【レッツ宝探しっ!】海の秘宝

■キャンペーンシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月31日〜04月05日

リプレイ公開日:2009年02月08日

●オープニング(第1話リプレイ)

●出航!
 宝島へ向かうべくイムン東岸の港に集まった面々は、ティーナを含め5名。
 彼らは『ベルっち』ことベルドーラ・イムンはじめ、多くの地元民達に見送られながら、意気揚々とシムの海へと旅立って行った。
 振り返れば、後方に伸びる広大なセトタ大陸。その姿が霞んで見えなくなるまで、船の上の誰しもがずっと目を離さずに見詰めていて。
 ――まるで、これで見納めとでも言わんばかりに。

「さて、ようやく宝探しに入れるが‥‥冬の海に落ちたら死人が出るな。各自、気を引き締めて行こう」
 一同に声を掛けるのは、ゴーレムシップを駆る鳳レオン(eb4286)(以下鳳)。
 今回ゴーレムシップと言うこの特殊な船舶を操る事が出来るのは、彼一人。
 故に出航の時こそベルドーラの強い希望により、ゴーレム操縦技術により船を走らせてはいたが、稼動限界もあるのである程度進んだ所で仲間達に指示して帆を張り、帆走に切り替えていた。
 宝島周辺に辿り着くまでは特に有事でもなければ、このまま進むつもりである。
「ふぃー‥‥しっかしまぁ、帆を張るのって想像していた以上に重労働だな」
 額に浮かぶ汗を拭い、マストから軽やかに甲板へと飛び降りるのはキルゼフル(eb5778)。
「まあな。それに今回は人手も少ないから、多少のオーバーワークを強いる事にもなってしまっているが‥‥すまないな」
「別に気にするこたねぇ。それもこれも無事に宝島に辿り着く為だ。海の上で俺達に出来る事があれば何でもすっから、遠慮なく言い付けてくれよな、キャプテン?」
「‥‥ちょい待ちや‥‥『俺達』て、ウチもカウントされとるん‥‥?」
 ぜぇぜぇと、肩で息をしながら尋ねるティーナに、キルゼフルは呆れた様な視線を向ける。
「ったりめぇだろ。そもそもてめぇが言いだしっぺなんだ、そんぐらいしねぇで如何する」
 冷たく言い放つも、やはりパラと言う種族柄もありき、非力な彼女には中々に辛い仕事であったらしく。
 甲板に突っ伏したまま伸びる彼女に、少しだけ哀れと労いの篭もった視線をキルゼフルが向けていたのは、本人のみぞ知る所。

「今の所、進行方向に異常なーし」
 マストの上から響く声は、物見を務めるテュール・ヘインツ(ea1683)の報告。
 今は未だ先に見えるのが大海原ばかりなので必要は無いが、ジプシーと言う職業柄陽精霊魔法を扱え、更には視覚、聴覚、嗅覚において並外れた適性を持つ彼ほど、この役が適任な逸材は居ないだろう。
 残念ながらゴーレム魔法を付与した物品であるゴーレムシップの船体をエックスレイビジョンで透かし、海中を視ると言う試みは上手く行かなかったが‥‥そうでなくとも、今回の航海の上で欠かせない船員の一人である事に違いは無い。
「ときに、ティーナさん。良かったら、ヴィルの話を聞かせてくれないかな? 冒険譚ってワクワクしちゃうよね♪」
 そうティーナに話しかけてくるテュールの目は、純粋な冒険への好奇心で無邪気な輝きを湛えている。
 そんな聞き手を相手に、ティーナも悪い気分がする筈も無く。
「ええでー! とは言うてもヴィルの手記の原本には必要最低限の事しか書かれてへんかったから、幾らかウチの憶測も混じるんやけどね。そもそも、ヴィル・ハーベスト言う海賊が何故『フリップコインのヴィル』呼ばれる様になったか言うと――」

 一方で大海賊の冒険譚が盛り上がる中、船長の鳳と共にヴィルの遺した海図を広げ、航路についての相談をするのはレオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)。
「しかし‥‥これを見ただけでも、フリップコインのヴィルって奴が如何に優れた航海士だったか、窺って取れるな」
 感心しながら呟く彼も、海に想い焦がれロマンを抱き、海の男を志す自称見習い。
 だが、一般人を遥かに超越した漁業技術と知識と言う裏付けをもってして、提案される航路の案は、同じく海の男たる鳳の舌を巻かせるのに十分だった。
「取り敢えずこの近辺は暗礁が多いらしいから、避けて通った方が良いだろうな。ただ、やっぱり障害物が少ない場所には鮫やら怪物やらも集り易いだろうし‥‥それはこの海図を見ても証明されている。だから、ここは鳳さんの操船技術を見込んで、あえて海流を遡る形でこの近辺を‥‥」
「そうだな。とは言っても、その辺はかなり激しい逆風が吹いている様だが、ゴーレムシップなら問題ない。責任重大だが、必ず宝島まで辿り着いてみせる! ‥‥っと、引いてるぞ?」
 言いながら鳳が指し示すのは、相談の片手間でレオたんが手にしていた釣竿。

 この後釣れたお魚は申し訳程度に料理の出来るティーナによって捌かれ、一同の栄養となったので、彼は決してサボっていた訳ではない。多分。



●強行突破
 冒険者達が大海原へ発ってから数日。
 ――異変の兆しは、レオたんが海中に垂らしていた釣り糸に現れた。
「お? 来たきた‥‥ッ、こいつは大物‥‥‥‥!?」

「駄目だ、レオンさん! 竿を放して!!」

 テュールの警告よりも早く、その手応えに違和感を感じていたレオたんは迷わず釣竿を手放す。
 直後、巨大な魚影が海中から浮かび上がって来たと思えば、それはシップのすぐ横で盛大な水飛沫を上げ、その姿を現した。

「――ラージエイ!? そんな、まだ島まで距離がある筈やのに‥‥!?」
「くっ、出てきちまったモンは仕方ねぇだろ! さっさと振り切らねぇと!!」
「ああ、だが帆走するには風向きが悪い‥‥キルゼフル、ティーナ! 急いで帆を畳んでくれ! ここからゴーレム操縦に切り替える!」
「おうよ、任されたぜキャプテン!」
「テュールは耳を澄ませての警戒と同時に、テレスコープを使って宝島を探してくれ! その内1時方向に見えて来る筈だ!」
「分かったよ! 何かあったらすぐ知らせるね!」
「レオン、船の周りの奴らと潮の流れはどうなってる!?」
「うん、潮流は良い感じだ! 船の周りには‥‥サメが沢山にエイが2匹! 明らかにこの船を狙ってる!! 撒き餌の準備は出来ているから、試してみる!!」
 言いながら、事前に用意した撒き餌入りの樽を担ぎ上げ、それを船尾から海面に向けて投げ付けるレオたん。
 するとそれらの発する強烈な匂いに釣られたサメやエイ達が見る見る内にそこへ集まり、辺り一帯に凄まじい水飛沫が立ち上る。
 そうこうしている間にゴーレムシップの帆は畳まれ――同時に、鳳の操舵の下精霊力による推進力を得たシップは、一気に加速を始めた。
 性能の限界まで速度を出せば、サメやエイに追い付かれるゴーレムシップではない。
 追い縋ってくる新手も撒き餌とその機動力、そして鳳の操船技術の前に触れる事も許されず、殆ど難なく海域を駆け抜けて行く一同。

「‥‥! あれは‥‥うん、きっとそうだ! 見えたよ、宝島だ!!」

 そうしてどの位進んだだろうか。
 出発した港の漁師達の協力もありきで大量に用意されていた撒き餌も底を尽きた頃、物見のテュールが声を張り上げる。
 同時に、わっと湧く甲板。危険な海域を突破し、漸く目的地が見えた。その事実が、歓喜と同時に安堵を齎し――。

 ズシィンッ!!

「わっ!!?」
 唐突に揺れる船体、そしてマスト上のテュールの身体がぐらりと揺らぎ。
 ――ドゴッ!!
「テュールッ!!」
 幸い命綱を付けていた為、甲板に叩き付けられると言う事態には陥らなかったが、吊り下げられた身体が船体の一部に衝突する事ばかりは免れ得なかった。
 駆け寄ったキルゼフルが慌ててナイフを取り出して綱を切り、彼の容態を診る。
 ――どうやら気を失ってこそ居るものの、それ程酷い怪我は負っていない様子。

 仲間達が胸を撫で下ろす――間も無く、船体を更に強い衝撃が二度、三度と襲う。
「くそっ、思う様に船を進められない‥‥!!」
「何だ、一体何が居るんだ!?」
 海中から攻撃を仕掛けてくるばかりで姿を見せない相手に、一同が出来る事と言えば、振り落とされない様船体にしがみ付くくらい。
 事前にヴィルの手記により存在を知らされていた『謎の大物』‥‥その正体を、鳳は巨大なイカやオウムガイの類かと予測していたが。
 やがて進行方向上の海面に現れた『それ』は、彼等の想像を遥かに超える姿をもって、一同の前に立ち塞がった。

「な、何だあの化物は!?」
「真っ黒な身体、巨大な頭‥‥! アレは‥‥アレはまるで‥‥!」
「あ、あかん‥‥ウェイプスや! 別名海坊主言うて、船をひっくり返してまう怪物‥‥鳳れん、はよ逃げな!! こない化物相手にしはったら、ウチら全員サメの餌やでっ!!」
 言われるまでも無い、この状況下でまともに戦える相手ではない事は、彼女以外の誰しもが悟っていた。
 だが、ウェイプスの方とて易々と逃がす気は無いらしく。唐突にその正面の海面が盛り上がったかと思うと、ゴーレムシップへ向けてゆっくりと迫って来る水の塊。
 ウォーターコントロール‥‥これで水を盛り、船を浸水させるつもりらしい。
「させるか! 精霊砲‥‥発射ッ!!」
 声と共に積んであった精霊砲より放たれた炎の精霊力が、粘土状にうねる水に衝突し、凄まじい蒸気が周囲一帯を埋め尽くす。
「今だ!」
 その隙に、方向を転換して一気に加速を始めるゴーレムシップ。
 目晦ましが何時まで持つか分らないが、今は全速力で怪物を振り切って、宝島へ辿り着く他に道は無い。

「‥‥それじゃあ、テュールを頼んだぜ。それと、最も大事なのはおめぇの命だ、ヤバくなったら逃げろよ」
 その頃、気を失ったテュールを船室に運び込んでいたのはキルゼフル。
 彼は愛犬のレラに言い聞かせながら頭を撫でると、傍らの長槍を引っ掴み、大急ぎで甲板へと戻って行く。
「畜生、来るなぁっ!!」
 その頃、繰り広げられていたのはウェイプスとゴーレムシップとの追い駆けっこ。
 暗礁を警戒する余り船は思う様に進めず、何度も距離を詰められては取り付かれる前にレオたんがソードボンバーで牽制し‥‥と言った事を繰り返している様な状況だった。
 無論、敵はウェイプスだけでは無い。撒き餌を失った今、サメやエイも船を目掛けて襲い掛かって来る。
 進路上に現れたそれらも同時にソードボンバーで薙ぎ払っている為‥‥宝島に到達するまで、彼一人でウェイプスを追い払う事は叶わなかった。
「あ、あかん‥‥最悪や‥‥!」
 ガクンと揺れる船。船尾には、黒光りする頭を海面から覗かせるウェイプス。
 どうやら船体を掴まれてしまったらしく‥‥見る見るその甲板が横に傾いて行く。
「ちぃっ!! ティーナ、持ってろ!!」
「え‥‥ちょ、命綱!? な、何するつもりなん!?」
 言うが早いか、槍を持って船尾から飛び降りるのはキルゼフル。
 綱に引かれたその身体は、海面ギリギリの場所で止まり‥‥。そして彼の目の前に現れるのは、黒い頭に浮かぶ二つの赤い目、そして耳元まで裂けた口。
 見れば見るほど不気味なその顔に、キルゼフルは力一杯槍を突き立てた。
「!!?!?」
 すると、声にならない悲鳴と共に、ぱっと船体から手を離すウェイプス。
 だが、その手は暫し宙を掻いた挙句――突き刺さった槍と、キルゼフルの身体を掴んで来る。
「ぐあぁっ‥‥‥!!?」
 握り潰されこそしなかったものの、そもそも体勢が不安定なこの状態では、振り解く事叶わず‥‥。
 かと思うと、その黒光りする身体が青い光に包まれ――次の瞬間、キルゼフルを掴む手が凄まじい冷気を帯び始めた。
「あ‥‥がぁっ‥‥!?」
 苦悶の声と同時に、槍を掴む手の感覚が失われて行く。そして、段々と柄から離れて行く指。
 未だ大したダメージを与えたでもないのに‥‥このままでは、ウェイプスを追い払う事さえ叶わないだろう。
 薄れ行く意識の中――。

「高かったんだぞ、それ‥‥! 畜生‥‥冥土の土産にくれてやらぁっ‥‥!!」

 ギリリッ!!
 奥歯を噛み締める音と共に、槍から手が離され、同時に振り上げられた足が槍の柄を勢いよく蹴った。
「――!?!?!?」
 ずぶりと槍が深く抉り込めば、ウェイプスの両手がぱっと離され。
「キルゼフルさん!!」
 そこにレオンのソードボンバーが叩き込まれ、同時に安定を取り戻したゴーレムシップが、一気にその場から飛び出して行った。
 遠ざかって行く情景の中、渾身の攻撃を一身に受けたウェイプスは‥‥暫く海面でもがき苦しんだかと思えば、飛沫と共に海中深くへと姿を消して行く。
 その様子を、甲板に引き上げられながらキルゼフルが呆然と見詰めていると。

「‥‥よし、入り江に到達したぞ!!」

 鳳の声が響き渡り、やがて段々と減速し始めるゴーレムシップ。
 ――どうやら、無事宝島へ辿り着く事が出来た様だ。
 だが、辺りは既に夕闇に包まれ始めていて‥‥。
 海上であの様な怪物と遭遇してしまった矢先、陸上にも何が居るのか分ったものではない。
 今は下手に動かない方が良いだろう。

 一先ず予定していたベースキャンプの設置は明朝に行う事とし、この晩は船室で休む事にした一同。
「宝島‥‥ホンマに、来てもうたんやな‥‥!」
 皆が寝静まる中、見張り番として一人甲板に腰を掛けながら呟くのはティーナ。
 そうでなくとも彼女は気持ちが昂ぶる余り、寝付く事は出来なかっただろう。
 傍らに置かれたランタン、その灯りが照らすのはヴィルの遺した手記。
 ――次に彼等が辿る事になるであろう、大海賊の軌跡を示した箇所を、ティーナは今一度声に出して読み上げた。


『運良く宝島に辿り着けた所で、そこは化物共の巣窟だ。
 陸には、猛者揃いの俺の手下共でさえ、サシじゃ敵わねえ‥‥そんな奴らがゴロゴロしてやがる。
 俺にだって、死んだ仲間に構ってやれる余裕は無かった。
 レニや腕の立つ野郎共と力を合わせながら、兎も角化物を薙ぎ倒しながら前に進んで行く。
 ――気が付きゃ、生き残ったのは俺とレニも含めたったの6人になっていた』

●今回の参加者

 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb5778 キルゼフル(35歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●宝島へ第一歩
「ふぅ‥‥やっと島にたどり着けたか」
 入り江に停泊しているのは、冒険者達のゴーレムシップ。
 その船室から出てくるや鳳レオン(eb4286)(以下鳳)は、甲板に立つと朝方の新鮮な空気をたっぷり吸い込みながら、感慨深げに呟く。
 眼前に広がるのは、島全体を覆い尽くさんばかりの広大な密林――そしてその中央からぴょこんと頭を出している岩山。
 この地形は、大海賊ヴィルの手記に残された情報通り。
 どうやら、此処こそが彼らの捜し求めた『宝島』に間違い無さそうだ。
「この前は気絶なんてしちゃってあんまり役に立てなかったからね。今度こそ頑張るぞー」
 そんな鳳の横から、意気揚々と歩み出てくるテュール・ヘインツ(ea1683)。
 そして指示されるままに、遠見の魔法テレスコープを唱え始めた。
 航海の際にも物見を務め、道標のない大海原において一同の目鼻となった彼に任せておけば、今回も安泰であろうと誰しもが思う所。
 そんな期待を知ってか知らずか――。

「んーと‥‥その遺跡の入口って、岩場の高台の一番上にあるのかな?」
「え? さあ、どないやろ? ヴィルはそない詳しい位置までは書いてへんかったけど‥‥」
「じゃあ、その形や外装とかは? もしかして、虎っぽい動物が口を開けている様な感じだったりとかしないかな?」
 矢継ぎ早に掛けられる質問に、ティーナは慌てて手記を見返す。
「え〜〜と‥‥‥‥うん、外見はそうみたいやね。まるでセトタからこの島に近付こうとする船を見張っているかの様に、恐ろしい形相を西北西に向けてはるって‥‥‥‥え?」
「おい、テュール。お前、まさか‥‥」
 キルゼフル(eb5778)が恐る恐ると言った感じに尋ねれば、テュールの表情は見る見る内に満面の笑みを浮かべて。
「だったら、『あれ』に間違いないよ! テレスコープ使ってないと見えにくいけど、それっぽい人工物は確かに岩山の頂上にあるよ!」
「そ、そうか。思いの外あっさり見付かっちゃったな」
 レオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)が苦笑交じりに呟けば、他の仲間達も一気に気が抜けたらしく、微妙な表情で小刻みに首を縦に揺らしていた。
「けど、問題はあそこまでどうやって辿り着くか、だな」
「そうだね。ティーナさんの話を聞く限り、つまりとにかくなんでもジャイアントみたいだし‥‥」
「ああ、無事に遺跡まで辿り着く為には、出来るだけ安全な道を選んで通る他無いな。‥‥それにしても、この島に巨大生物が多いと言うのは、これも『精霊の瞳』の影響なんだろうか」
「どうだかな。そもそも巨大生物に限らず、『精霊様』ってのが俺達を歓迎してくれているか分からねぇ。いや、前のウェイプスやらを見た限りだと、どうも嫌われちまってる様にさえも思えるな。‥‥勿論、精霊に会ったら最大限の礼を尽くすつもりじゃあるが、相手の出方次第では‥‥」
 ――全力でぶっ潰す。
 キルゼフルの言葉に、ゴクリと生唾を飲み込む一同。
 そう、例え相手がもし高位の精霊であったところで、敵意を示して来る様であれば立ち向わなければならない。
 その決意を改めて問われ、顔に迷いの色を浮かべるのは‥‥この中では唯一アトランティス生まれのティーナのみ。
 そんな彼女の心の内に気付かないまま、キルゼフルは花霞と言う名の香水を投げ渡し。
「はぐれた時とか目印代わりに香水使え。匂いでレラが追跡できるからよ」
 言いながら、傍らに擦り寄る忍犬の頭を撫でる。ちなみに言うと、そんな彼の愛犬レラは雌らしい。

 ともあれ、いざ出発せんと一同が宝島の大地に降り立った――直後。
 ふと、レオたんが口を開く。
「あ、遺跡に向かう前にさ‥‥ちょっと立寄りたい所があるんだけど、良いかな?」



●残骸
 漁師としての経験上から生態を知り尽くしたレオたんの案内で、海辺の巨大生物との遭遇を避けつつ、一同が辿り着いたのは‥‥船の停泊している入り江に程近い、見晴らしの良い岬だった。
 その崖下に、促されるまま視線を向ければ――。
「あれは‥‥船の残骸か?」
 鳳の言葉に、小さく頷くレオたん。
「今朝早く、散歩がてら見回りをした時に見付けたんだ。あれって多分‥‥」
「ヴィルの船‥‥アドゥール号やね」
 ティーナの言葉に、目を伏せる一同。
 船舶に詳しい鳳でなければ恐らくはそれとは分らない程に朽ち切った木片達は、風に揺られてカタカタと音を立てている。
 かつてこの宝島に降り立ち、そして全てを失った大海賊ヴィル・ハーベスト‥‥まるで、そんな彼とシムの海を巡った日々を思い起こし懐かしみ、泣声を上げているかの様に哀しげに。

「お、おい、レオン!?」

 ふと、岩を跳び移りつつその残骸に近付くレオたん。
 仲間達は慌てたが、そんな彼が拾い上げ、抱えて来た物を見るや、その意図を察して目を見開く。
 ――それは、大きく『アドゥール号』と記されたプレート。
 セトタ語の読めないレオたんでも、これがかつてどの様な役割を務めていた物だったのか‥‥容易に想像出来た。
「これだけでも‥‥何とか弔ってやれないかな? ヴィルの手記を頼りにここまで来たおいら達が、彼の想いに報いる為、って事でさ‥‥」
 彼の提案に、無論異を唱える者が居る筈も無く――。

 かくしてバックパックにヴィルの遺志と言う重みを感じながら、一同はいざ目前に広がる密林へと足を踏み入れて行った。



●一大スペクタクル?
「たく、何食ったらそこまでデカくなりやがんだ‥‥イチイチ相手してたらキリがねぇぜ!」

 ズバッ!

 深い森の中に何度目とも知れない断末魔が響き渡ると、周囲の動物達は本能的に敵わないと察したか、一斉に散らばって行く。
 森林に関する土地勘を持ち合わせた鳳とティーナの案内の元、迷う事無く真っ直ぐ遺跡のある高台へと向かっていた一同。
 ‥‥だがしかし、二人ともやはり動物達との遭遇を完全に免れ得る程の知識は持ち合わせておらず、故にここに至るまでもかなりの数の巨大生物を相手にして来ていた。
 それでも無事に乗り切れていると言うのは、やはり一同の戦力とそれを生かす為の効果的な役割分担があってこそだろう。
「うーん、それにしてもティーナさんの香水はちょっと失敗だったかも。さっきのエイプなんかは、その匂いに釣られて寄って来たって感じだったし‥‥」
「だな‥‥いや、すまねぇ。はぐれた時には効果的かと思ったんだが‥‥」
「良えって良えって。この匂い、ウチ嫌いじゃないし」
 キルゼフルに渡されたリカバーポーションを呑みながら、ティーナはけらけらと笑みを浮かべる。
「しかし、そのまま森の中を歩くのは危険だな。この辺りの植生を鑑みるに、近くに泉がある筈だ。そこで匂いを落として行った方が良いかも知れないな」
「‥‥え゙? せ、せやかて、まだ冬の盛りやで? いくらこの森ん中が暖かい言うても、流石に‥‥」
 鳳の提案に、途端にしどろもどろになりながら反論するティーナ。
 ‥‥その顔が真っ赤な辺り、寒いからという以上の理由があるらしく。
 そんな彼女の意図を察し、「ははーん」と呟きながら口元を吊り上げるキルゼフルは。
「大丈夫だ、防寒具なら有り余ってるしな。『この前』ん時みたく着換えを持ってこなかったんは残念だが、背に腹は代えられねぇだろ」
「っ‥‥キ、キルゼんっ!?」
 カラカラと愉快そうな笑い声を上げる彼に対し、ティーナは耳まで真っ赤になっていて‥‥そして傍らのレオたんは何やらどんよりと影を背負い、そんな彼らの様子を鳳は乾いた笑みを浮かべながら眺めていた。
「‥‥? 『この前』?」
「わーーーーーーーっ!?!? な、何でも、何でも無いんよっ!?!?」
 唯一人、事情を知らないテュールだけは首を傾げていたが‥‥まあまさしく、天界で曰く『知らぬが華』と言った所であろうか。

 ともあれ、そんなじゃれ合いを経て、確かにこのまま香水の匂いを付けて森を歩くのは危険だと判断したティーナは、渋々ながら泉で水浴びをする事にした。
「‥‥まあ、ティーナも女性だからな。覗こうとしたら、凍らせるからな?」
「分かってるって。‥‥ちっ、折角例の貴族向けに良い土産話が出来ると思ったんだがな‥‥」
「何か言ったか?」
「いや、別に」
 木々の向こうで聞こえる水音から意識を逸らす様にしながら、思い思いに視線を泳がせる男性陣。
 その中で、ふと口を開くのはテュール。
「‥‥そう言えばさ、ヴィルさんの仲間の成れの果てとかが出てくるかと思ったんだけど‥‥今の所、見当たらないね?」
「ああ、確かに。いや、今まで出会ってきた動物達のサイズから考えると、もしかして‥‥」
「アンデッドとなる前に、食われちまった、か? ‥‥死体ごとな」
 有り得なくは無い話である。
 何しろ、現れるのはどれもこれも規格外な大きさの動物達ばかり。そんな彼らの繰り広げる生存競争の只中へ、無闇に人間が飛び込んだりすれば‥‥文字通り、骨も残らないだろう。
 ふと一同が沈痛な面持ちで顔を俯ける――と。

「キャアアァァーーー!?!?」

 ふと聞こえてくる悲鳴に、思わず肩を震わせる。
「‥‥ティーナさんの声だ!」
「しまった、やはり目を離すべきじゃなかったか!」
 慌てて武器を取り、木々を掻き分け泉に赴くと――。
 一同の眼前に現れたのは、畔で腰を抜かしながら身を震わせているティーナの姿。
 そんな彼女の視線の先を追ってみると‥‥泉の中に、白い何かが浮かび上がっていた。
 それを、キルゼフルが摘み上げてみれば――。
「‥‥これって、もしかして‥‥」
「ああ、白骨死体だ。それも、人間の‥‥」
「って事は、ヴィルの仲間のモンだな。‥‥死体が残ってただけ運が良かった、ってトコか」
「ち、ち‥‥ちっとも良うないわっ!! お陰でこちとら水浴びするどころじゃ――――」

 よくよく一同が視線を向けてみれば、ティーナは一糸纏わぬ姿のまま。
 ――時が止まった。

「‥‥‥‥キャアアァァーーー!?!?」

 ‥‥この後、彼女の悲鳴に釣られた動物達の相手をしなければならなくなった事は、言うまでも無い。



●辿り着いたるは
「やれやれ‥‥漸く到着か」
「ここ数日だけで、一生分戦った気がするよ‥‥」
 船上からテュールの見た遺跡の入口、其処に辿り着いた一同の表情には、見るからに疲労の色が浮かんでいた。
 大抵の敵はレオたんの一刀の前に手も足も出ず、お陰で被害は余りなかったのだが‥‥それでもその後の足場の悪い岩山登りは大分堪えたらしく、おまけに道中のトラブル以来ずっと不貞腐れていたティーナの機嫌を取ったりもしていた為、誰しもが心身ともに磨耗しきっている状態になっていて。
「まあ、一先ず遺跡に入るのは、昨晩野宿した洞窟で休んでからでも遅くないだろう。それに、調べておきたい事もあるしな」
 言いながら、虎の様な動物の顔を模した石造りの建造物、その周囲を念入りに調べ始める鳳。
 ――それから暫くして、壁面に刻まれた文字らしきものを発見した彼は、仲間達の方に向き返った。
「‥‥あったぞ。ティーナ、読めるか?」
「うん、これは古代魔法語やね。掠れてはいるけど、取り敢えず読み取れるんは‥‥‥‥ええと、『海』『守護者』‥‥それにちょっと飛んで『災い』?」
「何だそりゃ? 海の守護者が災いを齎すってぇ事か?」
「さぁな‥‥それかもしくは、以前のアルテイラの封じられていた遺跡みたいに、守護者が居ると言う可能性もあるか?」
「何にしても、一度戻ってから考えようよ。ヴィルさんの手記にも、何か手がかりが残されているかも知れないしさ」
 テュールに促されるまま、一先ず洞窟へと引き返して行く一同。
 そう、今回の目的地であった遺跡には、誰一人として欠く事無く、無事に辿り着く事ができた。
 その内部を調べるのは、また綿密に作戦を練った上で良いのだ。


 ――その夜。
 煌々と輝くランタンの光の下、ティーナの口から語られるのは、ヴィルの遺した手記‥‥その遺跡内部に関する内容。
『島の中央に聳える岩山を登りきった俺達は、そこにあった悪趣味な建造物の内部へと足を踏み入れて行った。
 中は人が居なくなってから久しく、既に廃墟と言える様な状態になっていて、足場が悪いばかりか潮の満ち引きで構造まで変わる‥‥まったく、性質の悪い大迷宮だったぜ。
 仲間達はどっかの部屋に取り残されて満ち潮に呑まれたり、迷ってそのまま帰って来れなくなったりと、ここでもどんどん数を減らして行った。
 そんな中、一度はぐれたレニとまた会う事が出来たのは、奇跡と言う他ねえ。
 ‥‥この遺跡に辿り着けたってんなら、折り入って頼みがある。
 此処のどっかに、俺のこの世で何よりも大切にしていた物が二つ、取り残されている筈だ。
 一つは、俺を護り続けてきた相棒。そしてもう一つは、俺を支え続けてきた愛する妻。
 俺はその両方を‥‥此処で手放しちまった。
 頼む、どうかそれらを見付け出し‥‥そして、お前なりのやり方で、弔って欲しい。
 でなければ俺は、死んでも死に切れねえ‥‥』