それゆけ、オーストラリア探検隊!

■クエストシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:17人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年07月01日
 〜2007年07月31日


エリア:オーストラリア

リプレイ公開日:07月24日20:41

●リプレイ本文

●移動
「兎にも角にも、まずはフォトドミールの住民の受け入れ準備だ」
 そう言って、イディア・スカイライト(ec0204)は、アリスの住民達に、事情を説明していた。
「あんな場所に、放っておくわけには行かない。少し手狭になるが、我慢してくれ」
今までの事もある。病気を助けられた恩もある。その為か、住民達は「仕方ないやね」とか「困った時はお互い様だ」なんぞと言いながらも、小屋の増築や、食事の支度等に、協力してくれる。
「やれやれ、フォトドミールの村人達を丸ごとご招待となったか」
 その様子を見て、懇親会や招待することは考えてはいたが、まさかここまで‥‥と言った様子のファン・フェルマー(ec0172)。と、彼はレオーネ・オレアリス(eb4668)にこう頼んでいた。
「一辺に連れてくるわけにいかんからな。レオーネ、誘導を頼む」
「心得た。行くぞ、ピナーカ」
 機動力に優れた彼、非戦闘民を、アリスへと誘導する。他のダイナソアライダーの協力もあって、村人達は、いくつかのグループに分かれつつも、アリスへと移動してくれた。
「こっちだ。向こうと比べると、設備は余り良くなくて、申し訳ない」
 いつ襲われてもおかしくない状況なので、レオーネはすぐさま村人を広場へと案内する。そこなら、万が一襲われても、対処できるから。
「まったく、一難去ってまた一難‥‥。危険と刺激に満ちて退屈しない毎日だ、オーストラリアにきて正解だったな」
 ファンがそう言って、資材を集めるよう指示をしている。その指示に従いながらも、ぶつぶつと文句の止まらないイディア。
「これでは、ディニーやトロンのおもちゃも作れないではないか」
 手元には、試作機らしい組み合わせた品々が、作りかけで放置されている。
「うーん、これだけ人数が増えると、もうちょっと手を入れないといかんな」
 それを拾い上げ、そう呟くファン。それを見て、イディアは首をかしげた。
「補修以外に、何かやるのか?‥‥」
「人口が増えたんだから、畑の拡充もしなきゃいけないだろ。俺とベティさんだけじゃ難しいし。フォトドミールの人達にも、頼んでみようかと思ってな」
 今、彼が管理している畑も果樹園も、
「反感を買われなければ良いが‥‥」
「俺としては隣人が増えるのは一向に構わないが、問題は先行調査隊とフォトドミールの面々との間に軋轢が生まれないかってとこだな」
 いろいろな問題が片付くまでの間仲良く暮らすためにも、両者の溝が深くならないように調停に走るファン。彼がまず向かったのは、第一陣としてやってきた女性と子供。
「そう言うわけで、村に戻るまでは、少し時間がかかるかもしれない。その間、協力して欲しい」
 護衛と共に、アリスの広場へと保護されたフォトドミールの人々へ、そう頼み込んでいる彼。
「うーん、ただふんぞり返るのは、良くないしねぇ」
「けど、こんな場所に連れてこられて、畑仕事って言われても‥‥」
 顔を見合わせる住人達。そこへ、イディアもまた、助力するように言い出した。
「不安なのは、わかる。だが、今のフォトドミールでは、恐竜達に襲われるのを待つばかりだ。今、宝珠を奪って行った奴らを、追いかけている。その間、力を貸して欲しい」
 口調こそ男性っぽいが、彼女もまた『母親』である。その『子供』であるディニーとトロンも、きゅーきゅー遠慮がちに鳴きながら、目を潤ませている。
「‥‥どうしよう?」
 ぼそぼそと相談していた女性達。だが、ややあって、『落ち着いたら手伝う』と言う話が出始める。
「それで構わない。これは、私達からの『お願い』なんでな。断りたければ、断っていい」
 イディアがそう言うと、護衛を努めていたライダーが、こう申し出てくる。
「‥‥少し時間を。ここには、何故連れてこられたのか、理解していない子供も多い」
 頷くファン。と、中の1人が申し訳なさそうにこう続ける。
「すみません、ご迷惑をかけて‥‥」
「いや、それはこっちの台詞かもしれんし。だいたい、今まで散々世話になってるんだからさ」
 首を横に振る彼。と、やはり護衛を努めていたレオーネが、こう言った。
「だが、フィアットだっけ? アイツらの目的が宝珠を集めることにあるならば、ここも危ういかもしれんな」
 アリスには、皆で作り上げた防壁がある。大型恐竜の突撃にも耐えられるように作り上げた物だが、奴らにはまだ隠し玉がありそうだった。
「奴らからここを守るのが、お前の役目だろう?」
「違いない」
 頷く彼。と、イディアが珍しくこう言う。
「もし何か困った事があったら遠慮なく言ってくれ。出来る限りのことはしよう」
「わかった。事情が分かっていない奴もいるみたいだから、その辺の説明を頼む」
 そんな彼女に、仕事を頼むファン。何しろ、村が丸ごと引っ越してくるようなものだ。いくら人数があまり多くないとは言え、事情説明にも、その世話にも、それなりの手がかかる。
「ふむ。落ち着いたら親睦会とかするのもいいと思うしな。茶でも振舞うか‥‥」
 幸い、シダなら大量にある。暖かい飲み物は、気分を落ち着かせると聞いていたイディア、そう呟くと、湯を沸かし始めた。
「それが終わったら、こっち手伝ってくれ。お前のサイコキネシスが必要なんだ」
 仕事はまだまだある。ファンに呼び出され、彼女は見張り櫓の下へと向かった。
「で、どこに必要なんだ?」
「あそこだ。人数が増えたんで、補修をしたいんだが、どこも忙しくてな。こいつを乗せてきてくれ」
 高い位置にある櫓は、人の力だけではとても足りない。フックに蔓を引っ掛け、魔法を使って作業をこなすイディア。だが、その位置から見ると、なんだか広場に人があふれているようにも見える。
「これだけじゃ、とても足らないな」
「集会所の方を明け渡してくれるよう言ってくれ。ライダーの恐竜達は、たぶんディニー達の側で良いだろう。見た限り、草食竜のようだから」
 作業を終えたファンがそう呟くと、イディアは広場の横にある建物を指し示した。すぐ横には、ディニー達の小屋もある。足りない分は、余っていた資材で補うようにして、寝床と畜舎の確保をするように、指示していた。
「それが終わったら、こっちを手伝ってくれ。対翼竜用の施設を強化したい」
 彼女達が作業を続けていると、護衛に出ていたレオーネが、声をかけてきた。彼の案では、狙われた宝珠を守る為、アリスの遺跡にも、足場を組んで起きたいそうだ。
「確かに、アリスの宝玉を狙ってくる可能性もあるんだよなぁ。守りを強化しないと‥‥」
「鳴子と見張り台だけでは、心もとないな。槍も増強しておこう」
 イグニス・ヴァリアント(ea4202)が不安そうにそう言うと、彼は地面に図面を引き始める。それによると、足場の杭などを。槍のように尖らせて、止まり木代わりにされないようにしたいそうだ。
「作業は、皆にも手伝ってもらおう。上のロープにも、とがった枝をくくりつけておいた方が良いかな」
「ああ、その方が良いだろう」
 作業を続ける彼らに、イグは積み上げられた資材を眺め、こう提案してきた。
「なぁ、投石器とか、槍投げ機とか作れないかな」
「バリスタなんて取り寄せたら、本国から何を言われるかわからないだろう」
 難色を示すファン。しかし、彼自身、自分の腕前では、翼竜相手に歯が立たない事も分かっている。イディアのサイコキネシスでも同じだった。
「けどなぁ‥‥」
「俺も、遺跡跡に恐竜に有効な武器があったりすれば、探しに行くんだが。まあ、そんな安易な望みが叶うわけはないしなぁ」
 このままでは、守りきれない事は、ファンも分かっている。出るのはため息ばかりと言った状況だった。
「その件なんですが、気にしなくて良いと思いますよ」
 と、そこへ報告書を手にしたゼルスが、話に割って入る。
「今、本国に精霊への供え物や、新たな媒体になるものを、申請する書類を書いているところです。代価については、以前のように要求して貰うって事で」
「いいのか‥‥?」
 また、無茶な要求をされないだろうか‥‥と、不安そうなイディア。だが、彼は首を横に振り、『それよりも』と前置きして、こう続けた。
「弱まっている魔力を補うものか、でなければ新たに儀式の類を執り行って作り直すか‥‥。そういったことが必要になるかもしれません。念のため、用意は早めにしておきましょう」
「その月道にも、奴のスパイが紛れ込んでいる可能性は高いがな‥‥」
 ぼそりと、そう危惧するイディアだった。

●宝珠を捜して
 住民達の移送を終えた面々は、宝珠を捜すべく、準備を整えていた。
「薔薇族は精霊の力を狙っていたわけね」
「まったく‥‥最終的に何がしたいのやら。まぁ、ろくでもないことなんだろうな」
 話を聞いたミカエルが、納得したようにそう言っている。その彼女に、事態を説明していたイグニス、やれやれと言った所だ。
「決まってるでしょ。あんな奴らに力を利用させるわけにはいかないわ!」
「ああ。止めてやるさ。全力でな」
 もちろんよ! と意気盛んなミカエル・クライム(ea4675)に同調するイグ。
「まあ、宝珠探索をしたら、遺跡探索にもなるよな」
 その2人の様子に、苦笑しながら、保存食をまとめている刀也。宝珠を追えば、自動的にフィアットも付いてきそうな気がするが、この際考えない方が良さそうだ。
「とにかく、まずは正確に現状を把握しましょう。差しあたって、他の宝珠がどのような状況にあるのか、それを確認しておきたいと思います」
 この辺りの地図を片手に、バルドスへ荷物を積み込むゼルス・ウィンディ(ea1661)。
「平原の状態は、この間言ったとおりだけど、たぶん現状見てもらった方が良いと思うわ」
 その地図に、ミカエルは赤い宝珠の状況を示した。バラバラになったあの状況では、おそらく宝珠は既に敵の手に渡っていると見て、間違いないだろう。
「ふむ、宝珠や精霊に関してある程度情報が揃ってきたな。それと同時に、状況がかなり切迫しているということも分かってきた訳だが」
 イグニスが、頭を抱えている一方、色々と妄想を膨らませちゃったミカエルは、両の頬をぽうっと赤らめながら、こう口走る。
「精霊の絆、元に戻してあげないとね。そして、あたしと精霊の絆を高めたりなんかしちゃったりして♪ そしてそして‥‥。きゃあん、燃えてきたわ〜!」
 何を考えているのか知らないが、さらに燃焼度が加速しているようだ。
「遠出するなら、こいつも積み込んでおいてくれ。何かの役に立つと思う」
 そこへ、荷物を持ち込みに来た恭也が、葉で包んだ丸薬のような物を差し出す。いくつか数のあるそれは、薬にしては大きく、投げつけるにしては、頼りない。
「これは?」
「胡椒玉だ。数はないがな」
 イグニスの問いに、雪切刀也(ea6228)も同じ物を見せた。せいぜい数発が限度だろう。どうしてもと言う時にだけしか使えない量だ。
「もう少しあるといいんだが、本国への代金にもなるしなぁ」
「行きに胡椒の苗とかを見つけたら、帰りに持って帰るよ。栽培出来そうだし」
 数が無いとぼやく高町恭也(eb0356)に、刀也がそう言っている。苗さえ持ってくれば、後はファンやベティが何とか育ててくれるだろう。
「今回の行動の主目的、薔薇族の追跡。そして、妨害だ。連中の目的が宝珠であることが分かった今なら、どうにか動きを予想することは出来るだろう。となると、次は何処の宝珠を狙ってくるか、だな」
 イグニスが持ってきた地図には、見つかった遺跡が記されている。それを見て、ゼルスから精霊とのコンタクトを聞いていたゼファーが、興味深そうにこう言う。
「なるほど、これが宝珠か‥‥。これなら、未確認の宝珠の在処も絞り込めるだろう」
 見つかった風と火、それに土は、遺跡と重なるように見つかっている。だとすれば、残りの遺跡を調べれば、おのずと答えは出るだろう。
「次に連中が目指すのは、やはりフォトドミールから一番近い宝珠だろうな。となると‥‥」
「ここ、ですね‥‥」
 イグニスが遺跡をたどると、ゼルスがそう答えた。それは、アリスから見て、ごく近くとも言える湖に沈んでいた。
「奴も、手薄な所を攻めるってのは、ありえる話だ」
 そう言うイグニス。アリスを攻めるよりは、よほど効率が良い筈。まずは、そこから回ってみようと言う算段になった。
 だが、不安材料はある。
「ゼルス殿から聞いた精霊というのにもお目にかかってみたい。しかし、精霊との交信手段はゼルス殿の持つテレパシーのスクロール1つ‥‥。できれば、もう1つ欲しいものだな」
 調査の為、羊皮紙の束を詰め込みながら、そう言うゼファー・ハノーヴァー(ea0664)。
「俺も、精霊とは話せないしな‥‥。テレパシーが使えたら、涼とも色々話せるのに」
 胡椒玉を渡しに来ていた刀也も、お供の涼を撫でて、そう答えている。もっとも、一方の涼は「わう?」と怪訝そうに首をかしげているだけだが。
「以前届いた本国の援助物資の中にスクロールらしき物があったはずから、試しに漁ってみるか‥‥」
 そう言って、ゼファーは以前届いた援助物資を、がさごそと漁った。同じように、魔力を高める品がないかと探しに来たミカエル、まるで大安売り中のアクセサリーを物色するかのような表情で、援助物資をひっくり返している。
「あたし的には‥‥レアマジックアイテム、所謂アーティファクトに関してとか、ロストマジックやエンシェントマジックに関してとか、そういうのも得られれば最高なんだけどね〜♪」
「そう言うのは、まだ明らかになっていない宝珠のある遺跡に期待するとしよう。なんだ、あるじゃないか」
 と、ゼファーはスクロールの束の中から、テレパシーのスクロールを見つけていた。初級レベルのものだが、何とか役に立ちそうだ。
「え? 本当」
「ああ、ご丁寧にも、魔力を高めそうなロザリオとセットでな」
 ミカエルが見物に来る。と、それには銀色の十字架が、丁寧に箱へ入れられていた。
「ホント。しかも議長の名前だし」
 その箱に、見た事のある名前を見つけ、彼女はちょっとばかり懐かしそうに、目を細めるのだった。

●フィアットの正体
 事件が動いたのは、宝珠と月道の調査に、皆がそれぞれの手段で赴いた後の事である。
(動き出したか‥‥。やっぱり、さっきのは陽動ってわけだな)
 1人、アリスの裏にあるシダの影に潜み、そこから出てくる御仁を見張っているジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)。
(こんな時に、あいつがいてくれたら‥‥)
 そう思い、ルカを呼び出す事を考えたが、手段がない。彼がそう思った時である。
「呼んだか?」
「って、お前どうして‥‥むぐ」
 しーーっと、口元を押さえられるJJ。と、ルカ・レッドロウ(ea0127)はこう説明した。
「月道で目をつけてたんでな。後を追ってきたら、このザマだ」
 どうやら彼も、最終的にはJJと同じところへたどり着いたらしい。
「俺達じゃ‥‥!」
 あいつを止める事が出来ない。そう思った時だった。
「よし! あれを使え!」
 ルカがそう言って、なにやら合図をする。その刹那、空気を切る固形物の音。それは、ぱりぃんと陶器の砕ける音がして、何かを壊していた。
「おやおや。なんて事をしてくれるんです」
 振り返るフィアット。ぽたぽたと液体の垂れたそれは、かつてJJ達が見つけてきた物と同じだった。
「お前達に、二度と恐竜達を操らせるわけにはいかんからな‥‥」
 矢を放ったのはゼファーだった。ご丁寧に、解毒剤まで用意しての、一撃である。
「やはり、来たか。会えて嬉しいよ? トウヤ」
 ばらばらと駆けつけてきた冒険者達を見て、フィアットの口の端が、笑みの形にゆがめられる。そんな彼の、悪意に満ちた好意を振り払うように、刀也は剣の柄に手をかけた。
「こっちは嬉しく何か無い。だいたい、何が望みだ‥‥? 性質の悪い事なら願い下げなんだがな」
 今にもスマッシュを放ちそうな、力の入れようである。その姿に、すぐ後ろに控えていたらしい黒衣のナンバー2が、囁くように言った。
「‥‥そろそろ、教えてあげてもよろしいんじゃないでしょうかね? フィアット様」
「‥‥そうだな。その方が、面白いかもしれん」
 頷くフィアット。
(あれ‥‥? 何か、おかしいかも‥‥)
 その関係に、疑問を抱いたのはキリル・アザロフ(ec0231)。しかし、彼はその抱かれた疑問に気付く事無く、こう話す。
「求めるは、力。この大陸に閉じ込められた、力の象徴を手に入れる事。お前達ですらてこずるこの恐ろしき竜の一族を、丸ごと制御出来れば、他の大陸を混乱に陥れる事など、容易いからな」
 彼の言い分からは、恐竜達を、他の大陸の支配へ兵器転用しようと考えている事が、伺える。
「そんなっ。そんな事の為にっ!」
 ミカエルが、悲鳴じみた声を上げた。月の精霊に、ゼルスと共に会いに行った彼女、その思いを知っていたから。
「お前も、その力。振るってみたくないか?」
「く‥‥」
 一方のフィアットは、そう言った、刀也に誘いかける。魅了の効果でもあるのだろうか、頭がくらくらし始める。
「だ、騙されちゃ駄目です!」
 現実に引き戻したのは、そんなキリルの一言だった。
「確かに、男性同士で、その、あれするとかはタブーですけど、ほとんど誰も気にしないタブーで、貴族でもよくいるらしいですし、修道院でもよくある話でしたから、それは自由だと思います‥‥」
 どうやら、彼はまだフィアットが刀也に恋心を抱いていると思っているらしい。絶大な勘違いだが、誰も訂正しない為、キリルはさらに続けた。
「でも、相手の気持ちが関係ないなんていう人には、どんな人が相手だろうと、資格はないです! そんな人には、誰一人触れて欲しくありません!」
 そう言うと、彼は弓を引き絞り、フィアットに向けて放つ。普通の人間なら、タダではすまない一撃を。
 だが。
「‥‥今、何かしたか?」
「そんな‥‥。シューティングPA食らって平気なんて‥‥」
 肩を狙って打ったはずのその矢は、フィアットの手によってはじかれていた。愕然とするキリル。
「やはり、そう言う事か‥‥」
 しかし、その迎撃方法を見て、ゼファーはある事に気付いた。
「ふふ‥‥。腕を上げているようだね。ボウヤ」
「僕はそんな名前じゃありません!」
 一方では、フィアットがつかつかとキリルに歩み寄っている。その首から下げられた十字架のネックレスを見て、彼は目を細めた。
「だが、そう言う事を言う奴を、黒く染め上げるのも、悪くない手法だ」
「うぐ‥‥」
 しゅんっと音がする程の速度で伸ばされた腕が、キリルの喉をつかみ、引き寄せる。
(引き込まれる‥‥)
 深い、翠の瞳。自分と同じ色。
「‥‥フィアット様」
「まぁいい。先に宝珠だ」
 ナンバー2から、たしなめられ、フィアットはその場で手を話す。地面に投げ出され、思わず咳き込むキリル。
「そうは行かん。少し手合わせ願おうか‥‥!」
 止めようと、イグニスが両のナイフで切りつける。だが、さすがに今までボスを張っていた御仁、するりとその一撃を退ける。
「このっ」
 恭也の胡椒玉が炸裂した。が、かなり刺激が強いはずのそれに、フィアット達は顔色を変えない。ただ、視界だけがさえぎられる。
(今だ!)
 JJのダーツが躍り、手を伸ばしたフィアットのそれを、弾き飛ばす。
「二度目は、無いぜ」
 煙が晴れた時、JJは宝珠を守る祠の影で、そう呟いていた。と、直後ゼファーが、それまで抱いていたある思いを口にする。
「そう言う事だ。デビルに魂を売った者よ」
「‥‥気付いたようですな」
 ナンバー2がそう言った。ゼファーは、『そりゃそうだろう』と言った表情で、こう続ける。
「当たり前だ。お前らの動きを見ていれば、一目瞭然だしな」
「ばれてしまったのでは仕方が無い。だが、覚えておくが良い。もう、隠す必要はなくなったのだからな」
 ぶしゅりと、毒霧の発生するような音を立てて、彼の周囲から、墨を流したような気配が立ち上る。それは、周囲を包み込み、空間さえ黒く染め上げていた。
「いない‥‥?」
 それが晴れた時、フィアット達は姿を消していた。
「何とか守れたが‥‥。これは厳しいようだな‥‥」
 そう言うゼファー。そこにあったのは、真っ黒に汚された‥‥月の宝珠の姿だった。

●期限は一ヶ月
 一夜明けて。
「どうなんだ? 状況は」
「かなり、精霊石の力が弱まっているわ。このままだと、月道が開けられないかも‥‥」
 黒く染められた祠を『診察』したミカエルはそう言った。炎以外の精霊は、専門外ではあるが、その内側に秘められた魔力くらいは読み取れる。
「なんだって! それじゃあ、物資や人の避難もままならないのか‥‥」
「今のままだとね」
 頭を抱える恭也に、彼女はそう言う。と、同じように『診察』していたゼルスは、こう言って励ます。
「ですが、次の月道が開くまで、一ヶ月あります。ティラノの呪縛は解き放ったのですから、その間に、何とか出来るはずです」
「デビルなら、これまでに何とかしてきたわけだしな」
 ゼファーもそう言った。正体が分かったのなら、対策は打てると。
「きっと、何とかなります。来たら、全力で追い払いましょう!」
 キリルも、皆にそう言って回っている。
(でも、なんだったんだろう。あの違和感‥‥)
 だが、その彼の脳裏には、フィアットとナンバー2が話していた時の光景が、喉に刺さった小骨のように、引っかかっているのだった。

●ヒノミの真意
 儀式開始のばたばたとした光景を、テラスの上から見ていたミーファ・リリム(ea1860)は、次第に進んで行く儀式の様子に、不安さを隠しきれずに居た。
「ねー、パープルちゃん。あの宝玉、何かまがまがしい感じがするのら‥‥」
 男装姿のパープル女史の背中にへばりつきながら、そう言う彼女。手紙で聞き及ぶアリスの結界を、補強する、儀式の様子を観察していたのだが、楽隊の奏でるそれは、戦闘用のマーチのようなメロディに近い。配られた聖水の他は、まるで戦の出陣式のようで、考えていたロマンスは、かけらも見受けられなかった。
「私も、ちょっと、嫌な予感がするわね。まるで、宝玉を血で染め上げようって準備みたい‥‥」
 それは、レディさんも考えていたらしい。あちこちにかけられた布は、水の神殿には似つかわしくないどす黒い色で、反射した光を、宝玉に投げかけている。そんな中、同じ色の祭壇が設けられ、ニセモノ王子の前に、神官達が進み出る。
「王子、そろそろお時間です。ヴェールを脱いでいただけますか?」
 黙りこむレディ。ミーファの危惧していた通り、相手陣営は、自分がニセモノである事を利用するつもりなのだろう。
(パープルちゃん‥‥)
 ローブの内側で、心配そうにしているミーファ。
「準備がある。席を外せ」
 さすがにそこは、度胸の据わったレディさん。反論を許さぬ口調でそう言うと、扉の向こうへと、引っ込んでしまう。
「どーするのら?」
「脱いだらバレるの確定よねぇ。ミーファ、イリュージョン系の魔法使えない?」
 パープル女史の問いに、首を横に振るミーちゃん。彼女は陽魔法の使い手。月魔法に属する幻惑系の魔法は、彼女が持っているスクロールの中にも無かった。
「まずいですよ。もう、神官の方が‥‥」
 何か異変が起きたことに気付いた水葉さくら(ea5480)、ハイドくんとお手手を取りあって、おろおろ中。
「セラ、近くにいるな?」
 と、そこへ東雲辰巳(ea8110)がそう言った。頷くセラフィーナ・クラウディオス(eb0901)に、彼はこう指示を飛ばす。
「一番遠くから、レディに向かって矢を撃てるか?」
 術なんか分からないセラ、とりあえず警備に紛れ込んでいれば、殺気感知や見張りで役に立つだろうと、自前の弓を持ち込んでいる。どうやら、それを使えと言う事らしい。
「当てるの?」
「あいつなら、あれを叩き落すくらいの芸当は出来る。狙いは、神官とレディの間だ。出来るか?」
 物騒な台詞だが、カレシがそう言うのなら、間違いはないだろう。そう思い、セラは弓を番える。
「外れても、恨みっこなしよ!?」
 そう言って、手を離す。ひょうっと飛んで行った矢は、狙い違わず、パープル女史がいるテラスの壁へと突き刺さった。
「‥‥襲撃だ! 女王を亡き者にしようとする奴だ!」
 そこへ、背後で東雲が叫んだ。と、それを皮切りに、神官サイドで、わぁぁっと時の声が上がる。
「ち‥‥。まだ早いとゆーに‥‥。仕方ないわね」
 その時、セラははっきりと、すぐ近くでそう呟いた声を聞いた。だが、それが何者か確かめる前に、神殿内は蜂の巣をつついた様な騒ぎになってしまう。
「ちょ、ちょっとぉ! 私、1本しか撃ってないわよ?」
「王子様の言う事、本当だったんだと思いますっ」
 混乱するセラに、さくらがそうフォローを入れる。その間に、周囲では「えぇい。早々に鎮圧しろ!」と怒号が響いた。そして。
「まずい。あいつ、この機に乗じて、影武者を亡き者にする気だ」
 王子が、混乱の中近づいて行く影を見つけ、そう叫んだ。その先にいるのは‥‥影武者レディ・パープル。
「って、まだ入れ替わったままじゃ!」
「く‥‥レディっ」
 それまでの冷静さはどこへやら、走り出す東雲。
「本当は、王族のごたごたに巻き込まれたくないんだけど、ねっ!」
 セラも、けん制するように矢を撃つ。
「やらせないのら!」
 その間に、ローブの内側から飛び出したミーちゃん、立ちはだかるように両腕を広げて、かく乱しようとする。
「ミーちゃん、危ないから、下がってなさい!」
「そ、そう言うわけに行かないのらーー!」
 ライトハルバードを振り回し、応戦するパープル女史。こんな深い水中では、サンレーザーが使えない。けれど、この場を離れるわけには行かない。
「はっ! 殺気!?」
 セラが、警告を発した。見れば、乱闘になっている隙に、神官のローブを羽織った御仁が、宝珠へと近づいていく。
「まずい。あいつら、手っ取り早く宝珠を汚す気か!」
「間に合わない!?」
 セラの矢も、東雲の剣も、一番奥まった場所にある宝珠までは届かない。だが、その刹那。
「させないわよぉ!」
 そう叫んで、宝珠との間に、振り下ろされたのは、壮麗な雰囲気の漂う一振りの斧。
「キャシー!」
「遅くなってごめんなさい! 外周だから、ちょっと時間かかっちゃって!」
 斧を振り下ろしたのは、カサンドラ・スウィフト(ec0132)。どうやら、反対側から、女史がいる場所まで乱入してきたらしい。
「謝るのは後! 先にここをどうにかしないと!」
「OK! 皆、鎮圧するわよ!」
 パープル女史にせかされ、彼女は一緒に乱入してきた他のマーメイド達に声をかける。
「おう! 姐さんに続けぇ!」
 わぁぁっと、雪崩を打って広間へ躍り出る彼ら。かなり血気盛んな様子の彼らを見て、首をかしげるセラ。
「あれは?」
「港湾管理局の人達。彼らが神官を抑えてる間に、宝玉を!」
 仲良くなったついでに、説得して連れてきたようだ。見ればリーダーやデルタの姿も見える。
「ハイド様、お願いします!」
「ははははいっ」
 さくらが、そう言って促した。一応神官である彼ならば、正しく宝珠を扱う事も出来るはずだ‥‥と、そう思って。だが、その時だった。
「そうねー、ご苦労っ!」
 目の前で、台座ごと持ち上げられる。きょとんとした顔つきのハイド。さくらが釣られて、顔を上げてみれば。
「え? ヒノミさん‥‥!?」
 ヒノミ・メノッサが居た。彼女はにやりと笑って、こう宣言する。
「これは、頂いて行くわよん。あはははは!」
 持っていた皮の袋に放り込み、まるで盗賊か何かのように、ぴょいぴょいとテラスの間を泳いで行くヒノミ。彼女はそのまま、窓を出口に逃走してしまう。
「ど、どう言う事でしょう!?」
「ぼ、僕にもわかりませんよう!」
 顔を見合わせるさくらとハイド。それを機に、反乱は徐々に鎮圧されていくのだった。