それゆけ、オーストラリア探検隊!

■クエストシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:17人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年08月01日
 〜2007年08月31日


エリア:オーストラリア

リプレイ公開日:09月01日18:53

●リプレイ本文

 さて、宝珠の祠へ、足を踏み入れたゼルス・ウィンディ(ea1661)、レオーネ・オレアリス(eb4668)、それにキリル・アザロフ(ec0231)の3人は、明るい陽の下で、それを調べていた。
「どうです? 反応は」
「いえ、やつらはまだ現れては居ない。ここにあるのは、以前調べた時と同じです」
 バルドスのミラートゥースをかけてみたゼルスはそう言った。それによると、輝きは少しずつ失われており、早急に何らかの手段を施さなければならないようだ。周囲の荒廃ぶりも、以前と同じで、奴らが訪れた形跡は無い。
「そうですか‥‥」
「きゅー」
 がっくりと肩を落とすキリルに、その方に乗ったダッキーが、鳴き声を上げた。心配しているのか、ほっぺをつついてくる彼に、その顎をなでてやるキリル。
「心配しなくても大丈夫だよ。ダッキー」
「ええ。デビルはどこにでも現れるとは言え、ここにいる人は、本物ですから」
 バルドスの魔法で、反応を調べていたらしい。意外そうに「調べたのか?」と聞き返すレオーネに、ゼルスは苦笑して、バルドスを撫でている。
「まぁ、この際ですから。念には念を‥‥と言う奴ですよ。ね? バルドス♪」
「ぐるる‥‥」
 撫でられたバルドスくん、なんだか機嫌が良さそうだ。と、そこへ足音がして、聞き覚えのある声の主が上ってくる。
「よう。こっちにいたんだ」
「あ、ルカさん。追いかけるのはどうなったんです?」
 キリルが手を振ってくれた。真似してダッキーも尻尾を振っている中、彼はこう答える。
「いや、まだだ。その前に、こいつを渡しておこうと思ってな」
 差し出したのは、教会を建設する時に使われる釘だ。
「ちょっとしたルートで手に入れた聖なる釘なんだが、役に立つかな」
 聖別されたそれは、祈りと魔力を込めれば、デビル達の出入りを禁じる事が出来る。試して見る価値はありそうだ。
「直径は3mだから、ここに挿して置けば、なんか上手い事利用できると思うぜ」
 祠の大きさは、ひと1人分と行ったところだ。すぐ近くに差しておけば、いつでも発動は出来るだろう。「ありがとう」と礼を言って、祠に備えるキリル。
「じゃ、俺はちょっくら出てくるわ」
「はーい。では何か分かったら教えてくださいね」
 他にやる事があるのだろう。すぐにアリスへ戻って行く。
「しかし、見事なまでにすすけてしまいましたね」
 振り返ったキリルは、まるで煙突の中へ放り込まれたような姿に、困惑した表情だ。
「これ、使えるか?」
 レオーネが、聖剣『ミュルグレス』を差し出す。刀身にほのかな光を宿すそれを、彼は宝珠に近づけて見る。
「共鳴はしてますけど‥‥。なんか、光が失われているような‥‥」
 ぴぃぃぃんと、笛の高音域みたいな音が鳴った。だが、キリルの指摘する通り、今度はミュルグレスに宿った光が失われていく。
「もしかして、この聖剣から、供給しているのか?」
「あ、でもすすも消えて行ってますから、相殺しているかもしれません」
 反対に、宝珠表面の真っ黒なすすも、徐々に剥がれ落ちている。どうやら、聖なる力は通用するようだ。
「ふむ。キリル、ピュアリファイは使えるか?」
「はい。でも、これだけ大きいものになると、僕の力で浄化しきれるかどうか‥‥」
 レオーネの問いに、頷くキリル。不安そうな彼に、レオーネは懐から清らかな聖水を出してみせる。
「わかった。では、これを使ってみよう」
 補助にはなるだろう。そう言って、すすの部分を洗い流すように振り掛ける。と、その透明な液体に流されて、すすはこぼれる様に落ちて行った。
「あ、輝きが少し増した」
『う‥‥うーん‥‥』
 半分ほどすすが零れ落ち、その下から、本来の姿を取り戻して行く。それと共に、まるで気を失った少年が目を覚ますような声が聞こえた。
「もう少しだ。キリル、ピュアリファイを!」
「は、はいっ!」
 レオーネに言われ、慌てて魔法を唱えるキリル。その白い輝きは、宝珠を包むように膨れ上がっている。
『鎖を、解いて‥‥』
 その光に照らされ、一瞬だけ少年の姿が浮かび上がった。それは、まるで拘束されるような鎖に囲まれている。
「今のは‥‥」
 魔法が終わると、その姿は消えた。だが、すすはすっかり剥げ落ち、元の姿を取り戻している。
「大丈夫です。おそらく、実体化するまでにいたらないんでしょう」
 不安そうに尋ねるキリルに、ゼルスはそう答えた。良く見ると、すすは剥がれ落ちているが、やはり心なしか、輝きが弱い。
「じゃあ、宝珠は‥‥?」
「パワーを取り戻すには、呪いを施した主を滅しにいかなけれなならないようだな」
 レオーネが厳しい表情で呟く。それはすなわち、フィアット達を倒すと言う事だった。
「そうですか‥‥。そうだ!」
 反応を見せない宝珠を、じっと見つめていたキリルだったが、ややあって、持っていた笛を取り出す。怪訝そうな表情のレオーネとゼルスに、彼はこう口にする。
「ほら、月って音楽にも関係するじゃないですか。色々演奏して見せたら、力になるかなって」
「そうですね。それに、その方が、退屈しないでしょうし」
 またいつ、薔薇族が襲ってくるかわからない。警護は必要だ。そう判断したゼルス、彼と共に交代で宝珠の護衛を行おうと決める。
「それじゃ、色んな曲を試してみますね。自慢できるほどの腕前じゃないですけど」
 楽しそうなものや、元気が出るもの。勇壮なもの、落ち着くもの。思いつく限り、日替わりで試してみようと心に決めるキリル。
 そのおかげか、宝珠は徐々に元気を取り戻して行くのだった。

 さて一方。アリススプリングスでは。
「よかったな。何とか月道を開く事が出来て」
 ほっとした表情で、そう言うファン・フェルマー(ec0172)。一時はどうなる事かと思ったが、一応開ける事は出来そうだった。どうやら浄化の魔法をかけた事と、曲を聞かせた事が幸いしたようだ。
「で、その功労者のキリルは?」
「ディニー達の所です。歌、子供たちにも聞いてもらうんだって言ってましたよ」
 ファンに尋ねられて、ゼルスがそう言った。
「そうか‥‥。優しい子なんだな‥‥」
 ここにはイディア・スカイライト(ec0204)も来ている。その間の相手を頼んでも良さそうだ。こうして、子供たちの相手を彼に任せる間、彼らは月道の調整を行う事にした。
「精霊から聞いた船の存在にも興味はありますが、大きな精霊力が無ければ動かないとのことですし、他にしておかなければならない事もありますしね」
 そう言って、本国に依頼した、精霊力を補う品の回収にくるゼルス。
「こんだけ発注して‥‥御代が恐ろしいぜ‥‥」
 ファンはと言うと、前回発注した巨大弓の代金に、何を要求されるか、ひやひやしているようだ。
「ダメ元だがさてどうなったか‥‥。強制権があれば怪しい荷物は強引に調査が出来るのだが‥‥。ロシアも色々と起こっている様だし、怪しい物を持ち込んでは欲しくないと思ってるとは思うのだが‥‥」
 そんな手紙の束から、高町恭也(eb0356)はロシア本国に当てた申込書の返答を探しているようだ。
「王家の紋章つき‥‥っと、あったぞ」
 イディアが、がさごそと各種手紙を漁ると、程なくして立派な封書が出てくる。しかし、それを見た恭也、眉間にしわを寄せてしまった。
「って、俺。ゲルマン語は不得手なんだが」
 正直言って、なんと書いてあるか分からない。困った表情を浮かべる恭也に、イディアは、仕方ないな‥‥と、手紙を広げる。
「今訳しているから待て。何々‥‥ああ、検査官の方は通ったな。あー、でも、嫌な役目も押し付けられてる」
 読み込むと、本国への要求書は通ったようだ。それによると、求めていた荷物の検査権については、そちらに一任するとある代わりに、違う役目も押し付けられていたそうだ。
「どう言う事だ?」
「ここを通す為の荷物検査やらせる代わりに、手数料の徴収官もやれってさ。恨まれる比率が上がるぞ、これ」
 いくら実績があるとは言え、ロシア在籍じゃないお前が、強制権を振りかざすのは、商人達も官僚も良い顔しないから、税務調査官って事にしろ‥‥言うらしい。
「うー、まぁ仕方が無いか‥‥」
「集めた資金は、本国に提出しろってさ。これ、開発資金の代わりだなー」
 一応、名目上は『月道監査官』と言う肩書きになるそうだ。仕事は、月道利用料の他に、輸入手数料を取り立てること。文句が吹き荒れそうな仕事である。
「胃が痛くなりそうだなー。他には?」
 もっとも、本人は念願の監査強制権を手に入れたせいか、余り気にしてはいない。きっと、イディア達を信頼している為だろう。
「いつもの資材搬入だが‥‥。何々、あんまり量を送れていない? これ、たぶん精霊量の関係だな]
 と、そのイディア、月道向こうの手紙から、予定していたうち、かなりの品が届いていないと、そう言ってきたそうだ。
「どう言うことだ?」
「向こうからこちらに来るものは、概ね大丈夫だが、こちらから向こう側に送る分が少なくなっているらしい。で、結局行方不明や送れない分、向こうも出せないと言う事だな」
 困ったようにそう言うイディアだったが、新任監査官の恭也は「月道が直ったら、まとめて送ればいいさ」と、あまり気にしていないようだ。
「とりあえず、それの選定もある。荷物は1週間程度前までに持って来て貰って、それ以降に追加等がある場合は、中身を全て見せてこちらで追加する‥‥とでもしたいが‥‥どうだろうな?」
 早速その仕事を開始する恭也。と、イディアは棚から木の札を出してきて、こう言った。
「怪しい品は、わけておこう。あと、リストに載っている品にはタグを付けてもらい、不明品かどうか一目でわかるようにしたら良いと思う」
 それには、リストにあった名前が書いてある。と、それらを一つづつ荷物にくくりつけていると、イグニス・ヴァリアント(ea4202)とファンが、声をかけてきた。
「月道、開いたって?」
「ああ。ちょっとは補充されたらしい」
 恭也がそう言って、荷物の山を見せる。やはり、以前から見れば若干少ないエチゴヤの荷物を見て、イグニスはこう言った。
「そか。ならちょっと頼みたいんだが‥‥。保存食が付きかけてる」
「自給自足ってわけにはいかないのか?」
 確か、色々作っている筈だが‥‥と、首をかしげているイディアに、その作成責任者のファンは、こう告げた。
「一応野菜とかは俺やベティさんが作ってるからアリスにいるときはそんなに問題ないかもしれないが、遠出の時には保存食が必要だし」
 通常の食料なら、次第に備蓄も増えている。しかし、それを保存食化する術は、冒険者に知識があるわけではない。いや、ある者もいるにはいるだろうが、あまり一般的ではなかった。
「ふむ。なら書状を添えておこう」
 そう言うイディア。エチゴヤと本国あてに、すらすらと助言書を書き上げていた。

 一方、リーフ組は、宝珠持ち逃げ犯のヒノミ・メノッサを追って、川を遡上していた。
「見つけたのら! 右岸、北西の方向なのら!」
 テレスコープの魔法を使っていたミーファ・リリム(ea1860)が、遥か遠く‥‥豆粒のような人影を見つけ、そう叫ぶ。
「もうちょっと距離が稼げれば、弓が届くわ!」
 起きてきたセラフィーナ・クラウディオス(eb0901)、弓を引き絞り、その距離の目測を出す。どうやら、対岸まで近づければ、どうにかなりそうだ。
「おーらい、何とか近づければ‥‥。東雲、出来る?」
「ああ、つけるだけならな」
 パープル女史に言われ、舵を切る東雲辰巳(ea8110)。そんな彼に、女史はぴしゃりと言い切る。そして、後ろから抱きつくように頬を寄せると、低い声音で囁いた。
「‥‥頑張って動いて頂戴。その為に、話聞きに行ったんだから」
 私の為になりたいというのなら。無理に背伸びをする事なんて無いから。彼女は、小さく告げる。
「心得た」
 こくんと気付かれないように頷いて、東雲は船の速度を上げた。そのおかげで、船体は大きく波打ち、対岸へと迫る。
「もうちょっとだらから、ミーちゃんは飛んでくのら!」
 そう言って、背中の羽をぱたつかせるミーちゃん。
「気をつけて。そうだ。これ付与していきなさい」
 その背中に、カサンドラ・スウィフト(ec0132)がオーラパワーを付与してくれる。「ありがとうなのら」と、ぺこんと一礼して、スピードを上げるミーちゃん。
「問答無用ってわけじゃないけど、用心に越した事はなさそうね‥‥」
 一方のキャシーさんも、自らにオーラパワーをかけた。
「生け捕りか、気絶させた方が良いかしら」
「出来ればね。まだ、操られてるのかそうでないのかわからないし‥‥」
 セラに問われ、うなずくキャシー。
「OK。だったら、足を狙うわ」
 いずれにしろ、難しい行為だが、やって見るほかあるまい。そう思い、セラは矢を放った。
(お願い、止まって!)
 願いを込め、気配を察した矢は、ひょうと空を飛び、ヒノミの足元へと突き刺さる。
「そこのお嬢様っ。止まって下さいません?」
「あーらら。やっぱり追いつかれちゃった」
 そこへ、キャシーが斧を片手に立ちふさがった。肩をすくめるヒノミに、今度はパープル女史が、「さっさと返さないと、酷い事になるわよ!」とすごんでみせる。横で東雲がちょっと呆れたように、「喧嘩売ってどうする」とツッコんでいた。
「やぁよっ。なんであんたに、せっかく手に入れたお宝、渡さなくちゃなんないの」
 が、ヒノミさん、あっかんべーっと、宝珠をしっかり握り締めちゃっている。
「ちっ。警告はしたわよ! セラ!」
「はーいっ」
 パープル女史に促され、彼女は矢を次々と放つ。ダブルシューティングくらいは心得ている。1人を相手にするには、多すぎるくらいの矢が、ヒノミ嬢へと降り注いでいた。
「きゃあっ。危ないじゃないっ」
 逃げ惑うヒノミ嬢。それを見て、キャシーはこう判断する。
「避けた? まだ契約はしてないって事か‥‥」
 セラにはまだ、パワーを付与してはいない。威力があるとは言え、魔法は働いていない弓だ。矢も、ごくごく普通のやじりを使っている。それを避けるとなると、武器耐性ではない可能性が大きい。少なくとも、今のところは。
「あっ。逃げちゃいましたっ!」
「させないわよ!」
 相手なぞしている暇はないと思ったのだろう、ヒノミ、会話もそこそこに、くるりと踵を返す。後を追うキャシーとセラ。
「ああもう。しつこいわねーー」
「それはこっちの台詞よ! いい加減観念なさい!」
 びしびしと矢が降り注ぐ。「やなこったー!」と逃げ回る彼女が、岩場の影に回りこんだ瞬間である。
「とったーーー! これ、ミーちゃんのーーーー!」
 荷物の上で、突然ミーちゃんの声がした。どうやら、インビジブルを使って姿を隠して忍び寄っていたらしい。
「あっ! いつの間に! こらぁ、離れろっての!」
「嫌なのらっ!」
 ヒノミが、バッグを振り回し、彼女を落とそうとするが、ミーちゃん意地でも離れない。
「ああもう、しょうがないなぁっ。えぇい」
「うわっ」
 諦めたらしいヒノミ、そう言うと、ミーちゃんの首根っこを捕まえていた。そして、宝珠ごとバッグに押し込めてしまう。
「相手がシフールでも、デザートくらいにはなるしっ。それじゃあねっ!」
 そして、まるでクリスマス時期のように、それを背中に担いでしまうと、そのままぴょーんと岩場の向こうへ消えてしまった。
「ど、どうしましょう‥‥」
「落ち着いて。ミーちゃんは、転んでもタダでは起きない子。きっと、どうにかしてくれるわ」
 軽くパニくって支持を仰ぐ水葉さくら(ea5480)に、パープル女史はきっぱりと信じるように答えた。

 さて、アリス組の一行が向かったのは、普通なら歩いて一週間はかかる湖だ。周囲には、やはり水棲恐竜達が草を食み、一見すると平和で穏やかな風景に見える。
「話を総合すると、この辺りにあるようですね」
「きゅー」
 周囲を見回して、キリルがそう言うと、肩のダッキーが心配するように鳴いた。
「大丈夫だよ。心配しなくても」
「きゅきゅっ」
 が、ダッキーはキリルにそう言われ、別にっと言った風情で、そっぽを向いてしまう。
「あーあ、ひねくれものねー」
「きゅっ」
 ミカエルがそう言うが、本人(?)は、違う違うー! と言った風情で、ぱたぱたと激しく尻尾を縦振り中。
「ん? そうじゃないって言うの? はいはい、わかったわよ」
「きゅきゅきゅーーっ!」
 いーこいーこと、顎を撫でてやるミカエル・クライム(ea4675)。が、ダッキーはまったく落ち着かず、今度は頭を上げ下げしていた。
「ちょっと、様子がおかしいですね。どうしたの? ダッキー」
 キリルが、疑問を感じて、そう尋ねると、ダッキーは『やっと分かってもらった』と言わんばかりにして、肩からぴょんっと飛び降りると、湖の反対側へ歩いてみせる。
「なんか、警告しているみたいだな」
 その様子に、イグニスがそう言った。ゼファーの魔法では、この辺りに薔薇族がいるはずである。
「ありうるわね。一応、これかけておこうっと。皆もいる?」
 ミカエルがそう言って、フレイムエリベイションを唱えた。他の面々にも、その力を分けようと思ったが、雪切刀也(ea6228)やゼファー・ハノーヴァー(ea0664)は自分で使えるし、それほど心配する事もなさそうだった。
「それよりも、エボリューション対策に、なるべく多くの手数を用意しておくといい」
「精霊魔術師に、そんなの期待しないでよ。こっち仕掛けておくから」
 ゼファーに言われたものの、ミカエルは本より重いものを振り回したことなんぞ、あんまり無いような魔術師である。代わりに、ファイヤーウォールの魔法を披露して見せた。
「って、ヒートハンドは‥‥」
「今は、実戦で使える魔法覚えたほうがよさそうだしねー」
 この次は、ヒートハンド覚えよう‥‥と、心に誓うミカエル。そうして、魔法を唱え終わった時だった。
「居ましたよ」
「あいつら、既に陽の宝珠を運び出した後か‥‥」
 ゼルスが見つけたらしく、湖の対岸を指し示す。その行列に、見慣れない金色の宝珠が加わっているのを見て、刀也がそう言った。
「こんな場所にまで、全くご苦労様ですね。まあ、悪魔というのはそれが仕事なのでしょうけれど。さて、お手並み拝見といきましょうか」
 そう言って、ゼルスはヴィンセントに飛び乗った。同じようにレオーネも、ウィバーンで空中に舞い上がる。
「ずいぶんと遅かったな。残念ながら、この子は私のものだよ」
 行く手を阻むように着地してみせると、彼はぽふぽふと宝珠を軽く叩いて、そう言っていた。
「させるかっ!」
 刀也が、奪還しようと剣をを突き入れる。それを、まるでダンスでも踊るように受け流すと、フィアットは耳元でこう囁いた。
「やきもち? それはそれは、嬉しい事だね」
「ちがーーーう!」
 即答する刀也。その激しすぎる反応に、フィアットはくすくす笑いながら、こう続けた。
「是非とも仕留めてみたい反応だ。さて、どう料理してあげようかな」
「させるか!」
 そこへ、恭也が目潰しと言わんばかりに、胡椒爆弾を食らわす。ひょいっとそれを避けたフィアット、剣を手に向かってきた彼に、こう言って見せた。
「おやおや。ナイト君の登場かい? それとも、二人まとめてでも構わないよ」
「だったら、そうさせてもらおうっ!」
 お言葉に甘えるわけではないが、刀也と恭也は、2人同時に切りかかった。
「俺の武器では恐竜達の防御を貫けない‥‥。‥‥それに‥‥薔薇男‥‥お前には色々と世話になってるから‥‥な、と!」
 刀也がフェイント気味に突きを入れ、その隙に恭也が、ポイントアタックをダブルでぶち込んでいる。それを、「ほう」と感嘆した一言で、フィアットは身代わりを1匹用立てた。割り込んだのは、血走った目をした哀れなラプトルくん。
「既にラプトル達は乗りこなして久しいか‥‥。このままでは不利だな‥‥」
 気がつくと、彼らの周囲には、ラプトルとディノニクスで囲まれていた。薔薇族はと言うと、彼らを優秀な戦闘馬のように扱い、次第に包囲網を縮めてくる。
「各個撃破だ。分散させて1匹づつやるぞ!」
 レオーネがウィバーンを回頭させながらそう言った。とは言え、簡単な事ではない。文句を言うイグニスに、彼は「レックスやアロサウルスに噛まれるよりはマシだろっ!」と、聖剣ミュルグレスを振り下ろす。
「どうやら、少し強化が必要なようですなぁ‥‥」
「まぁまだ様子を見ようではないか」
 もっとも、フィアット達は、そんな手ごまが失われる事にも動じない。状況を楽しむかのような仕草に、すぐ脇で控えていた黒服男がこう囁いた。
「そうも言っていられませんぞ。時間をかけてはいられませんからな」
「仕方がないな」
 手のひらを返すフィアット。その姿を見て、ゼファーはこう呟く。
「あいつがナンバー2か‥‥。どうもあのやりとりを見てると、、フィアットはナンバー2に操られているようにも見えるな‥‥」
「と言うことは、あのナンバー2を優先した方がいいかもしれん」
 それを受け、イグニスは攻撃の対象を、黒服男へと変更した。そして、ダブルアタックでもって、その身を削ろうとする。
「―――刺し、穿つ!」
 が、やはりなかなか当たらない。彼の獲物では、おそらくかすり傷程度しかダメージを与えられていないだろう。
「おっと。私より、主を狙った方がよろしいのではないですかねぇ」
「やっぱり‥‥か」
 いや、当たってはいる。ただ、その言葉尻から判断し、並みの人間ではないのだろう。そう判断したルカ・レッドロウ(ea0127)、ブレーメンソードを掲げた。
「マーヴェラスにトキめかせてやるぜ、フィアットさんよ…!」
「ぞろぞろと出てきて、小うるさいハエですねぇ」
 ヘイカモン! とばかりに、カウンターアタックを待つルカだったが、黒服男は、自分からは攻めてこようとはしない。
「野心的な人間と思っていたが違う様で」
 その間に、刀也はフィアットと対峙していた。だが、その彼の台詞に、フィアットは動じる事無く、こう答える。
「野心は、あるさ。なんとしても手に入れたい‥‥って言うね」
「そりゃあ、圧倒的な力は楽しいだろうさ。まして、悪魔のなら尚更ね」
 周囲の剣戟なんぞお構いなく、まるで2人っきりの会話のように、剣をつき合わせて答える刀也。
「わかっているなら、お前にも与えてやろうか?」
「だが、俺なら要らない。ああ、そうだとも。それで自身を歪めてしまうんじゃ、何一つ意味がないんだよ」
 がんっと、フィアットの剣が振り飛ばされた。離れた所に突き刺さる剣を見て、刀也はこう言ってのける。
「ほら、力はより強い力で粉砕されちまうだろ」
「‥‥」
 フィアットは答えなかった。そこへ、様子を見ていたJJが、茶化すように告げる。
「だいたい、力、ねえ…意外と俗っぽいモンを欲しがるんだな。モテねーぞ、そんなんじゃ。悪魔なら…あー、ついでに薔薇族なら、もっと邪悪な哲学とかで魅了した方がいいんじゃあないかい?」
「だいたい、お前の狙いはいったいなんだ‥‥? 宝珠を奪うだけではないようなのだが‥‥奪ってどうするつもりだ?」
 恭也が、もっとも気になっていた事を聞く。と、フィアットは表情を消し、その足元にいるラプトル達を示して見せた。
「見て分からないか? この通り、恐竜達は、優秀な騎乗動物であり、戦闘兵器さ。それに、この大地の先は、どこへ繋がっていると思う?」
 目をぱちくりさせたのはミカエル。
「え、アフリカ‥‥じゃないの?」
「違いますよ。お嬢様」
 黒服男に言われ、「やだもう。気軽に呼ばないでよね」と、ふてくされる彼女。と、フィアットはこう告げた。
「この大地は島国。島々を渡り、外洋を通り抜ければ、やがて君の故郷にたどり着く。普通の船なら、海峡を通り抜けられないだろうが、こいつらならば、大丈夫と言うわけさ」
「そんな事の為に‥‥」
 キリルが、ダッキーを抱えながら、そう呟く。しかし、フィアットはそんな彼の呟きなど気付かない様子で、高く笑い始める。
「ははは、もう大半の準備は整っているのだよ。後は、宝珠を奪い、この地に張られた結界を退けるだけ! 月道などなくとも、外界への侵略が可能なのさ。あーーーはははは!!!」
 その騒動は、アリス近くで待機していたファンにも見えていた。出来上がった巨大弓は、外壁部分に取り付けられ、周囲を油断なく威嚇している。
「く‥‥。どうやら始まってるみたいだなー」
「準備、出来たぞ!」
 手伝っていたイディアが、そう言ってくれた。見れば、ディニーとトロンが、ロープをくわえ込んでいる。
「よぉし、チビども。合図したら離せよ!」
 ファンがそう言うと、「きゅー!」「きゅ!」と、頷く二匹。
「せぇの。えいっ!」
 そのロープが離れた瞬間。設置された槍が、空気を切り裂いて飛んで行った。
「おやおや。こちらの相手をしている間に、向こうの兵器が完成してしまったようですね」
 湿地とは言え、湖からアリスは良く見えるらしい。ばちばちと火花を散らす冒険者とフィアット達に割って入るように、黒服男が警告していた。
「なら、こちらも兵器を出そうか」
 その姿を見て、ぱちんと指を鳴らすフィアット。そのとたん、彼らの運んでいた荷物が、ごそごそと動き出した。しかも、その範囲は、かなり大きい。そう、ちょうどティラノの死体を2倍か3倍くらいにしたような大きさだ。
「フィアットの兄ぃ、ゲットしたよーー」
 そこへ、場違いに響く女の子の声。と、それを聞いた黒服男がこう言った。
「おや、ヒノ様がご帰還されたようですな。守備は上々と行った所でしょうか」
「ふむ。ならばここまでか。引き上げるぞ」
 見れば、何やら大きな袋を担いだ少女が、ぶんぶんと腕を振っている。一見すると、冒険者のようだが、口元に浮かんだ笑みと、フィアットに駆け寄った所を見ると、薔薇族の一員のようだ。
「待てっ!」
「邪魔っ。どけっ」
 立ちはだかったジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)、男の子口調で言ったヒノ嬢に突き飛ばされてしまう。
「こちらには、アレがある。宝珠の大半も我が手の内。さて、どうしますかな」
 黒服男に言われ、それはこっちの台詞だーー! と言いたいJJ。
(むむむ。ろうやら、アリス近くまでもろって来たらしいのら?)
 一方、その袋の中では、ミーちゃんが水の精霊宝珠を抱えながら、状況が変わった事を悟っていた。
『そうみたいですね。私も、兄弟達をすぐ近くに感じます』
 水精さんも、そう言ってくれる。と、その直後、がったんと放り出されたような衝撃があり、続いて『にーちゃーん! たーすけてー』と、違う女の子の声が、頭に響いた。
(あれが妹さんなのら?)
『はい。けど、向こうも囚われの身のようですね』
 肯定の意を示す水の精霊。流れ込んできたイメージは、金色の髪を持った元気そうな女の子だ。
(なんとか、外の皆に連絡を取れればいいのらけど‥‥。ろうしようっ)
 幸い、ここにはアリス組がすぐ近くに入るようだ。機会と手段を考えれば、何とかなるだろう。
「行っちゃった。どうしよう」
 ミカエルが顔を見合わせる。その機会と手段を講じなければならないのは、アリス組も同じ状況のようだった。