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それゆけ、オーストラリア探検隊!
■クエストシナリオ
担当:
姫野里美
対応レベル:
‐
難易度:
‐
成功報酬:
-
参加人数:
17人
サポート参加人数:
-人
冒険期間:
2007年09月01日
〜2007年09月31日
エリア:
オーストラリア
リプレイ公開日:
09月27日23:09
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●リプレイ本文
●精霊はボールじゃない
うみチームさんは、船と空から、ミーファ・リリム(ea1860)の行方を捜していた。
「見付かったら、JJから合図なりなんなりあるはずだ。見逃さないようにしようぜー」
地上から、高町恭也(eb0356)がそう言っている。ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)が忍び込む間、なるべくフィアット達の注意を引いておこうと言う策のようだ。
「確かこの辺りだと思いましたけど‥‥。うーん、水辺に近寄れないのが痛いですね‥‥」
フライングブルームに乗り、後ろに目の良いセラフィーナ・クラウディオス(eb0901)を乗せて、スクロールの示した近辺をぐるぐると周回している水葉さくら(ea5480)。だが、相当に深いその湖は、ブルームでは入れない。
「いいなぁ。さくらさんの後ろ‥‥」
「仕方ないでしょ。少年より確実に目が良いんだから」
うらやましそうに甲板で頬を膨らませるハイド少年に、カサンドラ・スウィフト(ec0132)がなだめるようにそう言っている。水の神官見習いの少年より、手誰の狩人でもあるセラの方が、見つけやすいと言うわけだ。
「うーん。見つからないわねぇ」
が、そのセラでも、森に潜んでいるはずの薔薇族はなかなか見つけられない。話によると、宝珠やら大きな荷物やらを抱え込んで入るので、簡単に見付かりそうだが。
「あ、JJさんね‥‥」
その代わりに、セラは森の端っこで手を振っているJJの姿を発見する。
「どうでした?」
「見つけたぜ、ばっちり☆」
そう言って、手紙を見せる彼。表に『側にいる。頑張るように』とJJの字で書かれ、それに呼応するように、ミーちゃんの字で『悪いのが来るのら! 気をつけるのら!』と記されていた。
「場所は?」
「こっちだ」
キャシーがそう尋ねると、JJはすぐ近くにあった森の中へと案内する。巧妙に隠された‥‥半洞窟と言った感じのそこに、いくつかの荷物と、機械的な動きを見せる手下達と共に、もそもそと動く籠があった。
「俺は俺で用がある。後は頼んだぜ」
が、そこまで案内したJJ、すぐさま踵を返して、何処かへ消えてしまう。
「仕方ない。私達だけでどうにかするしかなさそうね」
「もとよりそのつもりよ」
パープル女史が、ライトハルバードを出してくる。頷いたキャシーも、愛用の斧を持ち出していた。
「行きますよ!」
フライングブルームの上では、不安定すぎて、戦闘は行えない。その為、さくらは甲板に舞い降りると、ライトニングアーマーを唱える。
「なんら!?」
「あらら。見付かっちゃったみたいだよー」
隙間からでもはっきりと分かる光に、その源を覗くミーちゃん。一方、ヒノミ嬢は『やっぱりねぇ』と言った表情だ。
「ミーファさんを返してくださいなっ」
そこへ、ライトニングサンダーボルトを打ち込むさくら。
「お、お手伝いしますっ」
その身を守ろうとしたのか、ハイド少年が呪を唱える。現れたのは、深い深い霧。どうやら、ミストフィールドの魔法を唱えたようだ。
「えぇいっ!」
それを目くらましに、さくらがスマッシュを叩き込む。
「船には当てるなよ! まだまだ使うんだからな!」
「わ、わかってますっ!」
後衛タイプらしい少年に、東雲辰巳(ea8110)がそうアドバイスしている。そう言う彼の方は、甲板の上から、ソニックブームを叩き込んでいた。
「東雲さん! 上手く岩場になっている所へ追い込んで! 難しい?」
「いや、こいつの機動力なら、どうにかなるだろ!」
そこへ、キャシーがそう言った。一瞬ためらう東雲だが、その場を彼女に任せ、運転席に滑り込む。
「さくら! 少年! 早く!」
その間に、パープル女史が同じようにソニックブームをライトハルバードから放ちながら、そう叫んだ。
「わかってます! えぇいっ!」
さくらはそう言うと、目の前の敵に高速詠唱でストームを放った。吹き飛ばされる手下達。その間に彼女は、少年を引き上げるようにして、船へと乗り込む。
「ふんっ。このあたしから、逃げようっての。仕方ないなぁ」
追いかけてくるヒノミ。それこそが、キャシーの目的。湖岸沿いに、彼女は船を反対側へと回らせる。
「俺の技量じゃ、これが限界だぞ!」
「わかってる! 腕か足を狙って! そうじゃないと、へんな手を使うのよ!」
甲板の上から、そう指示する彼女。
「んなこたぁ、言われなくたって、100も承知だっつーの! さっさとこっちに引き寄せろ!」
遠距離攻撃の使えない恭也、手数で攻めて行きたくとも、攻撃範囲まで届かない。
「狙い撃ちって、割と大変なのよ‥‥ね!」
セラ、そう言いながらも、しっかりポイントアタックでもって、ヒノミの腕を狙う。
「って、やっぱりデビルの力借りてるわね‥‥」
その様子を見て、忌々しげにそう言うパープル女史。口調は軽くても、やはりそこは人外のパワーを持ちし者。単独では、なかなか当たらないようだ。
「ふむ。アレを試す機会かもしれんな」
「じゃ、とってくるねぇん」
その間に、ヒノミはジャンプするように後方へ下がると、フィアットに言われた品を持ってくる。
「離すのらーーー!」
その『品』。それは、籠の中に入れられていたミーファだった。じたばたと暴れる彼女を、ヒノミはまるで猫の子でもつかむかのように、引っ張り出してしまう。
「ちょっとぉ。大人しく箱ん中入りなさいよ」
その彼女がいれようとしたのは、弓矢を大きくしたような形のものに、取り付けられた箱。
「嫌なのらぁぁぁ!」
これまでの話から、それが自分の身を害する物だと悟ったミーちゃん、じたばたと暴れると、ヒノミの腕にがぶりとかぶりつく。
「きゃんっ」
デビルと契約しているであろう存在が、その程度で怯むわけはないのだが、良く見るとそこには、セラか掠め取った傷跡があった。
『だ、大丈夫ですか?』
(平気なのらっ。今のうちに逃げるのら!)
自由を取り戻したミーちゃんは、てててっと走りこむと、籠から水の宝珠を取り出す。シフールの身には重いそれを、しっかりと抱え込み、今度は反対側の籠に収められている籠に体当たりを食らわす。
『無茶ですよ! ですから、貴方1人で‥‥』
二度、三度。お洋服がちょっぴり破けて、羽に痛みが走るが、ミーちゃんはそれを止めようとはしない。心配そうにそう言う水の宝珠に、彼女はぶんぶんと首を横に振る。
「駄目なのらっ! 水の精霊さんと、妹ちゃんは、ちゃんと持って帰らないと、怒られるのらっ」
そう叫んだ瞬間、籠の鍵が外れた。転がり落ちた太陽色の宝珠を抱え、彼女は、よろよろと宙へ舞い上がる。
「はぁいっ。そこまでっ! 諦めなさいっ」
「嫌ら〜〜!」
しかし、重い荷物を抱えたままで、身動きが取れないミーちゃんを、ヒノミが押さえ込む。
『無理ですよ〜』
(えぇん、やっぱりどっちか1人しか無理らかな〜。けろ、諦めたくないのら〜!)
それでも、彼女は宝珠を抱え込んだまま、離さない。
「ミーちゃんを返しなさぁいっ!」
そこへ、回りこんで近づいたキャシーがオーラパワーを付与したスマッシュを振り下ろす。
「だーっ。狙うな馬鹿ぁぁぁ!」
「当たり前でしょ!」
バルディッシュを振り回す乙女から逃げ回るヒノミ。けん制代わりにさくらがライトニングサンダーボルトを打ち込んで、周りからの助勢を断ち切っている。そして、退路を立つように、セラが矢を放っていた。
「よぉし、いい子だ! これで薔薇男をやれるぜ!」
同じように地上戦へもつれ込んだ恭也が、フィアットを狙う。
「まったく、熱心な事だね。だが、お前の相手をするつもりはないよ。ここではね!」
が、彼は恭也に応える事無く、手下達に相手をさせていた。
(皆頑張ってくれてるのら! そうら! 今のうちに‥‥)
その間に、ミーファは宝珠に近づくと、貼り付けられた札に手をかける。
『何を‥‥』
「これはがしたら、力取り戻すんらよね? わっ」
怪訝そうに宝珠が言う中、ミーちゃんはその符を強引に破り取ろうとしていた。だが、魔の力で貼り付けられたそれは、ぱりっと黒いスパークを立てて、彼女の指先を拒否する。
『大丈夫ですか?』
「やっぱり、引っ張ったくらいじゃ取れないのら〜」
弾き飛ばされるシフールの体。悔しそうにそう言うミーちゃん。その符は、かなり強力に張り付いており、力任せでは無理そうだ。
「れも、紙なんらよね?」
『多分‥‥』
具体的な組成は分からないが、見た目はどう見ても上級の羊皮紙か、ジャパン製の半紙だ。
「らったら、やってほしい事があるのら。あのね‥‥」
ミーちゃんはそう言うと、宝珠にある事を囁く。
『分かりました。挑戦してみましょう』
そう言って、宝珠が鈍く淡く輝き出した。そして、水が徐々に染み出してくる。それはまるで、符と反発しあうように、スパークを散らせ、ゆっくりとその符を分解して行く。
『く‥‥』
普通の水なら、溶かせなかっただろう。だが、宝珠が出しているのは、魔力を持った水。いわば浄化の水だ。闇の符に対抗できるだけの力は秘めている。
(もうちょっとなのら! がんばるのら!)
苦しそうな宝珠に、ミーちゃんは側に張り付くようにして応援する。『は、はいっ』と、頷くように答えた水精は、あふれ出す水の量を増して行った。
「さて、匂いが消えたのはこの辺り‥‥と」
その頃、ルカ・レッドロウ(ea0127)は消えたクロウを追いかけて、すぐ近くまで来ていた。
「あれは‥‥。やはりそう言う事か‥‥」
と、その瞬間、森の向こう側で、盛大な水柱がほとばしる。
「ちょっとぉ! 何よ一体!」
ヒノミが振り返ってそう言った。見れば、ミーちゃんが持った水柱が、符の呪力を打ち砕いたのか、そのパワーを噴出させている。
「符がはがされたか」
「おかしいですな。そんなに脆弱な強度ではないはずですが」
フィアットと黒服が交互にそう言った。
「今なのら!」
不思議そうな彼らの様子に、ミーちゃんはその隙を付いて、宝珠を両腕に抱え、さらに背負うようにして、脱出する。
「あーあ、下手に手を出したくなかったんだけど、こうなっちまったら、仕方が無いか‥‥」
一方のJJも、ボスクラスの登場に、頭を抱えて入るようだ。もっとも、そう呟くや否や、パープル女史に「ちょっと! 手伝いなさいよ!」と、怒鳴られている。
「へいへい。とは言え、戦闘には絡みたくないな。どうにかして、こいつをぶちまけたい所だが」
そう言って触れたのは、腰に下げた解毒剤。そこへ「重いけど、頑張るのら〜〜!!」と、ふらふらしながら、飛んでくるミーちゃん。
「だ、大丈夫か?」
「なんだかよくわからないけろ、精霊さん達を助けてなのら〜!」
ぜぇはぁと倒れかけるミーちゃん。それでも彼女、宝珠をしっかりと抱え込んでいる。
「わかった。もう大丈夫だからな」
「うん」
そんな彼女を、ぽいと肩に乗せると、両の宝珠を小脇に抱え込む。
「待ちなさいよぉ!」
「あ、やば!」
追いかけてきたヒノミが、キャシーの攻勢をすり抜けようとする。その瞬間、JJは片方の宝珠を、恭也へと放り投げていた。
「恭也! 妹ちゃんパース!」
「えぇぇっ! こっちかよ!」
慌ててそれを受け止める恭也。そんな彼に、JJはこう叫ぶ。
「リーフ組の船まで持たせろ! て言うか、ダッシュで逃げるぞ!」
「わ、わかったっ」
分担した彼ら、お宝を持ったまま、くるりと回れ右。目指すは湖岸に停泊している輸送船だ。
「ふーんだ! あたしだって、それくらい出来るもんねー。ほら、力を解放しなさい!」
ヒノミがそう叫ぶと、指を鳴らす。その刹那、黒い光とも言うべきものが、全身を包み、宝珠を持ったJJに襲い掛かっていた。
「なにっ!」
『あ‥‥く‥‥』
抱えた水の宝珠が、苦しげな声を上げる。
「ど、どうしたのら? 精霊さん!」
『力が、制御できな‥‥うわぁぁぁ!』
肩のミーちゃんが心配そうに言った刹那、宝珠から力ある水が溢れた。
「っち。四の五の言っていられねぇな!」
何をどうやったのか、魔法の知識のないJJには分からないが、このままの状況は、無視できないようだ。そう呟くと、彼は行動を起こすべく、荷物を置いた。
「ちょ‥‥っ。JJ!?」
そのまま、身の軽さを生かして、反対側に回りこむJJ。驚いた表情をして、攻撃を中断するキャシーに、彼はにやりと笑って、こう言った。
「奪われたモンは奪い返す、ついでに心も‥‥ってところかな」
腰の解毒薬の封を切り、その中身を口に含む。そして。
「‥‥!!!」
ヒノミちゃん、動きが止まっている。なぜなら、JJがいきなり、その含んだ中身を口移しで注ぎ込んじゃったから。
「わー」
「あらー」
「なにー」
「こらこらー」
見守っていたリーフ組、それぞれの口調で固まってしまう。しかし、もっと驚いたのは、当のヒノミだろう。
「な、なにすんのよっ。戦闘中でしょーがっ」
「あり? 効かないなぁ」
怒鳴られて、ぽりぽりと頭をかくJJ。他の面々と同じように、薬でラリっているのかと思っていたが、そうでもなさそうだ。
「あーもー! 興が冷めた! 帰るッ」
毒気を抜かれたらしいヒノミちゃん、くるっと回れ右。ある意味、別な方向に効いちゃったのかもしれない。
だが、そんな彼女に、キャシーは容赦なかった。
「そうは行かない。ヒノミ、いい加減、貴方と付き合うのは疲れたわ」
その隙に、彼女静かにそう言うと、オーラパワーを付与したその足へ向かって、スマッシュEXを叩き込む。
「倒れなさいっ!」
だが、その大振りな一撃は、ヒノミの左足を大きく穿っていた。
「きゃあああああっ」
悲鳴を上げて倒れこむヒノミ。地面を転がるように吹っ飛ばされた、その先にいたのは。
「おやおや。もったいない事をするお嬢さんっすねぇ」
「あ、クロウ! てめ! 今までどこに!」
追いかけてきたらしいルカが、ターゲットを見つけて詰めよる。と、彼はぺこりと頭を下げると、こう言った。
「これは、回収させていただくっすよ」
そして、彼は気を失ったままの瀕死のヒノミを拾い上げる。まるで、落ちていた人形を拾うかのように。
「一応、礼を言っておくっすよ。これで、最後のパーツが揃ったすし」
「‥‥どう言う事」
キャシーが斧でけん制しながら尋ねるが、彼は「いずれ、分かるっすよ」と、茂みの向こうへと消えてしまった。
「では、我らも引き上げるとするか。宝玉は失ったが、既に準備は整っているしな‥‥」
フィアットも、優雅に一礼してみせる。その様子に、恭也は次こそ逃さぬ‥‥と言った様子で、こう応える。
「お前とここまで何度も関わるとは思ってなかったな・・・。やられ役だと思っていたら以外と出番が多かったな・・・」
本来なら、数ヶ月前に決着をつけていたはずの御仁。だが結局、彼とは最後まで関わる事になりそうだ。
「ああもう! せっかくこれで、あいつとおさらば出来ると思ったのにー」
はっと我に返ったキャシー、とどめをさせなかった事を悔しがる。が、そんな彼女に、宝珠に張り付いていたミーちゃんが、ほっとしたように言った。
「れもよかったのら。精霊さんが無事で」
なでなでと宝珠を撫で回すミーちゃん。背中の羽が、パタパタと嬉しそうに揺れている。
「貴女もね。はい、ご褒美のクッキー」
そこへ、キャシーはお菓子箱を差し出した。入っていたリコリスのクッキーを見て、彼女は顔をほころばせる。
「わぁい。ありがとうなのらー。ちょうどおなか空いてたのらー」
ぱくぱくとそれを放り込むミーちゃん、が、途中で咳き込んでしまい、さくらにシダ茶を差し出されている。
「さて、クロウの奴め‥‥。姿を見せたのが運の付き‥‥。追いかけるとするか」
そうして、ミーちゃんが元気な姿を確認したルカは、クロウの消えた方を向いてそう言った。
「やめといた方がいいわよ。今回は、これを持って帰るのが目的でしょ」
「‥‥そうだな。じゃあお前らは先帰れ」
パープル女史が、宝珠を指してそう言うが、ルカはその意思を曲げようとしない。
「どうしても、あいつだけは見過ごしておけない。クロウと関わるなら、なおさらな」
たとえ、お宝を取り戻していても、倒されたヒノミを利用すると彼は言った。その目論見を、見極めておかなくては。
「‥‥わかった。無事で帰れよ」
相方のJJは、止める気がなさそうだ。
「誰にもの言ってんだよ」
そんな彼らに、ルカは自信たっぷりにそう言うのだった。
●聖なる円盤
「それじゃ、いくよー!」
紆余曲折はあったが、ようやく使えるようになった洞窟工房の炉に、ミカエル・クライム(ea4675)が銀の粉と、自身の腕を放り込み、再び魔法を詠唱する。
「綺麗‥‥」
そう呟くキリル・アザロフ(ec0231)。舞い上がった銀粉が真っ赤に燃え上がり、まるでイリュージョンのような光景を作り出して行く。
「古代の人々は、こうやって魔力を炉そのものに込める事によって、技術を補っていたんですね‥‥」
足元の炉には、表面にルーン文字が浮かび上がっていた。読み解いたゼルス・ウィンディ(ea1661)は、それがヒートハンドを達人で使える物だと見抜いていた。
「誰でも使えたのかな‥‥」
「スクロールと同じものみたいだから、ある程度知識も要るんじゃないかしら? ほら、欲しがってたものも出来てるわよ」
「え?」
ミカエルが、固まり始めたその銀色の礫を、そっと拾い上げ、キリルに渡す。まだ暖かいそれを、怪訝そうに受け取るキリル。
「キープして置きたかったんでしょ? ブラン礫」
「はい! 寝る前に魔力を込めてみます」
先に、お試しを兼ねて作ってくれたらしい。小さなコインのような形をしているそれは、1個であれば、ルーン文字も刻めそうだ。
「よし、なんとなく円形にするコツはつかめたわ。後は、大きくするだけ‥‥」
一方のミカエルは、コインを作る事で、円盤の作成方法を見切ったらしい。呼吸を整えなおすと、もう一度ヒートハンドを唱える。魔力を込めて。
「ほう、これは‥‥」
ゼルスが感心したようにそう言った。炉の周囲にまるでエネルギーをチャージするかのように、ルーンが浮かび上がり真紅に燃え上がる。そして、まるでピザの土台を作り上げるかのように、その赤く染まった銀塊が、円形になっていく‥‥。
「出来た‥‥」
真っ白な輝きを放つ円盤。まるで、舟の舵そのままに。冷えて行くそれは、まるで混沌の世界から浮かび上がる希望のように見えるのだった。
そして。
「円盤は出来たけど、儀式のことも考えないといけないわねー。媒体となるマジックアイテムを集めて選別して・・・。儀式は火系統で良いのかな? それとも、地の精霊力を振り切らないといけないから、風系統のほうが良かったりするのかな?」
「風の方が良いと思いますよ。今の作業を見ている限り、何らかの方法でルーンを刻めば、コントロール出来るような気がしますから」
ミカエルからそう尋ねられたゼルス、炉の仕組みと同じように、舟のコントロールシステムにルーンを用いればいいのではないかと、そう提案する。
「これ、役に立つなら、使ってくれ」
イグニス・ヴァリアント(ea4202)が、手持ちのマジックアイテムを差し出した。ダークだけは逆効果かもしれないが、験してみないと分からない。
「とりあえず、後はこいつを運ぶだけだな」
そんな中、銀の円盤‥‥これもきっと、名を与えるべきシロモノなのだろう‥‥を大切そうに布に包む刀也。
「卵はどうしましょう‥‥?」
キリルが、抱えた卵を示してそう言った。出てくるのは間違いなくあのディノニクスなわけだが、かといってこのまま放っておくのも気が引ける。
「アリスに戻ったら、イディアに頼んでみよう。奴も観察材料が増えて喜ぶかもしれんし」
イグニスが、恐竜ブリーダーと化しているイディア・スカイライト(ec0204)に渡す事を提案する。肉食恐竜の世話は始めてだが、爬虫類の卵と考えれば、いくらでも方法はあるだろう。
「良いのか? これは」
そんな中、レオーネ・オレアリス(eb4668)は雪切刀也(ea6228)が外していた重斧を、そう問いただしていた。
「持ったら、ブランを持って帰れないしな。まぁ、後で取りに来るさ」
置いて行くつもりらしい彼。そう言って、まるで、ここに来た証とでも言うように、斧を工房へと突き立てるのだった。
●現れたボス
「た、たいへんです! 岩舟遺跡の方に、羽の生えた恐竜さんが‥‥!」
その頃、ハイドとさくらもまた、仲間達の下へとたどり着いていた。だが、その状況はもっと大変だった。
「知ってる! こっちにも来てる所だ!」
囲まれるように、空竜が地上と空中へ立ちはだかっている。レオーネがネザを、刀也が剣を構え、ミカエルが空中めがけてマグナブローを解き放ち、キリルが矢を撃つ中、さすがに慌てた様子で、さくらが問いただす。
「アリスの方はっ!?」
「センバの手紙だと、ラプトル連中に羽が生えてるらしいぞ!」
イグニスが、剣をクロスさせ、シュライクを放ちながら言った。こんな乱戦でも、何とかその任務を果たした愛鳥は、イグニスの服へもぐりこみ、必死に身を守っているようだ。
「い、いっぱいきたのらぁぁぁぁ」
一方のアリスでは、現れた空竜に、ミーちゃんが顔を引きつらせていた。
「どう言う事だ? これは」
「見ての通りよ。手ごま揃えて、ここを乗っ取りに来たみたいね」
東雲がレディを見ると、彼女はそう判断する。
「それ本当?」
「だって、それ以外にここ来る理由見付からないものっ」
キャシーの問いに、頭を抱えるレディさん。考えてみれば、その通りである。奴の目的は『道を越える』こと。だとすれば、手っ取り早いのは、アリスの襲撃だ。
「風の谷組が戻ってきたみたいよっ」
目の良いセラ、見張り台からそう叫ぶ。見れば、遥か遠くで魔法と剣を響かせる一行の姿。
「うちの子に手出しをさせて貯まるか! 手伝え!」
同じように見張り台から、ファン・フェルマー(ec0172)がシューティングPAを放つ。中には、手塩にかけて育てた畑と、可愛いチビ恐竜達がいるのだから。
「何処かに指揮官がいるはずだ。そっちを叩いた方が早い!」
その頃、レオーネはウィバーンの背に乗り、デビルスレイヤーへと持ち変えていた。威力は落ちるが、目当ての相手を倒すには、こちらの方が都合がいい。
「ナンバー2はどこだっ!?」
視界をめぐらすレオーネ。石の中の蝶に反応はない。さっくりと刺してやりたいが、用意には見付からなかった。
「デビルの性格から考えて、おそらく100mは離れた場所にいると思います。空竜の向こうですね」
写本を片手にキリルがそう判断する。もう一つの貸し出し品であるマジックパワーリングは、ミカエルの指だ。
「俺が注意を引く! その間に、何とかしろ!」
イグニスがそう叫んで、オフシフトで避けている。追いかけてきた空竜に、今度はソニックブームを食らわせ、すぐに下がる彼。それを繰り返す。
「イグニスさん! こっちへ!」
「おうっ!」
そこへ、駆けつけたゼルスが、ヴィンセントの上へと引き上げた。空からの攻撃が可能になった彼は、ゼルスと2人して、風を切る刃を打ちまくる。
「きしゃあああああ!!!」
そこへ、部下達では役不足とばかりに響く怒号。かき分けるようにして現れたのは。
「はぁ…何の冗談だ、コレ」
げんなりするイグニス。姿を見せたのは、ラプトルやディノニクスより大きな‥‥そう、空飛ぶティラノ。
「いやはや、またでかい物を・・・。廃品処理は此方で出してやるさ」
刀也が頭を抱えている。それとは対照的に、若干パニクっているキリル。
「い‥‥一体なんなんですか? あれ」
「たぶん『俺』だな。見覚えのある傷付いてるし」
冷静に、バーニングソードを剣に付与しながら、そう話す刀也。見れば、その体には、刀傷の跡がある。おそらく、フィアット達が『トウヤ』と名付けたあの恐竜だろう。
「通常攻撃は、さすがに効きそうにないよな。アレ‥‥」
「確かめてみます」
そう言って、キリルは弓を引き絞った。だが、確実に当たったはずのそれは、まるで金属か何かに当たる音を立てて、はじかれてしまう。
「やはり効かんか‥‥。キメラが正解ってところだな」
結果を見て、ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が忌々しげにそう呟いた。
「お供の連中までは、コーティングかかっていないみたいですけど、その分早いですよ」
キリルが違う矢を番えながら、実験の結果を報告してくる。空竜は羽が生えていて、若干の能力アップをかけられているが、通常武器でも大丈夫なようだ。
「大型恐竜だったら、こいつを使えたんだがな‥‥」
「あの状況じゃ、無理ですね」
腰に下げた解毒剤に触れつつ、臍噛むゼファー。これが、ただ操られているだけの草食竜なら、解毒剤を打ち込めたのだが、そうではないようだ。それを見て、彼女はアイスチャクラを装てんする。
「いずれにしろ、元は恐竜だ! やってやれない事はない!」
叫びながら、唱えたチャクラを投げつける。見れば、ティラノ達は、一直線にアリスへ向かっていた。それを見て、他の空竜達も、足並みを揃えるように、進路を変えている。
「アリスには入れさせません!」
キリルが、その進路を妨害するように、ダブルシューティングを放つ。しかし、恐竜達はそれをあざ笑うように、空中へと逃げて行く。
「まずいわね‥‥。完全に制空権を握られちゃってる‥‥」
状況を見たレディさん、ライトハルバードを握り締めたまま、悔しそうにそう言った。騎乗の苦手な彼女、空に上がる術がない限り、手出しが出来ないようだ。
「どうするのよ、せんせー」
「手段があるとすれば、例の遺跡ね‥‥」
ミカエルに問われ、空を見上げる彼女。これを何とかして突破すれば、岩舟まではたどり着けない事はない。
「もっとも、連中がこの状況を簡単に突破させてくれるとは思わないけど‥‥」
フィアット達が、岩舟を手に入れるまで、待ってくれるとは思わない。それを証明する事件は、すぐに起きた。
「残念ながら、舟を使わせるわけにはいかないね。その前に、潰しておかないと。姫、頼むよ」
「はいはーい」
そんな会話があったかどうか分からないが、まさにそんなタイミングで。
「何‥‥!」
驚く一行の前で、ティラノの頭上に、少女の姿。その手には、失われたはずの火精宝珠がある。背中には、黒い蝙蝠羽。
「いっくよぉ。奥義! かりゅーしょーーかん!」
彼女はそれを掲げるようにして、ティラノの頭に押し付ける。ぎしゃあああ! と悲鳴じみた声が上がり、宝珠が飲み込まれ、そしてティラノの体を赤く染め上げて行く‥‥。
「ご、ごっついの来たわねー‥‥」
「冗談みたいな恐竜ねー‥‥」
うみチームのキャシーとセラ、顔を引きつらせる。出来上がったのは、赤く染め上げられた体躯を持つ、キメラ竜。その頭上には、意思を司るようにヒノミが微笑む。
「ここ潰して、あたしの耽美工場にしてあげる。いくよ、トウヤくん☆」
そう言うと、彼女は控えていた空竜達に命を下す。緊迫感を増す中、メンバーを数えていた恭也はある事に気付いた。
「あれ? そう言えば、何人か足りなくねぇ?」
「あーー! ルカがいねぇ!」
JJが口を覆う。この状況になっても、相方が帰って来ていない。
「フィアットもNO,2もいないし‥‥。これは、もうひと波乱ありそうだな」
レオーネが刀の振り下ろし先を探してそう呟く。少なくとも、このまま撃退できない事だけは明らかだ。
「く‥‥。この体が動けば、どうにかできるのに‥‥」
その頃のルカ、上空で繰り広げられる戦に、そう呟いて、何とか移動しようと焦っていた‥‥。
果たして、アリスの面々は恐竜総攻撃から街を守ることが出来るのか!?
そして、岩船は本当に起動するのか?
って言うか、半分忘れられてる恐竜騎士達はどうなる!?
次回! それいけ、オーストラリア探検隊!
『恐竜なのに空中戦!?』
それって、ナシだろう!?
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