【レッツ宝探しっ!】海の秘宝

■キャンペーンシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月17日〜03月22日

リプレイ公開日:2009年01月25日

●オープニング

 ***

 俺の名はヴィル・ハーベスト。
 またの名を、フリップコインのヴィル。
 かつてのシムの海において、その道じゃ天下を取った大海賊だ。
 ‥‥だが今では、力も運も何もかもを失い、ただ海と言う魔物に怯える、萎びた老いぼれに過ぎねぇ。
 全ては分相応を弁えず、宝島なんて幻想を追い求めた報いだ。

 ――この手記は、あの時の俺と同じ『宝島』を追い求めようっつう命知らず共に捧ぐ。
 出来る事ならば、これを見た野郎がありもしない夢から目を覚ます事を、切に願ってる。
 だが、それでも島を求める様な大馬鹿野郎が、一人でも居たとするならば――。
 そいつには、俺が島へ遺して来ちまったモノ‥‥その弔いを、どうか頼みてぇ。
 無論生きて帰れるもんならば、必要な物は好きなだけくれてやる。あの島に残しておくよか余程マシだ。

 僅かな希望と共に、島への辿り着き方、そして現地じゃ如何にして生き残るべきかも記しておく。
 ただし、これが誰かの手に渡っている頃にゃ、俺は既に海の藻屑となって居るだろう。
 命知らず共の身の安全や、内容の齟齬に関する文句は一切受け付けられねえ。
 この先を読むのは、本当に覚悟を決めた奴だけにしておけ。良いな?


 ――。

 まず始めに島へ向かう船の上で、どうしても欠かせねぇ物が三つある。
 一つは知恵。
 一つは度胸。
 そして最も大事なのが、運の強さだ。
 いくら正確に風や潮の動きを読み、沈む事さえも恐れず進んだ所で、運が足りずに化物なんかにやられて沈んだ仲間の船は数知れねぇ。
 俺だって、『相棒』の加護が無けりゃ、今頃化物共の餌になってたかもな。
 もっとも、それが本当に強運だったのかは――。

 今となっちゃ分かりゃしねぇが。

 ***



「これが、ヴィル・ハーベスト‥‥『フリップコインのヴィル』の遺した手記ですか」
 以前の調査において、無人の海食洞より発見された古びた書類。その内容の訳されたメモを広げながら、感心した様に声を上げるのは受付係。

 ――その頬にくっきりと浮かぶ掌模様と。
 相対する自称トレジャーハンターのティーナ・エルフォンス、その服装が何故かチャイナドレスである事には、突っ込まない方が良さそうだ

「せや。代書人やら裁縫屋やら、色んな伝手に当たってみて漸く解読出来たんやで?」
 えっへん、と胸を張るティーナ。
 見るに、この部分は手記の序盤。メモはこれの他にも更に何枚か綴られており‥‥どうやら、調査後の数ヶ月で手記の全てを解読して来た様だ。
 そして、小脇に抱えられた大きな羊皮紙は‥‥宝島へ向かう上での航路の記された海図。
 どうやらそれもヴィルの遺品らしく‥‥手記等も合わせて、これらは全て以前の調査によって見付け出した物である。
 これだけの情報が揃っていれば、本当に『宝島』を目指す事も叶いそうだ。

「後は船ですね。何とかしてゴーレムシップを確保できれば、多少は航海が楽になりそうなのですが‥‥」
 う〜ん、と腕組みをしながら頭を抱える受付係。
 幾らその『宝島』と言う場所が、精霊に縁のある地であったとしても‥‥。その調査自体が貴族等の依頼と言う訳でもない等と言った、様々な要因を鑑みるに、簡単に借り受ける事は出来ないだろう。

 ――と思えば、胸を張っていたティーナはカウンターの前で更にふんぞり返っていて。
「そんな事もあろう思て、しっかり小型ゴーレムシップの手配もしといたで! イムンのベルっちに話を持ち掛けたら、イチコロやったわ♪ もっとも、ウチはゴーレムを操れへんから、技術のある仲間が何人かは欲しい所なんやけどね」
 もしそれが叶わない場合には‥‥不安は残るが、一般の帆船を用いて向かうしかないだろう。
 ――それにしても、『ベルっち』って‥‥‥‥怖いから、深くは追求しないでおこう、うん。

 ともあれ、『宝島』へと向かう準備はある程度整った。
 後は、面子を募るだけ‥‥だが、ヴィルの遺した手記の内容からも察せる通り、長く危険な旅となる事は、まず間違いないだろう。
 下手をすれば、一人残らず命を落としてしまう事さえも有り得る。
 それでも――航海の先に見果てぬ夢を求めて。或いは島を統治していたらしき『海を護る精霊様』と会う為と言う使命の下に。

「さあ、行くで! 『ティーナと愉快な仲間達』集合や!!」

 覚悟を決めた者が、彼女の他に果たして何人現れるか――。

●今回の参加者

 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb5778 キルゼフル(35歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●出航!
 宝島へ向かうべくイムン東岸の港に集まった面々は、ティーナを含め5名。
 彼らは『ベルっち』ことベルドーラ・イムンはじめ、多くの地元民達に見送られながら、意気揚々とシムの海へと旅立って行った。
 振り返れば、後方に伸びる広大なセトタ大陸。その姿が霞んで見えなくなるまで、船の上の誰しもがずっと目を離さずに見詰めていて。
 ――まるで、これで見納めとでも言わんばかりに。

「さて、ようやく宝探しに入れるが‥‥冬の海に落ちたら死人が出るな。各自、気を引き締めて行こう」
 一同に声を掛けるのは、ゴーレムシップを駆る鳳レオン(eb4286)(以下鳳)。
 今回ゴーレムシップと言うこの特殊な船舶を操る事が出来るのは、彼一人。
 故に出航の時こそベルドーラの強い希望により、ゴーレム操縦技術により船を走らせてはいたが、稼動限界もあるのである程度進んだ所で仲間達に指示して帆を張り、帆走に切り替えていた。
 宝島周辺に辿り着くまでは特に有事でもなければ、このまま進むつもりである。
「ふぃー‥‥しっかしまぁ、帆を張るのって想像していた以上に重労働だな」
 額に浮かぶ汗を拭い、マストから軽やかに甲板へと飛び降りるのはキルゼフル(eb5778)。
「まあな。それに今回は人手も少ないから、多少のオーバーワークを強いる事にもなってしまっているが‥‥すまないな」
「別に気にするこたねぇ。それもこれも無事に宝島に辿り着く為だ。海の上で俺達に出来る事があれば何でもすっから、遠慮なく言い付けてくれよな、キャプテン?」
「‥‥ちょい待ちや‥‥『俺達』て、ウチもカウントされとるん‥‥?」
 ぜぇぜぇと、肩で息をしながら尋ねるティーナに、キルゼフルは呆れた様な視線を向ける。
「ったりめぇだろ。そもそもてめぇが言いだしっぺなんだ、そんぐらいしねぇで如何する」
 冷たく言い放つも、やはりパラと言う種族柄もありき、非力な彼女には中々に辛い仕事であったらしく。
 甲板に突っ伏したまま伸びる彼女に、少しだけ哀れと労いの篭もった視線をキルゼフルが向けていたのは、本人のみぞ知る所。

「今の所、進行方向に異常なーし」
 マストの上から響く声は、物見を務めるテュール・ヘインツ(ea1683)の報告。
 今は未だ先に見えるのが大海原ばかりなので必要は無いが、ジプシーと言う職業柄陽精霊魔法を扱え、更には視覚、聴覚、嗅覚において並外れた適性を持つ彼ほど、この役が適任な逸材は居ないだろう。
 残念ながらゴーレム魔法を付与した物品であるゴーレムシップの船体をエックスレイビジョンで透かし、海中を視ると言う試みは上手く行かなかったが‥‥そうでなくとも、今回の航海の上で欠かせない船員の一人である事に違いは無い。
「ときに、ティーナさん。良かったら、ヴィルの話を聞かせてくれないかな? 冒険譚ってワクワクしちゃうよね♪」
 そうティーナに話しかけてくるテュールの目は、純粋な冒険への好奇心で無邪気な輝きを湛えている。
 そんな聞き手を相手に、ティーナも悪い気分がする筈も無く。
「ええでー! とは言うてもヴィルの手記の原本には必要最低限の事しか書かれてへんかったから、幾らかウチの憶測も混じるんやけどね。そもそも、ヴィル・ハーベスト言う海賊が何故『フリップコインのヴィル』呼ばれる様になったか言うと――」

 一方で大海賊の冒険譚が盛り上がる中、船長の鳳と共にヴィルの遺した海図を広げ、航路についての相談をするのはレオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)。
「しかし‥‥これを見ただけでも、フリップコインのヴィルって奴が如何に優れた航海士だったか、窺って取れるな」
 感心しながら呟く彼も、海に想い焦がれロマンを抱き、海の男を志す自称見習い。
 だが、一般人を遥かに超越した漁業技術と知識と言う裏付けをもってして、提案される航路の案は、同じく海の男たる鳳の舌を巻かせるのに十分だった。
「取り敢えずこの近辺は暗礁が多いらしいから、避けて通った方が良いだろうな。ただ、やっぱり障害物が少ない場所には鮫やら怪物やらも集り易いだろうし‥‥それはこの海図を見ても証明されている。だから、ここは鳳さんの操船技術を見込んで、あえて海流を遡る形でこの近辺を‥‥」
「そうだな。とは言っても、その辺はかなり激しい逆風が吹いている様だが、ゴーレムシップなら問題ない。責任重大だが、必ず宝島まで辿り着いてみせる! ‥‥っと、引いてるぞ?」
 言いながら鳳が指し示すのは、相談の片手間でレオたんが手にしていた釣竿。

 この後釣れたお魚は申し訳程度に料理の出来るティーナによって捌かれ、一同の栄養となったので、彼は決してサボっていた訳ではない。多分。



●強行突破
 冒険者達が大海原へ発ってから数日。
 ――異変の兆しは、レオたんが海中に垂らしていた釣り糸に現れた。
「お? 来たきた‥‥ッ、こいつは大物‥‥‥‥!?」

「駄目だ、レオンさん! 竿を放して!!」

 テュールの警告よりも早く、その手応えに違和感を感じていたレオたんは迷わず釣竿を手放す。
 直後、巨大な魚影が海中から浮かび上がって来たと思えば、それはシップのすぐ横で盛大な水飛沫を上げ、その姿を現した。

「――ラージエイ!? そんな、まだ島まで距離がある筈やのに‥‥!?」
「くっ、出てきちまったモンは仕方ねぇだろ! さっさと振り切らねぇと!!」
「ああ、だが帆走するには風向きが悪い‥‥キルゼフル、ティーナ! 急いで帆を畳んでくれ! ここからゴーレム操縦に切り替える!」
「おうよ、任されたぜキャプテン!」
「テュールは耳を澄ませての警戒と同時に、テレスコープを使って宝島を探してくれ! その内1時方向に見えて来る筈だ!」
「分かったよ! 何かあったらすぐ知らせるね!」
「レオン、船の周りの奴らと潮の流れはどうなってる!?」
「うん、潮流は良い感じだ! 船の周りには‥‥サメが沢山にエイが2匹! 明らかにこの船を狙ってる!! 撒き餌の準備は出来ているから、試してみる!!」
 言いながら、事前に用意した撒き餌入りの樽を担ぎ上げ、それを船尾から海面に向けて投げ付けるレオたん。
 するとそれらの発する強烈な匂いに釣られたサメやエイ達が見る見る内にそこへ集まり、辺り一帯に凄まじい水飛沫が立ち上る。
 そうこうしている間にゴーレムシップの帆は畳まれ――同時に、鳳の操舵の下精霊力による推進力を得たシップは、一気に加速を始めた。
 性能の限界まで速度を出せば、サメやエイに追い付かれるゴーレムシップではない。
 追い縋ってくる新手も撒き餌とその機動力、そして鳳の操船技術の前に触れる事も許されず、殆ど難なく海域を駆け抜けて行く一同。

「‥‥! あれは‥‥うん、きっとそうだ! 見えたよ、宝島だ!!」

 そうしてどの位進んだだろうか。
 出発した港の漁師達の協力もありきで大量に用意されていた撒き餌も底を尽きた頃、物見のテュールが声を張り上げる。
 同時に、わっと湧く甲板。危険な海域を突破し、漸く目的地が見えた。その事実が、歓喜と同時に安堵を齎し――。

 ズシィンッ!!

「わっ!!?」
 唐突に揺れる船体、そしてマスト上のテュールの身体がぐらりと揺らぎ。
 ――ドゴッ!!
「テュールッ!!」
 幸い命綱を付けていた為、甲板に叩き付けられると言う事態には陥らなかったが、吊り下げられた身体が船体の一部に衝突する事ばかりは免れ得なかった。
 駆け寄ったキルゼフルが慌ててナイフを取り出して綱を切り、彼の容態を診る。
 ――どうやら気を失ってこそ居るものの、それ程酷い怪我は負っていない様子。

 仲間達が胸を撫で下ろす――間も無く、船体を更に強い衝撃が二度、三度と襲う。
「くそっ、思う様に船を進められない‥‥!!」
「何だ、一体何が居るんだ!?」
 海中から攻撃を仕掛けてくるばかりで姿を見せない相手に、一同が出来る事と言えば、振り落とされない様船体にしがみ付くくらい。
 事前にヴィルの手記により存在を知らされていた『謎の大物』‥‥その正体を、鳳は巨大なイカやオウムガイの類かと予測していたが。
 やがて進行方向上の海面に現れた『それ』は、彼等の想像を遥かに超える姿をもって、一同の前に立ち塞がった。

「な、何だあの化物は!?」
「真っ黒な身体、巨大な頭‥‥! アレは‥‥アレはまるで‥‥!」
「あ、あかん‥‥ウェイプスや! 別名海坊主言うて、船をひっくり返してまう怪物‥‥鳳れん、はよ逃げな!! こない化物相手にしはったら、ウチら全員サメの餌やでっ!!」
 言われるまでも無い、この状況下でまともに戦える相手ではない事は、彼女以外の誰しもが悟っていた。
 だが、ウェイプスの方とて易々と逃がす気は無いらしく。唐突にその正面の海面が盛り上がったかと思うと、ゴーレムシップへ向けてゆっくりと迫って来る水の塊。
 ウォーターコントロール‥‥これで水を盛り、船を浸水させるつもりらしい。
「させるか! 精霊砲‥‥発射ッ!!」
 声と共に積んであった精霊砲より放たれた炎の精霊力が、粘土状にうねる水に衝突し、凄まじい蒸気が周囲一帯を埋め尽くす。
「今だ!」
 その隙に、方向を転換して一気に加速を始めるゴーレムシップ。
 目晦ましが何時まで持つか分らないが、今は全速力で怪物を振り切って、宝島へ辿り着く他に道は無い。

「‥‥それじゃあ、テュールを頼んだぜ。それと、最も大事なのはおめぇの命だ、ヤバくなったら逃げろよ」
 その頃、気を失ったテュールを船室に運び込んでいたのはキルゼフル。
 彼は愛犬のレラに言い聞かせながら頭を撫でると、傍らの長槍を引っ掴み、大急ぎで甲板へと戻って行く。
「畜生、来るなぁっ!!」
 その頃、繰り広げられていたのはウェイプスとゴーレムシップとの追い駆けっこ。
 暗礁を警戒する余り船は思う様に進めず、何度も距離を詰められては取り付かれる前にレオたんがソードボンバーで牽制し‥‥と言った事を繰り返している様な状況だった。
 無論、敵はウェイプスだけでは無い。撒き餌を失った今、サメやエイも船を目掛けて襲い掛かって来る。
 進路上に現れたそれらも同時にソードボンバーで薙ぎ払っている為‥‥宝島に到達するまで、彼一人でウェイプスを追い払う事は叶わなかった。
「あ、あかん‥‥最悪や‥‥!」
 ガクンと揺れる船。船尾には、黒光りする頭を海面から覗かせるウェイプス。
 どうやら船体を掴まれてしまったらしく‥‥見る見るその甲板が横に傾いて行く。
「ちぃっ!! ティーナ、持ってろ!!」
「え‥‥ちょ、命綱!? な、何するつもりなん!?」
 言うが早いか、槍を持って船尾から飛び降りるのはキルゼフル。
 綱に引かれたその身体は、海面ギリギリの場所で止まり‥‥。そして彼の目の前に現れるのは、黒い頭に浮かぶ二つの赤い目、そして耳元まで裂けた口。
 見れば見るほど不気味なその顔に、キルゼフルは力一杯槍を突き立てた。
「!!?!?」
 すると、声にならない悲鳴と共に、ぱっと船体から手を離すウェイプス。
 だが、その手は暫し宙を掻いた挙句――突き刺さった槍と、キルゼフルの身体を掴んで来る。
「ぐあぁっ‥‥‥!!?」
 握り潰されこそしなかったものの、そもそも体勢が不安定なこの状態では、振り解く事叶わず‥‥。
 かと思うと、その黒光りする身体が青い光に包まれ――次の瞬間、キルゼフルを掴む手が凄まじい冷気を帯び始めた。
「あ‥‥がぁっ‥‥!?」
 苦悶の声と同時に、槍を掴む手の感覚が失われて行く。そして、段々と柄から離れて行く指。
 未だ大したダメージを与えたでもないのに‥‥このままでは、ウェイプスを追い払う事さえ叶わないだろう。
 薄れ行く意識の中――。

「高かったんだぞ、それ‥‥! 畜生‥‥冥土の土産にくれてやらぁっ‥‥!!」

 ギリリッ!!
 奥歯を噛み締める音と共に、槍から手が離され、同時に振り上げられた足が槍の柄を勢いよく蹴った。
「――!?!?!?」
 ずぶりと槍が深く抉り込めば、ウェイプスの両手がぱっと離され。
「キルゼフルさん!!」
 そこにレオンのソードボンバーが叩き込まれ、同時に安定を取り戻したゴーレムシップが、一気にその場から飛び出して行った。
 遠ざかって行く情景の中、渾身の攻撃を一身に受けたウェイプスは‥‥暫く海面でもがき苦しんだかと思えば、飛沫と共に海中深くへと姿を消して行く。
 その様子を、甲板に引き上げられながらキルゼフルが呆然と見詰めていると。

「‥‥よし、入り江に到達したぞ!!」

 鳳の声が響き渡り、やがて段々と減速し始めるゴーレムシップ。
 ――どうやら、無事宝島へ辿り着く事が出来た様だ。
 だが、辺りは既に夕闇に包まれ始めていて‥‥。
 海上であの様な怪物と遭遇してしまった矢先、陸上にも何が居るのか分ったものではない。
 今は下手に動かない方が良いだろう。

 一先ず予定していたベースキャンプの設置は明朝に行う事とし、この晩は船室で休む事にした一同。
「宝島‥‥ホンマに、来てもうたんやな‥‥!」
 皆が寝静まる中、見張り番として一人甲板に腰を掛けながら呟くのはティーナ。
 そうでなくとも彼女は気持ちが昂ぶる余り、寝付く事は出来なかっただろう。
 傍らに置かれたランタン、その灯りが照らすのはヴィルの遺した手記。
 ――次に彼等が辿る事になるであろう、大海賊の軌跡を示した箇所を、ティーナは今一度声に出して読み上げた。


『運良く宝島に辿り着けた所で、そこは化物共の巣窟だ。
 陸には、猛者揃いの俺の手下共でさえ、サシじゃ敵わねえ‥‥そんな奴らがゴロゴロしてやがる。
 俺にだって、死んだ仲間に構ってやれる余裕は無かった。
 レニや腕の立つ野郎共と力を合わせながら、兎も角化物を薙ぎ倒しながら前に進んで行く。
 ――気が付きゃ、生き残ったのは俺とレニも含めたったの6人になっていた』