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世界の守護たる道
■クエストシナリオ
担当:
久条巧
対応レベル:
‐
難易度:
‐
成功報酬:
-
参加人数:
22人
サポート参加人数:
-人
冒険期間:
2007年07月01日
〜2007年07月31日
エリア:
インドゥーラ国
リプレイ公開日:
08月03日22:21
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オープニング
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●リプレイ本文
●伝説の復活
ヒマラヤ山脈。
その壮大なる霊峰の麓に、今だなお古き技術を継承しているものがいる。
その情報を求めて、ウィルマ・ハートマン(ea8545)はアジーナ大寺院のマカヴァーン・ディアス大僧正からの親書を受け取り、はるばるとヤってきた。
「まあ、こんなにあっさりとこれるとは思っていなかったけど‥‥まあ、いいじゃん」
そう呟きつつやってきたのは小さな村。
人口は100も居ないだろう。
森の中にひっそりと広がるその村には、周囲からの外敵から護る為の『結界石』があちこちに建てられている。
また、その結界石には、それぞれに巨大な武器が封じられていた。
「遠路はるばると御苦労ですじゃ‥‥」
そう告げてウィルマを迎え入れたのは村の長老。
「これは大僧正からの親書だ。しばらくここに滞在したいけど、いいか?」
そう告げるウィルマを、長老や村の人たちはは快く受け入れた。
そしてしばらくの間、ウィルマはその村で様々な話を聞いた。
剣や武具には神や精霊がが宿る。
それらの武具を作る事の出来る技術は、今は伝承されているものは殆どいない。
時折この村を訪れて、それらの技術の片鱗を身につけたものは居るらしく、そういった人たちは世界各地に存在する。
が、神殺剣や伝承剣とよばれる最上位の武具を作る事は、この村でのみ。
それらをつくりだすための稀少金属、古き魔導具、そして記述を身につけたもの、それらが全て揃っているのは、この地だけと言われている。
「使う金属は『稀少白銀』、溶かすのは『理力の魔法炉』、打ち手は神の神託をうけた者、『太陽の雫を納めた箱』と『神龍の籠手』、そして太陽の箱のついとなる『月雫のハンマー』。神世の炎を魔法炉に治め、そしてただひたすら念じて打つ‥‥」
簡単な講釈をうけたウィルマが、そう呟きつつ実際に刀を打っている所を見ている。
「まあ、実際に神殺剣を打つのであれば、約30日はハンマーを振り続けます。これは3日で仕上げた魔法の武具です」
そう告げて、ウィルマに一振りの剣を差し出す。
──フワッ
軽い。
まるで重さを感じさせないほどの軽さである。
──ヒュンッ
軽く振る。
風を斬り、そして一瞬だけ空間が断ち切られた感触。
「なんじゃ? この武器は‥‥」
「作り手曰、全ての因果を断ち切る剣とか‥‥実際にはまだこれから紋章の刻みこみなどかある為、完成ではありませんが‥‥」
その言葉に、ウィルマは背筋が冷たくなる。
「村を護っている石碑に封じられている武具は?」
「あれは、このインドゥーラの12武具。結界として作られたものですじゃ」
その言葉に、ウィルマはふと思い出す。
ここに来る前に調べていた様々な石碑について。
「一つ聞きたいんだけれど。魔王群や混沌の申し子達の出現する黒曜石の石碑、そして混沌神が封じられている『金剛石の石碑』、今、モヘンジョ・ダロにあるこれらの石碑は、どんな由来があるんだ?
そう問い掛けるウィルマ。
これらについては、アジーナ大寺院でも判らなかった。
「どちらも封印の石碑。この村を守結界の石碑と一緒ですじゃ‥‥。もし黒曜石の石碑から悪しき者たちが現われているのでしたら、ひれは結界がすでに力を失い、悪に染まっているという証拠。金剛石の石碑についても然り。もしそうであれば、それら石碑に新たなる力を注ぎこむ事が必要ですじゃ‥‥」
その言葉に、ウィルマは寒気を覚える。
「どうすればいいんだ? 教えてほしいじゃんな!!」
「力を注ぐ儀式には、膨大な力を必要としますじゃ‥‥阿修羅たちとパラディン、それらの命の爆発するような力が‥‥」
「それって、命を捧げるということか?」
「いえいえ‥‥そうではないのですじゃ。儀式に必要な力は、そのために修行を続けていたパラディンと阿修羅僧から選られます。命を捨てるとか捧げるのではないのですじゃよ‥‥ただ、それを行うと、その阿修羅僧とパラディン達は阿修羅の力を総べて失いますのぢゃ‥‥」
それが即ち、新たなる血、新たなる力を必要とする意味なのであろう。
そうウィルマは気が付いた。
●ラホール
──ラホール均衡・最前線の村
鉱山から突然現われた古き魔物たち。
それらによって奪われたラホールを取り戻す為に、パラディン候補生達は集結し、色々と作戦を考えているようだが‥‥。
「戦いにおいては必ず相手の所在を、相手より先に確認し、先制攻撃を加えるのが基本だ。その際もオーラパワーのような予め使用しておけるモノがあるのなら、しっかり使っておくのが望ましい。先月の情報では、敵は複数で行動している。ならば、こちらも複数で対処するのが基本だと思うが」
そう告げているのは鷹見仁(ea0204)。
「同感です。町を二人一組で巡回する『漆黒の人』及び『焼赤の人』を戦力を集中して各個撃破。まずはここから始めるほうがいいかと思います。それによって、敵の新たなる情報が選られるとするならば、かなり有効な戦い方であると思いますが」
シアン・アズベルト(ea3438)も鷹見の意見に賛同。
「それで、可能でしたら増援でやってきて頂いた阿修羅僧の皆さんに後方支援を御願いしたいのですが」
と告げるシアンには、待機していた阿修羅僧達も肯く。
増援でやってきたのはそれだけではない。
アジーナ大寺院で修行をシている戦士達、冒険者ギルドから派遣されてきた腕に自身のあるファイター、そして4人のパラディン。
「なら、最初の10日間はそれで。そしてソノ後、敵の動きを見て色々と作戦を変更していくということでいいのじゃな」
バーク・ダンロック(ea7871)がそう告げると、その横で話を聞いていたレヴェリー・レイ・ルナクロス(ec0126)が口を開く。
「方谷に在った琥珀獅子については私が色々と説明しよう。あと、残りのものについては、それぞれ戦った後に夜に報告、そこから更なる対処方法を考える。もし10日戦ってもなんの進展もない場合は、敵は坑道から湧き出してくる者と判断し、坑道の封鎖に入りたい」
そのレヴェリーの言葉に、一同は納得。
「敵ターゲットを絞るのならば、『漆黒の人』及び『焼赤の人』にするのがいいだろう‥‥」
アイザック・トライスター(ec0141)はそう告げると、一同に同意を求める。
「それはどうして?」
アンドリーがそう問い掛けると、アイザックはゆっくりと説明。
「琥珀獅子につていはレヴェリーや戦い方を知っている者たちから話をきける。とると、残るは二人一組で動いていて、なおかつ『人型』の存在。理屈で言うなら、人型ならば、我々と動き八かいものと考えられる。ならば、こちらとしても、奴等のもつ未知なる力にも有る程度の対処はきくと思うが」
その言葉に一同は納得。
かくして作戦の準備に入る一同である。
「そうか。なら、俺達が無事に戻ってくるのを阿修羅に祈ってくれ‥‥」
作戦の為の準備の間、アンドリー・フィルス(ec0129)は村に残っている人たちに色々と話を聞いていた。
これからどうしたいか、どうなってほしいか。
将来の夢や希望を、村人たちから聞いていた。
身体か゛動かせる者たちを先導して防護作の作成、この村まで敵がやってこないとも限らない為、少しでも守りの為の準備を村人に説明し、実行。
明日、いよいよ作戦は開始される‥‥。
●デリー
──人の命の尊厳とは
そこはパラディン候補生達に与えられた寺院宿舎。
そこに集って、一同は今後の対策をじっくりと練っていた。
このデリーにおける『カースト外』の人たちをどう救うのか。
とりあえず、色々と情報を得たり確認する必要が有る為、警護兵長のツォンカパも同席していた。
「ツォンカパ殿、先日の事だが赤茶っぽい皮膚の冒険者について心当りはないか? そう、藩王殿が何かを探し、それを冒険者に依頼しているとか‥‥」
そう問い掛けているのはルミリア・ザナックス(ea5298)。
「ああ、あの者たちは藩王殿の依頼で『静かなる錫杖』を探しているのですよ」
にこやかに告げるツォンカパに、アレーナ・オレアリス(eb3532)が問い掛ける。
「静かなる錫杖? それは一体なんですか?」
「私も詳しくは‥‥ただ、虐げられし魂を静めるという『鎮魂』の効果があるということしか‥‥」
そう告げるツォンカパ。
「たしか、もうすぐ‥‥10日ごろには、奴隷商人がやってくる筈だよな? やはり10日の宴に関してなのか?」
「ええ。10日の宴に参加するものを集めているとか‥‥」
そう告げるツォンカパに、ルミリアはしばし考える。
アウトカーストの者が優勝しても奴隷の身分に上がっただけですぐ売られる?
もしくはていの良い娯楽として利用され、その命を奪われる?
いずれにしても、真実はまだ見えてこなかった。
──その頃の地方寺院
「これが、この地での凡例の記されている年度版ですじゃ‥‥」
マグナス・ダイモス(ec0128)は地方寺院に趣き、藩王、寺院が罪を犯した際の先例を調べていた。
「‥‥過去においてのアンタッチャブルからの洗礼儀式による脱出‥‥と、これか‥‥」
そのまま大量の年度版を調べているマグナス。
過去において、この地域には様々な部族が存在していた。
それらの中には、阿修羅と敵対し、『古き者たち』と混じり、その血をこの地に残している者たちもいる。
それらに対して、過去の藩王や寺院はカーストアウトという措置を取り、この地から放逐している。
それとは逆に、人を殺しカーストアウトした者に対しては、その爪を清め、新たなる洗礼をうける事でカーストに戻っている人も存在していた。
今、マグナスの居る寺院にも、そんな人が一人だけ存在しているらしい。
洗礼をうければカーストに戻れる。そして日々精進を続け阿修羅に認められれば、地位を手に入れる事もで張るということが実証されている。
「藩王アーガーハーンについての事例と‥‥」
そのまま現藩王の事例を調べるマグナス。
そして得られた結果は一つ。
「厳格な戒律こそが、阿修羅教の導きにして正義、為らば、善を司る藩王が悪だと如何して決め付けられるのか?」
藩王アーガーハーンは方に忠実であり阿修羅の教えを厳格に受止めている。
過去において、阿修羅寺院を襲撃したアンタッチャブルの殲滅ということも行なってはいるものの、その暴動に参加していないアンタッチャブルについてはおとがめなしという裁決をとっている。
ゆえに、度を越えた善。
そう判断するマグナスであった。
そこで、マグナスは藩王の元を訪れ、今回の武術大会の子供、特に優秀した子供を見守っていくという方針に出ることにした。
──一方、アンタッチャブルの集落では
「さあさあ、押さない押さない。ちゃんとみんなの分の食糧はありますから、心配しないでください」
アレーナ・オレアリス(eb3532)はアンタッチャブルの集落にやってきて、皆のために炊き出しをしていた。
本来ならば阿修羅僧のサッシーにも同行してもらい、『阿修羅教』の御墨付きを貰いたかったのであるが、サッシーはそれを拒否し、単身『覆面』を被っての参加となった。
「それにしても、どうも阿修羅教っていうのは胡散臭いわねぇ‥‥カーストっていう身分差別がどうも納得いかないのよね」
そう告げつつも炊き出しに余念が無いアレーナに、サッシーが一言。
「アンタッチャブルは阿修羅の加護の外なのよ」
「そんな差別があるもんか‥‥音字生きている人たちだろう?」
そう告げるアレーナ。
だが、サッシーはそんなアレーナにこう問い掛ける。
「アレーナさんは何処の国の人? どんな宗教?」
「出身は神聖ローマ。そこの神聖騎士だ。宗派はジーザス、セーラを神としているが?」
そう告げると、サッシーさんはアレーナに問い掛ける。
「神聖ローマの『ローマ至上主義』とあたしのところのカースト、どうちがうの?」
その問いに、アレーナはなにも告げられない。
ローマ至上主義、すなわちローマ以外の価値を認めず、人間以外の異民族に対しては市民権は愚か定住権すらあたえない‥‥。
「アレーナさん、おなじよ。カーストもローマ至上主義も‥‥アンタッチャブルは、貴方たちの国で言う異民族よ‥‥」
そう告げつつ、炊き出しを続けるサッシー。
そして、その日から、アレーナはアンタッチャブルの集落で、少しでも長く人と接するように務めた。
必要ならば皆に命の尊さを伝え、命の平等と慈悲を説いてまわる。
必要であれば子供達に『拳闘』を教え、もし、大切な友だちと戦うことになったときに2人とも生きて帰れるように技と秘策を伝授。
それでも、アレーナの心の中には、サッシーの言葉が引っ掛かっている。
(私はセーラの慈悲を伝え、それで皆に接しているが‥‥私の母国ローマでは‥‥異種族・異民族は慈悲・守りの対象ではない‥‥それでは、カーストと同じではないか‥‥)
そう自問自答を繰り返すアレーナ。
そんな名カ、フェイ・グリーンウェル(ec0238)はひたすらに情報集めと炊き出しに専念。
「この前の武術大会で優勝した子供って、今はどこに住んでいるかわかる?」
そう子供達に問い掛けているフェイ。
「えーっと、よく解らないけれど。優勝してから何回かはここに戻ってきたよ」
「そうそう。賞金で一杯食糧を買ってきてね。藩王様の使いの人とここに来て、みんなに食糧を分けてくれたんだよ」
「いまは街の方に住んでいるんじゃないかな?」
その言葉を聞いて、フェイはふと疑問を感じる。
噂では、優勝した少年は殺害され、川に捨てられていた。
だが、今の話では、優勝した子供はここに何度かやってきている。
「その優勝した子供がきたのって、大体いつ頃?」
「えーっと、11日と、その次は‥‥15日かな?」
とすると、ここにきた直後に殺されたのかもも。
いずれにしても、まだ胡散臭い事に変わりはない。
そこで、フェイはもう一つの質問を集落の人たちに問いかけた。
「藩王様って、どんな人?」
その問いには、様々な答えが帰ってくる。
その殆どが厳しい人と告げているが、決してそれらが畏怖して告げているようでもない。
ここに来る前に、フェイが寺院の資料庫で調べていた結果、藩王という人は『法に厳しい存在』であるというのが判った。
過去にこの地でカーストを剥奪されてという凡例についても、それらは全て正統であり、阿修羅教の方に準じている。
それどころか、一部では『恩赦』さえしているということもあり、藩王に対して、阿修羅僧からの非難の意見もあるという‥‥。
そしてここでの話を聞いた結果。
藩王という人は『全てにおいて公平』であるが、カーストアウトしている存在については容赦はない。
但し、それでも救いの手を『武道大会』での優勝という形で伸ばしているという面もある。
だが、それにしてもまだ腑に落ちない。
理屈ではない、フェイの感情がその結論に納得していないのである。
まだまだ、裏がありそうな藩王である。
そんなある日、藩王の使いという者が集落にやってきた。
それは『拳闘』による武術大会の参加者を募る者であり、優勝者には『賞金』と『カーストでの地位』を与えてくれるという者であった。
それにつられて、子供達は大勢藩王の元に向かう‥‥。
アレーナは、そんな子供達をただ、見守っているしか無かった。
●アドラス〜戒律と規律と無法者万歳
──アドラス
「‥‥つまり、左手でものや人を触らない、皮で出来た物品を身につけないっていうことだな?」
そう告げているのは、船舶登録所近くに在るジャパン人御用達の宿屋『浪漫亭』の主人である。
「ええ、よろしく御願いします。それと、幾つか教えて欲しいのですが‥‥」
そう告げて、三笠明信(ea1628)は主人に問い掛けた。
「ああ、なんだい?」
「いつ位からわざわざお客に怒鳴りつけなければならない様な状況になったのですか? その頃、この街で何があったのでしょうか?」
そう告げる三笠に、主人は頭を捻る。
「いつ頃と聞かれてもねぇ‥‥ここの港に外国の船が出入りするようになって‥‥ああ、私達も丁度その直にここに来たのですが、その時はもうこんな感じでしたからねぇ‥‥風習が違うというのは仕方ありませんが‥‥ああ、怒鳴りつけるほどひどくなったのは、あの船が来てからかな?」
そう告げる主人に、三笠が更に問い掛ける。
「あの船?」
「ああ。どこの船だったかな? 外国の船で、1度こここに来てからは大体2ヶ月にいぢとぐらいやってきてね。大量の香辛料を買い付けていくんだけれど、どうもその船のり達がひどくて‥‥。同じ直に結構の人が行方不明になって、噂では外国の奴隷商人とかいう噂も流れているらしいんですよ。あ、来月にはまたその船が来ますから、それでみんなピリピリしているのかも知れませんねぇ‥‥」
それは全く予期していなかった情報である。
とりあえずはそれを皆に告げる為に、三笠は1度皆の元に戻ることにした。
──一方・港では
「ゴーに従えばゴーに入る‥‥いや、ゴーに入ればゴーに従うか‥‥その理屈は判っているんですけれどねぇ‥‥」
とある商船の甲板で、エビータ・ララサバル(ec0202)は船のり達と話をしていた。
その内容は至極簡単。
今船が泊まっている場所はインドゥーラであり、ここはインドゥーラ。
ならば、ここの風習に従うのがルールという説明を淡々としていたのである。
「確かに、皆さんの気持ちも判りますわ。長い船旅から開放されれば、気持ちも緩みます。どうぜん‥‥その‥‥女性に目が向くのも判りますし、船乗りには荒くれものが御多いという事も判ります。けれど、ここは一つ、その土地土地にあった行動をして頂きたいのですよ‥‥」
そう告げるエビータだが、船乗り達は今一つの反応である。
「例えば、立場を逆にして考えてみてください。貴方たちのこの船に外国の人が招かれてきたとします。そんな御客達が、貴方たちの船でルールを護らず、勝手な事をしていたらどうしますか?」
「そりゃあ、叩きのめすか放り出すな。ここは俺達の船だ。ルールに従えないのならそうするのが船乗りだろう?」
「同じことなんですよ‥‥船がインドゥーラになって、船乗りが現地の人にかわる。御客は貴方たちなんですから‥‥」
そう告げられて。船乗り達は沈黙する。
──パンパン
と、突然手を叩く音が甲板に響く。
「はい、そこまで。パラディン候補生のお嬢さん、愉しい御話をありがとう‥‥」
そう告げつつ、船長がエビータの横に歩いてくる。
「判ったか? お前たちはもう少し相手のことを考えて行動しろ。もっと土地の風習を理解しろ‥‥いつまでたっても成長しない奴等が‥‥」
そう告げると、船長はエビータに向き直る。
「まあ、このへんで勘弁してやってください。こいつらも馬鹿じゃない。頭は飾りじゃないから、理解したと思いますから‥‥」
そう丁寧に告げられて、エビータも頭を下げる。
「こちらこそ、勝手な事を言って申し訳ありません」
「いやいや、お嬢さん、あんたは正しいよ。こいつらがもう少し勉強すればいい話だ‥‥さあ、判ったか? 判ったならとっとと持ち場に戻れ!!」
『へい!!』
そう全員が叫び、各々が持ち場につく。
船長を筆頭とした、統制の取れたいい船だと、エビータは思いつつ船を後にした。
──場所は変わって船舶登録所
「ほほう。面白いですねぇ‥‥外国人の為の場所ですか?」
登録所責任者であるイラムアルが、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)にそう問い掛けた。
「ああ。ことは簡単なんだ。船乗り達にとって、長い航海から開放されたときにハメを外せる場所が、この港町には殆どない。それは阿修羅教の戒律によるものであり、その風習によるものであるからだろう??」
そのヒースクリフの問いに、イラムアルは頭を左右に振る。
「ならば、この港町にも『外国人むけのサービスを提供できる場所』を作ってみてはどうだろうか? この港町の一角に、そうだな‥‥緩衝地帯を作り、その一角はインドゥーラ人の接触は制限し、外国からの従業員で構成、そこの運営については外来の商人達による出資で‥‥」
とまあ、具体的な方法が次々ともうし出されるイラムアル。
ヒースクリフは一通りの説明を終えてから、しばしイラムアルの反応をじっと待ってみた。
「確かに、ヒースクリフ殿の方法でも可能だ。決して不可能ではない。藩王シャルマ様がどう返答するかは解らないが、話を持っていくのにはいいだろう。後日、こちらから藩王様に申し込む日取りを決定して連絡する。それまで待機していてくれ」
明らかに一歩踏み出した。
あとは、この話が成立するのをじっと待つのみ。
──一方、酒場では
とにかく客がごったがえしている酒場。
港町の一角にある、『外国出資の酒場』である。
従業員は現地人ではなく、本国からやってきた物好きな人たち。
とうぜん、戒律その他は気にしない為、一部の船乗り達の常駐となっている。
そんな所で、フィリックス・トゥルム(ec0139)はじっと情報収集をしている。
「他の酒場とは違い、ここでは人が生き生きしている。従業員よりも、この酒場にはインドゥーラではない国の香りがするからだろうか‥‥」
そのまま静かにワインを飲みつつ、周囲を伺う。
確かに、娼婦もいれば用心棒もいる。
怪しい売人もいれば仕事を求めている冒険者も居る。
船乗りも入れば船長も居る。
何処にでもある酒場の空気が、ここには流れていた。
もっとも、やはり風紀が乱れているという点では、フィリックスの目に余る部分もある。
昼間から客を取っている娼婦は、このインドゥーラでは考えも付かないだろう。
浴びるように酒をのみ、テーブルで潰れている人も然り。
もっとも、食べ物だけはこの国の戒律に則っているらしく、牛などの肉は使われていない。
服装も皮製品は極力避けているのは、どういうことだろうか‥‥。
「ああ、ちょっと‥‥いいかな?」
そう一人の陽気な船乗りに話し掛けるフィリックス。
「ん? なんだい?」
「貴方は外国から来たんだろう? この街の藩王をどう思う?」
そう問い掛けると、船乗りは渋い顔をする。
「ああ、頭の硬いこの街の王様だろう? まあ、文化を守っていうのは判るけれどねぇ‥‥もっと簡単に考えられないのかねぇ‥‥」
そう告げて、男は再び飲みはじめる。
こののち、フィリックスは何人かに同じ様な事をきくが、帰ってくるのは大抵『頭の硬い、融通の聞かない街の王様』という事である。
それ異常の悪い噂が聞こえない事から、フィリックスは案外、話は簡単に纏まりそうな感じに見えてきた。
●パトナ〜水の魔物
──伝説の村
「オイラ、ナーガに会いに行ってくるっ!」
そう告げてフェイ・グリーンウェル(ec0238)と鳳美夕(ec0583)が街を飛び出したのは3日前。
天候が変わりやすいヒマラヤの麓。
寒かったり暑かったりを体感しつつ、フェイは小さな村にたどり着いた。
「おや、小さな御客人達。こんな辺鄙な村にまでどんな御用かな?」
そうフェイ達に話し掛けてきたのは、竜の頭を持った男性。
「えーーーーーーーーーーーーっと。ハルコンさんからの紹介で、話を聞いてやってきました」
そう告げて頭を下げるフェイ。
「始めまして。私は鳳・美夕と申します。ジャパンと言う異国よりこの地にパラディンとなるべく修業に参りました。できましたらお話をお伺いしたいのですがよろしいでしょうか?」
そう挨拶する二人。
「おお、ハルコンの知合いか。まあこれはようこそ。ハルコンは今は出かけていないが、よかったらゆっくりしていってくれ‥‥」
そう告げられて、二人は村に入る事が出来た。
そこには、不思議な人たちが住んでいた。
鼓し枯らしたが蛇、背中に翼を持った女生徒、ドラゴンの頭を持つ、やはり背中に翼を生やした男性。
これが伝説のナーガの打何女である事を、美夕は理解するまでしばらく掛かったらしい。
そして村人達に紹介され、しまいには村長の所まで連れられていった二人。
フェイが阿修羅僧である事が、彼等の信頼を得たらしい。
二人もしばらく掛かったものの皆と打ち解け、色々と話をする事が出来た。
「実は、少々お尋ねしたい事があるんです‥‥」
そう話を切り出すフェイ。
「ほほう。我々に判る事ならなんでも構わぬゾ」
「実は、この村はパトナの近くから移動してきたんですよね? どうしてここに移ったのですか?」
そう問い掛けるフェイに、村の一人が口を開く。
「私達も、本当なら移りたくはなかったのですじゃ。ですが、あの聖なる川に『混沌の申し子』が住み着いてしまい、我々は止む無くこの地に‥‥」
そう告げる村人。
「そうでしたか‥‥では、貴方たちは、あの混沌神の魔物が何者か判って居るのですね?」
そう問い掛ける美夕。
「判っているといいましょうか‥‥あれは混沌神の申し子の中でも、水に属性をうけるものたち。ナアスの邪人と呼ばれる者たちです‥‥」
その言葉に、フェイはしばし思考。
「それは一体どんな魔物なのですか?」
「巨大な水竜です。上半身は8っつの首に分かれ、それぞれの先端に人型の上半身がついています」
「皮膚は硬く、鋼の剣も折れてしまいます」
「それぞれの首は別々の属性を持ち、その属性の魔法を使います」
「本体は魔法は効果有りません」
話を聞いているうちに、どんどんと絶望感に再悩まされていくフェイ。
「あの‥‥弱点はないのですか?」
恐る恐る問い掛ける美夕に、ナーガ一同は頭を左右に振る。
「弱点ですか‥‥混沌の申し子ゆえ、その素性は神であり龍。ゆえに、神殺しの剣か龍殺しの剣でなくては傷が付きません」
「本体は水に使っていなくてはならず、本体が水から出されると、干からびてしまいますら」
その二つだけ。
さて、その二つで何処まで戦うことができるか、二人はしばし考えた。
そしてこの件については、皆で考えたほうがいいと判断し、明日にでもパトナに戻る事を決意した。
「では。最後に教えて欲しいのですが、そのナアスの邪人がどうして現われたのでしょうか?」
「おそらくは、何等かの理由で川の底に『黒曜石の石碑』が現われたのでしょう。そこから出てきたという事ならば、納得が行きます‥‥」
と告げる村人に、美夕も納得。
──その夜
フェイと美夕は村人から歓迎された。
小さいけれど歓迎の宴が用意され、酒は出ないが愉しい一時を過ごしていた。
「そういえば。パトナの人たちに聞いたのですが、『旅の僧侶』っていうのを知りませんか?」
そう問い掛けるフェイに、村人達はしばし考える。
「旅の僧侶ですか‥‥こっちの方にはきていませんねぇ‥‥」
「そうですか‥‥では、もしよろしければ、『混沌神』や『混沌の申し子(ヴリトラの魔王群)』その他、阿修羅教やインドゥーラの事等、知っている事があれば色々と教えて頂きたいのですが‥‥解くに、各地に残っている石碑などの再封印法とか‥‥」
そう告げられ、ナーガ達は各々が話を始める。
ですが、それらは一般的な伝承、アジーナ大寺院でフェイが学んだ者と大差はない。
「最長老が詳しいのですが、不在ですし‥‥」
「ああ、フェイどの、もしそのような御話が知りたいのでしたら、『アジャンター石窟』の近くにある村を訪ねてください。そこに『アカシャの樹』と呼ばれている不思議な気が生えています。そこの樹を護っている『アカシャ』という女性でしたら、色々と知っている筈です」
「ああ、アカシャどのなら色々と知っているでしょう。あの人は『死を封じられた古き民』ですから」
そんな話がフェイの耳に入る。
「アカシャ?」
「ええ。そうです。ナーガの『ツーエール』の紹介と告げて頂ければ、色々と教えてくれる筈ですから‥‥」
その翌日。
二人はパトナに向かった。
先ずは今のパトナを救わなくては。
──そのちょっと前のパトナでは
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
──ザッバァァァァァァァァァァァァァァッ
ガンジス川の川岸で、上泉蓮華(ec0178)が戦っている。
相手は例の川に住む魔物の一人。
次々と繰り出される蓮華の剣戟だが、それらは全て硬い皮膚によって弾かれる。
「こんなに丈夫な奴、どうやって相手すりゃあいいんだよっ!!」
兎に角切付け叩きのめす。
そう考えた蓮華だが、どうやら失敗。
「上泉さんっ、下がってくださいっ!!」
そう叫ぶシャロン・オブライエン(ec0713)の声に、蓮華は一旦後方に撤退。
「全く。しばらくは手を出さず、警戒と伝えていた筈だ‥‥」
戻ってきた蓮華に、レナード・ガーランド(ec0215)がそう告げる。
「ああ、判っているんだがよ‥‥」
頭をボリボリと掻きつつ、その場をあとにする蓮華。
「判って居るのなら、もっと‥‥」
そうレナードが叫んだとき、村の少女が蓮華の元に走ってくる。
「れんげおじちゃん、さっきはありがとう‥‥」
そう告げて、ニコッと笑いつつ走っていく少女。
蓮華は、あの少女が襲われていたので戦った。
ただそれだけであったらしい。
「‥‥全く。それならそうと言えば良いものを‥‥」
口許に笑みを浮かべつつ、シャロンがそう呟く。
「ん‥‥いい男は余計な事は言わねえものだ‥‥」
それだけを告げて、蓮華は何処かに消えていく。
「全く。さて、シャロン、そろそろ見回りの時間だ」
そう告げて、レナードも武器を装備、シャロンと共に川岸の巡回に出る。
フェイと美夕がナーガの村から戻るまで、こちらからは大きく動く事が出来ない。
近くに在るという黒曜石の石碑。
それについての調査も行ないたいのだが、それにしても時間と手が足りない。
焦りというイヤな感覚が、時折自分の中に湧いてくる。
それでも、今は動くときではない。
そうレナードは自分に言い聞かせていた。
──その頃のヒジュラさん
「ダーレーガーヒジュラさんよっ!!」
昏倒勇花(ea9275)は、村の外れでそう子供に呟いていた。
「えーーーっ。ヒジュラさんじゃないの?」
「違うわわっ。この薄幸の乙女を捕まえてなんて言う事を‥‥」
「ほら、やっぱりヒジュラさんだっ」
そんな会話をしつつも、昏倒と子供は小さな獣道を歩いていた。
目的地は『ヒジュラの住まう村』。
このパトナからも比較的近いらしく、昏倒は情報収集を兼ねて、そこに向かうことにしたらしい。
一時間も歩くと、その村にたどり着く二人。
そこは、大勢の『ヒジュラ』が住んでいた。
一見すると、女装しているごっついオッサンばかりの村。
中には綺麗な美形のお兄さんやお姉さんも居るものの、オッサン比率の方が多い。
「ヒジュラって‥‥やーねぇ‥‥」
そう笑いつつ、昏倒は近づいてきた女性に頭を下げる。
「はじめまして。あたしはパラディン候補生の昏倒勇花よ。ヒジュラさんたちに色々と教えてもらいたくて、やってきたのよ」
「それはご苦労様です。では、とりあえずこちらへ‥‥」
そう告げられ、昏倒は村の広場まで案内される。
そこで村に居る大勢のヒジュラに色々な話をきく事が出来た‥‥。
●8月〜慈悲が見え隠れ
まもなく8月。
慈悲と献身の試練もまもなく終局。
さて、パラディン候補生一同は、どのようにして試練を突破するのだろう‥‥。
遠征地一覧
・デリー
古き町。貴族達による支配された土地。
カーストアウトした人たちの運命は‥‥
・パトナ
ベナレスの流れに身を寄せる緑の町
敵は強大なる『混沌神の申し子』
・アドラス
インドゥーラ南部の町、経済・文化の中心地
共存k道は見えてくるのか?
・ラホール
ヒマラヤ山脈西方の町
どこまでも続く戦いの果てには?
〜To be continue......
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