話しているシリルの背中を見つめ頷くと確かに今、分かる事だけを言葉にして今回の一件から改めて自身の標としてそれを掲げるのだった。

 そしてそれより後‥‥伊勢へと至った魔女は他の英国人も身を寄せている斎宮幹部の神野珠が家に身を寄せる事となり、自身の研究を続ける事となる。
 果たして彼女は研究の末、何らかの道を見出す事が出来るか‥‥それは未だ誰も知る筈はないものの、彼女の動向は密かにアシュドだけが気になっていたがそれはまた別な話。
「‥‥何処かで見た記憶があるのは、気のせいか?」

 〜終幕〜