【レッツ宝探しっ!】海の秘宝

■キャンペーンシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月28日〜05月03日

リプレイ公開日:2009年03月08日

●オープニング(第3話リプレイ)

●地雷?
「やっと遺跡か‥‥これからが本番だな。気を引き締めよう」
 野営中の洞窟の中、広げられたヴィルの手記を前に声を響かせるのは鳳レオン(eb4286)(以下鳳)。
「ああ、いよいよ正念場だからな。気合い入れてくぜ‥‥‥‥って、どうしたテュール?」
「え? あ、いや、その‥‥な、何でもないよ」
 キルゼフル(eb5778)が尋ねれば、テュール・ヘインツ(ea1683)は恥かしげに顔を俯ける。
「何でもない言うても‥‥顔真っ赤やん。大丈夫、風邪でもひいたんや――」
「ほ、本当に大丈夫だから、気にしないで下さい!」
 ティーナが覗き込めば、慌てて距離を取るテュール。
(「女の人の裸なんて見るの初めてだったから、この前のはびっくりしちゃったな‥‥」)
 ‥‥うん、間違っても本心は口に出せない。人それを、天界的に『地雷』と呼ぶ。

 そんな彼の様子に一同は首を傾げながら――キルゼフルだけは何やらニヤニヤしているが――ともあれ今一度ヴィルの手記へと目を戻す。
「これによると、潮の満ち引きによって構造が変わるらしい。これが迷宮の中で水没する地域があるって意味なら、水の魔法とティーナに予め渡しておいた分水珠が役に立つな」
「うん、もしくは満ち潮になると水圧を利用してスイッチが作動する、なんて仕掛けもあるかも知れないな。そんな罠で閉じ込められたら絶望的だし、出来るだけ引き潮の時間を見計らって入ろう」
「目に見える罠ならわしが解除すっけど、そう言うのは流石にお手上げだかんな‥‥。頼んだぜ、お二人さんよ」
 キルゼフルが海の知識、経験共に豊富な鳳とレオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)の肩を叩けば、二人は大きく頷く。
 ――と、そこでレオたんがふと口を開き。
「‥‥そう言えば、ヴィルの奥さんの持ち物とかについての記述って、この手記にはなかったのかな? もう生前の姿なんて分からないだろうから、弔おうにも判別できる何かがないと難しそうだし‥‥」
「へ!? あ、ああー、そないもんは無かった思うでー?」
 途端に余所を見ながら、口笛を吹き始めるティーナ。
 ‥‥怪しい。
「――ほう、ヴィルってのの妻の名前は『レニ』‥‥道案内の間にも何度か出て来た名前だな。そいつは水に浮きやすい上質なコートをヴィルから贈られていた他、ワインが大好きで‥‥」
「‥‥って、キルゼん!? な、何勝手に人のメモをスッてはるん!!」
「がははは、ガードが甘いぜ。って言うかそもそも、てめぇはヴィルの遺品を独り占めする気だったんだろが!」
「え、あ、いや、そないことは‥‥‥アッー!!」

 まあ、おいといて。
 ティーナが隠し持っていたメモの内容から、ヴィルの妻『レニ』が当初どの様な格好をしていたか大体把握できた。
 後は、もし彼女の遺体を見付ける事が出来た場合‥‥。
「弔いは遺品を持ち帰って、全部終わったらヴィルさんの手記と一緒に埋めるか燃やすって辺りでどうかな? ‥‥ヴィルさんは海賊だけど、海に生きた男の願いを叶えてやりたいんだ」
「そうだな‥‥それが彼の無念に報いてやる事にもなるだろう」
 悲しげに手記に目を落とす一同――無論、反対する者は居ない。(ティーナを除く)
 かくして、準備も万端に、一同は遺跡内部へと足を踏み入れていくのであった。



●水の大迷宮
『船長、何をしているの?』
『ん‥‥水の音を聞いてるのさ。こうして壁に耳を当てて‥‥ああ、この先に大量の水が流れてる。ここは罠だな、となるとさっきの道を‥‥? どうかしたか?』
『ううん、そんなのでよく分かるなって。私が耳を澄ましても、水の音さえ聞こえないのに‥‥』
『そりゃ、伊達に大海賊の名を張ってねえからな。こんな構造の遺跡だって、今までに幾つ荒らしてきたか知れねぇ』
『ふふ‥‥その言葉は本当なのかしら?』
『さあな。だが、少なくともこの先に進めねえ事だけは確かだ。野郎共、また水に呑まれたく無けりゃ、さっさと引き返すぞ!!』


 ――――。


「‥‥この先は罠、だそうだね」
 狭い通路を進む冒険者達、その中のテュールが石床に刻まれた文字をなぞりながら言う。
 遺跡の入口を潜った一同を迎えたのは、地下空間へと続く長い長い階段。
 そこを下ると、今度は段々と空間が開けてきて‥‥そして気が付けば、幾つあるとも知れない分かれ道によって作り上げられた大迷宮へと迷い込んでしまっていたのだ。
 途方に暮れた一同を導いたのが、他ならぬテュール。彼は遺跡に入る前から「あったら良いな」程度のつもりで、ヴィルの遺した道標を探すつもりで居たのだが‥‥これが的中、構造的罠があるらしき空間を避け、一同は恙無く迷宮を進む事が出来ていた。
「それに、段々どんな所に罠があるかも分かって来た。万一の事故を防ぐ為か、正しい通路には所々に排水溝があるけれど‥‥間違った道には無い。しかも大分老朽化が進んでいるからか、そう言った所は水漏れしてて足場も悪いからな」
「ああ、おまけにそれさえ分かっちまえば、後ブービートラップらしき物は殆ど見当たんねぇからな。こいつぁ思ったよりも楽に突破できちまったりしてな」
「‥‥ああ、これで正しい道さえ分ればな」
 そう言う鳳の表情は、疲れ気味。
 と言うのも、ヴィルの残した道標で罠を回避出来て居るのは良いが‥‥それは、決して正しい道程を示すものではなかったのだ。
 つまりは、ヴィル達も迷っていたらしく、同じ所をグルグルと回るばかりで。
「あー、もうしんどー‥‥」
 とうとうティーナが、音を上げて座り込んでしまった。
「そうだね、僕も流石に疲れたな‥‥ちょっと休憩しよっか。キルさん、ここまでで良い場所は無かったかな?」
「ああ、そんなら少し戻った所の階段付近が良いだろな。確認したが、あそこなら罠なんかも特に無さそうだ」
「しかし、出来れば干潮の今の内に進めるだけ進んでおきたいな。何しろ満潮と干潮の間は6時間もある。無理せず進めるならいいが、間に合わなかった時に6時間待ちはキツイ」
「それは一理あるな。けど、疲れて集中力を欠いた状態で探索って言うのも危ないし‥‥」
「此処は一旦休んだ方が良いよ。ね?」
 結局相談の末、最初に降りてきた階段付近で小休止を入れる事にした一同。
 だがしかし、こんな陽精霊の光も届かない空間を延々と気を張って歩き続けていた為か、皆が皆心身ともに疲れ切っていた様子で‥‥‥‥‥気が付くと。

「恐らくは今、外は夜‥‥ちょうど満潮の時間だな」
「ああ、ちょっくらのんびりし過ぎちまったな」 
 いけないいけないとばかりに苦笑いを浮かべながら、早足で通路を進む一同――と、そんな彼らの目の前に。
「‥‥あれ? こんな所に脇道なんてあったか?」
「ううん、さっきは無かった筈だよ。‥‥もしかして、遺跡の中の構造が変わってる?」
「どうやらその様だな。満潮で無ければ進めない場所もあると言う事か‥‥」
 額を押さえながら呟く鳳。
 一先ず道が開けたは良いが、この調子だと思った以上にこの遺跡の攻略は手古摺りそうだ‥‥。
 テュールとキルゼフルが先の安全を確認した後、足を進めて行く冒険者達‥‥その誰しもが、何とも言えない不安を胸に抱えていた。



●冷水に沈む‥‥
 冒険者達が遺跡に入ってから、数日が経った。
 事前の食料等の準備は欠かさなかった為、一先ず現時点では特に問題は起きていないが‥‥。
「こんな真冬に何が居るとも分からない危険な場所であまり泳ぎたくはないが‥‥仕方ない」
 ぼやきながら、水に潜る準備をする鳳。
 そんな彼らの前には行く手を阻む石扉と、小さな水路。
 キルゼフルの勘によれば、この水路の先にきっと扉を開くスイッチがあるだろうとの事で。
「悪ぃな、ウォーターダイブの使えるおたく以上に適任な奴はいねぇからな」
「なに、気にするな。本当ならマジカルエブタイドで底まで水位を下げたかったが‥‥それが出来ないのだから、仕方ないさ」
「危なくなったらすぐに戻って来てね? 鳳さんが居ないと、僕達もこの島から出られなくなっちゃうから」
 心配そうな視線を向けてくる仲間達に大きく頷くと、鳳は自身にウォーターダイブを掛け、水路の奥深くへと潜って行った。

「‥‥もしかすると、拙いかも知れへん」
 ――ふと、口を開くのはティーナ。
 その手には、ヴィルの手記が広げられていて‥‥。
「? 何がだ?」
「そ、それが‥‥この手記によると、ヴィルの妻のレニは‥‥‥っ!?」
「あ、危ない!!」

 ボタッ、ボタタッ――!

 直後、テュールに庇われ飛び退いたティーナの元居た場所に落ちてくるのはゲル状の物体。
 それは、この遺跡の中に入ってから既に何度見たとも知れないクレイジェルにシャドウジェル、そしてビリジアンスライムにブラックスライムと言った不定形生物達で。
「けど、今までにはこんな大量に出てくる事なんて‥‥!!」
「ちぃっ‥‥! 逃げようにも出口は反対側だし、それに鳳がまだ戻ってきてねぇ‥‥如何するよ、レオン?」
「決まってる。何とか食い止めるしかないだろ‥‥っ!!」

 ――一方、未だ底の見えない水路の中を潜っていた鳳。
 ウォーターダイブの魔法を何度も掛け直している為、窒息する心配は無いが‥‥それ以上に、先程から彼の全身は思いも因らぬ物に襲われていた。
 それは――。
「くっ、何だってこんなに水が冷たいんだ‥‥!? それも、深く潜れば潜る程、更に冷たくなって‥‥!」
 鳳はしきりに凍えそうな身体を掌で擦る。
 今の時期を考えれば、確かに水が冷たい事自体は不思議ではないのだが‥‥それにしたって、この水温は余りにも不自然過ぎる。
 もしかすると、水の精霊力と言ったものが変に作用しているのでは無いか‥‥。
 そんな疑念は――やがて、とある『証拠』をもって、確信へと変わった。

「っ!? こ、これは‥‥っ!?」

 驚き目を見開く鳳の眼前に現れたもの、それは――――漸く見えてきた水路の底に沈む、人間の遺体。
 生前はさぞ美しい女性であったのだろう。その面影は、死して尚『崩れる事無く』残されている。
 そして、その身体に羽織っているのは皮製のコート‥‥そう、恐らくは彼女こそが、ヴィルの妻の『レニ』に間違いない。
 ――それにしても、おかしい。
 ヴィルがここ宝島に訪れたのは、今から百年以上前の事の筈だ。
 にも関わらず、その時に死んだ筈の人間の遺体が、そのままの形で残っているなんて‥‥。
「‥‥水温、か?」
 深く潜れば潜るほど、水が冷たくなっていったこの水路‥‥それが水底ともなると、もはや凍て付く程になっていた。
 恐らくは、この異常な水温が彼女の遺体を腐らせる事無く、百年もの間そのままの姿を保たせ続けていたのだろう。
 ともあれ、今は仕掛けを解除する方法を探さなければ。余り長いことこんな寒い場所に居ては、それこそ彼女の二の舞になってしまう。
 鳳が水底に手を付けながら、仕掛けを探そうとした――次の瞬間。

「な‥‥っ!?」

 突然、レニの死体が彼の腕を掴んで来た。
 そのまま彼女は、掴んだ腕に噛み付いてくる――。
「くっ‥‥やはりカオスの魔物にっ‥‥!!」
 慌ててそれを振り解くと、全速力で水面へと向かう鳳。
 幸いカオスの魔物、動く死体は泳ぐ事が出来ない。このまま昇り続ければ、彼女は追って来る事が――。
「!!?」
 唐突に鳳の身体を、水底に引き戻そうとする強烈な水流が襲う。
 ――いや、違う。咄嗟に下へ目を向ければ、見えたのは微かな明かり。
 どうやら、水底のレニが動き出した拍子に何かの仕掛けが作動して、底だった部分が開きそこから水が流れ出て居る様だ。
 鳳は流れに抗う事が出来ないまま流され‥‥‥‥そして気が付けば、微かに外の明かりが入り込む開けた部屋の中へと放り出されていた。
 ――無論、レニの死体と共に。

「キャプテン!! 無事か!?」

 そこへ、部屋の隅にある階段を駆け下りて来るのは、水路の上で待たせて居た筈の仲間達‥‥どうやら水を抜く仕掛けが作動した事で同時に上の扉が開き、此処へ来る事が出来たらしい。
 彼らは諸々あって弱りきっている鳳に駆け寄ると、同時に部屋の隅で蠢いている者の姿を見て、驚き目を見開く。
 それはそうだ、ヴィルの遺志を継いで弔ってあげようとしていた遺体が、まさかそのままの姿で残っていようとは、一体誰が想像できただろう。
「‥‥へっ、それがおたくの面かい。随分な別嬪じゃねぇか」
 ふとレニの前に歩み出るのはキルゼフル。彼は懐から、以前に宝島から帰還した後のヴィルの棲家となっていた海食洞、そこを調査した際に入手した古いメダルを取り出すと、それを彼女に突き付け。
「あんたの大事な人からの伝言だ。おまえを弔わねぇと死んでも死にきれねぇとさ。さっさといって向こうで温かく迎えてやんなよ」
「‥‥」
 静寂。
 それがもし意思ある者であれば、或いは愛する夫の事を憂いていたのかも知れない。
 だが、今の彼女は最早意思どころか感情さえも持たない存在‥‥当然、差し出された腕はメダルごと振り払われ、返す手で追撃を――。

 ――ザシュッ!

「キ、キルゼん‥‥?」
「悪いが弔いに経読んだり祈りを捧げたりするのはガラじゃねぇんでね」
 次の瞬間、後ろ手に構えていた彼の槍が、レニの死体の胸を一突きに穿ち貫いていた。


「これは‥‥ヴィルさんの遺品かな?」
「多分、そうだと思うで。きっと彼は鳳れんと同じ様に水路に潜って、そのまま帰って来えへんかった妻に捧げるつもりで、身の回りの物を投げ込んだんやろね‥‥」
 水のはけた部屋の中で見付かるのは大量の金貨と、その中に混じって特殊な存在感を放つコインが数枚、そして一本のワイン。
 加えて、既に動かないようにされたレニの死体が羽織っていたコート‥‥それをレオたんは自身のバックパックに積めた。
 無論、後で弔う為である。
「けっ、それにしても‥‥自分だけ生き残ってヴィルみてぇにウジウジ余生を過ごすなんてのは、わしゃ死んでもゴメンだね」
 そんな様子を横目で見ながら、キルゼフルは先程無くしたメダルの代わりに見つけたコインを、指で高く弾き上げた。

 ――一先ずはヴィルの妻レニの遺体を見付け、手荒な方法ではあったものの弔う事に成功した冒険者達。
 だが、遺跡の最奥は未だ見えず、冒険者達の前に立ち塞がる。
 果たして、この迷宮は何処まで続くのか‥‥そして、その先では一体何が彼らを待ち構えているのか。
 それは、かつて此処に訪れたヴィルさえも知り得ぬ所。
 そう、ここから先は冒険者達が自らの力をもってして、切り拓いていかなければならないのだ。
 彼らは改めて気を引き締めると、慎重な足取りで更に奥深くへと進んで行くのであった。

●今回の参加者

 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb5778 キルゼフル(35歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●前人未到の捜索
「いよいよ未踏の地へ突入か‥‥面白ぇな、腕がなるぜ‥‥!」
 カオスの魔物と化していたヴィルの妻レニ。
 彼女の死体の残された部屋から少し戻った空間で一夜を明かした冒険者達の内キルゼフル(eb5778)は、気合も新たに武器を担ぐ。
 それは、パラと言う小柄な体躯の種族には、一般的に見合わないと思われるであろう長柄の槌。
 何故この様な武器を備えてきたかと言うと、それには理由がある。
「遺跡の入口に書かれていた『守護者』‥‥これが一体何を意味するのか、分からないからなぁ」
「けど、アルテんの封じ込められてはった遺跡で守護者言うたら、ガーゴイルやったからね。今回も同じくコンストラクトのモンスターが出て来はるんやろか?」
 レオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)やティーナに限らず、誰しもがその『守護者』の存在を気に掛けていた。
 もし彼女の言う類のモンスターと対峙した場合、特殊な技術が無い限り打撃系の武器を用いなければ効果的にダメージを与えられない、と言うのが冒険者的一般論である。
「けど、正確には『海の守護者』なんだよな‥‥これがもし海坊主だったら最悪だな」
 海坊主――ことウェイプス。
 彼等が此処宝島へと向かう航路の最中に現れ、鳳レオン(eb4286)(以下鳳)操るゴーレムシップをあわや沈めようとした怪物。
 幾ら冒険者達とは言え、その猛攻を振り切れたのは彼らの勇敢な行動と、それに幸運が伴ったが故だと思わざるを得ない。
 そんな相手と再度相まみえなければならないかも知れないとなると‥‥ゾッとする。
「けど、出て来たら出て来たで、全力で戦うしかないよ」
「ああ、ここまで来たら絶対精霊のところへ着きたい。ここまでで覚えたことをしっかりやって慎重かつ大胆にレッツゴーだな」
 テュール・ヘインツ(ea1683)の言葉に、レオたんも表情を引き締めながら大きく頷く。
 そう、此処まで来たからには、立ち止まる訳には行かない。
 何しろ宝島の『宝』の正体、それはもう目前にまで迫っているのだから。



●小穴の示すもの
「相棒さんは見つけられなかったけど、こればっかりは仕方が無いか‥‥」
 ――レニの死体の横を通り過ぎ様、呟くレオたん。
 此処まで彼らを導いてきたヴィルの遺志、それに報いるべく彼の最愛の人を弔う事には成功した。
 ‥‥けれど、彼自身を此処まで導いたという『相棒』の正体は結局分からずじまい。
 その事に、レオたんは憂いを感じている様子で――。

「ん〜、案外そうでも無いかも知れへんで?」

 ふと口を開くのはティーナ。
 その思わせ振りな口振りに、誰しもが首をかしげながら「どう言う事だ?」と尋ねるが‥‥彼女は口元に手を当てて笑みを浮かべるばかr
「良いから教えろっつぅの」
 むぎゅ〜〜〜。(←ティーナの頬の引っ張られる音)
「いひゃひゃひゃ!!? い、いやいやいや、むしろてっきり気付いてはるものとばかり思とったからッ!! こないだこの部屋で拾った物をもう一度確認してみ? そうすれば、きっと分かる筈やわ」
 ‥‥等と誤魔化し、結局彼女の口から『相棒』とやらの正体を聞く事は叶わなかった。

 気を取り直して、一同はその更に奥‥‥大海賊ヴィルでさえも踏み込んでいない空間へと、足を進めて行った。
 当然ながら、この先にはヴィルの残した道案内等の痕跡は一切無い。
 自然と、罠を警戒する一同の気も張られる。
 石像を見付けては石を投げ付け、今までの罠にあったスイッチらしき物があればそれを避け‥‥。
 その様な状態を続けていれば、自然と疲れも溜まってくる。
 結果として然程進む事の出来ない内に、一同は一旦休憩を取る事になった。
「やれやれ‥‥確かに罠は少なくなっているが、ヴィルのお陰で今までが楽過ぎたか。こんな所をあそこまで独力で進んで来れたなんて‥‥恐れ入ったな」
「そうだよね、おまけにずっと中にいると日にちの感覚が掴みにくいよ」
 テュールもはふぅ〜と大きな息を吐きながら、何気なく辺りを見回す。

「――そう言えば、さ」
 その時、彼は何かを思い出した様に口を開き。
「ティーナさんが昔は人が出入りしていた感じって言ってたけど、だとするとその人たちはどうやって罠を避けていたのかな? 目印か時間かスイッチか‥‥」
「さあな。或いは、入口近く最奥直通の裏道でもあったりしてな」
 ケラケラと笑いながら言うキルゼフル。有り得そうだが、本当にあったらあったで笑えない。
「‥‥ねぇ。これって、もしかしてそうなんじゃない?」
 そう言うテュールが指を差すのは、壁の一部‥‥彼の身長よりも少し低い位置にある、丸い穴。
「レニさんの部屋から今まで観察してきたんだけどさ、罠のありそうな場所には、必ずこれがあったんだ」
「‥‥そうだな。もしかすると、其処に鍵か何かを刺せば、仕掛けが解除されるのかも知れない」
「けど、鍵なんて持ってねぇぜ? よっ‥‥‥‥う〜ん、鍵開け道具も奥まで届かねぇし、細長いモン突っ込んでも反応無しか」
「う〜ん、でもこれは確かに怪しいんだけどなぁ――――って、ちょっと待てよ?」
 ふとここで、レオたんがある事に気付く。
「此処にその穴があるって事は、もしかしてこの場所って‥‥」

 ――ドォン!!

「!?」
 気付いた頃には、時既に遅し。
 前後の通路が唐突に分厚い石扉で塞がれてしまう。
「くそっ、閉じ込められた!!」
「アカン、早よ逃げな――っ!?」

 ぐにゃり。
 手を掛けた立方体の石の段差が唐突に歪み、倒れる様にしてその体内へと引き込まれてしまうティーナ。
「な‥‥ティーナッ!!」
 慌てて駆け寄ろうとするキルゼフル、だがその行く手を更に降り注ぐジェル状モンスターにより、阻まれてしまう。
 更には――。
「‥‥水音!? ヤバイ、これは最悪だ‥‥!!」
 今はまだ浸水こそしていないものの、いずれこの空間はジェルもろとも水に飲み込まれてしまうだろう。
 そうなる前にジェルモンスター、ゼラチナスキューブに飲み込まれてしまったティーナを助け出し、此処から脱出しなければならない。
 一同は各々武器を構え、少ない時間の中自身はどう行動すべきか、思考を巡らせた――。



●鍵
「まずはあの四角いのをどうにかしねぇとな‥‥」
「ああ、ティーナさんが何時まで持つか分からない。ここは、手前のを抜き去って――」

「一気に叩く!」「一気に潰す!」

 声と共に、飛び出すレオたんとキルゼフル。
 其処に飛び付こうとするジェルを、あるものは避け、あるものは叩き払い、またあるものは後方からの鳳の矢により射落とす。
 一直線に二人の向かう先には、ゼラチナスキューブが不気味に蠢いていて。
「! 上だよ!!」
 声と共に放たれるサンレーザーが、天井から垂れ下がるビリジアンスライムを焼き落とす。
 それをキルゼフルが擦れ違い様、懐から取り出した名刀「ソメイヨシノ」で斬り払うと、既にティーナの飲み込まれたゼラチナスキューブは目前。

「「てやあぁぁぁぁっ!!!」」

 ――ザクッ!!
 二振りの刃が、同時に立方体の左右の端を切り落とす。
 直後、振り返り様キルゼフルは手を伸ばし、ジェルの中のティーナを引っ張り出すと――。
 次ぐレオたんの連撃の前に、幾何学的な形状をしたジェル状生物は原型が分からない程粉々に飛び散った。
 そして残る敵もレオンとテュールが間も無く片付け、後は水が来る前に此処を抜け出すばかり。
「無事か、ティーナ!?」
「ゲホッ、ケホッ‥‥無事やけど〜、流石にこれは適わへん‥‥って、レオたん!? あかん、壊したらあかんて!!」
 ふと、壁にバーストアタックとスマッシュEXを合成した斬撃で穴を開けようとしていたレオたんを見て、ティーナが声を張り上げる。
 と言うのも、ここの仕掛けを止めずに無理矢理壁を壊してしまうと、他の通路にまで浸水して進む事が出来なくなってしまう、と言うのだ。
「しかし、だったら如何するんだ! このままだと全員溺死するぞ!?」
「これや! これがきっと、テュルルの見付けた穴に差し込む鍵や!!」
 ティーナが掲げるのは、錆びた金属の杖。
 それを投げ渡されたテュールは、慌てて先に見付けた小穴に差し込む――と。

 カチッ――――ゴゴゴゴゴ。

 重苦しい音と共に、ゆっくりと開く石扉。
 同時に、すぐ其処まで迫っていた水音も止んだ‥‥どうやら、仕掛けが止まった様だ。
「た、助かった‥‥」
「ああ、今回ばかりは流石に駄目かと思ったな‥‥。しかしティーナ、その鍵は何処で何時の間に拾ったんだ?」
「そんなの決まってはる。さっきのゼラチナスキューブん中にあったんや。あれは以前の犠牲者の持ち物なんかを体内に残してはる事があるからね♪」
 えっへんと胸を張るティーナ――はい、文字通り『胸』を。
 ゼラチナスキューブの酸のダメージは、身体よりも服への方が深刻だった様子で。
「‥‥テメェがちゃっかりしてんのは良く分かったから、取り敢えずこれを着とけ」
 キルゼフルに言われて初めて、自分が今どんな格好をして居るのか気付いたティーナ。大慌てで差し出された服を持って物陰に飛び込む。
 すっかりお色気担当である。(笑)
「‥‥って、ちょい待ち!! これ、いつだかのチャイナドレスっ‥‥!!」
「あー、着んのが嫌なのか? 別に破れた服のままでいたけりゃ、それでもかまわねぇぞ」
 ‥‥ティーナは一生キルゼフルに頭が上がりそうに無い。



●祀られしもの
 危機一髪の状況であったとは言え、罠を解除する為の鍵を冒険者達が手に入れた事は、大きな進歩であった。
 恐らくこの鍵こそが、かつてこの遺跡を出入りしていた者達の用いていた物に他ならないのだろう。
 これ以後冒険者達は、彼らの足を最も鈍らせていた罠の数々に悩まされる事無く、スムーズに遺跡内部を進む事が出来る様になった。

 そうして、一同が辿り着いたのは――今まで遺跡内部を探索してきた中でも、最も広大な空間。
 鍵を用いて扉が開かれれば、すぐ足下には石製の架け橋。
 それを渡った先‥‥部屋の中央部には小島の様に大きな足場があり、同じく部屋の四隅にも足場、そしてそれ以外のスペースは全て海水で満たされていた。
「何て言うか‥‥如何にも、って感じだね」
「ああ。きっと此処に精霊が‥‥いや、もしかするとこの先へ人を進ませない為に『守護者』が護っている場所なのかも知れない」
「有り得るな。此処まで『守護者』らしきものは全然見かけなかったし‥‥気を付けて行こう」
 隊列を崩さず、底の見えない足下の水場に警戒しながら架け橋を渡る一同。
 だが、中央の足場に辿り着くまで、その水面から何かが浮かび上がってくると言った事は無く‥‥。
「これは‥‥祭壇かな?」
「‥‥ああ、恐らくな。書かれているのは古代魔法語か‥‥ティーナ、読めるか?」
「ん〜、どないやろ? ちょっと待ってや」
 鳳に促されるまま、メモ用紙とペンを手に祭壇らしき台座へと歩み寄るティーナ。
 ‥‥ぱっと見た限りでも、書かれている文字の量は膨大。解読には、かなりの時間を要しそうだ。
 古代魔法語の解読は、言わば専門知識。多少でも学びが無い事には彼女の手伝いは出来そうに無いので、止む無く一同は部屋の中央の足場の上で思い思いに寛ぐ事にした。
「あれが祭壇だったとすると、いよいよ此処が終着点っぽいな」
「ああ。‥‥思えば、大陸を発ってから随分と進んできたものだ」
「そうだな。まったく、最初はどうなるかと思ったが、此処まで誰も欠けねえで来れたってのは、中々大した事じゃねぇか」
 鼻頭を掻きながら言うキルゼフルは、心底嬉しそうだ。
「‥‥そう言や、そもそも何故此処へきたかといえば、わしは浪漫やスリルが大好きだからだったかな。不治の病の誰かさんを助けたそうな甘ちゃんの女の願いは身体はって叶えてやりてぇのが漢の浪漫ってモンだろ」
「――それって」
「へん、別に何でもねぇよ。それより、折角ここまで来れたんだ。これで精霊が出て来なかったりしたら、暴動モンだぜ?」
「‥‥確かにそれもあるけど、でも精霊って言っても全部が全部人間に友好的とは限らないよ。特に今回の僕達の行動からして、侵入者としか見られていないかも――」

 ザパァッ!!

「!?」
 唐突に、部屋の左側の水場で立ち上る水柱。
 かと思えば、今度は右へ、次は左へ、また右へ、左へ‥‥。
 そして、最後に祭壇の正面で一際盛大に水が跳ね上がったと思うと、そこから現れたのは――巨大な鮫。
 ‥‥いや、違う。鮫の身体を持ちながらその頭部は明らかに虎の物で、更には水柱から飛び出たまま宙を舞っている。
「ま、まさかこれは‥‥‥っ!?」
「な、何だ!? 知ってるのか、ティーナ!?」
 ザパァン!! と、盛大な水飛沫を上げながら水中へと戻って行く怪物を見据えるティーナの顔に浮かんで居るのは、明らかな戦慄。
「ア‥‥アドゥールや! 水の高位精霊で、海の守護者とも呼ばれてはる‥‥!」
「海の守護者‥‥そうか、それじゃあこいつが、この宝島の‥‥!」
 広間の右の水面にその姿が映ると、意を決して其方へ駆け寄る鳳。そして。
「精霊の瞳を守護している者か? この世界が精霊の瞳を必要としているんだ。頼む、渡して――ッ!?」

 ドパァッ!!

 直後、水面から飛び上がった水球が、鳳を襲った。
 水の精霊魔法、ウォーターボムである。
 威嚇攻撃だった為か、威力こそ大した事は無かったが――
「‥‥どうやら、テュールさんの言う通り。おいら達は精霊様に歓迎されていないみたいだな‥‥」
「ああ。あっちがその気なら、やるしかねぇだろ‥‥!」
 まるで獲物を見定めているかの様に、部屋の水場をグルグルと回遊するアドゥール。
 水面に映えるその姿を見据えながら‥‥一同は、武器を構える。
 果たして、高位の精霊と戦って、勝ち目などあるのだろうか――。


「――来るでッ!!」