【パンドラの迷宮】導きの女神

■キャンペーンシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:59 G 72 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月11日〜08月30日

リプレイ公開日:2009年07月19日

●オープニング

 その遺跡はウィルトシャー地方、エイムズベリーにて発見された。
 ウィルトシャー地方はソールズベリーのストーンヘンジを初めとする古代遺跡が多くある地方としても有名で冒険者の何人かもその遺跡探索に関わっていた。
 ソールズベリーの遺跡には古代の魔法王と呼ばれるゴーストが封印されており、エーヴベリーという場所にはその従者が眠っていた。
 中でもシャフツベリーという街の高台に忘れ去られた遺跡があり、そこに上位デビルの一人、裏切りと復讐の悪魔アリオーシュが封じられていたという事実は冒険者達を驚かせ、また苦しめた。今も、アリオーシュは闇に堕ちた人という手駒を集めながらイギリスで暗躍を続けている。
「もしかしたら、ウィルトシャーという地方そのものが迷宮や封印を作るのに適していたのかもしれない。今は、想像に過ぎないがな」
 今回の依頼の主である円卓の騎士パーシ・ヴァルは冒険者達にそう告げて一枚の依頼書を差し出した。
 それにはパーシ・ヴァルの名で正式に遺跡の調査を依頼する内容が書かれていた。
「海の魔王リヴァイアサンは冒険者の協力を持って倒すことができた。だが、黙示録と呼ばれる時はまだ終わってはいない。デビルとの戦いはこれからも続いていくだろう。あいつらの狡猾さは計り知れない‥‥。何をしでかすが解かりもしない‥‥」
 パーシ告げる。
 だが、その背には静かな、だが燃えるような怒りが見て取れるようだった。
「聞くところによると、シャフツベリーの遺跡と、エイムズベリーの遺跡は対になるものという可能性もあるそうだ。シャフツベリーの領主家に言葉が伝わっていたという。
『封印する。天に絶望を、地に希望を。遠き未来の我が子らの為に』‥‥」
 遠い異国にパンドラの函という伝説がある。
 パンドラの函にはこの世の全ての不幸や絶望が詰められていた。
 だが、最後に希望だけが残ったという。
 アリオーシュが封印されていた高台を『天』とするのなら、どこかの『地』に希望が封じられているのかもしれないとパーシは告げる。
「絶望は既に解き放たれてしまった。だが、まだ希望は残っていると信じたい。パンドラの伝説のように」
 いくつかの遺跡は発見され、中の調査が終わっている。
 どの遺跡でも『希望』と呼べるものは無かった。
 まだ眠っている遺跡という可能性もあるが、洞窟の奥深くに作られたその遺跡が『希望の眠る地の遺跡』である可能性は大いにある、と彼は言う。
「だから、正式に冒険者に依頼をする。エイムズベリーの遺跡、その内部を調査してくれ。そして、希望と呼べるものが眠るなら入手して欲しい」
 この遺跡については今のところ、何も解かってはいない。
 判明しているのは遺跡の扉の封印を解く鍵が遺跡を守ってきた領主家の一族。その血であることくらい。
 構造も、遺跡の内部の仕掛けも何一つ。だ。
 何回か調査をしようとした事はあるが、いつも何かに邪魔されるように先に進めなかった。
 だから今までのように遺跡の調査を小刻みにするのではなく、一気に一度で片付けたいとパーシは言う。
 報酬は高額で、内部に見つかったものも、特別なもの以外は冒険者が所有していい、とも言っている。
「その代わり、遺跡調査が完全に終わるまでキャメロットには戻れないと思ってくれ。いろいろ悪いとは思うがもうこれ以上デビルの暗躍を許したくは無い。‥‥確実を帰したい」
 だから、であろう。いくつかの条件が今回の依頼には添えられていた。

 ○最悪数ヶ月単位の拘束もありえる。準備をちゃんとしていくこと。
 ○終わってから必要経費を請求するのは可能だが、保存食その他の用意は自分でして行く事。
 ○中で入手したものについては基本、冒険者の所有とする。
  だが、特別なアイテムがあった場合の分配は話し合う事。またパーシに報告すること。

「報告‥‥ということはパーシ様は調査に参加はされないのですか?」
 係員の確認に、パーシは静かに目を閉じ‥‥ああ。と頷いた。
「確かに、興味はある。宝探しは楽しそうだし、何かが呼んでいるようなそんな気もしたからな。‥‥だが、俺は今、キャメロットを離れるわけにはいかない。それこそデビルの思う壺になるかもしれないから‥‥」
「えっ?」
 聞き返す係員にパーシは答えず、改めて前を向く。依頼を出す
「この遺跡の調査については地元の領主家の許可は得ている。全権を参加した冒険者に委ねるので速やかに準備を整え向かって欲しい。遺跡開封の鍵である娘は既に向かわせている。頼んだぞ!」

 デビルからこの国を人々を守る力があるのなら欲しい。
 それは円卓の騎士のみならず多くの者の願いだろう。
 希望が眠るという遺跡。
 その奥に何があるのか、知る者はまだいない。


 地下に続く道を静かに歩んでいく。
 その突き当たりに冒険者は見るだろう。
 美しく、見上げるような女神の壁画を。
 彼女は手を両手に広げて冒険者を待つように立っている。
 右手には聖書を、左手には槍を持って。
 彼女の手の先にはそれぞれ道が続いている。真っ暗で先の見えない道。
 微かな唸り声と音。それ以上の情報はここからでは得られない。
 勇気を出して踏み込まない限り何も解かりはしないのだ。
 迷宮の先にあるのは希望か、絶望か。
 まだ、函は開いたばかりである。

 

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5898 アルテス・リアレイ(17歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea8729 グロリア・ヒューム(30歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

○導きの女神
 闇に続く道を進んだ先に金色の髪、青い瞳の女神が立っていた。
 冒険者を待つように、導くように‥‥。

「綺麗‥‥」
 その神々しさに思わず声を上げた七神斗織(ea3225)。彼女の横で
「やっと、ここまで辿り着きましたね」
 噛み締めるようにリースフィア・エルスリード(eb2745)は呟き、女神の像を見上げた。
「その言葉はまだ早いだろ? 探索はこれからだ」
 からかうような口調のリ・ル(ea3888)に
「おや? 彼女とはもういいんですか?」
「うっ‥‥」
 軽い反撃をしつつもリースフィアはその言葉が正しい事を知っている。
 逆に冒険者達はリースフィアの言葉が正しい事も知っていた。
 調べようとすると常に邪魔されるように何かが起きた。
「やっぱりエイムズベリーにも遺跡があったんですねぇ。ソールズベリとエーヴベリーの遺跡が対であった様にぃ、シャフツベリーとエイムズベリーの遺跡が対である可能性は高いですぅ〜」
 エリンティア・フューゲル(ea3868)の言葉はそのまま、冒険者達の希望でもあった。
 シャフツベリーの遺跡には復讐と裏切りの悪魔、アリオーシュが封じられていた。
 その対となる遺跡なら、あの最悪のデビルを止める力が隠されているのではないかと。
「天に絶望地に希望ねえ、イメージ的に天に希望地に絶望の方があってる気がするんだがなぁ」
「だからこそ逆に封じたのかも知れませんわ。何にしても最後まで調べれば謎は解き明かされる筈です」
 閃我絶狼(ea3991)とメイユ・ブリッド(eb5422)の会話に同意するように大宗院透(ea0050)も頷く。
「どちらかというと、こういう仕事が本職ですから‥‥」
「ただ希望を手にするのは真の勇者のみ、と文書にもありましたから、様々なものが待ち受けていることになる筈ですが」
 リースフィアの微かな心配。だが
『いいじゃないか』
 キット・ファゼータ(ea2307)はそれを払い飛ばす。
「宝探しは命がけがこの世界のルール。本当の宝はいつも福袋に入ってるものじゃないよな」
「危険があってこその冒険ってやつでしょ。危険が大きいほど、お宝もたくさんってね。何をするにも先立つものが無いと!」
 グロリア・ヒューム(ea8729)のウインクに冒険者達の肩から、程よく力が抜ける。
「よし、じゃあ、ここを少し調べてから出発だ。頼むぞ、ヘンルーダ」
 振り返ったリル。だが、呼びかけられた娘、ヘンルーダ・ロールの目は中空を見つめている。
「おい!」「ヘンルーダ様!」
 斗織に肘を突かれ、ハッとしたヘンルーダ。手に持ったペンもおぼつかない様子にキットは少し膨れ気味だ。
「しっかりしてくれよ。大事なマッピングを任せたんだから」
「おい! キット。ちょっとここを見てくれ」
「今行く!」
 キットがリルに呼ばれたのを確かめて、斗織はヘンルーダにそっと問うた。
「何がありましたの?」
 ずっと自分を気遣ってくれる恋人の妹、彼女だけにヘンルーダは静かに小さな不安を口にした。
「‥‥なんだか、遺跡に入ってから、ずっと誰かが呼んでいるような気がするの」
「呼んでいる?」
「気のせいだとは思う。でも、なんだか気になって」
「ご無理はいけませんよ。何かあったらすぐにおっしゃって下さいね」
「ありがと!」
「じゃあ、そろそろ行きましょう。準備はいいですか?」
 リースフィアに呼ばれ二人は走り出す。
 後で、斗織はこの時の会話を何度となく思い出す事となった。

○聖書の道
 女神像の右と左に道が分かれている。
 その二つの道を女神が持つ物になぞらえ聖書の道と槍の道、と冒険者達は呼んだ。
 そして、まず先に聖書の道の探索を始めたのだ。
 カンテラに油を入れ、前に進む。進んだ先を調べ、地図に記録する。
 角ごとに印をつけて、疲れたら戻る。それを何度となく繰り返していた。
「聖書と槍‥‥何か故事などがありましたでしょうか?」
 考えながら進むメイユ。だが手は既に冒険者達に合図をしていた。冒険者達は身構える。
「来ます!」
 剣を構えたアルテス・リアレイ(ea5898)の言葉通り、そしてメイユの合図通り、
『ガガ‥‥ギ‥‥』『ググ‥‥ウウ』
 冒険者の前にはスケルトンがうなり声にも似た音を立て集まって来ていた。
 その数は20、いやもっとだろうか。
「またこいつらか!」
 言いながらももう冒険者達は慣れたものだ。陣形を崩さず、的確に倒していく。
 キットと盾を構え突進していくリースフィアの連携攻撃。
 絶狼のローリンググラヴィティにエリンティアのライトニングサンダーボルト。
 グロリアとリルの鞭が唸れば、普通のスケルトンなど倍の数がいてもものの数分で片がつく。
 ただ、今回だけは少し違った。
 最後に一匹、残ったスケルトンがいたのだ。
 剣を持ち、冒険者に身構える、少し身体の大きなスケルトン。その構えは生前、少しは使える剣士であったと告げている。
 そして、その背後には壁と‥‥何かが見える
「そろそろ、ゴールかな? じゃあ、生かせて貰うとするか!」
 楽しげに笑って前衛の戦士達が踏み込もうとした、その時
「動かないで!」
 そう告げた音よりも早く、彼らの後方から、間をすり抜け放たれた。
 透が放った一矢は、真っ直ぐにスケルトンの眉間に突き刺さったのだ。
 崩れる足元。
「やれやれ。美味しいところ持っていかれたかな?」
 冒険者の剣が振り下ろされた後には、崩れた骨と『彼』が使っていた剣と指輪。
 そして‥‥ひとつの宝箱が残されているだけとなったのだった。
「少し、離れていてください‥‥」
 戦士達の冗談めいた言葉を背に、透は宝箱に向けて膝をついて罠の解除をはじめた。
 遺跡最初の宝箱。その中に入っているものは何かと、冒険者は心を躍らせる。
 だが暫くの後、透が注意深く開錠した宝箱の中身は冒険者を驚かせ、がっかりとさせた。
 中に入っていたのは、たった一本の石の棒、それだけだったのである。
     
○槍の道と二つの宝箱
 まる二日間をかけた探索の結果が一本の棒であったことに、冒険者達は落胆を隠すことはできなかった。
「ま、どうせなら隅々まで残しなく全部見て回りたいもんだからな、こういうのって」
 エリンティアがどう調べてもまったく何の反応も無かった石の棒を持ちつつ、冒険者達はもう一つの槍の道の
探索を続けていた。
 先に作った聖書の道の地図があり、それとほぼ対を成す形をしていた槍の道の探索は、ある意味聖書の道よりは簡単なものとなった。
 いくつかの落とし穴や吊り天上のトラップはあったが、それも注意深く探れば解るもの。
 エリンティアなどはフライングブルームで移動していた為、それにさえ引っかかる事無く、進むことができた。
 出てくる敵はガーゴイル。スケルトンの群れに比べれば、多少やっかいではあるものの、冒険者にとってそれほど難敵ではないことに変わりはなかった。
「ふう、と。お嬢もなかなかやるじゃないか?」
 何度目かのガーゴイルの襲来を退けた後、キットはヘンルーダにそんな声をかけた。
 足手まといのイメージがあったが、敵との戦い方はなかなかしっかりとしたものがあった。
 ホーリーダガーと長剣を使い分け、彼女の役割はしっかりと果たしている。
「元より運動神経はよろしいようです。素質はあると思いますから後は実践を積み技術を磨けば、ひとかどの実力者になれると思いますよ」
 以前手合わせをした斗織の評価はあながち外れてもいないようである。
「さて、地図のとおりであるなら、槍の道もここが終着点。宝があるかな?」
「ありましたわ!」
 リルの言葉どおり、ガーゴイルの屍の下に宝箱はあった。
 聖書の道にあったものと、ほぼ同じものだ。
「透さん」
「お任せ下さい」
 透は再び注意深く宝箱を開錠する。そして、ゆっくりと箱を開いた。
 だが、中に入っていたのはやはり、ただの石の棒である。
「これで二本揃ったって訳か。だが、これが希望って訳でもあるまい?」
「魔法も何もかかっていない、ただの棒ですよぉ〜」
 絶狼の言葉にリルは棒を手に取ると、手の中に持て遊ぶと、
「キット!」
「わっ!」
 ふいにキットの方へ投げ上げた。
「な、なんだよ。リル。危ないだろ!」
 なんとかキャッチしたキットにリルは自分の棒を振る。
「これの使い道、あれだと思わないか?」
「あれ?」
 言われてキットは考える。
 リルと何かをしたと言えば、あの女神の壁画の調査くらい。 
 女神の遺跡は大きな一枚板に描かれていて、足元には‥‥。
「あっ! そうか!」
 首を傾げる仲間達にリルは、にやりと邪笑を浮かべたのだった。

○器の娘と四つの扉
 そして、冒険者達は見つけた石の棒を持って女神像の前に戻ってきた。
「確かに地図では二つのエリアの真ん中に不自然な空白がありますわね」
 メイユの言葉に頷くとそっと、リルは足元にあった小さな穴へと差し込んだ。
 カチッ。
 かすかな音を立てて、何かが動く音がした。
 リルはキットと顔を見合わせると、女神の像の真正面に立ち、真っ直ぐにそれを押した。
「あっ!」
 女神の像は中央から左右に開き、新たなる道が現れたのである。
「この棒は扉のロックを開くものであったというわけですか」
「多分な。扉の境目は巧妙に絵の具で隠されていたから、女神像をちゃんと調べないと解らなかったろう」
「私達の目の前に次の階への入り口が用意されていたのですね‥‥」
 斗織は静かに女神に礼を捧げた。
 まるで女神に抱きかかえられているように開いた扉。
 新たなる階層に続く、漆黒の道。
 その先には何が待ち受けているのだろうか。
「行きましょう」
 冒険者達は注意深く、闇色の階段を静かに下りていった。

「くっ‥‥?」
「どうしたんです? ヘンルーダさん?」
「な、なんでもないわ。ちょっとめまいがしただけ‥‥」

「あれは‥‥なんでしょう?」
 階段の突き当たりには大きな扉があった。
「え〜っと、何か刻まれていますねぇ〜」
 待っていたというように前に進み出るエリンティア。
 彼が言うには古代魔法語で刻まれた文章にはこう書かれてあったという。
『この扉は真実の門。希望への入り口であり、番人の待つ扉。真実を見抜く眼と心を持った者のみが希望を手にすることであろう』
「どうしますぅ〜?」
 と、エリンティアは聞かなかった。聞く必要もない事だ。
 鍵のかかっていない扉を躊躇わず開き、先に進む。
 やがて道の先に三つの扉が見えてきた。
 扉には三人の乙女の絵が描かれていた。それぞれ青い服と、白い服と、紅い服を着た乙女。
 扉の横には小さな石版が埋め込まれている。
『天使と悪魔と人がいる。天使は常に真実を語り、悪魔は常に嘘をつく。人は嘘を言うか真実を言うか解らない。汝天使の道を探し、進むべし‥‥』
「うーん、これだけじゃ解らないですぅ〜」
「謎解きにしても情報が足りないな。何か、手がかりは書いていないのか?」
 考え込むエリンティア、手がかり探しに動き出す冒険者達、その後ろで
「‥‥青い服の娘は言う。『私は天使ではない』
 白い服の娘は言う。『私は人ではない』
 紅い服の娘は言う『私は悪魔ではないと』と」
「ヘンルーダさん?」
 振り返った斗織が見つめた先、そこにいたのは確かにヘンルーダである。
 だが、その笑みは彼女の兄が愛する、彼女が良く知るヘンルーダのものではなかったのだ。
「違う! 貴方は誰です!」
 剣を抜き放った斗織にヘンルーダ、いや彼女の意識を乗っ取った者が微笑む。
「アンデッドの気配です! お気をつけて!」
 メイユに言われるまでもなく、冒険者の多くはそれに気づいていた。だから
『私の名はアンドーラ。遺跡の番人である。』
 冒険者は動きを止めた。人質をとられているという事以上に、彼女が放つ不思議な威厳に圧倒された、ということもあるのだが‥‥。
『汝ら私を目覚めさせしものよ。最初の試練を潜り抜けし者よ。
 謎を解き先に進むがいい。この遺跡は試練の迷宮である。戦う力と、真実を見抜く目と心を持った者のみが、遺跡の奥に眠る希望を手にするであろう。
 但しチャンスは常に一度、過ちの扉を開いたら二度と先への扉は開かぬと知れ』
「待ちなさい! 貴方は一体!」
 リースフィアが手を伸ばすより早く、それだけ言うとヘンルーダの姿をした者は姿を消していた。
『さらばだ。扉が開いて後、また会おう』
 魔法で、ではなく物理的な仕掛けを使って、だ。石壁を叩き、扉を開いて‥‥。
「な、そんなところに隠し扉が!」
「ダメだ。こっちからだともう動かない!」
「つまり、扉を行く以外に俺達には道は無いってことか」
 カチン。
 地面に落ちたペンを拾い手の中で握る。
「面白い!」
 絶狼の目が輝いた。それは他の冒険者も同じである。
 不謹慎と言えるかもしれない。だがヘンルーダが消えた事に冒険者の落ち度は無かったし、あの様子からしておそらく、ヘンルーダ自身に危険が及ぶ事は無いだろうと冒険者は確信していた。
 迷宮からの挑戦に胸が高鳴る。
 久々のそれは間違いの無い『冒険』であった。

 迷宮の最下層。
『四つの問題が全て解けるかしら』
 と遺跡の番人は笑う。
『それくらいできないとデビルとの戦いは勤まらない』
 と守護者は微笑む。この階を通るにはさらに三つの扉を潜り抜けなくてはならないと冒険者は知るだろう。

『四人の娘が描かれた扉がある。
 紅い服の娘と青い服の娘、白い服の娘と黒い服の娘。
 一人はデビルで、残りは人である。
 デビルは常に嘘を言い、人は常に真実を言う。だが一人は魔法の指輪をしていて、その指輪をしている者は常に嘘をつく。
 デビルを見つけ出しその扉を進むがいい。
 黒い服の娘は言う。『白い服の娘はデビルではない』』  
 紅い服の娘は言う。『私は魔法の指輪をしていない』
 青い服の娘は言う。『白い服の娘はデビルである』
 白い服の娘は言う。『魔法の指輪をしているのは黒い服の娘である』

『紅い扉があり、黒い扉もある。
 一つは正しき扉で、もう一つは後悔への扉である。前には番人がいるが、どちらかは正直でどちらかが常に嘘をつく。質問はどちらかに一度のみ。
 正しき質問を問いかけ、正しき道を進むが良い』

『紅い扉と黒い扉がある。その前で傷ついた少年が冒険者に訴える。
「黒い扉の先が次への正しい道だよ。
 でも、お願い。僕を助けて。紅い扉を開けないと僕の妹が殺されてしまうんだ。どうか紅い扉を開いて妹を助けて下さい」』


『確かにね。見込みはありそうだったわ。‥‥この子も素質はありそう。私を‥‥くれるかしら?』
『‥‥あいつに託された冒険者。しかも、お前を救ってくれた者達。‥‥期待しているのだからな。こう見えても。なあ、ヘンルーダ?』
 知らない声と、懐かしい声。 
「二人」の会話を心の中で聞きながらヘンルーダは動かぬ身体で祈る。
 無意識に胸元の祈りの水晶と、大切な人から預かったペンダントに触れながら。
 冒険者が無事に辿り着くように‥‥と。