事件3
担当:高原恵

 しがない物書きである私がそのデータを入手したのは、本当に偶然の出来事であった。そう、何せわざわざ狙って入手した代物ではないのだからして。

 事の起こりは、私が長年愛用していたノートパソコンの調子が、いよいよもって怪しくなってしまったことに発する。私は愛機が完全に沈黙してしまう前に各種データ類などの退避を完了させ、新たな相棒を求めるべく同じ町にあるリサイクルショップへと夕闇迫る中を向かうことにした。新品を購入するには、現在懐が乏しかったからである。
 同じ町とはいえ、目的の店は海岸にほど近い私の家より徒歩で三〇分近くかかる場所だ。近頃は物騒ゆえ暗くなる中を歩くというのはなるべくであれば避けたい所だったが、こればかりは致し方ない。
 この日スマートフォンより検索を行うまで、私はその店の存在を知ることがなかった。そこは個人経営でやっているらしく店構えも大きくなく、店内における各種リサイクル品の陳列は、いやはや雑多なものであった。
 けれどもそんな中に掘り出し物とは隠れているようで、さほど型の古くないノートパソコンが安価で並んでいたのだ。愛機より格段にスペックが上昇し、かつ予算の半額近い価格は大変魅力的で、私は深く考えることなく購入を決断した。

 そして気付いたのは、小雨が降り始めた中を帰り着き、一息ついてからノートパソコンを起動させた後のことだ――ゴミ箱フォルダの中に、何やらフォルダに入ったデータがある、と。
 慌てて他も一通り調べてみたが、そのこと以外はシステムをインストールしたばかりの状態であるように私には見えた。とすれば考えられるのは、店側のミスなのだろう。
 安いにはそれなりの理由があるものだと思いつつも、今しがた見付けたばかりであるデータの内容が気になった私は、念のためそのノートパソコンがウィルスに感染していないことを確かめ、中身を覗いてみることにした。
 フォルダの中はさらに多くのフォルダに分かれていて、そこかしこにテキストデータと画像データ、それと音声データが入っていた。それらのファイル名は規則的に数字が振られているだけで、そこからファイルの中身を推察することは出来なかった。

 犬の遠吠えを耳にしつつ、意を決して私はそれらファイルを適当に選択して開いてみた。最初の感想を述べるなら……まさしく「何だこれは」だった。
 テキストデータはメモ書きや報告書のような記録、それに人物データといった類であるだろうか。音声データは何かの怒号や悲鳴だったり、何かを激しく破壊するような物音、はたまた音声メモといった類。画像データは画像処理ソフトで加工でもされているのか、セピア調だったり白黒だったり、トリミングされていたりなどといった具合だ。
 さて写っている物はといえば、そもそもピントがぼけていてよく分からないのもあれば、イルカやリュウグウノツカイといった海の生物、また石畳の道や砕け散った何かの像などと、被写体に一貫性が見られない。砕け散った像が写った画像をよく見てみたが、頭部に何やら月桂冠でもいただいていたのだろうかと思う破片が目についたくらいである。
 どうやらこれらデータは、潜水艦だか潜水艇だかに乗り込み、とある海域の海底へ向かった者たちの記録の類であるらしい。にわかには信じ難いが、一時間以上かけていくつかのテキストデータを読み解いた結果、そのように私は判断せざるを得なかった。

 それによると、何でもその地には「神殿」なる代物が存在しているそうだ。曰く、「神殿」に至りし者は大いなる知識を得られる。曰く、「神殿」に至りし者あれば大いなる禁忌が放たれる。そんな、二つの伝承をまとって。
 「神殿」が存在するという海域は「ねじれたる地」であるらしい。未だ詳細にデータを調べていない身であるが、「ねじれたる地」と聞いて空間なり時間なりがおかしなことになっているのだろうかと即座に思ってしまったのは、私が物書きゆえの性であろうか。
 その海底に向かった者たちは、何がしかの目的を持って参加していたようである。伝承を追い求めてなのか、はたまた「神殿」そのものに興味があるのか、いやいや全く違った動機があるのか……そこはこれらデータをより詳しく読み込んでいく必要があるだろう。
 しかし途中、彼らは得体の知れぬ代物と遭遇を果たし、一悶着あったという。これらの内容も詳しくはやはりデータを深く見ていかなければ分からないが、その断片はいくつかの音声データから推察出来た。怒号や悲鳴を発するような事態があったのだろう、と。

 普通であればとても凝ったフィクションだと、一笑に付す代物なのかもしれない。常識的に考えてみて、世界中に話題を巻き起こすような記録が、町の個人経営のリサイクルショップなどに転がっているはずもなく。
 けれどもそれらデータは、私の執筆意欲を刺激させるには十分過ぎる代物であった。幸いにして、この数日は時間がある。数多いデータ整理も兼ね、足りぬ部分は物書きたる私の想像で補いつつ、記録をきちんとまとめてみようではないか……。


○ライターよりご案内○
 少々毛色の変わった事件の入口かもしれませんが、本質的には同じです。海での出来事が語られていく訳です。
 ただ、その起こった出来事がデータとして記録――出来事の全てが、とは限りません――されているのと、【私】によって整理されて――欠けた部分が【私】の想像力で補われた――文章として綴られるというだけのことで。

 さて、行動の内容を書くにあたって、取っ掛かりとなる事柄はいくつかあることでしょう。
 例えば、「神殿」には二つの伝承があります。ひょっとすると、あなたのキャラクターはそれらの伝承を信じ、何事かを成就させるべく行動しているのかもしれません。はたまた、そのようなことを阻止すべく暗躍しようと思っているのやもしれません。まあ、全く違った切り口で動いている可能性もあるでしょうが。
 ああ、今回の場合ですと、記録データという物もありましたね。ですので、記録を意識して行動することもありでしょう。
 あえて何がしかの記録を残す、あるいはその逆……やり方次第では非常に面白いことが出来るやもしれませんよ。

 データについて一つ補足しておきますと、あくまで【私】が手に入れたデータが全てデジタル化されているだけであって、元々はアナログデータ――例えば紙など――であった物もあることでしょう。ですので、記録を残すような行動の内容を書かれる際にデジタルかアナログかを意識される必要は別段ありません。無論、あえて形式を指定して記録するというのも問題ありません。

 行動は自由です。事件の入口にて語られていない事柄に対し、実はこうなんだと主張するのもよいでしょう。その主張に筋が通っていて、かつ説得力があれば、なおよいことです。
 「的外れな行動かな……?」と、ご自身でもついつい思ってしまうような行動の内容が書き上がることがあるかもしれません。ですが、もしかしたらその行動の内容こそが、全ての状況を引っくり返してしまうような代物という可能性だってあります。
 重ねて書きますが、行動は自由です。どうぞ恐れることなく、楽しく行動の内容をお書きください。

 最後に。何事もなければ、海底を目指した者たちが「神殿」に辿り着く公算は大きいことでしょう。ええ、道中が平穏無事であればですが……ね。
◇この事件にあなたの神話生物はどう関わる?◇
 この事件は、ほんの入口にすぎません。
 あなたの神話生物は、この状況におかれ、どんな行動に出るでしょうか?
 この事件には、CMFに登場するあの4人のキャラクターも関わってきます。
 どれもひと癖もふた癖もあるようなキャラクターばかり。
 そんなキャラクターに、貴方の作り出した神話生物達はどんな行動を取るでしょうか。

 たくさんのご参加ありがとうございました。
 現在、皆様の行動内容を元に、ライターが鋭意執筆中です。
 完成ノベルは、創土社発刊のクトゥルーミュトスファイルズにて発表される予定です。
 発売日に関しては、決まり次第公開させていただきます。

 なお、今回のライターは、クラウドゲームス運営のWTRPG「ファナティックブラッド」「エリュシオン」ならびに「オーダーメイドCOM」でも活動中です。

 完成までの間、よろしければ是非、クラウドゲームスのWTコンテンツ並びに創土社の既刊書籍でお楽しみください。

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【クトゥルフメイルゲーム運営スケジュール】

1月16日 クトゥルフメイルゲーム特設ページ公開。レギュレーション公開。
1月22日 【事件の入口】他公開。
2月16日 神話生物申請書送信締切。10:00まで。

 採用結果は創土社発刊、クトゥルーミュトスファイルズシリーズ『神殿』(仮題)の書籍にて発表されます。

 なお、参加にはクラウドゲームスポータルサイトt-onへの登録が必須となります。
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