混沌竜封印

■キャンペーンシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:34 G 36 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月22日〜11月25日

リプレイ公開日:2007年09月27日

●オープニング

 カオスの地はもとはメイの領地であった。だが、『カオスの穴』が開いた事によりその地は『禁忌の地』となり、以後メイの民は長きに渡りその地に足を踏み入れる事は無かった。やがて時は移り、シーハリオンの丘に巫女が降臨し、伝説の『阿修羅の剣』を再び手にする事が出来た我らはその禁忌の地へと赴く事になった。冒険者と共に――『カオスの穴』を封印するのだ。

「如何に魔物が跳梁する禁忌の地とはいえ空を飛んで行けば危険は減るだろうけど、それくらいの事は当然敵も読んでるよな」
「勿論だ」
「翼竜は兎も角、穴の上空で網を張っているだろうバのフロートシップが問題か」
「それもそうだが‥‥」
 と巫女ナナルは編み物をしていた手をふと止めて、先ほどから大きなテーブルに広げた地図や資料に目を通しているKBC諜報員の琢磨を見る。
「どうしてお前まで付いて来るんだ? ボスの命令だからか? もし、お前が断れないのなら私が上に掛け合ってやろうか?」
 琢磨は驚いた様子で巫女を振り返り、そして彼女が冗談を言っているのではない事を理解した上でゆっくりと言葉を探しながら答えた。
「多分、皆の帰りをじっと待ってるのが嫌だから。‥‥それにまあ、こんな俺でも少しは役に立つだろうしな‥‥なんてさ」
 愛想笑いを浮かべてみせる琢磨に、巫女は尚も暗い表情のまま無言で彼を見つめていた。

 確かに今回の人選には提督カフカ・ネールも非常に慎重だった。
 『祖国の為に!』とカオスの穴封印作戦に志願する若者は多かったが、もし――もし万が一、穴が完全に塞がる前に脱出する事が叶わなかったら、全員が地に埋もれて助かる望みは欠片も無い。一片の欠片も無いのである。
「俺はエドみたく『信じて待つ』とか出来ないわけよ。あいつは強いよな‥‥あいつだって本心は心配で堪らないくせに、皆には笑顔で『心配ない』って言うんだ。冒険者たちはカオスゴラゴンをやっつけて、きっと無事に帰ってくるからって。でも俺は‥‥俺は臆病だから、エドみたくでんと構えて待ってられないんだよ」
「まるで捻くれた子供だな。普通は逆だろう。怖くて行けないのなら分かるが、怖いから行くなどと‥‥面倒にも程がある。全く以て、妻になる女が可愛そうだ」
 ナナルはぶっきら棒にそう言い放つと編み物針に視線を戻し、再び細かく指を動かし始めた。その様子をどこか懐かしそうに琢磨が見つめる。それから暫く二人はそれぞれの作業に没頭していたが、やがて琢磨がカフカに呼ばれて資料を持ってナナルの部屋を出た。
「琢磨‥‥心配せずとも必ず全員生還させてみせる。私のこの小さな命に代えてもな」
 遠ざかる青年の足音を聞きながら巫女ナナルはそう呟いた。彼女のベッドの傍には一通の手紙が置かれいる。彼女が家族に宛てて書いた手紙である。彼女は遠い国からやって来た巫女であり、家族は勿論メイに住んではいない。だから、その手紙が無事家族に届けられるかどうかは彼女にも分からない。それでも彼女は一晩かけてその手紙をしたためた。
 思いは必ずや届くと信じて――。
 
  **

 さて、今回の依頼であるが、王宮が偵察部隊をカオスの地へ派遣したところ部隊は壊滅に近い状態で帰還し、彼らはその流血と引き換えに様々な情報を王宮に持ち帰る事となった。まずカオスの穴上空付近にはバの翼竜部隊が多数配備されており、それに加えてバのフロートシップも複数確認されている。冒険者は巫女や騎士団と共に大型戦闘艦ダロベルに乗り込んで、味方の巡洋艦の支援を受けながらこの包囲網を強行突破し、カオスの穴へ一気に突入する。この間巫女は陽魔法を用いて可能な限り索敵を掛けるが、カオスの穴の中は未知の空間であり如何なる敵が待っているか予測は出来ない。よって出撃には万全の準備が必要でありダロベルにも積めるだけのゴーレム兵器を乗せる予定のようだ。以後は敵の大ボス、カオスドラゴンに辿り着くまで穴の中の旅を続けるだけである。
 又、ご参加頂く冒険者諸氏には相応の覚悟が必要となる事は以前にも述べたと思うが、もし出立までにやっておきたい事があればそれらを終えて後に乗船される事をお勧めする。友人と飯を食らうもよし、家族と共に過すもよいだろう。
 尚、今回の作戦も引き続き提督カフカ・ネールが指揮を取る。同乗するのは副官のミケーネ、巫女ナナルとKBCからは上城琢磨、そして選りすぐりの兵士と船員たちだ。
 最後に、阿修羅の剣を誰が持つかは恐らく冒険者に一任されるが、魔剣を使用するのはカオスドラゴンに最後の戦いを挑む時であり、それまでは絶対に使用するなと巫女より厳しい命令が下っているのでこれに従う事。以上が本作戦の概要となる。

■依頼内容:阿修羅の剣を持って大型戦闘艦ダロベルでカオスの穴に入り、敵カオスドラゴンを撃破。その後穴が完全に閉じるまでに全速力で地表へ脱出。全員必ず生きて戻る事!

【カオスの穴の中で使用可能なゴーレム】
・大型戦闘艦ダロベル(デロベ級2番艦)
・大型金属ゴーレム 4騎(ヴァルキュリア級1騎/アルメイラ級1騎/オルトロス級2騎)
・中型ストーンゴーレム 4騎(モナルコス)
・ゴーレムチャリオット 2騎
・ゴーレムグライダー 5騎

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8745 アレクセイ・スフィエトロフ(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4197 リューズ・ザジ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●嵐の前に
「天におわす我等が父タロンよ、是より精霊の聖地を守る為の戦いに赴きます。どうか我等が意思を御照覧あれ」
 静まり返った早朝の教会で、ファング・ダイモス(ea7482)はその身に宿った英雄の紋章に手を当てながら心静かに祈っていた。
「これは奇遇ですね」
 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)の姿があった。
「人は同じような事を考え付くものなのですね」
 彼女はそう言って笑うとファングの隣で膝を着き同じようにして祈りを捧げ、それを見たファングもまた静かに頭を垂れた。英雄たちの志を継ぎカオスの穴を封印し、必ずや再び皆でこの地に帰り立つ事を願って。

「こんな早い時間から連れ出して申し訳ありません」
「いえ、無理にお誘いしたのは私ですからっ」
 馬車を降りるなり侘びを入れるカフカにリューズ・ザジ(eb4197)は赤面しつつ答えた。朝の貴族街はまだ静かだ。二人は開いている店に入ってハーブティーを注文した。
「鎧姿以外の貴方を拝見出来て良かった。水色のドレス、大変お似合いですよ。勿論、普段のお姿も凛々しくていらっしゃるが」
「カフカ殿、そのような気遣いは」
 リューズが困っているのを見て、カフカは思わず微笑む。貴族の娘はこの種の世辞を並べられるのに慣れているものだが、それと対照的な彼女の瑞々しさに彼は好感を持っているようだった。
「あの‥‥ミケーネ様も参加されるのですね」
 リューズはつい心に掛かっていた事を口にした。これは只の噂なのだがミケーネは婚儀を控えているという話で、今回の作戦から外して欲しいと両家から強い要望があったという。カフカは彼女にリザベの任に就くよう進言したのだが、ミケーネは断固拒否。カフカは根負けして彼女の乗船を許可したという。
「私がまだ尉官だった頃からの付き合いでね。彼女は優秀な軍人だが、私は彼女に幸せな家庭を築いて欲しいと願っています。これは女性蔑視と取られるかな」
「いえ、その様な」
 と、生返事を返しながらリューズは思う。
 ああ、やはりカフカは気付いていないのだ――ミケーネは婚約者よりもカフカを選んだというのに。
(私の邪推かもしれぬ)
 そう心の中で呟きながら、リューズは冷めかけたカップに口を付けた。

 丁度その頃、フォーリィ・クライト(eb0754)も珍しくドレス姿で琢磨の部屋を訪れていた。勿論、前に約束した食事に行く為であるが、正装した彼女を見るなり『なんで髪も結わないんだ。素材はいいのに』と細かい文句を付ける琢磨にフォーリィが逆ギレ。乱闘騒ぎになった所へ琢磨に金を高利で貸し付けようと思ってやって来たアリオス・エルスリード(ea0439)が現れてなぜか仲裁役に回る事となり、ついでにフォーリィの髪を巻き髪風に仕上げて無事二人を貴族街へと送り出した。お疲れ様である。
 又、その日の午後にはバルザー・グレイ(eb4244)が愛馬2頭を連れてダロベルが置かれている格納庫に向かっていた。ペットの乗船は提督の許可を得たものだ。すると同じように荷を積みに来たグラン・バク(ea5229)に出くわす。
「俺は過ちを二度と繰り返す気はない。必ずこの地の平和を守る」
 彼は過去同様の危機に遭遇し、滅び去ってしまった都の事を振り返る。勿論だとバルザーも深く頷いてみせた。

「此れでは御別れの挨拶みたいですわね」
 ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)はそう言って書き掛けの手紙を破り捨てた。それは故郷ウィルに送るはずのものだったが、彼女は思う。必ず戻って来て自分の口で報告すれば良いのだ――と。
 そしてこの夜、同様にペンを握っていた者が二人。ソフィア・ファーリーフ(ea3972)とクーフス・クディグレフ(eb7992)だ。鎧騎士として身を立てんとメイディアに出て来たクーフスにとって、この作戦への参加は彼にも家族にも大層な誉であり、彼はその思いの丈を故郷への手紙に認めた。又同時に彼は『混沌の刻印』の女性の事を思い、混沌の正体を知りたいと願った。
 ソフィアも想い出のハロウィン羽根ペンを握り締め、逝ってしまった親友を思う。
(きっとこの空の下のどこかで、私と同じように空を見上げてますよね)
 彼女はそっと友の名を呼んだ。

●乗船
「ソフィア〜〜元気だったか!」
 ブリッジに上がって来たソフィアの姿を目にすると巫女は矢庭に駆け出して彼女に抱きついた。
「はいはい♪ ナナちゃんこそ調子は?」
 ナナルは笑顔でブンブンと手を振り回す。すると今度はリューズが大きな竜のぬいぐるみを巫女に贈り、彼女は大喜びでそれを受け取った。また、巫女はフォーリィから琢磨が約束を果たした事を聞くと自分の事のように喜んだ。
「今度は女性陣だけでお菓子食い倒れツアーに行こうね!」
「お菓子食い倒れ♪」
「だから、『絶対皆で一緒に』帰るんだからねっ」
 フォーリィの言葉に一瞬顔が曇ったナナルだったが、すぐに笑顔で頷いた。
 それから巫女は異国の模様が入った布に巻かれた『阿修羅の剣』をカフカの元から持って来る。
「カフカも琢磨も剣を持つと気が散ると言って困っていたのだ。アレクセイが守ってくれると助かる」
 決して剣を抜かない事を巫女に誓い、剣の防護を申し出た彼女はそれを受け取った。
「ファングは本当に背が高いなー、うわっ!」
 女性陣の背後に控えていたファングの傍に寄った巫女の前で彼はふいに屈んで片膝を着いた。
「ご無礼をお許し下さい、見下げるようで心苦しかったのです。――カオスの穴を封じ、必ず幸せな未来への道を切り開いてご覧に入れます」
 たとえ巫女にどんな運命が待っていても、と彼は言葉に出さなかったがナナルは彼の強い思いを受け取った。
「緊張するなと言うのは無理だろうが緊張しすぎても満足に動けん。決死の覚悟と言うやつはどうも空回りしがちなんでな、落ち着いていけば大丈夫だ。後、倒れられても面倒を見切れんから無茶はせんようにな」
 とバルザー。
「恐れは決して悪いものでない。それは時に強さに変わるぞ。ただ後悔しない生き方が出来るかどうかだ。なので、言うべき事は言わねばな」
 とグランはなぜかフォーリィに目線を振る。
「今更怖がってないっ! 言いたい事はいつも言ってるってば!」
 と心配する二人の前でじたばた悪態を付く琢磨であったが、その時カオスの地に差し掛かるという声が艦内に流れ、同時にブリッジに緊張が走った。

●強行突破
「では、これより巫女と数名の兵がテレスコープを使って広範囲の索敵を行なう。状況は琢磨がテレパシーで逐一味方艦とグライダーに連絡。各自連携を怠る事無く、犠牲を最小限に抑えて敵を牽制すべし!」
 カフカの号令で皆が持ち場へと散った。
「クーフス、宜しく頼むな」
「りょ、了解!」
 初めて巫女と顔を合わせたクーフスが少し緊張していたのを察していたのか、巫女は彼の名を呼んでから彼を格納庫へと送り出した。
 ちなみに、母艦に管制官を置く案は琢磨と同時にアリオスからも上がった。地球人の琢磨は兎も角、ジ・アース出身の冒険者からも近代戦(というらしい)の戦術が考案される状況に時代の流れを感じたカフカであった。
「何だかんだで年少コンビだ、うまくやろう。俺は母艦が落ちるのは二度と見たくないんでね」
 グライダーの操縦席に着いたリューズに声を掛けたのはそのアリオスだ。確認された敵艦は2隻のみだが、しかし翼竜の数が半端では無かった。その数50いや100騎‥‥その異様な数からしてあるいはカオスの魔物たちが化けて混じっているかもしれなかった。
「下手に囲まれてはこちらが不利だ」
「味方のバリスタに巻き込まれない為にも高度を維持しつつ、極力敵を落としていくとするかね」
 リューズとバルザーは機体を発進させ、アリオスは弓矢で遠距離魔法を仕掛けてくる魔術師を、バルザーに同乗したアレクセイは母艦に接近してくる敵の弓兵や操者を狙ってウインドスラッシュで応戦した。
 一方甲板に出たジャクリーンのヴァルキュリアは母艦の進路を塞ごうとする翼竜を矢で払いのけていた。味方の艦2隻が敵の抑えに回ってくれたからだ。
「力を合わせて戦乙女の名に恥じぬ戦いをしましょう!」
 足場の悪い甲板では多少のハンデはあるものの、ヴァルキュリアが放つ矢はあれほど冒険者が手こずった中型翼竜を一撃で落した。
 一方、クーフスが乗るオルトロスは実質、突貫してくる翼竜や弓兵の矢から船を守る盾となっていた。オルトロスは船の損傷を抑えるべく可能な限り甲板を動き回り、長柄武器と大型の盾で敵を牽制したが、翼竜から甲板に飛び降りて直接ブリッジを狙いに来る敵歩兵も少なくなかったので、彼らの一掃にはグランとファングが当たった。剣豪である彼らはソードボンバーを初め豪快な剣さばきを披露。その凄まじい修羅場の中で勇気を振り絞ってソフィアはグラビティーキャノンを放つ。これは主に敵艦の船底を狙って発射されたが、直線的に威力を発揮するその重力波動は敵翼竜部隊にも大きなダメージを与え得た。
「しつこいと男性も船もあしらわれ方は同じですっ!!」

「う〜〜〜〜っっ」
 と、ブリッジで唸っているのはフォーリィだ。
「気になるなら外に出ていいぞ。こっちは何とかする」
「駄目! もしカオスの魔物が入ってきたらどうすんのっ! あたしは此処を死守すんの!」
「死なれちゃ困る。一緒に飯が食えなくなる」
「あたしは死にませんっ!」
 と、フォーリィが声を上げるのと同時にナナルも声を上げた。
「カフカ、敵は照準をこちらではなく他の艦に向けたようだ。残った翼竜部隊が一斉に火責めを始めたらしい」
「他の艦を追詰めてこちらの足をも止める気か!」
 ブリッジから外を見ると確かに周囲に群がっていた翼竜の多くはすでに移動し、囲まれた味方の艦から火の手が上がり始めている。
「提督」
 刹那、琢磨が神妙な顔つきで会話に割って入る。
「前衛の艦長から伝言だ。『我等に構わず突入されたし。我等この地に散ろうともメイの誇りは散る事はない』」
「そんな!」
「どうするのだ、カフカ」
 巫女は冷静に提督に問いかけ、カフカは深く息を吸ってから船尾にも届くほどの大声を張り上げて皆に命じた。
「我が艦はこれより2分以内に全速力で穴へ突入する! よってグライダー隊とゴーレム隊を大至急収容、琢磨は急ぎ伝達、手の開いている者は全て突入に備えて守備を固めよ!」
 カフカの苦渋の決断であった。味方を助けに行けばダロベルも損傷を受けるのは必須であり、加えて敵に次の手を許す事になるのだ。
「琢磨、艦長に伝えてくれ。必ず生きてメイの地を踏んでくれと」
「‥‥了解した」
 琢磨の連絡を受けた冒険者たちは直ちにブリッジに集合した。
 ダロベルは進路を定めるとまさしく全速力で穴へと急降下し、避け切れなかった翼竜は次々に船体にぶつかって弾かれた。彼らは味方の無事を確認する事は出来なかったが、声を上げて泣き叫ぶ者はいなかった。必ず生きて再び会えると信じたから――。

●カオスの穴
「これがカオスの穴‥‥」
 暗闇に目が慣れてきたファングは思わず呟いた。穴の中は完全な闇ではなかった。というのも、所々光が洩れている箇所もあったからである。そうして、穴の中はいわゆる洞窟のそれと変わりは無いように見えた。広さはダロベルが辛うじて通れる広さだ。
「我等を追ってきた艦がある」
 と巫女。にわかにブリッジがざわつく。
「どのくらい離れているのですか」
「正確には分からぬが、精霊砲とやらが届く距離ではないな」
「不慣れな場所でぶっ放して己が進路を塞ぐほど敵も無能じゃないわけだ」
 と言うアリオスに続いてグランが提案する。
「マジカルミラージュで追跡を妨害しては」
「それ、面白そうだな、やってみるか♪」
 とナナルが詠唱に入った瞬間――ダロベルは今まで体感した事の無い強い衝撃を受けた。
 そして次の瞬間、冒険者は信じられない様な光景を目の当たりにした。
「町が‥‥ええ、町です! 確かに!」
 アレクセイがそう叫ぶと幾人かが甲板に駆け出した。狭い通路を抜けて大きな空洞に出た船はそこに『浮遊する町』を見た。ぽかりと浮かんだ大地には人気の無い小さな町があり、緑があり、そして空があった。
「幻影か」
「いや、幻でないものもあるぞ」
「あれはまさかガナ・ベガでは‥‥」
 ジャクリーンの声が上擦る。確証は無かったが、噂に聞いた事のある敵の新手ゴーレムだと彼女は直感で判断した。

 奇妙な町の広場にガナ・ベガ1騎とゼロ・ベガ1騎、バグナが2騎確認された。そして後方からは敵艦が迫っている。果たして冒険者はこの戦場を駆け抜ける事が出来るだろうか。