●リプレイ本文
●前人未到の捜索
「いよいよ未踏の地へ突入か‥‥面白ぇな、腕がなるぜ‥‥!」
カオスの魔物と化していたヴィルの妻レニ。
彼女の死体の残された部屋から少し戻った空間で一夜を明かした冒険者達の内キルゼフル(eb5778)は、気合も新たに武器を担ぐ。
それは、パラと言う小柄な体躯の種族には、一般的に見合わないと思われるであろう長柄の槌。
何故この様な武器を備えてきたかと言うと、それには理由がある。
「遺跡の入口に書かれていた『守護者』‥‥これが一体何を意味するのか、分からないからなぁ」
「けど、アルテんの封じ込められてはった遺跡で守護者言うたら、ガーゴイルやったからね。今回も同じくコンストラクトのモンスターが出て来はるんやろか?」
レオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)やティーナに限らず、誰しもがその『守護者』の存在を気に掛けていた。
もし彼女の言う類のモンスターと対峙した場合、特殊な技術が無い限り打撃系の武器を用いなければ効果的にダメージを与えられない、と言うのが冒険者的一般論である。
「けど、正確には『海の守護者』なんだよな‥‥これがもし海坊主だったら最悪だな」
海坊主――ことウェイプス。
彼等が此処宝島へと向かう航路の最中に現れ、鳳レオン(eb4286)(以下鳳)操るゴーレムシップをあわや沈めようとした怪物。
幾ら冒険者達とは言え、その猛攻を振り切れたのは彼らの勇敢な行動と、それに幸運が伴ったが故だと思わざるを得ない。
そんな相手と再度相まみえなければならないかも知れないとなると‥‥ゾッとする。
「けど、出て来たら出て来たで、全力で戦うしかないよ」
「ああ、ここまで来たら絶対精霊のところへ着きたい。ここまでで覚えたことをしっかりやって慎重かつ大胆にレッツゴーだな」
テュール・ヘインツ(ea1683)の言葉に、レオたんも表情を引き締めながら大きく頷く。
そう、此処まで来たからには、立ち止まる訳には行かない。
何しろ宝島の『宝』の正体、それはもう目前にまで迫っているのだから。
●小穴の示すもの
「相棒さんは見つけられなかったけど、こればっかりは仕方が無いか‥‥」
――レニの死体の横を通り過ぎ様、呟くレオたん。
此処まで彼らを導いてきたヴィルの遺志、それに報いるべく彼の最愛の人を弔う事には成功した。
‥‥けれど、彼自身を此処まで導いたという『相棒』の正体は結局分からずじまい。
その事に、レオたんは憂いを感じている様子で――。
「ん〜、案外そうでも無いかも知れへんで?」
ふと口を開くのはティーナ。
その思わせ振りな口振りに、誰しもが首をかしげながら「どう言う事だ?」と尋ねるが‥‥彼女は口元に手を当てて笑みを浮かべるばかr
「良いから教えろっつぅの」
むぎゅ〜〜〜。(←ティーナの頬の引っ張られる音)
「いひゃひゃひゃ!!? い、いやいやいや、むしろてっきり気付いてはるものとばかり思とったからッ!! こないだこの部屋で拾った物をもう一度確認してみ? そうすれば、きっと分かる筈やわ」
‥‥等と誤魔化し、結局彼女の口から『相棒』とやらの正体を聞く事は叶わなかった。
気を取り直して、一同はその更に奥‥‥大海賊ヴィルでさえも踏み込んでいない空間へと、足を進めて行った。
当然ながら、この先にはヴィルの残した道案内等の痕跡は一切無い。
自然と、罠を警戒する一同の気も張られる。
石像を見付けては石を投げ付け、今までの罠にあったスイッチらしき物があればそれを避け‥‥。
その様な状態を続けていれば、自然と疲れも溜まってくる。
結果として然程進む事の出来ない内に、一同は一旦休憩を取る事になった。
「やれやれ‥‥確かに罠は少なくなっているが、ヴィルのお陰で今までが楽過ぎたか。こんな所をあそこまで独力で進んで来れたなんて‥‥恐れ入ったな」
「そうだよね、おまけにずっと中にいると日にちの感覚が掴みにくいよ」
テュールもはふぅ〜と大きな息を吐きながら、何気なく辺りを見回す。
「――そう言えば、さ」
その時、彼は何かを思い出した様に口を開き。
「ティーナさんが昔は人が出入りしていた感じって言ってたけど、だとするとその人たちはどうやって罠を避けていたのかな? 目印か時間かスイッチか‥‥」
「さあな。或いは、入口近く最奥直通の裏道でもあったりしてな」
ケラケラと笑いながら言うキルゼフル。有り得そうだが、本当にあったらあったで笑えない。
「‥‥ねぇ。これって、もしかしてそうなんじゃない?」
そう言うテュールが指を差すのは、壁の一部‥‥彼の身長よりも少し低い位置にある、丸い穴。
「レニさんの部屋から今まで観察してきたんだけどさ、罠のありそうな場所には、必ずこれがあったんだ」
「‥‥そうだな。もしかすると、其処に鍵か何かを刺せば、仕掛けが解除されるのかも知れない」
「けど、鍵なんて持ってねぇぜ? よっ‥‥‥‥う〜ん、鍵開け道具も奥まで届かねぇし、細長いモン突っ込んでも反応無しか」
「う〜ん、でもこれは確かに怪しいんだけどなぁ――――って、ちょっと待てよ?」
ふとここで、レオたんがある事に気付く。
「此処にその穴があるって事は、もしかしてこの場所って‥‥」
――ドォン!!
「!?」
気付いた頃には、時既に遅し。
前後の通路が唐突に分厚い石扉で塞がれてしまう。
「くそっ、閉じ込められた!!」
「アカン、早よ逃げな――っ!?」
ぐにゃり。
手を掛けた立方体の石の段差が唐突に歪み、倒れる様にしてその体内へと引き込まれてしまうティーナ。
「な‥‥ティーナッ!!」
慌てて駆け寄ろうとするキルゼフル、だがその行く手を更に降り注ぐジェル状モンスターにより、阻まれてしまう。
更には――。
「‥‥水音!? ヤバイ、これは最悪だ‥‥!!」
今はまだ浸水こそしていないものの、いずれこの空間はジェルもろとも水に飲み込まれてしまうだろう。
そうなる前にジェルモンスター、ゼラチナスキューブに飲み込まれてしまったティーナを助け出し、此処から脱出しなければならない。
一同は各々武器を構え、少ない時間の中自身はどう行動すべきか、思考を巡らせた――。
●鍵
「まずはあの四角いのをどうにかしねぇとな‥‥」
「ああ、ティーナさんが何時まで持つか分からない。ここは、手前のを抜き去って――」
「一気に叩く!」「一気に潰す!」
声と共に、飛び出すレオたんとキルゼフル。
其処に飛び付こうとするジェルを、あるものは避け、あるものは叩き払い、またあるものは後方からの鳳の矢により射落とす。
一直線に二人の向かう先には、ゼラチナスキューブが不気味に蠢いていて。
「! 上だよ!!」
声と共に放たれるサンレーザーが、天井から垂れ下がるビリジアンスライムを焼き落とす。
それをキルゼフルが擦れ違い様、懐から取り出した名刀「ソメイヨシノ」で斬り払うと、既にティーナの飲み込まれたゼラチナスキューブは目前。
「「てやあぁぁぁぁっ!!!」」
――ザクッ!!
二振りの刃が、同時に立方体の左右の端を切り落とす。
直後、振り返り様キルゼフルは手を伸ばし、ジェルの中のティーナを引っ張り出すと――。
次ぐレオたんの連撃の前に、幾何学的な形状をしたジェル状生物は原型が分からない程粉々に飛び散った。
そして残る敵もレオンとテュールが間も無く片付け、後は水が来る前に此処を抜け出すばかり。
「無事か、ティーナ!?」
「ゲホッ、ケホッ‥‥無事やけど〜、流石にこれは適わへん‥‥って、レオたん!? あかん、壊したらあかんて!!」
ふと、壁にバーストアタックとスマッシュEXを合成した斬撃で穴を開けようとしていたレオたんを見て、ティーナが声を張り上げる。
と言うのも、ここの仕掛けを止めずに無理矢理壁を壊してしまうと、他の通路にまで浸水して進む事が出来なくなってしまう、と言うのだ。
「しかし、だったら如何するんだ! このままだと全員溺死するぞ!?」
「これや! これがきっと、テュルルの見付けた穴に差し込む鍵や!!」
ティーナが掲げるのは、錆びた金属の杖。
それを投げ渡されたテュールは、慌てて先に見付けた小穴に差し込む――と。
カチッ――――ゴゴゴゴゴ。
重苦しい音と共に、ゆっくりと開く石扉。
同時に、すぐ其処まで迫っていた水音も止んだ‥‥どうやら、仕掛けが止まった様だ。
「た、助かった‥‥」
「ああ、今回ばかりは流石に駄目かと思ったな‥‥。しかしティーナ、その鍵は何処で何時の間に拾ったんだ?」
「そんなの決まってはる。さっきのゼラチナスキューブん中にあったんや。あれは以前の犠牲者の持ち物なんかを体内に残してはる事があるからね♪」
えっへんと胸を張るティーナ――はい、文字通り『胸』を。
ゼラチナスキューブの酸のダメージは、身体よりも服への方が深刻だった様子で。
「‥‥テメェがちゃっかりしてんのは良く分かったから、取り敢えずこれを着とけ」
キルゼフルに言われて初めて、自分が今どんな格好をして居るのか気付いたティーナ。大慌てで差し出された服を持って物陰に飛び込む。
すっかりお色気担当である。(笑)
「‥‥って、ちょい待ち!! これ、いつだかのチャイナドレスっ‥‥!!」
「あー、着んのが嫌なのか? 別に破れた服のままでいたけりゃ、それでもかまわねぇぞ」
‥‥ティーナは一生キルゼフルに頭が上がりそうに無い。
●祀られしもの
危機一髪の状況であったとは言え、罠を解除する為の鍵を冒険者達が手に入れた事は、大きな進歩であった。
恐らくこの鍵こそが、かつてこの遺跡を出入りしていた者達の用いていた物に他ならないのだろう。
これ以後冒険者達は、彼らの足を最も鈍らせていた罠の数々に悩まされる事無く、スムーズに遺跡内部を進む事が出来る様になった。
そうして、一同が辿り着いたのは――今まで遺跡内部を探索してきた中でも、最も広大な空間。
鍵を用いて扉が開かれれば、すぐ足下には石製の架け橋。
それを渡った先‥‥部屋の中央部には小島の様に大きな足場があり、同じく部屋の四隅にも足場、そしてそれ以外のスペースは全て海水で満たされていた。
「何て言うか‥‥如何にも、って感じだね」
「ああ。きっと此処に精霊が‥‥いや、もしかするとこの先へ人を進ませない為に『守護者』が護っている場所なのかも知れない」
「有り得るな。此処まで『守護者』らしきものは全然見かけなかったし‥‥気を付けて行こう」
隊列を崩さず、底の見えない足下の水場に警戒しながら架け橋を渡る一同。
だが、中央の足場に辿り着くまで、その水面から何かが浮かび上がってくると言った事は無く‥‥。
「これは‥‥祭壇かな?」
「‥‥ああ、恐らくな。書かれているのは古代魔法語か‥‥ティーナ、読めるか?」
「ん〜、どないやろ? ちょっと待ってや」
鳳に促されるまま、メモ用紙とペンを手に祭壇らしき台座へと歩み寄るティーナ。
‥‥ぱっと見た限りでも、書かれている文字の量は膨大。解読には、かなりの時間を要しそうだ。
古代魔法語の解読は、言わば専門知識。多少でも学びが無い事には彼女の手伝いは出来そうに無いので、止む無く一同は部屋の中央の足場の上で思い思いに寛ぐ事にした。
「あれが祭壇だったとすると、いよいよ此処が終着点っぽいな」
「ああ。‥‥思えば、大陸を発ってから随分と進んできたものだ」
「そうだな。まったく、最初はどうなるかと思ったが、此処まで誰も欠けねえで来れたってのは、中々大した事じゃねぇか」
鼻頭を掻きながら言うキルゼフルは、心底嬉しそうだ。
「‥‥そう言や、そもそも何故此処へきたかといえば、わしは浪漫やスリルが大好きだからだったかな。不治の病の誰かさんを助けたそうな甘ちゃんの女の願いは身体はって叶えてやりてぇのが漢の浪漫ってモンだろ」
「――それって」
「へん、別に何でもねぇよ。それより、折角ここまで来れたんだ。これで精霊が出て来なかったりしたら、暴動モンだぜ?」
「‥‥確かにそれもあるけど、でも精霊って言っても全部が全部人間に友好的とは限らないよ。特に今回の僕達の行動からして、侵入者としか見られていないかも――」
ザパァッ!!
「!?」
唐突に、部屋の左側の水場で立ち上る水柱。
かと思えば、今度は右へ、次は左へ、また右へ、左へ‥‥。
そして、最後に祭壇の正面で一際盛大に水が跳ね上がったと思うと、そこから現れたのは――巨大な鮫。
‥‥いや、違う。鮫の身体を持ちながらその頭部は明らかに虎の物で、更には水柱から飛び出たまま宙を舞っている。
「ま、まさかこれは‥‥‥っ!?」
「な、何だ!? 知ってるのか、ティーナ!?」
ザパァン!! と、盛大な水飛沫を上げながら水中へと戻って行く怪物を見据えるティーナの顔に浮かんで居るのは、明らかな戦慄。
「ア‥‥アドゥールや! 水の高位精霊で、海の守護者とも呼ばれてはる‥‥!」
「海の守護者‥‥そうか、それじゃあこいつが、この宝島の‥‥!」
広間の右の水面にその姿が映ると、意を決して其方へ駆け寄る鳳。そして。
「精霊の瞳を守護している者か? この世界が精霊の瞳を必要としているんだ。頼む、渡して――ッ!?」
ドパァッ!!
直後、水面から飛び上がった水球が、鳳を襲った。
水の精霊魔法、ウォーターボムである。
威嚇攻撃だった為か、威力こそ大した事は無かったが――
「‥‥どうやら、テュールさんの言う通り。おいら達は精霊様に歓迎されていないみたいだな‥‥」
「ああ。あっちがその気なら、やるしかねぇだろ‥‥!」
まるで獲物を見定めているかの様に、部屋の水場をグルグルと回遊するアドゥール。
水面に映えるその姿を見据えながら‥‥一同は、武器を構える。
果たして、高位の精霊と戦って、勝ち目などあるのだろうか――。
「――来るでッ!!」