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それゆけ、オーストラリア探検隊!
■クエストシナリオ
担当:
姫野里美
対応レベル:
‐
難易度:
‐
成功報酬:
-
参加人数:
17人
サポート参加人数:
-人
冒険期間:
2007年11月01日
〜2007年11月31日
エリア:
オーストラリア
リプレイ公開日:
01月04日16:55
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オープニング
1話
2話
3話
4話
5話
6話
7話
8話
9話
10話
●リプレイ本文
●それぞれの場所へ
朝になって、それぞれ朝食をとる中、その席でゼルス・ウィンディ(ea1661)が話を切り出す。
「と言うわけで、この地を離れるにしても、このままでは行けないと思うんですよ‥‥」
精霊達の知恵を借り、オーストラリアの結界を復活させる相談を始める彼。
「そうだなー。やはり、次に訪れるまで、ここを守らなければならないしな‥‥」
「フロートシップもありますし、各宝珠を元の場所へ戻したいのです。途中までの希望者がいれば、同乗してもいいですよ」
ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が納得したように頷くと、ゼルスはヴィンセントを指し示す。と、そこへキリル・アザロフ(ec0231)がこう言い出した。
「途中まで‥‥と言うか、その宝珠再設置、お手伝いしてもいいですか?」
「そりゃあ、構いません。と言うか、むしろこっちからお願いしますよ」
宝珠の数より、その身に宿る精霊を考えれば、沢山の人々の思いを捧げる方が、良かろうと言うもの。
「ダッキー。おいで」
「きゅ?」
こうして、準備を整える間、キリルはダッキーを呼び寄せた。小首をかしげながら、ぴょこんっとその腕に飛び乗るダッキーに、キリルはこう語りかける。
「最後かもだしちょっとでも長く一緒に過ごしたいな、今まで出来なかった分たくさん。ね?」
「きゅー‥‥」
ダッキーの方も気付いているのだろうか。鳴き声が寂しそうだ。
「しかし、このまま出発して平気だろうか‥‥」
「簡易補修ならしておきました。多少の雨風なら、平気だと思いますよ」
フロートシップを見上げながら、不安そうに言うゼファーに、キリルは足元に転がった樽を指し示した。建物補充用の松脂が詰まっていたらしく、独特の匂いが立ち込めている。
「物資があれば、もっとちゃんと補修できたんですけどね。前回大騒ぎだったっていっても、ちゃんと気付いて手配しておくんでした・・・」
残念そうに言う彼だったが、それでもないよりはマシである。
「では、行きましょうか」
準備が整ったのを見て、そう言うゼルス。こうして、一行は精霊達への巡礼に赴くのだった。
●アイテム回収
場所の特定は、例の如くバーニングマップだ。短い時間では、正確な精度を持たないだろうが、移動時間が大幅に短縮できる現在、そして時間に余裕のあるオーストラリアでは、20回に1回と言うのは、結構精度が高い。
「マップによると、この辺りだな」
その写しを手に、ゼファーが周囲を見回し、そう言う。代わり映えのしない光景だが、雪切刀也(ea6228)は同じように様子を見て、こう言った。
「ルカと合流したのもこの辺りだし、間違いはないと思うぞ」
確か、彼の話では、様子を探った直後に襲われたとの事。時間と移動距離を考えれば、場所は絞られる。
「元から岩舟になかったのでなければ、かつて工房遺跡から岩舟に送られた魔法武器もあるかもしれん」
「あの広場が良さそうですね。着艦します」
ゼファーがそう言うと、キリルは頷いて、近くのちょっと広がった所に、シップをつける。驚いた鳥達が舞い上がる中、次々と地面へ降りる彼ら。
「何か面白い物でもあると良いのだがな」
そう言って、茂みをかきわけるゼファー。と、しばらくしてミカエル・クライム(ea4675)が、宝石の欠片みたいな物を持ってくる。
「ねぇ、これなんかどうかなぁ?」
「どこで見つけたんです? それ」
ゼルスが尋ねると、彼女は「あっちの川の方よ」と、案内してくれた。付いていくと、川のほとりにある吹き抜け易そうな広場に散らばる、緑の欠片。
「やはり、こう言う事か‥‥。回収しよう」
「OK〜」
おそらく、砕かれた風の宝珠の一部だろう。そう判断したゼファーが、一つ残らず袋に収める事を提案。
「よし、これでいいかな」
「ああ。充分だ」
緑色のきらきらが沢山詰まったそれは、形さえ整えれば、宝珠に見えない事もない。
「これ、ここで処理した方が良いかなぁ」
「いや、きちんとした場所の方が良いだろう。それに、ここだと何があるか分からん」
ミカエルの台詞に、首を横に振るゼファー。妥当だと思った一行は、宝珠のかけらを持ち、本来の奉り場所であるフォトドミールへと向かう。
「風の精霊よ。どうかその姿を現したまえ‥‥」
ゼルスが、願いを込めるように祈る。捧げられたその思いを受けて、集められた欠片が、一つ一つ輝きを放ち、浮き上がって行く‥‥。
「鳥‥‥?」
始め、雲のような塊だったそれは、やがて卵となり、孵る様に鳥の姿となる。
「いや、竜か‥‥」
ゼファーが、その形状を指摘する。鳥にしては翼の形が変わっていた。どうやら、羽毛の生えた恐竜‥‥と行った所だろう。翼竜ともまた違う姿だが、守護者には相応しい。
「始めまして、守護の勇騎」
つけた名は、フォトドミールのダイナソアライダー達にちなんだものだ。
「これまでの事、ご存知でしたか?」
ゼルスがそう語りかけると、精霊は黙って頷く。どうやら、分かってくれたようだ。
「もともと、ここの結界を維持していた存在だからな。助けてくれた礼なんだろう」
「ならば、応えてくれるかも知れませんね」
ゼファーがそう言うと、ゼルスは黙って地の精霊との『絆』を見せる。と、他の精霊と同じように、風の精霊‥‥勇騎は、くぐもった声を発した。
『人の子よ。我を悪しき者の手から救ってくれた事には、礼を言う。だが、我が力は、そなたの力を助長するもの。力が増すと言うのはあるが、他の効果は期待できんぞ?』
同じ風を操る者。共鳴するものはあるが、追加効果と言うのは、難しいらしい。
「何か、助言となるようなものはありませんか?」
『ふむ‥‥』
だが、ゼルスが求めてきたのは、それとは違うものだった。考え込むような口調の勇騎に、彼はこう続ける。
「風と土の魔力は合成できましたが、それは黎明の黄玉の助けがあってのこと。我が属性は風。同じ属性の精霊に、助言を‥‥と思ったのですが」
『風‥‥か。だがこの力は、そなたらが築き上げてきたものを、無に帰す力。人の子では、扱いきれぬ』
首を横に振る彼。ゼルスが「どう言う事です?」と尋ねると、その理由を告げられる。
『風は全てを空へと帰す。それは、人の子が今必要としているものも、そうでないものも同じ。全て吹き飛ばしてしまう』
ああ、と思い当たるゼルス。ストームの大きなものだと考えれば、分かりやすいだろうか。そう思った彼に、風精は思わぬ一言を告げた。
『かつて、この一体が吹き飛んだのもそれが一因だったのやも知れぬ』
「それは‥‥」
考えてみればすぐに分かる話だ。物を飛ばす、浮かす魔法は、その殆どが、風の力なのだから。
『水の兄上と、我が力が合わさる時、それは大いなる嵐を生む。それだけの力、かの地から出すわけには行かぬ』
警告するように、そう告げる風精。だが、ゼルスはかまわずに言った。
「お願いです。先のデビル達だけでなく、世界中に他の生き物や精霊の力を悪用しようとする多くの悪魔が存在しています。この先、その狡猾な知恵の前に、今回以上の危機的な状況に陥ることもあるかもしれません。その時、悪しき力に屈しないために、今の自分に出来る精一杯のことをしておきたいんです!」
熱心な台詞に、風精はしばらく黙っていたが、ややあってこう言った。
『力を集中させねばならんな‥‥』
「制御なら‥‥」
自信がある。少なくとも、人の身で行える術なら、殆どカバーできるはずだと。
『そんな生ぬるいものではない。そなたが術として使うそれを、人の掌ほどの細さに集約する技術が必要だ』
「なるほど。効果範囲が広いなら、狭く圧縮すれば良いと言うわけですね」
今使える魔法でも、そう言った収束型の方法がないわけではない。まぁ、出来る物と出来ないものがあるわけなのだが。
『出来るのならな‥‥。だが、それはすなわち、新たな術を見つけると言う事だ』
「はい。それはもちろんです」
精霊魔術師としては望む所だ。力強く頷く彼に、勇騎は口答える。
『ならば、道しるべを授けよう。それくらいなら、構うまい』
くぇぇぇ! と鳴いて、その嘴で空を摘み上げる。その青さと同じ色をした指輪が現れた。
「これは‥‥。風のリング‥‥」
『土台だ。兄弟達も、それぞれ貴殿らに力を貸すのであろう? それを、集約すると良い』
ちょうど、地の精霊から貰ったリングと、デザイン的には対になっている。効果の程はわからないが、他の地でも、証として使えるかもしれない。
「さて、次はミリオンフレイム様ねっ。うふふふ、楽しみ〜」
そんな彼の様子を見守っていたミカエルが、嬉しそうに言った。後発組な分出遅れたが、彼女とて、精霊との契約には大いに興味がある。ましてや、自分の扱う炎の属性ならなおさらだ。
だが。
「そう言えば、羽恐竜の死体は、イディアさんが燃やそうって‥‥」
「きゃーーーっ。そのまま燃やしたら、困るわーーーー!」
キリルが意外な事を言い出した。かくーんと顎を外すようにして驚いたミカエル、慌てててアリスへと舞い戻るのだった。
●リターンオブリーフ
それから数日後。水葉さくら(ea5480)、東雲辰巳(ea8110)、セラフィーナ・クラウディオス(eb0901)、カサンドラ・スウィフト(ec0132)は、クィーンズランドの宮殿で、女王の間に招かれていた。残るミーファ・リリム(ea1860)は、今頃は陽の精霊であるキャロットと
遊んで、親睦を深めているはずだ。
「ありがとう。これで、この国の結界も、元へ戻る」
王子に礼を言われる彼ら。だが、同行しているレディさんと同じ顔だと、なんだかちょっと複雑な気分だ。
「勇者よ、感謝いたします。我々からは、こんなものしか差し上げられませんが‥‥」
女王は、高齢の為、ソファーに寄りかかったままだが、それでも深々と頭を下げてくれた。
「いえいえ。こちらこそ、アクアシップを使わせてもらってありがとうございます。譲り受けるわがままも、聞いていただいちゃって」
セラが申し訳なさそうにそう言う。宝珠を渡す際、申し訳なさそうに引き続いての使用を申し出た所、快く引き受けてくれたのだ。
「本当は、国を挙げてのお礼がしたかったのですが、それでは、あなたがたをこの地に縛り付ける事になってしまいますから」
「いいえ、充分です。だって私達は、遺跡の探索に来ただけの、旅人ですもの」
首を横に振るキャシー。と、そんな彼女に、衛視である港湾管理局の面々が、滝涙をこぼしながら、声を詰まらせる。
「姐さんと別れ別れになるのは、ちょっとさびしいなぁ」
「だいじょーぶよ。海はどこまでも繋がっているんですもの」
山の人間であるはずの彼女でも、古老に聞かされた事はある。この空の続く場所ある限り、絆は繋がると。海もまた然り。と、それを聞いて管理局の面々は「そりゃそうだ。まさか陸のお人に言われるたぁ思わなかったけどな」と笑う。
「まぁ、こっちも用があるし、数日はここにいるから、充分別れを惜しむがいいって感じかしらね」
「そこに隠れてるヒノミの一族もな」
レディさんがそう言うと、東雲が柱の影で様子を伺っているらしき御仁を見つけて、びしりと指摘する。ぎっくぅぅぅっ! と、顔を引きつらせる彼らに、さくらが「出てきて結構ですよー」と手招きしていた。
「ど、どうも‥‥。この度は、一族の娘が、偉いご迷惑を‥‥」
「いいんだ。ただ、もし悪いと思うなら、一つ提案がある」
申し訳なさそうにそう言う代表者に、東雲はこう切り出した。
「ロシアを始め、他の地域にもファンがいる。可能なら月道等を経由して作品を流通してみないか?」
「そ、そう言った事でしたら、いくつか見繕ってまいりましょう。本格的な貿易は、まだ先になると思いますが‥‥」
詫びの品ともなれば、新たに書き起こしたりしなければならないだろう。そうして専用の品が出来上がってから、発送しようと言うわけだ。
「構わないわ。その頃には、冒険者ギルドも出来てるだろうし」
「ギルド?」
キャシーがそう言った。怪訝そうに聞き返す王子に、彼女はこう説明する。
「ええ、他の国では、私達みたいな何でも屋さんがいて、色んな仕事をこなしてるのよ。例えば、モンスター退治とかね」
冒険者の説明をするキャシー。港湾管理局や王宮で困ったことがあって、組織や配下を直接動かせない場合等に役立てられるようにしておきたい旨を告げる。
「あのアクアシップを貸したままにしてくれるんなら、その繋ぎ役も出来ると思うんだが」
「そう言う事なら、喜んで‥‥と言いたいところですが、宮殿付きの賢者達が何か言い出すかもしれませんね」
大きい国になればなるほど、色々と画策する者が出てくる。新たに組織を‥‥となると、反対意見を唱える保守派も少なくないだろうとの事だ。要は『余所者排斥派』とゆーやつである。
「なぁに、その時はその時だ」
「あの、その重役さんとか賢者さん達に、合成魔法について詳しい方はいらっしゃいませんか?」
そう答える東雲に続くように、さくらがそう尋ねた。
「合成魔法‥‥。精霊の‥‥ですか?」
答えたのは、弟王子の方だ。学者の束ねとして執務をこなしているそうだから、彼が答えるのが適切だと思ったのだろう。
「はい。私は風を主な属性とするのですが、水の属性と、何とか融合できないかしら‥‥と」
「難しい話ですね」
そう希望を告げる彼女に、弟王子は首を横に振る。
「そうなんですか? ゼルスさんは、割と簡単に出来たみたいなんですけど‥‥」
「いえ、合成魔法事態は、難易度は高いですが、考えられない事もないのです。ただ、風と水‥‥となると、引き起こされるのが‥‥暴風を伴う大波なので‥‥」
あー‥‥そうか、と納得するさくら。雨と風と波が一辺きたら、そりゃあ台風と同じである。下手すると、魔法を使った一帯が壊滅だ。
「なるほど、制御が難しいんですね‥‥」
さすがは合成魔法と行った所か。
「バースの遺跡になら、ヒントがあるかもしれませんね。普段、余り立ち入りは出来ないんですが、今回は特別に、許可証を書いておきます」
そう言って、手紙をしたためる弟王子。
「申し訳ありません‥‥」
「いいえ、勇者様の為ですから」
手間を取らせて‥‥と言った感じのさくらに、彼は穏やかにそう言って首を横に振る。
「ただ、数を用意するのに、2日ほどいただけますか? 乾くのに、一度陸に上げなければなりませんから」
「はい。こちらもやる事ありますから」
まだ、ハイドとの約束を果たしていない。その間に、やる事を済ませておこうと思うさくらだった。
●隣人の未来
なんとか恐竜達の死骸を片付け終える彼ら‥‥レオーネ・オレアリス(eb4668)、ファン・フェルマー(ec0172)、イディア・スカイライト(ec0204)、イグニス・ヴァリアント(ea4202)。
「綺麗に、なったな」
血の一滴も遺さず、お祭りが出来るよう、整えられる広場。
「これで、我らも安心して復興に努められると言うものだ」
ほっとしたようにそう言うレオーネ。と、ファンが肩の荷が下りたようにこう言う。
「なんとか一段落着いたのか……でも、日々の生活には追われるのは相変わらずだったりするんだけどなー」
野菜の栽培に、防壁の修理、それに遠出組への保存食‥‥と、一通りの作業を進ませつつ、アリスの面々は、ようやく復興作業に取り掛かる事にした。
「イェーガー、フォトドミールの復興に付いて、何か考えがあれば、聞かせて欲しい。現状で手伝える事があるなら、協力は惜しまない」
それに際し、イグニスはイェーガーに、その希望を尋ねていた。と、補修を指揮していたファンも加わって、まずは設計図と言うわけだ。
「宝珠は取り戻したし‥‥。これからもよき隣人として、アリスの住民達と仲良くやっていけるといいんだが……」
と、そう提案するファンに、イェーガーはこう言う。
「ああ、それなんだが‥‥。確かに宝珠は大切にしたい。だが、宝珠に頼らずとも、人の力で生活を守れるようにしようと思うんだ」
彼が参考にしようとしているのは、アリスの外壁だ。ちょっと意外そうに、イグニスが首をかしげる。
「フォトドミールを、ここと同じように?」
「と言うか、もし、ここが危機に陥った時、今度は我らが力を貸せるよう、避難場所になれるように‥‥かな」
恩返し‥‥と言うわけだ。
「そうか。次にこの地に来るのは数ヵ月後か、はたまた百年後か。いつになるかは分からん。が、必ずここへ戻ってくる。その時も、まぁよろしく頼む」
イグニスが、そう助力を申し出る。次に来た時には、フォトドミールはあの簡素な塀ではなく、もう少し立派な町になっているだろうか。
「宴は、その時で良いのかな」
「ある程度目処は付きそうだが」
イェーガーの問いに、そう答えるレオーネ。新しく建物を建てるには、まだ時間がかかりそうだが、瓦礫の整理と、精霊宝珠を元に戻す作業は進んでいる。早急に、戦前の状況に戻せそうだ。
「なら、その時で構わんな」
「準備にもしばらく時間がかかるし。それに、勤労のあとのご飯は、生きてる実感がわくしな」
レオーネの計画に、違いないと答えてくれるイェーガーさんだった。
●宴会だ!
そして。
「料理よーし、のみモンよーし‥‥」
レオーネが一つづつ確かめている。広場には、ボルシチやピロシキ、恐竜肉を加工して作った巨大な骨付き肉、シダ酒や、その他様々な料理とお酒等が、所狭しと並べられた。
「にぎやかしよーし」
「誰がにぎやかしだ!」
最後に高町恭也(eb0356)に指差して、思いっきりツッコミを食らっている。
「はっはっは。文句があるなら、芸でもやれー」
「なんだとー」
そのまま追いかけっこでも始めかねない彼らに、レディさんが「はいはいそう言うのは、乾杯し終わってからにしなさい」と引止めに入った。
「それでは!」
全員がカップを手にする。彼はは、こほんと咳払いを一つすると、その杯を高々と掲げた。
「勝利に。そして、我らの出会いと友情に乾杯だ!」
「「「「かんぱーい」」」」
宣言と共に、争奪戦の鐘が鳴る。
「あ! そのハラミは俺んだぞ!」
「あたしが先に目ぇつけたしたのよっ!」
まぁ、宴会では良くある話である。が、量はそれこそ余るほど用意したので、次第に争奪戦は収束して行った。
「やれやれ。これで、この面々とも、ひとまずお別れだ。これまで関わりの浅かった者とも、挨拶くらいはしておかんとな」
とりあえず一回りしてこようと、杯と酒樽を抱えて、席を立つゼファー。
「ゼファーちゃーん。飲んでる〜?」
目立つのはセラだ。何しろ、既に脱いでいる。
「って、服くらい着ろ。はしたない」
「えぇ、やだよぉ、暑いし面倒だもぉん〜」
おめめの焦点が合っていないところを見ると、すでにへべれけさんのようだ。ふらふらと手を動かす彼女に、ゼファーは仕方ないなーと言った調子で、自分の上着を貸し出す。
「目の毒だ。上着くらい羽織っておけ」
「ぷー」
ほっぺが不満そうに膨らむが、上着は羽織ったままだ。そんな彼女に、ゼファーはこの先の動向を尋ねた。
「で、お前さんはこれからどうするんだ?」
「そうね。別の場所に冒険かな〜。船か歩きかわかんないけど」
手段は決めていないが、やはり一度オーストラリアを離れるようだ。
「ここでの冒険があるなら、また帰ってくるさ。可愛いお姫さんもいるしさ。あだっ」
そう語る刀也は、黒曜石に小突かれている。浮気禁止とは、怖い精霊様だ。
「ところで、新しい武器とやらは出来たのか?」
「一応な。ただ、やっぱ素人が作ったモンだから、本国の申請監査通るかどうか分からない」
そう答える刀也。一応銘や何やらは申請して見たが、もしかしたら、ぜんぜん別の名前が付いてしまうかも知れない。アイテム開発と言うのは、中々一筋縄ではいかないらしい。
「ああ、そうだ。お前さんには色々世話になったから、何か礼がしたかったんだが」
一方で、ルカは荷物を漁っているが、中々良いのが見付からない。と、そこへレオーネがある品と共に、助け舟を出す。
「これで良いかな」
「これは‥‥?」
怪訝そうに首をかしげるイェーガーに、彼はこう言った。
「コヴァスの剣と言う。受け取ってくれるだろうか? 変わらぬ友情の為に」
「‥‥ああ。もちろんだ」
今度は快く、それを受け取ってくれるイェーガー。そして、代わりに牙で出来た首飾りを、彼へと差し出す。
「イェーガー殿‥‥」
「牙は、戦士の証。どうか受け取って欲しい」
刻まれた古さは、最近こしらえたものではない。きっと、伝統的なものなのだろう。
「良かったな。和解して」
「お前さんにも渡したいモンがあるんだが」
その様子を、微笑ましく見守るイディアに、恭也がそう言った。もらえるとは思っていなかったらしく、「え」と口を開ける彼女に、彼はある品を差し出す。
「月道関連は色々と世話になった。とっても助かった・・・。ありがとう。後、まあ世話になったのに何もなしというのもなんなのでな・・・。作ってみた」
「あ、ありがとう‥‥」
ブランで出来た素朴なかんざし。良く見ると、飾りの部分に、ディニーに良く似た恐竜があしらわれている。
「なんだ。プレゼント交換会からか? メインイベントだろう。それ」
そこへ、すっかり出遅れちゃったジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)が、杯を片手に、顔を出す。
「遅いぞ。JJ」
「ちょっと、うちのお姫さんをな‥‥」
言いよどむ彼。
「あいつは?」
「もう旅に出たよ」
何かを察した東雲が尋ねると、JJはさらりと言った。その横顔に、悲壮感がない所見ると、きっと上手く行ったのだろう。
「せんせー。あたし頑張ったよー」
「よしよし、甘えん坊さんね」
で、その相方のレディさんは、酔っ払ったミカエルに、盛大に喉を鳴らされている。まるで、小猫が甘えるように膝を奪われた東雲くん、必死で引き剥がそうとする。
「って、目ぇ離した隙に! 俺のレディさん返せー」
「いーじゃない。普段独占してんだから」
が、当のレディさんのほうに言われ、「しくしく‥‥」と滝涙をこぼしていた。
「それにしても――長かった旅もこれで終わりか。感慨深いものがあるねェ〜。本当に色んなことがあったよな」
「ああ。色々な‥‥」
ルカ・レッドロウ(ea0127)の台詞に、刀也がぼそりと言った。
「来た当初は、まさかこんな展開になるとは思ってもなかったけど…。仲間が誰一人死なずにこうしているってのが、何より嬉しいことだ」
ピンチを乗り越え、力を合わせて。と、キリルが精霊達とミーちゃんに向かって、笛を取り出す。
「ではその祝いに、一曲。ミーファさん、キャロさん、テンさん、ゲンさん、一緒にどうですか?」
歌舞音曲を司る精霊達だ。きっと、楽しい演奏が出来るだろう。
「踊ろ、キャロちゃん♪」
ミーちゃんが、キャロちゃんの手を取り、中央へと踊り出る。
「はぁい! 私も炎舞披露しまぁーす♪」
ミカエルも加わって、お祭り騒ぎが開始された。ケンブリッジで教鞭をとっていた頃に戻ったようなキャンプファイヤーに、レディさんも懐かしそうに目を細めていた。
「私は恐竜が大好きだー!!」
そんな中、イディアは騒ぎに紛れて、宣言している。唐突だったが、足元に空になった樽が幾つか転がっている所を見ると、相当飲んでいるのだろう。
「種族によって千差万別な魅力を持つ恐竜たち、私は彼らを愛している!! そして私の使命は恐竜喫茶を通じて人々に恐竜の愛くるしさを伝えることだ!!」
力強くそう言い切る彼女の髪には、貰ったばかりの恐竜かんざしが煌いている。
「フォトドミール復興の暁には是非とも恐竜喫茶二号店を出店したい!!」
「いずれは、マーメイド王国にも、出店しそうな勢いねー」
キャシーがそう言った。きっと、その暁には、ディニー達を意匠化したものが、店のシンボルマークになるのだろうと、そう予想して。
「うむ! アリスとフォトを足掛かりにチェーン展開し、恐竜の素晴らしさを世界中の人々に知らせるのだ!!」
「楽しそうだな。イディア‥‥ん?」
そんな彼女の姿を、酒の肴にしていたルカ、自信の身に、黒い羽が付いている事に気づいた。
「どうした?」
「なんだこりゃ。服にいつの間にかこんなもんが刺さってら」
刀也が尋ねると、それを手にとって見せるルカ。
「それはまさか‥‥」
「いや、違うさ。まぁ、こいつは偶然刺さっただけの、何の変哲もないただの羽だろう‥‥。たぶんな」
軽く匂いなんぞかいで見せるが、血の匂いもしない。
「クロウのじゃ、ないか‥‥」
「ああ。だがあいつは、…鴉のクロウは、強い敵だったな、本当に。思ってみれば、ヤツにはライバルに対して抱くような感情が俺の中にはあったのかもな‥‥」
少し、もったいなさそうな表情を浮かべるルカ。
「もうよせ。既に決着は付いたんだ」
そう言う刀也。だが、そんな彼の脳裏にも、ある人物の影が浮かぶ。
(フィアット、正気のアンタだったら…)
もしかしたら、同じ冒険者仲間として、行動を共に出来たかもしれない。
「ほらそこの野郎2人! しんみりするくらいなら、なんかやんなさーい!」
「勝手に決めるなぁぁ!!」
もっとも、そんな切ない空気は一瞬の事で、酔っ払いのセラに、首根っこを掴まれて、引き戻されている。
「やれやれ。騒々しい、奴らだ」
どこか嬉しそうに、そう呟くルカだった。
●それぞれの道へ
数日後。
「銀月の天幻よ。長き加護、道をつなぐ事、感謝いたします」
月道の開く瞬間、ゼルスが恭しく膝をつき、双子の月精に、礼を述べている。
「いずれ、豪州にはまた来る。俺は、ここが好きなのだから」
刀也も、黒曜石にそう言った。期待はしていない‥‥と、お約束どおりに答える彼女。そんな中、ハイドは耳まで真っ赤に染めながら、プレゼントを渡した。
「さくらさん‥‥っ。あの‥‥っ。た、誕生日おめでとうございますっ。こ、これはプレゼントですっ。いつか、会いに行きますからっ」
虹色に光るパールのリング。誰に吹き込まれたのか、それを、左手の薬指に嵌めるハイド。
「ありがとう。待っています」
素直にそう言って、さくらはハイドの頬にキスでお返し。
「あらあら。晩生のさくらちゃんも、成長したわねー」
くすっと笑うレディに、今度は東雲がこう言った。
「なぁ、レディさんよ」
「なに?」
振り返る彼女。その指に、同じように指輪が嵌められ、花冠がかぶせられた。
「そろそろ名実ともに騎士になるのも悪くないと思うのだがそのときは、そのときは叙勲をしてもらえるかな‥‥、愛し姫君?」
思わぬ告白に、肩をすくめるレディさん。「‥‥貴方に、その覚悟があるならね。考えてあげても良くてよ」と、OKを出してくれる。
「それじゃあ、帰るかな。俺達の、それぞれの世界へとさ」
刀也が、そう言って、手を振ってみせた。
「互いの未来に幸多からんことを」
イグニスが、感謝の祈りを捧げるようにそう言って。
「皆々、お疲れ様!」
レオーネが労いの言葉を口にすると同時に、月道が開く。月の光が溢れ、遥か遠い国へとの道を作り出す。
「――あばよ、クロウ」
そんな光の中、ルカが、今は亡きライバルに告げて。
「オーストラリア、きっとまた来るからな!」
残った大地には、その証を刻むかのように、漆黒の羽が揺れているのだった‥‥。
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