魔女ありけり

■キャンペーンシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:29 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月08日〜01月13日

リプレイ公開日:2007年12月15日

●オープニング(第1話リプレイ)

●魔女、その呼び名とその存在
 京都を発ち、伊勢を目指すは冒険者が一行‥‥不穏な情勢である伊勢へ最近向かう者は伊勢よりの依頼を引き受けた冒険者か、さもなくば伊勢神宮へ熱心に参拝する者位である。
「ふぅむ‥‥このジャパンで『魔女』等と言う呼称を聞く事になるとはな」
「確かにな。それに実際、イギリスの方でもその呼び名を使う者は酷く限られていたからこそ、聞く事等ないと思っていたが」
 その情勢下故、人影少ない街道を歩きながらも呟いたのは黒き教義に身を費やすカノン・リュフトヒェン(ea9689)で、その言葉に対し彼女らと道を共にする水の魔術師がアシュド・フォレクシーも頷くが
「『魔女』と言うと、魔法を使える女性と言う認識で宜しいのでしょうか」
「まぁ半分は正解だ。後の半分は魔法か、それに関する何らかの卓越した技術を持ち合わせていると言う認識か」
「酷く曖昧な呼称故、一先ずは先に言った認識で問題ないかと」
 その会話の後、緋芽佐祐李(ea7197)が件の話題が中心である『魔女』に付いて皆へ尋ねると答えるアシュドだったが、その曖昧な答えはカノンによって素っ気無くフォローされると肩を竦める彼だったがやがて視界の中に目的の村が見えると、一行は歩調を速めるのだった。

 やがて一行が村に辿り着けば村長の案内を受け、暫くの住まいとなる簡素だが大振りな一軒の家屋に案内されれば手早く準備を済ませた皆は先ず、状況と魔女に関する話を得る為に村での聞き込みを中心として、それぞれ動き出す。
「なぁ、子供達こそ接触する事があった様だが魔女とか言う得体の知れない人物‥‥姿を見た事こそないから今のご時勢、本当に話し合うべき奴なのか理解に苦しむんだが」
 その中、村に住む人々へドナトゥース・フォーリア(ea3853)は懇切に今回の一件について改めて理解して貰うべく、説明の為に村内の各所を回っていた‥‥引いては今後、村人達にも協力して貰わなければならないかも知れないから。
「確かに、自身の故国でも錬金術師や魔法使いの類は偏屈な事が多くて‥‥とは言え、人付き合いが無い事が悪事を行っているかと言えば、それは決してイコールでは結べませんから今は安心して貰って構わないかと。現に皆さんも今の所は被害を被ってはいないのでしょう?」
「確かに、そう言われると返す言葉はないか」
 そしてその戦士、状況こそ完全に把握している訳ではないのだが‥‥だからと言ってどちらかに決め付ける事はせず、村人達を諭せば往々にして頷く彼らの不安も密かに取り除いていた。

 その一方、他の皆は村に住む老若男女を問わずとある点を中心にして村内を尋ね回っていた‥‥何故、その人物が『魔女』だと分ったのかと。
「本人から、なのか」
「えぇ、とは言え実際には子供達からまた聞きになりますけどね」
「ふぅん、接点がなかったのは大人達だけなのか」
「とは言え、子供達も皆が皆見た訳ではない様ですよ」
 その答え、滋藤柾鷹(ea0858)に木賊崔軌(ea0592)は別の村人よりその一端へ辿り着いてはいたのだが詳しい事については分からず仕舞いで、彼らの眼前に慧神やゆよ(eb2295)の姿が目に映れば‥‥首を振るその様子から彼女もまた詳しい話が得られなかった事を悟るも
「ま、この類は何かと根気がいる。気長に行こうぜ旦那」
「‥‥そうでござるな」
 崔軌は別段気にした風も見せず、それだけ告げれば微妙な反応を見せつつも頷き返した柾鷹を見つめ笑めば、再び聞き込みへ勤しもうとしたその時。
「あーっ!」
 彼らが暫しの間を置いた間、何をしてかやゆよの叫び声が場に響き渡ればそちらへ視線を向けた柾鷹に崔軌は直後、眼前に駆けては迫る幼き陰陽師より真摯な瞳を向けられると
「柾鷹さーん、危なーいっ!」
 やがて開かれた口より紡がれるやゆよが魔法にてつい先程に垣間見た十秒程度先の、努力しなかった場合‥‥此処では僅かな間とは言え村の為に動かなかった場合、訪れる未来について告げられればそれとほぼ同時に家屋の屋根が切れ目の真下にいた柾鷹は唐突に落ちてきた瓦に頭にて受け止めるのだった。

 その傍ら、ネフィリム・フィルス(eb3503)に佐祐李とアシュドは魔女の家がある近くにまで足を運んではその近隣の捜索と彼女が住んでいる筈の家の監視を行っていた‥‥その存在を確かめるべく。
「念の為さ、それと本当に噂の魔女が実在するかの確認さね」
「しかし、そこまでするものか?」
 その高位に対し、疑問視する慎重なアシュドをネフィリムは諭すも‥‥首を捻る彼の態度は変わらず、呻く巨人の騎士だったが
「そう言えばこの村では別段、目立った収穫物等は無いと言う話です」
「‥‥そうか」
 話題を摩り替えるべくか、佐祐李が村にて得た話を唐突ながらもこの場にて披露すると腑には落ちないが、一先ず頷くアシュド。
「まぁ取り敢えず、いるみたいだねぇ」
「えぇ、確かに。その存在自体は間違いない様ですね」
「何をしているか、分かるか?」
 とその時、佐祐李が紡いだ話の直後より家屋へ視線を向けていたネフィリムがその内部にて動く人影を見止めると彼女も白髪が剣士の言葉の後、同じ方へ視線をやれば頷くと止むを得ずにアシュドもそちらを見やり、二人へ尋ねるが
「遮蔽物もあって、そこまでは流石に」
「そうですね、こればかりは直接聞く他にないかと」
 それには揃い、言葉を濁して応じると佐祐李は次いで視線を自身の掌へ落とせば携えていた石の中の蝶の反応を見ては安堵すると
「‥‥一先ず、反応はありませんね」
「近くに悪魔はいない、って事か。それなら込み入った事にならなくて済みそうだねぇ」
 ネフィリムもまた息を吐いて確かな事実を告げれば、今度は生活の痕跡を探し出すべく木陰に潜みながら動き出した。

●訪問、魔女の家
 そして暫く、村や魔女の家周辺にて様々な情報を探る一行だったが『魔女』の人物像等について確かな話を得る事は出来ずにいた。
「一先ず話の通りに不穏な話は聞きませんでしたし、直接伺って話を聞いてみるべきかと思います」
 だが常に小面で表情を覆っている宿奈芳純(eb5475)の提案が成されると賛同した一行は翌日、今後の事を考え村にて村人達と交流を図る崔軌に魔女の家の近くにある森を調べると言ったカノンを除く七人にて村の外れ‥‥森の先にあり、海原の眺望も出来る岬に程近い所に居を構える魔女の邸宅を訪れる。
「話の通り、ジャパンでは良く見掛ける型の家でござるな」
「えぇ、ですが中に住んでいる方は‥‥呑気な風体の割、とても聡明な様ですよ」
「そうなのか?」
「まあ、占いなので果たして真実かは分かりかねますが」
 その家を眼前に、柾鷹が平屋建てのそれを見つめ呟くと頷いて芳純はこれより顔を合わせる魔女の事か、皆へその印象を告げると静かに目を剥いては驚くドナトゥースだったが宿奈は先までと変わらず至って穏やかな声音を響かせ、それだけ最後に付け加えると
「それでは、準備は宜しいですね?」
 次いで皆を見回し尋ねれば揃い頷きだけ返すのを確認して後、予め唱えていたテレパシーにて言葉を紡ぎ『魔女』へ呼びかける。
『突然の訪問をお許し下さい。私は陰陽師の宿奈芳純と申します』
「テレパシーでなくとも、お話は通じますよ?」
 すると直後、戸の向こうからのんびりとした声音にて冗談めかした応答が返って来れば微かに戸惑いを覚える一行の前、引き戸が開かれては『魔女』が初めてその姿を現すとその彼女‥‥背は然程高くないがそれとなく整った面立ちに金髪で癖の無い長髪を携えては先に響いた声音の通り、何処と無くのんびりとした雰囲気を纏わせ皆へ応対すると
「突然の訪問に、多くの者で押し掛けてしまい申し訳ない」
「いいえ、たまには悪くないでしょう。それにしても私に一体、何用でしょうか? きっと理由があるのかと思いますが」
 暫し言葉を失う皆だったが、柾鷹が先の非礼を詫びると彼女は顔を綻ばせれば次いで一行へこの場を訪れた理由を尋ねる。
「村の者達が『魔女がここに住んで何をしているのか興味を持っているが、どう接すべきか分からない為に魔女や魔術師と言った者に多少なりとも知識のある冒険者を頼ってきた』ので私達、冒険者が伺いに参りました。もし宜しければ幾つか、お話をさせて頂きたいのですが?」
「えぇ、構いませんよ。どうぞお入りになって下さい」
 すると漸く落ち着いた芳純が淀みなく、柔らかな口調で彼女の問いに対し言葉を並べ連ねれば、その答えに納得してか魔女は頷くと一行へ無防備に背を向ければ自身の家の内へと招き入れるのだった。

「魔女が日本茶を出すのも可笑しいかも知れないけど、どうぞ」
 やがてお世辞にも広いとは言えない居間だろう一角に通された七人は魔女より日本茶を差し出され、困惑していた。
(「何か随分、イメージと違うなぁ」)
(「‥‥確かに」)
「ご期待に添えなくてごめんなさいね?」
 その中、小さな声にて交わすネフィリムとアシュドの言い分は尤もだったが‥‥それを聞き止めてか魔女は逆に詫びると、答えに窮する二人ではあったが
「でも魔女と聞いて思い浮かぶイメージは殆ど決まっていますから、言葉にせずとも何となく皆さんの気持ちは分かりますよ」
 微笑みながら『魔女』はその理由を説明すると意外なその一面に驚くが、やがてお互いが初めて顔を合わせるからこそ自己紹介を行えば、一行のその最後。
「僕は見習い魔法少女のやゆよだよっ! 魔女道の先輩おねぇーさんのお名前は?」
「シリル、で結構よ」
「それじゃあシリルさん! 僕らが来て困っている、って事以外で困っている事があれば相談に乗るよ♪ なんてったって僕らは冒険者だもんねっ!」
「それじゃあ早速、乗って貰おうかしらね?」
 明朗にて快活なる陰陽師らしからぬ陰陽師のやゆよが差し入れにと、わざわざ購入して持って来た野菜の数々を魔女の眼前へ突き出し言葉紡げば、『魔女』は果たして自身の真名を告げると次に明るき笑顔を宿したままやゆよが胸を張り尋ねると‥‥果たして返って来た答えは意外なもので、皆の心中を察したからこそシリルは場に介する皆を見回しては再び口を開く。
「でもその前に、皆さんが聞きたい事に答えてからとしましょうか」
「‥‥なら普段は一体、何の研究をされているのですか?」
「そうねぇ、魔術も嗜んではいますが自然宗教について少々ね。でも此処の地の話を聞いて色々と面白そうだったものだから、足を運んで見たの」
 すると一行はそれを機としてドナトゥースが先ず口を開けば、すぐに彼女より答えが返って来ると直後に皆は『魔女』へ尋ね掛ける。
「此処に引き篭っていると言う話でござったが、食べ物等に付いてはどうされているのでだろうか?」
「辺りで野菜を育てているから、普段はそれを主に食べています。後は‥‥秘密です」
「どうして魔女と自身、名乗ったのですか?」
「うーん、からかい半分? 多分此処へ来たばかりの頃の話だから初めて見た風土に少し浮かれていたのかもね、今にして思うと反省すべき点です」
「そうですか、ですがこれからでもきっと間に合うかと思いますよ」
 すればと所々はっきりとしない所こそあるも、素直に応じるシリルの対応を見る限りでは信頼するに足る目前の『魔女』と暫し宿奈を会話の中心として据え、シリルとのやり取りを続けるが‥‥不意に何の切っ掛けも見せず、立ち上がったシリル。
「どうかしたか?」
「少し、辺りを見回りにね」
 その行動を前、一先ず聞き役に徹していたアシュドが初めて口を開き尋ねると笑顔を湛えて彼女は答えを返すとその反応に違和感を覚える彼だったが止める理由がある筈も無くすぐに戻ると告げて魔女は一時、その場を離れた。

●闇、蠢く
 伊勢の斎宮‥‥数多く集う妖達を眼下に焔摩天は使えるのか使えないのか、未だ持つ力の全容が明らかではない妖孤達に一つの指示を下していたのは何時だったか。
「アドラメレクが眠っている今の内、戦力の拡充を図る‥‥それが例え、人でも此方に染まる可能性があれば」
『ほーい』
 その指示を受けて、適当に聞こえなくも無い返事を返す三匹の狐を冷たい瞳で見つめ‥‥嘆息だけは我慢すれば掌で行動を促すと直後、珍しくすぐに妖孤達が動き出せば彼らが飛び立って行った方を見つめ、その先にいる『魔女』の存在を知ったからこそ焔摩天はその通り名に相応しい力が自身らの軍門へ下る事を心待ちにするのだった。
「しかし、奴らだけで行かせて果たして良いものか」
 がそれも暫しの間だけ、他にも手勢がいるとは言えやはり率いている頭が頭なので自身も動くべきか、暫し逡巡するのだった。

 少なくとも焔摩天らが動き出してから後、村に一人残る崔軌は妖精を伴い村人達とコミュニケーションの向上に励んでいたその時。
「何だい、ありゃ」
「雲かねぇ、何かいやに真っ黒で気持ち悪いけど‥‥そうとしか見えないわ」
 村人の誰かが上げた声に彼もそちらの方を見やれば、また別の村人が言う様に彼方の空を見上げると確かに青空の片隅、漆黒が蟠っているのが見えて崔軌は瞳を細めると
「雪が降るのかな!」
「さて、どうだろうな?」
 傍らにいた子供の一人が楽しげな声を上げれば、その発言に彼は笑顔を持って応じこそするが
(「‥‥ちょっとあれは、まずいんじゃねぇの」)
 内心では密かに舌打ちしつつ有事に備えるべく一度、自身らに宛がわれた家へと踵を返した。

 一方、魔女の家より程近くにある森へ再び散策に出ていたカノンは先に何度も散策していた際に見掛けたとある痕跡が間違えようのない事実であった事を崔軌同様、目の当たりにしていた。
「魔女の噂を聞きつけてでも来たと言うか、悪魔に妖怪が」
 それ彼女が紡いだ言葉の通り、空に姿を現していたが幸いにもまだ距離は離れており見る人が見なければそれが妖の類である事には気付かない程、今はまだ黒い雲。
「まだ距離はある、村人達の避難は今から告げて回れば間に合うな。後は迎撃だが‥‥」
 その光景を前に彼女はすぐに踵を返し、村の方へと駆け出そうとするが‥‥何時、この場に来たか初めて見た女性、魔女のシリルが姿を見止めると自身が気付かなかった事に対し内心で呻くカノンへ彼女。
「私の家の辺りで迎撃を行えば少なくとも当分、村に被害は及ばないでしょう」
「‥‥良いのか?」
「えぇ、事態が事態ですし村人の皆さんが私の存在を危惧していると言うのなら自身、払拭するに丁度良い機会でしょう」
 その心中は察せず、穏やかな声音にてカノンへそれだけ告げると少しの間を持って尋ねる黒き神聖騎士だったが、それにも素直に頷けば『魔女』は微笑を浮かべるのだった。

 果たして妖怪の群れは何を目的にしてか村へ、一行へ、魔女へ迫る。
 その狙いは分からずとも力なき人々が後ろにいる以上、一行は戦いに望まざるを得なかった、魔女の力を借りて。

 〜続く〜

●今回の参加者

 ea0592 木賊 崔軌(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3853 ドナトゥース・フォーリア(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2295 慧神 やゆよ(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●村の様子
「‥‥まずいっつーか、早過ぎんだろ」
 風の流れに逆らう形で、とある村がある方へ徐々に迫る異形の黒き雲‥‥それを見た村人達が駆け出しては自身の家へと舞い戻っていく中、黒き雲をただ見つめては呻いたのは一行の中で唯一、村に残っていた木賊崔軌(ea0592)だった。
「ま、間に合っただけでもマシってなもんだが。とりあえず急がねぇとな‥‥先ずは」
 だが漏らした嘆息はそれだけ、次いで頭を掻きながらも何をすべきか見出せば辺りへ視線を配して彼、村人達へ指示を出している村長を見付ければ大声にて叫ぶのだった。
「うぉーい‥‥見ての通り、ちぃとばかし面倒な連中が近付いてる。一旦皆を集めて貰えるか?」

●魔女達の動き
 村に残る崔軌が村長と掛け合い村人達を一箇所へと集めている頃、魔女と自称するシリルが家の近辺では他の皆が頭を寄せ合い黒き雲を最小限の被害で打倒すべく、知恵を集めていた。
「妖の類がやって来るとの事ですが‥‥もしかしてまた、何時もの方々でしょうか」
「かも知れぬでござるな」
 近付いてくる雲を一瞥し、緋芽佐祐李(ea7197)が微かな溜息と共に伊勢にて暗躍‥‥と言う言葉は似つかわしくないか、妖孤らの存在を思い出しては呟くと普段と変わらぬ表情ながら滋藤柾鷹(ea0858)も小さく肩を竦め言えば
「本当にマメな方々ですね、しかし‥‥目当ては」
「シリルお姉さん‥‥?」
「私、ですか」
 視線を黒き雲からシリルへと視線を移しつつ佐祐李が言葉紡ぐと、その続きは魔女と言う存在に夢見ている陰陽師の慧神やゆよ(eb2295)が言えば小首を傾げる魔女だったが
「可能性として、無くはないな」
「えぇ、貴女の事を知る以前から既に魔女の二つ名が小さな範囲とは言え一人歩きをしていた‥‥それを嗅ぎ付けたのなら」
「あらあら」
「麗しい貴女、笑っている場合ではないと思いますが」
 カノン・リュフトヒェン(ea9689)が応と頷けば、その根拠は巨躯なる陰陽師の宿奈芳純(eb5475)が明示すると、それを受けて困惑こそ表情に浮かべながらも微笑む魔女に流石のドナトゥース・フォーリア(ea3853)が穏やかな口調で釘こそ刺すが、変わらない笑顔につい笑みを返す彼。
「だとしたら尚の事、好き勝手にやらせる訳にはいきませんわね」
「‥‥天岩戸の二の舞は御免被りたいしねぇ」
「ならば時間が限られている以上、早急に動くとしよう」
 そして推測ではあるも、黒き雲が此処へ迫る理由を聞けば佐祐李とネフィリム・フィルス(eb3503)、伊勢にて過去にあった出来事を知るからこそそれぞれに掌を硬く握り締めると、その時の事情を多少なりとも知っているカノンが限られている時間を上手く使うべく皆を促せば、魔術師のアシュド・フォレクシーも頷けばそれを合図にして一行は散った。

●妖魔跋扈
「えーと、数はどれ位なんだっけ?」
「良く分かんないけど‥‥足りるかなぁ?」
「飛べる奴で強いのって僕ら以外にいないじゃーん、それなのに数も微妙ってそれどうなの?」
 一方、冒険者達が待ち受けている事は未だ知らない黒き雲を率いる三匹の妖孤‥‥相変わらず、微塵の緊張感もない口調にてのんびりと『魔女』の家を目指していた。
「まぁ、『魔女』の奪還だけだからねぇ」
「あー、そっか。えーと、それじゃあ‥‥」
 だがその内の一匹‥‥七枝だか八亦だか九重だか、どれがどれだかは分からないが今回の目的を今更に思い出して言うと、別の一匹が頷けば次にすべき事に逡巡するが
「取り敢えず全軍、『魔女』の家へ突撃〜!」
「あ、それ言いたかった!」
 また別の一匹が声を発すれば、悩んでいた一匹がそれへ抗議する中でいよいよ黒き雲は散り魔女の家へと殺到するのだった。

 その頃、村人達の全員を何時でも避難出来る様に隣村へと至る道の前へ崔軌が集め終えていたが状況の詳細が知れないからこそ、彼も表情にこそ出さないながら多少の困惑を覚えており、先ず村人達へ何と言おうか逡巡していたその時。
「すいません、遅くなりました」
「よ、助かったわ‥‥とりあえず村の皆に状況の説明を頼む。俺は向こうで聞くわ」
「えぇ、お任せ下さい。崔軌さんはシリルさんのお手伝いを」
「任せとけ」
 その後方より空飛ぶ箒と木臼に乗って二人の冒険者がその場へ飛来すれば、地へ降り立つなり崔軌の元へ歩み寄ると遅参を詫びる芳純にそれは気にせず彼が応じれば、今までの役割を交代して海沿いの方へ駆け出す崔軌と村人達に対する芳純とやゆよ。
「なぁ、あんたらは細かい状況を知っているみたいだけど‥‥何が起きているんだ?」
「粗方は皆さんがご存知の通りで、伊勢周辺を騒がしている百鬼夜行の類がこの村へと近付いています」
「もしかして、村外れの‥‥」
「残念ながら、あの群れの狙いまでは分かっていませんが彼女が関与して起きた事ではありません。ですが、他の冒険者や魔女のシリルさんが海沿いにて防衛線を引いていますので今の内に村から村人全員を隣村まで避難させて下さい。そして撃退するまでの間、そちらでお過ごし下さい」
 その中でやがて、初めて村人の一人が今は散り散りとなっている黒い霧を見つめ口を開くと、至って穏やかな声音で芳純が答えれば‥‥それを機にして密かな声で一部の村人達がさざめくが、その光景を見止めた彼がすぐに言葉を紡いで他の村人達へ余計な不安を与えない様、今起きているだろう『魔女』の家近隣での事態を打ち明ける。
「あの、魔女が‥‥か」
「シリルおねぇさんはとっても良いおねぇさんだよっ!」
 だが、それでも腑に落ちないのか一人の村人がまた密かに毒づくが今度はそれを確かに聞き止めたやゆよがその彼を真直ぐな眼光にて射抜き叫べば、後ずさる村人だったが
「申し訳ありませんが時間も余りありません、詳しくはまた後程としましょう」
「‥‥うん。それじゃ、早く逃げよー!」
「それとどなたか、隣の村と多く接点のある方は居ませんか? この状況を先んじて隣村へ伝えて頂きたいのですが‥‥」
 やゆよの肩へ掌を置いて芳純が彼女を無言で宥めると、大きく息を吐いた彼女を見た後に村人達を見回しては陰陽師と揃い、一先ずこの村よりの脱出を促す。
「‥‥っ」
 そしてそれぞれが動き出す中、落ち着いたやゆよは一つやるべき事を思い出すと移動が始まる直前の今、フォーノリッヂの詠唱を織ってはそれを確かに成功させると垣間見えたビジョンは執拗に拡散した黒い雲の断片に追われているシリルの姿。
「シリル先輩おねーさんが狙われている‥‥?」
「それだけ、確かに向こうへ伝えとくぜ」
 その映像を前、果たして息を飲み狼狽する彼女だったが直後に己の肩を叩かれて身を震わせ、振り返ると最後に様子だけ見に来た崔軌がそれだけは約束を交わすと、頷くやゆよに腕だけ掲げ応じれば魔女の家を目指し、今度こそ駆け出すのだった。

 そして、シリルの家周辺にて身を潜めていた七人は魔女の家目掛け殺到してきた妖魔の群れと漸く、激突を果たす。
「何処から誰の差し金で、何の目的で来たかを聞きたいのでアイスコフィンで是非!」
「対象はそれなりに選別させて貰うが‥‥それよりも先ずはその鼻柱、へし折る!」
 とは言え相手の大部分が飛翔している以上、地に足をつけている一行がその高みへ至る事は出来ず‥‥だからこそ、アシュドはドナトゥースの申し出を受けつつも先ずその先手に空の高み目掛け、氷乱の嵐を叩きつけると抑えられた威力ながらもそれを回避し切れなかった一部の妖魔は地へ舞い落ちる。
「所で、何か心当たりは?」
「いいえ、特には。呪法に手を染めている訳でもありませんし」
「となるとやはり、『魔女』の名に引き寄せられた、か」
 その最中、一先ず相手の出方を伺いつつ柾鷹は傍らにいる魔女へ今更に問いを投げるも独特の空気が流れ始めている場の中で相変わらず笑みは絶やさないまま彼女が応じれば、カノンはその答えから敵の目論見を確定付けるも、目前にて崩れていた妖魔の群れが次々と身を起こせば
「しかし、それよりも先ずは眼前の敵を!」
「えぇ」
 その事態をいち早く察知したからこそ地を蹴ると、目の前の悪魔を地へ縫い止める様にその背中を貫いては振り抜き、上半身だけを両断すれば速度をそのままに駆けながらも叫ぶと佐祐李は声も高らかにして妖魔の群れへ確かな事実を告げる。
「ここに貴方方の求めるモノはありません、お帰り下さい。シリルさんは魔法の使い手と言うだけです‥‥っ!」
「すまん、遅くなった!」
 しかしその最後、木々の枝に張り巡らされている罠を意にも介さず凄まじき勢いで高みより突貫してくる以津真天に舌打ちする彼女、他の悪魔と対していたからこそ突かれた隙に回避する術がなかったが寸での所、その場に割り入ってきた崔軌がそれを打ち落とせば場にいる皆へ詫びるなり携える得物を空へ突き付け、不敵に笑むのだった。
「さぁて、やろうか」

 それから多少の距離を置きつつも互いの状況が確認出来る形で布陣する一行はアシュドが放つ氷の嵐と、紗祐李が木々の枝へ巧みに張り巡らせた縄に誘われると持つ翼を封じられ地へ落ちれば、次々と蹴散らしていく一行。
「しかし、しつこいなぁ‥‥おたくらっ」
 個々でのレベルで見れば間違いなく一行の方が上ではあったが、数に勝る妖魔の群れはそれでも引かず崔軌が呆れる程に魔女の家の方へ押し寄せてくる。
「ん‥‥?」
「少々、向こうの手勢を屠るのに梃子摺ったが‥‥シリルは無事」
 その中、一度戦線より後退するシリルに連れ添ってネフィリムと柾鷹が辺りを警戒する中で木陰より姿を現して二人へ近付いてきたのはアシュドだったが、紡がれた言葉が言い終わるより早く、銀髪の剣士が振るった拳は容赦なく魔術師の顔面を打ち据える。
「ぷぎー、いてー!」
「悪いけどさ、二番煎じ‥‥ってジャパンでは言うんだっけ? まぁ、この前と全く同じ事じゃあ通じないねぇ」
 すると何時もとは違う口調で悶絶する彼の姿はやがておぼろとなり、本来の姿を取り戻せば眼前にいた狐の姿を見てネフィリム、内心で安堵こそしながら鼻を鳴らすが
「鬼ー、悪魔ー、外道ー、人でなしー!」
「お前の母ちゃんでべそー!」
「ばーかばーか」
「‥‥どっちがだ」
 口だけは達者な妖孤、何時の間にやら集まった三匹に揃い小馬鹿にされると唇をわななかせて彼女は怒りに震えるが
「ともかく、今の内に」
「その場より、動くな‥‥二人ともな」
 シリルの傍らにつく柾鷹が妖孤を捕まえようと提案するも、その途中‥‥響いた声の後に魔女を除く二人、唐突に体の自由が利かなくなれば視線だけを辺りへ巡らせた侍はやがて、暗がりの中に何時から潜んでいたか焔摩天の姿を捉える。
「駒に余裕がある訳ではないのでな。一応、返させて貰う‥‥」
『一応ー?!』
「‥‥隙ありぃっ!」
 だがその抜き身の視線を受けても現れた焔摩天は動じず、三匹の妖孤へ歩み寄ればその首元を掴み嘆息を漏らすと三匹が叫んだその間隙、地に突き刺さっていた聖剣の柄を掴み抜いたネフィリムは一気に焔摩天へ肉薄するが、刹那の間で残る片手に携えていた刀にて彼女が剛剣を受け止めれば
「ふん、抵抗したか」
「生憎、レジストマジックさ」
「どちらでも構わん。だが、らしくもなく話に振り回されていた事は事実だったな‥‥ならば戦う必要は既にない」
「‥‥そっちにゃなくともこちらはあるんだよっ、ルルイエっちを返して貰うってな!」
 次いで互いに嘲笑し合うネフィリムに焔摩天だったが、先まで戦場の様子を見ていたからこそ焔摩天がそれだけ告げれば彼女が二撃目に放った渾身の一撃は寸で受け流し、飛翔すれば舌打ちする剣士だったが敵は既に手の届かぬ高みへ至り、シリルも健在なら深追いする理由がなく虚空に浮かぶ焔摩天を睨み据える。
「焦っていた? 焔摩天が‥‥」
 そしてその中、身動きが叶わない柾鷹だったが先のやり取りの中で僅かにだけ垣間見えた焔摩天の表情を思い出せば、その理由が思い浮かばないからこそその表情を心の片隅に留め‥‥それから程無くして妖魔の群れは去るのだった。

●雲去りて
「‥‥ともかく、一難は去ったと見て良いのでしょうか」
「腑に落ちない所こそ、あるがな‥‥」
 妖魔の群れは去りゆく光景を見つめたまま、佐祐李は未だ気を抜かず呟くとカノンも言葉こそ濁らせつつ一先ずの収束と判断すれば漸く、ぶら下げていた聖剣を鞘へ収めるも
「しかし、元々は子供を驚かせる為にとは言え安易に『魔女』と言う言葉を使った事でよもやこの様な事態になるとは‥‥思慮が甘く今回、この様な事態を招いてしまい申し訳ありませんでした」
「シリル先輩おねぇさんは悪くないよぅ、悪いのはあいつらなんだから」
「えぇ、それにこの様な事になるとは‥‥誰しも予想はしていなかったでしょうから、余り気になされなくとも」
 しかしシリルは漸く落ち着いた風景の中、今回の事態について過去を振り返って皆へ頭を垂れては詫びると、唐突な告白を前にやゆよが先輩魔女を慰めれば佐祐李も多少うろたえつつ、彼女を宥めるようと声を掛けるも‥‥暫しの間を置いて顔を上げた彼女の顔色はそれでも、芳しくなかった。
「‥‥で、これからどうする?」
「そうさねぇ」
 だが一先ず場も落ち着けば崔軌、今後の行動について皆を見回し尋ねるとネフィリムもまた彼に倣って首を傾げるが
「宜しければ、伊勢か冒険者ギルドまでご同行と言うのはどうでしょう。確約は出来ませんが、あちらでなら受け入れて貰えると思いますし私達もその為の尽力は惜しみませんので」
「そう、ですね‥‥」
「一段落が着いた時に此処へ戻られた方が良いかと思いますよ」
「それなら、一つだけ事を済ませてからにさせて下さいな」
「と言いますと?」
「今までの経緯からすれ違いもあったかと思いますし、今回の一件も考えると‥‥お詫びも兼ねて村人の皆さんの為に何か、したいです」
 シリルを眼前にかしまづいてドナトゥースが先ず一つ、予め考えていた案を言うと頬に掌を当てては考え込む魔女へ尚、巨躯の彼は言い寄るもシリルがやがてその答えを発すれば、簡潔なそれの詳細を尋ねる紗祐李を見つめ彼女は抽象的な答えを紡ぐが
「でも先ずは森のお手入れを少々、した方が良さそうですね」
「‥‥確かに」
 それよりも先ず今回の主戦場となった森を見回して魔女はもう一言だけ添えれば、同意して芳純は呻くのだった。

 一先ず、今回の戦闘にて人的な損害は出る事こそなかったが物的損害としては村と魔女の家の間にある森の一部が朽ち、欠けてしまった事位か。
 そして『魔女』はこれを機にして一時、この地を離れる事こそ決意するもその対価として村人達との交流を一行へ望む旨、申し出る。
 果たしてそれに皆はどの様に応じるか‥‥出来得る限りの手を尽くして森の復旧を行いながら一行は、残されたもう多くない時間の中で考えるのだった。

 〜続く〜