【レッツ宝探しっ!】海の秘宝

■キャンペーンシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月14日〜05月17日

リプレイ公開日:2009年03月22日

●オープニング(第4話リプレイ)

●前人未到の捜索
「いよいよ未踏の地へ突入か‥‥面白ぇな、腕がなるぜ‥‥!」
 カオスの魔物と化していたヴィルの妻レニ。
 彼女の死体の残された部屋から少し戻った空間で一夜を明かした冒険者達の内キルゼフル(eb5778)は、気合も新たに武器を担ぐ。
 それは、パラと言う小柄な体躯の種族には、一般的に見合わないと思われるであろう長柄の槌。
 何故この様な武器を備えてきたかと言うと、それには理由がある。
「遺跡の入口に書かれていた『守護者』‥‥これが一体何を意味するのか、分からないからなぁ」
「けど、アルテんの封じ込められてはった遺跡で守護者言うたら、ガーゴイルやったからね。今回も同じくコンストラクトのモンスターが出て来はるんやろか?」
 レオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)やティーナに限らず、誰しもがその『守護者』の存在を気に掛けていた。
 もし彼女の言う類のモンスターと対峙した場合、特殊な技術が無い限り打撃系の武器を用いなければ効果的にダメージを与えられない、と言うのが冒険者的一般論である。
「けど、正確には『海の守護者』なんだよな‥‥これがもし海坊主だったら最悪だな」
 海坊主――ことウェイプス。
 彼等が此処宝島へと向かう航路の最中に現れ、鳳レオン(eb4286)(以下鳳)操るゴーレムシップをあわや沈めようとした怪物。
 幾ら冒険者達とは言え、その猛攻を振り切れたのは彼らの勇敢な行動と、それに幸運が伴ったが故だと思わざるを得ない。
 そんな相手と再度相まみえなければならないかも知れないとなると‥‥ゾッとする。
「けど、出て来たら出て来たで、全力で戦うしかないよ」
「ああ、ここまで来たら絶対精霊のところへ着きたい。ここまでで覚えたことをしっかりやって慎重かつ大胆にレッツゴーだな」
 テュール・ヘインツ(ea1683)の言葉に、レオたんも表情を引き締めながら大きく頷く。
 そう、此処まで来たからには、立ち止まる訳には行かない。
 何しろ宝島の『宝』の正体、それはもう目前にまで迫っているのだから。



●小穴の示すもの
「相棒さんは見つけられなかったけど、こればっかりは仕方が無いか‥‥」
 ――レニの死体の横を通り過ぎ様、呟くレオたん。
 此処まで彼らを導いてきたヴィルの遺志、それに報いるべく彼の最愛の人を弔う事には成功した。
 ‥‥けれど、彼自身を此処まで導いたという『相棒』の正体は結局分からずじまい。
 その事に、レオたんは憂いを感じている様子で――。

「ん〜、案外そうでも無いかも知れへんで?」

 ふと口を開くのはティーナ。
 その思わせ振りな口振りに、誰しもが首をかしげながら「どう言う事だ?」と尋ねるが‥‥彼女は口元に手を当てて笑みを浮かべるばかr
「良いから教えろっつぅの」
 むぎゅ〜〜〜。(←ティーナの頬の引っ張られる音)
「いひゃひゃひゃ!!? い、いやいやいや、むしろてっきり気付いてはるものとばかり思とったからッ!! こないだこの部屋で拾った物をもう一度確認してみ? そうすれば、きっと分かる筈やわ」
 ‥‥等と誤魔化し、結局彼女の口から『相棒』とやらの正体を聞く事は叶わなかった。

 気を取り直して、一同はその更に奥‥‥大海賊ヴィルでさえも踏み込んでいない空間へと、足を進めて行った。
 当然ながら、この先にはヴィルの残した道案内等の痕跡は一切無い。
 自然と、罠を警戒する一同の気も張られる。
 石像を見付けては石を投げ付け、今までの罠にあったスイッチらしき物があればそれを避け‥‥。
 その様な状態を続けていれば、自然と疲れも溜まってくる。
 結果として然程進む事の出来ない内に、一同は一旦休憩を取る事になった。
「やれやれ‥‥確かに罠は少なくなっているが、ヴィルのお陰で今までが楽過ぎたか。こんな所をあそこまで独力で進んで来れたなんて‥‥恐れ入ったな」
「そうだよね、おまけにずっと中にいると日にちの感覚が掴みにくいよ」
 テュールもはふぅ〜と大きな息を吐きながら、何気なく辺りを見回す。

「――そう言えば、さ」
 その時、彼は何かを思い出した様に口を開き。
「ティーナさんが昔は人が出入りしていた感じって言ってたけど、だとするとその人たちはどうやって罠を避けていたのかな? 目印か時間かスイッチか‥‥」
「さあな。或いは、入口近く最奥直通の裏道でもあったりしてな」
 ケラケラと笑いながら言うキルゼフル。有り得そうだが、本当にあったらあったで笑えない。
「‥‥ねぇ。これって、もしかしてそうなんじゃない?」
 そう言うテュールが指を差すのは、壁の一部‥‥彼の身長よりも少し低い位置にある、丸い穴。
「レニさんの部屋から今まで観察してきたんだけどさ、罠のありそうな場所には、必ずこれがあったんだ」
「‥‥そうだな。もしかすると、其処に鍵か何かを刺せば、仕掛けが解除されるのかも知れない」
「けど、鍵なんて持ってねぇぜ? よっ‥‥‥‥う〜ん、鍵開け道具も奥まで届かねぇし、細長いモン突っ込んでも反応無しか」
「う〜ん、でもこれは確かに怪しいんだけどなぁ――――って、ちょっと待てよ?」
 ふとここで、レオたんがある事に気付く。
「此処にその穴があるって事は、もしかしてこの場所って‥‥」

 ――ドォン!!

「!?」
 気付いた頃には、時既に遅し。
 前後の通路が唐突に分厚い石扉で塞がれてしまう。
「くそっ、閉じ込められた!!」
「アカン、早よ逃げな――っ!?」

 ぐにゃり。
 手を掛けた立方体の石の段差が唐突に歪み、倒れる様にしてその体内へと引き込まれてしまうティーナ。
「な‥‥ティーナッ!!」
 慌てて駆け寄ろうとするキルゼフル、だがその行く手を更に降り注ぐジェル状モンスターにより、阻まれてしまう。
 更には――。
「‥‥水音!? ヤバイ、これは最悪だ‥‥!!」
 今はまだ浸水こそしていないものの、いずれこの空間はジェルもろとも水に飲み込まれてしまうだろう。
 そうなる前にジェルモンスター、ゼラチナスキューブに飲み込まれてしまったティーナを助け出し、此処から脱出しなければならない。
 一同は各々武器を構え、少ない時間の中自身はどう行動すべきか、思考を巡らせた――。



●鍵
「まずはあの四角いのをどうにかしねぇとな‥‥」
「ああ、ティーナさんが何時まで持つか分からない。ここは、手前のを抜き去って――」

「一気に叩く!」「一気に潰す!」

 声と共に、飛び出すレオたんとキルゼフル。
 其処に飛び付こうとするジェルを、あるものは避け、あるものは叩き払い、またあるものは後方からの鳳の矢により射落とす。
 一直線に二人の向かう先には、ゼラチナスキューブが不気味に蠢いていて。
「! 上だよ!!」
 声と共に放たれるサンレーザーが、天井から垂れ下がるビリジアンスライムを焼き落とす。
 それをキルゼフルが擦れ違い様、懐から取り出した名刀「ソメイヨシノ」で斬り払うと、既にティーナの飲み込まれたゼラチナスキューブは目前。

「「てやあぁぁぁぁっ!!!」」

 ――ザクッ!!
 二振りの刃が、同時に立方体の左右の端を切り落とす。
 直後、振り返り様キルゼフルは手を伸ばし、ジェルの中のティーナを引っ張り出すと――。
 次ぐレオたんの連撃の前に、幾何学的な形状をしたジェル状生物は原型が分からない程粉々に飛び散った。
 そして残る敵もレオンとテュールが間も無く片付け、後は水が来る前に此処を抜け出すばかり。
「無事か、ティーナ!?」
「ゲホッ、ケホッ‥‥無事やけど〜、流石にこれは適わへん‥‥って、レオたん!? あかん、壊したらあかんて!!」
 ふと、壁にバーストアタックとスマッシュEXを合成した斬撃で穴を開けようとしていたレオたんを見て、ティーナが声を張り上げる。
 と言うのも、ここの仕掛けを止めずに無理矢理壁を壊してしまうと、他の通路にまで浸水して進む事が出来なくなってしまう、と言うのだ。
「しかし、だったら如何するんだ! このままだと全員溺死するぞ!?」
「これや! これがきっと、テュルルの見付けた穴に差し込む鍵や!!」
 ティーナが掲げるのは、錆びた金属の杖。
 それを投げ渡されたテュールは、慌てて先に見付けた小穴に差し込む――と。

 カチッ――――ゴゴゴゴゴ。

 重苦しい音と共に、ゆっくりと開く石扉。
 同時に、すぐ其処まで迫っていた水音も止んだ‥‥どうやら、仕掛けが止まった様だ。
「た、助かった‥‥」
「ああ、今回ばかりは流石に駄目かと思ったな‥‥。しかしティーナ、その鍵は何処で何時の間に拾ったんだ?」
「そんなの決まってはる。さっきのゼラチナスキューブん中にあったんや。あれは以前の犠牲者の持ち物なんかを体内に残してはる事があるからね♪」
 えっへんと胸を張るティーナ――はい、文字通り『胸』を。
 ゼラチナスキューブの酸のダメージは、身体よりも服への方が深刻だった様子で。
「‥‥テメェがちゃっかりしてんのは良く分かったから、取り敢えずこれを着とけ」
 キルゼフルに言われて初めて、自分が今どんな格好をして居るのか気付いたティーナ。大慌てで差し出された服を持って物陰に飛び込む。
 すっかりお色気担当である。(笑)
「‥‥って、ちょい待ち!! これ、いつだかのチャイナドレスっ‥‥!!」
「あー、着んのが嫌なのか? 別に破れた服のままでいたけりゃ、それでもかまわねぇぞ」
 ‥‥ティーナは一生キルゼフルに頭が上がりそうに無い。



●祀られしもの
 危機一髪の状況であったとは言え、罠を解除する為の鍵を冒険者達が手に入れた事は、大きな進歩であった。
 恐らくこの鍵こそが、かつてこの遺跡を出入りしていた者達の用いていた物に他ならないのだろう。
 これ以後冒険者達は、彼らの足を最も鈍らせていた罠の数々に悩まされる事無く、スムーズに遺跡内部を進む事が出来る様になった。

 そうして、一同が辿り着いたのは――今まで遺跡内部を探索してきた中でも、最も広大な空間。
 鍵を用いて扉が開かれれば、すぐ足下には石製の架け橋。
 それを渡った先‥‥部屋の中央部には小島の様に大きな足場があり、同じく部屋の四隅にも足場、そしてそれ以外のスペースは全て海水で満たされていた。
「何て言うか‥‥如何にも、って感じだね」
「ああ。きっと此処に精霊が‥‥いや、もしかするとこの先へ人を進ませない為に『守護者』が護っている場所なのかも知れない」
「有り得るな。此処まで『守護者』らしきものは全然見かけなかったし‥‥気を付けて行こう」
 隊列を崩さず、底の見えない足下の水場に警戒しながら架け橋を渡る一同。
 だが、中央の足場に辿り着くまで、その水面から何かが浮かび上がってくると言った事は無く‥‥。
「これは‥‥祭壇かな?」
「‥‥ああ、恐らくな。書かれているのは古代魔法語か‥‥ティーナ、読めるか?」
「ん〜、どないやろ? ちょっと待ってや」
 鳳に促されるまま、メモ用紙とペンを手に祭壇らしき台座へと歩み寄るティーナ。
 ‥‥ぱっと見た限りでも、書かれている文字の量は膨大。解読には、かなりの時間を要しそうだ。
 古代魔法語の解読は、言わば専門知識。多少でも学びが無い事には彼女の手伝いは出来そうに無いので、止む無く一同は部屋の中央の足場の上で思い思いに寛ぐ事にした。
「あれが祭壇だったとすると、いよいよ此処が終着点っぽいな」
「ああ。‥‥思えば、大陸を発ってから随分と進んできたものだ」
「そうだな。まったく、最初はどうなるかと思ったが、此処まで誰も欠けねえで来れたってのは、中々大した事じゃねぇか」
 鼻頭を掻きながら言うキルゼフルは、心底嬉しそうだ。
「‥‥そう言や、そもそも何故此処へきたかといえば、わしは浪漫やスリルが大好きだからだったかな。不治の病の誰かさんを助けたそうな甘ちゃんの女の願いは身体はって叶えてやりてぇのが漢の浪漫ってモンだろ」
「――それって」
「へん、別に何でもねぇよ。それより、折角ここまで来れたんだ。これで精霊が出て来なかったりしたら、暴動モンだぜ?」
「‥‥確かにそれもあるけど、でも精霊って言っても全部が全部人間に友好的とは限らないよ。特に今回の僕達の行動からして、侵入者としか見られていないかも――」

 ザパァッ!!

「!?」
 唐突に、部屋の左側の水場で立ち上る水柱。
 かと思えば、今度は右へ、次は左へ、また右へ、左へ‥‥。
 そして、最後に祭壇の正面で一際盛大に水が跳ね上がったと思うと、そこから現れたのは――巨大な鮫。
 ‥‥いや、違う。鮫の身体を持ちながらその頭部は明らかに虎の物で、更には水柱から飛び出たまま宙を舞っている。
「ま、まさかこれは‥‥‥っ!?」
「な、何だ!? 知ってるのか、ティーナ!?」
 ザパァン!! と、盛大な水飛沫を上げながら水中へと戻って行く怪物を見据えるティーナの顔に浮かんで居るのは、明らかな戦慄。
「ア‥‥アドゥールや! 水の高位精霊で、海の守護者とも呼ばれてはる‥‥!」
「海の守護者‥‥そうか、それじゃあこいつが、この宝島の‥‥!」
 広間の右の水面にその姿が映ると、意を決して其方へ駆け寄る鳳。そして。
「精霊の瞳を守護している者か? この世界が精霊の瞳を必要としているんだ。頼む、渡して――ッ!?」

 ドパァッ!!

 直後、水面から飛び上がった水球が、鳳を襲った。
 水の精霊魔法、ウォーターボムである。
 威嚇攻撃だった為か、威力こそ大した事は無かったが――
「‥‥どうやら、テュールさんの言う通り。おいら達は精霊様に歓迎されていないみたいだな‥‥」
「ああ。あっちがその気なら、やるしかねぇだろ‥‥!」
 まるで獲物を見定めているかの様に、部屋の水場をグルグルと回遊するアドゥール。
 水面に映えるその姿を見据えながら‥‥一同は、武器を構える。
 果たして、高位の精霊と戦って、勝ち目などあるのだろうか――。


「――来るでッ!!」

●今回の参加者

 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb5778 キルゼフル(35歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●洞察と決断
 ――ウォーターボムを放って来てからと言うもの、それ以降は一同の周囲の水場を泳ぎ回るばかりで、何も手出しをして来ないアドゥール。
 いつ破られるとも知れない、一時の平穏‥‥その只中で冒険者達は顔を突き合わせ、相談を始めていた。
「‥‥何かが怪しいな」
 ふと、部屋の内部構造を見渡しながら口走るのは鳳レオン(eb4286)(以下鳳)。
「部屋の中央と四隅で、足場は五箇所。けれどその内祭壇があるのは中央と奥二箇所の計三箇所だけ‥‥。こういう場合、普通は全ての足場に祭壇があるものじゃないだろうか?」
「言われて見れば確かに‥‥」
 レオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)も頷きながら、入口側ニ箇所の足場を見遣る。
 部屋の右手側は倒壊している為、本来其処がどの様な形をしていたのか、今では窺い知る事叶わないが‥‥少なくとも、倒壊していない方の足場には、やはりそれらしき物は見当たらない。
「伝承なんかだと、全ての祭壇に『何か』を捧げれば精霊は帰ってくれるものなんだがな。或いはマジカルエブタイドを使って水位を下げてみれば、水面の下に隠れた祭壇が出てくるんじゃないかとも思ったが‥‥‥‥‥‥いや。よくよく考えてみると、その可能性は薄いか?」
「そうだな。さっきからアドゥールの泳ぎ回っている場所や、部屋の構造、それに部屋を満たしている海水‥‥色々観察して見た感じ、水位が変わって祭壇が水に沈んだって事はまず無さそうだ」
 水域に関する知識に長けた鳳とレオたんの二人が言えば、これ以上無い程の説得力がある。
「それに、祭壇にも魔法的な仕掛けは無いみたいだよ。リーヴィルマジックにも反応がなかったしね。‥‥けど、人が出入りしてたならアドゥールだって人の言葉か考えを理解出来るのかも。今は気が立ってるみたいだけど荒らしに来たんじゃないって聞いてくれるようにすれば、倒さなくても済むよね」
「っつっても、相手は既に敵意剥き出しだしよ‥‥どうやって伝えようってんだ?」
 キルゼフル(eb5778)が尋ねれば、テュール・ヘインツ(ea1683)はティーナが道中で発見した『鍵』たる杖を掴み。
「これを見せれば、もしかしたら‥‥‥‥っ!?」
 それを掲げながらゆっくりと海面に近付いて行くテュール――を、襲うのは先程よりも格段に強力なウォーターボム。
「テュール!? おい、大丈夫か!?」
「いたた‥‥うん、何とかね。けど参ったな。どうも聞く耳持たずって感じだね‥‥」
 テュールが苦笑交じりで言えば、仲間達も険しい表情を浮かべる。
「そうなると‥‥手加減して勝てるような相手じゃないし、今は戦うしかなさそうだ」
「海の守護者にあんまり酷い事はしたくないけど、やるしかない‥‥か」
「面白ぇっ、わしの全てを見せてやろうじゃねぇの! ただし、高くつくぜっ! いくぞコラぁっ!」
 各々武器を構え、水面下の敵と対峙する冒険者達。
 そんな彼らの前に、またも水柱が上がり――それを割る様にして飛び出たアドゥールが、牙を剥いて襲い掛かってきた。



●力を示せ
 ――ドゴォッ!!
 勢いを乗せて飛び掛ってきたアドゥール、その突進は突如冒険者達の前に出現した石壁に阻まれる。
 かと思えば、その向こう側から響いてくる水音。どうやら、水中へと戻って行ったらしい。
「ふぅ、何とか凌げたね」
「‥‥いや、そうでもあらへんと思うで」
「ああ、相手が水中に要る限り、此方の攻撃はまず届かない‥‥が、あっちは魔法で攻撃が出来る訳だからな」
「叩くなら、水中から引きずり出すか、また上がってきた所を狙わないと」
 言いながら、慎重に水面へにじり寄って行くのはレオたんにテュール。
 その眼下に、ゆっくりと巨大な魚影が近付いて来て――。

「――今だ!!」

 テュールの声と共に、水面へ向けて放たれるレオたんのソードボンバー。
 魚影の進行方向を塞ぐ様にして放たれたそれは、一直線に水飛沫を上げ――そして驚いたアドゥールは一旦深く潜り姿を晦ませたかと思えば、一同の背後から水柱を上げながら飛び出てきた。
「!? こっちだ!!」
 咄嗟に振り返り、破魔弓に番えたヤドリギの矢を放つのは鳳。
 だがアドゥールはその攻撃を往なしながら、一直線にティーナへ向けて飛び掛って来る。
「させっかよ!! てりゃあああぁぁぁ!!」
 その前に立ちはだかるのはレオたん――そして、彼の肩を踏み台にし、宙へ躍り出るのはキルゼフル。
 真正面から飛び込み、そして両手と口にそれぞれ携えた刃により繰り出された三連撃。それは見事にアドゥールの巨体を捉え、その身体を揺らがせる。
 だが、それは逆に相手にとっても絶好の反撃の機会。
 空中で碌に回避行動へと移れないキルゼフルの右肩に、鋭利な牙が深く抉りこまれる。
「がっ‥‥!?」
「キルさ‥‥‥くっ!!」
 そのまま床面へと叩き付けられる様に放り出せば、今度は直下のレオたんへと向かってくるアドゥール。
 足場が悪い事もあり、さしものレオたんでもその攻撃を避ける事叶わず、左腕に噛み付かれてしまった。
「ぐあぁぁぁっ!!」
 腕が食い千切られてしまうかの様な激痛に、顔を歪ませるレオたん。
 振り払おうにも手に力が入らず、視線を降ろせば凄まじい形相のアドゥールが此方を睨み付けていて――。

「グギュッ!?」

 次の瞬間、飛来したヤドリギの矢がその胴体を射抜いた。
 途端に暴れ出すアドゥール、その拍子に牙がレオたんの腕から離れ。
「今だレオン!」
「く‥‥うあぁぁぁぁぁっ!!!」

 ドゴォッ!!

 右腕に握り締めたバイキングショートソードによる斬撃が、のた打ち回るアドゥールを薙ぎ払う。
 その衝撃は巨体をもろともせず吹き飛ばし、水中へと叩き落とした。



●精霊の祝福
「や、やってもうたんかな‥‥?」
 恐る恐る、水面を覗き込むティーナ。
 幾ら相手が敵意を持って襲い掛かってきたと言え、相手は高位の精霊。
 もし完全に殺してしまったら、大変な事になるだろう。
 彼女だけでなく、誰しもが不安げな表情で底の見えない水場を見詰めていると――。

 ――ザバァッ!!

「!?」
 突然眼前に水柱が上がり、再びアドゥールがその姿を現した。
 一同は胸を撫で下ろすと同時に、慌てて武器を構え直し‥‥。
「――待て!」
 ふと声を張り上げるのはキルゼフル。そして、彼はじっとアドゥールの顔を見詰める。
「‥‥どうやら、もう害意はねぇみてぇだぜ」
「そうみたいだね。けど、どうして突然‥‥」
「――――もしかして、俺達を試してたのか?」
 鳳が尋ねれば、アドゥールは首を僅かに下げる。
 どうやら、頷いている様だ。
「そうかい。‥‥だったら、わし等は晴れて精霊様に認められたっつぅことか」
「けど、わざわざどうしてそんな事を‥‥って、あれ?」
 レオたんが腕を組みながら言うと、唐突に水中へと舞い戻って行くアドゥール。
 かと思えば、部屋全体にガコンと振動が走り、同時に中央の祭壇の先の壁面がゆっくりと開き出した。
 其処から現れたのは――過去に何かが祀られていたらしき台座と、一枚の壁画。
「あれは‥‥何かドラゴンの様なものが描かれている様だが‥‥。ティーナ、分かるか?」
「‥‥ん、うん。多分アレは――『バハムート』の絵やわ。似た様なものなら、今までにも幾つか見てきてはる‥‥けど‥‥」
 ――バハムート。
 別名プラチナドラゴンとも呼ばれ、最高位の陽精霊と謳われる伝説上の存在である。
 壁画に描かれているのは、それが何やら丸い物体を携えている姿。
「もしかして、あれが‥‥!!」
 思わず身を乗り出――す余り、あわや水場に転落しそうになるティーナを、キルゼフルと水面から飛び出て来たアドゥールが支える。
 そう、きっとそこに描かれている物こそが、彼女の探し求める精霊の瞳なのだろう。
「そうか、バハムートか‥‥成程、それなら持っている精霊の瞳が『太陽の瞳』と呼ばれているのも、納得できるな」
「まあ、それは良いんだけどよ‥‥まさか、アレが此処宝島に隠された秘宝、って訳じゃねぇよな?」
「それか、あの台座には元々精霊の瞳が置いてあった‥‥つまりは、『元宝島』ってことなのかも知れないね」
「お、おいおい、そりゃねぇぜ‥‥」
 がっくりと項垂れ、地面に手を着くキルゼフル――。

「ねぇぜ〜」

「‥‥あん?」
 ――顔の横から聞こえて来た声に視線を向けると、其処に居たのは小人くらいの体格の精霊。
 見れば、他の仲間達の傍にもそれぞれ似た様な者が寄り添っていて。
「これは、ウンディーネ?」
 ふとアドゥールに目を向ければ、彼はまた大きく頷いた。
「おいら達と一緒に連れて行け――って事で良いのかな?」
「どうやら、そうみたいだね。ありがとう精霊さん♪」
 テュールが嬉々とウンディーネの頭を撫でながら言うと、次の瞬間、青い輝きを湛えるアドゥールの身体。
 そして、紡がれたのはマジカルエブタイドの魔法。これによって、一部の水場の水位が下がると――その先の壁面に、大人が一人通れる位の大きさの横穴が現れた。

 アドゥールに促されるまま、一同はその中を進んで行く。
 すると、やがて彼等は遺跡の外、宝島の沿岸部へと辿り着いた。
「おおっ!? こんな隠し通路があったとは‥‥」
「あはは、今までの苦労は何やったって感じやね‥‥。もしかすると、あの入口に書いてあった『災い』って、道中にあった罠とかの事やったのかも知れへん」
「笑えねーぞ、ヲイ」
 むぎゅ〜〜〜〜〜〜!!
 キルゼフルはティーナが泣くまで、抓るのを止めなかった。



●帰還、そして伝説へ
「う〜ん、15歳になって初めての陽精霊の光だ。外ってやっぱりいいなぁ」
 ゴーレムシップを泊めていた入り江に戻って来ると、その甲板で伸びをしながら言うのはテュール。
 けれど、未だ気を抜くには早すぎる。
 そう、何しろ此処へ来る折に宝島近海で遭遇したウエイプス‥‥それをまた突破して行かなければならないのだから。
「やれやれ、一難去ってまた一難って所かな」
「全くだぜ。取り敢えずキャプテン、帰りも宜しく頼まぁ」
「ああ、全力は尽くすが‥‥いざと言う時の為、覚悟だけはしておいてくれ」
 そう言う鳳は口元に笑みを湛えているも、とても冗談には聞こえない。

 かくして鳳の操舵の下、大陸へ向けて出航する冒険者達のゴーレムシップ――は。
「‥‥あれ? どないしたん、鳳れん? 未だ全然進んでへんのに、何で止まって‥‥っ!?」
 ガクッ!!
「お、おい、嘘だろ‥‥!?」
「そんな、こんなに早く現れるなんて‥‥!!」
 揺れと共に、船尾から顔を覗かせるのは黒光りする大きな頭。
 ――忘れもしない、ウエイプスである。
 どうやら、船体が完全に掴まれてしまっているらしく‥‥鳳が進めようとしてみても、ビクともしない。
「まずい‥‥! 皆、掴まれ!!」
 鳳の声に、一同は船の縁やマストに掴まり、各々衝撃に備える。

 ――が。
「あ、あれ?」
 船体をひっくり返されると思いきや、予想に反して真っ直ぐに走り始めるゴーレムシップ。
 一同が目を点にしながら海面を見遣ると、其処には船に並んで泳ぐ巨大な魚影があった。
「アドゥール!? ‥‥そうか、ウエイプスもこの島を護る為に‥‥」
 ――言葉を交わせない為に真意こそ知れないが、恐らくウエイプスは船を抱え、大陸まで送り届けようとしてくれているのだろう。
 途端にどっと甲板に座り込む一同。何しろもう駄目かと思って覚悟を決めた矢先だった為、その脱力感ときたら言葉に言い表せない程である。
 ――と、そこでふと思い出した様に、荷物をまさぐるレオたん。そして取り出したリカバーポーションを。
「おーい! これ、怪我の手当てに使ってくれー!!」
 口元に手を当てて叫びながら、甲板から放り投げる。
 すると、アドゥールはそれを跳ねてキャッチし――暫く後、その空き瓶だけを返してきた。
 ゴミは持ち帰れ、と言う事らしい。流石は海の守護者。

 かくしてアドゥールに見送られるまま、宝島を後にした一同。
 その船上で、新しい相棒と戯れる愛犬のレラを見遣りながら、キルゼフルは一人黄昏ていた。
 ――心に秘めたるは、口に出せない想い。それを言ってしまえば、少なからず年若い相手を縛る事になってしまう。
 見た所、彼女の方は他の誰に対して特別な想いを抱いている訳では無さそうだが‥‥けれども、その幸せを一番に願うならば。
「何考えてはるん?」
「‥‥あ? 何でもねぇよ。それよか、さっきからチャイナドレスが濡れて透けてんぞ」
「なっ‥‥!?」
 甲板を埋め尽くすのは喧騒と笑声。
 そう、二人の関係はそんなもの。少なくともティーナが目的を果たし、他の事を考える余裕が出来るまでは、このままで良い――。

「‥‥ん?」
 ふとバックパックを見れば、何やら羊皮紙が詰め込まれていて。
 開いてみれば、それはティーナからの手紙だった。
 どうやら、今回の冒険において何度も助けられた事、それに対する感謝の言葉が綴られているらしい――のだが。
「‥‥読めねぇっつぅの」
 キルゼフルはアプト語で書かれた手紙をグシャリと握り締め、それに包まれていたチェリーピアスをバックパックの奥深くに詰め込むと、再び視線を相棒達へと戻すのであった。

 そして、船に揺られる事数日。
 近海までゴーレムシップを送り届けてきてくれたウエイプスに別れを告げた一同は――翌日、とうとうセトタ大陸はイムンへと帰還した。
 彼等を迎えるのは、地元民の他にゴーレムシップを提供してくれたイムン分国王姪姫ベルドーラ・イムン。
 何しろその存在の是非さえも定かでは無かった幻の地、宝島へと辿り着き、尚且つ其処を守護する精霊と会った上で、誰一人欠かさず無事に帰ってきた――かつて伝説の海賊ヴィル・ハーベストでさえも為し得なかった偉業を、たった五人でこなして来たのだ。
 後に彼等は、イムンの船乗り達に英雄として称えられる事になるのだが‥‥それはまた、別の話。

 かくして、盛大な祝宴と共に、彼等の『宝島』での冒険は幕を閉じるのであった。