それゆけ、オーストラリア探検隊!

■クエストシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:17人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年05月01日
 〜2007年05月31日


エリア:オーストラリア

リプレイ公開日:05月26日04:07

●リプレイ本文

 その日、ファン・フェルマー(ec0172)とレオーネ・オレアリス(eb4668)は、通いなれたイェーガー達の村を訪れていた。
「‥‥また連れてきた奴が違うな。例の薬なら、もううちには無いぞ」
 ほどなくして‥‥村人らしき見張りに呼び出されたイェーガーは、むすりとした表情でそう言った。
「いや、あれはこっちで栽培している。素になる材料は、ゼルス‥‥仲間が向かっているんで、大丈夫だ」
 ファンは、そう言って近況を話した。それを聞き終えたイェーガー、表情を変えぬままこう尋ねてくる。
「ならば、今度はなんだ」
「実は‥‥こう言うものを探している」
 そう言って、布にくるんだ胡椒もどきの木を差し出すファン。この辺りにも生えているだろうそれを手に取り、「ふむ‥‥」と眺めているイェーガーに、彼はこう続けた。
「あんたなら、この界隈にも詳しいだろう。ただでとは言わん」
 そして、荷物の中に収めていた発泡酒を差し出す。ロシアから持ち込んだもので、この辺りにはない筈だ。だが、彼は少しむっとした様子で、声を荒げた。
「見くびるな。酒で買収されるつもりは無い」
「そう言う意味じゃねーんだ。ただ、知ってたら教えて欲しいだけで」
 両手を挙げ、降参のポーズを取るファン。助けを求めるように、レオーネの方を向くと、彼はこう言った。
「イェーガー殿、我々とて、乱獲は避けたい。かと言って、本国の命に背くわけにもいかない。貴殿らの領域を侵さぬ為にも、何とか犠牲を最小限に抑えて、調達できないものだろうか」
 そして、持っていたコヴァスの剣を抜き、まるで騎士叙勲の儀式のように、刃を自身の方へ向けて、イェーガーとの間へ置いてみせる。
「自分達の事は、自分達でと言う心境は分かる。だが、我々は、あなた方のよき隣人でありたいのだ」
 イェーガーはまだ答えない。と、ファンもレオーネの言葉に続ける形で、発泡酒の栓を抜くと、まるで神聖な儀式でもあるように、カップへと注いで見せた。
「こっちも、やみくもに探して、聖域を侵したくねぇし。薬だっていつ必要になるかもしれない。その分、お前さん達なら、ここで生活しているから、こう言った香辛料も使うんじゃないかと思ってな」
 一連の動作をじっと見詰めていたイェーガー、笑みこそ浮かべていないが、やおら頷いて見せた。
「‥‥わかった。では、案内しよう」
 いくぶん、心を開いたのだろうか。捧げられた杯を、飲み干してみせる。ただ、コヴァスの剣に触れようとはしないまま、くるりと踵を返した。
「興味ないんかな」
「いや、この場合、まだ受け取る心境にはないだけだろう」
 ファンが、ちょっと残念そうに杯をしまうが、レオーネは気にしていないようだ。もし、本格的に交流を結ぶようになったら、正式にプレゼントしようと心に誓いつつ、彼らはその後へと付いていく。
「村長! そいつらは‥‥!」
「手を出すな。俺の客だ」
 広場から村に繋がる通路。街道とも呼べるそこでは、迎えに来ていたらしい村人と、イェーガーがもめていた。「しかし‥‥」と文句を言いそうな彼らに対し、彼が「奴らは敵じゃない。卵を奪い取って行った奴とは、違うようだからな」と諭しているのを見て、レオーネは首をひねる。
「どういう事だ?」
「さぁ‥‥」
 そんな事、ファンに言われても、心当たりはない。そんなトラブルを、一歩下がった状態で見ていた2人だったが、ややあって、家々が立ち並び、整備された畑のあるエリアへとたどり着く。
「着いたぞ」
「これは‥‥」
 遺跡を利用したらしい石造りの壁。だが、とても恐竜を防ぎきれるとは思えないそこは、うっすらと緑色の光るドーム上の結界が張られている。中央には、塔にも似た構造物が置かれ、小さな子供から大人の女性まで、様々な人々が、アリススプリングスと同じように暮らしていた。
「ようこそ、我が村へ。我らは村をフォドミミールと呼んでいる」
 幾分表情を和らげ、両手を広げて、村の紹介をしてくれるイェーガー。
「ここでは話も出来ん。俺の家はあそこだ」
 興味深そうに、周囲を見回す2人を促し、家の中へと入るイェーガー、他の住居よりは、若干広く取ってあるらしいその家には、壁に周辺の地図が記されていた。
「フォトドミール‥‥。この地図に記された名前か‥‥。この印は?」
 しげしげと、その地図を眺めるファン。そこには、村の名前と、アリススプリングスの名前、それに、いくつかの遺跡と、周辺には緑色の点が記されていた。
「我々は、卵をよく利用する。ここは、巣のありかを示した場所だ。そちらの地図と照らし合わせれば、恐竜達の生息域がわかるだろう」
 言われて、渡された地図と照らし合わせてみれば、書き込まれた集団生息域と同じ場所に、卵のありかが記されている。
「ふむ。奴らが集まっていたのは、営巣の為か」
 イディア・スカイライト(ec0204)に教えてあげれば、嬉々として記録にまとめてくれるだろう。もしかしたら、自ら見学にいくかもしれない。
「この赤い線は何なんだ?」
「我々の命綱だ。見ろ」
 窓の外を示すイェーガー。見れば、同じ場所に、結界の外輪部がある。そして、その最も高い部分に、同じ色の宝玉があった。
「あの宝珠の恩恵で、我々はここに村を築いていられるんだ。もっとも、最近はそれが弱くなっているがな」
「イェーガー殿、何か相談事があるなら、遠慮なく言って欲しい。我々は隣人なのだから」
 ためらうような口調に、レオーネはそう言う。まだ少し、話す事を躊躇している風情のイェーガーだったが、おもむろにこう話す。
「‥‥実は、結界が弱まっているのは、貴殿らが来てからなのだ。お前達のせいじゃないと思いたいが‥‥。時々‥‥竜が暴れこんできたりする」
 そう言う時は、つれていた恐竜と共に、丁重にお帰りいただくそうだ。
「最初は、卵泥棒が相次ぎ、人も増えていたから、てっきり貴様達がこっそり村の領域に入り込んでいるのかと思っていたが‥‥。どうやら誤解だったらしいな」
「疑いが晴れたんなら、それでいいさ」
 ファンがそう言った。気にしないで良いと言った風情の彼に、イェーガーはこう申し出た。
「これは‥‥。まだ村の者には話していないが、貴殿らと手を携えても良いと思う。だが、そうなれば、ここの結界が弱まる可能性がある。俺とて、力には限りがある‥‥。そこでだ」
 手を叩くと、「イェーガーさん、お呼びですか」と別の青年が、顔を見せた。彼は、イェーガーに「ああ。客人をライダー達に会わせたい。手の空いている奴だけでいい」と命じている。
「ライダー?」
「以前、恐竜達を手名付ける方法を聞いた奴がいたなと思ってな。骨と皮をうまく手に入れる都合もあるだろう。こっちだ」
 立ち上がったイェーガーは、そう言うと家の裏手へと回った。そこには、大きな厩舎に似た建物があり、イェーガーの乗っていた恐竜と同じ種類を連れた、数人の村人がいた。
「こいつは‥‥」
「我が村を守護する、ダイナソアライダー達。俺はここの村長であると共に、こいつらの取りまとめもやっている。今は4人しかいないが、な」
 驚くファンとレオーネに、彼らの事をそう紹介する。確かにその人数では、この広い村をカバーするのは、難しいだろう。
「せめて、もう少しライダー達がいれば良いのだが‥‥」
 彼が生まれる前までは、もう少しいたらしい。だが、恐竜達との戦いもあって、徐々に数を減らして行ったそうだ。
「‥‥わかった。隣人の苦労に、力を貸すのも、我々の務めだ。ノルマを片付け終わったら、何とか出来るよう、相談してみよう」
 その話を聞き終えたレオーネ、約束してくれる。それを聞いたイェーガーは、少しほっとした様子で、こう教えてくれた。
「よろしく頼む。そうだな‥‥お前達の求めるモノのありかなら、少し心当たりはある。村のものには、俺から言っておく」
 そう言って、胡椒のありかを、手書きの地図に記してくれる彼。それを元にすれば、ファンの考えた通り、足で探すよりは、時間が短縮できそうだ。
「こっちこそ、よろしく頼むぜ」
 恩義を感じたファン、そう言うと、話の礼に発泡酒を1本置いていくのだった。

 その頃、マーメイド探索班‥‥通称海チームは、皮を下り既に海へと到着していた。
「この分だと、今日中にはグレートバリアリーフに到着できそう、ですね。ハイドさんの話だと、とっても綺麗な所らしいので、私も楽しみです」
 海も空も、アリスにいたよりもずっと澄んでいる。もうすぐ、マーメイド達の王国が見られると、うきうきした表情の水葉さくら(ea5480)。だが、セラフィーナ・クラウディオス(eb0901)にはちょっとした不安があった。
「でも、イキナリ人間の私達が、用も無いのに、訪ねていって平気かしら?」
「この子がいるから、大丈夫でしょ」
 ぽふっと少年の背中を叩くパープル女史。王子の側近ともなれば、本人はともかく、発言力はそれなりにある。信用を得ると言う行為は、心配しなくても良いだろうと。
「王子様助けたら、ご褒美で宴会とかやんないかな〜〜? やるらよね〜〜? 楽しみなのら〜〜♪ 頑張るのら〜〜♪」
 ミーファ・リリム(ea1860)の頭の中は、すでに『助けていただいてありがとうございます』と、ご馳走の山を築かれる事になっている。似たような事は起こるだろうなぁとは思いつつ、カサンドラ・スウィフト(ec0132)が、遥か沖合いを指差した。
「ねぇ、あの首長竜、湖にいたのと似てるわね」
 それは、湖にいた恐竜と、良く似た恐竜だった。もっとも、目つきが優しく、彼らより少し小柄なアーケロンに体当たりする事もない。おそらく、別種の恐竜だろう。
「彼らも、アーケロンさん達と、同じ方向へ行くみたいですね」
 さくらがそう言った。どうやら群れで行動するおとなしい性格の彼らは、団体さんで同じ方向へと向かっている。その首の長いご一行の後ろに、オーストラリア特有の大きな夕日が、沈んでいく。
「リーフから見る時は、朝日が綺麗なんですよ。リーフでも、聖なる岬として、崇められています」
 彼らが進むのは、岬の先端。見覚えのある土地なのだろう。少年は、さくらにそう教えてくれた。
「と言う事は、あそこを回れば‥‥」
 キャシーがそう言った。船が、夕日を追いかけて、岬を回ると。
「「「わぁ‥‥」」」
 茜色に染まる、色とりどりのリーフ。そのあちこちには、熱帯魚のようなマーメイド達が泳ぎ、賑やかな港を形成していた。
「あの、半分水中に没した桟橋が、港です」
 少年が、深く切れ込んだリーフを指し示す。貝でびっしりと覆われた桟橋は、人間の世界の物とはだいぶ違っていた。
「いる面々は、全員マーメイドなんだろうなー」
「そりゃそうでしょ」
 東雲辰巳(ea8110)が、人の世と代わらない姿に、舌を巻いている。港の周囲では、足に変じた姿でも働いている者がいた。とてもそうは見えないが、彼らもまた、マーメイドなのだろう。
 だが。
「どうして王子が‥‥」
「いや、良く見ろ。別人かもしれん」
 パープル女史の姿を見た港の人達、こそこそとそう囁いている。
「騒いでますね」
「違和感バリバリだもの」
 さくらにそう答えるパープル女史。中には、剣呑な一言を言っている御仁もいたが、パープル女史は、こう言った。
「キャシー、手は出さないでね。向こう、驚いてるだけだから」
「分かってるわ」
 頷く彼女。と、ややあって、港湾管理局の者なのだろう。少し年配の男性が現れる。
「ハイド様ではありませんか! いったいどうして‥‥」
「すみません。王子とはぐれてしまって、この方達に助けてもらったんです」
 少年の顔を知っていたのだろう。「それはそれは‥‥」と、大雑把な事情を聞いてくれる彼。
「厄介な事に巻き込まれないといいんだけど‥‥」
「いきなり捕まえたりはしないでしょ。あの子いるんだし」
 不安そうにそう言うセラに、パープル女史はそう言ってくれた。その証拠に、その男性は、礼らしき仕草で、こう言ってくれる。
「ようこそ、女王アイリスの治める街、我らがクイーンズランドへ」
「ほらね」
 大丈夫だったでしょ? と、セラに言ってのけるパープル女史。と、その男性は離れた場所にある建物を指し示し、案内してくれる。
「ここでは、話も伺えません。お疲れになったでしょうし、話は食事をしながらでも」
「わーーい。ごちそう☆ ごちそう☆」
 ひょいひょいと付いていくミーちゃん。パープル女史に「静かにしてなさい。食べられちゃうわよ」とか言われても、まったく聞いてはいなかった。
「そういえば、ヒノミ・メノッサさんはもう到着していらっしゃるんでしょうか…?」
「広い街だから、どこかに潜んでいるのかもしれないわ」
 食事が用意されるまでの間、さくらにそう答える女史。と、程なくして人の食事と変わらない品々が用意される。
「お待たせいたしました。それで、此度は、どのようなご用件で‥‥」
「実は、ある人を探していて‥‥。もしかしたら、王子様と一緒らしいんだが」
 事情を話すのは東雲。ところが、港湾局の主任と名乗る彼は、驚いた様子で「王子と会ったのですか!?」と逆に尋ねてくる。
「まだ帰ってきていないのか‥‥」
「王宮に戻られていると言う報告は聞いていません。ただ、リーフは広いですから、また街中を遊びまわっているのかも‥‥」
 なんでも、王子はそうやって時々王宮を抜け出しているそうだ。まだ若い御仁なので、それも仕方ない事なのだろうが、王宮の周囲では、快く思わないものもいると言う。
「ゆっくり…町を見て回りたい、です。え、えと、知らない町なので、どなたか案内してもらえると助かるんですが…」
「美味しいご飯があれば、もっといいのら〜」
 一方、さくらとミーちゃんは、王子様の事はほっといて、まずは町の状況を知りたいと言う。
「街の案内は、私がやりますよ。お探しのヒノミ様については‥‥、心当たりがあれば良いのですが‥‥」
「ここは恐竜こないから、市街地の探し方で良いと思うわよ」
 さくら達の希望に、そう答える少年とパープル女史。しかし、主任さんと一緒にいた御仁が、それに異を唱えた。
「それが、そう言うわけでもないのです。リーフには、時々モササウルスや、メガロドンが出没する事がありまして‥‥」
「しっ。お客人に余計な事を話すなっ」
 そのおかげで、主任さんに怒られている。思わず一行「「「いえ、お気になさらず」」」と、申し訳なさそうな表情。
「はぁ。ここのところ、どういうわけか、大型海竜が頻繁に出没しましてね。おい、お前ら。客人に、みっともない所を見せるなよ!」
 主任さん、苦笑しながらそう言っていた。どうやら、こちらはこちらで、人間の世界と同じような苦労があるようだ。
「どうする?」
「さて、ヒノミと王子を探すか。ベースに探検か、それとも警備隊を手伝うか。いずれにしろ、記憶を探すより、楽しい事になりそうね」
 東雲の問いに、自分達がやれそうな事を示すパープル女史。ここはここで、楽しそうな冒険の種が転がっているようだ‥‥と。
 その種が、夜中‥‥もう一つ増えた。
「今宵はこちらでゆっくりとお休みください‥‥だそうです」
「わぁい、ふかふかなのらー☆」
 お客様扱いされているらしく、通されたのは船のような形をした宿だった。たまには地上に泊まりたいと思うマーメイドもいるのだろう。久しぶりにまともなベッドで練れるのが嬉しいらしいミーちゃん、ベッドの上で跳ね回る。パープル女史が「ほら、暴れないの」と注意するが、聞いちゃいねぇ。
「御用があれば、なんなりと」
「じゃあ、明日の朝はー」
 しかも、主任さんにしっかり朝ごはんのリクエストまで済ませちゃっている。「かしこまりました」と丁寧に答えて、去っていく彼の後姿を見ながら、キャシーさんはこう言った。
「久々のお客だから、向こうも戸惑っているのかもね」
 まだ、様子見と行ったところだろう。本格的な調べごとは、それからのようだ。と、その時である。パープル女史が無言でライトハルバードを手に取った。
「‥‥どうした? レディ」
「‥‥いるわ」
 床下に1人、宿の裏に2人。都合3人が、気配を殺して、自分達の話を聞いていると。
「まさか‥‥。襲撃?」
「その気配は、まだないけど‥‥。油断は出来ないかも」
 心配そうにそう言うセラ。首を横に振る女史。
「王子様と間違えてるのでしょうか‥‥」
「だと‥‥いいけど」
 おそらく、監視役だろう。どうやらマーメイドの王国でも、裏では、相当モメているようだった。
 いわゆる、お家騒動と言う奴である。

 その頃、平原に向かったブラン組はと言うと。数々の問題を乗り越えて、ようやくブラン鉱山の見える位置でキャンプしていた。
「それにしても、あの二人はなにやってんのかしら」
 余った肉を干していたミカエル・クライム(ea4675)、まったく音沙汰のない雪切刀也(ea6228)と高町恭也(eb0356)を探して、そう言った。だが、キャンプ周囲に居ないとわかると、顔色を曇らせる。
「まさか‥‥! デート!?」
「え、えっ。それって‥‥」
 本来なら、恐竜に襲われた事を心配するべきなのだろうが、刀也と恭也の腕前を知っているミカエルは、にやりと笑って、キリル・アザロフ(ec0231)に言う。
「ありうるわね。同じジャパン人だしっ」
「そ、そんなぁっ。刀也さんはともかく、恭也さんまでっ」
 無論、ミカエルにとっては、わざと反応を楽しんでいるのだが、そんな事まったく気付いていないキリルは、ぽーっと耳まで真っ赤に染め上げている。
「お前ら‥‥。そんなにあの2人をくっつけたいのか‥‥」
「「別にっ」」
 ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が突っ込むと、2人とも声を揃えて首を横に振る。ところが、その時だった。
「おい。ふざけてる場合じゃないぞ。見ろ」
 イグニス・ヴァリアント(ea4202)が、遥か草原を指し示した。戻ってきたセンバが、警戒するように鳴く。テレスコープでゼファーが見ると、そこには、アロサウルスより一回り大きな恐竜の姿があった。
「あら、ティラノちゃんも、おなかが空いちゃったのかしら」
「そのようだな‥‥。人も恐竜も、腹の減るペースは同じと言う事か‥‥」
 くんくんと、鼻をうごめかしているティラノ。漂う血の匂いをたどっているのだろう。と、奴はその匂いの元に気付いたかのように、歩を早めた。
「おーい! 無事か!?」
「はい。どこ行ってたんですか?」
 そこへ、明らかに戦闘後の刀也と恭也が、戻ってくる。キリルが不安そう表情をしているのを見た恭也、安心させるように一言。
「いやー、ちょっとフィアット達とな‥‥」
「「やっぱり」」
 顔を見合わせるミカエルとキリル。どんどん誤解が増えていく実情に、刀也しくしくと滝涙。
「えぇい、説明は後だ。さて、アロサウルスよりどれほど強い‥‥」
 まずは、ティラノをどうにかしないと、先に進めない。そう思い、刀也はフレイムエリベイションを唱えた。やる気満々の彼を見て、イグニスがげんなりした表情で言う。
「中型までならまだしも、大型相手では決定的に攻撃力不足なんだよな、俺」
 それでも、エスキスエルウィンの牙と鬼神ノ小柄を抜く彼。
「それでも、無いよりはましさ」
「仕方ねぇな。やらなきゃお飯の食い上げだし!」
 恭也に励まされ、イグニスは走り出した。身軽な分、時間を稼ぐ事は出来る。そう思って、オフシフトを使う。
「きしゃあああああ!!」
「くそう! 意外と早いぞ! こいつ!」
 が、そのオフシフトを持ってしても、ようやくぎりぎりで避けていると行った所。うっかりすると、その巨大な顎が、目の前すれすれを通る。
「でかくて足が速くて凶暴‥‥。やっかいなことこの上ないな‥‥」
 このままでは、落ち着いて切りかかる事も出来ない。なにしろ、相手は体高10mを誇るこの界隈の王なのだから。
「足止めさせないと、追い掛け回されるだけね。よぉし!」
 そこへ、踏み出そうとした足元を狙い、ファイヤートラップを唱えるミカエル。その吹き上がった炎に、一瞬動きを止めるティラノ。
「これならどうだ!」
 そこへ、恭也が下からその足をダブルアタックで切りつける。
「援護する!」
 それと同時に、ゼファーが星天弓の矢を顔に向けて放った。ひょうっと飛んで行ったそれは、ティラノの鼻先に刺さるが、皮を貫けずに、ぽとりと落ちてしまった。
「固いな‥‥。さすがに‥‥」
「全力でやっても、かすり傷程度なんて‥‥」
 足をやられた事で、様子を見ているティラノに、空恐ろしささえ感じる恭也とゼファー。それだけの事をやっても、かすり傷程度しかついていない。
「まずは機動を奪え。倒すのはそれからで良い」
「だったら、狙う場所は、あそこしかないな」
 槍に持ち換えた刀也の指示に、表面がちょっぴり焦げて、かすり傷はついた脚を指し示すイグニス。
「食らえ! 取って置きだ!」
「近づけさえしなければ!」
 ロングスピアの刃を、足に向けて突き刺す。でもって、切りつけられたティラノ、さすがに足を後退させた。
「止まった? いまだ!」
「双撃の刃、その身に刻め!」
 それと同時に、イグニスが両手の刃で、傷に向けてきりつける。ポイントアタック+シュライク+ダブルアタックと言うあわせ技を食らって、こいつは強敵だと、ティラノが認識した直後だった。
「何っ!?」
 驚くイグニス。彼らが戦っていた反対側。ちょうど、後方の部分から、太いロープで作られた網が、次々と投げつけられる。もがくティラノだったが、足元がおぼつかず、どさりと倒れてしまった。
「よくやってくれた。後は我々が引き取らせてもらおう」
 現れたフィアット、そう言うと、部下に何事か命じる。と、彼らは身動きの取れないティラノに、さらに目の細かい網をかぶせ、重しを載せて、動けなくしてしまった。
「‥‥いいだろう。持っていくと良い」
 その様子を見ていたゼファー、弓をしまい、そう言って頷く。同じ位置で、援護していたキリルが、怪訝そうにする中、彼女はこう言った。
「本来なら、我々だけで対処しなければならないところに出てきた+αの戦力だ。役に立ちさえするなら、まあ構うまい」
「物分りの良いお嬢さんだ。刀也よりはずっと聞き分けが良い」
 まるで、酒場で隣になった女性に語りかけるかのように。ちらりと刀也と見比べるフィアット。
「まだ諦めていないようだな」
 そうして、引き上げていくフィアット達を見送り、刀也はげんなりしたように呟くのだった。

 さて、発掘されたプレートに記されたブランに関する記述に従い、一行は少し開けた場所へと赴いていた。
「この辺りだな」
 草を掻き分けるゼファー。と、そこには、まるで道しるべのように大きくそびえる白銀の塊があった。
「おぉーー!」
 さすがに、その純白の岩は、一度見たら忘れられないインパクトがある。圧巻に、思わず歓声が上がった。
「ティラノは‥‥いないようだが」
「傷を癒している最中かもしれないな。今のうちに採掘しておこう」
 周囲を見回すイグニスとゼファー。センバもゼファーのテレスコープも、大型恐竜の姿は映していない。その間に、キリルは地面をつついている。
「零れ落ちた欠片とかないかな‥‥」
「かなり固い高度を持つ岩だからなぁ‥‥」
 同じように、地面を見る刀也。と、草を覆うようにして、ところどころにきらきら光る白銀色の砂が見つかっていた。
「雨風で削られたのだったら、おそらくこの辺の粉でしょうか」
「じゃあ、これを持って帰れば、精製出来そうだなー」
 拾い上げて見ると、小石の混ざった砂利になっている。その小石すらも、白く輝いている所を見ると、目の前のそれから剥がれ落ちたもののようだ。
「ヒートハンドが使えれば、可能かもしれないわね」
「一応、スクロールは用意してあるが‥‥。やってみるか?」
 ミカエルの台詞に、ゼファーがスクロールを広げた。しかし、彼女は首を横に振る。
「いや、それはアリスに戻ってからで良いんじゃない? 今は、ブランを採掘する方が先だし」
「わかった」
 くるくると巻いて、荷物の中にしまうゼファー。と、刀也もバーニングソードを唱えて、持ってきたハンマーに付与する。
「さて、効果があるかは賭けだが、やってみるか」
「これで採掘出来ればいいのだがな‥‥。とっ!」
 一方では、上着を脱いだ恭也も、借りたハンマーofクラッシュに、バーニングソードを付与させ、力の限り振り下ろす。
 が。
「やっぱり難しいか‥‥」
 ゼファーが残念そうにそう言った。二つの槌は、双方とも炎に包まれてはいるが、その炎は、他のものに燃え移らない魔法の炎だ。
「温度を上げたわけじゃなくて、エンチャントしてあるだけだからなぁ」
「それで駄目だと、マグナブローでも、砕けないわねー」
 残念そうに言う刀也とミカエル。彼女の得意とするマグナブローも、使い終わった後は、何ごとも無かったようにそのままになる魔法だ。
「後は‥‥これしかないな」
 仕方なく、ゼファーが一度しまったヒートハンドの魔法を唱える。と、岩は赤く熱を持ち、ほんのわずか‥‥表面をつまんだだけの分が、手に取れた。
「これだけか‥‥。だとすると、このお宝の山を、刀や装飾品に加工するには、かなり大変みたいだな」
 細くなったそれに、バーニングソード込みのハンマーをあてて、ようやく砕けるそれ。しかし、取れた数は、手のひら片手よりも少ない。頭を抱える恭也。かと言って、手ぶらでは帰れない。
「この砂は、横取りされないように、荷物に入れておきますね」
「ああ。気をつけてな」
 一方で、キリルは周囲に気を配りながら、採取した白銀の砂を、袋に入れていた。破けてこぼれないよう、二重にし、採取を続けていた彼、ふっと顔を上げると、その白銀の岩壁に、なにやら絵が描かれていることに気付く。
「皆さん。こちらに、何か書いてありますよ!」
 1人で動くのは問題なので、彼は何とかしてブランを削ろうとしていた他の面々を呼び寄せた。見ればそこには、何人もの人々が、魔法の力と、数々の道具を駆使して、ブランを掘削している姿が見て取れる。
「採掘の模様を書いているようですね。砦に書かれていたものよりは、若干表現が軟らかいようです」
 その絵を見たゼルス・ウィンディ(ea1661)、そう判断する。確かに、砦のプレートは、堅苦しい印象があり、それに対してこちらは、若干丸い文字が刻まれていた。
「って事は、向こうは管理していた上の組織で、こっちは実際の労働者なんでしょうか」
「そうだと思います。より精霊を身近に感じていたようで、その精霊に、事情と侘びを記しているようですね」
 本国の古い記録にも、精霊に祈りを捧げ、奉っていた人々がいると記されている。それと同じように、かつての神聖王国でも、祈りの日々が続いていたのだろう。
「既に人は残っていないのだろうか‥‥」
「私もそう思って、先ほどブレスセンサーをかけてみましたが‥‥。聞こえるのは、恐竜達の息吹だけですね」
 ゼファーの問いに、首を横に振るゼルス。
「イェーガーさん達も、歴史的にはごく最近と言って良いでしょうからね‥‥」
「そうか‥‥。この聖域が、どのような意味を持つのか、話を聞いてみたいものだったんだが」
 会った事のあるミカエルの台詞に、残念そうにそう言うゼファー。さすがに、内陸部では、恐竜達に支配されているのだろう。
「砂、集まりましたよ〜」
「よし。とりあえず戻ろう。これ以上いると、次の月道に間に合わなくなってしまう」
 キリルが、ぱんぱんにふくらんだバッグを見せて、そう言ってきたので、ゼファーは断を下す。本当は、ここに留まって記録する事も考えたが、先に持ち帰る方が重要だろう。
「薔薇族はどうする」
「ジョーイ殿とルカ殿に任せて基本放置、で良いかな?」
 恭也に尋ねられ、彼女はそう言った。
「何かあれば、向こうから粉かけてきそうだしねぇ。想い人がこっちにいるわけだし」
 ミカエルも、その意見には賛成だ。
「だから違うと!」
 刀也が思いっきり否定するもの、恭也もミカエルも「‥‥答えは聞いてない」と、聞く耳を持ってくれない。
「しくしく‥‥」
 前途多難な刀也くん。そして、その受難は、これからしばらく続くのが、目に見えるようだった。

 その頃、ルカ・レッドロウ(ea0127)とジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)はと言うと。
「あいつら、どこまで行くんだろう」
 フィアット達を追いかけて、平原を抜けて見知らぬ土地へ入り込んでいた。
「湿気が多くなってきたな。平原より湿原が近いと言う事か」
 まとわりつく空気は、じっとりと不快指数を上げている。そう呟くルカに、JJが遥か彼方を指差していた。
「おい、見てみろよ」
「エアーズロックがもう一つ?」
 驚くルカ。そこには、平原から見えたものより、3倍は大きい白銀の山がそびえていたから。
「いや、規模が違う。おそらく、あっちが本物だな」
 JJが残念そうに肩をすくませる。どうやら、今まで彼らが追いかけていたのは、別の山だったらしい。と、ややあって、2人は、独特なにおいに顔を歪ませる。
「あいつら‥‥。何飲ませてるんだろう‥‥」
 見れば、フィアットの側に張り付いている側近の1人が、カップに入った液体を、気を失ったティラノに流し込んでいる。程なくして、尻尾がぴくりと動き、目を覚ますティラノ。その様子を見たJJ、はたと気付いた。
「おい‥‥。様子がおかしくないか?」
 ルカも、唖然としている。ティラノはと言うと、まるで戦闘馬のように、首を下げ、フィアット達にその背を見せていた。
「さすがに、良く効く薬だな。ふふ、冒険者達には感謝しなくては。こんな戦力を手に入れさせてくれるのだからな‥‥」
 その様子を見て、満足げにそう言うフィアット。JJとルカが顔を見合わせていると、彼はにまりと笑ってこう呟く。
「‥‥名前をつけてやろう。そうだな‥‥」
 しばし、考えて。出てきた名前は。
「お前の名は‥‥トウヤ。我が刃となり、存分に働いてくれよ」
「‥‥偉いことになりそうだな」
 仲間の名前を使うことに、ルカもJJも、戦慄の思いを禁じえないまま、ゆっくりとその場を離れるのだった。