二つの理想
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■クエストシナリオ
担当:みそか
対応レベル:‐
難易度:‐
成功報酬:-
参加人数:31人
サポート参加人数:-人
冒険期間:2007年06月01日 〜2007年06月31日
エリア:イスパニア王国
リプレイ公開日:07月03日13:40
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●リプレイ本文
●すべては繋がっている事実
情熱の大陸に夏が訪れようとしている。
吹き抜ける風は涼の象徴となり、風にたなびく旗は宮廷絵師の手によって勝利の象徴として勇壮に描かれる。
植物は繁茂し、緑が広がる季節。そんな中、ルシファー・パニッシュメント(eb0031)は風にたなびく自らの金色の髪をぼんやりと見詰めながら、これからのことを考えていた。
「しかしあれやなぁ。デヴァーレって実はすごい影響力あったんやなぁ。一傭兵団で2000って結構な数やでぇ」
帽子の羽を人差し指で軽く触りながら、ルシファーの横に座る飛火野裕馬(eb4891)。
山地帯が国土の大半を占めるナバーラでは周囲を一望できる小高い丘はそれほど珍しくない。そういった場所で吹く風に身を任せるのにも、だいぶ慣れてきた。
「どうしたんや、そんな怖い顔して? みんな心配するでぇ」
「‥‥知ったことか。暴れまわる時が近づけばこうなる。特にあのトマスとかいう奴だ。ムカツかせるにもほどがある」
ぶっきらぼうに飛火野に言葉を返すルシファー。戦いが近づけば彼でなかろうとも、戦いの場に身を置くものであれば一様に感じる高揚感。
聞こえずともひたひたと近づいてくる敵の足音は、彼のこぶしに意識させずとも力を加えさせる。
「程ほどに頼むでぇ。‥‥難しいもんやな。大勝が許されない戦いっていうのも」
口から吐き出した息を風に溶け込ませる飛火野。
情熱の季節‥‥できれば平穏に彼女を傍らにすごしたかった。
「はかない夢やったかなぁ。‥‥どうも、この仕事が終わっても楽になる気がせんわ」
<デヴァーレ本陣>
「ジョセフィーヌ様より伝言! 敵、第1障害物地点に到達いたしました。敵軍総大将はジュリオ・フェリペ・ローグ! 冒険者の姿もあるということです!」
「わかりました。‥‥苦しい戦いになると思いますが、作戦通りによろしくお願いします」
デヴァーレの本陣に座した秋朽緋冴(ec0133)は、戦図を見て静かに頷く。ジュリオ軍との、総勢5000名にも及ぶ戦いは彼女を含むほとんどの冒険者にとっては、はじめての経験となる。
相手の士気の低さを頼りに作戦を組んでみたが、さまざまな不確定要素が複雑に絡んでいる以上、一概に安堵することはできない。
「ジュリオ自ら兵を率いてきたか‥‥敵には嫌がらせ程度で帰り願いたかったのだがな」
「敵も士気の低さを無視するようなバカではないということね。‥‥奇襲地点に移動するわ」
戦図を前に言葉を交わすアルバート・オズボーン(eb2284)とクレア・エルスハイマー(ea2884)。もとより総兵力では話にならないほど相手が上。その上援軍まで加わったとなると、いよいよ正面からぶつかっていては勝機はない。
「ホセ、防衛が成った場合はどうする? このままでは状況の打破は難しいぞ」
「‥‥そういう話は防衛できた後にしようか。大将がこんなんで悪いが、どうも未来の話をするのは苦手なんでね」
氷雨絃也(ea4481)からの問いかけに答えることなく、武器を構えて歩み出すホセ。陣幕の先には、武器を持ったナバーラの傭兵が、5000名に及ぶ数をもって並んでいた。
迫りくる軍勢。それはジュリオの軍であるが、同時にこのナバーラの軍隊でもある。
すべてこれが何者かの意思によるところであったのならば、これから起こる戦いは、一体何のための戦いなのであろうか?
●撤退戦
「敵の姿はまだ?」
「‥‥まだだな。このまま逃がしてくれるとありがたいが」
村人を引き連れ、広い道のルートを通ってザラウズまでの後退を行っているセクスアリス・ブレアー(ea1281)は叶朔夜(ea6769)からの報告を受けてひとまず胸をなでおろす。
あらかじめ予想していたことではあるが、行軍速度とはもっとも遅い者に合わせなければならない。まだ敵の姿が見えないとはいえ、こちらの行軍は遅々として進まず、時折休憩すらとらなければならない。
「そこまで心配する必要もないと思いますけどねぇ。‥‥それに、少なくともこちらの動揺は避難民を不安にさせるだけだと思いますよ」
ガタガタと震えるカルロス二世を右手で叩き、澄ました笑顔で微笑むヲーク・シン(ea5984)。彼の片側のほほには先ほど傭兵出身の村人の少女につけられた平手の跡が痛々しく残っているが、もはやそれは彼を知るものにおっては顔の一部にしか見えないのでいまさら突っ込む対象にはならない。
「デモリスさん達のことも心配だわ‥‥」
「セクスアリスさん。敵の目的はあくまで我らです。どちらかといえば危険はこちらに降りかかってくる可能性が高いでしょう。アルベルト様、脱落者を出さないために選んだこの道です。なんとしても一人の死者も出すことなく、守り通しましょう」
落ち着かない様子のセクスアリスを横目に、アルベルトへとうやうやしく礼をするフィディアス・カンダクジノス(ec0135)。既に馬を村人へと渡し、馬上の人ではない『反乱軍大将』は、なんら躊躇することなく力強くうなずく。
(「なるほど。ヴァーレーン殿が苦労されるわけもわかる」)
心の中で思い描くフィディアス。山岳ルートと平野ルート、生き残る人数だけを考えれば、おそらく山岳ルートを選択したほうが無難であったと言えるだろう。
だが、アルベルト軍の持っている大儀が、志はそれを許しはしなかった。『全員を生存させる』という意識は、全滅や壊滅の危険をはらんでいるこの平野部行軍をあっさりと選択させてしまう。
(「まあ、それでなくては私もここにいる意味がないというものなのですが」)
心の中で呟くフィディアス。彼が視線を上げた時、アルベルトは村人の様子を見に行ったのか、彼の視界の中から既に消えていた。
「理想の高すぎる大将というのも困り者だな‥‥」
溜息交じりの声が、耳に届いた。
●すべてをつかむということ
「急げ! 奴らは手負い者ばかりだ。今からでも追いつけないことはない!」
騎馬に乗った約100名の部下を引き連れ、細い道を疾走するオルト・リン(ec0192)。これから戦うのは非戦闘員を含めた部隊。数においても勝っている以上、戦略さえ間違えなければこちらの勝利と彼の目的達成は揺るがない‥‥はずであった。
だが、彼の計画は裂罅烏藍(ec0171)によって脆くも崩れた。
烏藍が選択した手段はオルトの『軟禁』であった。危うくエステーリャまで連行されるところであった彼は、山賊殲滅作戦を重視するイラムスによって助け出された。
しかし初動の遅れは計画の大半を崩れさせた。既に無人となった村を襲うわけにもいかず、彼は歩兵を半ば後詰と割り切った形での、騎馬兵のみの行動を余儀なくされる。
しかも森の中にはおあつらえむきにミトナ・リプトゥール(ec0189)が仕掛けたフォレストラビリンスの呪文が‥‥彼は既に部下に檄を飛ばしながらも、作戦の成功に疑問を抱かずにはいられない。
「口裏だけ合わせてプロセス2に移行すべきでしょうか。いや、それでは失敗する可能性が高い」
蹄の音に自らの声を混じらせる。どうせ聞こえはしないし、ここにいる者に聞かれたところでどうということはない。
「伝令に向かわせた駿馬は戻ってこない。そうすると‥‥」
「そこまでだ。止まってもらおうかオルト。‥‥否、決して通すわけにはいかないな」
「やはりこういうことになりますか。参りましたね、私たちアラゴン軍の仕事は無抵抗の村人を殺したいだけで、あなたたちのような猛者を相手にすることは含まれていないのですがね」
道の中央を塞ぐようにたった40名ほどの傭兵の中央に立つアルバート・レオン(ec0195)。
チラリと見ただけで気を奪ってしまいそうな殺気を持ったその眼光は、互いの戦力差にもかかわらず、オルトの額に汗を浮かばせるには十分なものであった。
「そういうわけです。‥‥全員迂回します! 勝っても意味のない歩兵相手にわざわざ正面から戦う義理なんてどこにもありません」
口元を緩ませ、全員に迂回を指示するオルト。命を捨てることを恐れない兵を相手にすることほど性質の悪いものはない。これからのことを考えれば、彼の動機は極めて合理的と言える。
「そりゃぁないんじゃないのかオルトの旦那ァ? こちとらウズウズして待ってたんだ。いまさらお預けってのは勘弁してもらいたいとこだねぇ!」
だが、そんなオルトの行動を見透かしていたかのように木々の陰から姿を現すは名無野如月(ea1003)! 数名の部下を引き連れた彼女は、迂回路を塞ぐように立ちふさがる。
「成る程。どうやらこの道を進むのも一筋縄というわけにはいかなそうですね」
(『何を迷っている。この程度の困難は予想できたはずだ!』)
汗を拭い取ることもなく、腹を据え、拳を突き上げるオルト。この程度の防衛を突破できないようであれば、目的など最初から夢と同じ!
「突撃です。迂回路を一気に突破します!」
僅かに浮かんだ焦りのためか、彼の腹の奥から大音量で発せられた。
●煌びやかに舞え
ポルトガル軍を集めた演説は滞りなく行われた。
カスティリア軍の長年の蛮行に対する非難が国王の口から発せられ、デ・ララ家を中心としたアラゴン・ナバーラ・ポルトガルの連携体制が発表される。
兵士たちは国王からの鼓舞に皆拳を突き立て、戦いに挑むことを決意したのであった
。
「とまあ、護衛をしてもらった君たちには悪かったけど。千人規模の兵士がいる演説会場でクーデターを起こすなんて、なかなかできることじゃないよねぇ」
「‥‥ずいぶんはっきりと言うでござるな」
給士の姿に扮した香月七瀬(ec0152)は、ヴァウルに紅茶を手渡しながら、苦笑いをする。要するにこれからが本番であるということが言いたかったのであろうが、一連の出来事ですべてを割り切っているのか、言い方が極めて直接的である。
「しかし大丈夫なのか? ここでロペスクラスの襲撃があれば、アンリエッタはおろか自分の身すら守る自信はないぞ」
白を基調とした、イスパニア騎士の正装を身に纏った早河恭司(ea6858)は同じく七瀬から紅茶を受け取ると、使い慣れないレイピアを指にかけ、率直に自分の気持ちを述べる。
その光景をなぜか七瀬はほうけた視線で眺めていたが、そこについては敢えて深く追求すまい。
「ロペス級の人間なんてこの大陸に片手の指の数ほどもいはしないさ。そんな凄腕をわざわざ使い捨てると思うかい? 全うな神経を持っているならできない行為だと思うが‥‥失礼、紅茶はもういいんだけどね」
七瀬の持つトレーに置かれようとしたカップにリンカネーション・フォレストロード(ec0184)がパタパタと飛びながら紅茶を注ぐ。先日の騙された仕返しのつもりなのかもしれないが、これだけで済むのであればある意味かわいいと言えるのかもしれない。
「‥‥これから僕はいろいろと忙しくなるから君たちと話すことはできなくなる。今後はくれぐれもよろしくお願いするよ。騎士様は皇女様を守ることが仕事だからね」
ドレスを身に纏い、他の参加者とダンスを踊っている鷹杜紗綾(eb0660)を一瞥すると、軽く手を振って早河に別れを告げるヴァウル。出口のところで警備員の肩を叩き、鼓舞がてらに会場をあとにしていく。
「誰か不審な人はいましたか?」
「あの提督代理が一番不審といえば不審なんだが‥‥それを除けば今のところ異常はないなぁ」
ヴァウルが退出したのを視界に、騎士装束に身を包んだシリル・ロルカ(ec0177)へ返答するカジャ・ハイダル(ec0131)。
当然といえば当然であるが、国王をはじめとするポルトガル王国の要人が集まるこのパーティーの警備は厳重に行われており、外を見れば物騒な武器を持った衛兵が何人もうろついている。
「念には念を押して‥‥というポジティヴな視点で見られればいいんですけどね‥‥いえ、私は‥‥ちょっといってまいります」
本日何度目か分からないダンスの誘いに頬をポリポリと掻きながら、カジャのもとから離れていくシリル。ふだん吟遊詩人的というべきか、女性的格好をしているから気づかなかったが、成る程、改めて騎士装束の彼を見てみると乙女の心を奪うのも納得がいく。
「騎士様の格好をすればよかったって思ってるか? なんなら私が一緒に踊ってやるぜ」
「‥‥やめとく。警備員が警備以外をするとちょっとまずいだろ?」
会場外の警備から戻ってきたクリムゾン・コスタクルス(ea3075)がカジャの肩に腕をかけながら声をかける。笑いながら首を横に振るカジャ。
シリルにしろ早河にしろ紗綾にしろ、異国人の騎士、淑女が特に抵抗なく注目を集めるあたり、排他的雰囲気のあるイスパニアの中でもリスボンは国際都市らしく、異国文化への憧憬と慣れを持っているように感じられた。
「豊かな国‥‥だな。本当に、戦争などしなければ」
ポツリとつぶやいた恭司の声は、控え室から漏れた小さな悲鳴と共に、会場内に届くことはなかった。
<同時刻・アンリエッタ控え室>
「トウッ、たぁっ! たのしぃ〜〜〜!!」
「ちゃんとドレスに着替えてくださいーー!!」
「‥‥困ったものね‥‥」
半ば下着に近い格好で控え室を走り回り、暴れまわるアンリエッタを、メイド衣装に袖を通した(性別が違うが、二人とも外見上違和感がないことはご愛嬌である)氷凪空破(ec0167)とヒスイ・レイヤード(ea1872)はドレスとブラシを持って追い掛け回す。
子供のすることであるのだから少し力を出せば捕まえられそうなものだが、仮にも皇女であるからその扱いは難しい。
臨時で彼らの上司となったメイド長の『アンリエッタ様に納得してもらってからパーティーに出席させるように!』という言いつけを遵守するならば、パーティーへの出席はとてもかないそうになかった。
「案外本当はパーティーに出席させたくないだけなのかもしれませんね。これだけ暴れるんじゃ‥‥ほら、恋占いとか相性占いとかしますよ〜」
占術用品一式一色を手にアンリエッタの気を引こうとするが、氷凪にかえってきたのは小さな足による痛烈なローキックであった。急所をうたれた氷凪はその場にしゃがみこみ‥‥背後から寄せられた視線に気付いた。
「アンリエッタ様はまだなのですか? もたもたしていたらパーティーが終わってしまいますよ!」
見れば彼らと同じくメイド服姿の女性が、目を吊り上げて立っていた。パーティー会場から直接来たのか、その手にはトレーが持たれている。
「そこから動かないで!!」
「?!」
部屋に入ってきたメイドが声を発する間もなく、粉々に砕け散るトレー!
「何をする‥‥」
「黙ってください!」
ついで放たれたムーンアローは釣り目のメイドの首筋を掠め、メイドの背後からトレーを奪い取ろうと腕を突き出していた使用人に直撃する!
「ッ、さすがに警護に単なるメイド風情は置かぬといったところか?!」
ゴロゴロと転がり、キャンドルスティックに手をかける男。その動作は冒険者たちの目から見ても俊敏であり、無駄な動作行程など微塵も感じられない。
「‥‥知らなかった? 最近は戦うメイドが常識の時代なのよ。‥‥しつこい男は嫌われるわよ!」
「そうです、ある時は侍女、ある時は売れっ子占い師…しかし、その正体はっ天才少年陰陽魔術師く〜ちゃん参上っ!」
振り落とされたキャンドルスティックはヒスイが張ったホーリーフィールドによって弾かれる。氷凪がなにやらわけのわからないポーズをとりながらも素早くアンリエッタを確保すれば、男は舌打ちを放ち、スティックを構えなおす。
「悪いがカスティリア王国のため、貴様らには死んで‥‥」
「あんた、ずいぶんと向こう見ずだな」
男が何かを呟こうとした刹那、クリムゾンが放った矢が男の背中に深々と突き刺さり、キャンドルスティックはガタリと地面に落ちた。
会場ににわかにざわめきがはびこったが、襲撃者の連行と共に、いつもどおりの平穏を取り戻していったのであった。
「カスティリア王国‥‥」
連行されていった男は、うわごとのようにひとつの国の名前を唱えていた。
●ジュリオ軍・陣地
「ジュリオ王の手紙配送の依頼、そしてペドロ4世の依頼は事実上の撤退命令により完了したわけです‥‥」
「ここにいる者たちは皆アルベルト軍と正面から勇敢に戦った者たちです。どうか彼らを正規兵にお取立て願います」
デヴァーレへと向かうジュリオ軍本陣‥‥、ジュリオ・フェリペ・ローグの前に約半年ぶりに姿を見せた大宗院透(ea0050)とゼナイド・ドリュケール(ec0165)は、アラゴン軍に見捨てられた部下たちを引き連れ、新gun中のジュリオのもとへと訪れていた。
「お願いします。皆さんは本当にジュリオ王をおもってここまでついてきてくれたのです」
シェリル・シンクレア(ea7263)の声にも力が入る。イラムスに付き、カラトバ騎士団と戦うことを選択した者、オルトと共に『山賊』退治を志願した者、そして現状に絶望し、道半ばで歩むことをやめた者。
それらを乗り越えて最後まで彼女についてきたのは僅か100名足らず。険しいナバーラの山道をついてきた彼らの『忠義』。
指揮をする者は可能な限りそれに応えなければならない。
「まずは遠路はるばるご苦労。遠くアラゴン王国より我が軍に志願したその勇気、志、私は高く評価しよう。まずは従軍を許可する。さらに、これから私は軍を率いてとある傭兵団と戦うことになる。その場で活躍をおさめれば、正規兵登用をおこなおう」
雨下の戦闘で泥にまみれた兵士を視界に、ジュリオは口元を緩め、従軍を許可する。
あるいは脱落により人数が減ったことが幸いしたのか、元アラゴン軍とナバーラ軍の統合は速やかにおこなわれ、軍隊は進軍を再開する。
「ジュリオ王。先ほどの話‥‥考えていただけたでしょうか‥? 私としては、今、ミテーナをアラゴンに取られるとナバーラが手薄な今、イラスムさんは好機とみて攻めてくる可能性があると思います‥。カスティリアにもミテーナに攻める口実を作るのも問題ですので、アラゴンよりも先にミテーナを攻めて盗賊を退治するのはどうかと考えましたがどうでしょうか‥‥」
合流した負傷者にあわせてか、ゆっくりとした行軍の途、大宗院は数日前にもジュリオに話した内容の質問を投げかける。
数日前は軽い言葉ではぐらかされたらが、これから作戦を求めにエンリケに会いにいかなければならない。
フライングブルームがあるとはいえ、このまま返答を待って、いつまでものんびりとしているわけにはいかない。
「心配ない。ミテーナには既に援軍を向かわせている。‥‥それとこれは確認だが、カラトバ騎士団‥‥確かにそう言ったんだね?」
大宗院からの質問に簡潔に返答した後、確認するように言葉を紡ぐジュリオ。行軍のせいか僅かにはえた無精髭を人差し指で撫でる。
「ディエゴ・デ・ハディリアと確かに聞いた。それほど強いのか?」
ジュリオの表情を見て、問いかける裂罅。ミテーナ村に陣を構えるイラムスが優勢であるかと思ったが‥‥
「強いなんてものではないさ。できることなら名前も聞きたくないほどだね。とっておきをいきなり使ってくるあたり、」
声に抑揚をつけることなく、淡白に言葉を紡ぐジュリオ。押し殺したような感情が、既に戦いが始まっているであろうミテーナ村でのアラゴン軍の苦戦を端的に予言していた。
「それではイラムス将軍は‥‥」
「無駄話はここまでにしておこう。そろそろ敵が仕掛けてくるポイントだ!」
障害物にひっかかっ化をたのか、止まる進軍。
風を割くような矢の音が、冒険者達の耳に響いたのは、それからまもなくのことであった。
<同刻。アラゴン・ナバーラ国境線上>
「‥‥‥‥」
ミテーナ村からバルセロナまでの道のりを急ぐフォルテュネ・オレアリス(ec0501)。
アラゴン王国・ナバーラ王国‥‥国家の首領が人を人とも見ない、そんな状況に彼女は強い憤りを感じていた。
追従、反抗、転化、そして絶望を味わった傭兵たちも、自分の部下であった存在である。一人一人の手を握り締め、聞いた気持ち‥‥それを合わせれば、危険を冒してでも行動する他、彼女に選択肢は残されていなかった。
『エンリケに会い、独立の決起を促す』
簡単ではないこと程度彼女にも分かっていたが、動かずにはいられない。少なくともこの蛮行を、広く伝えられる人間に話さなければ‥‥
「仲間とはぐれて一人、どこに赴かれるつもりですかな?」
彼女の視界の先に‥‥先日までの従者が刃を持って待ち構えていた。
「ここはアラゴン王国。地の利があるこちらから逃げ切れるなどと思わないことです。大人しくご投降ください」
「‥‥必要ならば、困難は乗り越えましょう」
六名の従者に囲まれるという絶望的な状況下‥‥フォルテュネは自らの道を切り開くために、呪文の詠唱を静かに開始する。
「イスパニア出身のあなたをあやめなければならないことは残念です。せめて‥‥楽に殺して差し上げましょう!」
「‥‥!」
フォルテュネが形成した霧を割いて、彼女の頬を掠めるナイフ。タラリと落ちた鮮血が熱い。
足音は霧中の自分の場所を特定するかのように、確実にこちらへ近付きつつある。素人のものではないその行動。 ‥‥だが、どういうわけか彼女の心には、絶望の一文字目すらも浮かんではこない。
「私にこの国を救う機会をお与えください‥‥」
静かに神に祈りを捧げるフォルテュネ。博愛と慈愛に満ちた存在、けして裏切ることなく、平等な優しさと厳しさをもって接してくれる存在。
「この後も、信じられるように!」
閉じていたフォルテュネの瞳が見開かれ、掌から氷の棺が出現する。
突き出されたナイフは眉間に刺さる直前で止まり、棺はその場に横たわる。
「ッ! ブレスセンサーか!?」
「私は望む、全ての民に恩寵ある国を!」
敬虔なる祈りと共に再度放たれる氷! 舌打ちを放った従者はその場で氷に覆われ、身動きがとれなくなる。
「幻想は捨てろ! 大方エンリケのところに行くのだろう?! ヤツも所詮アラゴン王の犬よ! 貴様の願いなど届くことはない!」
突き出されたレイピアは腕に突き刺さる。
耐え難い激痛を、大地を蹴りつけて抑えるフォルテュネ。再度放たれた棺は、襲撃者をまたしても棺の中へと収める。
「これで‥‥」
「高速詠唱ばかりで疲れたろう?! もう魔法も唱えられまい!」
詠唱の連続に息切れを起こしたフォルテュネは、霧を利用して脱出を試みるが、従者は驚くほどの俊敏さで、あっという間に彼女の前面に回りこむ。手に握られているのはシャムシール。
確実に彼女の胸を狙って突き出されたその刃は‥‥大きく軌道を変え、大地に落ちた。
「”迷い”は、”まぁ、よい”方向には転びませんよ‥‥。従者が主人を襲うとは困ったものです‥‥」
イスパニアの平原に、小さな声がボソリと紡がれた。
<デヴァーレ本陣>
風を受けていた。 いつかと同じ風を。
いつからだろうか、風の匂いなんて抽象的なものをかげるようになったのは。
自分は詩人ではないから植物の息吹なんてものは感じられなかった。
ただ感じられるものは人の‥‥生臭い、『生』というものの感情!
「さぁっ、十分二十分の付き合いじゃないんだ! これから楽しくいこうじゃないの!」
声と共に山道に響き渡るはたった一本の矢が空気を策風斬り音! 一人の傭兵の武器が打ち払われ、静かだったジュリオ軍の行軍はあっという間に動揺、そして攻撃へと変貌を遂げる。
「動揺するな! 陣形を保持! 敵から明確な動きがあるまで控えろ!」
彼女の鋭敏な耳に裂罅の声が入ってくる。動揺が完全におさまらないのは士気の問題か? それとも外様である冒険者の声は聞かないのか?!
「どっちでもかまわないかぁ! そういうことで戦ってるんじゃないだろ?!」
自らの姿を求め、命を奪おうと駆ける敵の足音が耳に飛び込んでくる。
決して深追いはせず、状況を見計らいながら距離をとる。相手にも冒険者がいるはず。魔法の存在を考えれば、こちらの居場所が明るみに出ることはいわば時間の問題。
「右側‥‥いえ、左右正面に敵は散らばっています! 数は約150!!」
「にぃ!?」
山道に響くシェリルの声。ブレスセンサーは現在のジュリオ軍が置かれている状況‥‥敵の奇襲作戦の全貌を一瞬にして明らかにさせる。
「その通り! だが、場所がわかっていることと当てられることは別問題なんだよ!」
ジョセフィーヌの矢が唸りをあげ、シェリルの肩を掠める。白い肌からうっすらと鮮血が滴り落ち、大地に赤い斑点をつける。
「一斉射撃! 敵の出鼻を挫け!」
そしてその一撃が合図であったかのようにアイン・アルシュタイト(ec0123)の声が戦場に響き。木々の間から次々と矢が降り注ぐ。
場所はわかっても姿が見えぬ敵からの攻撃に、ジュリオ軍は混乱状態に陥ってしまう。
「ッ! 一時てった‥‥ぅ」
「やめろ。ここで敵の攻撃を受けるままに撤退しては二度と再攻撃などできない」
撤退を命じようとした指揮官の腹を殴り、言葉を途切れさせる裂罅。もとよりこの戦いは全員気乗りせぬ戦いであることは明白。一度退くことを覚えては、唯一敵軍に勝っている要素である兵力すら失いかねない。
(「だが、どうする? この乱戦下、皆自分たちの言うことなど話半分も聞きはしないぞ‥‥」)
裂罅が思案する数秒の間、彼の隣でゼナイドが日本刀をスラリと引き抜いた。
「流れを変えてくる。冒険者というイレギュラー要素、私たちで押さえ込むしかあるまい!」
日本刀の切っ先が裂罅の視界の端で躍動し、ゼナイドの肢体が森の中へと跳躍する。木の葉が重なり合う音と共にくぐもった悲鳴が漏れ、一本の刀は‥‥一人のパラが持つ、もう一本の日本刀と激突する。
「退けゼナイド。同じ国の傭兵同士が争ってどうなる?」
「やはりいたか絃也。‥‥悪いが、こちらも背負うものができてしまったからな!」
氷雨絃也(ea4481)とゼナイド・ドリュケール! 達人二人の刀が交錯し、木の葉がつくった影の下に火花が飛ぶ。
「ッ! なかなか‥‥やってくれる」
「悪いが流れを変えないといけないんだ。楽しい戦いに付き合ってやることはできない」
刀を鞘に収め、相手の死角を突こうと体制を落とす氷雨に、ゼナイドは新たに左腕に握られたシャムシールをもってこたえる。
空気が張り詰めるような緊張感は長く続きはしない。もとより敵陣に踏み出すは、単身突撃の勇気あってこそ!
『オオオオォオオ!!』
森中に響き渡った叫び声は己の気合を映し出すものか、それとも眼前に迫った死の恐怖を覆い隠すものか? 三本の刃は激突し‥‥ゼナイドのシャムシールは、氷雨の脇腹の寸前で止められる。
「すまないな。ホセには借りがある。そう簡単に負けるわけにはいかない!」
氷雨とシャムシールとの間に割ってはいるアインの剣! うっすらとオーラを帯びた彼の身体は、体勢を崩したゼナイドを拳の一撃で弾き飛ばした。
「こっちもそれは同じですよ〜!」
「‥‥!?」
アインがゼナイドに追撃を加えようとした刹那、木々を切り裂く風の刃が、彼の右足に‥‥深々と突き刺さった。
今回のクロストーク
No.1:(2007-05-31まで)
【ポルトガルPC用】晩餐会において貸し出し希望の衣装を申請してください。(騎士風・貴族風・使用人風など。細かい指定もOK)
No.2:(2007-05-31まで)
【全PC用】現在の心境をPC口調で喋ってください