混沌竜封印

■キャンペーンシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:34 G 36 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月06日〜12月09日

リプレイ公開日:2007年10月13日

●オープニング(第1話リプレイ)

●嵐の前に
「天におわす我等が父タロンよ、是より精霊の聖地を守る為の戦いに赴きます。どうか我等が意思を御照覧あれ」
 静まり返った早朝の教会で、ファング・ダイモス(ea7482)はその身に宿った英雄の紋章に手を当てながら心静かに祈っていた。
「これは奇遇ですね」
 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)の姿があった。
「人は同じような事を考え付くものなのですね」
 彼女はそう言って笑うとファングの隣で膝を着き同じようにして祈りを捧げ、それを見たファングもまた静かに頭を垂れた。英雄たちの志を継ぎカオスの穴を封印し、必ずや再び皆でこの地に帰り立つ事を願って。

「こんな早い時間から連れ出して申し訳ありません」
「いえ、無理にお誘いしたのは私ですからっ」
 馬車を降りるなり侘びを入れるカフカにリューズ・ザジ(eb4197)は赤面しつつ答えた。朝の貴族街はまだ静かだ。二人は開いている店に入ってハーブティーを注文した。
「鎧姿以外の貴方を拝見出来て良かった。水色のドレス、大変お似合いですよ。勿論、普段のお姿も凛々しくていらっしゃるが」
「カフカ殿、そのような気遣いは」
 リューズが困っているのを見て、カフカは思わず微笑む。貴族の娘はこの種の世辞を並べられるのに慣れているものだが、それと対照的な彼女の瑞々しさに彼は好感を持っているようだった。
「あの‥‥ミケーネ様も参加されるのですね」
 リューズはつい心に掛かっていた事を口にした。これは只の噂なのだがミケーネは婚儀を控えているという話で、今回の作戦から外して欲しいと両家から強い要望があったという。カフカは彼女にリザベの任に就くよう進言したのだが、ミケーネは断固拒否。カフカは根負けして彼女の乗船を許可したという。
「私がまだ尉官だった頃からの付き合いでね。彼女は優秀な軍人だが、私は彼女に幸せな家庭を築いて欲しいと願っています。これは女性蔑視と取られるかな」
「いえ、その様な」
 と、生返事を返しながらリューズは思う。
 ああ、やはりカフカは気付いていないのだ――ミケーネは婚約者よりもカフカを選んだというのに。
(私の邪推かもしれぬ)
 そう心の中で呟きながら、リューズは冷めかけたカップに口を付けた。

 丁度その頃、フォーリィ・クライト(eb0754)も珍しくドレス姿で琢磨の部屋を訪れていた。勿論、前に約束した食事に行く為であるが、正装した彼女を見るなり『なんで髪も結わないんだ。素材はいいのに』と細かい文句を付ける琢磨にフォーリィが逆ギレ。乱闘騒ぎになった所へ琢磨に金を高利で貸し付けようと思ってやって来たアリオス・エルスリード(ea0439)が現れてなぜか仲裁役に回る事となり、ついでにフォーリィの髪を巻き髪風に仕上げて無事二人を貴族街へと送り出した。お疲れ様である。
 又、その日の午後にはバルザー・グレイ(eb4244)が愛馬2頭を連れてダロベルが置かれている格納庫に向かっていた。ペットの乗船は提督の許可を得たものだ。すると同じように荷を積みに来たグラン・バク(ea5229)に出くわす。
「俺は過ちを二度と繰り返す気はない。必ずこの地の平和を守る」
 彼は過去同様の危機に遭遇し、滅び去ってしまった都の事を振り返る。勿論だとバルザーも深く頷いてみせた。

「此れでは御別れの挨拶みたいですわね」
 ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)はそう言って書き掛けの手紙を破り捨てた。それは故郷ウィルに送るはずのものだったが、彼女は思う。必ず戻って来て自分の口で報告すれば良いのだ――と。
 そしてこの夜、同様にペンを握っていた者が二人。ソフィア・ファーリーフ(ea3972)とクーフス・クディグレフ(eb7992)だ。鎧騎士として身を立てんとメイディアに出て来たクーフスにとって、この作戦への参加は彼にも家族にも大層な誉であり、彼はその思いの丈を故郷への手紙に認めた。又同時に彼は『混沌の刻印』の女性の事を思い、混沌の正体を知りたいと願った。
 ソフィアも想い出のハロウィン羽根ペンを握り締め、逝ってしまった親友を思う。
(きっとこの空の下のどこかで、私と同じように空を見上げてますよね)
 彼女はそっと友の名を呼んだ。

●乗船
「ソフィア〜〜元気だったか!」
 ブリッジに上がって来たソフィアの姿を目にすると巫女は矢庭に駆け出して彼女に抱きついた。
「はいはい♪ ナナちゃんこそ調子は?」
 ナナルは笑顔でブンブンと手を振り回す。すると今度はリューズが大きな竜のぬいぐるみを巫女に贈り、彼女は大喜びでそれを受け取った。また、巫女はフォーリィから琢磨が約束を果たした事を聞くと自分の事のように喜んだ。
「今度は女性陣だけでお菓子食い倒れツアーに行こうね!」
「お菓子食い倒れ♪」
「だから、『絶対皆で一緒に』帰るんだからねっ」
 フォーリィの言葉に一瞬顔が曇ったナナルだったが、すぐに笑顔で頷いた。
 それから巫女は異国の模様が入った布に巻かれた『阿修羅の剣』をカフカの元から持って来る。
「カフカも琢磨も剣を持つと気が散ると言って困っていたのだ。アレクセイが守ってくれると助かる」
 決して剣を抜かない事を巫女に誓い、剣の防護を申し出た彼女はそれを受け取った。
「ファングは本当に背が高いなー、うわっ!」
 女性陣の背後に控えていたファングの傍に寄った巫女の前で彼はふいに屈んで片膝を着いた。
「ご無礼をお許し下さい、見下げるようで心苦しかったのです。――カオスの穴を封じ、必ず幸せな未来への道を切り開いてご覧に入れます」
 たとえ巫女にどんな運命が待っていても、と彼は言葉に出さなかったがナナルは彼の強い思いを受け取った。
「緊張するなと言うのは無理だろうが緊張しすぎても満足に動けん。決死の覚悟と言うやつはどうも空回りしがちなんでな、落ち着いていけば大丈夫だ。後、倒れられても面倒を見切れんから無茶はせんようにな」
 とバルザー。
「恐れは決して悪いものでない。それは時に強さに変わるぞ。ただ後悔しない生き方が出来るかどうかだ。なので、言うべき事は言わねばな」
 とグランはなぜかフォーリィに目線を振る。
「今更怖がってないっ! 言いたい事はいつも言ってるってば!」
 と心配する二人の前でじたばた悪態を付く琢磨であったが、その時カオスの地に差し掛かるという声が艦内に流れ、同時にブリッジに緊張が走った。

●強行突破
「では、これより巫女と数名の兵がテレスコープを使って広範囲の索敵を行なう。状況は琢磨がテレパシーで逐一味方艦とグライダーに連絡。各自連携を怠る事無く、犠牲を最小限に抑えて敵を牽制すべし!」
 カフカの号令で皆が持ち場へと散った。
「クーフス、宜しく頼むな」
「りょ、了解!」
 初めて巫女と顔を合わせたクーフスが少し緊張していたのを察していたのか、巫女は彼の名を呼んでから彼を格納庫へと送り出した。
 ちなみに、母艦に管制官を置く案は琢磨と同時にアリオスからも上がった。地球人の琢磨は兎も角、ジ・アース出身の冒険者からも近代戦(というらしい)の戦術が考案される状況に時代の流れを感じたカフカであった。
「何だかんだで年少コンビだ、うまくやろう。俺は母艦が落ちるのは二度と見たくないんでね」
 グライダーの操縦席に着いたリューズに声を掛けたのはそのアリオスだ。確認された敵艦は2隻のみだが、しかし翼竜の数が半端では無かった。その数50いや100騎‥‥その異様な数からしてあるいはカオスの魔物たちが化けて混じっているかもしれなかった。
「下手に囲まれてはこちらが不利だ」
「味方のバリスタに巻き込まれない為にも高度を維持しつつ、極力敵を落としていくとするかね」
 リューズとバルザーは機体を発進させ、アリオスは弓矢で遠距離魔法を仕掛けてくる魔術師を、バルザーに同乗したアレクセイは母艦に接近してくる敵の弓兵や操者を狙ってウインドスラッシュで応戦した。
 一方甲板に出たジャクリーンのヴァルキュリアは母艦の進路を塞ごうとする翼竜を矢で払いのけていた。味方の艦2隻が敵の抑えに回ってくれたからだ。
「力を合わせて戦乙女の名に恥じぬ戦いをしましょう!」
 足場の悪い甲板では多少のハンデはあるものの、ヴァルキュリアが放つ矢はあれほど冒険者が手こずった中型翼竜を一撃で落した。
 一方、クーフスが乗るオルトロスは実質、突貫してくる翼竜や弓兵の矢から船を守る盾となっていた。オルトロスは船の損傷を抑えるべく可能な限り甲板を動き回り、長柄武器と大型の盾で敵を牽制したが、翼竜から甲板に飛び降りて直接ブリッジを狙いに来る敵歩兵も少なくなかったので、彼らの一掃にはグランとファングが当たった。剣豪である彼らはソードボンバーを初め豪快な剣さばきを披露。その凄まじい修羅場の中で勇気を振り絞ってソフィアはグラビティーキャノンを放つ。これは主に敵艦の船底を狙って発射されたが、直線的に威力を発揮するその重力波動は敵翼竜部隊にも大きなダメージを与え得た。
「しつこいと男性も船もあしらわれ方は同じですっ!!」

「う〜〜〜〜っっ」
 と、ブリッジで唸っているのはフォーリィだ。
「気になるなら外に出ていいぞ。こっちは何とかする」
「駄目! もしカオスの魔物が入ってきたらどうすんのっ! あたしは此処を死守すんの!」
「死なれちゃ困る。一緒に飯が食えなくなる」
「あたしは死にませんっ!」
 と、フォーリィが声を上げるのと同時にナナルも声を上げた。
「カフカ、敵は照準をこちらではなく他の艦に向けたようだ。残った翼竜部隊が一斉に火責めを始めたらしい」
「他の艦を追詰めてこちらの足をも止める気か!」
 ブリッジから外を見ると確かに周囲に群がっていた翼竜の多くはすでに移動し、囲まれた味方の艦から火の手が上がり始めている。
「提督」
 刹那、琢磨が神妙な顔つきで会話に割って入る。
「前衛の艦長から伝言だ。『我等に構わず突入されたし。我等この地に散ろうともメイの誇りは散る事はない』」
「そんな!」
「どうするのだ、カフカ」
 巫女は冷静に提督に問いかけ、カフカは深く息を吸ってから船尾にも届くほどの大声を張り上げて皆に命じた。
「我が艦はこれより2分以内に全速力で穴へ突入する! よってグライダー隊とゴーレム隊を大至急収容、琢磨は急ぎ伝達、手の開いている者は全て突入に備えて守備を固めよ!」
 カフカの苦渋の決断であった。味方を助けに行けばダロベルも損傷を受けるのは必須であり、加えて敵に次の手を許す事になるのだ。
「琢磨、艦長に伝えてくれ。必ず生きてメイの地を踏んでくれと」
「‥‥了解した」
 琢磨の連絡を受けた冒険者たちは直ちにブリッジに集合した。
 ダロベルは進路を定めるとまさしく全速力で穴へと急降下し、避け切れなかった翼竜は次々に船体にぶつかって弾かれた。彼らは味方の無事を確認する事は出来なかったが、声を上げて泣き叫ぶ者はいなかった。必ず生きて再び会えると信じたから――。

●カオスの穴
「これがカオスの穴‥‥」
 暗闇に目が慣れてきたファングは思わず呟いた。穴の中は完全な闇ではなかった。というのも、所々光が洩れている箇所もあったからである。そうして、穴の中はいわゆる洞窟のそれと変わりは無いように見えた。広さはダロベルが辛うじて通れる広さだ。
「我等を追ってきた艦がある」
 と巫女。にわかにブリッジがざわつく。
「どのくらい離れているのですか」
「正確には分からぬが、精霊砲とやらが届く距離ではないな」
「不慣れな場所でぶっ放して己が進路を塞ぐほど敵も無能じゃないわけだ」
 と言うアリオスに続いてグランが提案する。
「マジカルミラージュで追跡を妨害しては」
「それ、面白そうだな、やってみるか♪」
 とナナルが詠唱に入った瞬間――ダロベルは今まで体感した事の無い強い衝撃を受けた。
 そして次の瞬間、冒険者は信じられない様な光景を目の当たりにした。
「町が‥‥ええ、町です! 確かに!」
 アレクセイがそう叫ぶと幾人かが甲板に駆け出した。狭い通路を抜けて大きな空洞に出た船はそこに『浮遊する町』を見た。ぽかりと浮かんだ大地には人気の無い小さな町があり、緑があり、そして空があった。
「幻影か」
「いや、幻でないものもあるぞ」
「あれはまさかガナ・ベガでは‥‥」
 ジャクリーンの声が上擦る。確証は無かったが、噂に聞いた事のある敵の新手ゴーレムだと彼女は直感で判断した。

 奇妙な町の広場にガナ・ベガ1騎とゼロ・ベガ1騎、バグナが2騎確認された。そして後方からは敵艦が迫っている。果たして冒険者はこの戦場を駆け抜ける事が出来るだろうか。

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8745 アレクセイ・スフィエトロフ(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4197 リューズ・ザジ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●斥候
「くれぐれも無理はするな、琢磨殿、有事の際には躊躇わずに二人を乗せて戻ってくれ。搭載限界値ギリギリだが、無茶な飛行さえしなければ危険は無いはずだ」
 アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)とフォーリィ・クライト(eb0754)を乗せた2騎のグライダーは浮遊する町の広場から少し離れた草叢に敵の視界を避けるようにして降り立った。操縦者はバルザー・グレイ(eb4244)と上城琢磨である。
「こっちでゴーレム戦になったらあたしは残って合流するから、敵艦の方は宜しく頼むわね、バルザー!」
「承知!」
 フォーリィの激励にしっかと答えると、バルザーは3人に見送られながら再びグライダーで空へと浮上した。他方、町に降り立った琢磨らは町をすり抜けて、その先にあるらしい遺跡へと探索の足を延ばさねばならなかった。
 浮遊する奇妙な町に遭遇した冒険者らは早速島に索敵を掛ける事にした。具体的にはソフィア・ファーリーフ(ea3972)がミラーオブトルースで町全景を映し、巫女が陽魔法を用いて補助に当った。そこから得られた情報では、広場の先の丘陵付近から強い魔法反応が見られた。
「遺跡‥‥塔の上の水晶玉‥‥それを取り除けば新たな道が」
「ナナちゃん?」
 ソフィアに声を掛けられてナナルは我に返った。恐らく町を抜けた丘辺の遺跡に敵の本陣がある――というのが巫女の出した結論だ。だが、ダロベルを追って来た敵艦もすぐ間近に迫っており、カフカは冒険者と協議の上で先に敵艦を撃落とす事を決めた。その間にアレクセイら斥候部隊で少しでも敵地の情報を掴もうという作戦である。尤も町からの退路を確保する為にはグライダーが必要だったのだが、貴重な鎧騎士を割くわけにも行かず、先日飛行講習を受けたばかりの琢磨がその任に就く事となった。同情すべきは後に乗るフォーリィであったが、それは兎も角。

「では私たちも早速仕事に掛かりましょうか」
 そう言って所持したインビジブルのスクロールを確認するアレクセイの手がふと止まる。彼女は腰にぶら下がっている阿修羅の剣をじっと見詰めた。カオスの穴の中では安全な場所など何処にもない。それはダロベルの中とて同じ事だと巫女は言い、彼女に持って出るよう勧めた。冒険者はその言葉にいささかの疑念を抱いたが彼らは巫女に従った。
「んー、広場で戦闘になったら艦に残るのは射手のアレクセイとアリオスと‥‥ブリッジはソフィアだけになるのかな」
「ああ、グランもファングもゴーレム戦に加わると言ってるからな。それがどうかしたのか?」
「‥‥いやっ、何でもないっ」
 この時フォーリィの胸に一抹の不安が過ぎったのだが、先行したアレクセイからGOサインが出たので彼女は琢磨と共に遺跡に向かって歩を進めた。

●空戦
「敵がこちらに戦力を割いた事で地上の生存率が上がったと思う事にするか」
 アリオス・エルスリード(ea0439)はリューズ・ザジ(eb4197)が操縦するグライダーの後部座席で弓の調子を見ながらそう呟いた。
「ここで一気に後顧の憂いを断つ。その為にも敵には派手に沈んでもらわねばな」
「我等の目的は翼竜部隊を牽制し混乱させる事。ソフィア殿らが集中して攻撃出来るよう、本艦目掛けて飛んでくる奴らは片端から落す事にしよう」
 後部座席に騎士団の弓兵を乗せたバルザーは、仲間と共に出撃の号令を緊張した面持ちで待ち構えた。

「ナナル、岩壁の幻影は上手く作れそうか?」
「当然だ。グラン、私を誰だと思っている」
 ちょっと偉そうにグラン・バク(ea5229)に流し目を送って後、巫女は静かに詠唱に入る。通路から出て来る敵の視界を壁の幻影で塞ぎ、艦の動きに乱れが生じた隙に集中砲火をお見舞いしようというグランの策である。
「何らかの方法で町側の部隊と通信を行っている可能性もあるので不意打ちを仕掛けるとはいえ油断はできませんね」
 ヴァルキュリアに搭乗する為ゴーレム格納庫へ向かったジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)の進言に従ってダロベルは敵の攻撃範囲の死角を考慮に入れつつ不思議な空洞内に布陣し、状況を開始した。
「今だッ、撃て――――ッッ!!」
 刹那、ダロベルの精霊砲が火を吹き、同時に甲板上のヴァルキュリアのゴーレム弓がビュイイ――ンと鈍い震動音を響かせた。続いて間を置かずにソフィアのグラビティーキャノンが敵艦の精霊機関付近を狙って放たれる。彼女は先の対艦戦での経験から攻撃のコツをかなり掴んでいた。だが、敵も負けてはおらず体勢を立て直すと十数騎に及ぶ翼竜部隊を艦から出撃させた。敵はグライダーを温存しているのかその姿を見せないが、ダロベルから飛び立った味方のグライダーは率先して翼竜の騎手や弓兵を射落とした。翼竜本体はバリスタの餌食となるのだ。
「前には浮遊する町、後ろにはFSか、厄介だな」
「フロートシップは今ここで仕留めるんですっ!」
 そう気合を入れて断言する魔法使いのソフィアに圧倒され、思わずファング・ダイモス(ea7482)も気合を入れて吠えた。
「ちょこまかと鬱陶しい奴らだ。だが、この艦には一兵たりとも乗船はさせんぞ!」
 そう叫びながら長槍を振り翳し、甲板に近づく翼竜共と応戦するのはクーフス・クディグレフ(eb7992)だ。翼竜と対峙する度、彼の脳裏にカオスニアンのある戦士の顔が浮かぶ。『魔戦士イザクと話がしたいなら、まずは生きて帰る事さ』――琢磨の言葉を思い返しつつ、彼は槍を握る手に力を込めた。
「艦長! 敵艦に火の手が上がりました!」
 オペレーターの声に思わずブリッジがどよめいた。精霊砲、銀ゴーレムの弓、重力波動による連続攻撃が見事に功を奏したのだ。だが――。
「グライダーだ!」
 前方から敵のグライダーが2騎向かって来る。グライダーの速度は翼竜とは桁違いだ。油断すれば即こちらがやられる。だが、リューズらは敵の挑発には乗らずにまずは距離を保った。そのほんの一瞬、ダロベルを振り返ったアリオスの瞳にもう一騎のグライダーが目に入った。3騎目のグライダーは味方の死角に潜み、翼竜部隊が執拗に攻めている甲板とは違う舷に近づいた。
「しまった! 奴ら乗船する気だ!」
 だが、アリオスが叫ぶと同時に敵のグライダーが宙を裂くようにして突撃して来る。アリオスは仲間が敵の気配に気付いてくれる事を祈りながら眼前の敵に弓を引いた。

●町へ
「あと10分は休めそうかな」
 ダロベルのゴーレム格納庫の床に転がりながらリューズは思わず零した。
 敵艦は船底左舷から炎を上げながら町の広場の先の丘辺に降下した。それに伴い交戦は中断、冒険者は次の戦いの為に暫しの休息を取っていた。
 アリオスは敵兵が甲板から侵入しなかったかと船内を確認して回った所、副官のミケーネが『賊は斬り捨てた』と答えた。一方、遺跡付近の大雑把な調査を終えた琢磨からのテレパシー連絡を受けたカフカは、広場に居座るゴーレムを打ち倒す為にゴーレム隊を町に降ろした。
 グランはゴーレムの肩に乗り一緒にカタパルトから出て来たのだが、その時の勇姿は良いとして、ゴーレムの肩まで攀じ登るのはいささか骨が折れたようである。
 やがて、人気の無い町を通って広場へ向かう途中でゴーレム隊は元気溢れるフォーリィと合流した。
「やっと暴れられるわねー! やっぱあたしに忍び仕事は向かないわっ」
「暴れるのもいいが、俺たちには敵の鎧騎士を捕縛する役目もあるんだぞ」
「この場所について詳しい情報を得る必要もあるし、殺してしまっては意味がない」
 と真剣にフォーリィに諭すグランとファングではあったが、彼女の目は戦闘に掛ける闘志ですでに爛々と輝いていた。

 やがて味方のゴーレムの姿を捉えた敵のガナ・ベガが剣を高く振り翳した所で両者の戦いは始まった。
 フォーリィはゴーレムと共に降ろされた愛馬に跨り、機動力を生かしつつバグナの前後左右に回りこんで果敢に攻め、グランは重心を崩させる為に巨大なハンマーを振り下ろしてはゴーレムの脛から膝を狙った。同じくファングもその長身を生かして揺さぶりを掛けつつ敵の足を壊す事に努めた。実際、剣豪の天界人が繰り出すバーストアタックやスマッシュは頑強なゴーレムにも十分有効であり、回避力の高さが彼らの身を守った。
「魔物に組みせし者に騎士道は不要。ゴーレムの格が違うがこの場に出てきた己が不運を嘆け」
 オルトロスを駆るバルザーは戦闘能力の高さをもって容赦なくバグナを圧倒した。敵も銀ゴーレムを出している以上、雑魚は早期に片付けるのが道理。彼はバグナを殴り倒すとその上に跨って真っ先に脚部を砕いた。
 一方、クーフスはオルトロスでゼロ・ベガに対抗した。
「最悪他への増援に向かわせないように抑えておくだけでも良し!」
 そう指針を決めたクーフスの剣に迷いは無かった。彼はフェイント攻撃に比重を置くと根気強く粘りの攻撃をみせ、隙を伺ってはディザームを放ち、ゼロ・ベガは遂に身を守っていた盾を落とした。
 そして敵の主力ガナ・ベガに対するのはリューズのヴァルキュリアであった。又、ジャクリーンもアルメリアに搭乗し後方から的確な援護射撃を行いリューズを助けた。彼女の策はポイントアタックを使って装甲の隙間を突き、手足の関節部分を破壊、機体の活動を停止させるもの。だが、ガナ・ベガはやはり他のゴーレムとは感触が異なった。機体の性能もそうだが、恐らくは操縦者の腕も相当高いのだ。
「ここで負けるわけにはゆかぬ! カオスの穴を封印する為に!」
「穴を塞いで何とする? 我等は魔物の力を借りずとも、強欲なメイの国など打破してみせる!!」
 強欲とは何たる侮辱――リューズでなくともバと戦う者は皆そう思っただろう。だが、敵はなぜ我等を憎み、敵対するのか。侵略行為を行なっているのはバの国だというのに‥‥。
「一旦お引き下さい、隊長! ここは私が死守します!」
 クーフスが盾を奪い、鎧もボロボロになったゼロ・ベガはそれでも力を振り絞って両者の間に割って入った。
「無茶を言うな! くそ、退却だ! 本陣まで退く!」
 号令と同時にゼロ・ベガは最後の抵抗に出た。ゼロ・ベガは体を張ってガナ・ベガとバグナの制御胞から脱出した仲間の逃走を助け、その代償に自らが捕虜となった。
 その潔さに冒険者は肝を抜かれたが、ともあれ彼らは勝利した。

●遺跡
 話は後になったが、ゴーレム戦を空から支援するはずだったダロベル内では別の事件が起こっていた。
 ゴーレム隊を降ろして離陸した直後、艦の精霊機関付近から小火が出たのである。アリオスの勧めで消火体制を整備しておいたおかげで大事には至らなかったが、それが不審火であった事が艦内に不穏な空気を齎していた。

「アレクセイ、お帰り〜」
 少しでもナナルの助けにと彼女の側に残された陽の妖精が、ブリッジに上がって来た主人の胸に飛びついた。
「ナナル、剣を‥‥」
 とアレクセイが腰に手を動かすのをナナルが留めた。もう暫く持っていろという事だ。その時、彼女は刺さるような視線を感じ取る。視線の主はミケーネであった。
「皆お疲れさん。とりあえず分かった事を報告するよ」
 そう言って琢磨はブリッジに揃った冒険者の前で描いたばかりのマップを広げた。


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↓町へ

■/高い塔
□/遺跡
仝/木
+/岩
━/壁
∴/平地
●/恐獣部隊
凹/フロートシップ
凸/バグナ
◎/ガナ・ベガ(琢磨が出した推定位置)

「結構な包囲網だが、これを掻い潜って俺たちは塔の最上部まで上り、そのどこかに置かれている水晶球を探し出して壊す。でなければ擬似空間である空は消失せず俺たちは先に進めない。そういう事だな」
 琢磨の言葉に巫女は頷いた。
「カオスドラゴンに関する情報は無いのですか?」
 不安そうに尋ねるソフィアに再び琢磨が答えた。
「王宮に眠っていた古書や記録を調べ直して分かったのは、そいつが火を噴いたり魔物と共通の能力を持っているらしい事、恐らく再生能力が備わっている事‥‥くらいかな。俺ももう少しデータが欲しいけどね」
「巫女に関する‥‥」
 と言いかけてソフィアは口を閉じた。巫女の話が伝説の内に残っていない事に彼女は言い知れぬ不安を抱いていた。
「巫女は私たちが全力でお守りしましょう」
 彼女の不安を察したジャクリーンがそう言ってソフィアの肩を抱き、フォーリィもその場を和ませる為に声を上げた。
「あ〜〜お腹すいちゃった! 皆で何か美味しいものを捜しに行かない?」
 彼女の一声で冒険者たちは一先ずキッチンへと向かった。ナナルも嬉しそうに皆に従った。
 やがてブリッジに残った琢磨とカフカが地図を眺めて唸っている所へ一人の騎士が新たな情報を伝えに来た。捕縛した捕虜がカオスの魔物が塔にいると吐いたのだ。背に翼を持つ容姿端麗で穏やかな物腰の大柄な魔物は冒険者を手厚く迎えるだろうと捕虜は不敵に笑ったという。

【敵兵力】
カオスの魔物
ガナ・ベガ 1騎(今回戦ったもの)
バグナ   5騎
大型恐獣部隊 2個群
中型恐獣部隊 2個群
翼竜部隊の数は不明。

 そして艦内に残る僅かな不安要素――アリオスが空戦時に甲板近くで見た敵兵だ。
 カフカはミケーネを問い正したが、斬った兵の死体は放り出したと彼女は供述を変えなかった。それは彼女らしからぬ事だった。だが、冒険者は前に進まねばならない。旅はまだ始まったばかりなのだ。