二つの理想

■クエストシナリオ


担当:みそか

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:31人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年02月01日
 〜2007年02月31日


エリア:イスパニア王国

リプレイ公開日:-

●リプレイ本文

<イギリス→イスパニア 海上>

 イギリス王国・キャメロットから出た船は波に揺られながらイスパニア王国・ナバーラへと向かっていく。
 船に乗った人数は案内役のエル・ヴァロッサ(ez1103)を含めると33名。これだけの歴戦の兵が揃うと、外から見ているだけでも壮観である。

「あなたのその白い粉雪のような肌でこの心を癒して‥‥フンヌラバッ!」
 デモリス・クローゼ(ec0180)の拳によって天に突き上げられ、派手な水飛沫をあげて海に落下するヲーク・シン(ea5984)。‥‥なんということだ! 33名の勇士達はこの瞬間32名になってしまったのだ!
「危ないところだった。‥‥まさかこのメンバーの中に海賊の手先が紛れていようとは」
「ああ、そうだな。だけどまぁ、奴なら適当なところで帰ってくるだろ」
 拳を握り締めたまま額の汗を拭うデモリスとは対照的に、クリムゾン・コスタクルス(ea3075)は未だに泡ののぼる水面には一瞥もくれることなく、『ニヤリ』とした口元で視線を前方から動かそうとはしない。
「やっぱ見えたかコスタクルス? ‥‥久しぶりの陸地、見知らぬ世界ってやつだな」
 名無野如月(ea1003)が言葉を紡ぐたびに煙がもうもうとあがる。真鉄の煙管を船の縁でひとたび叩けば、舞い上がった灰は寒風に乗り‥‥広大な大地、イスパニアへ向けて進んでいく!

「ようこそイスパニア、ナバーラへ! この中にはナバーラが故郷って奴も多いだろうが。とにかくこの大地は、お前たちを歓迎してくれている!」
 今や誰もが視界にうっすらと映るようになったイスパニアの大地を鷲掴みするように、両手を大きく広げるエル。集まった冒険者は、徐々に近付く情熱の大陸にそれぞれの想いを這わせる。

「祖国、か‥‥」
 いつしか髪に絡みついた雪を指先で振り払い、今や目の前に迫った大地を‥‥故郷を睨みつけるカミロ・ガラ・バサルト(ec0176)。
 彼にとっては久方ぶりの故郷にあたるナバーラ。『あの日』以来、傭兵として武器だけを携え各国を転々としてきた彼にとって、今回の依頼内容は−−祖国の窮状は−−予想外以外の何者でもなかった。
 ナバーラはお世辞にも豊かな国ではない。山間部が国土の大半を占める土地は作物の育成に適さず、産業らしい産業などもありはしない。僅かに行われる牧畜のほとんどは国内、否、家庭内で消費される。
 傭兵国家ゆえに他国から一目も二目も置かれるなどということはあくまで対外的な話。特に山間部の集落などは皆、例外なく飢えている。
「だけど、この国には生きる活力があった。‥‥だからボクは、この国にもう一度戻ってきたんだ」
「!!」
 不意に飛び込んだ、まるで内心を読み取られたかのようなミトナ・リプトゥール(ec0189)の声に驚き、思わず刃の柄に指を添えるカミロ。彼を見据えるミトナの瞳は、ただ一点を見詰めており、些細な迷いすらも感じることはできなかった。
「‥‥俺も、臆病になったものだ」
 (いや、むしろあの日のままということか?)
 柄に触れた指は僅かに震えていた。実に十年近くの時を経て踏む祖国の大地は、彼に進む道など示してはくれなかった。
「ならば、せめて‥‥この国の行く末、しっかりとこの目で見極めよう」
 意識などすることなく紡ぎだされた言葉は、強さを増した雪の中に消えていった。


<ナバーラ北部・ヴェルム>
「っつか、ここホントにイスパニアか? 雪降ってるじゃねぇか」
「ははっ、まあ寒いといえば寒いくらいだねぇ。イギリスと‥‥ついでに言うと、コスタクルス。あんたの格好の方が寒いけどさ」
 半裸にも見える衣服を纏ったコスタルクスを傍目に、ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)はやれやれと大げさに溜息を吐く。
 無事にイスパニア大地に到着した33名がまず最初に体感したことはその予想外の寒さであった。『情熱の大地』と形容されるイスパニア大陸は暖かいと思われがちだが、2月ともなればそれなりに寒い。山の多いナバーラともなれば尚更だ。
「ははっ、お寒いですかお嬢さん。こんなこともあろうかと防寒着を二着用意していてよかった。なんなら毛糸の靴下も、オゥチィ!」
「しかし、どうにも辛気臭いねぇ。せっかくお仕事に来たんだから、もうちょっと歓迎してほしいとこだよ」
 後ろから抱きすくめるように防寒着を被せてきたヲークの額をナイフの柄で叩いて(何ということだ、また32名になってしまった!!)軽くいなすジョセフィーヌ。
「ほんと、ちょっとばかり‥‥歓迎されてはいないみたいね」
 周囲を取り囲むありとあらゆる建物の中から刺してくるような視線に、大きく溜息を吐くヒスイ・レイヤード(ea1872)。

 『愛国心が強い』

 その一言で形容されるナバーラ。お世辞にも他者に寛容とはいえない土地柄は、元来排他的といえる上に、昨今の内乱によってその傾向には拍車がかかっていた。
 この土地に到着した者への視線、木戸の向こうから刺すようにむけられる『感情』には確実に嫌悪たるものも含まれていた。
「やれやれだな。俺がいない数ヶ月の間にまたひどくなってやがる」
「別に気にすることなどはない。情報なき評判など、行動で簡単に覆るものだ。‥‥それよりエル。この街で通訳を調達したい。馬を買いたい奴もいるだろう。まずは街の案内をしてくれないか?」
 おおげさに肩を落とすエルに、落ち着いた声で話しかける氷雨絃也(ea4481)。新しい土地に大挙して異国の冒険者が、それも腕に覚えのある者が上陸したのだ。理論的に物事を考える彼に取ってこの程度のことは予想できないことではなかった。
「現状を悔やむ暇があれば打開する方策を考える‥‥考え方の基本ですね。船の中でゆっくり休んだことですし、私は早速ギルドへ情報収集にいってきます」
「‥‥フン、着いた早々元気なことだな。折角のイスパニアだ。俺は酒でも飲ませてもらうよ」
 エルに簡単な方向を教えてもらい、ギルドに向かう秋朽緋冴(ec0133)と酒場に向かうルシファー・パニッシュメント(eb0031)。さらにそれに数名が続けば、話題の提供者である氷雨も肩をすくめる。

「さすがにこれだけの人数が全員で行動するのも無理があるか。‥‥疲れている者もいるだろうし、まずは宿に行こう」
「通訳はよろしいんですか?」
「構わないさ。どの道通訳を雇おうにもこの国の事情が分からなければ吹っかけられるのが関の山だ」
「なるほど」
 氷雨の言葉に頷くシリル・ロルカ(ec0177)。そういえば彼自身も新しい旅にと荷物を持ち過ぎてきてしまった。せめて宿にバックパックだけでも置いていかなければこの街から出ることもできそうにない。
「そういえば馬も買わないといけませんね‥‥」
「エルさんエルさんっ、早く奥さんとあわせてよ〜〜」
「あぁ〜〜っ、着いたばかりだってのに忙しいな。とりあえず宿に行って飯でも食うかお前たち!」
 道案内のエルに引き連れられて、宿へと向かっていく冒険者達。
 先ほどまで痛いほど刺さっていた周囲の視線も、今ではそれほど気にならなくなっていた。

 イスパニアに降り立った32名の冒険者‥‥彼らは、今まさに動き始めようとしている動乱の中でどれだけの力を発揮できるのであろうか?


<酒場>
「はいっ、お待ちどうさま。イスパニアワインと葡萄ジュースが2つです。お菓子もおまけしておくわね。」
 テーブルの上に置かれる『三つ』のコップ。
「ありがとうございます。いい香りですわ〜」
「甘くて美味しいでござる〜〜〜」
「‥‥‥‥」
 そしてテーブルから聞こえる二つの喜びと一つの静寂。静寂を放っていた男、ルシファーはイスパニアワイン(シェリー酒)を一口ゴクリと飲み込むと、思い立ったように口を開く。
「どうしてお前たちがついてくるんだ? お守りはごめんだぞ」
「あら、お守りとは失礼ですわね。ルシファーさん。イスパニア料理を満喫するために一緒に酒場に来ただけではないですか」
「そうでござる。みんなで食べた方が美味しいでござるよ〜〜」
 ルシファーと共に酒場に来たのはリンカネーション・フォレストロード(ec0184)と香月七瀬(ec0152)であった。ただでさえ目立つ風貌であるルシファーに加えて、口数の多いシフールとジャパン人が集まれば、嫌が応でも酒場の視線は集まる。
「これではゆっくり酒が‥‥っ」
 一人でイスパニアの酒に舌鼓を打ちながらオーグラの情報を集めるつもりだったルシファーにとってそれは面白いことではない。彼は現状を説明してこの二人を帰らせようとも思ったが、今さらこの(彼にとって見れば)小娘に説明したところで状況がどうなるわけでもないことを察知し、諦めたように椅子へ深く腰をかける。
「そういえばルシファーさん、この後馬を買いに行こうと考えているんですけど、一緒について来てくださいませんか?」
「は?」
 が、そんな僅かな安寧を感じさせる時も長続きはしない。リンカネーションがしれっと言い放った言葉に、ルシファーは身体を起こさずにはいられない。
「待て、どこをどうしたら俺がお前たちと一緒に行く必要がある? 俺はここの出身でもないんだぞ。一緒にいたって‥‥」
「あら、ルシファーさんも一緒に行くものとばかり思っていましたけど〜」
「そうそう、みんなで一緒に行った方が楽しいでござるよ〜〜」
「‥‥」
 また訪れる数分前の構図。天然なのか、それともわざとやっているのか、どちらにしろあちらのペースにはめられていることだけは事実だ。

「そもそもお前たちは海賊退治の情報を集めるつもりなんだろ? 俺はオーグラ退治だ。別行動するのが妥当じゃないか」
「あら、でもどちらにしろ旅に馬は必要でしょう? それにレディーを守るのもナイトの勤めじゃないですか?」
「そういうのはもうちょっと‥‥!!」
 ルシファーを言葉の応酬の泥沼から救い上げたのは、酒場の裏手から聞こえた、断末魔のような叫び声であった。 

<酒場・裏手>
「‥‥どこだここは? 行き止まりのようだが」
「もう恭司さん、だからエル兄様に地図を書いてもらおうって言ったのに」
「ははっ、早河も二人きりになりたいからって迷っちゃだめだぜ」
「もうっ、ガジャさん!」
 海賊の情報を集めるために町を歩いていた早河恭司(ea6858)、鷹杜紗綾(eb0660)、カジャ・ハイダル(ec0131)は、人を求めて細い路地を歩いている内に、行き止まりについてしまっていた。
 三方を壁に囲まれているせいか、まだ日が沈む時間ではないというのにその場所は薄暗く、気味の悪い雰囲気を漂わせる。
 町を知っている人間であればその場所が酒場の裏手であり、数十秒も歩けばギルドが見える場所まで辿り着くことも分かったであろうが、あいにく彼らはまだこの町に到着して数時間とたっていない。
 正しい道も分からなければ、視界の先を塞ぐ壁が何の壁であるのかもわからない。
「わるいわるい。‥‥っ、ところでその剣、どうするつもりだ? 今ならまだ情報を喋るだけで許してやるぜ」
 恭司と紗綾の初々しい関係をからかっていたガジャの声のトーンが変わり、薄暗い闇に紛れていた黒い服を着た男が現れる。
 握られた銀の刃は手入れが行き届いていないのか、血のりの跡がついており、武器を持った男は鈍い牙を隠しもしない獣に見えた。
「情報?! 笑わせるな! 傭兵崩れの海賊なら退治できるって勘違いしている冒険者には、手痛い仕置きをしないとな」

「ただの馬鹿か。消えろ。紗綾にお前のような奴の姿を見せたくない」
 小さく息を吐き、一歩前に歩み出る恭司。鞘から抜き放った日本刀には染みひとつなく、ブラックイーグルの黒革に一条の線を引く。
「力試しにはちょうどいいか。‥‥恭司、さっきの侘びだ。紗綾に格好いいところを見せてやれよ!」
 淡い光が暗闇を「ぼうっ」っと照らし、ガジャの触れた恭司の肌がみるみる内に硬化する。
 援護を受けた恭司は武器の姿に怯えてか前に出ることのできない敵に対してジリジリと距離を詰め−−−貯めた力を解き放つように跳躍する!
「馬鹿め! かかった‥‥にぃ!!」
 刹那、天井から飛び降りナイフを突き立てようとする敵の新手。
 だが、その刃は硬化した肌にはじかれ、彼に傷ひとつ負わすことができない!
「無意味な小細工だったな! これで終わりだ!」
「ちょ‥‥まっ‥‥ぅ」
 銀色の扇を描き、振り抜かれる日本刀。鋭い刃は脚を切り裂き、敵は激痛に耐え切れずにその場に倒れる。
 天井から落ちてきたもう一人の賊は仲間を見捨て、逃走を図ろうとしたが‥‥その先には、笑顔で霞刀を構える紗綾の姿があった。


「さてっ、俺たちは町を守らなきゃいけないんだ。お前たちが次にどの町を襲撃予定なのか? 何人グループなのか、アジトはどこなのか。そんじゃあこのあたりからちゃっちゃと喋ってもらおうか」
 戦意を失った二人の賊から聞き込みを始める三人の冒険者。賊は抵抗する気力も失せたのか、迷うことなく口を開く。
「あぁっ、いつ襲撃するかは俺みたいな下っ端はしらねぇ。だが、みんな今は陸に上がっているからそこを叩けば‥‥‥‥‥」
「どうしたの? 何か‥‥」
 紗綾が声をかけたその時、闇に溶け込むような姿をした、男の姿が浮かび上がった。

<その時酒場の裏手では何が起こっていたのか?>
「だっ、誰だおまえはぁ!?」
「接触してのストーンアーマー。相手の位置を察知した上での突進‥‥逃げるチャンスがありながら実力差も分からず敗れ去るか。‥‥所詮は傭兵崩れか。惨めだな」
 脚に傷を負った海賊は闇の中から現れた男のただならぬ殺気に思わず武器を構える。鷹杜紗綾(eb0660)はそれを制止するが、男は一連の動作に構うことなく冒険者と海賊へ歩み寄る。
「うわあああっぁああ!!」
 圧迫感に耐え切れず、突進するもう一人の海賊。だが彼が一歩前に脚を踏み出した時‥‥彼は燃え上がる炎に包まれた。

『オアアアァアアァアアア‥‥ァ‥‥ゥ‥‥』

 すぐに掻き消える叫び声。男の手は赤々と燃え上がり、海賊の一人を一瞬で発火させたのだ。


「さて、お前たちはどうかな? ‥‥期待しているぞ、冒険者」
 男は尚も燃え盛る手をかざし、灰になった海賊を踏みつけながら、呆気に取られる四名へと歩を進める。
「むしろ私はあなたの出自が楽しみですわ。先ほどの精霊魔法、私ですらできるものではありませんから」
「ふむ。そうなると超越クラスのヒートハンドといったところですかな? 確かに非常に気にかかる。一体どこの誰が、何のために来たのかということを」
「この場で無理に問いただすつもりなどないが‥‥冒険者をなめるなよ!」
 騒ぎを聞きつけたクレア・エルスハイマー(ea2884)、オルト・リン(ec0192)、アイン・アルシュタイト(ec0123)がその場に駆けつけ、形勢は一気に逆転する。
 そもそも狭い町の中である、32名もの熟練冒険者がいる中で単身戦いを挑む、その行動自体に無理があったのだ。
「じきに仲間も来る。今であればまだ然るべき場所に突き出すだけですませることもできるぞ」
「‥‥期待しているぞ。冒険者ぁ!」
 アインの言葉が終わる間際、男の周囲に燃え盛る炎の壁が立ちのぼる! 炎はあっという間に酒場へ燃え移り、業炎においてすべてを飲み込もうとする。

「っ! 正気!?」
「冗談でこんなことができると思うか?」
「違いないわね!」
 簡潔な問答ですべての状況を理解したクレアは消火活動のため、瀬を向けてこの場から立ち去っていく。他の冒険者もそれに続く。

「‥‥お前たちは行かないのか?」
「ここで戻ったら駆けつけ損という奴だろう。火は‥‥まあ他の奴がなんとかしてくれる」
「言ったでしょう。わたくしはあなたに興味がある。少なくとも自ら真実に背を向けるようなことはしたくないのですよ」
「言ったはずだ‥‥冒険者を甘く見るな!」
 あとに残った冒険者は、オルトとアイン、そして駆けつけたルシファーのみ! 酒場はすでにもうもうと燃え盛り、飛び散る火の粉は衣服に黒い穴をあける。
「面白い。それなら見せてやろう。重なり合わさった精霊の力の美しさと言うものをな!」
 言い放つや否や壁に穴が開き、男はその穴から逃走を試みる。
「逃げることがお前の‥‥っ!」
 穴の先にあった炎の壁に怯み、立ち往生するルシファー達冒険者。炎の先にゆらめく敵は、まるでこちらをあざ笑うかのようにその場から動こうとしない。
(「何かある、そう考えた方が自然か? これは‥‥ぃ!!」)
 オルトが敵の行動へ思考を及ばせていた刹那、彼らは皆一様に身体が押しつぶされるような衝撃を受け‥‥視界の光を失った。


<街道>
「‥‥何か町の中心部が騒がしいな」
「喧嘩でもあったのでござるかな?」
 酒場から煙が立ち昇りはじめた時、アルバート・オズボーン(eb2284)とアルバート・レオン(ec0195)はオーグラの情報を集めるべく街道を歩いていた。
 彼らを含めてまだ街には事態に気付いていない者も多く、皆オズボーンが乗るグリフォンをものめずらしそうに見ている。
「さすがというか‥‥なんというかでござるな。外からやって来た人間に嫌悪感はあっても、グリフォンにはないのでござるか」
「さすがに傭兵国家ってことか? こっちとしてはやりやすくていいが」
 騒がしさが気になり、声が聞こえる方向へ進路を変えて進む二人。ようやく見つけたこナバーラの人々との会話の糸口に、二人の表情も僅かに緩む。
「だが、どちらにしろ情報不足だ。ギルドに行ったらエルに会って、もう少し詳しいことを聞かなけれ‥‥?」
 目を擦るオズボーン。彼の視界に映ったものは‥‥空に不自然に浮かぶ、大きな砂の塊であった。


<エル・ヴァロッサ自宅>
「わぁ〜〜〜っ、エルさんの奥さんって若くて綺麗なのね〜」
「ほんま、イスパニアには美人が多いってほんまやな〜。とても一児の母には見えんわ〜〜」
 エル・ヴァロッサの家に訪れていたセクスアリス・ブレアー(ea1281)と飛火野裕馬(eb4891)は、家に入るなり彼らを出迎えてくれた女性に目を丸くする。
 健康的な白い肌と編み上げられた髪は飛火野の言うようにとても一児の母には見えない。
「ん? ああ、勘違いするな。それは俺の娘だぞ。かあちゃんも昔はこれくらい細かったんだが、今じゃあすっかり頼りがいのあるイスパニア美人さ」
『え?』
 照れているのか笑いながら頭を掻き、娘であることを告げるエル。だが、今度はまた別の意味で驚きが舞い込んでくる。
「エルさん、見たところこの子とそんなに年齢が離れていないように見えるんだけど‥‥」
「いやぁ、ハハハ」
「いや、『いやぁハハハ』じゃないがな」
 豪快に笑ってすべてをごまかそうとするエルにつっこむ飛火野。今回冒険に同行しているコスタルクス程ではないが、胸元が無意味に開いた、セクシーな胸板を強調する衣服を着ているあたり、どうやら見た目通りの人間らしい。
「お前たちも傭兵になるのか? デヴァーレに行くなら案内してやる」
 あまりこの話題を長くされたくないのか、二人に話しかけるエルの娘。見れば彼女の背中には、護身用にしては余りにも物騒な大剣が備えられていた。
「ごめんね。その内あるかもしれないけど、今回私たちはオーグラの退治に行くんだ。明日にも出発するつもりだから、何か知っていることがあったら教えて欲しいんだけど。あと、海賊のことも」
「オーグラか。あいつらならここから遠くない場所に住んでいるぞ。今は状況が状況だから、どの傭兵団も巻き込まれるのが嫌で‥‥なんだ、外が騒がしいな」
 説明を中断して木戸を開けるエルの娘。覗き込むセクスアリスと飛火野。彼らの視界には‥‥赤く染まる空があった。


<酒場>
「これは‥‥砂か?」
 一部が燃えた酒場には今も人がごったがえしていた。現場にやってきた叶朔夜(ea6769)は、ルシファー達が助け出された場所、そこに積もった砂をつまんで違和感を覚える。
 助け出された(あるいは自分で脱出した)冒険者の傷は主に打撲と火傷である。火傷は火事によるものだと思ったが‥‥積もってる砂を掘り下げてみても、熱が衰える事はない。
「魔法で創り出したような砂ですね〜〜。‥‥もう仕官に向かってしまった方たちに伝えたかったですね」
 状況を理解していないのか、それとも天真爛漫な性格ゆえか、のんびりとした声で砂を観察するのは氷凪空破(ec0167)である。言葉の最後に「さすがノルマン」と聞こえたような気もするが、そこは軽く流しておこう。
 
 状況を簡潔にまとめるとこうなる。
 冒険者達の視界を奪ったのは『熱砂』であった。突然彼らを多い潰すように出現した砂は熱を帯びており、中に閉じ込められた者たちは火傷を負った。全員一命は取り留めたが、それなりの軽傷は負った形だ。
 酒場は冒険者達の消火活動によって全焼を免れたが、営業再開までにはまだ時間がかかることが予想される。
「ですが‥‥こんな魔法を見たことはありません。エルさんは知っていますか?」
「わりぃが俺は何も知らないな。こんな事件すら見たこともねぇ。‥‥この場は何とか取り繕っておく。奴もこの町の自警団がなんとか捕まえる。お前達は早く行ったほうがいいと思うぜ」
 エルの言葉にうなずくフィディアス・カンダクジノス(ec0135)。事実はどうであれ、『異国の人間が現れてすぐに、町に事件が起こった』のだ。ここでいくら弁解をしたり復興作業を手伝ったとしてもそれは焼け石に水というものだろう。
「行動で示すしかない‥‥ですか。すでに一度受けた依頼です。達成するしかないでしょう」
 溜息を吐くフェイディアス。今から冒険者全員で襲撃者を追跡する手もあるが、それは結果として傭兵団の面目を潰してしまうことになりかねない。相手が何の為にこちらを襲ってきたのかは不明だが、今はこの国のために戦い、少しでも住民の理解を得る必要があるだろう。

「まあ一筋縄じゃいかねぇことはこの国じゃよくあることだ。俺もかあちゃんを落とすときはそうだった。‥‥依頼を達成して暇ができたら、戻ってこいよ。俺は待ってるぜ!」
 手を振るエルを背にそれぞれ依頼へと向かう冒険者達。彼らの多くは依頼に向かいながら一つの予感を誰ともなく考えていた。

『この32人が仲間として顔を合わせるのは、船の中が最初で最後になるかもしれない』

 ということを‥‥


<????>
「どうだった? 異国から来た冒険者達の力は?」
「値するものと思われます。あの力、使うに足るものであると」
「逃げ切れる程度の力だったというのにか?」
「‥‥」
「冗談だ。‥‥だが、ギルドも厄介なことをやってくれる。歴戦の傭兵クラスの冒険者が32名もか」
「パワーバランスは確実に崩れるでしょう。力を得た権力者は其の力を試したくなるもの。国の行方がどうなるか‥‥私にも判りかねます」
「だろうな。だが、この大陸は動き始めた。理想を達成するために、我々も動かなくては‥‥な」
「‥‥‥‥」


<エステーリャ>
「どうぞお通りください。ジュリオ王がお待ちです」
「‥‥」
 下船するや否や、係りの者に出迎えられエステーリャまで歩を進めた5名は、たたずむナバーラ城を視界に思わず息を飲む。その城は彼女達が知っている‥‥例えばキャメロット城のような華やかな城には遠く及ばない。
 そもそも比較すること自体が間違いであるような質素で、それでいて随所が崩れた、山頂にそびえる城であった。
「昔はもう少し‥‥いえ、今でも立派ですが」
 かつてのナバーラ城を知るフォルテュネ・オレアリス(ec0501)も動揺の色を隠せない。ジュリオが一応の王権を確立するまでどれほどの混乱があったかということは、未だ直せぬこの城が物語っていた。
「ここから先は皆様がお進みください。私はここで待っておりますので」
「どうも、ありがとうございます〜〜〜」
 城の内部に案内をしてくれた執事に笑顔で一礼するシリル・シンクレア(ea7263)。事前に情報収集する時間はほとんどなかったが、どんな城であれこれから自分達の城であることには変わりない。
 動揺するなという方が無理だが、これから国王に謁見するのだ。こちらも冒険者の代表として、毅然とした態度で挑まなければならない。

「さて、それじゃあ開きましょうか〜〜〜」
 全員と目を合わせて確認を行い、扉を一気に開けるシェリル。彼女達の頭上から刃が振り落ちてきたのは、それからすぐのことであった。
「っ!! よく気付いたな!」
「貴殿らは気付かれないおつもりだったので? ジャパン忍者の間では、とうに使い古された試験です」
 裂罅烏藍(ec0171)の姿が爆音と共に消え、冒険者達に斬りかかってきた兵士は弾き飛ばされる!
 部屋の向こう側から聞こえてくる物音によって事前に敵の存在を察知した裂罅達の行動は迅速であった。微塵がくれを皮切りにゼナイドが部屋に突入。敵の一人を叩き伏せ、残る三名が魔法と射撃の準備をする。
「これ以上続けるというのであれば、こちらも手加減はできません。仕官を志願しに来たのです。通してください」
 弓の弦をギリリと引き絞り、冷徹な目で問い掛ける大宗院。完全に逆をとられ、窮地に陥ってしまった敵は、黙って両手を挙げるしかなかった。

「そこまで! いや、ギルド職員の言っていたことが眉唾でなくてよかった。ようこそナバーラ王国へ。私の名前はジュリオ・フェリペ・ローグ。お会いできて光栄だよ」
 パチパチと拍手する音が部屋に聞こえ、まだ二十歳を過ぎようかという青年が冒険者達の前に現れる。さも当然のような顔をして入ってくることから推察するに、これはナバーラでは至極当然の試験方法だったのか?
「‥‥手荒い歓迎、感謝いたします」
 事実のほどはわからないが、大宗院は初めて会うナバーラの国王に一礼する。
「御理解いただいて嬉しいよ。この国の名誉のためにだけ言っておくと、この者たちは私の側近ではないからね。‥‥さて、ここで長話をするのもなんだね。奥に部屋がある。そこでいろいろと細かい話をしようじゃないか」
 背を向け、奥の部屋へと進んでいくジュリオ。冒険者はしばらく呆然と彼の姿を見守っていたが、執事に促され、正式な形で国王と謁見するために歩を進めていった。

今回のクロストーク

No.1:(2007-02-08まで)
 <依頼書Fを選んでいるPCのみに関係します>
「やあ、はじめまして。お会いできて光栄だよ」
仕官に向かった冒険者たちの前に現れたのは、少年のような‥‥しかしどこか張り付いた微笑を浮かべるジュリオであった。
 彼は部屋に入ってきた彼女たちを一瞥すると、微笑を崩さないままに口を開く。

「さて、早速で申し訳ないが、まずは君たちに簡単な質問をしたい。人と接する上で、一番大切なものは何だと思うかな?
すぐに答えられないなら答えなくても構わないけどね」

No.2:(2007-02-09まで)
 <対象者:全員>
この旅の目標を聞かせてください。