それゆけ、オーストラリア探検隊!

■クエストシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:17人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年06月01日
 〜2007年06月31日


エリア:オーストラリア

リプレイ公開日:06月28日23:01

●リプレイ本文

●フォトドミールの結界
 冒険者達の行き先は、大きく分けて3つになった。一つはグレートバリアリーフに向かったパープル女史達。どういうわけか、川の辺りで事の次第が書かれた手紙を、アロワナが持っていたらしい。川岸に打ち上げられたその手紙を、預かっていたキャシーの愛馬が見つけてきたのだが、どうやら無事らしい。
 もう一方は、つい先日、風の谷へと向かった一行。そして今ひとつは、イェーガー達の街であるフォトドミールへ向かった組である。
「確かに、だいぶ輝きが弱くなっているなー‥‥」
 ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)がそう言った。自分達が来た時の、ちょうど半分くらいだ。イェーガーの話によると、結界が弱まった時期と探索隊が来た時期が一致するらしい。
「俺達は拠点を強化するにあたって、相当数の木を切り倒したり恐竜を狩ったりしているが‥‥。そういった自然破壊が結界の弱体化に繋がった可能性はあるか?」
 もし、そうだったら申し訳ない‥‥と言った表情で、そう尋ねてくるイグニス・ヴァリアント(ea4202)。と、イェーガーは、その前に置かれた祭壇を指し示し、こう言った。
「可能性はある。結界の色は緑。緑は風と森を意味するもの。今まで、祈りの儀式を欠かした事は無いが‥‥。何かが足りないのかもしれないな」
 見れば、祭壇には鉢植えらしき草花と、いくつかの捧げものが置いてある。確かに、どことなく簡素な雰囲気だ。
「これについて、何か伝承は残っていないのか?」
「俺が物心ついた頃には、既にあったが‥‥。伝承と言っても、俺らが来る以前からあったようだしな‥‥」
 レオーネ・オレアリス(eb4668)の問いに、宝玉を見上げ、そう答えるイェーガー。宝珠の周囲は、まるで教会の塔がごとき姿だ。彼の話だと、迷い込んだ人々を保護するように、この宝珠があったそうだ。
「何かそれを知る術はないもんかねぇ。昔話を知ってる奴とかいないの?」
「生き残ってると思うか?」
 ルカ・レッドロウ(ea0127)がそう尋ねると、イェーガーはそう言って苦笑する。結界の外には、恐竜達。事故にあう事も多いらしく、年齢層は普通の村より低いらしい。
「あと例えば、回りになんか書いてあるとか‥‥さ」
「余り奥まで立ち入った事が無いのでな‥‥」
 JJの話に、彼は首を横に振る。彼が生まれた時から、祭壇より奥に近づく事を禁じられていたそうだ。他の村人達も、両親等から同じように言い含められていたらしく、半ば村の掟となっているらしい。
「何か、表には出せないものが封印されている可能性は高いな。その影響で、結界が弱まったと考えるのが、筋だろう」
 その話を聞いたレオーネ、他にも遺跡が複数ある事から、そう判断する。と、イグニスは話をまとめるように、こう尋ねてきた。
「他に考えられる可能性は、いくつかある。確かめさせて欲しい」
 彼らが聞きだした話を、順を追って話すとこうだ。
 まず。結界の宝玉は、アレ一つしか知らないようだ。ただ、他の遺跡には、何かがはまっていたような跡がある事は知っており、そこに何か別な者があった可能性は高いそうだ。
 そして、宝玉自体は、長い年月風雨にさらされており、昼夜通して監視しているわけではない。なので、何らかの理由で傷ついたと言うのは、充分考えられるそうだ。
「直接見てきたら駄目か?」
「さすがに、足蹴にするのは厳禁だろうが」
 JJの申し出に、高町恭也(eb0356)がツッコミを入れる。教会の塔に土足で踏み込むようなものだと。
「他に、力の源を発している遺跡等があるのか?」
「あったら、そちらに移動する事も考えるさ」
 だが、彼らが行動圏としている範囲内には、アリスの他、洞窟遺跡、湖の教会遺跡くらいしかない。他は、1週間かかる山肌の砦遺跡と、岩舟遺跡。いずれも、遺品が転がり、人の気配がないだけの状態だ。
「やはり、遺跡の洗い出しと、近くに寄って見るってのは、必要かも知れんな‥‥」
 とげのあるつたで、覆われた下の部分を見て、そう呟くイグニス。
「どうにかならない?」
「‥‥俺の一存で行っては、村の連中に迷惑がかかるかもしれん。村の面々にも、了承を取らねばな」
 JJがおねがーいとばかりに喉を鳴らすと、イェーガーは村人達の了解が取れれば‥‥と、話し合いでの解決を提案してくれた。
「わかった。俺達も、村の連中と仲良くしたいし。手分けして、話を聞きに行こうぜ」
 そう言う事なら‥‥と、恭也が手伝いを申し出る。JJも仲良くなるのは賛成なので、こう提案してきた。
「それにいい機会だし、前に話してた親睦会みたいなのも開いてみたらどうかなぁ」
「その方が手っ取り早いかもしれないな。もうすぐ昼時だし」
 日は高いうんうんと頷くイグニス。こうして、とりあえず皆を集めて、話し合うことになったのだった。

●洞窟遺跡の秘密
 一方、以前見つけた洞窟遺跡を調べに行ったイディア・スカイライト(ec0204)とファン・フェルマー(ec0172)は、その奥に、繁茂する森を見つけ、以前より若干崩れた都市の跡へと続く事を発見していた。
「都市と言うよりは、街と言った方が良いかもしれないな」
 周囲を見回して、概要を把握するべく努めているイディア。今まで通ってきた森や、通路を丁寧に記録し、内部の地図を作り上げている。しかし、周囲は半ば崩れた家ばかり。いや、家と言うのもはなはだしい台座の所も、多く見受けられた。
「使えそうか?」
「いや。殆どは、土に埋もれてしまっている。掘り出すには、かなり労力がいるだろうし、仮に掘り出せたとしても、資料にしかならんだろう」
 地面に降りたファンとイディア、転がるガレキの山を拾い上げ、ひっくり返している。しかし、そこにも草が入り込み、表面に描かれた文様すら削ってしまっていた。
「きゅ?」
「大丈夫だ。今は、観察を続けているだけだから」
 心配そうに、ディニーが身体を摺り寄せてくる。その背中を、よしよしと撫でながら、イディアはそう言った。うっかり困った顔も見せられないようだ。
「この子達を守る為にも、何か見つけなければ‥‥。それにしても、結界の衰弱の原因は一体何なのだろうか‥‥」
 そう言って、拾ってきた欠片を見せる彼女だったが、ディニーは不思議そうにその匂いをかいでいるだけ。
「向こうの村じゃ、俺達が来たせいだって誤解してたみたいだけどな」
「いや、それだと、リーフの結界が弱った説明が付かない。一体どうなっているのだろうか」
 手紙では『グレートバリアリーフでも結界が弱まっているので、しばらく滞在する』との事だった。
「もし、この草が結界だったとしても、だ。こいつらが、ここにいるって事は、この結界は恐竜避けにはなっていないようだなー」
 ファンが、周囲に生えた草を『食べられるかなぁ』と言いたげにはむはむしているディニーとトロンを見てそう言う。
「そう簡単に、答えは出ないだろう。私の感では、例の薔薇族‥‥だったか? アレが諸悪の根源だと告げているが、確証は無いしな」
 ルカ曰く『奴らはこれからもちょっかいをかけてくる』との事。普通に考えれば、何らかの原因がなければ、そこまでしつこく追いかけてくるわけがない‥‥と。
「我々以外の奴らが、結界の宝珠を恐竜避けに持ち出したり、規定の位置より動かしたから弱まったのかもしれないってことも考えられなくないだろうか?」
 調査の邪魔にならないよう、生えている草を抜き、ディニーやトロンに食べられるものは渡し、蔓はロープのように丸くまとめているファン。
「動かした跡を探せれば‥‥。ラプトル達がねぐらにしていないと良いんだが‥‥」
 その結果現れた文字を書き写しつつ、そう言うイグニス。遺跡の壁に、古代文字で書かれたそれは、例えば『どこそこのお嬢さんラブ☆』とか『三件隣のお兄さんがいけてる☆』とか『選挙に清き一票を』とか言うものだった。
「ふむ。やはり街の石碑は、掲示板のように使われていたのだな」
 その文言と位置、そして絵画を丁寧に書き写す彼ら。それによると、この街の人々の暮らしは、祈りに始まり、祈りに終わるようだ。それはそれで、生活感のあるもので、興味はある。だが、転がっている遺物は、どれも壁から剥がれ落ちたり、煮炊きや商売に使っていたと思しき土器のかけらばかり。生活臭はするものの、滅びに繋がったと言う確たる証拠ではなかった。
「作りが、フォトドミールに似てるな‥‥」
「そうなのか? だったらここは、捨てられた村と言うわけか‥‥?」
 行った事もあるファンが、立てられた小屋の雰囲気を見て、そう呟く。もし、これにシダがかぶさって、木製になれば、アリスの小屋とも変わらない。
「急いだ方がいいかも知れんぞ。見ろ」
 それらを、土器と壁のかけら等、建物の部位や、色の違いによって分類するイディアに、ファンが入り口を指し示した。そこには、きょろきょろと周囲を見回すラプトルの姿がある。
「きゅー‥‥」
 怯えたように、背中に隠れるディニー。彼らを失うわけには行かない。そう思ったファン、足音を立てないように、そぉっとその場を離れる。
「とにかく下がろう。アレだけ動いている所を見ると、すぐに移動するはずだ」
 入ってきた方とは逆側へ。ちょうど、建物は入り組んだ迷路のようになっており、ラプトル達もすぐには入って来れない。その間に、逃げようと言う魂胆だったのだが。
「きしゃあ!」
 ファンはともかく、イディアやディニー、トロンに忍び足は難しかったらしく、ぱきぽきと音を立てた足跡に、ラプトル達はすぐに気付いて、牙を剥く。
「まずい! 見つかったか」
 持っていたショートボウを握り締めるファン。しかし、その切っ先では、たとえ小型に分類されるラプトル相手でも、貫くのは難しい。
 と、その時だった。
「きゅー! きゅー!」
 トロンが、くるりと反転し、まだナイフくらいしかない角を、突き上げるような仕草を見せる。
「トロン‥‥?」
「きゅきゅきゅーー」
 落ち着けと言わんばかりに、その襟飾りをなでるイディア。だが、彼はまるで『お姉ちゃんとお兄ちゃんはボクが守るの!』と言わんばかりに、前足で床を掻いている。まるで、闘牛か何かと同じ仕草だ。
「きしゃーーー」
 だが、ラプトル達は大人。大きくても子供のトロンに、『ガキが何言ってる』と言わんばかりに、泣き喚いている。
「まずい。後ろに回りこまれてるぞ」
「囮を使うのはラプトルの特性ですからね」
 ファンが気配を察してそう言った。イディアには、そう言ったものは欠片も感知で来ていないが、今までの行動記録から、ラプトルが狩りの際、二手に分かれる事は周知している。
「子供ばかりに戦わせてちゃ、怒られちまうな。追っ払うぞ」
「仕方ありませんね。弾も沢山ありますしっ」
 潜んでいると思しき辺りに、ファンは矢を放つ。イディアも、本位ではないようだが、転がっていた土器の欠片を、弾代わりにしてサイコキネシスを使った。
「きゅきゅーー!」
「開いた! 逃げるぞ!」
 怯んだ隙を狙い、走り出すファン。囲みを解かれて、対応するだけの脳みそは、彼らにはないようだ。
「な、なんとか逃げ延びたな‥‥」
 ぜぇはぁと息を整えながら、ほっと胸をなでおろすファン。
「ありがとう、トロン。ディニー」
「「きゅー」」
 礼を言うイディアに、二匹は『どういたしまして』といったようすで、顔や身体をこすり付けてくる。
「で、ここは一体‥‥」
 気がつくと、待ちの最奥部分にいた。比較的、形の残る町の集落には、屋根付きの建物や、保存状態のよい壁画などが残る。足元もしっかりと石畳がしかれた、その道をたどると、広場になっている場所があり、それを見下ろすようにして、見覚えのある建物があった。
「あれは‥‥。教会‥‥?」
 そう、教会。神聖王国の名残に相応しく、緑に包まれた塔と聖堂。戸は既に木々で覆われ、廃墟同然と化していたが、骨格は間違いなく教会だった。
「ほぼ完全な形で残っているようだが‥‥。祭壇が営巣地になっているな」
 隙間から覗いたファン、ちょうど祭壇部分‥‥捧げものをする位置に、卵が10個ほど、天井からスポットライトのように当てられた太陽光にさらされているのを見て、身を離す。
「きゅきゅー」
「暖かい‥‥。地面が熱を持っているようだ‥‥」
 トロンとディニーが、びっくりしたように地面に身体をこすりつけ始めた。イディアがそこに触れて見ると、ほのかに熱をもっているようだ。
「このくぼみは‥‥。何かが収まっていた跡のようだな。しかも、この傷跡からして、はがされたのはつい最近‥‥」
 見上げた先にあったくぼみには、周囲の風化した岩壁とは、明らかに違う傷跡が、くぼみの周囲にたくさんつけられていた。まるで、無理やりナイフやハンマーなどで、削り出したと言った風情だ。
「誰かがここに来て、はめ込まれた宝珠を運び出した‥‥。そしてその結果、フォトドミールの結界が弱くなった‥‥って、どうした」
「いや、営巣の様子を見れば、恐竜の生態解明に、大きく役立つかなぁ‥‥と」
 ファンがそう言うが、イディアは、目の前の営巣もまた、記録にとどめるべき内容のようだ。
「それ、多分さっきのラプトルの巣だぞ‥‥」
 状況を考えると、間違いないだろう。その証拠に、彼らが通ってきた入り口の方から、母親竜が騒ぎ立てる声が聞こえてくる。
「そうか‥‥。確かに、これ以上増えると、ご飯が大変だな」
 実際は早く隠れなければ‥‥と思うのだが、イディアにとっては、そんな事は頭からすっぽ抜けているらしい。
「いや、そう言う問題じゃないだろう」
「仕方ない。離れた場所から観察することにしよう」
 持って帰れないと分かり、イディアは親竜達に見つからないよう、広場から見えない位置へと回りこむ。
「おーい」
「何か問題が? ああ、そうか。イェーガー殿も教えてくれるんだっけ。回る所が、沢山あるなー」
 わくわくと言った表情の彼女。その手元には、筆記用具とメモ用紙が握られている。どうやら、ラプトルの子育ても記録に取るようだ。
「きゅー」
「そうだな、ほっとこう」
 言っても無駄なんじゃないかなぁと言った風情で、ディニーが無く。仕方なく、付き合うことにするファン。
 なお、ラプトル達の子育て風景は、狼に酷似したものだったらしい。

●薔薇からの追撃
 さて、その頃。風の谷へと訪れていたゼファー・ハノーヴァー(ea0664)、キリル・アザロフ(ec0231)、ミカエル・クライム(ea4675)、雪切刀也(ea6228)の4人は、紆余曲折の末、谷を抜けて、湿地帯へと出ていた。すぐ後ろを走っていたディノニクス達は追いかけてこない。ミカエルが仕掛けたファイヤートラップは、時間がたてば消える仕様にはなっているから、彼らが抱えていた卵にも、影響は少ないだろう。
「なんだか、JJさん達が目撃したって言う、薔薇族の人のアジトに似てますね」
 アリスの周囲も湿地帯だが、そこよりもさらにうっそうとしている。それは、JJやルカが潜りこんだ場所に告示していた。
「もしかして、刀也さん目当てに薔薇族の人も来たりするのかな?」
「縁起でもない事を言わないでくれ‥‥」
 キリルが、そう言うと、刀也はげんなりした表情だ。視界の悪いそこは、いつ敵が飛び出してきてもおかしくない、どんよりとした空気が漂っている。
「まあ、恐竜は兎も角、どのみち薔薇族の族長にはそのうち見つかるだろうから、あまり気にすることもないかもしれんがな」
 あえて探す事は無いだろう‥‥と、ゼファー。すっかり狙われたヒロインと化した刀也、ため息をつきながらこう言う。
「実力は、どう見ても俺より上なんだよな‥‥。そして、恐らくはロシア中枢、それもラスプーチンの関係者。どうにかして今よりも強くならないと」
 やられっぱなしで面白い訳がないようだ。だが、疑問は残る。本国では、ラスプーチンは既に失脚、キエフを追われたと聞いているが、まだ何か企んでいるのだろうと、もっぱらの噂だった。
「しかし、連中も何をしようというのかな」
「何かを集めているか、狙っているのは確かだろうな」
 ゼファーも、相手の目的が読めず、困っているようだ。刀也の印象では、探し物があるようだったが、それに反応したミカエルが、こう一言。
「やっぱり狙われているんだ」
「俺じゃないッッ」
 きっぱりと即答する刀也。多少涙目になっている。
「面倒なことにならぬことを祈るのみだが、まあ、無理なのだろうな」
「そうねぇ、ゼファーの言う通りかも。ほら」
 そのミカエル、ゼファーがげんなりした様子で言った直後、森の木々の向こう側を指し示した。見れば、ティラノがくんくんと鼻を動かしながら、何かを探している。しかも、その周囲には、まるで彼を囮にするかのように、何人か人の姿があった。
「奴ら、何故食べられないんだ?」
「もしかして、アレかなぁ」
 いぶかしむ刀也。と、キリルはティラノの後ろを運んでいた、あるものを見つける。それは、風の谷遺跡にあったものと同じ材質ながら、はっきりと土器の形がわかるほど、大きな物だった。
「と、ともかくなんとかしないと‥‥」
 弓を握り締めるキリル。狙うは、ティラノの足元。しかし、PAを使ったはずのそれは、当たる直前で、何者かに跳ね除けられてしまった。
「おやおや。どなたかと思えば、想い人殿ですな」
 姿を見せたのは、フィアットに何事かささやいていた御仁だった。
「違う! 俺はそう言う趣味はないってば!」
「まぁ、そう言わずに、相手をしていただけると、フィアット様も仕事に身が入ると言うものですよ」
 思いっきり否定する刀也。しかし、彼がぱんぱんっと優雅に手を叩くと、周囲に現れる『配下』達。見回すと、どうやら囲まれてしまっているようだ。
「ご案内しなさい」
「ちっ。逃げるぞっ!」
 GO! とばかりに、合図する薔薇族NO’2。しかし、その瞬間、刀也は左袖に縫い付けておいた粉末胡椒の小袋を引きちぎり、煙玉の要領で地面に投げつける。それに紛れて、目の前の1人をなぎ払い、突破口を開く。
「会わないんですか?」
「誰が会うかっ!」
 キリルの問いに、首を横に振る刀也。それもそうだなぁと思ったキリル、ダブルシューティングで、複数の矢を放つ。
「意地が有るんでね、どうにもさ‥‥ッ!!」
 その下っ端に、刀也は十手を振り下ろすと見せかけて、投げつける。ところが、放り出されたそれを、拾い上げる御仁。
「どんな意地だかわからないが、そんなもの、持ち合わせていても得にはならんぞ」
 そう。この怪しげな一団を率いる男、フィアット。流れる血の匂いも、胡椒の香りも気にすることなく、彼は刀也に近づいてくる。と、そんな彼から、刀也を守るように立ちはだかるキリル。彼は。びしぃっと指を突きつけ、こう言い放つ。
「付き纏ったり、捕まえたティラノに同じ名前をつけたり、ストーカーはよくないです。それになにより刀也さんにはもういい人がいるんです。諦めて次の人を探してください!!」
 フィアット、少し面食らったようだが、ややあって、逆にそのキリルに、つかつかと歩み寄り、にこりと笑んで見せた。
「じゃあ、君が代わりになる?」
「そ、それは‥‥」
 言葉に詰まる彼。神聖騎士の彼に、男色はタブー以外の何者でもないわけだが、自分が断れば、刀也がまた狙われるかもしれないと、言葉を詰まらせる。
「まぁ、君に想い人がいようが居まいが、私には関係ないがね。さぁ、トウヤ。お客様を丁重にお迎えしておあげ」
 くすくすと楽しそうな声を上げて、彼は合図を送る。と、ようやく胡椒爆弾の効果から逃れたティラノ、低い唸り声を上げて、彼らの元へ‥‥。
「まずいな」
 ぎりっと唇をかみ締める刀也。この人数では、例え自分がスマッシュEXを連打したとしても、倒せるかどうか怪しい。
「皆さん! いまのうちに!」
 と、その時だった。空中から、まるで嵐のような激風が吹き荒れる。
「ゼルスか!! 助かった!」
 見上げれば、ヴィンセントに乗ったゼルス・ウィンディ(ea1661)が、その卓越した風魔法の力を、ご披露してくれたようだ。さすがに、達人級の暴風の前には、フィアット達もうかつに手出しできないらしく、一行は速やかにその場を離れる事が出来た。
「あー。驚いた。それにしても、刀也くんの想い人って‥‥」
 息を整えながら、うりうりとそう言うミカエル。しかし、当の本人はと言うと。
「あー! いや! それはっ」
 あさっての方向を向いて、思いっきり誤魔化している。
「ボクも数ヶ月一緒だったのに、気付かないくらいだから、知られたくなかったんじゃないかな」
 興味深々のミカエル、そう話すキリルに、残念そうな顔をする。
「で、今までどこにいたんだ?」
 外野の声を100%無視して、そう尋ねる刀也。と、ゼルスは今までエアーズロックの近くにいたと告白する。
「ホント? 何か収穫あった?」
「ええ。道々話しますが、面白い話が聞けました。急がなければならない事もね」
 顔つきが厳しい。不安そうな表情を浮かべる一行に、彼はこう言った。
「フィアットの真の狙い。それは‥‥この地に眠る精霊の力を利用する事のようですから」
 そして、精霊達が絆を断ち切られ、難儀していること。かなうなら、その絆を素に戻してほしいと頼まれた事を、話すのだった。

●薔薇の正体
 一方、フォトドミールでは。
「単なるケチな密輸団ってわけでもなさそうな雰囲気だな、連中は」
 周囲には、ティラノと‥‥そしてラプトルさえ傘下におさめたフィアット達。彼らが、結界の外へと迫っていた。
「これもあの怪しげなブツの効果なのか‥‥? もう少し探っとこうかね。薬は専門外なんでよくわかんねェけど‥‥」
「ゼファーの話じゃ、麻痺製の薬らしいしな。頭のネジでも緩んだかね」
 明らかに黄色く血走った目を見て、そう言うルカとJJ。まさに『いっちゃった目』をした恐竜達に包囲されて、臍を噛んだのは、彼らばかりではなかった。
「奴らめ、こっちの警備が手薄と踏んだか‥‥」
「今回はまたでかい友達を連れてきてることで‥‥」
 唇をかみ締めるレオーネに、げんなりした表情の恭也。
「目的はなんだろうな」
「おそらく宝珠だろう。てか、それ以外に、ここを落とす理由がわからん」
 イェーガーがそう言うと、恭也はすでに明滅能力を殆ど失った宝玉を指し示し、そう言った。なるほどな‥‥と思ったレオーネは、ピナーカを駆り、相手の群れの中へ‥‥。
「相手にとって不足は無い。行くぞっ」
「おうっ!」
 恭也もそれに続く。その恐竜達の奥で、まるで指揮官のように、指示を飛ばしていたフィアット、にやりと笑ってこう言った。
「丁寧なお出迎え、痛み入るねぇ」
「黙れ。ここから先は、一歩も通さん!」
 レオーネ、奴がボスだなと悟ると、ピナーカの背を降り、センチュリオンソードと、チャンピオンシールドに換装する。
「気合入っているね。だけど、意地だけじゃ、何も出来ないよ」
 そう言って、合図をするフィアット。と、ティラノが応えるように吼え、そのレオーネに、尻尾の一撃を食らわせようとする。
「何っ! 早いっ!」
 交わしたと言うよりは、外れた‥‥と言った方が正しい状態。その一撃は、彼の隣に生えていたシダの木を、思いっきりへし折っていた。
「くっ。受けきれないのなら、手折るまで!」
 いかに頑丈な盾とは言え、あんな物を直撃させられたら、使い物にならなくなる。それならいっそ、攻撃は最大の防御と言うわけだ。
「このぉ!」
 隊長だけがもてると言うセンチュリオンソード。その魔法の輝きが、ティラノの足元へと傷をつける。しかし、ほんのかすり傷に過ぎないそれでは、あまり動きは鈍くなっていないようだ。
「1対1で相手するな! そぉれっ!」
 若干もったいない気もするが、この際仕方が無い。鼻の達者なティラノを潰す為、恭也が胡椒玉を投げつける。怯んだように、たたらを踏むティラノの向こう、フィアットに彼はにやりと笑ってこう言う。
「残念だったな。あんたのご執心の刀也はこちらにはいないぞ‥‥」
「ついこの間、相手がいると文句を言われたよ。相手はもしかすると君かな?」
 相変わらず、冗談だか本気だか分からない言い方をする御仁である。恭也が「違うっつーの!」と否定する中、彼は一言。
「さて、そろそろ仕上げと参ろうか」
 ぴぃぃっと口笛を吹き鳴らす。そこへ現れたのは、オーストラリアで天空の覇者と呼ばれる翼持つ竜。
「しまった! あれは‥‥。翼竜!?」
「この辺りは面白いね。使いやすそうな恐竜がごろごろしているし。そうだ。あの子はキョーヤにしてあげよう」
 その翼竜に、自分の名前をつけられて、思わず「ふざけるな!」と言ってしまう恭也。
「さぁ、キョーヤ。頼むよ」
「何っ!」
 そのフィアット、再び口笛らしき音を奏でた。その音に乗って、急降下する翼竜。その爪先が、もはや殆ど分からないほどの薄さになった結界に触れた瞬間。

 パリーーーーーーン!

 薄い陶器が割れる音を立てて、結界が崩れ落ちる。その、開いた隙間から、翼竜はあっという間に宝珠をえぐり出し、天空へと舞い戻ってしまった。
「この野郎‥‥」
 JJが、覚えたばかりのPAで、ナイフを投げつけるが、その程度では、傷つける事さえ出来ない。
「あははは! じゃ、これは貰って行くから」
 そうこうしているうちに、あっという間に彼らは引き上げてしまった。ゼルスが、ヴィンセントに乗って駆けつけたのは、そのずっと後。
「遅かったですか‥‥。申し訳ない」
「いや、俺が力不足なばかりに‥‥」
 謝るゼルスに、申し訳なさそうな顔を浮かべるレオーネ。そんな彼に、ゼルスはこう告げた。
「まだ策はあります。奴らの目的が分かりましたから」
「それは‥‥」
 彼の視線の先には、奪われた宝珠の跡。それはやはり、エアーズロックで見た祭壇とまったく同じだった。
「遺跡を回って、奴らより先に宝珠を探し、奪われたものは、奪い返せばいいのです」
 奪還の二文字が、皆の脳裏に浮かぶ。
「もちろん、その間に、フォトドミールの人々を、お守りしなければいけませんけどね‥‥」
 結界の失われたそこは、今まで聞こえなかった恐竜の鳴き声が、次第に聞こえ始めている。このままここに居たのでは、恐竜だらけの広場で、野営しているようなものだ。
「なるほど。アリスで話し合う事も考えてたんでな。だったら、丸ごと招待しちまおうぜ。せっかくだしな」
 そう提案するJJ。まだまだ、問題は山積みになっているようだった。

●身代わり
 その頃、グレートバリアリーフへ向かった面々‥‥ミーファ・リリム(ea1860)、水葉さくら(ea5480)、東雲辰巳(ea8110)、セラフィーナ・クラウディオス(eb0901)、カサンドラ・スウィフト(ec0132)、ミス・パープルに、ハイド少年は、色々な捜索方法で、ヒノミと王子を探した結果、それと思しき御仁を見つけていた。
「どうも、話に聞いてたのと違うわね‥‥」
「一族って言うし、王子と同行してたのとは違うのかも‥‥」
 彼女達のイメージでは、もう少し知的なイメージだったのだが。
「用はそれだけかな。じゃ、私はこれで☆」
 ヒノミ・メノッサと名乗った女性は、ものすごく軽い。と、それと入れ替わるようにして、東雲が姿を見せた。
「ようやく帰ったか‥‥」
「ちょっと、東雲! どこ行ってたのよ」
 いつの間にか居なくなってー! と、早速文句をつけるパープル女史。と、彼は声を潜めてこう告げる。
「ちょっとお客さんの相手。ヒノミが合流した瞬間に、連中が居なくなったんでな‥‥」
 彼が、こっそり追跡してみた所、港湾管理局の詰め所に入って行ったそうだ。そこには、見慣れない船が横付けされていたそうである。
「それって‥‥」
「絶対に何か企んでるぜ。そろそろ、戻ってくる所かな」
 東雲がそこまで話した瞬間、がちゃりと扉が開いた。現れたのは、身なりのいいそれなりの立場であろう神官風の男性だ。
「失礼いたします。パープル様はおいででしょうか」
「あたしはここだけどー」
 軽く手を上げ、ふんぞり返るように返事をする女史。と、そんな彼女に、何人かの巫女を引き連れた男性は、こう告げる。
「実は、お願いがありまして。我が王子の代役を務めていただきたいのです」
「どう言う事?」
 パープル女史をはじめ、東雲の表情も険しくなる。が、神官はそんな彼らの剣呑な態度にも物怖じせず、こう話す。
「結果命からを強化するため、儀式を行おうと決まったのです。その為の身代わりです。お願いできるでしょうか」
「はっきり言ったらどうだ? 時間稼ぎって」
 東雲のツッコミに、言葉を詰まらせる神官。と、ややあって彼はこう言った。
「まぁ、それでもいいが。ただ、一つだけ条件がある」
「東雲?」
 まるで、交渉をしているような雰囲気に、パープル女史がそちらを見る。と、彼はこう言う。
「きちんとした報酬をいただこう。俺達はボランティアじゃないんでな」
 探索隊ではあるが、冒険者。依頼を受けて、任務を遂行する者だから、と。
「そうねぇ。確かに、水中でも同じように戦える手段が欲しいわ」
 ここぞとばかりに、キャシーもそう申し出る。
「分かりました。では、より上級のアクアシップをご用意しましょう」
 しばらくの沈黙の後、神官はそう言った。漁船レベルのものではなく、しっかりとした武器の付いた船を、と言うわけである。
「いーのかなー」
「これで、帰りの足は確保できただろ?」
 眉をひそめるセラに、東雲はにやりと笑って、そう答えるのだった。