●リプレイ本文
●斥候
「くれぐれも無理はするな、琢磨殿、有事の際には躊躇わずに二人を乗せて戻ってくれ。搭載限界値ギリギリだが、無茶な飛行さえしなければ危険は無いはずだ」
アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)とフォーリィ・クライト(eb0754)を乗せた2騎のグライダーは浮遊する町の広場から少し離れた草叢に敵の視界を避けるようにして降り立った。操縦者はバルザー・グレイ(eb4244)と上城琢磨である。
「こっちでゴーレム戦になったらあたしは残って合流するから、敵艦の方は宜しく頼むわね、バルザー!」
「承知!」
フォーリィの激励にしっかと答えると、バルザーは3人に見送られながら再びグライダーで空へと浮上した。他方、町に降り立った琢磨らは町をすり抜けて、その先にあるらしい遺跡へと探索の足を延ばさねばならなかった。
浮遊する奇妙な町に遭遇した冒険者らは早速島に索敵を掛ける事にした。具体的にはソフィア・ファーリーフ(ea3972)がミラーオブトルースで町全景を映し、巫女が陽魔法を用いて補助に当った。そこから得られた情報では、広場の先の丘陵付近から強い魔法反応が見られた。
「遺跡‥‥塔の上の水晶玉‥‥それを取り除けば新たな道が」
「ナナちゃん?」
ソフィアに声を掛けられてナナルは我に返った。恐らく町を抜けた丘辺の遺跡に敵の本陣がある――というのが巫女の出した結論だ。だが、ダロベルを追って来た敵艦もすぐ間近に迫っており、カフカは冒険者と協議の上で先に敵艦を撃落とす事を決めた。その間にアレクセイら斥候部隊で少しでも敵地の情報を掴もうという作戦である。尤も町からの退路を確保する為にはグライダーが必要だったのだが、貴重な鎧騎士を割くわけにも行かず、先日飛行講習を受けたばかりの琢磨がその任に就く事となった。同情すべきは後に乗るフォーリィであったが、それは兎も角。
「では私たちも早速仕事に掛かりましょうか」
そう言って所持したインビジブルのスクロールを確認するアレクセイの手がふと止まる。彼女は腰にぶら下がっている阿修羅の剣をじっと見詰めた。カオスの穴の中では安全な場所など何処にもない。それはダロベルの中とて同じ事だと巫女は言い、彼女に持って出るよう勧めた。冒険者はその言葉にいささかの疑念を抱いたが彼らは巫女に従った。
「んー、広場で戦闘になったら艦に残るのは射手のアレクセイとアリオスと‥‥ブリッジはソフィアだけになるのかな」
「ああ、グランもファングもゴーレム戦に加わると言ってるからな。それがどうかしたのか?」
「‥‥いやっ、何でもないっ」
この時フォーリィの胸に一抹の不安が過ぎったのだが、先行したアレクセイからGOサインが出たので彼女は琢磨と共に遺跡に向かって歩を進めた。
●空戦
「敵がこちらに戦力を割いた事で地上の生存率が上がったと思う事にするか」
アリオス・エルスリード(ea0439)はリューズ・ザジ(eb4197)が操縦するグライダーの後部座席で弓の調子を見ながらそう呟いた。
「ここで一気に後顧の憂いを断つ。その為にも敵には派手に沈んでもらわねばな」
「我等の目的は翼竜部隊を牽制し混乱させる事。ソフィア殿らが集中して攻撃出来るよう、本艦目掛けて飛んでくる奴らは片端から落す事にしよう」
後部座席に騎士団の弓兵を乗せたバルザーは、仲間と共に出撃の号令を緊張した面持ちで待ち構えた。
「ナナル、岩壁の幻影は上手く作れそうか?」
「当然だ。グラン、私を誰だと思っている」
ちょっと偉そうにグラン・バク(ea5229)に流し目を送って後、巫女は静かに詠唱に入る。通路から出て来る敵の視界を壁の幻影で塞ぎ、艦の動きに乱れが生じた隙に集中砲火をお見舞いしようというグランの策である。
「何らかの方法で町側の部隊と通信を行っている可能性もあるので不意打ちを仕掛けるとはいえ油断はできませんね」
ヴァルキュリアに搭乗する為ゴーレム格納庫へ向かったジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)の進言に従ってダロベルは敵の攻撃範囲の死角を考慮に入れつつ不思議な空洞内に布陣し、状況を開始した。
「今だッ、撃て――――ッッ!!」
刹那、ダロベルの精霊砲が火を吹き、同時に甲板上のヴァルキュリアのゴーレム弓がビュイイ――ンと鈍い震動音を響かせた。続いて間を置かずにソフィアのグラビティーキャノンが敵艦の精霊機関付近を狙って放たれる。彼女は先の対艦戦での経験から攻撃のコツをかなり掴んでいた。だが、敵も負けてはおらず体勢を立て直すと十数騎に及ぶ翼竜部隊を艦から出撃させた。敵はグライダーを温存しているのかその姿を見せないが、ダロベルから飛び立った味方のグライダーは率先して翼竜の騎手や弓兵を射落とした。翼竜本体はバリスタの餌食となるのだ。
「前には浮遊する町、後ろにはFSか、厄介だな」
「フロートシップは今ここで仕留めるんですっ!」
そう気合を入れて断言する魔法使いのソフィアに圧倒され、思わずファング・ダイモス(ea7482)も気合を入れて吠えた。
「ちょこまかと鬱陶しい奴らだ。だが、この艦には一兵たりとも乗船はさせんぞ!」
そう叫びながら長槍を振り翳し、甲板に近づく翼竜共と応戦するのはクーフス・クディグレフ(eb7992)だ。翼竜と対峙する度、彼の脳裏にカオスニアンのある戦士の顔が浮かぶ。『魔戦士イザクと話がしたいなら、まずは生きて帰る事さ』――琢磨の言葉を思い返しつつ、彼は槍を握る手に力を込めた。
「艦長! 敵艦に火の手が上がりました!」
オペレーターの声に思わずブリッジがどよめいた。精霊砲、銀ゴーレムの弓、重力波動による連続攻撃が見事に功を奏したのだ。だが――。
「グライダーだ!」
前方から敵のグライダーが2騎向かって来る。グライダーの速度は翼竜とは桁違いだ。油断すれば即こちらがやられる。だが、リューズらは敵の挑発には乗らずにまずは距離を保った。そのほんの一瞬、ダロベルを振り返ったアリオスの瞳にもう一騎のグライダーが目に入った。3騎目のグライダーは味方の死角に潜み、翼竜部隊が執拗に攻めている甲板とは違う舷に近づいた。
「しまった! 奴ら乗船する気だ!」
だが、アリオスが叫ぶと同時に敵のグライダーが宙を裂くようにして突撃して来る。アリオスは仲間が敵の気配に気付いてくれる事を祈りながら眼前の敵に弓を引いた。
●町へ
「あと10分は休めそうかな」
ダロベルのゴーレム格納庫の床に転がりながらリューズは思わず零した。
敵艦は船底左舷から炎を上げながら町の広場の先の丘辺に降下した。それに伴い交戦は中断、冒険者は次の戦いの為に暫しの休息を取っていた。
アリオスは敵兵が甲板から侵入しなかったかと船内を確認して回った所、副官のミケーネが『賊は斬り捨てた』と答えた。一方、遺跡付近の大雑把な調査を終えた琢磨からのテレパシー連絡を受けたカフカは、広場に居座るゴーレムを打ち倒す為にゴーレム隊を町に降ろした。
グランはゴーレムの肩に乗り一緒にカタパルトから出て来たのだが、その時の勇姿は良いとして、ゴーレムの肩まで攀じ登るのはいささか骨が折れたようである。
やがて、人気の無い町を通って広場へ向かう途中でゴーレム隊は元気溢れるフォーリィと合流した。
「やっと暴れられるわねー! やっぱあたしに忍び仕事は向かないわっ」
「暴れるのもいいが、俺たちには敵の鎧騎士を捕縛する役目もあるんだぞ」
「この場所について詳しい情報を得る必要もあるし、殺してしまっては意味がない」
と真剣にフォーリィに諭すグランとファングではあったが、彼女の目は戦闘に掛ける闘志ですでに爛々と輝いていた。
やがて味方のゴーレムの姿を捉えた敵のガナ・ベガが剣を高く振り翳した所で両者の戦いは始まった。
フォーリィはゴーレムと共に降ろされた愛馬に跨り、機動力を生かしつつバグナの前後左右に回りこんで果敢に攻め、グランは重心を崩させる為に巨大なハンマーを振り下ろしてはゴーレムの脛から膝を狙った。同じくファングもその長身を生かして揺さぶりを掛けつつ敵の足を壊す事に努めた。実際、剣豪の天界人が繰り出すバーストアタックやスマッシュは頑強なゴーレムにも十分有効であり、回避力の高さが彼らの身を守った。
「魔物に組みせし者に騎士道は不要。ゴーレムの格が違うがこの場に出てきた己が不運を嘆け」
オルトロスを駆るバルザーは戦闘能力の高さをもって容赦なくバグナを圧倒した。敵も銀ゴーレムを出している以上、雑魚は早期に片付けるのが道理。彼はバグナを殴り倒すとその上に跨って真っ先に脚部を砕いた。
一方、クーフスはオルトロスでゼロ・ベガに対抗した。
「最悪他への増援に向かわせないように抑えておくだけでも良し!」
そう指針を決めたクーフスの剣に迷いは無かった。彼はフェイント攻撃に比重を置くと根気強く粘りの攻撃をみせ、隙を伺ってはディザームを放ち、ゼロ・ベガは遂に身を守っていた盾を落とした。
そして敵の主力ガナ・ベガに対するのはリューズのヴァルキュリアであった。又、ジャクリーンもアルメリアに搭乗し後方から的確な援護射撃を行いリューズを助けた。彼女の策はポイントアタックを使って装甲の隙間を突き、手足の関節部分を破壊、機体の活動を停止させるもの。だが、ガナ・ベガはやはり他のゴーレムとは感触が異なった。機体の性能もそうだが、恐らくは操縦者の腕も相当高いのだ。
「ここで負けるわけにはゆかぬ! カオスの穴を封印する為に!」
「穴を塞いで何とする? 我等は魔物の力を借りずとも、強欲なメイの国など打破してみせる!!」
強欲とは何たる侮辱――リューズでなくともバと戦う者は皆そう思っただろう。だが、敵はなぜ我等を憎み、敵対するのか。侵略行為を行なっているのはバの国だというのに‥‥。
「一旦お引き下さい、隊長! ここは私が死守します!」
クーフスが盾を奪い、鎧もボロボロになったゼロ・ベガはそれでも力を振り絞って両者の間に割って入った。
「無茶を言うな! くそ、退却だ! 本陣まで退く!」
号令と同時にゼロ・ベガは最後の抵抗に出た。ゼロ・ベガは体を張ってガナ・ベガとバグナの制御胞から脱出した仲間の逃走を助け、その代償に自らが捕虜となった。
その潔さに冒険者は肝を抜かれたが、ともあれ彼らは勝利した。
●遺跡
話は後になったが、ゴーレム戦を空から支援するはずだったダロベル内では別の事件が起こっていた。
ゴーレム隊を降ろして離陸した直後、艦の精霊機関付近から小火が出たのである。アリオスの勧めで消火体制を整備しておいたおかげで大事には至らなかったが、それが不審火であった事が艦内に不穏な空気を齎していた。
「アレクセイ、お帰り〜」
少しでもナナルの助けにと彼女の側に残された陽の妖精が、ブリッジに上がって来た主人の胸に飛びついた。
「ナナル、剣を‥‥」
とアレクセイが腰に手を動かすのをナナルが留めた。もう暫く持っていろという事だ。その時、彼女は刺さるような視線を感じ取る。視線の主はミケーネであった。
「皆お疲れさん。とりあえず分かった事を報告するよ」
そう言って琢磨はブリッジに揃った冒険者の前で描いたばかりのマップを広げた。
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↓町へ
■/高い塔
□/遺跡
仝/木
+/岩
━/壁
∴/平地
●/恐獣部隊
凹/フロートシップ
凸/バグナ
◎/ガナ・ベガ(琢磨が出した推定位置)
「結構な包囲網だが、これを掻い潜って俺たちは塔の最上部まで上り、そのどこかに置かれている水晶球を探し出して壊す。でなければ擬似空間である空は消失せず俺たちは先に進めない。そういう事だな」
琢磨の言葉に巫女は頷いた。
「カオスドラゴンに関する情報は無いのですか?」
不安そうに尋ねるソフィアに再び琢磨が答えた。
「王宮に眠っていた古書や記録を調べ直して分かったのは、そいつが火を噴いたり魔物と共通の能力を持っているらしい事、恐らく再生能力が備わっている事‥‥くらいかな。俺ももう少しデータが欲しいけどね」
「巫女に関する‥‥」
と言いかけてソフィアは口を閉じた。巫女の話が伝説の内に残っていない事に彼女は言い知れぬ不安を抱いていた。
「巫女は私たちが全力でお守りしましょう」
彼女の不安を察したジャクリーンがそう言ってソフィアの肩を抱き、フォーリィもその場を和ませる為に声を上げた。
「あ〜〜お腹すいちゃった! 皆で何か美味しいものを捜しに行かない?」
彼女の一声で冒険者たちは一先ずキッチンへと向かった。ナナルも嬉しそうに皆に従った。
やがてブリッジに残った琢磨とカフカが地図を眺めて唸っている所へ一人の騎士が新たな情報を伝えに来た。捕縛した捕虜がカオスの魔物が塔にいると吐いたのだ。背に翼を持つ容姿端麗で穏やかな物腰の大柄な魔物は冒険者を手厚く迎えるだろうと捕虜は不敵に笑ったという。
【敵兵力】
カオスの魔物
ガナ・ベガ 1騎(今回戦ったもの)
バグナ 5騎
大型恐獣部隊 2個群
中型恐獣部隊 2個群
翼竜部隊の数は不明。
そして艦内に残る僅かな不安要素――アリオスが空戦時に甲板近くで見た敵兵だ。
カフカはミケーネを問い正したが、斬った兵の死体は放り出したと彼女は供述を変えなかった。それは彼女らしからぬ事だった。だが、冒険者は前に進まねばならない。旅はまだ始まったばかりなのだ。