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幻の流派を追え!!
■クエストシナリオ
担当:
久条巧
対応レベル:
‐
難易度:
‐
成功報酬:
-
参加人数:
16人
サポート参加人数:
-人
冒険期間:
2007年06月01日
〜2007年06月31日
エリア:
華仙教大国
リプレイ公開日:
06月27日16:52
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●リプレイ本文
●臨安に死す
──臨安
「高順幾に会いなさい‥‥か」
月詠葵(ea0020)は、赤壁で華陀老師より呂布奉先へと続く道を示された。
船旅、そして陸路を経て、ようやくたどり着いた城塞都市・臨安。
そこは、土地と人が豊かな街であった。
「おや、お嬢さん旅の人かな? この当たりでは見ない人だねぇ‥‥」
人懐っこい笑顔で、農夫が話し掛ける。
「ええ。高順幾さんに会いに来たのですが、どちらにお住みでしょうか?」
そう問い掛ける月詠に、農夫は先の道を指差すと
「この先に住んでいますよ」
と説明してくれる。
「ありがとうございます」
ニコリと微笑みつつ丁寧にお礼を告げると、月詠はそのまま高順幾の家に向かった。
──そして高順幾宅
小さな家。
決してよい暮しとは言い切れないその建物で、月詠は高順幾と会う事が出来た。
「赤壁で華陀老師からお話を伺いました。こちらで『英霊布への道』が示されると聞いてやってきました」
そう告げてから、華陀老師との話を全て説明する月詠。
「なるほど。では、こちらにあるのが『英霊布』です。これを貴方にお渡しすればよろしいのですが、はいどうぞと渡す事もできませんので‥‥」
あらら。
「では、どうすれば渡して頂けるのでしょうか?」
「貴方がこれを求めている理由が、正しい道であるというのは判りました。では、まずはそれを示してみてください。そうですね‥‥期間は2ヶ月、その間に、あなたは 3っつの力を示してください」
「3っつの力?」
「ええ。『文』『武』『義』の三つです。それを示してくれれば、お約束通り英霊布はお渡しします‥‥」
そう告げると、高順幾は再び机に向かい、木簡に何かを記しはじめた。
●霊州〜武の街〜
──猛虎拳只今修練中
「‥‥次、猛虎爪撃の構え」
「ハッ!!」
低く腰を下げ、右手と左手で
虎の爪を作り出す。
そこから一歩踏み出し、陸潤信(ea1170)は目の前の空間に掌底を叩き込む!!
風雅仙人の元で猛虎拳の修行にあけくれている潤信。
午前は基礎と応用の鍛練に、そして午後からは応用と精神修練。
一つ一つの方とそれについての勉強、武を身体だけでなく知でも学ぶ。
それが今の潤信の日課であった。
「よしよし。どうじゃ? 精神修練のほうは?」
そう問い掛ける風雅仙人に、潤信は肩を音しつつ説明を開始。
「今だ‥‥鳥はおろか蛇すら威嚇してくる始末‥‥」
霊州近くの深き森。
午後はそこに籠り、森の中で見つけた岩の上で座禅を組む。
意識を人中に集中するのではなく、周りに発散させるが如く‥‥身体は脱力、視覚は遮断し他の感覚を開放し自らを石にする。
そうしている筈であるが、今だ、潤信は岩となれず人のまま。
「風を感じているか?」
「はい」
「雲の流れは?」
「それも感じます‥‥」
「木々の息吹はどうじゃ?」
そう告げられ、潤信は言葉を詰まらせる。
「それは‥‥まだです‥‥」
「ならば耳を傾けよ‥‥」
そう告げて、風雅は自分の庵へと戻っていく。
●南宋にて修行で候
──八跋衝・玄武道場
「成る程ねぇ‥‥白家の裏で、そんなことがあったのか‥‥」
床一面に突きたてられている竹の上で腕立てふせをしている荒巻美影(ea1747)の背中にのって、師匠である林彪が問い掛けていた。
「はい。修練の甲斐あって鎮圧には成功しましたが、連れ去られた人達を解放するには至りませんでした」
「ということは、次はその人たちの奪回作戦でも?」
「そこまでは判りませんけれど、そう動いている方たちもいらっしゃるかと‥‥」
その言葉と同時に、隣の竹の上で腕立て布施をしている夜桜翠漣(ea1749)の背中に飛び乗る。
「はうっ‥‥」
一瞬息が途切れそうになる翠漣だが、すぐさま呼吸を整えて続ける。
「そうそう。いい? 呼吸をみだしたら力が抜けるからね。適切な、ちゃんとした呼吸は体の中に適切な力を与えてくれる。貴方にとって必要なのは勁を安定させること」
そう告げられ、さらに翠漣は基礎体力と勁の安定に心血を注ぐ。
「このまま、あと1000回。午後は休憩を挟んで乱取り稽古にはいる」
いよいよ始まる本格的な訓練。
──ガラーンガラーン
と、鍋を叩く音が聞こえてくる。
「ゴハンのじかんですよー」
と、台所で叫ぶ鳳蓮華(ec0154)。
ちなみに、すでに自分の自主練習は終了し、自分の当番日なので食事の準備をしていたらしい。
「よし、ではここで休憩をいれるか‥‥」
その林彪師範の言葉で、ようやく美影と翠漣の緊張の糸がほつれた。
「はふぅ‥‥」
「すーはーすーはー。あとは午後ですか」
そう告げつつ、身体をゆっくりと休める為の体操を開始し、そのまま食事に向かった。
──ということで、食事は中略して午後
カンカンカカンカンカカンカンカン
立ち木に吊るしてある木の棒。
それに対して拳を入れ、跳ね返ってくるのを身体で裁く。
蓮華は独自の訓練法を取り入れ、青龍の歩法と手法を繰り返す。
「随分と愉しそうだな‥‥」
林彪がそう告げる。
「いえ、これもまた難しいのですよ」
「そうか‥‥なら、もう少しキツくしてやろう」
そう告げて、林彪は手に棍を取ると、そのまま吊るしてある気の棒を力一杯次々と殴る!!
──ガンガガガンガンガンガン
一斉に打ち上げられた気の棒はばらばらの動きを見せる。
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい? ハイハイハッハハッハッハッ」
次々とそれらを打ち上げ、躱わす。
が、数が多すぎて、うまくいかない。
「多対一ということも想定。数多くくるのをうまく除けないとな。もっと先を見て‥‥」
そのまましばらくは蓮華が特訓。
そしてその直後、翠漣と美影の二人も、この木の枝特訓方で全身にアザが出来るほどの地獄を見た‥‥。
ここまでの経験がどこまで生かされるか‥‥。
──南宋南部少林寺では
静寂が寺の境内を包む。
その中心で、葉雲忠(ec0182)が、静かに両腕を水平にさし出し、呼吸を整える。
「気を感じ、丹田に取り入れる。そこから全身に、身体の総てに。呼吸は周囲の全てから『気』を集め、体内に循環して吐き出す‥‥」
一連の動きの後、ゆっくりと朱雀八跋衝の型を始める。
「まずは大地を蹴る!! 飛翔の型」
于文中師父の言葉に、素早く身体を反応させる雲忠。
「次は羽ばたき。激しく、そして力強く!!」
──バッバババハッ
瞬時に型を切替え、型を決める。
それでね、4っつの型が決まった所で、雲忠は全身から汗を吹き出し、足元もよれよれになっていた。
「‥‥う、うむ‥‥師父、限界ぢゃ‥‥」
そう告げると、雲忠はそのまま大地にひっくり返る。
「では大地の息吹を感じ、それを体内に循環‥‥今日までで4っつの型ですか。成長しましたね」
「いや、駄目ぢゃよ。まだ四つしか‥‥」
そう告げる雲忠だが。
「常人がその域にたどり着くには3年です」
の言葉に、ちょっとだけ自信を取り戻す。
「まあ、一息入れたら先に進むとしようかのう。『華仙教大国統一大武会・龍王』の地区予選もそろそろ始まるし、その為の準備も必要じゃな‥‥」
「地区予選とな?」
雲忠がそう問い掛けると、于文中師父が肯く。
「この華仙教大国最大の擂台賽ゆえ、予選は角逐で2ヶ月に渡って行なわれる。その間は、どこの地区大会に参加しても構わないが、1度負けた地区のものには参加できない‥‥どういうことか判るな?」
「ここで負けても、別の地区にいけば大丈夫ということじゃな‥‥」
「まあ、現実にはそれを成し遂げたものは殆どおらぬがな‥‥まあ、最初の地区で勝ちあがれば大丈夫。さて、始めようか」
そう告げられ、雲忠はゆっくりと立上がる。
眼の前に新たなる目標が見えてきたのだから。
──一方、そのころの白家
「誠に申し訳ない。もっと情報が早ければ‥‥」
「‥‥いやいや、決して出遅れていたとは思わぬ。むしろリクルド殿が説明してくれなかったら、白家は動かなかった。礼を言う」
白家道場。
そこの居間で、リクルド・イゼクソン(ea7818)と白家師範が話をしていた。
「そんなことありません。それよりも、偽白家の奴等が使っていた武術ですが、一体どんなものだったのですか?」
そう話を変えるリクルド。
「ああ、あいつらの使っていたのは実践的な拳法だな。自己流というか我流というか‥‥それでも洗練されていた、よほど『人を破壊する事を研究していた』のだろう」
「人を破壊する‥‥そんな拳法が存在するのですか?」
そう問い掛けるリクルドに、白家師範が肯く。
「私も詳しくは判らない。ただ、朧拳の流れの一つが、そうであった筈‥‥」
朧拳。
リクルドにとっては馴染みのない名前。
「朧拳とは‥‥たしか、幻の流派の一つでは?」
「ええ。その通り。朧四鋼拳、朧砕崩拳など、色々な分派が存在するが、元々は一つ。その流れのどれかだと推測できる動きだったな」
その後、しばらくは白家師範と軽く話を壊す。
そしてリクルドは、この街の玄武の道場へと向かった‥‥。
──一方‥‥袁竜の棲み家
先月の白家との戦いの後、石動悠一郎(ea8417)と天狼王(ec0127)は袁竜と共に彼の隠れ家に戻ってきていた。
戦いによって疲れた身体が言えるまでは3日ほど。
「しかし、天奉道士が‥‥ううーむ」
腕をくんで、狼王はこれからの事をじっくりと考えている。
そして体調が整ったある日の午後、石動は書斎で何かを調べている袁竜の元を訪ねた‥‥。
「袁竜殿、幾つか教えて欲しいことがある」
丁寧に頭を下げつつ、そう告げる石動。
「ええ、私に出来る事でしたら」
そう告げる袁竜に、石動は静かに話を始めた。
「袁式気功拳の事だが。拙者は素手の格闘術には全然興味きないのだが、気、すなわちオーラには興味がある。実家では習わなかったので‥‥やはり袁式気功拳は門外不出なのか? もし可能なら、拙者も学んでみたいのだが」
そう告げる石動に、袁竜は頭を左右に振る。
「才能さえ有れば誰でも覚えられます。門外不出という訳ではありませんから、初歩から一つ一つ教えてあげられますよ」
それは石動にとって、思っても見ない言葉。
「是非頼む‥‥」
「明日からでよろしければ。朝起きたら、庭で待っていますので」
そう笑いながら告げる袁竜。
と、石動は表情を固くして、さっそく本題に入った。
「袁竜殿は、袁紹の住まう城について何か知っているのではないか? 玉璽に拙者の勾玉が反応した事から、その可能性があると思うのだが‥‥」
そう告げると、袁竜は机から木簡を取り出し、石動の前に広げた。
「石動殿に言われて、私も色々と調べていました。この印のある所が、『袁紹』が最後に住んでいたという謂れの在る城です」
そう告げて、袁竜は地図に示されている部分を指差した。
「ここから随分と遠いな」
「ちなみにですが、この寺院も実は袁紹の縁の建物です。石動さんの探しているようなものはありませんが、ですが、この印の所は恐らく、貴方の探しているものがあるに違いないでしょう‥‥」
その言葉は、石動に希望を生み出した。
●西夏もよいとこ旅から旅へ
──西夏首都
霊州を離れ、旅から旅へ。
日々是が修練、これが生きるということ。
「‥‥あらら‥‥久しぶりだと、ちょっと忘れているわねぇ‥‥」
横笛を吹きつつ、御堂鼎(ea2454)が街道を歩く。
そのまま笛を吹きつつも、今までに学んだ酔八仙拳の復讐を続ける。
静かに足を摺り足で進めつつ、酔拳独特の歩法も忘れない‥‥鉄拐李の動き。
そして弾みを付けた、激しい蹴りを中空に叩き込むと、再び歩法を元に戻す‥‥。
──パンパンパンパン
と、どこからともなく手を叩く音。
良く見ると、近くの街道筋に座っている老人が叩いていた。
「酔八仙拳・鉄拐李の蹴りですね。鋭い蹴り脚による一撃必殺」
「ふぅーん、まあね‥‥おじいさんは酔八仙拳を知っているのかい?」
そう問い掛ける御堂に、老人は静かに肯く。
「多少はな‥‥」
そう告げて、ゆっくりと立上がる。
ふらふらとした足取りは、酔八仙拳独特。
だが、ちょっと違う、何かがちがう。
(この人がまさか韓湘子?)
ならばと試しに打ち込む御堂。
「ほっほっほっ‥‥」
それらを軽くいなしつつ、老人は静かに間合を取る。
「おぬしの酔八仙拳は八仙のものじゃな、ならば、そのまま進みなさい‥‥」
そう告げて、老人の姿はスッと来えた。
「‥‥八仙のものって‥‥別の酔拳があるっていうの?」
そう叫ぶが、すでに老人はどこにもいない‥‥。
「まったく。どうしてこう、謎ばかりくれるのかしらねぇ‥‥おせっかいな仙人さんたちは‥‥」
そう呟いて、再び御堂は旅を続けた。
目的の西夏まではあと少し。
たどり着いたら、色々とやらなければならない‥‥。
●処刑まであと僅か
──大同・地下牢獄
冷たい空間。
石畳と異臭の流れるこの部屋で、いったいどれだけの時間が過ぎていっただろう。
先月、ここで『董印』に囚われた琴宮茜(ea2722)は、ブレスセンサーによって見張りがこの場に向かっていない事を確認すると、同じく別の牢獄に囚われている『黄志狼』に話しかける。
「黄志狼さん。あなたはこのまま殺されるのをじっと待つつもりですか?」
そう問い掛ける琴宮に、黄志狼は静かに頭を左右に振る。
「冗談ではない‥‥時がくるのを、じっと待っているだけだ‥‥」
そう告げると、黄志狼は鉄檻をギュッと握る。
「では、どうするのですか?」
「警備の中には、まだ私を慕ってくれる奴がいる。そいつからの連絡を待っていた‥‥」
そう告げて、黄志狼は檻を握っている腕に力を込める。
「そんな‥‥無理ですよっ!!」
──ミシミシミシミシ‥‥バギィッ
琴宮の叫びと同時に、黄志狼は鉄檻を引きちぎった。
「自らに限界を作ると、それを越える事は出来ない‥‥」
そう呟くと、黄志狼はそのまま琴宮の鉄檻をも破壊し、自分の妻の元に向かう。
「このまま黄さんは海陵王の元に向かってください。今のこの街では、貴方は自由になることはできません!!」
「そうだな。今は海陵王に助けを求めるほうが無難か‥‥しかし、君はどうする?」
「私は、まだこの街でやらなくてはならないことがあります!!」
そう告げて、琴宮は自ら前に出て、退路を確認。
黄志狼の仲間の手引きも会ったのだろう、地下牢獄から外に出て、1度城塞の壁際まで夜闇にまぎれて出る事が出来た。
丁度そこには、黄志狼の仲間が馬車で待機、ここから逃げる為の準備をしていた。
「黄志狼様、奥方様、急いで下さい」
そう告げる御者に頭を下げると、黄志狼とその妻は馬車に乗る。
「では、私達はこれで‥‥」
と告げて、黄志狼は懐より、小さな赤い布を手渡した。
「これは?」
「董印と戦うのだろう? ならば必要になる‥‥私はそれを使いこなせなかった‥‥けれど、君ならば‥‥」
そう告げて、英霊旗(えいれいき)を受け取ると、琴宮はそのまま馬車を見送った。
「さて‥‥それでは、いきましょうか」
無意識のうちに、その布を髪に縛り付けて、琴宮はまっすぐ董印の住まう城塞へと向かった‥‥。
(力が湧いてくる‥‥なんだろう‥‥)
そのまま、正面横の通用口から侵入し、琴宮は董印の寝所へと向かった‥‥。
●新たなる戦いの大地
──昇竜
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絶叫をあげつつ朱蘭華(ea8806)が道場を駆け巡る。
蘭華の背後には、今だ制御できない『気』の猛虎が駆け回っている。
「駄目だぁぁぁぁぁぁぁ。どうしても制御できないぃぃぃぃぃぃぃぃ」
そう叫ぶと同時に、気の猛虎もスッと消えていく。
奥義をモノにするために基礎を繰り返し、型や気穴と身体に流れる気を感じることの反復練習を日夜続ける蘭華。
その合間に、絶招の方、奥義間方を繰り返しているのだが、いかんぜん今だ未熟。
猛虎拳絶招『猛虎跳撃』に至っては、気の虎が生み出される確率は低く、しかも成功すれば自分が襲われる。
──ゴロッ
道場の床に転がり、息を整える。
「ハアハアハアハア‥‥」
「己の発する気の制御もできないとは未熟な‥‥」
そう告げつつ道場に入ってくる黄月哉。
「油断したから‥‥」
──ダン!!
瞬時に気の虎を4体生み出すと、それらをじっとその場に待機させる黄月哉。
「まだまだ基礎修練を続けよ。ワシの許可が出るまで、絶招・奥義の修練を禁ずる」
「ちょっと待ってください‥‥」
「基礎も出来ぬのにそれ以上絶招を求めるな。気のコントロールはちょっとでも失敗すると命に関る。だった1度の失敗でお飲めの命を滅ぼすことになる‥‥」
そう告げて、蘭華の肩をダき、身体を起こす。
「師匠‥‥」
「お前は大切な弟子じゃからな‥‥お前がイなくなると、また『不味い飯』を喰う事になる」
ホッホッホッと笑いつつ、黄月哉は蘭華を彼女の部屋まで運ぶ。
そして部屋の机の上に置いてある『太平要術の書』を見る。
「判ったか?」
そう問い掛ける黄月哉に、蘭華は静かに肯いた。
「1000もの兵法。100の技、10の妖術、そして求める1。それらを全て理解しないといけないけれど、私には1の兵法すら‥‥」
難解にもほどがある。
そんな蘭華の言葉に、黄月哉は肯き、そして部屋から出て行く。
「黄師匠、教えて欲しい事があります。鈴を使う僧侶、それが張角なのですか?」
そう告げると、南華老仙も顔を出す。
「それは導士じゃな。竜牙の鈴を操り、使者を操る。じゃが、普通の僧侶の使う『死者操術』とは違い、導士に操られたものは、生前と同じ能力を得る」
「生前と?」
そう問い掛ける蘭華に、南華老仙は肯く。
「普通の死者操術ならば、動きは遅くなる。が、竜牙の鈴を使う導士なら、そのまま‥‥つまり、一流の武道家゜の死体があれば、生前のままの能力で‥‥死体さえあれば、導士は無敵になれる。けど、それは張角ではないのう‥‥」
そう告げる南華老仙。
だが、いつのまにか蘭華は眠っていた。
「ほっほっ。黄月哉、今一度、この娘の戒めを強くするぞ‥‥気を強くするのは、それが一番じゃからな‥‥」
そう告げて、南華老仙は蘭華の額の気穴を突く。
「この子が全てを得るまでは時間がない。それに、私の命も‥‥」
そう告げて、二人は蘭華の部屋からでていった‥‥。
●赤壁〜試練は続く
──赤壁・英霊の眠る丘
「‥‥あと285本‥‥」
華陀師父の家で、蘭寛那(ec0186)は黙々と竹簡を読みつづけている。
英霊の丘で戦った呂蒙子明。
彼にどうしても勝つことが出来ない。
武のみでは勝てぬ。
だが、この国の教えでは『文』『武』『礼』の三つを提唱している。
ならば、文武両道を目指して、もっともっと修行しなくてはいけないという事で、寛那は華陀師父の元で文学を始めていた。
「孫氏の記した兵法書はどうじゃな?」
そう告げつつ、茶を持ってくる華陀師父。
「計篇、序論、作戦篇、謀攻篇、形篇の5つつまでは読みました」
「理解は?」
「それはまだ‥‥難しいというのが正直な気持ちです」
そう告げて、一息入れる為に外に出る華陀と寛那。
「では、身体を動かすという意味で、一手併せるかのう」
そう告げて、華陀師父が構えを取る。
それは意識の底で戦った呂蒙子明と同じ型。
「では、参ります!!」
呼吸を整え、華陀師父に戦いを挑む寛那だが‥‥
──夕刻
静かに書を読む寛那。
昼間の息抜きでも、寛那は華陀師父に触れる事も出来なかった。
けれど、以前よりも師父の動きが見えはじめているのにもきがつく。
「あと少し‥‥もう少しで‥‥」
静かに書に目をむける寛那であったとさ。
──そのころの‥‥
静かに馬車に揺られている。
抱しめているのは一人の男の子。
「‥‥あら? ここは何処なの?」
そう呟く女性。
「姫様、もう少しで呉に付きます。あと少しの辛抱です‥‥」
そう馬車の外から話し掛けているのは武装した女性。
「‥‥あ、また過去なんですか‥‥そうですか‥‥」
そう呟きつつ、抱しめている子供の顔をそっと覗きこむ劉玲玲(ec0219)。
「また、あたしは孫尚香なんだね‥‥ということは、この子は『阿斗ちゃん』だね」
そう呟く玲玲。
と、遠く後ろから馬の駆けてくる音が二つ。
「奥方様、後に向かってはいけない!!」
「周善っ、貴様、奥方を誑かして呉に向かうとは言語道断!!」
そう叫ぶのは趙子龍と張翼徳の二人。
「えーーっと‥‥」
今なにが起きているかをじっと考える玲玲。
「姫様、追っ手です!!」
「逃げきるにも、追いかけてきているのは張将軍と趙子龍将軍です。降参したほうがよろしいいのでは‥‥」
そう告げる侍女。
(えーっと‥‥歴史では確か‥‥)
しばし考える玲玲。
歴史では、このまま阿斗を奪われる。
そして一人で帰国となるのだが。
「‥‥歴史、どう動くかな‥‥」
そう告げて、玲玲は馬車を止めるように指示。
そして侍女から剣を借り、趙雲子龍と張飛翼徳の前に立つ。
「二人とも下がりなさい!! 私が誰なのか判っていますね!!」
その覇気を含む声で叫ぶ玲玲。
「劉大公がお待ちです」
そう膝をつき、手を合わせて告げる趙子龍。
「戻ってきて頂けないと困る」
同じく膝をついて手を合わせ、そう告げる張翼徳。
「私は呉に、実家に戻らなくてはなりません‥‥」
‥‥‥
‥‥
‥
「おーい、また意識がとんでいるのかー?」
そう呼び掛ける華陀老師の言葉で、玲玲は意識を取り戻す。
「はぁ‥‥趙将軍、かっこいい‥‥」
「はぁ? ああ、成る程な」
ごろんと草むら二四個になって空を見つめている玲玲。
その手には、孫尚香の薙刀が握られていた。
「運命に逆らって、どこまでいけるのかな‥‥」
●ここは何処?
──とある山の中
竹薮を駆け巡り、谷を下り、水を汲んで再び山小屋で運んでいく。
虚空牙(ec0261)は早朝から、訓練の為にまずは足腰を鍛える事になった。
一緒にかけ回っている美影という女性は、息が切れることなく真っ直ぐに駆け抜ける。
「そういえば、美影の指示している師父とは、どういうひとなんだ?」
「今日は山小屋に来ている筈ですよ‥‥」
という返答を受けて、二人は山小屋に到着。
そこには一人の人物がいた。
「おお、美影。蚩尤の様子は?」
「今だ休眠中ですわ‥‥師父、こちらがお話ししていた虚空牙さんです。空牙さん、こちらか私達の師父『道(タオ)』師父です」
その紹介に、空牙は抱拳礼を取る。
「はじめまして。虚空牙と申します」
「うむうむ。いい目をしているな。強くなりたいそうじゃが‥‥蚩尤に弟子入りとはまた無謀にもほどがあるぞ‥‥」
そう告げる道。
「それは判っています。けれど、蚩尤はこの国の武術の祖としても有名。そのようなものから武術を学べる器械など、生きていてまずありえません。その機会が、眼の前にあるのです‥‥」
そう力説する空牙。
だが、道は頭を左右に振る。
「生きているからこそ、蚩尤の武術は学びとることは出来ない。あれは、人間の使える技ではない‥‥」
そう告げて、道は空牙に茶を進める。
「人間の使える技ではないかどうか、試したみないと!!」
「お前さんのように告げて、蚩尤の元に向かった者を何人も見てきた。そして、誰も帰ってこなかった‥‥どうしてもいくのなら止めはしない。じゃが、今一度考え直してみてくれ」
その言葉ののち、空牙は一礼してその場を後にした。
そしてしばし、空牙は考えた。
そしてその日から、空牙は美影と共に訓練を開始する。
全ては蚩尤の元で、訓練をするために‥‥。
●北方の狼
──万里の城塞近くの村・早朝
いつものように早朝の水汲みを終えた紅小鈴(ec0190)。
そのままいつも老師の待っている場所に向かうと、そこ禅をくんでいる老師に挨拶を行う。
「おはようございます」
それまでは昼過ぎのちょっとした時間のみだった老師との訓練。
それが、早朝の水汲みのあと、その姿を見る事が出来た。
「さて。では参ろうか‥‥」
その言葉に、小鈴はゆっくりと達、自然体のまま身体の力を抜く。
「朧の1、しなやかなる腕と脚のさばき、そこから生じる鞭のような瞬打」
──バシッ!!
大気を殴り、音が生じる。
「その2、正面の敵に向かい鞭を連打!!」
──バババッ
素早い連打による風を撃つ音。
「その3、低い体勢からの足撃、鞭のように打ち上げて」
──バシッ
低く腰を落とし、そこから脚の力だけで跳ね上がり、さらに右足で高く蹴り上げる。
右腕は反発力を高める為に後ろに引き、右足は身体に突くほど高く蹴り上げる。
「その4、そこから叩き落とす脚。それは斧の如く勢いを付けて」
──ドゴッ
大地が唸る。
しかし、今の声は老師の声ではない。
「飛燕殿‥‥」
声の方角を向いた小鈴は、飛燕の姿に驚いた。
だが。
「その5、蹴りおろした足を軸に、左脚を巻き上げるように叩き込む。高速で回る渦の如く!!」
──バシッ
今度は飛燕の声に合わせて動く。
その姿をも老師はじっと見ていた。
──そして朝の訓練を終えて
「さてと、老師も人が悪い、小鈴には、基礎からしっかりと教えようと思っていたのに‥‥」
そう呟く孫飛燕に、老師はフォッフォッと笑う。
「飛燕殿、こちらの老人は?」
「燃燈道人だ。朧拳の祖の一人で、私の師父にあたる」
その名前を聞いてもピンとこない小鈴。
「ほっほっ。まあ、よいじゃろう。で、飛燕、この子は今後どうするつもりだ?」
そう問い掛ける燃燈老人に、飛燕は一言。
「朧拳を教える。で、そのあとのことは、小鈴次第だな」
あっさりと告げる飛燕。
「なるほどのう。では、わしも色々と教えるとしよう‥‥」
そう告げる燃燈老人と飛燕との間で、小鈴はなにが起こっているのかしばし思考。
そして其の日の夕方、お務めを終えてようやく我にかえった‥‥。
これから、壮絶な修行が始まるという事を‥‥。
いよいよ、『華仙教大国統一大武会・龍王』の地区予選が始まります‥‥。
予選期間は『7月15日〜9月15日』の2ヶ月間。
このおふれは、華仙教大国の各都市において公布されました。
そして動乱は南方へ。
昇竜を拠点とした、大きな戦い。
それはまもなく、大きな渦となります‥‥。
(第6回に続く・・・・・・)
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