幻の流派を追え!!
|
■クエストシナリオ
担当:久条巧
対応レベル:‐
難易度:‐
成功報酬:-
参加人数:16人
サポート参加人数:-人
冒険期間:2007年02月01日 〜2007年02月31日
エリア:華仙教大国
リプレイ公開日:-
|
●リプレイ本文
●男なら拳で熱く語れ!!
──華仙教大国・首都燕京
古き都という雰囲気が良く似合う。
艶やかな民族衣装を着た人々が、通りを歩く。
そんな光景を眺めつつ、冒険者達は無事に首都・燕京の地を踏みしめていた。
「これが華仙教大国ですか。いい匂いのする国ですね!!」
スゥーーッと大きく深呼吸して、月詠葵(ea0020)は仲間たちにそう告げる。
「それに、けっこう豊かな国だな。色々なものが溢れているし、あちこちで露店が開かれている。人々が自由にもののやり取りをしているのは豊かな証拠だろう」
石動悠一郎(ea8417)は周囲の露店を見ながらそう告げた。
様々な装飾品を売っている所、反物、乾物など、それこそジャパンでは見ないようなものまで様々である。
「この燕京は、華仙教大国のなかでももっとも人が多く集っている都市ですから。今の華国の中心、それだけに様々な情報も集ってきますよ」
蘭寛那(ec0186)が二人? にそう説明した。
「ヒック‥‥それになんていっても、お酒が美味しい。おねーさん、もう一杯‥‥ヒック」
すぐ後ろの店の中から、御堂鼎(ea2454)の声がする。
「ああ‥‥またお姉さん‥‥」
「こんな御天道さんが高い時間から飲んでちゃだめでしょう‥‥」
そう告げつつも、月詠と石動の二人が店内に入っていく。
「ああ、御免御免。みんなが街を見渡しているうちに、いい匂いがしてね‥‥そしてほら、フラフラ〜って入ったら、この叔父様がお酒を進めてくれてね‥‥」
と、御堂は横で飲んでいた男性を指差す。
良く見ると瓢箪で作ったとっくりを手に、もうへべれけ状態。
「‥‥御堂さん、ああ‥‥もう。どうも連れが粗相をしてしまって申し訳ありません」
寛那が男性に頭を下げる。
「いえいえ、別に気にしないでくださいね。それよりも皆さんもどうですか?」
そう呟きつつ、ニコニコと酒を進める男性。
「そうそう。進められたお酒を断わるのは道理に反する‥‥ヒック」
そう呟きつつ、注がれた酒を一気に飲み干す御堂。
「さて‥‥私はこれで‥‥皆さんどうぞごゆっくり‥‥」
そう告げつつ、ふらふらとした足取りで店の外に出て行く男性。
「あ、色々とありがとうございました。このご恩はいつか必ず。私は蘭寛那と申します。お名前、よろしいでしょうか?」
そう告げる寛那に、男性は振り向き様にニィィィッと微笑って一言。
「呂洞賓(りょどうひん)と言う‥‥では」
そう告げて人ごみの中に消えていった。
「さあさあ、そんなところに突っ立っていないで!!」
店内から聞こえる御堂の声は寛那に届いていない。
その場にヘタヘタと座り込んで、寛那は全身が震えるのを必死に押さえていた。
「呂洞賓って‥‥あの‥‥酔八仙拳の拳仙の一人‥‥」
おやおや、どうやらこの道中、ただ事ではすまないようで。
「ふぅん。これは参った‥‥」
リクルド・イゼクソン(ea7818)は月道管理塔から出て、そのまま中央通りを歩いていた。
「右も左も知らない世界。それにしても、華やかな街だなあ‥‥いい匂いもするし、なにより別嬪さんが多い‥‥」
そんな事を呟いていると、突然横道から少女が駆け寄ってくる。
──ドン!!
「ああ、すいません‥‥」
必死にリクルドに謝っている少女。
と、その向う、横道から『むくつけき大男達』が駆けよってくる。
「た、助けてください。追われているのです!!」
リクルドの服の裾を掴むと、少女は必死に哀願する。
「ま、いいだろう。義を見てせざるはなんとやら‥‥」
そう呟くと、リクルドは懐に手を伸ばし、スリング用の石を二つ握る。
「おうおうおう!! その女をこっちによこしてもらおうかぁぁぁ」
「少女を庇いたてするなら、あ!! 貴様も痛い目にあいてぇかぁぁぁぁぁっ!!」
歌舞伎調に叫びつつ走ってくる男達に向かって、リクルドは手にしたスリングストーンをかまえる。
「距離がこれくらいなら‥‥まあ、相手はこっちが手出しできないと考えるのが打倒だな‥‥」
──ヒュンッ
下手投げでスリングストーンを二個同時に。
しかもその二つは男達の股間を直撃!!
──ごいーーーーん
「てっ‥‥てめえっっっっっ」
「キーーーッ!! 覚えていなさいよっ!!」
あ、一人のは完全に潰れたかな?
そんなこんなで、捨て台詞を吐いて逃げていく男達。
「た、助かりましたぁぁぁぁ」
ヘナヘナッとその場に崩れ落ちていく少女。
「まあ、なにが在ったのかは知らないけれど‥‥気を付けてな‥‥」
ニィッと笑いつつ、リクルドはその場をあとにしようとしたが。
「‥‥お、御願いです、異国の御侍さん。私に力を貸してください!!」
その場でさらに哀願されるリクルド。
まあ、人助けもまんざらではないようで、リクルドはそのまま少女について行った。
──場所は変わって燕京・朱鈴殿
荘厳な雰囲気を漂わせる建物。
この華仙教大国を取り仕切る政の中枢であり、国家元首である海陵王の室も室のある建物。
その中の一室に、大勢の冒険者が集っていた。
「完顔完顔師父はまだでしょうか‥‥」
陸潤信(ea1170)は椅子に座って、静かにそう呟く。
ここで待っていて欲しいと文官に案内されたものの、すでに1刻が経過している。
「待つのもまた試練でしょう。それに阿骨打様は御忙しそうですから」
荒巻美影(ea1747)がニコリと微笑みつつ、潤信に告げる。
「それにしても‥‥幻の流派『八跋衝』。実際にそれを探すとなると、この広大な国のドコから探せばいいのでしょう‥‥」
ダウンジング・ペンデュラムを手に、夜桜翠漣(ea1749)がその場に居るメンバーに告げる。
「俺は南宋に向かう。呉王の使う流派が八跋衝。南宋の大河付近は昔、呉と呼ばれていた。なら、そこに手掛りがあると、俺は睨んでいる」
天狼王(ec0127)はその場にいるメンバーにそう告げる。
「夜桜殿。確かわしらの向かう先は東方ぢゃったのう!!」
狼王の言葉に耳を傾けていた葉雲忠(ec0182)が、近くに座っていた夜桜と荒巻に問い掛ける。
「ええ。青龍八跋衝道場ね」
「探すのも大変そうですけれど、きつと見つかりますよ」
夜桜に続いて荒巻もそう告げる。
「ふぅむ。基礎だけでも学べるかのう‥‥」
腕を組んでそう告げる雲忠に、まあなんとかなるんでないか? と告げる一行。
「私は北方に向かうつもりです‥‥」
紅小鈴(ec0190)はその場の皆にそう告げる。
「あっちはまだ危険ではないのですか? ハンの氏族が出没しているという話ですが」
潤信がそう小鈴に問い掛ける。
──ガチャッ
「まあ、一時的な脅威は立ち去ったが、それでもきけんな事にかわりはあるまい‥‥」
そう告げつつ、完顔阿骨打が室内に入ってくる。
と、全員が一斉に立ち上がり、抱拳礼(胸の前に拳をかまえ、左の掌で右の拳を包む武道家の礼法の一つ)を取った。
「ご苦労様です。さて、今日集ったのは、道士捜索の件ですか?」
完顔阿骨打の言葉に、一同は静かに肯く。
「はい。まずは完顔師父の元をと思いまして参りました」
潤信がそう告げると、一同もまた頭を楯に振る。
「我が拳は我流。定まった形こそありませぬが、故に新たな物への取り組みに於いて他に引けは取らぬ所存」
そう狼王が告げて一礼すると、さらに荒巻が一礼した後、話を始めた。
「もしよろしければ、完顔師父の御知りの情報を私達にも教えて頂きたいのです。その上で、捜索を行ないたいのですが」
「現在判って居るのは、この燕京から東に3ニの小さな村。そこの青龍拳道場が『青龍八跋衝』の道場であることです。本来の最源流技である『八跋衝』は、最高師範が不明の今、4っつの分派である『玄武八跋衝』『白虎八跋衝』『朱雀八跋衝』『青龍八跋衝』が探す為の鍵となっています‥‥『青龍拳』以外の道場については、私でも今だ判らず‥‥この国内に残されているという話以外は‥‥」
そこで完顔阿骨打の言葉は終る。
「道士の外見や性格、人柄などは判って居るのですか?」
夜桜の問いに、阿骨打は頭を縦に振る。
「老人であり、青年であり。大男であり、艶やかな女性である。温厚であり冷血であり。優しく、そして厳しく‥‥」
「そのなかのどれが、最源流技の道士なのですか?」
「そのどれもです。一説によると、最源流技の道士は『仙人』という噂もあるほどです。が、恐らくはなんらかの宝貝で『変化の術』を使っているのではという話です」
その言葉で、一同は絶望の色をみせてきた。
「八跋衝の歴史については?」
再度、夜桜が問い掛ける。
「古くはこの華国に殷(いん)という国が存在していた時代。その当時のとある武将が身につけていた拳術が全ての始まりと伝えられています‥‥」
「その武将の名は?」
狼王が痺れを切らせて問い掛ける。
「それは伝えられていないのです。武に強きものという事で『武成王』ではという声もありますが‥‥それの証拠となるものも存在せず‥‥あくまでも言伝えでしかありません」
それでもヒントは得た。
「完顔師父、御願いがあります。私達が国からの命を受けて道士を探しているという証拠と成るものを戴きたいのです」
夜桜のその言葉に、完顔阿骨打も少し思案。
「では、国からの任についているという証明を出そう。但し、御許を証明するだけの権限しかない。交渉‥‥説得は貴殿達で頑張って欲しい」
そうつげると、完顔阿骨打は傍らに控えていた文官に指示をだし、人数分の『御許証明木簡』を作り、配布した。
「では、私は是で。定期馬車の時間ですので、失礼します」
と、丁寧に頭を下げてから、小鈴は退室。
「では、みなさんもよろしく御願いします」
そう告げる完顔阿骨打。
「あ、最後に御願いですが。腕の立つ情報屋を紹介して欲しいのですが」
その夜桜の言葉に、少し頭を捻る完顔阿骨打。
「‥‥でしたら、燕京より南に2日のちいさい村を訪ねなさい。そこの宿屋に『紅燕雲』という女性が居ます。彼女に助力を仰いでください」
「その方は、この華仙教大国に雇われたことはあるのですか?」
そう問い掛けた夜桜に、完顔阿骨打は頭を左右に振る。
「彼女は、国に使える事はないのです‥‥ですが、貴方たち冒険者になら、力を貸してくれるかもしれません‥‥では、次の執務が待っていますので‥‥」
そう告げて、部屋から出て行こうとしたとき。
──ガチャッ‥‥ドガッ
「失礼する。阿骨打はおるか?」
純白の胴着を身につけた豪快なおっさんが、室内の一同に話し掛ける。
「あ‥‥完顔師父でしたら、その扉の影に‥‥」
荒巻が、解き放たれた扉にぶつかって後ろに崩れている完顔師父を指差しつつ、そう呟く。
「おお、これは失礼」
そう告げつつ、おっさんは完顔阿骨打を抱えて部屋の外に出ていった。
「‥‥ええっと、誰でしたっけ?」
そう後ろの皆に問い掛ける荒巻だが、後ろの全員が今の人物に向かって『抱拳礼』をしているので絶句。
「‥‥久しぶりに見た‥‥海陵王だ」
緊張で手に汗が吹き出している狼王。
「ええ。あいかわらず御元気そうでなによりです‥‥」
潤信も狼王の言葉に反応してそう呟く。
「一手御手合わせ御願いしたいが‥‥無理ぢゃのう」
雲忠もそう告げつつ、かまえを解く。
「‥‥美影、判らなかったの?」
夜桜が荒巻に問い掛けたとき、荒巻は腰砕けになってその場に崩れていく。
「え? だって、ここに出てくるなんて思っていないし、突然だったから‥‥」
今になって、海陵王の覇気に当てられたのか、荒巻は身体が思うように動かない。
「ほらほら、そろそろ行くわよ。それじゃあ皆さん、私達はこれで失礼します」
夜桜がその場の連中に挨拶して、荒巻達をつれて退室。
そして残った者たちもまた、その場を後にした。
●立てば海路のなんとやら
──燕京→黄海
燕京から出る定期船は、黄河を下り黄海へと出る。
そして個かいで待機している大型帆船に乗り換えて、旅人はさらなる地へと向かっていく。
──ヒュルルルルルルル
風が舞い、琴宮茜(ea2722)の髪を舞い上げる。
「あら‥‥悪戯な風ですね‥‥」
そう告げつつ髪を撫で、琴宮は静かに川の先を見ていた。
「あら。琴宮さん、貴方も船ですか」
朱蘭華(ea8806)が琴宮に話し掛けつつ、ゆっくりと近づいてくる。
ちなみに二人は月道管理塔で出会った仲らしい。
「ええ。私は南宋へ。蘭華さんはどちらへ?」
「私は昇竜です。昇竜には、私に武術を教えてくれた人がいたのでから」
いた。
その言葉に、琴宮は下を向いて一言。
「ごめんなさい‥‥」
「あ、気にしないで。私の師父も武道家だから‥‥それより琴宮さんはどうして南宋へ?」
「私は英霊布を捜しにです‥‥」
ということは、黄海から先の船は別ですね。それまではよろしくおねがいします
「はい。女性の一人旅は、なにかと危険ですから‥‥」
そう告げると動じに、二人は瞬時に後ろを振り向いてかまえを取る。
──ペローーーン
だが、その刹那、二人同時にお尻を撫で上げられたのである。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
「わわわわわわーーーーーーーーーー」
素早くお尻を触った人物に拳を叩き込むが、それらの全てが受け流されてしまう。
「うん。いい尻だ。それなら丈夫な子供を産める。お前たち、オレの子を産め!!」
──バッチィィィィィィィン
蘭華の平手射ちが男の頬を炸裂。
「触られた‥‥殿方に触られた‥‥」
フルフルと震える琴宮。
「なんだ、男に触られたことはないのか。なら大丈夫だ。この俺に任せたら、触られるよりもさらに快感‥‥フベシッ!!」
さらに蘭華の鉄拳が男の顔面を直撃。
「貴方、まずは謝るのが礼儀でしょう!!」
ハァハァと呼吸を取り戻しつつ、蘭華がそう告げる。
──ボタボタボタボタ
鼻血を押さえつつ、男は立上がる。
「いやいや、悪い悪い。つい、丁度いいお尻があったからみさかいなくなったもので」
あんた最低だよ。
「ふう、琴宮さんもう大丈夫よ‥‥」
震える琴宮にそう告げると、蘭華はキッと表情をキツくして男に話し掛ける。
「貴方誰? いきなり知らない女性の御知りに手を出すなんて最低よ!!」
「ああ、ちょっとまって‥‥」
上を向いて何かつぶやく男。
と、オーラを体内に流し込み、その力で『鼻血』を癒しているようである。
いや、使い方は間違っていないけれど、あんたやっぱり変。
そして止血が終ると、男は笑顔200%でゆっくりと話を始めた。
「俺の名前は曹飛延(そう・ひえん)。南宋の出身で、出稼ぎから戻る所だ。燕京で『英霊布』というものの噂を聞いて、それを探す為に1度故郷に戻るところさ‥‥」
その話をしている男をキッと睨みつける琴宮。
(どんな事をいっても、この人は助平。悪いひと‥‥いくらイイ男でも、えらそう首に赤い布を巻きつけていても‥‥え?)
ふと、琴宮は蘭華のほうを向く。
と、蘭華も気付いたらしく、静かに肯く。
「一つ聞いてよろしいかしら? 貴方のその首に巻いている布。それは?」
「ん? これか? 俺は小さいときに拾われてな。その時に身体に巻いてあったらしい。まあ、今はお守り代わりとおもって巻いているだけだけれど?」
そう告げると、男は布を外してみせる。
「どこにでもある布だよ。ほら」
そう告げて、二人に手渡す。
蘭華と琴宮、二人が手に取った瞬間、二人の脳裏を広大な草原のイメージが駆け巡る。
大勢の武将が戦い、血を流している。
そして脳裏に響く何かの声。
『天啓を持って告げる。誰の力を望む!!』
と、その瞬間、二人は布を手放す!!
「おっと、もういいのか?」
そう告げて飛延は布を首に巻いた。
「え‥‥あ‥‥あの‥‥」
「その布は英霊布ではないのですか?」
琴宮と蘭華がそう問い掛けた。
「はーーーっはっはっはっる英霊布なわけないだろう? 燕京にいた呂洞賓とかいうじいさんにもみてもらったけれど、これは只の布だってよ。もし英霊布なら、それに『認められた者』が手に取ったとき、『天啓を持って告げる。誰の力を望む!!』とか語りかけてくるらしいからなぁ‥‥」
ひらひらと布の端を摘まんでそう告げる飛延。
「あ、ちっょとすいません‥‥」
そのまま蘭華と琴宮は飛延から離れる。
「蘭華さんには聞こえました?」
「ええ‥‥しっかりと。草原と武将も見えましたわ‥‥」
「では」
「あれが本物の『英霊布』‥‥」
フルフルと震えつつそう告げる二人。
「とりあえず、この事は皆さんにも知らせたほうがよろしいのでは‥‥」
ここでいうみなさんとは、今回の英霊布や武術大会、幻の武術を求めて燕京に集ってきた冒険者達を言うようで。
「そうですね。黄海で帆船にのったら、そこでシフール便を御願いしましょう‥‥私は残念ですけれど、」
●北の幻
──燕京→北京
幻の流派『朧拳』。
それを求めて、紅小鈴は定期馬車にのって一路北京へと向かう。
約12日間の長い旅。
ごとごとと、馬車に揺られての旅。
火が昇ってから比嘉くれるまで、馬車は走りつづける。
道中、馬車を止めての野宿などもあり、山賊や盗賊の襲撃にも脅える日々。
それでも護衛馬車が付いている為、あまり危険はない。
小鈴が出発して8日目
広大な草原。
その向こうで、馬達が走っている。
「野生の馬‥‥」
そう呟きつつ、馬達の駆けぬける姿をじっと見ている小鈴。
と、一頭だけが、他の馬よりもかなり早く駆け抜けていき、ずっと先で他の馬達が到着するのを待っているようである。
「凄い早い‥‥」
「ああ、あれは流離馬ですね」
客の一人が小鈴の声に気付いたらしく、そう小鈴に説明してくれた。
「流離馬?」
「ええ。この辺りの遊牧民たちの間では有名ですよ。いつの頃かフラリと現われて、野生の馬達を率いているって。元々はどこかに飼われていた馬らしく、ほら、鬣(たてがみ)に赤い布が縛られているでしょう?」
その言葉に、小鈴はじっと馬を見る。
確かに、鬣に赤い布が縛られていた。
「‥‥赤兎馬みたい‥‥」
無意識のうちにそう告げる小鈴。
「ん? ああ、そういえばそうですねぇ‥‥」
そんな言葉を交わしているうちに、流離馬は地平線の彼方へと消えていった。
「鬣に英霊布を巻き付けた馬‥‥まさかねぇ‥‥」
いや、判らんぞ。
●東方の地にて
──燕京東・2日のちいさな村
「‥‥たのもー」
小さな道場の正門を抜け、鳳蓮華(ec0154)は中に響くように叫んだ。
「‥‥はあ、なにか御用でしょうか?」
いそいそと姿を現わした弟子に対して、蓮華は抱拳礼を取り、ゆっくりと話を始める。
「師範の董海汎(とうかいはん)殿に会いたくてやって参りました。こちらは私の師の紹介状です」
そう告げて、懐から竹簡を取り出して弟子に手渡す。
「あ、はい、それではしょうしょうお待ちください」
そう告げて、弟子は建物の奥へと入っていく。
「汎式八卦門‥‥八卦掌の道場でしたかー」
おいおい、今頃気付くなよ。
さて、どうして蓮華がここにいるのか説明しよう。
燕京にたどり着いてから、蓮華はまず自分の師範である『李海詠(りかいえい)』の元に戻り、今までの経緯を説明。
そして師範に頼み込んで紹介状を作ってもらうと、その紹介状を手に『知合いの道場』に向かい、さらに助力を得るという方法に出たのである。
「おお、これは。海詠の所の御弟子さんか。遠い所をわざわざ御苦労さん」
「いえ。李師父からおうわさはかねがね。実は、『青龍八跋衝』について色々と調べているのですが、なにかご助力は選られないでしょうか?」
そう告げると、董海汎は長い顎髭を撫でつつ、何か思案している。
「青龍八跋衝‥‥うーむ。わしも噂しか聞いたことはないからのう‥‥どれ、とりあえず紹介状を書いてあげよう。この先のちいさな村じゃが、確か弟子が一人だけのちいさな拳法道場がある。そこを訪ねてみるとよい」
董海汎がそう告げて新たな竹簡に紹介文を書き留める。
「ありがとうございます。そこの道場は、どんな流派なのですか?」
「うーーむ。名前は『最強流』という」
──ホーーーーホケキョ!!
その名前だけで、蓮華の目は点になる。
さらに、脳裏を鳥が飛ぶという奇妙な感覚に陥った。
「流派はどちらの流れでしょうか? 北派ですか? 南派ですか?」
「華仙教大国統一流派と自負しているらしくてのう‥‥」
──ホーーーーホケキョ!!
あ、またた。
ちなみに、華仙教大国では、楊子江を堺として南で派生した拳法を南派、北で派生した拳法を北派と呼ぶ。
古くから『南拳北腿』と呼ばれ、北派は全体的に『腿法』が多く、戦術も多彩で縦横無尽に動き回っての自然な技が多い。
これに対して南派は、両足を踏ん張った姿勢からの手練技が多い。
動の北派、静の南派と考えると良いでしょう。
「‥‥拳の形は? 内功拳ですか? 外功拳ですか?」
ちなみに内功拳は『柔拳』、力を内に秘めるタイプの拳であり、外功拳は『剛拳』、力を外に表わすタイプの拳である。
「良く判らぬ。どちらかといえば内功拳に近い。が、破壊力は外功拳のように直線的。師範は自身の拳を『間功拳』と告げている」
そこの部分は何故か冷静に受止める蓮華。
「つまり柔軟性のある剛拳ですね?」
「まあ、そのとおりだな。まあ、急ぎ旅でもなかろうから、ゆっくりとしていきなさい」
そう告げられつつ、饅頭と茶を差し出されては蓮華も足を止めるしかない。
「では、失礼して‥‥」
遠くで鳥が鳴いている、のどかな一時。
こんな時間が、ずっと続いたらいいなと思う蓮華であった。
●蛇の道は蛇ともうしますが
──燕京・ちょっと危険な街
「さて、どこから聞き込みをしていったらいいのやら‥‥」
虚空牙(ec0261)は静かに周囲を見渡す。
薬と酒、そして女の匂い。
それらが混ざりあったような香りが、あちこちの安宿から流れてくる。
「あらぁ、いい男ね☆ どう? 遊んでいく?」
と、窓から声をかけてくる女性。
「この当たりで情報に詳しいやつを探している。だれか知らないか?」
「情報屋ね。それなら‥‥教えてあげれてもいいけれど。どうする?」
そう告げつつ、服の胸許を少し開く女性。
「そういうことか‥‥」
空牙は懐から金貨を取り出し、それを女性の胸許にそっと入れた。
「あら、こんなに沢山。なら教えてあげる。この先にちいさな酒場があるの。そこにいる『彰蔽平(しょうへいへい)』に聞いてごらんなさい」
ひらひらと手を振りつつ、空牙に告げる女性。
見ると、その耳の形から彼女がハーフエルフであることが判る。
「同族か‥‥」
「ええ。もうずっと‥‥ここで生きているのよ。故郷もないしねぇ‥‥」
にこやかに告げる女性。
だが、その奥に秘めているであろう哀しさを、空牙は判っていた。
「それじゃあ‥‥」
そうつげて、空牙は女性の前から立ち去る。
「またね。今度はちゃんと、あたしのこと可愛いがって頂戴ねぇ☆」
──酒場『翡翠飯店』
店内は煙草と酒の匂いで充満している。
「この店に彰蔽平というやつが出入りしていると聞いたが‥‥」
店内に立っている綺麗なドレスを着た女性に問い掛ける空牙。
「奥の方がそうですわ」
そう告げて案内された所には、椅子に座って酒を飲みつつ、横に座っている女性に『助平』なことをしている怪しい男性がいる。
「あんたが彰蔽平か」
「そうだけど、君は?」
静かに瞳をあげつつ、彰蔽平が空牙に問い掛ける。
「俺は虚。英霊布を探していると言えば判るだろう?」
その言葉に、彰蔽平は瞳を捕捉して、静かに口を開いた。
「正統な依頼か。あの布についての情報量なら50Gだ」
──バギィッ
いきなりテーブルに拳を叩きつけて破壊する空牙。其の手から、血が滲んでいる。
「あんたの命は50Gか?」
そう告げると同時に、空牙の口許がニィツと笑い出す。
「あ、あんたハーフエルフか‥‥わ、わかった。教える。教えるから!!」
そう叫びつつ後ろに下がる彰蔽平。
「烏林に行ってみろ。そこの近くに在る古い村の祠に奉ってあるという話だ‥‥」
その言葉を聞くと、空牙はそのまま店の外に出て行った。
「烏林か。楊子江の上流‥‥古くは英霊達の戦った地『赤壁』の近くか。他の情報はないのか‥‥」
そう呟きつつ、空牙は再び情報を集めにフラリと出かけていった。
●燕京・町の中では
完顔師父の元に挨拶に向かってからはや10日。
この広い燕京の中に、情報だけを求めて走りまわるのは、かなりきつい。
それでも、色々な視点からの情報収集では、思いがけない事もあった。
──とある古道具屋にて
「これは‥‥違う‥‥」
古い家具や装飾品が所狭しと並んでいる古道具屋『珍品堂』。
その店内で、厳子麗(ec0245)は英霊布を探しも止めていた。
ここにきた理由はただ一つ。
燕京城下街で色々と情報集めをした結果、この『珍品堂』には様々な宝貝が集ってくるという噂が数多く在ったから。
だが、不思議な事に、この珍品堂、どこにあるのか場所をたずねてみたのだが、誰一人として正確な位置を知っているものはいなかったのである。
子麗も裏道を駆けずり回ったあげくようやく見付けたのだが、そこが一体どこなのか見当つかないのである。
「‥‥親父、対したものはないが、本当にここは『宝貝専門店』なのか?」
「アイヤ。大姐、宝貝探しているアルカ」
「最初に説明しただろう。英霊布を探しているって」
「ふふーん。英霊布あるか。ちょっと裏の掘り出し物探してくるアルから、そっちの棚でも見ているアル」
そのまま店長は裏に向かう。
「‥‥まったく、ロクなものがない‥‥お、この鞭はなんだ?」
そう告げつつ、縄で束ねられている黒い双鞭を手に取る。
「それは金鞭アルネ。最大有効射程10里の最強宝貝アルヨ」
そんな戯言を告げている店長。
「これが? たかが5尺程度の長さしかないのにか?」
縄を開放して手に取ると、子麗は静かに入り口に向かって構える。
外までの距離は15m。
「ふぅん‥‥」
ボソツと呟きつつ、ヒュンと軽く振る。
──バジィッ!!
と、突然外の石がくだけ散った。
「!!」
慌てて金鞭の先端をみると、確かに椅子のかけらの感触がある。
「ほ、本物‥‥」
その刹那、子麗の全身から力が抜けていく。
「あ、それ振ったアルネ。金鞭は『二匹の蛟竜』が変化した双鞭アルヨ。使いこなすの、大姐の功夫では足りないアルヨ」
そう告げて、再び荷物を探す店主。
「ふう‥‥ふう‥‥こんなものが置いてあるなんて‥‥」
息を整えつつ、別の宝貝を探す子麗。
「‥‥これも‥‥なにか怪しいな‥‥」
二つの巨大な腕輪を手に取ると、子麗はそれを腕に固定する。
ちょっとぶかぶかの腕輪だが、手首の回りに綺麗に『浮遊』するように固定された。
「‥‥さっきのが金鞭なら、これはまさか乾坤圏(けんこんけん)?」
そう呟きつつ、再び外に手を向ける子麗。
そしてそとの壁手前にある甕にむけると、乾坤圏が飛んでいくのをイメージ!!
──ドッゴォォォォォォォッ
瞬時に右腕の乾坤圏は甕に向かって飛来し、粉砕して子麗の手首に戻ってくる。
そしてまたしても全身から脱力するイメージ。
「あ‥‥これはやばいな‥‥」
なにか癖になりそうな感覚。
「アイヤ、大姐、2枚だけ英霊布あったアルヨ」
そうつげると、店主は紫色の布に包まれた『英霊布』を子麗にみせる。
「手にとっていいか?」
「本物か確認するアルネ。手にとって、武将野姿が見えれば本物アルヨ」
その店主の言葉に、子麗は一枚の英霊布を手に取る。
──キィィィィィィン
突然、子麗の脳裏に川が広がる。
数多くの船と、その船頭に立つ猛将。
そして風の感触が子麗の頬を掠めていく。
『天啓を持って告げる。誰の力を望む!!』
その声が脳裏に響いたとき、子麗は英霊符を握り締めた。
「店主!! これは私が買う!!」
そう告げるが、店主は頭を振りつつ子麗から英霊符を回収する。
「うちの宝貝、お金では買えないアルヨ。価値ある宝貝やそれに等しいものと『等価交換』アルネ」
そう告げて、店主は英霊符をしまう。
「それ等しいもの‥‥」
残念だが、子麗はそのようなものを持っていない。
「判った。必ず持ってくるから、それまでそれは誰にも売らないでくれ!!」
「ウウーーーン」
困ったような声を出す店主。
「鉄忠(てっちゅう)、何かあったのか?」
と、奥から店主を呼ぶ声がする。
そして濡れるような長髪黒髪の男性が、店内に入ってきた。
「あ、これは太乙大人。この大姐、英霊布を取り置きして欲しいということアルヨ」
そう告げる店長。
「別に構わないのでは?」
そうあっさりと告げる太乙大人。
「なら、さっそく代価の宝貝を探してくるわね‥‥」
そう告げて、子麗は店の外に飛び出す。
「いいアルカ?」
「あの人には、ここが判ったのですよ。あれを持つ資格は十分にあるということですね‥‥」
そうつげてね二人はまた店の奥へと向かっていった。
いくつもの物語が始まった華仙教大国。
それらは全て、一つの一によって繋がっていく。
そして繋げられた一枚の物語は、やがて大きな風に舞い上がる‥‥。
──To be continue......
今回のクロストーク
No.1:(2007-02-10まで)
琴宮茜(ea2722)&朱蘭華(ea8806)に問う。
道中、『英霊布』を所持していた男生と遭遇。貴方たちはどうする?