二つの理想

■クエストシナリオ


担当:みそか

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:31人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年05月01日
 〜2007年05月31日


エリア:イスパニア王国

リプレイ公開日:05月26日01:29

●リプレイ本文

●理想と現実
<エンリケ・邸宅>
「よく来てくれたな諸君。とりあえずはゆっくりしていってくれたまえ」
 両腕を大きく広げ、冒険者たちを迎え入れる賢王エンリケ。
 彼は冒険者の背後に立つ従者という名の監視者に顔を一瞬しかめたが、すぐに来客を迎える笑顔へと表情を変える。
「お久しぶり賢王様。ペドロ四世様から、仕事をいただいたのでね‥‥知恵をお借りしたく、突然おじゃましてみた」
「なに、諸君であれば大歓迎だとも。‥‥さて、従者の諸君。聞いての通りだ。私たちはこれから奥でミテーナ村陥落のための作戦を練る。諸君はここでゆっくりとしていてくれたまえ」
 会釈をし、簡単にいきさつを説明しようとするゼナイド・ドリュケール(ec0165)をエンリケは片手で制すると、穏やかな中に言い知れぬ迫力を持った言葉で、冒険者の背後に立つ『従者』にここで待つように伝達する。

「それはできません。ペドロ四世様直々のご命令であるため」
「‥‥ハハッ! それならば案ずることはない。諸君は知らぬだろうが、重臣会議で私にはこの者たちへ策を与えるようペドロ四世殿より令がくだっているのだ。諸君を信用しておらぬわけではないが、作戦とは指揮官以外の耳に入れてはならぬものでな」
 淡白に、感情のこもっていない声で食い下がろうとする従者を、あくまで微笑みかけながら制するエンリケ。重臣会議という、知る術もない情報を出され、従者は一瞬言葉に詰まる。
「それはありませぬ。私たちは本日、イラムス将軍よりその旨を‥‥」
「諸君が知らぬのも無理はないが、イラムスは重臣会議への参加権は持っておらぬ。我を疑うのであれば、ペドロ四世殿より事実を聞くのであるな」
「‥‥ッ! 御免!!」
 有無を言わさぬエンリケの言葉に、従者達は血相を変えて、上官の指示を仰ぐために王宮へと引き返していった。

「‥‥たいした交渉術ですな。しかし、そのようなことをしてアラゴン王の怒りを買ったらどすうるのだ?」
「なに、奴に私は殺せぬさ。‥‥さて、時間がない。すでに諸君がどんな命令を受けたのかは知っている。質問は説明を省いていただいて構わないよ」
 言葉の裏に複雑な感情を覗かせる裂罅烏藍(ec0171)の言葉を一言で受け流すと、エンリケは屋敷の奥へと歩みながら言葉を発する。たどり着いた部屋には、既に今回の攻撃目標‥‥ミテーナ村付近の地図が用意してあった。
「さすが‥‥ですね‥‥」
「なに、爺になると老婆心ばかりは豊富でね」
 準備の早さに溜息をもらす大宗院透(ea0050)。王宮内で話した情報がこれほど早くつたわっていることにも驚きだが、既に傭兵も集められて戦闘準備も始まろうとしているのだ。エンリケの耳に情報が飛び込んでいない方が不自然なのかもしれない。
「残念ながら私は戦術の専門家では”まだ”ありませんから‥‥」
「ジュリオ陛下とペドロ4世陛下の信頼を得る術、教えていただければ幸いです‥‥」

 地図を視界に、主語を抜いた質問を述べる大宗院とフォルテュネ・オレアリス(ec0501)。彼らの言葉に、エンリケは目を細くし、そして問いかける。
「なるほど。作戦か。‥‥だが、残念だが私自身は戦場に行くことはできない。攻めるに易い経路の説明程度になるが、それで構わないかね?」
「えぇ、それで十分ですよ〜〜」
 少しだけ変わったエンリケの声のトーンに気づくことなく、満面の笑顔でうなずくシェリル・シンクレア(ea7263)。

 数分後、地図には敵の配置予想図と線が引かれていき、冒険者に与えられた300名の兵隊が効率よく敵を包囲する図が描かれていた。

「‥‥流石だな」
「なに、実際これほどうまくいく保障は何もないさ。不確定要素は必ずある。君たちに戦場で要求されることは、いかに早く私の策に見切りをつけるかということだと思うね」
 目を丸くする烏藍に微笑みかけるエンリケ。話しながら彼の指先は尚も動き、小さなほころびから300の軍が決壊するさまを描いていた。
「ぶしつけな質問ですまないんだが、今回賢王から見て不確定要素になりそうなものはあるのかな?」
 勝敗を繰り返すジュリオ軍でもアラゴン軍でもない、『冒険者軍』を傍目に質問するゼナイド。もはやエンリケによる講習会のようになっているが、なに、僅か小一時間の講義と己の僅かなプライドで、戦場での命が保てるのであれば安いものだ。

「ひとつは簡単。君たち冒険者だ。敵にしろ、味方にしろね。‥‥君たちは自分ではきづいていないかもしれないが、私の軍略ごとき一人で覆すことができるほどの実力を持っているのだよ」
「‥‥ということは、もうひとつあるのですか‥‥?」
 大宗院の言葉に、僅かに眉へ皺を寄せるエンリケ。従者がうそに気づいたのか、扉がけたたましく叩かれる中、彼はその音に言葉をかぶせるように、ゆっくりと音を紡ぐ。


「もうひとつの不確定要因も簡単だ。それは‥‥ペドロ四世の本心だよ」



<同時刻・デヴァーレ駐屯所>
「地獄の連隊とかいう恥ずかしい名前の敵だが、一体何者なんだ? こうして我々が距離を置かなければならないほどの相手なのか?」
 ミテーナ村から一定の距離をとり『自分たちは関係ない』という姿勢を貫くデヴァーレの陣地で、モンスターを飼育していた拠点へと赴く傭兵を選別していたアイン・アルシュタイト(ec0123)は、現在のデヴァーレの立ち位置についての素朴な疑問を投げかける。
 思えばイスパニア大陸に到着してから早四ヶ月、ここまで彼の冒険はまさしく『謎』の連続であった。冒険者が行く先に現れる敵、冒険者に襲い掛かってくる敵。それらは未だに一部を除いて正体すらわからず、気持ちの悪い感覚だけを残して現在に至っている。

「デヴァーレは元来慎重な傭兵団だ。‥‥モンスター退治とかいう大義名分があるならともかく、特定の勢力間の争いにかかわってはいられない」
「勢力間ねぇ‥‥私としては、ジュリオ軍につくにしろ、アルベルト軍につくにしろ、早めにしておいたほうが高く取り入れる可能性が高いと思いますけどねぇ」
 はっきりとしない副団長の言葉に、溜息交じりで自分の見解を述べるヲーク・シン(ea5984)。別にどこの勢力がどこと争おうと興味はないが、思い立ったら自分の意思とは関係なく突進している彼にとっても、各人の動きが見て取れない今の状況は純粋に気持ち悪い。
「うるさい。‥‥とにかく、モンスターの拠点調査は認めるが、ミテーナ村の防御は様子見だ。お頭からもその指令が出ている」
 湧き出る感情を抑えているのか、身体を小刻みに動かしながら言葉を吐き捨てる副団長。テントの中での質疑応答はその後もしばらく続いていた。


「いやいや、この状況でその判断は正しいと思いますよ。‥‥ただし、この状況、もうすぐ私が変えてしまいますがね」
 テントの外で冒険者の誰かがつぶやいたが、その声は誰にも届くことはなかった。


<数日後・ミテーナ村>
「デヴァーレはしばらくこの村の近くに留まってはくれるそうだ。協力は仰げそうにないがな」
 デヴァーレの駐屯所から帰ってきたカミロ・ガラ・バサルト(ec0176)は口元を僅かに緩ませながら、村の防御を固める冒険者たちに交渉の結果を報告する。
「お疲れ様です。こちらの準備も進んでいますよ。如月さんが援軍を連れてきてくれましたし」
「‥‥それはありがたいが。名前は変えろよ。悪人が加担していたのでは後々面倒だし‥‥第一陸に鮫はいない」
 自分へ『V』サインをしてくる名無野如月(ea1003)と、数十名のレッドシャークの面々を一瞥する。いつどんな敵がやってくるかわからない状況で兵が増えたことはうれしいが、未だに明確な背後関係がわかっていない状況で、余計な心配事を増やしたくはない。
「やれやれ、あいつらが戦のどさくさに紛れて村を襲うようなことがなければいいのでござるがな。心配事がもうひとつ増えたでござる」
 もとよりアルベルト軍に加勢するつもりなどなかったアルバート・レオン(ec0195)などはよりストレートに感情を表現する。昨日までの敵が味方になるとは、吟遊詩人が紡ぐ物語ではよくあることであるが、現実はそれほど単純にできていない。
 傭兵でうだつがあがらなかったという簡単な理由だけで山賊行為に手を染めたものがこちらに手を貸すからといって、簡単に信用することなどできるはずもない。

「その感情はわかりますが。荒立てた気分は人々を不安にさせ‥‥英雄としての資質を失わせてしまいますよ」
「フィディアスのいうとおりだぞ二人とも。せっかく協力してくれるっていうんだ。ここは指揮官のカルロス二世様ともども、もりたてていくのがいなせってものさ」
 竪琴を片手にレオンへ微笑みかけ、彼の感情を鎮めるフィディアス・カンダクジノス(ec0135)と、二世から無心した金子の残りをジャラジャラと揺らしながらカミロの肩を抱く如月。
 かたや物語のため、かたやこれまで辿ってきた経緯から湧き出した感情ではあったが、ここで取り乱しても仕方はないと、カミロとレオンは軽く息を吐いてその場から立ち去ろうとする。
「‥‥そういえば、二世はどうしたんだ? 姿が見えないが」
「あいつなら毎日毎日フラフラフラフラって、どこかいってるわよ。‥‥いい加減にしてほしいわね!」
 歩みを止めて周囲を見回すカミロとレオン。彼らの質問にデモリス・クローゼ(ec0180)は鼻息も荒く答える
 アルベルトから冒険者たちを統率する役目を受けてミテーナ村までやってきたカルロス二世ではあるが、ひとつの村を守ることになど興味がわかないのか、あちこちをフラフラと放浪することが多くなった。
「‥‥この状況下でずいぶんと余裕があることだな」
「そうよね。今度会ったらガツンと言っておくわ!」
 尚も声と共に感情を荒げるデモリスを視界に、カミロは少し、自分の頭の中を整理する時間を持つことにした。


<同時刻・ミテーナ村、村長宅>
「戦闘の時はここにいてくれれば僕たちが全力でお守りします。万一の場合は、レッドシャークの隠れ家を開放してもらっていますから、そちらに避難してください。‥‥よろしくお願いします」
 村長宅に集まった村人たちに深々と頭を下げるミトナ・リプトゥール(ec0189)。いかにモンスター襲撃の可能性があるとはいえ、勢力間の争いに村を巻き込んでしまうのかもしれないのだ。頭を下げたからといえどうなる問題ではないが、自分の気持ちを隠したまま戦いたくはない。同席していたセクスアリス・ブレアー(ea1281)も気持ちは同じなのか、一緒に頭を下げる。
「なに、心配なさるな。お嬢さんたち。‥‥確かにここが戦場となることは不本意ではあるが、あのモンスターを見て何も思わぬほどわしらの目は節穴ではないよ」
 皺だらけの顔をくしゃくしゃにしてミトナに微笑みかける村長。見れば他の村人たちも、不安に満ちた表情こそしているが、冒険者たちに怒っている様子は見えない。
「アラゴンだ、そしてジュリオもだ! やつらはこの村を滅ぼすつもりなんだ!」
 唐突に叫ぶ村人の一人。その声に周囲のあちこちから歓声があがったが、すぐに村長に制された。
「すまないなお嬢さんがた。なにも証拠のないことで、これほど息巻いてもしかたないのにの‥‥」
「そういえば村長さん。この村に伝わる伝承とかってあるのかしら?」
 僅かに白髪に覆われた頭を申し訳なさそうにポリポリと掻く村長にセクスアリスは疑問をなげかける。二つの軍隊がぶつかりあうことになるかもしれないこの村。そえほど価値のあるマジックアイテムや人材がいるのだろうか?
「お嬢さんたち、それは‥‥」
「あの、大事な話の最中ほんとうに悪いんだけど。‥‥僕、男なんですけど」
 ‥‥ミトナの言葉に、屋敷の会話は一瞬中断された。


<数日後・進軍中の軍隊>
「この村って、何か大事なものがあるんでしょうか〜〜?」
「村自体に価値などないだろうな。強いて言うならその位置とできた場所に問題があるということだ。たまたま対立する両者境界線にあり、片方がバランスを破った‥‥戦がおきるには十分すぎる理由だ」
 いよいよミテーナ村が近づいた頃合に、ふと地図をながめながらのほほんとつぶやくシェリルに自分の考えを述べる裂罅。あるいはこの村に本当に何かマジックアイテムの類があるのかもしれないが、あったとしてもそれは副次的な理由に過ぎない。
「戦わなければならないことはわかる。だが、その中でも己は捨てたくない。‥‥見えたぞ。いいか、私たちの目的はあくまで村の占拠だ。一般人には一切手を出すな」
 山頂から見下ろしたゼナイドの視界に入った村は、その掌で握り締めてしまえるほど小さく見えた。


●ひとつの現実
<アラゴン王国>
「イラムス、分かるかな。お前があの小さな村を攻めるという意味を」
「‥‥了解しました。補充は問題ないようですし、私が陥落させましょう。‥‥ペドロ四世様。この大陸から、最大の害悪を駆逐するのです!」


●日常は流れ
「ふぅ〜〜、リスボンまではこの調子か。まったりとしているな」
 青く澄みきった空をのんびりと見上げ、口笛を吹くカジャ・ハイダル(ec0131)。
「まったりされるのはよろしいですけど、よそ見はだめですわよ。操舵している以上、この船に乗る乗員すべての命運はカジャさんが握っているんですからね」
 彼の足元からひょっこりと飛び上がってきたのはリンカネーション・フォレストロード(ec0184)である。パタパタと羽を動かしながら、カジャの目の前で講釈する彼女の行動は、どうにも言動不一致であるように思えて仕方ない。
「大陸の風、行方の先‥‥次に訪れるカステリィアの町は、どのようなところなのでしょうね」
 クレセントリュートを奏でながら言葉を紡ぐシリル・ロルカ(ec0177)。既に狭いナバーラを超え、カスティリアに入っていた冒険者たちポルトガル商船団は、幾度かの寄航をおこないながら、リスボンへの航路を進んでいた。
 現在カジャが舵輪を握っているが、それ自体はほとんど動かしてはいない。
 船は風の力か波の力かでゆるゆると進んでいるが、特筆するほど早い速度は出していないのだ。故意的に大きく動かさない限り、岩礁に乗り上げてしまうようなことはない。
「ねぇねぇ、おじさま。今度の町には梟とか、鷹とか、ペットになりそうな鳥さんって売ってるかな?」
「そうだね、アウストゥリャスはレコンキスタ発祥の地にして王太子が任じられた町。‥‥もっとも、今ではポルトガルがお世話になっているせいで伝統と歴史色づくってわけにはいかなくなったけど、恐らく売っている可能性が高いんじゃないのかな? なんだったら部下に捜させておくさ」
 広い海の先に見えた町並みを視界に、大きく両手を広げて伸びをする鷹杜紗綾(eb0660)。アウストゥリャス‥‥ポルトガル王国からもそれほど遠くない場所に位置するその町はレコンキスタ発祥の地として知られ、カスティリア王ペドロ一世も数多く訪れる町である。
 
「さて、どうやらなんとかいけそうな気がしてきたねぇ。このまま何事もなくリスボンに到着すると、不謹慎だがそれはそれで張り合いがないというか、つまらないというか」
「ん? なんか起こって欲しいって顔してるな?」
「そうそう、船の上でもいろいろあるのでござるよ〜〜」
 徐々に近付いていく町を見て呟くヴァウルにクリムゾン・コスタクルス(ea3075)と香月七瀬(ec0152)が背後から声をかける。見れば七瀬はどこから仕入れたのか純白のドレスを抱きしめて小躍りしているが、「いろいろ」とは、このドレスに関係あるのだろうか。
「とにかくだ! ‥‥これでようやく新鮮な食べ物を手に入れることができる。屋台も再開できるな」
「ふふふ‥‥魚なら私がとってくるでござるよ〜〜」
 照れからか、大声をあげて話を中断させようとする早河恭司(ea6858)の態度に、口を猫のようにして微笑む七瀬。その後ろでは紗綾が顔を真っ赤にして立っていたが、まあ船上にしろなんにしろ、複数人が集まって
「‥‥なあヴァウル。それにしても内乱の起きてるナバーラに武器を持ってくるなんて、あそこはそんなに金に困ってる国じゃないだろう?」
「いぇ、あの国も今は物騒ですからね。アラゴンにしろ、ナバーラにしろ武器が本格的に値上がりする前にそろえておきたいというのが本音のようでして。いや、戦争が始まったらこちらが足元を見るというわけではないよ。ただね、需給のバランスというものは難しいもので、こちらがナバーラの傭兵にかつて大金を支払ったようにだね‥‥」
「いや、武器は別にあって困るものじゃないだろうが‥‥ナバーラが欲しいのか?」
「-----------------武器を、かい?」
 ふだんとめどなく言葉を発する彼にとっては珍しい数秒に及ぶの静寂の後、発した言葉はそれよりも短い時間で海風の中へと飛び込んでいった。
 見ればその表情は、先ほどまでの取り繕った笑顔からは程遠い、彼内部の感情の同様をあらわすかのように見て取れた。
「むむっ靴が壊れています。まさか、今は遠く離れたあの仲間の冒険者達の身に生命の危機がっ!!?」
 再び訪れた不自然な静寂の中で氷凪空破(ec0167)が占いの結果を呟いたが、それは海風に流されてアウストゥリャスの町に消えていった。


●その生命の危機
「本拠地っつってもねぇ‥‥オズボーン? 覚えてたりしないのかい?」
「覚えてはいるが、場所的にはかなり曖昧だな。だがそれなりに大きな施設だった。範囲さえ絞り込まれていれば、発見は容易だろう」
 モンスターに突き刺さった矢をぶっきらぼうに引き抜きながら問いかけるジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)に対してアルバート・オズボーン(eb2284)の感想は極めて正直なものであった。
 先日調査の最中撃墜されてしまったことを気にしていないわけではなかったが、下手な見栄を張って窮地に陥ってしまうほど愚か者になったつもりはない。
「フン、こんな雑魚ばかりでは張り合いがない。本拠地にはもう少し骨のある奴がいればいいんだがな」
 倒れたモンスターを踏みつけ、息を整えながら喋るルシファー・パニッシュメント(eb0031)。山の中にはまだモンスターが点在しているが、先月のように追いつめられた状況ではなく、途中回復を図りながら進むこともできる現状では、少なくとも生命という意味での危険は感じられない。
「地獄の連帯なぁ〜〜。補給路って陸ばっかり見られてたけど、海って線もあるんやろうなぁ」
「‥‥さあ、どこから、どこの国から補給をおこななっていたのかはわかりませんが、あるいはもうすぐ分かることになるかもしれませんよ。
 木々に覆われた空を見上げて呟く飛火野と、しげしげと地面を見ながら呟く秋朽緋冴(ec0133)。先ほどから辿っている道‥‥間違いない。モンスターはこの先に『集められている』。
「それも悪くないな。分かりもしない真実に翻弄されるのは‥‥もうたくさんだ」
 アインが発した言葉は、まだ迷いも知らぬ強烈な意思を内包していた。


<扉は破られる>
『ガッ!』
 オズボーンのペットであるゲールハルトがその巨大な体躯で、拠点に到着してから何枚目かの扉を突き破る。
 重厚な扉にかけられていた木製の錠は派手な音をたてて壊れる。埃が煙のようにもうもうと部屋の中で舞い上がり、冒険者たちの視界を塞いだ。
「さあっ、今度はどうですのっ!?」
 既に片手で数えることができない数の建造物を探索したが、ゴブリンやオークが点在していただけで、敵の正体につながりそうなものが発見されることはなかった。
 それでもクレア・エルスハイマー(ea2884)は敵の存在を危険視し、いつでも高速詠唱魔法が発動可能なように周囲に視線を配る。
「‥‥それで隠れているつもり?!」
 暗い室内に埃が立ちこめ、まだ視界らしい視界冒険者の誰よりも先に弓に矢を放つジョセフィーヌ。
 直後、壁に当たるような音が部屋の中に通った。

「どうしたんだジョー? 敵はどこにもいないぞ」
「違う、しっかりと見るんだ! あの白い球体だ」
 存在しなかった敵にルシファーは構えていた武器を降ろしたが、ジョセフィーヌは尚も弓に矢をつがえ‥‥耳に飛び込んできた、僅かな違和感から身をよじる。
「どうしたんや、いった‥‥っ!」
 挙動のおかしいジョセフィーヌにてを差し伸べた飛火野は、まさにその手に熱い、『熱い』感覚を覚える。いぶかしがって彼が自らの腕を見れば‥‥一本の矢が、深々と刺さっていた。

「ジーザスの教えは唯一無二のもの。理想の世界を作り上げる我らに協力せぬとは‥‥貴様、デビルに洗脳されておるな!!」
「いきなり何を言っているんだお前は? 皆、気をつけろ、この部屋にはトラップが仕掛けられているぞ!」
 腕をおさえてうずくまる飛火野の前に立ち、声がした方向を睨みつけて武器を構えるアイン。罠にかからぬようにその場から動かず、黄金色に輝くアヴァロンの盾を構えて防御を固める。
「罠? ‥‥ハハ、その通り。よくわかったなぁ。すべてはペドロ四世様の志のもと、統一は円滑にすすめられなければならん。貴様らは己の力におぼれ、見てはならないものを見てしまった。‥‥消えうせロォ!」
『!!!』
 冒険者にっとっては何重にも重なる衝撃。声と共に白い球体‥‥ホーリーフィールドの中から姿を現したその男は、口元を醜く歪ませ、冒険者に向けて叫ぶ。
 そしてその声が建物全体に響き渡った刹那‥‥壁という壁が、すべて崩れ落ち、その先からまるで蠢く虫のように、モンスターの群が現われた。

「ペドロ四世‥‥アラゴン王国か?!」
「短絡的な思考は禁物です。これまで執拗に正体を隠していた者が、黒幕をばらすなんて不自然です!」
 次々に襲い掛かってきた危機に、互いに背を向けて言葉を交わすオズボーンと秋朽。ここで正体を明かしてしまっては、アラゴン王国が最も重視する『大義名分』すら消えうせてしまいかねない。
「し、知っているぞあいつ! アラゴン王国のトマス・デ・トルケマーダだ!」
 だが、そんな秋朽の常識を覆すように放たれる傭兵の言葉。トマス・デ・トルケマーダ‥‥アラゴン王国の異端審査を専任で扱っている彼は、白ジーザス以外のすべてを悪魔信仰と決め付けるその極端な行動ゆえに『暗黒の伝説(レイネンダ・ネーグラ)」の異名を持っている。
「ほぅ‥‥で、そのアラゴンの爺さんが俺たちをどうしようっていうんだ? こんな山奥でのんきに来客を待つほど暇なのか?!」
 囲まれては不利と見たのか、あるいは敵の大将がわざわざ姿を現したことを幸いと見たのか、言葉を発し終わる前に跳躍するルシファー。彼の腕が高々と掲げたデスサイズは、崩れた壁から差し込む夕日を受けて鈍く光る。
「無駄だ‥‥どうして己が正体を明かしたのかすら分からん者にはな」
 だが、ルシファーが跳躍した刹那トマスの身体が白色に輝き、ルシファーは刃を振り落とすこともできず大地に落ちる。
「お前たちはここで全員死ぬ! 冥土の土産に‥‥」
「冥土の土産‥‥さっきから恥ずかしい台詞ばかりだなトマス! まずは自分の語彙を増やしたらどうだ?!」
 トマスの言葉を中断させるように、一気にその距離を詰めるアイン。防具にあしらわれた鷹の羽が風に揺れ、振り上げられた剣は敵の首を一撃で切り落とそうとする!
「恥ずかしいのはてめぇだア! トマス様のセンスがわからぬとはナ!」
 だが、それを予見していたかのように天井が音をたてて崩れ落ち、巨大メイスを構えた男‥‥ヨムドが現われる!
「‥‥丸見えなんだよデカブツ!」
 構えたドラグヴァンデルを、渾身の力を込めて振り抜くアイン! 何かが炸裂するような巨大な金属音が木霊し、二人の戦士は猛烈な衝撃に耐え切れず、大きく弾き飛ばされる。
「さぁ、これで終わりですわ!」
「GUUUU!!」
 そして、その隙を見逃すまいと動く一人と一匹! 高速詠唱で紡がれた炎弾はヨムドの全身を覆い尽くし、オーグラが振り上げた棍棒がアインの顔面目掛けて突き出される!
「ボチボチ、俺も活躍していいころちゃうんかなぁ〜」
 突き出された棍棒をノワールシールドが逸らし、棍棒はアインの頭の代わりに床に大穴をあけさせる。そして降りぬかれた霞刀は‥‥オーグラを大地に這わせた。

「そんな‥‥」
「夢を見るにはまだ早い時間ダ。お嬢さン」
 モンスターを巻き込んで爆発した炎の中から‥‥数体のモンスターの屍を踏み越えて現われたのは、傷一つ負っていないヨムドの姿であった。


●デヴァーレ・本部
「座して待つか、根拠無く動くかだが、傭兵を束ねるアンタは思うところがあっても容易に動けんだろし、俺も考えただけで何も出来んのが実情何か知恵はないか?」
 氷雨絃也(ea4481)の言葉にホセは無精髭をいじりながら少しだけ唸ると、簡潔にこう答えた。
「もうすぐそういった建前も使えなくなる。‥‥この国は、どの国にとっても格好の戦場なんだ」
「どういうことだ?」


●そして日常は終焉を迎える
「ねぇ恭司、この鷹の名前なんにしようかな」
「そうだな‥‥紗綾の好きな名前でいいんじゃないのか?」
「え〜〜、そういうのって卑怯だよ〜」
 アウストゥリャスの町で購入した鷹を片手に、他愛のない会話に興じながら、ポカポカと早河の胸を叩く紗綾。
 それにしても昼間から熱い、いや、昼間だからこそさらにあつい。本当に熱い。‥‥なにがって? 日差しに決まっているではないか!!
 
「こら、つまみ食いはするなよカジャ。待ってたら食べられるんだから、のんびりしていろよ」
「大丈夫! クリムゾンも料理をつくってくれてるからな」
 自分たちに寄せられる幾十もの視線を感じ、二人の世界から脱出する早河。出航まで残り僅かとなり、冒険者達はクリムゾンを中心にして香月が釣った魚に舌鼓を打っていた。
「これは手をかけてないからな。味じゃあさすがに劣るが、スピードじゃ負けないぜ!」
「そうですそうです。これからは回転率の時代ですよ!」
 『ビッ!』を人差し指を早河に向け、よくわからない挑戦状を叩きつけるクリムゾン。それにあわせたのか、氷凪がこれまたよくわからない相の手を入れる。

「失礼、君たちはポルトガル船に乗っていた冒険者かね? 船長のヴァウルさんに会いたいのだが、どこにいるのか知らないかね?」
 リスボンまでの旅路、とりたてて事件という事件は何も起こらない平穏の中に、カステリィア王国の紋章をつけた一人の騎士が登場する。騎士はまるでヴァウルと十年来の親友であるかのように、とてもにこやかな微笑を浮かべてシリルに話しかける。
「‥‥えぇ、ヴァウルさんなら、先ほど商店に‥‥」
「おっと、それには及ばないよシリル君。
 僅かに眉をつり上げながらも、ヴァウルの場所を教えようとしたシリルの言葉を遮ったのは、他でもないヴァウルであった。騎士は微笑を崩さぬまま、至極自然な動作で‥‥刃の柄に手をかける。
「ご同行願いましょうかヴァウルさん。ペドロ1世様がお待ちしております」
「なるほど。これは丁寧なご招待‥‥感謝しよう!!」

 冒険者たちが日常の視線で、のんびりと二人を見る中‥‥騎士は業炎に包まれた。

「ヴァウル・デ・バルス ! 今の行為はペドロ一世様への反逆行為として扱う! この瞬間、ポルトガル王国は‥‥ォァ‥‥」
「うるさいんだよおっさん達。‥‥出航だ! ポルトガルはカステリィア王国の暴政には断じてついていくことはできない!」
 通行人という通行人が一斉に刃を引き抜く中、ヴァウルの放った魔法が男を宙に放り投げる。足場を失った男はバタバタと宙でもがき‥‥船から放たれた水弾によって弾き飛ばされた。
「どういうこと?!」
「のんきに説明している暇があると思うならいつまでもそこでのんびりしているといいさ‥‥だが、一言だけ言っておこう。君たちの影響力はとても大きい。ナバーラとアラゴンに武器を売ったポルトガルの一員なんだよ。もう君たちは」
 ポルトガル兵、冒険者見境なく攻撃してくるカスティリア兵に、ヒスイは状況がつかめないのか単純な質問を投げかけるが、ヴァウルは極めて淡白に、さも当然であり、運命であり、決して逃げることはできない運命であるかのように言葉を発する。
「うふふふ…。ちゃんと『依頼』として報酬はもらえるのかしらーっ」
「もちろん。人心を動かすために何が必要かということは分かっているつもりさ」
 白い頬に浮き出た血管をピクピクと動かすリンカネーションも一瞥しただけで、船に乗り込もうとするヴァウル。その行く手を‥‥二名の冒険者が塞いだ。
「手荒な真似はしたくなかったのですが、仕方ないですね!」
「ヴァウル! てめぇわざとカスティリアに寄ったな!」
 ムーンアローをポルトガル船の帆に放つシリルと、有無を言わさずヴァウルに殴りかかるカジャ。
 鈍い音が鳴り、ヴァウルはその場に膝をつく。
「みんな行くぞ! リベルタとアスタルエゴに分かれて乗る!」
「冒険者‥‥ご同行を願おう」
 カジャはヴァウルを一瞥だけすると、ポルトガル船から切り離していた自分たちの船に乗船しようとするが、その行く先をハーフエルフの騎士によって塞がれる。本能で感じる威圧感に、動いていた足を止め、その場でたたずむカジャ。
「ほう、侍従長マルチィンロペス卿みずからお出ましか。そうなると、ペドロ1世が待っているという話もあながち嘘ではないようだねぇ」
「相変わらず無駄話が好きだなヴァウル提督代理。‥‥己がおこなった行為の意味はわかっているはずだ。このごに及んで、情けない真似はしないでいただこう」
「ちょっと待ってくれ! あたいらはこんな卑怯な奴と‥‥」
 クリムゾンは二人の会話に割って入ろうとしたが、ロペスの鋭い眼光に言葉を詰まらせる。あと一歩でも動けば自分がどうなるのか、本能だけで背中の感覚が冷たくなる。
「言い分は後で聞こう。さぁ‥‥‥‥全員防御姿勢をとれ!!」
 ロペスの声が港に響き渡り、上空から熱い砂の塊が落下する。唐突に頭上からの衝撃を受けた冒険者は‥‥視界を失った。


●物語は一人称へと変わる。(戦いは唐突に)
「ミテーネ村での活躍を‥‥みててね‥‥」
「どうしたんですか〜〜? そろそろぶつかりそうですけど?」
 別れ際にエンリケへ放った言葉をブツブツと繰り返す私の顔を、上からシェリルが覗きこんだ。
 そういえばどういうわけか最近リトルフライでふよふよと浮いていることが多い。
「ぶつかる‥‥?」
 木々の間隔がだんだんとあいてきたことを感じる。切り株も多くなってきた。
 間違いない。この近くに村があるのだろう。
「いいか、狙うのはあくまでアルベルト軍のみだ! それ以外に手を出した者は厳罰に処す!」
「ゼナイド殿、少し声を控えてくれ。そろそろ出るぞ」
 ゼナイドさんの声は自分の中の葛藤を打ち消すもの、裂罅さんの言葉は職務を確実に執行するためのもの‥‥それならば、今の私の表情、そして最後にエンリケが見せたあの表情はなんなのだろうか?
 この晴れない気持ちは戦いに挑む前の不安か、それとも、エンリケは自分が見えないものを見ているのだろうか‥‥
「冒険者の旦那! 怪しい男を捕らえましたぜ!」
 思考を中断する傭兵の声。見るとそこにいたのは‥‥ミテーナ村を守っているはずのオルト・リン(ec0192)さんだった。

「ご心配なく。私はあなたがたの味方です。ミテーナ村へ楽に入りたくはないですか? なんでしたら私が手引きすることもやぶさかではありません。‥‥条件次第では、ね」
 敵陣に単身乗り込んで尚微笑むその口元は‥‥どうにも、ペドロ四世のそれとかぶった。

「‥‥‥‥」
「背後、そこの草むらに誰かいます!」
 フォルテュネさんの声にあわせるように、ガサガサと揺れる草むら。僅かに垣間見えた先にいたのは叶朔夜(ea6769)さんだった。

「‥‥戦うんだな」
 特に感情も込めずにポツリと呟いた声。空は気持ちをあらわしているのか、どんよりと曇っていた。
 

今回のクロストーク

No.1:(2007-05-09まで)
 対象:リスボンに向かっているPC
カスティリアへ寄港し、出航しようとしたあなたちにカスティリアが制止をかけました。ヴァウルは無理に発進しようとしていますがどうしますか?

No.2:(2007-05-10まで)
 対象:モンスターの拠点に進んだPC
拠点には未だ数多くのモンスターがおり、何か実験しているような跡すらある。最も注意する点を述べよ

No.3:(2007-05-11まで)
 【ミテーナ村にいる・向かっているメンバー向け】今回の戦いにおいてプレイングに書き忘れた(かけない)行動があれば書いてください。

No.4:(2007-05-11まで)
 【返答求・リスボンPC用】ヴァウルは言葉を紡ぐ「君たちの影響力はとても大きい。ナバーラとアラゴンに武器を売ったポルトガルの一員なんだよ。もう君たちは」