幻の流派を追え！！
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■クエストシナリオ担当：久条巧 対応レベル：‐ 難易度：‐ 成功報酬：- 参加人数：16人 サポート参加人数：-人 冒険期間：2007年05月01日 〜2007年05月31日 エリア：華仙教大国 リプレイ公開日：05月25日03:01 |
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●リプレイ本文
●北の守り手──北京北方・とある村
朝。
日が昇ると同時に、一日の日課が始まる。
村人は眠りから目覚め、また新しい一日を向かえた事に感謝する。
すぐ北にある城塞の上では、大勢の武道家達が、朝の特訓を始めている。
紅小鈴（ec0190）もまた、その中に入り、ゆっくりと身体を動かしていた。
「朝の太陽から力を得る。澄み切った大気から霊力を得る。身体と魂のバランス。それらを合わせ、体内で一つとなす‥‥」
孫飛燕の言葉に従い、胸一杯に大気を取り込む小鈴。
（英霊布を手にしたものは史実に沿った行動をする可能性がある〜）
以前、完顔師父が告げた言葉。
それが今になって、脳裏を駆け巡る小鈴。
「そんな筈はない‥‥けれど‥‥あの‥‥」
先日。
あの温厚な飛燕が小鈴に呟いた一言。
『俺が天下を取るときに力を貸してくれるやつがいたら‥‥』
その言葉がずっとひっかかっていた。
だが、それを振りほどくように頭を左右に振ると、小鈴は再び型を取る。
「次、猛虎八極の型っ！！」
──バッ！！
呂紅蓮（りょこうれん）の掛け声の中、 全員が同じ型を取る。
小鈴を除いて。
──スパァァァァァァン
突然小鈴の後頭部を痛打する太史匡（たいしきょう）。
「はうぁっ！！」
「何を愉しそうに、三つ前の型を反復しているんだ‥‥」
笑いつつ、そう小鈴に告げる太史匡。
「いえ、あの、それは‥‥」
どうやら色々と考えながら型をなぞっていた為に、皆より遅れてしまっているらしい。
「よーしっ。小鈴、今朝の水汲みはお前一人で！！」
にぃっと笑いつつ、飛燕が告げる。
「え、あ、いや、孫師父っ、それは‥‥」
おろおろと動揺する小鈴。
「おーっ、頼んだゾーっ」
「ありがとう！！」
「いやー、あれかなりキツいんだよねぇ‥‥」
「おしまいおしまい。それじゃあ頑張れよーっ」
毎朝ここで同じ様に拳法を学んでいた生徒たちが、そう告げながら小鈴の肩をポン、と叩いて階段を下りていく。
「は‥‥はふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
意識が遠くなる小鈴。
ちなみに、村の甕の水汲み、木桶で１２０杯分。
水源までの往復を実に６０回！！
南無南無。
●霊州よいとこ１度はハファッ！！
──西夏・霊州
チェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
派手な掛け声が十字路にこだまする！！
大勢の人たちが取り囲むなか、二人の武道家が戦っていた。
この霊州には様々な道場が集っている、いわば武道家の町。
それゆえ、自分の道場が一番強いと自負している者たちも少なくない。
そんな所にいるものだから、血の気の多い弟子達同士では、常に争い事が耐えないようである。
もっとも、各道場を取り仕切っている道場主や師範達の間では、幾つかの決め事があるらしい。
今起きている路上決闘もその一つ。
・戦っている者に対しての助力は全て禁止
・連続での戦いの禁止
・負けた場合は速やかに立ち去る
・弟子の決闘に師範は出ない
等など、擂台賽のように取り決めがきちんと為されているのである。
そしてそれらが始まるとやってくる『賭事師』もおり、この街の人たちの娯楽に一躍買っているようである。
──ヒック‥‥ウイ♪〜
頬をほんのりと染めて、フラフラと歩いているのは御堂鼎（ea2454）。
「ほおーーーーーーーーーっ。愉しそうな事しているねぇ♪〜 ヒック‥‥」
ヒョイと覗きこみ、路上決闘を眺めている。
今始まっているのは少林寺ｖｓ八卦掌。
それもかなり『ぬるい』。
ふにゃふにゃと自分達の型を披露しつつ、ふにゃふにゃと拳を交えている。
周囲からは『お前たち程度が決闘なんて１０年はえぇっ！！』と野次さえ飛んでいる始末。
それもやがて少林寺の一撃で終了し、周囲からは『金かえせコール』が殺到していた。
「なんていうか‥‥ぬるぽ‥‥」
そう呟いて、グイッと酒を煽る。
「あっちゃあ‥‥で、では次の決闘を‥‥」
賭事師が慌てて武道家を探すが、どうやらもう数人しか残っていない。
「あんたどうだ、戦わないか？ 金が手に入るぞ。旨い飯も酒も付ける！！」
そんな触れで声をかけまくっていた。
──キュピーーーン
おお、御堂の瞳が輝いた？
「ヒっク‥‥旨い酒？」
「ん、ああ。霊州名物の黄酒だ。とくにこれはいい奴で‥‥」
そう告げられた瞬間、御堂は前に出た。
「ヒックヒック‥‥で、どの人がお相手かな？」 霊州にくる途中で手に入れた、瓢箪に詰められた酒をあおりつつ、そう呟く御堂。
「ふぅ‥‥あまり女性が昼間からお酒というのは感心しませんね‥‥」
そう告げて、陸潤信（ea1170）が前に出る。
「‥‥何処かで在ったような‥‥ひっく。まあいいか‥‥」
ゆっくりと構えを取り始める御堂。
だが、足元はすでにフラフラ。
「せめて意識だけでも、しっかりとしていただかないと‥‥」
そう告げて、手加減した一撃を叩き込んでくる潤信だが。
──スルリ
それらは全てフラフラとした御堂の身体には命中しない。
ちなみに、現在の掛け金は『御堂１：潤信９』。実に対照的である。
「あらぁん‥‥」
フラッと潤信の背中に回りこんでもたれ掛かる御堂。
「御免よぉ♪〜何仙姑ちゃん☆」
そのまま瞬時に４発の肘を叩き込む。
──ドゴゴゴゴゴコッ
それらの一連の攻撃を全てくらい、後方にふっとぶ潤信。
「ぐっ‥‥ただの酔っぱらいじゃない‥‥この動き‥‥」
口許から流れる地を拭いつつ、潤信も今一度構えを取り直す。
「ならばっ！！」
素早く間合を詰めて、虎拳を次々と連打する潤信。
「直線的な攻撃に対して‥‥ゆるくしなやかに躱わす‥‥呂洞賓☆」
猿拳のような千鳥足の歩法で、それらを次々と躱わす御堂。
そしてカウンターぎみに、虎拳を放ってきた潤信の手首を、人差し指と親指でつまむようにして止める！！
「月牙叉手、杯を零さず‥‥曹国舅☆」
一通りのおさらいと実践。
それを今、ここでやっている御堂。
「う、動かないっ！！」
なんとか拳を外そうとするが、それもままならない。
「そして華麗に‥‥」
──ドドドドドトッ
今度は御堂の左肘のショート連撃。
その一連の流れで、なんとか潤信は拳を外す事に成功。
「ハアハアハアハア‥‥」
スッと腰を落とし、ゆっくりと構える。
成功するかどうかなんて判らない。
ただ、この技は、誰も知らないだろう‥‥
そして、潤信にとって大切な人。
その人の使った奥義だから‥‥
「大熊猫拳奥義・鉄山靠（てつざんこう）っ！！」
肩口からの突撃。
そしてそこから
「猛虎・爆虎掌（ばっこしょう）っ」
虎拳奥義ではない、猛虎拳奥義の一つ。
掌ではない、肩口から発せられた爆虎掌。
それは御堂の腹部に直撃し、いっきに吹っ飛ばした！！
──ドッカァァァァァァァァァァァァァン
そしてその場に力尽きて崩れる潤信。
「‥‥ふう。いい攻撃ね。けれど、もっと鍛えなさい」
酔八仙拳の歩法によって、その衝撃すら緩和していた御堂。
──ズキッ
（あ、あばら３本‥‥かな、いてて）
「勝者、よっぱらいのねーちゃん！！」
その瞬間喝采が沸き上がる。
そして御堂は、約束の『黄酒』を貰って、またふらふらと何処かに歩いていった。
●魂の居留地
──赤壁
風が吹く丘。
大量の英霊達の武具が突き刺さっている墓。
そしてそれらの武具の飾り布の中には、英霊布があるという。
とある日の早朝。
月詠葵（ea0020）は、その丘にやってきていた。
「心は決まったようですのう‥‥」
そっと偃月刀に触れ、手を合わせている月詠に、ここの管理をしている華陀が話し掛けた。
「私は、ここにある英霊布を手にすることは出来ません‥‥」
「ほう。それはまた‥‥」
驚くような口調ではあるが、華陀は眉一つ動かさずにそう告げた。
「ここまで一緒に来たお姉ちゃん方は華国人です。ひょっとしたら、此の墓地に眠る英霊の子孫や遠い血族と言う可能性が有ります。自分達の先祖のものならば、彼等やここを護っていた人たちに許されると思います‥‥」
そう告げて、月詠はゆっくりと立上がると、風にたなびく髪をそっと指先で流し、話を続けた。
「けれど、ボクはジャパン人です‥‥全く関係の無い人間が英霊の眠る墓から何かを手に入れても、それは英霊の許す所では無いでしょうし、墓荒らしと何ら変わる点は無いのです‥‥」
沈黙。
「成る程のう。新撰組三番隊隊士。『士道ニ背キ間敷事』というところか」
その華陀の言葉に、月詠が驚いた！！
「どうしてそれを？」
「ふぉっふぉっ。貴方は今一度理解する必要がある。国は繋がっていなくとも隣国。ジャパンの街を震え上がらせる新選組というのは聞いた事もある‥‥当然、貴殿の名前もな」
そう告げられて、月詠はクスッと微笑む。
「話が速いですね。では、私はこれで失礼します‥‥折角の華陀老師のご助力、申し訳ありません‥‥」
そう告げて、次に月詠は英霊達の墓に向かって九拝し、その場を立ち去った。
「一つお尋ねする。どちらへ？」
そう背後から声が聞こえたとき、月詠は微笑みつつ振り返る。
「私の求める英霊‥‥彼の者の最後の地を訪れます‥‥」
「ならば、臨安に住まう『高順幾』を訪ねなさい。彼の先祖は、呂布奉先に使えていたというから、なにか力を貸してくれるでしょう‥‥」
そして月詠は旅立った。
──同日・午後
「ほう‥‥修行ですか」
目の前に達、真剣な眼差しで華陀をみつめる蘭寛那（ec0186）に、華陀がそう告げる。
月詠が早朝に旅立ったのを聞き、寛那もまた決意を固めた。
「はい。いまの私にはいろいろなものが足りません。英霊布を手に入れたとしても、それを使いこなせるだけの力があるかどうか‥‥」
そう告げる寛那。
「それに、この地にとどまり、英霊を護る華陀様は、かなりの人物とお見受けいたします。華陀様さえよろしければ、しばしここに置いて頂きお手伝いをさせてはもらえないでしょうか？」
その熱意に負け、とりあえず修行の許可を得る寛那。
丁度同時刻、墓の近くの草原に、劉玲玲（ec0219）が転がっている。
「あたし達は‥‥悠久なる‥‥同じ時の流れの中にいるんだよね‥‥」
周囲には、英霊達の墓標代わりの武具が大地に突き刺さっており、誰かが持ってくるのであろう供え物まであった。
「孫尚香。貴方の墓もここにあるのかしら？」
そう呟きつつ、周囲をぐるっと見渡す。
様々な武具の中に、彼女が使いそうな長弓や薙刀も存在している。
「‥‥どうじゃ？ 探しものは見つかったのか？」
そう問い掛ける華陀老人に、玲玲はゆっくりと立ち上がり、静かに肯く。
「おそらくは‥‥」
そう告げて、玲玲は薙刀の元に歩み寄る。
ぼろぼろになった真紅の布が、柄の部分に巻きつけられた薙刀。
大地に突き刺さった刀身は錆びることなく、今でも輝きを残していた。
その前に歩み寄り、玲玲は手を伸ばす。
「華陀老人。あたしは、この薙刀を抜く資格があると思いますか？」
そう真剣な表情で問い掛ける玲玲。
「では一つ聞かせてはほい。『英霊布』を手にする資格とは一体何ぞ？」
「あたしは、ただ同じときを共感したいだけなのよね‥‥」
その言葉に、華陀は肯く。
「それでもいいと思うぞ。汝の心の赴くままに‥‥」
その言葉を受けて、玲玲は静かに薙刀の柄に手を回し、それを力一杯引き抜いた！！
●命のやりとり
──金・とある山中
ハアハアハアハア
息を切らせつつ山中を歩く虚空牙（ec0261）。
燕京を出発し、『蚩尤』と出会う為に、空牙はここにやってきていた。
今までに味わった敗北感。
このままでは強くなれない。
先に流派探しに出た連中の通った道を追っていては、いつまでたっても追いつくことはできない。
かといっていまさら既知の町道場に入門したところで意味はない。
人まねでない道を見つけなくてはならない。
そう考えていた空牙が朱鈴殿書庫で見つけたとある存在。
銅の頭に鉄の額を持つ獣と人の狭間の存在。
四目六臂に人の身体、牛の蹄を持つそれを、人々は『蚩尤（しゆう）』と呼んでいた。
「この奥‥‥この先に‥‥蚩尤が存在する‥‥」
そう自身に納得させつつも、一歩一歩大地を踏みしめる空牙。
──ガルルルルルルルルルルルルルルルルルルル
突然、大地が鳴動しそうな声が響きわたる。
「あ‥‥あれは‥‥」
慌てて谷を下っていく空牙。
そして谷底に立ち、大きく息吹を吐いている『蚩尤』を発見した‥‥。
「蚩尤殿。俺の名は虚空牙。おまえに弟子入りしたくて馳せ参った」
そう叫びつつ、空牙はバックから酒を取り出し、それを眼の前に差し出す。
「‥‥ニンゲンカ‥‥ソウキュウニ、タチサレ‥‥我ハ、ヒトトトモニアラズ」
そう告げて、その場にゆっくりと座り込む蚩尤。
結跏趺坐を取り、手をくむと、そのまま全ての瞳を閉じてゆっくりと瞑想に入る。
「俺は強くなりたい。その為にここにやって来た。頼む」
──パーン！！
手を叩く音が響く。
「ナラヌ！！」
その一言で一蹴すると、蚩尤はその場から動かなくなった。
●南宋よいとこ何度もおいで
──南宋南部少林寺
「ハッハハハッハッハッハハハハハハハハハハハッハッ」
吐き出す声は朝靄にかき消される。
南宋のさらに南方に位置する少林寺。
そこを訪れた葉雲忠（ec0182）は、于文忠師父の元で修行を行なっていた。
「‥‥この型も何百回と繰り返しているせいか、切れが甘いのう‥‥」
于師父が一、番後方で特訓に付き合っている雲忠にそーう告げた。
「いえ、于師父。そうではないのぢゃ‥‥全ては‥‥幻の流派にあるのぢゃよ‥‥」
そう告げると、雲忠はその場に正座し、ゆっくりと話を始めた。
「先日、わしは父であり師父である父・許克廉に朱雀八跋衝の手がかりともいえる絶招・『鳳凰』の型の伝授を拒まれたのじゃ」
ふむむ。
「今のわしが未熟ゆえの師父の判断であり、それは正しいと自分自身己の技量から理解はしていたが、それでもどこか納得の行かない部分が鍛錬に影響を与えていたようじゃのう‥‥」
その話を聞いて、于師父は静かに構えを見せる。
それは、許克廉が見せた鳳凰の型の一つである。
「雲忠、立ちなさい。そして私に続きなさい」
その言葉のとおり、運中は于師父の後ろに回り、一つ一つの肩を取る。
当然ながら、雲忠もそれを続けるが、途中から身体の切れが悪くなりつつある。
「どうして‥‥こんなはずぢゃあ‥‥」
全身から汗が吹き出し、意識が朦朧とする。
身体中の肉が重く感じはじめ、やがて雲忠は意識を失った。
──１日後
知らない天井。
意識を取り戻した雲忠。
そして側に座っている于師父。
「どうだ？ 朱雀の感触は？」
そう告げる于師父に、雲忠は一言
「そんな‥‥師父、昨日はわし俺はどうかしていたのぢゃ。あの程度の訓練で身体が動かなくなるって言うのは‥‥」
「いやいや、基礎鍛練が出来ていないからこそ。朱雀八跋衝は『気穴』をコントロールする体術。もちろんそれだけではないが、基礎の出来ていないものが使うと、気力の全て失われてしまう」
──ザワッ
「くっ‥‥口惜しい‥‥」
その于師父の言葉の後、雲忠は一旦は退く。
「賢明ですね‥‥まずは基礎、すなわち体力を整えてから‥‥」
●前略、八跋衝道場
──南宋・八跋衝道場
「では、八跋衝が分派した理由は、悪用を防ぐ為なのですか？」
そう林彪師範に問い掛けているのは荒巻美影（ea1747）。
「ああ。元々は一つの流派であったのだがな。それらを得た者が悪用するという事態が起こった為、流派を５つに分け、それぞれの師範の許可なくしては次に進めなくなっている」
その林彪師範の言葉に、夜桜翠漣（ea1749）が頭を傾げる。
「５つつ？」
「ああ。八跋衝は５つつの流派があってな‥‥歩法と手練の『青龍』、外功と内功の『玄武』、気の『朱雀』、器械の『白虎』‥‥って、あたい今、５つつって言った？」
途中でハッと気が付き、そう問い掛ける林彪。
「ええ。しっかりとこの耳で！！」
少し離れた場所で青龍の歩法を続けている鳳蓮華（ec0154）がニィッと笑いつつそう告げる。
「あっちゃあ‥‥じゃあ、聞かなかったことにしてくれ‥‥」
「それって、何かいけないのですか？」
その美影の問いに、やれやれという表情で説明を始める。
「四神のさらに上にも八跋衝はあるんだけどね。それは四神全てを納め、それぞれの道士が許可を出した者のみが得られる絶招の塊みたいなもの。あたしたちは『麒麟八跋衝』って呼んでいるけれどね。まあ、ここで聞いただけにしておいて、門外不出だから‥‥」
そう告げると、林彪はゆっくりと立ち上がり、美影の稽古をつけはじめた。
●暗躍するもの
──南宋・ちょっと離れた廃寺
竹林の奥にある小さな寺。
よほどの事が無い限り、人はその場所に好んで足を踏みいれるような事はしない。
そんな場所に天狼王（ec0127）はやってきていた。
「すいません、雨風を凌ぎたいのですが‥‥」
そう入り口で告げる狼王。
──ギィィィッ
静かに扉が開かれ、中から石動悠一郎（ea8417）が姿を表わす。
「それは大変でしたね。よろしければど‥‥って？」
ポロを纏って身なりを崩した狼王に、石動も最初は判らなかった。
が、よくよく見ると知っている顔。
「それはありがとうございます‥‥」
ヒョイヒョイと寺の中に入ると、石動は閂をかける。
「狼王ではないか。そんな恰好でどうした？」
「石動‥‥ってやっぱお前さんか。南宋への馬車で一緒だったよな？」
そうお互いに問い掛ける二人。
と、狼王は一言。
「ここに『袁紹の血筋の者』が居ると聞いた。取次ぎを願いたい」
──居間へ
静かに抱拳礼を取り、目の前の袁竜に頭を下げる狼王。
「初めてお目にかかります。天狼王と申します」
「丁寧にありがとうございます。袁竜です」
そんな簡単な挨拶もそこそこに、狼王はさっそく本題に入る。
「白家がここを襲撃する。それを伝えに来た」
そう真剣な表情で告げる狼王を、石動は真剣な表情で見ていた。
「そうか‥‥そうだよな‥‥」
そう呟いて、正座している膝をポン、と叩く。
「連中の動向は仲間が調査中だ。見れば此処は子供も多いし、避難させた方が良さそうだが当てはあるのか？」
その狼王の問いに、袁竜は静かに話を始めた。
「石動さんの知人でしたら、信頼に価すると。我々は、白家を襲撃しようと考えていました。この南宋動乱を治める為に」
その言葉に、狼王は身震いする。
「動くなら勝ち目あっての筈だ。具体案は？」
その言葉に、袁竜は静かに話を始めた。
「私の意志を汲み取ってくれた武道家達がいます。今月１０日夜、我々は同時に白家総本山を襲撃します‥‥子供達はその前に、近くの村に避難するよう手筈は整っています」
その言葉に、石動も肯く。
「なるほど‥‥ならその一手俺も乗ろう。西の道場２４件は既に立ち上がる準備も出来ている。やるなら小出しでなく一気呵成と行こうぜ」
「袁竜殿、何時までもとは言わぬが非道なる白家を打ち倒すまでは拙者の力お主に預ける」
そして二人のその言葉に、袁竜は瞳からなみだを流す。
「ありがとうございます‥‥」
●方天画戟の導きに‥‥
──北京付近・とある街道町
丘の上にある巨大な岩。
そこに突き刺さっている呂布奉先が使いし『方天画戟（ほうてんがげぎ）』。
そっと手を触れつつ、琴宮茜（ea2722）は遠くから駆けてくる一頭の馬をじっと見つめていた。
背にたなびく鬣（たてがみ）に結ばれた真紅の布。
だが、馬は少し離れた場所で、じっと脚を止めた。
「ふぅ‥‥やっぱりこれを何とかする為には呂布奉先の英霊布がいるのかなぁ〜」
グイッと方天画戟を引きぬこうとするが、びくともしない。
「それにしても何でこんな所に方天画戟があるのでしょうか？」
周囲は全て草原。
街道はあるものの、通る者もあまりない。
ふと、琴宮は村で聞いたある話を思い出した。
「確か呂布奉先が没したのはここからはるか南の地のはず‥‥それなのに何で方天画戟がここにあるのでしょう？」
そう考えた琴宮は、静かに自分に近づいてくる馬『赤兎馬』を見る。
「‥‥そうか‥‥もしかして呂布軌跡の最初の地では。確か呂布は最初は丁原の配下だったと言う、そしてその領地・并州は確かここ辺りの筈‥‥」
そのままゆっくりと、琴宮は赤兎馬にそっと触れる。
「なら‥‥次に向かうのは『大同』ね」
そのまま赤兎馬に跨がると、琴宮は大同へと向かった‥‥。
●燕京燕京愉快な燕京愉しい燕京
──白家
重々しい空気が周囲を包んでいた。
リクルド・イゼクソン（ea7818）は南宋での白家の情報を掴み、今一度真実を得るべく、早馬を飛ばして（定期馬車だけど）燕京に逆戻り。
そしてすぐさま白家道場に向かうと、そこの師範代と話をしていた。
「南栄には白式一百八零羅漢拳なんて無かった。白家剛双拳ってのに乗っ取られた上に悪逆非道をしたぜ。明日にも反乱が起きそうだった。これはどういうことだい？」
「白家剛双拳？ そんな流派は白家には存在していません‥‥」
驚いた表情でそう告げる師範代。
「成る程。ということは、南宋で色々と悪事を働いている白家は偽者ということだな」
そのリクルドの言葉に、白家師範代は肯く。
「そうですね‥‥これは由々しき事態です」
そう告げると、師範代は弟子を呼びだし、燕京にある他の道場に伝令を走らせた。
「動くのか？」
「ええ。事は急を要します。南宋に広がっている誤解を解く為にも、我々白家が直接向かわねばなりません」
「なら急いだほうがいい。出来るだけ速い馬を用意してな。俺も南宋に戻るから、便乗させてもらって構わないか？」
そのリクルドの提案を快く受け入れると、一行は急ぎ出発の準備をした。
●昇竜に飛べ
──南宋・昇竜
ザッザッザッザッザッ
深夜
表通りを黄巾の布を巻いた男達が歩いている。
港に向かうその一団は、沖合に止まっている船から下りてきた荷物を大きな荷馬車に積みはじめた。
（あれは一体なにかしら‥‥）
朱蘭華（ea8806）は顔に黒い布をあてがい、服装も変えた隠密モードで黄巾賊の動きを調べていた。
昼間に良く出入りしている酒場での聞き込みで、今宵港に荷物が届くという話を聞いた。
それが一体なんなのか、興味を持った蘭華はこのように偵察にやってきていたらしい。
──ゴトッ
大きな音が響き、巨大な荷物が馬車に積み損ねて大地に落ちる。
「馬鹿野郎、とっとと積みなおせっ！！」
指示を飛ばしている責任者らしき人が、男に向かってそう叫んでいた。
──チリーーーーン
と、どこからともなく鈴の音が響きわたる。
「‥‥ネズミがいるな‥‥」
そう告げているのは、手に鈴を持った一人の僧侶。
近くに居る責任者にそう告げると、そのまま周囲を見渡す。
そして蘭華の方を向くと、もう一度鈴を鳴らした。
「あそこか。仕事だ、あの女を捕まえてこい‥‥」
そう告げると同時に、男の背後に立っていた武道家が二人、ものすごい速さで駆けてくる！！
「ヤバっ！！」
急いでその場から離れ、路地をうまく駆け抜ける蘭華だが。
「‥‥あれ？ ここ行き止まりじゃなかった筈よね‥‥」
ということで、行き止まりにたどり着く。
──ザッ
そして二人の武道家に退路を断たれる。
「‥‥」
無言のまま、素早く間合を詰める青い闘着と赤い闘着の二人。
青い闘着の男は蘭華に向かって掌底を、そして赤い闘着の女性は九節鞭を構え、シュンシュンと振りはじめる。
──バスッ！！
その掌底を受け流すと、蘭華は男の→に回り、そのまま女性に向かって走り出す。
──ドゴッ！！
だが、その足元にいきなり九節鞭の先に付いている刃が突き刺さり、蘭華の動きを止めた。
「ふぅ‥‥ただで通してはくれないのね。それにしても、だんまりなんて。何か喋ったほうがいいわよ？」
少しでも情報を引出そうとする瞬華。
だが、二人は沈黙のまま戦いを続けた。
いくら腕があっても多勢に無勢、しかも蘭華の打ち込んだ打撃はぜんぜんきいていないのか、止まる事をしらない‥‥。
いつしか、攻勢にいたはずの蘭華も疲労で限界点突破。
──ドッゴォッ
いきなり男に爆虎掌を叩き込まれる蘭華。
そのまま後方に吹き飛ぶが、すぐさま体勢を整える。
「ゴフッ‥‥ゴフゴフ‥‥フウ‥‥参ったわね」
口に貯まった血を吐き捨て、そう呟く蘭華。
「仕方ないわ。折角ですから見せてあげる‥‥私が『黄月哉師父』の修行を黙って盗み見、覚えかけている奥義‥‥」
体内の気を丹田に集める。
そして両の掌に気を集める。
シュンシュンと蘭華の周囲を、虎の姿をした気の塊が漂い、集りはじめた。
「黄式猛虎拳絶招・猛虎跳撃っ！！」
そう叫ぶと同時に、蘭華の全身から気が放たれる。
放たれた期は巨大な猛虎を形取り、縦横無尽に駆け巡り、周囲の敵を襲っていた。
ついでに暴走した気の虎が、蘭華にも襲いかかる！！
「ふうふう‥‥今のうちにっ！！」
速攻でその場をあとにするにする蘭華。
しかし、よくまあ使えたもんだ、猛虎跳撃。
●そして燕京
──朱鈴殿
執務室では、完顔阿骨打が各地から届けられるシフール便に目を通している。
「ふむ。南宋の白家動乱は決着が付いたか‥‥囚われていた者は現在も不明‥‥と‥‥保留」
そう告げて、木簡を側に置く。
「昇竜の黄巾賊の乱‥‥保留」
また木簡を側に置く。
──コンコン
「失礼します。完顔師父、お客様です‥‥」
そう告げて、クラーン・ラール・ロイシィが入室。
「通したまえ」
その言葉の後、一人の僧侶が完顔雨具他の前に現われる。
「私は一星と申します。龍珠道士の一人であり、奇跡の宝珠の管理官です」
そう告げて、丁寧に頭を下げる一星。
「ふぅん‥‥で、その奇跡の宝珠っていうのは？」
「どんな願いも叶えてくれるという『星龍』を呼び出す為のものです。７人の龍珠道士より全ての龍珠を授かり、それらをまとめて一つ賭し呼び起こすことができます‥‥今、この動乱において、力が必要でしょう‥‥私はこの地に留まります。もし出来るのでしたら、私の仲間たちを探し出し、ここに集めててください‥‥」
その事を告げて、一星は退室。
そして再び一つ一つの報告に目を通しつつ、各地の動きを探る和本楊白竜阿骨打であった。
動乱は始まりました。
北と南、そして東の大きな星達。
そしてそれに連なる小さな星達。
この華仙教大国の運命は、どうなっていくのでしようか‥‥
（第５回に続く･･････）
今回のクロストーク
Ｎｏ．1：（2007-05-07まで）全ての者に問う。
汝、目的を達した後、どの道を進む？
１．武華仙教大国統一大武会・龍王参加へ
２．乱世を納めるべく、覇王の戦いへ
３．のんびりと青空の下へ
