【レッツ宝探しっ!】海の秘宝

■キャンペーンシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月14日〜04月19日

リプレイ公開日:2009年02月22日

●オープニング(第2話リプレイ)

●宝島へ第一歩
「ふぅ‥‥やっと島にたどり着けたか」
 入り江に停泊しているのは、冒険者達のゴーレムシップ。
 その船室から出てくるや鳳レオン(eb4286)(以下鳳)は、甲板に立つと朝方の新鮮な空気をたっぷり吸い込みながら、感慨深げに呟く。
 眼前に広がるのは、島全体を覆い尽くさんばかりの広大な密林――そしてその中央からぴょこんと頭を出している岩山。
 この地形は、大海賊ヴィルの手記に残された情報通り。
 どうやら、此処こそが彼らの捜し求めた『宝島』に間違い無さそうだ。
「この前は気絶なんてしちゃってあんまり役に立てなかったからね。今度こそ頑張るぞー」
 そんな鳳の横から、意気揚々と歩み出てくるテュール・ヘインツ(ea1683)。
 そして指示されるままに、遠見の魔法テレスコープを唱え始めた。
 航海の際にも物見を務め、道標のない大海原において一同の目鼻となった彼に任せておけば、今回も安泰であろうと誰しもが思う所。
 そんな期待を知ってか知らずか――。

「んーと‥‥その遺跡の入口って、岩場の高台の一番上にあるのかな?」
「え? さあ、どないやろ? ヴィルはそない詳しい位置までは書いてへんかったけど‥‥」
「じゃあ、その形や外装とかは? もしかして、虎っぽい動物が口を開けている様な感じだったりとかしないかな?」
 矢継ぎ早に掛けられる質問に、ティーナは慌てて手記を見返す。
「え〜〜と‥‥‥‥うん、外見はそうみたいやね。まるでセトタからこの島に近付こうとする船を見張っているかの様に、恐ろしい形相を西北西に向けてはるって‥‥‥‥え?」
「おい、テュール。お前、まさか‥‥」
 キルゼフル(eb5778)が恐る恐ると言った感じに尋ねれば、テュールの表情は見る見る内に満面の笑みを浮かべて。
「だったら、『あれ』に間違いないよ! テレスコープ使ってないと見えにくいけど、それっぽい人工物は確かに岩山の頂上にあるよ!」
「そ、そうか。思いの外あっさり見付かっちゃったな」
 レオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)が苦笑交じりに呟けば、他の仲間達も一気に気が抜けたらしく、微妙な表情で小刻みに首を縦に揺らしていた。
「けど、問題はあそこまでどうやって辿り着くか、だな」
「そうだね。ティーナさんの話を聞く限り、つまりとにかくなんでもジャイアントみたいだし‥‥」
「ああ、無事に遺跡まで辿り着く為には、出来るだけ安全な道を選んで通る他無いな。‥‥それにしても、この島に巨大生物が多いと言うのは、これも『精霊の瞳』の影響なんだろうか」
「どうだかな。そもそも巨大生物に限らず、『精霊様』ってのが俺達を歓迎してくれているか分からねぇ。いや、前のウェイプスやらを見た限りだと、どうも嫌われちまってる様にさえも思えるな。‥‥勿論、精霊に会ったら最大限の礼を尽くすつもりじゃあるが、相手の出方次第では‥‥」
 ――全力でぶっ潰す。
 キルゼフルの言葉に、ゴクリと生唾を飲み込む一同。
 そう、例え相手がもし高位の精霊であったところで、敵意を示して来る様であれば立ち向わなければならない。
 その決意を改めて問われ、顔に迷いの色を浮かべるのは‥‥この中では唯一アトランティス生まれのティーナのみ。
 そんな彼女の心の内に気付かないまま、キルゼフルは花霞と言う名の香水を投げ渡し。
「はぐれた時とか目印代わりに香水使え。匂いでレラが追跡できるからよ」
 言いながら、傍らに擦り寄る忍犬の頭を撫でる。ちなみに言うと、そんな彼の愛犬レラは雌らしい。

 ともあれ、いざ出発せんと一同が宝島の大地に降り立った――直後。
 ふと、レオたんが口を開く。
「あ、遺跡に向かう前にさ‥‥ちょっと立寄りたい所があるんだけど、良いかな?」



●残骸
 漁師としての経験上から生態を知り尽くしたレオたんの案内で、海辺の巨大生物との遭遇を避けつつ、一同が辿り着いたのは‥‥船の停泊している入り江に程近い、見晴らしの良い岬だった。
 その崖下に、促されるまま視線を向ければ――。
「あれは‥‥船の残骸か?」
 鳳の言葉に、小さく頷くレオたん。
「今朝早く、散歩がてら見回りをした時に見付けたんだ。あれって多分‥‥」
「ヴィルの船‥‥アドゥール号やね」
 ティーナの言葉に、目を伏せる一同。
 船舶に詳しい鳳でなければ恐らくはそれとは分らない程に朽ち切った木片達は、風に揺られてカタカタと音を立てている。
 かつてこの宝島に降り立ち、そして全てを失った大海賊ヴィル・ハーベスト‥‥まるで、そんな彼とシムの海を巡った日々を思い起こし懐かしみ、泣声を上げているかの様に哀しげに。

「お、おい、レオン!?」

 ふと、岩を跳び移りつつその残骸に近付くレオたん。
 仲間達は慌てたが、そんな彼が拾い上げ、抱えて来た物を見るや、その意図を察して目を見開く。
 ――それは、大きく『アドゥール号』と記されたプレート。
 セトタ語の読めないレオたんでも、これがかつてどの様な役割を務めていた物だったのか‥‥容易に想像出来た。
「これだけでも‥‥何とか弔ってやれないかな? ヴィルの手記を頼りにここまで来たおいら達が、彼の想いに報いる為、って事でさ‥‥」
 彼の提案に、無論異を唱える者が居る筈も無く――。

 かくしてバックパックにヴィルの遺志と言う重みを感じながら、一同はいざ目前に広がる密林へと足を踏み入れて行った。



●一大スペクタクル?
「たく、何食ったらそこまでデカくなりやがんだ‥‥イチイチ相手してたらキリがねぇぜ!」

 ズバッ!

 深い森の中に何度目とも知れない断末魔が響き渡ると、周囲の動物達は本能的に敵わないと察したか、一斉に散らばって行く。
 森林に関する土地勘を持ち合わせた鳳とティーナの案内の元、迷う事無く真っ直ぐ遺跡のある高台へと向かっていた一同。
 ‥‥だがしかし、二人ともやはり動物達との遭遇を完全に免れ得る程の知識は持ち合わせておらず、故にここに至るまでもかなりの数の巨大生物を相手にして来ていた。
 それでも無事に乗り切れていると言うのは、やはり一同の戦力とそれを生かす為の効果的な役割分担があってこそだろう。
「うーん、それにしてもティーナさんの香水はちょっと失敗だったかも。さっきのエイプなんかは、その匂いに釣られて寄って来たって感じだったし‥‥」
「だな‥‥いや、すまねぇ。はぐれた時には効果的かと思ったんだが‥‥」
「良えって良えって。この匂い、ウチ嫌いじゃないし」
 キルゼフルに渡されたリカバーポーションを呑みながら、ティーナはけらけらと笑みを浮かべる。
「しかし、そのまま森の中を歩くのは危険だな。この辺りの植生を鑑みるに、近くに泉がある筈だ。そこで匂いを落として行った方が良いかも知れないな」
「‥‥え゙? せ、せやかて、まだ冬の盛りやで? いくらこの森ん中が暖かい言うても、流石に‥‥」
 鳳の提案に、途端にしどろもどろになりながら反論するティーナ。
 ‥‥その顔が真っ赤な辺り、寒いからという以上の理由があるらしく。
 そんな彼女の意図を察し、「ははーん」と呟きながら口元を吊り上げるキルゼフルは。
「大丈夫だ、防寒具なら有り余ってるしな。『この前』ん時みたく着換えを持ってこなかったんは残念だが、背に腹は代えられねぇだろ」
「っ‥‥キ、キルゼんっ!?」
 カラカラと愉快そうな笑い声を上げる彼に対し、ティーナは耳まで真っ赤になっていて‥‥そして傍らのレオたんは何やらどんよりと影を背負い、そんな彼らの様子を鳳は乾いた笑みを浮かべながら眺めていた。
「‥‥? 『この前』?」
「わーーーーーーーっ!?!? な、何でも、何でも無いんよっ!?!?」
 唯一人、事情を知らないテュールだけは首を傾げていたが‥‥まあまさしく、天界で曰く『知らぬが華』と言った所であろうか。

 ともあれ、そんなじゃれ合いを経て、確かにこのまま香水の匂いを付けて森を歩くのは危険だと判断したティーナは、渋々ながら泉で水浴びをする事にした。
「‥‥まあ、ティーナも女性だからな。覗こうとしたら、凍らせるからな?」
「分かってるって。‥‥ちっ、折角例の貴族向けに良い土産話が出来ると思ったんだがな‥‥」
「何か言ったか?」
「いや、別に」
 木々の向こうで聞こえる水音から意識を逸らす様にしながら、思い思いに視線を泳がせる男性陣。
 その中で、ふと口を開くのはテュール。
「‥‥そう言えばさ、ヴィルさんの仲間の成れの果てとかが出てくるかと思ったんだけど‥‥今の所、見当たらないね?」
「ああ、確かに。いや、今まで出会ってきた動物達のサイズから考えると、もしかして‥‥」
「アンデッドとなる前に、食われちまった、か? ‥‥死体ごとな」
 有り得なくは無い話である。
 何しろ、現れるのはどれもこれも規格外な大きさの動物達ばかり。そんな彼らの繰り広げる生存競争の只中へ、無闇に人間が飛び込んだりすれば‥‥文字通り、骨も残らないだろう。
 ふと一同が沈痛な面持ちで顔を俯ける――と。

「キャアアァァーーー!?!?」

 ふと聞こえてくる悲鳴に、思わず肩を震わせる。
「‥‥ティーナさんの声だ!」
「しまった、やはり目を離すべきじゃなかったか!」
 慌てて武器を取り、木々を掻き分け泉に赴くと――。
 一同の眼前に現れたのは、畔で腰を抜かしながら身を震わせているティーナの姿。
 そんな彼女の視線の先を追ってみると‥‥泉の中に、白い何かが浮かび上がっていた。
 それを、キルゼフルが摘み上げてみれば――。
「‥‥これって、もしかして‥‥」
「ああ、白骨死体だ。それも、人間の‥‥」
「って事は、ヴィルの仲間のモンだな。‥‥死体が残ってただけ運が良かった、ってトコか」
「ち、ち‥‥ちっとも良うないわっ!! お陰でこちとら水浴びするどころじゃ――――」

 よくよく一同が視線を向けてみれば、ティーナは一糸纏わぬ姿のまま。
 ――時が止まった。

「‥‥‥‥キャアアァァーーー!?!?」

 ‥‥この後、彼女の悲鳴に釣られた動物達の相手をしなければならなくなった事は、言うまでも無い。



●辿り着いたるは
「やれやれ‥‥漸く到着か」
「ここ数日だけで、一生分戦った気がするよ‥‥」
 船上からテュールの見た遺跡の入口、其処に辿り着いた一同の表情には、見るからに疲労の色が浮かんでいた。
 大抵の敵はレオたんの一刀の前に手も足も出ず、お陰で被害は余りなかったのだが‥‥それでもその後の足場の悪い岩山登りは大分堪えたらしく、おまけに道中のトラブル以来ずっと不貞腐れていたティーナの機嫌を取ったりもしていた為、誰しもが心身ともに磨耗しきっている状態になっていて。
「まあ、一先ず遺跡に入るのは、昨晩野宿した洞窟で休んでからでも遅くないだろう。それに、調べておきたい事もあるしな」
 言いながら、虎の様な動物の顔を模した石造りの建造物、その周囲を念入りに調べ始める鳳。
 ――それから暫くして、壁面に刻まれた文字らしきものを発見した彼は、仲間達の方に向き返った。
「‥‥あったぞ。ティーナ、読めるか?」
「うん、これは古代魔法語やね。掠れてはいるけど、取り敢えず読み取れるんは‥‥‥‥ええと、『海』『守護者』‥‥それにちょっと飛んで『災い』?」
「何だそりゃ? 海の守護者が災いを齎すってぇ事か?」
「さぁな‥‥それかもしくは、以前のアルテイラの封じられていた遺跡みたいに、守護者が居ると言う可能性もあるか?」
「何にしても、一度戻ってから考えようよ。ヴィルさんの手記にも、何か手がかりが残されているかも知れないしさ」
 テュールに促されるまま、一先ず洞窟へと引き返して行く一同。
 そう、今回の目的地であった遺跡には、誰一人として欠く事無く、無事に辿り着く事ができた。
 その内部を調べるのは、また綿密に作戦を練った上で良いのだ。


 ――その夜。
 煌々と輝くランタンの光の下、ティーナの口から語られるのは、ヴィルの遺した手記‥‥その遺跡内部に関する内容。
『島の中央に聳える岩山を登りきった俺達は、そこにあった悪趣味な建造物の内部へと足を踏み入れて行った。
 中は人が居なくなってから久しく、既に廃墟と言える様な状態になっていて、足場が悪いばかりか潮の満ち引きで構造まで変わる‥‥まったく、性質の悪い大迷宮だったぜ。
 仲間達はどっかの部屋に取り残されて満ち潮に呑まれたり、迷ってそのまま帰って来れなくなったりと、ここでもどんどん数を減らして行った。
 そんな中、一度はぐれたレニとまた会う事が出来たのは、奇跡と言う他ねえ。
 ‥‥この遺跡に辿り着けたってんなら、折り入って頼みがある。
 此処のどっかに、俺のこの世で何よりも大切にしていた物が二つ、取り残されている筈だ。
 一つは、俺を護り続けてきた相棒。そしてもう一つは、俺を支え続けてきた愛する妻。
 俺はその両方を‥‥此処で手放しちまった。
 頼む、どうかそれらを見付け出し‥‥そして、お前なりのやり方で、弔って欲しい。
 でなければ俺は、死んでも死に切れねえ‥‥』

●今回の参加者

 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb5778 キルゼフル(35歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●地雷?
「やっと遺跡か‥‥これからが本番だな。気を引き締めよう」
 野営中の洞窟の中、広げられたヴィルの手記を前に声を響かせるのは鳳レオン(eb4286)(以下鳳)。
「ああ、いよいよ正念場だからな。気合い入れてくぜ‥‥‥‥って、どうしたテュール?」
「え? あ、いや、その‥‥な、何でもないよ」
 キルゼフル(eb5778)が尋ねれば、テュール・ヘインツ(ea1683)は恥かしげに顔を俯ける。
「何でもない言うても‥‥顔真っ赤やん。大丈夫、風邪でもひいたんや――」
「ほ、本当に大丈夫だから、気にしないで下さい!」
 ティーナが覗き込めば、慌てて距離を取るテュール。
(「女の人の裸なんて見るの初めてだったから、この前のはびっくりしちゃったな‥‥」)
 ‥‥うん、間違っても本心は口に出せない。人それを、天界的に『地雷』と呼ぶ。

 そんな彼の様子に一同は首を傾げながら――キルゼフルだけは何やらニヤニヤしているが――ともあれ今一度ヴィルの手記へと目を戻す。
「これによると、潮の満ち引きによって構造が変わるらしい。これが迷宮の中で水没する地域があるって意味なら、水の魔法とティーナに予め渡しておいた分水珠が役に立つな」
「うん、もしくは満ち潮になると水圧を利用してスイッチが作動する、なんて仕掛けもあるかも知れないな。そんな罠で閉じ込められたら絶望的だし、出来るだけ引き潮の時間を見計らって入ろう」
「目に見える罠ならわしが解除すっけど、そう言うのは流石にお手上げだかんな‥‥。頼んだぜ、お二人さんよ」
 キルゼフルが海の知識、経験共に豊富な鳳とレオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)の肩を叩けば、二人は大きく頷く。
 ――と、そこでレオたんがふと口を開き。
「‥‥そう言えば、ヴィルの奥さんの持ち物とかについての記述って、この手記にはなかったのかな? もう生前の姿なんて分からないだろうから、弔おうにも判別できる何かがないと難しそうだし‥‥」
「へ!? あ、ああー、そないもんは無かった思うでー?」
 途端に余所を見ながら、口笛を吹き始めるティーナ。
 ‥‥怪しい。
「――ほう、ヴィルってのの妻の名前は『レニ』‥‥道案内の間にも何度か出て来た名前だな。そいつは水に浮きやすい上質なコートをヴィルから贈られていた他、ワインが大好きで‥‥」
「‥‥って、キルゼん!? な、何勝手に人のメモをスッてはるん!!」
「がははは、ガードが甘いぜ。って言うかそもそも、てめぇはヴィルの遺品を独り占めする気だったんだろが!」
「え、あ、いや、そないことは‥‥‥アッー!!」

 まあ、おいといて。
 ティーナが隠し持っていたメモの内容から、ヴィルの妻『レニ』が当初どの様な格好をしていたか大体把握できた。
 後は、もし彼女の遺体を見付ける事が出来た場合‥‥。
「弔いは遺品を持ち帰って、全部終わったらヴィルさんの手記と一緒に埋めるか燃やすって辺りでどうかな? ‥‥ヴィルさんは海賊だけど、海に生きた男の願いを叶えてやりたいんだ」
「そうだな‥‥それが彼の無念に報いてやる事にもなるだろう」
 悲しげに手記に目を落とす一同――無論、反対する者は居ない。(ティーナを除く)
 かくして、準備も万端に、一同は遺跡内部へと足を踏み入れていくのであった。



●水の大迷宮
『船長、何をしているの?』
『ん‥‥水の音を聞いてるのさ。こうして壁に耳を当てて‥‥ああ、この先に大量の水が流れてる。ここは罠だな、となるとさっきの道を‥‥? どうかしたか?』
『ううん、そんなのでよく分かるなって。私が耳を澄ましても、水の音さえ聞こえないのに‥‥』
『そりゃ、伊達に大海賊の名を張ってねえからな。こんな構造の遺跡だって、今までに幾つ荒らしてきたか知れねぇ』
『ふふ‥‥その言葉は本当なのかしら?』
『さあな。だが、少なくともこの先に進めねえ事だけは確かだ。野郎共、また水に呑まれたく無けりゃ、さっさと引き返すぞ!!』


 ――――。


「‥‥この先は罠、だそうだね」
 狭い通路を進む冒険者達、その中のテュールが石床に刻まれた文字をなぞりながら言う。
 遺跡の入口を潜った一同を迎えたのは、地下空間へと続く長い長い階段。
 そこを下ると、今度は段々と空間が開けてきて‥‥そして気が付けば、幾つあるとも知れない分かれ道によって作り上げられた大迷宮へと迷い込んでしまっていたのだ。
 途方に暮れた一同を導いたのが、他ならぬテュール。彼は遺跡に入る前から「あったら良いな」程度のつもりで、ヴィルの遺した道標を探すつもりで居たのだが‥‥これが的中、構造的罠があるらしき空間を避け、一同は恙無く迷宮を進む事が出来ていた。
「それに、段々どんな所に罠があるかも分かって来た。万一の事故を防ぐ為か、正しい通路には所々に排水溝があるけれど‥‥間違った道には無い。しかも大分老朽化が進んでいるからか、そう言った所は水漏れしてて足場も悪いからな」
「ああ、おまけにそれさえ分かっちまえば、後ブービートラップらしき物は殆ど見当たんねぇからな。こいつぁ思ったよりも楽に突破できちまったりしてな」
「‥‥ああ、これで正しい道さえ分ればな」
 そう言う鳳の表情は、疲れ気味。
 と言うのも、ヴィルの残した道標で罠を回避出来て居るのは良いが‥‥それは、決して正しい道程を示すものではなかったのだ。
 つまりは、ヴィル達も迷っていたらしく、同じ所をグルグルと回るばかりで。
「あー、もうしんどー‥‥」
 とうとうティーナが、音を上げて座り込んでしまった。
「そうだね、僕も流石に疲れたな‥‥ちょっと休憩しよっか。キルさん、ここまでで良い場所は無かったかな?」
「ああ、そんなら少し戻った所の階段付近が良いだろな。確認したが、あそこなら罠なんかも特に無さそうだ」
「しかし、出来れば干潮の今の内に進めるだけ進んでおきたいな。何しろ満潮と干潮の間は6時間もある。無理せず進めるならいいが、間に合わなかった時に6時間待ちはキツイ」
「それは一理あるな。けど、疲れて集中力を欠いた状態で探索って言うのも危ないし‥‥」
「此処は一旦休んだ方が良いよ。ね?」
 結局相談の末、最初に降りてきた階段付近で小休止を入れる事にした一同。
 だがしかし、こんな陽精霊の光も届かない空間を延々と気を張って歩き続けていた為か、皆が皆心身ともに疲れ切っていた様子で‥‥‥‥‥気が付くと。

「恐らくは今、外は夜‥‥ちょうど満潮の時間だな」
「ああ、ちょっくらのんびりし過ぎちまったな」 
 いけないいけないとばかりに苦笑いを浮かべながら、早足で通路を進む一同――と、そんな彼らの目の前に。
「‥‥あれ? こんな所に脇道なんてあったか?」
「ううん、さっきは無かった筈だよ。‥‥もしかして、遺跡の中の構造が変わってる?」
「どうやらその様だな。満潮で無ければ進めない場所もあると言う事か‥‥」
 額を押さえながら呟く鳳。
 一先ず道が開けたは良いが、この調子だと思った以上にこの遺跡の攻略は手古摺りそうだ‥‥。
 テュールとキルゼフルが先の安全を確認した後、足を進めて行く冒険者達‥‥その誰しもが、何とも言えない不安を胸に抱えていた。



●冷水に沈む‥‥
 冒険者達が遺跡に入ってから、数日が経った。
 事前の食料等の準備は欠かさなかった為、一先ず現時点では特に問題は起きていないが‥‥。
「こんな真冬に何が居るとも分からない危険な場所であまり泳ぎたくはないが‥‥仕方ない」
 ぼやきながら、水に潜る準備をする鳳。
 そんな彼らの前には行く手を阻む石扉と、小さな水路。
 キルゼフルの勘によれば、この水路の先にきっと扉を開くスイッチがあるだろうとの事で。
「悪ぃな、ウォーターダイブの使えるおたく以上に適任な奴はいねぇからな」
「なに、気にするな。本当ならマジカルエブタイドで底まで水位を下げたかったが‥‥それが出来ないのだから、仕方ないさ」
「危なくなったらすぐに戻って来てね? 鳳さんが居ないと、僕達もこの島から出られなくなっちゃうから」
 心配そうな視線を向けてくる仲間達に大きく頷くと、鳳は自身にウォーターダイブを掛け、水路の奥深くへと潜って行った。

「‥‥もしかすると、拙いかも知れへん」
 ――ふと、口を開くのはティーナ。
 その手には、ヴィルの手記が広げられていて‥‥。
「? 何がだ?」
「そ、それが‥‥この手記によると、ヴィルの妻のレニは‥‥‥っ!?」
「あ、危ない!!」

 ボタッ、ボタタッ――!

 直後、テュールに庇われ飛び退いたティーナの元居た場所に落ちてくるのはゲル状の物体。
 それは、この遺跡の中に入ってから既に何度見たとも知れないクレイジェルにシャドウジェル、そしてビリジアンスライムにブラックスライムと言った不定形生物達で。
「けど、今までにはこんな大量に出てくる事なんて‥‥!!」
「ちぃっ‥‥! 逃げようにも出口は反対側だし、それに鳳がまだ戻ってきてねぇ‥‥如何するよ、レオン?」
「決まってる。何とか食い止めるしかないだろ‥‥っ!!」

 ――一方、未だ底の見えない水路の中を潜っていた鳳。
 ウォーターダイブの魔法を何度も掛け直している為、窒息する心配は無いが‥‥それ以上に、先程から彼の全身は思いも因らぬ物に襲われていた。
 それは――。
「くっ、何だってこんなに水が冷たいんだ‥‥!? それも、深く潜れば潜る程、更に冷たくなって‥‥!」
 鳳はしきりに凍えそうな身体を掌で擦る。
 今の時期を考えれば、確かに水が冷たい事自体は不思議ではないのだが‥‥それにしたって、この水温は余りにも不自然過ぎる。
 もしかすると、水の精霊力と言ったものが変に作用しているのでは無いか‥‥。
 そんな疑念は――やがて、とある『証拠』をもって、確信へと変わった。

「っ!? こ、これは‥‥っ!?」

 驚き目を見開く鳳の眼前に現れたもの、それは――――漸く見えてきた水路の底に沈む、人間の遺体。
 生前はさぞ美しい女性であったのだろう。その面影は、死して尚『崩れる事無く』残されている。
 そして、その身体に羽織っているのは皮製のコート‥‥そう、恐らくは彼女こそが、ヴィルの妻の『レニ』に間違いない。
 ――それにしても、おかしい。
 ヴィルがここ宝島に訪れたのは、今から百年以上前の事の筈だ。
 にも関わらず、その時に死んだ筈の人間の遺体が、そのままの形で残っているなんて‥‥。
「‥‥水温、か?」
 深く潜れば潜るほど、水が冷たくなっていったこの水路‥‥それが水底ともなると、もはや凍て付く程になっていた。
 恐らくは、この異常な水温が彼女の遺体を腐らせる事無く、百年もの間そのままの姿を保たせ続けていたのだろう。
 ともあれ、今は仕掛けを解除する方法を探さなければ。余り長いことこんな寒い場所に居ては、それこそ彼女の二の舞になってしまう。
 鳳が水底に手を付けながら、仕掛けを探そうとした――次の瞬間。

「な‥‥っ!?」

 突然、レニの死体が彼の腕を掴んで来た。
 そのまま彼女は、掴んだ腕に噛み付いてくる――。
「くっ‥‥やはりカオスの魔物にっ‥‥!!」
 慌ててそれを振り解くと、全速力で水面へと向かう鳳。
 幸いカオスの魔物、動く死体は泳ぐ事が出来ない。このまま昇り続ければ、彼女は追って来る事が――。
「!!?」
 唐突に鳳の身体を、水底に引き戻そうとする強烈な水流が襲う。
 ――いや、違う。咄嗟に下へ目を向ければ、見えたのは微かな明かり。
 どうやら、水底のレニが動き出した拍子に何かの仕掛けが作動して、底だった部分が開きそこから水が流れ出て居る様だ。
 鳳は流れに抗う事が出来ないまま流され‥‥‥‥そして気が付けば、微かに外の明かりが入り込む開けた部屋の中へと放り出されていた。
 ――無論、レニの死体と共に。

「キャプテン!! 無事か!?」

 そこへ、部屋の隅にある階段を駆け下りて来るのは、水路の上で待たせて居た筈の仲間達‥‥どうやら水を抜く仕掛けが作動した事で同時に上の扉が開き、此処へ来る事が出来たらしい。
 彼らは諸々あって弱りきっている鳳に駆け寄ると、同時に部屋の隅で蠢いている者の姿を見て、驚き目を見開く。
 それはそうだ、ヴィルの遺志を継いで弔ってあげようとしていた遺体が、まさかそのままの姿で残っていようとは、一体誰が想像できただろう。
「‥‥へっ、それがおたくの面かい。随分な別嬪じゃねぇか」
 ふとレニの前に歩み出るのはキルゼフル。彼は懐から、以前に宝島から帰還した後のヴィルの棲家となっていた海食洞、そこを調査した際に入手した古いメダルを取り出すと、それを彼女に突き付け。
「あんたの大事な人からの伝言だ。おまえを弔わねぇと死んでも死にきれねぇとさ。さっさといって向こうで温かく迎えてやんなよ」
「‥‥」
 静寂。
 それがもし意思ある者であれば、或いは愛する夫の事を憂いていたのかも知れない。
 だが、今の彼女は最早意思どころか感情さえも持たない存在‥‥当然、差し出された腕はメダルごと振り払われ、返す手で追撃を――。

 ――ザシュッ!

「キ、キルゼん‥‥?」
「悪いが弔いに経読んだり祈りを捧げたりするのはガラじゃねぇんでね」
 次の瞬間、後ろ手に構えていた彼の槍が、レニの死体の胸を一突きに穿ち貫いていた。


「これは‥‥ヴィルさんの遺品かな?」
「多分、そうだと思うで。きっと彼は鳳れんと同じ様に水路に潜って、そのまま帰って来えへんかった妻に捧げるつもりで、身の回りの物を投げ込んだんやろね‥‥」
 水のはけた部屋の中で見付かるのは大量の金貨と、その中に混じって特殊な存在感を放つコインが数枚、そして一本のワイン。
 加えて、既に動かないようにされたレニの死体が羽織っていたコート‥‥それをレオたんは自身のバックパックに積めた。
 無論、後で弔う為である。
「けっ、それにしても‥‥自分だけ生き残ってヴィルみてぇにウジウジ余生を過ごすなんてのは、わしゃ死んでもゴメンだね」
 そんな様子を横目で見ながら、キルゼフルは先程無くしたメダルの代わりに見つけたコインを、指で高く弾き上げた。

 ――一先ずはヴィルの妻レニの遺体を見付け、手荒な方法ではあったものの弔う事に成功した冒険者達。
 だが、遺跡の最奥は未だ見えず、冒険者達の前に立ち塞がる。
 果たして、この迷宮は何処まで続くのか‥‥そして、その先では一体何が彼らを待ち構えているのか。
 それは、かつて此処に訪れたヴィルさえも知り得ぬ所。
 そう、ここから先は冒険者達が自らの力をもってして、切り拓いていかなければならないのだ。
 彼らは改めて気を引き締めると、慎重な足取りで更に奥深くへと進んで行くのであった。