二つの理想

■クエストシナリオ


担当:みそか

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:31人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年07月01日
 〜2007年07月31日


エリア:イスパニア王国

リプレイ公開日:08月13日17:53

●リプレイ本文

●ポルトガル王国
「『三日間待ってやる』‥‥だって、偉そうな奴だ、何様だっていうんだよ!」
 腕組みをしながら、数時間前に言われた言葉をそっくりそのまま物まねするクリムゾン・コスタクルス(ea3075)。
「‥‥フフッ、似てるわね。‥‥それにしても、こんなところで会うとは思わなかったわ」
 クスリと微笑み、複合魔法使いの姿を思い起こすヒスイ・レイヤード(ea1872)。約半年前に出会った複合魔法使いとの再会。脅迫と三日間の猶予‥‥
「出会ったときから胡散臭い奴だったが、どうもまだ何かを隠しているっぽいな、こりゃあ。おいリンカ、そっちに行くと危ないぜ」
 情報が入りすぎてこんがらがった頭を整理するためか、木の棒を片手にガリガリと地面に線を引くコスタクルス。彼女の視線の先ではリンカネーション・フォレストロード(ec0184)が悲鳴をあげながら早河恭司(ea6858)のペットであるウサギ(ピーター)に追いかけられていた。
 どうやら「へのへのもへじ」が通用するほど甘い相手ではなかったらしい。
「複合魔法使いと係わり合いにならないほうがいいと思うがな。奴は俺たちナバーラの傭兵から見てもヤバ‥‥ッ、何をする!?」
「他人事のように話すなって。フリィス、本当にそれだけしか知らないのか?」
 フリィスの頭を小突き、質問を投げかけるカジャ・ハイダル(ec0131)。これまで『謎』の一言に集約されていた複合魔法使いの情報を知り得る人間から情報を聞きだせる状態になった以上、彼でなくともその背後関係が気にかかるところである。
「言っただろう。依頼主が事情を話したくないなら話さないことが雇われ者の礼儀だ。俺たちみたいな裏家業を引き受ける場合は特にな。だからあの魔法使いの正体だの、名前だの、アンリエッタを狙う黒幕だのは知らない。‥‥予想はさっき話したとおりだ」
「ヴァウル‥‥か?」
 先ほども聞いた言葉を再度呟く早河。浮かび上がっては消える、本音を常に話しながら何かを隠している彼がこの件にかかわっていることは疑いようはない。だが、皇女を殺すためであればこんな自分に責任が及ぶような冒険者ではなく、もっと別の適当な護衛を選択するはずである。
 ヴァウルがこの件について何らかの事情を知っていることは疑いようもなかったが、首謀者が彼であるとは同時に考えにくかった。
「他に誰か怪しい奴はいないのか?」
「俺もそこまでポルトガルに詳しいわけじゃない。この皇女様が死んだところでどうなるかなんて知らないねぇ」
 フリィスの言葉にビクリと身体を動かすアンリエッタを右手で抱きとめる鷹杜紗綾(eb0660)。紗綾がムーーっと頬を膨らませながらフリィスをにらむと、フリィスはわたわたと手を振る。
「‥‥真面目に答えて。誰か心当たりはいないの?」
「ホアン・デ・ララか、あるいはポルトガル王か‥‥少なくとも小物であることは間違いないってことぐらいだよ」
 時を経ずして投げかけられたヒスイの問いかけに、バツの悪そうな顔をしながら返答するフリィス。
 今回の皇女護送は一般市民にもほとんど知られていないような極秘任務である。それがこうも早く『最も洩れてはいけない』襲撃者の耳に入るとは、内部の人間が関わっているとしか思えない。
「あるいは‥‥最初から密偵のような人が内部に潜入しているという可能性ね」
「その可能性は否定できないでしょう。‥‥聞いたところ、この国の「デ」家の協力体制は相当なもののようです。貴族は表幹には牽制しながらも水面下では繋がっていることが多い。紗綾さんの意見は否定できませんね」
 近辺の村に避難した従者から受け取った、皇女の一日のスケジュール(化粧品の種類から櫛を梳く回数まで)を記した紙を見詰めながら、紗綾の言葉に頷くシリル・ロルカ(ec0177)。
 先にエボラに状況偵察に行った香月七瀬(ec0152)と氷凪空破(ec0167)のことも気にかかるが、従者たちの意思を聞いた以上、皇女の命は何としても護らなければならない。
「戦闘に向かぬ者は付近の村に退避させております。‥‥信じたくはありませんが、今下手に私たちだけリスボンに戻れば、皇女さまの身に危険が及ぶこと‥‥どうやら真のようですので」
 シリルら冒険者達に深々と礼をする護衛組の一人。この状況下になっても未だに躊躇せず護衛をする姿は、彼女たちの職務に対する強烈な義務感を感じ取ることができた。

「‥‥さて、しかしどうするかな。リスボンに戻ってもまさか討ち取られはしないだろうが、相手もおいそれと逃がしてはくれないだろう」
「そんなに強いのか、の魔法使いは?」
「あぁ。俺たちそこまで詳しいわけじゃないが、確実にな。‥‥もっとも、ここにきてからそん奴らにしか会っていないような気もするが」
 早河の呟きに対する従者の質問に、苦笑いを浮かべながら返答するカジャ
 此処についてからのつわものに次々と遭遇する運の悪さというべきか、そのようなつわものと会っても一人の死傷者を出すことなく戦ってこれたことを幸運ととるべきか。
「どうしたんですの?」
「?!」
 少しだけ思案にくれていたカジャはリンカネーションの声によって起きる。息も当たるような顔の近さに彼は一瞬だけドキリとしたが、その息がリンカネーションに抱きかかえられたピーターのものであると知り、表情を崩す。
「どちらにしろ‥‥ポルトガルの重臣が関わっていることは間違いなさそうね。‥‥とりあえず七瀬さんたちがかえってくるまで待ちましょう」

 地面に落ちた砂をつまみながら、砂綾は小さく息を吐く。
 この指先で摘まめるようなただの砂のせいで、自分たちはここに足止めされているのだ。



<上空・ザラウズ近辺>
●伝聞、それはいつの時代も物事を動かす本質であった

 鬱蒼と茂った森の上を白い肢体が躍動する。
 クレア・エルスハイマー(ea2884)のペガサスは、ひとつの部隊と、そして国の命運を左右する手紙を持って、ザラウズへの道を進んでいた。
 時折、彼女たちの姿を見た牧童が驚きその姿を見上げる。普通の都市であれ畏怖の感情も少しは覚えるところかもしれないが、ここ傭兵都市ナバーラではペガサスという存在に対しては尊敬と憧憬の念以外を覚えることはない。
「しかし以前に比べると、ずいぶん人も少なくなってきたなぁ‥‥」
「この状況下ですからね。のんびり牧畜というわけにもいかないのでしょう。傭兵団に招集された人たちもかなりいるでしょうし」
 ペガサスの背とフライングブルーム上、空中で言葉を交わす飛火野裕馬(eb4891) と秋朽緋冴(ec0133)。眼下に広がり、そしてあっという間に通り過ぎてしまう景色。それは彼らが初めて目にした時と比べても大きく変わってきていた。
 それは彼らが引き起こしたものなのか、それとも必然的に、時代の移り変わりとともに訪れたものなのかわからない。
「どちらにしろ、動いてるってことは確かやな〜〜」
 手紙を握り締め、呟く飛火野。そこに書いてあるのはホセの性格を象徴しているかのように短く、乱雑な文面だが、この一通の手紙が持つ効果と今から自分たちが訪れることの意味ははかりしれない。
「っ!!」
「どうしました?!」
 眼前のペガサスが大きくグラリとゆれ、フライングブルームの上から声を発する
「なんでもありません! ここはまだジュリオの国、矢の一本くらい飛んできますわ!」
「なんでもなくないやーーん!」
 凛とした声でペガサスの手綱を強く握り締めるクレア。快適な空の旅とは程遠くなったジグザグ運転に、飛火野
は悲鳴のような声をあげるが、矢の飛んできた方向を冷静に見詰める。

「どうやらここからは降りたほうがいいみたいやな〜〜。今攻撃を仕掛けてきたの、アルベルト軍みたいやで」
 風に飛ばされそうになった羽付帽子を右手に掴み、眼下の人影に帽子を持ったまま大きく手を振る飛火野。

 地面に彼らが降り立った時、射撃はおさまり、彼らは数十名の兵士に囲まれた。
「威嚇射撃の非礼は詫びよう。此方はアルベルト軍副官、ヴァーレーン。‥‥貴君らの目的を聞こう」
「傭兵団デヴァーレの代表、秋朽緋冴、飛火野裕馬、クレア・エルスハイマーです。協力体制構築のための申し出をおこなうためにきました。アルベルト様のもとまでお通しください」
 毅然とした態度で言葉を紡ぐ秋朽に、柄に手をかけたまま、抜き身の刃を鞘に収めるヴァーレーン。いつジュリオ軍との戦いが始まるか分からない状況に警戒感が高まっているのか、さらに質問を浴びせかけようとする。
「心配ないわよヴァーレーン副長。この人たちは信用できる人だわ。みんな久しぶり‥‥なのかな?」
 その言葉を遮るように、デモリス・クローゼ(ec0180)と名無野如月(ea1003)‥‥アルベルト軍の兵士が、冒険者たちの前に現われた。
「ま、なんにしろこんなところで立ち話も何だねぇ。案内するからついてきな。いい酒が手に入ったんだ」
 如月はあげた声と片手だけでアルベルト軍の兵士達の警戒感を解くと、ザラウズへ向けて口笛を吹きながら歩いていった。

<デヴァーレ本陣近く>
●戦いの本曲、それは死地への礼状か
「よかったのかホセ? 政治勢力にはかかわらないのがデヴァーレの方針だったはずですが」
「今だって関わりたくはないが、関わらなければならない時もあるさ。なんだかんだでついてきてくれている団員がいる。あんまり不憫な思いはさせられない‥‥あぁ、こういうことでみんな巻き込まれていくんだろうなぁ」
 氷雨絃也(ea4481)の言葉に、飛び立っていったクレア達の残像を追いながらブツブツと愚痴にもならない言葉を呟くホセ。アルベルト軍との共同歩調を提案したのもそもそも氷雨であるが、彼としても指揮官の先見性というものは確認しておきたい。
「で、いつになったら敵と一戦始められるんだ? あのトマスとかいう奴の情報は何かつかめなかったのか?」
 ぼんやりとした雰囲気に割り込むルシファー・パニッシュメント(eb0031)。湧き上がってくる感情を抑えきれずに武者震をしているのか、腕は小刻みに震えている。

「昂ぶるか。それもいいが、突き進むなよ。行き着く先は極楽浄土か墓標だ」
「‥‥フン、束の間とはいえ、こうい日が続けば昂ぶりもする。臆病な奴よりはマシだろう」
 耳に入り込んだホセの‥‥ひどく冷たい声に、身体を僅かに硬直させ、その場から立ち去るルシファー。氷雨は直情的な行動をとるルシファーに、微笑みながらも軽く息を吐く。
「オズボーン、アルベルトが受け入れた場合、すぐにゲールハルトで飛んでくれ。ルシファーではないが、戦いはすぐにでも始まる。簡単に一人の勇者と傭兵団の独立を許してくれるような国でもないだろう」
「作戦はそちらに任せる。出番が来たらいつでも言ってくれ」
 ガサガサと木々のざわめきが聞こえる。
 風の悪戯か、それとも今後の行動に不安を持っている団員の一人か。自分たちの命の行く末が気になるのだろうか。
「現実ってのは残酷なもんさ‥‥」

「だが、現実は必ず訪れる。否、現実であるからこそ、訪れるもの‥‥なんてねぇ」
 少し離れた場所でジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)は夕日に赤く染まった美しい景色を眺めながら、ゆっくりと呟く。この景色がこれからどう変わっていくか、彼女はよく知っている。
「何のためにここにいるか‥‥結局、考えても袋小路か」


●進軍、されど勝てる保証はなく
「いいか、背後への警戒は決して怠るな! エンリケ殿、ジュリオ殿が援軍に来ているとはいえ、カラトバ騎士団に背後を突かれればひとたまりもない!」
「‥‥大声で言うことですかね。まったく」
 カラトバ騎士団に惨敗を喫し、尚も威厳を「保とうとする」イラムスに、オルトでなくとも愚痴のひとつを呟かざるにはいられない。補給もままならず、ただ後からやってくるであろう数に任せて危険に身を任せた彼を件名だとはとても思えなかった。
「それをわかっていて、尚も絶望しか覚えぬ者は愚かというべきか、あるいは‥‥」
「被害者であると思います〜」
『?!』
 いつぞや聞いた声に、驚き視線を向ける裂罅烏藍(ec0171)、ゼナイド・ドリュケール(ec0165)、オルト。見ればそこには、特徴的な声はそのままに、ふよふよと宙に浮くシェリル・シンクレア(ea7263)の姿があった。
「ジュリオさまから伝令です。ナバーラ軍は敵軍の側面・デヴァーレの追撃を継続する形で展開します。正面のアルベルト軍を抑えにまわってください‥‥とのことです〜」
「‥‥ん、ありがたい。好んで負け戦に身を投じているわけではないからな。恐らくこちらが戦いの核になるだろう。‥‥前回四人がかりで来られたお返しだけはしておかないとな」
 苦笑いをするゼナイド。ザラウズへの道のり、本来であれば意気揚々と敵陣を落とすべく息巻くところなのであろうが、如何せんこの状況は苦しい。
 シェリルが寄せてきた情報はプラスであり、マイナスでもある。デヴァーレがアルベルト軍と組んだということはどうやら真実らしい。
 
「戦力は逆転ということですか」
 その情報を聞き、ゴクリとつばきを呑むオルト。なんのことはない『ようやく運がまわってきた』。
「‥‥さて、どうしたものですかねイラムス様。このまま攻めても戦果が得られるわけがないと思い‥‥!」
 声を発っそうとした彼の顔面に騎馬用の鞭が飛ぶ。したたかな一撃を受け、その場で片膝をつくオルト。

「もう一度言ってみよオルト・リン! よもや山賊退治にすら失敗した先日の失態、忘れたわけではあるまい!」
 語気も荒く、刃に手をかけるイラムス。もはや半狂乱となった指揮官の姿にゼナイドはここまでかと瞳を閉じ、刃に手をかける。
「事実を述べようとしただけですイラムス様。私は『このまま』と言いました。‥‥わざわざ勝てる戦いを逃す手はありません。カラトバ騎士団に敗れた責、そして山賊に敗れた責‥‥ともに帳消しにしようではありませんか」
 そのゼナイドの前に立ち、赤くはれ上がった鞭の跡を気にも留めず、アラゴン兵が今にも刃を己に突き刺そうとしている状況をも気にもとめず、つとめて平静を取り繕った表情でイラムスの返答を待つ。
「‥‥面白い。言ってみよ。殺すのはそれからでも惜しくない」

 イラムスの言葉に、その場にいた全員は動きを止める。


「‥‥なるほど、少しは面白くなってきた」
 そして、オルトの言葉が終わった時、指揮官の表情は大きく‥‥歪んだ。


●力とはすなわち道理を蹂躙するものである
 火はすべてのものを奪っていく。
 燃え盛る炎は、人がつくりあげたものをあっさりと、残酷に奪っていってしまう。

「‥‥自国でなければ関係ないといったところか?」
「必要最低限の住民避難はさせている。むしろ人道的だと褒めて欲しいものだ。この村を占拠し、人質をとりながら戦う戦術もあった」
 燃える村を歪んだ笑みを蓄えたまま眺め、ゼナイドに返答するイラムス。

(「もっとも、それですら敵をおびき寄せるための手段なのですがね」)
 逃げていった村人は確実にエステーリャとザラウズへと向かっていくだろう。
 しかしアラゴン王国と同盟関係にあるジュリオ軍の本拠地であるエステーリャに行ったところでなしのつぶてとなるのは目に見えている。
 そしてこの情報がザラウズに知れたら‥‥
「どうなるか、楽しみじゃありませんか?」
「ああ。あの坊ちゃんの愕然とした顔が目に浮かぶ」

(「わざわざ敵の怒髪天を突く行動をとるか。カスティリアにも攻める理由を与えるだけのような気がするが‥‥」)
 少しでも気を緩めれば今にも大声を出して笑いだしような指揮官に、裂罅烏藍(ec0171)は思考をめぐらせる。
 善悪などは特に思案することなく、この戦いに勝利をおさめるつもりだった。だが、この後先考えぬ蛮行。
 ‥‥どうやら、ジュリオ軍の強化に集中したほうが良さそうだ。


<翌日・ジュリオ軍陣地・作戦会議室>
●たった一度の内面
「その情報、確かか? ‥‥そうなると、間違いなくアルベルト軍は動くな」
 裂罅が頷いたのを確認してから、地図上の駒を動かすジュリオ。
 村を燃やされたことに激昂したアルベルト軍がデヴァーレと中途半端な協調をしながら、不利な地形と罠を承知の上でアラゴン軍と正面から激突する図が描かれる。
「これはアラゴン軍が優勢なんですか〜?」
「いや、今のアラゴン軍の士気‥‥この程度の地形の優劣で戦況は逆転しない。頼みの綱は援軍だが‥‥」
 盤面を見張る裂罅。賢王エンリケの軍隊は優秀であると聞いたが、未だにミテーナ村にはイラムスの軍隊を赤子扱いにしたカラトバ騎士団が駐留している。事前に聞いた数値を加えることはできない。

「約束は果たす。それだけだ。各軍とも、デヴァーレの側面をつくように展開。ぐずぐずするな。‥‥シェリル、お前は態度を明確にしていない傭兵団に声をかけてくるんだ。裂罅、ゼナイド、お前たちはここに残れ」
「はい。わかりました〜〜。‥‥ジュリオ王、くれぐれもご自愛ください」
 腕を組んだまま動かなくなった会議の人員を一瞥し、強引に会議を終了させるジュリオ。ふよふよと飛びながら退室していくシェリルらアルベルト軍の面々。

「ゼナイド。お前の案を採用しよう。突出してきている敵軍の主力をアラゴン軍と協力して短時間で叩く。足並みを乱し、時間を稼ぐのだ。可能であればアルベルトの首をあげろ」
「了解しました。しかしジュリオ王、この状況で時間を稼いで‥‥勝機はどこに見出します?」
 ゼナイドからの質問は率直であったが、的を射たものであった。
 猛烈な勢いで攻めあがる若い軍隊ほど始末に悪いものはない。この状況下で時間を稼いだからといって、勝機を見出せるとは思えない。
「勝つ。‥‥勝たなければ、ここにる理由などはない」
 指を地図に這わせ、ひとつの駒を動かすジュリオ。それは二人の冒険者に驚嘆の声をあげさせたが、当のジュリオは‥‥苦しそうな顔を、最後まで崩すことはなかった。


●戦いの始まり
「全軍進軍! アルベルト軍の前に出るぞ。 陣形を乱すな!」
 氷雨の言葉に合わせて動き始めるデヴァーレの傭兵たち。ホセは氷雨の横で、彼が出す指示にその都度頷いていた。

「敵軍との激突はまだ少し先になりそうだ。やはり待ち伏せる作戦らしい」
 グリフォンが氷雨の前に降り立ち、オズボーンが状況を説明する。アラゴン軍がナバーラの人員を殺しているとの報せは、アルベルトを動かすのに十分過ぎる理由であった。
 アラゴン軍の蛮行にアルベルトはデヴァーレとの協力体制や軍勢の整備もそこそこに、進軍をはじめた。
 兵士たちはこの感情だけに支配された突撃にも熱狂して拳を突き上げる。
 軍の準備は通常の倍以上の速度でおこなわれ、出陣の準備はあっという間に整う。意気盛んな軍隊内とは裏腹に、表情を渋くするヴァーレーンの姿が印象的だった。
「それにしてもずいぶん急いでいるな。こちらは準備不足なんだ。後ろからじっくりいってもいいと思うが」
「‥‥どこの世界に総大将が待ち伏せている敵に突撃を敢行する戦術がある? 正確に言えばあるにはあるが、それは極めて限定された条件での運用だ。足の速い部隊だけでも前に出て、進軍スピードを遅らせる」
 突出しようとするアルベルトを制するように軍を展開せざるをえない構図に、氷雨は眉間に寄せた皺に人差し指をあてがう。

「なるほど。ですが、ここはアルベルトじゃありませんが、急いだ方がいいと思いますけどね。こっちに逃げてきた村人の情報だと向こうは村民の女の子を殺しているんでしょ? 長く躊躇すると、この大陸にいる意義すらなくなってきちゃいますよ!」
「‥‥女の子かどうかはわりませんが、それも無視できない要素のひとつですわね」
 拳を突き上げ、今この瞬間にもジ・アースの貴重な資源(≒俺の恋人候補)が失われたと訴えるヲーク。彼ではないが、理想だけで動いているとも表現して差しさわりのないこの軍隊である。
 突撃するほうはさぞ気持ちがいいだろうが、常に壊滅と隣り合わせになっている部隊の統率をおこなう側の立場からしてみればたまったものではない。
「悠長に待ってくれればありがたいんですがね‥‥敵も見方も」
 その気持ちを代表するように秋朽は、恐らく起こりもしないであろう願いを口にするのであった。



●そして戦いは始まる
「全軍突撃、敵軍の陣形整備を許すな!」
 戦いは意外な始まり方をした。
 有利な地形にいるはずのジュリオ軍がアルベルト軍へ攻撃を仕掛けたのだ。
 士気のない軍が一縷の勝機を見出す作戦にうって出た形なる。

「報告! 敵軍は冒険者、ゼナイドを戦闘にこちらに向けて進軍してきています。激突まで数分もありません」
 儀礼のみの挨拶をおこなった後、状況の報告をおこなう叶。地形は相手が有利。対処を誤れば、怪我どころではすまない。
「ありがとう。このまま軍を進め村まで‥‥!」
「前回は上手く行った。だが次もそうとは限るまい。貴方という導き手を失った者達がどのような道を辿るのか、見えているのか?貴方の理想は貴方しか成し得ない。エル・マロとて死ねばこの様だ」
 アルベルトの肩を掴み、言葉を中断させるカミロ・ガラ・バサルト(ec0176)。
 戦う前から現在進行形で勝利の余韻にひたっているような軍隊に彼はヴァーレーンと同じように疑問と不安とを感じていた。
 アルベルトの瞳に迷いは存在しない。まるで信念を貫き通していればいずれ必ず目的は叶うと信じているように。

「そういうこった。戦いは突撃の専門家に任せておけって。なぁルシファーの旦那にアインの旦那?」
「フン、ようやく出番がやってきたってことだ」
「‥‥別に突撃専門というわけではないのだがなぁ」
 二人の会話に割り込むように入ってくる如月、ルシファー、アイン。戦いの空気を尊ぶ者、己の力を具現化させたい者、戦いを勝利に導きたい者‥‥三者三様で戦いにかける思いは違っているが、それぞれが戦局を変え得る力を持っていることに変わりはない。
「さて、敵にもトマスとかハーマインやら、面倒くさい奴はいるだろうが、ここはいっちょ戦って‥‥」
 ジョセフィーヌの言葉が中断され、一斉に警戒態勢をとる冒険者達。彼女の危機感知能力が優れているということはここにいる誰もが知っている。
「誰だ? ‥‥このスピードで来るとなると」
 刃を握り締めるアイン。先ほどまでジョセフィーヌしか感知することができなかったざわめきは徐々に大きさを増し、今や誰の耳にもはっきりと聞こえるほどの音量でアルベルト軍へと迫る!
「先日は世話になったな! 今回も馬鹿のひとつ覚えで、流れを変えさせてもらう!」
 両腕に握られた双刀が赤い血しぶきを巻き起こし、ゼナイドの金髪が戦場で滑らかに揺れる。前回戦ったときよりもより‥‥比喩的表現ではなく美しさを増したその動きに、武器を握ったアインでなくとも感嘆の息をはかざるを得ない!
「どういうことだこの女、ほとんど一人で‥‥!?」
「勢いに乗っているときほど、意外に脇はあまいものさ。力押しでいけるところまで‥‥いかせてもらう!」
 振り落とされたアルベルト軍兵士の斧を必要最低限の動作で「受け流し」、スピードを一切落とすことなく彼女は本陣目掛けて突入していく。
「誰を狙っているか、分かりやすいといえばわかりやすい状況ですね」
 いかにゼナイドが豪傑であるといえども、いずれは息切れするであろう突撃に、ヲークはこの突撃の本当の狙いが誰であるのか瞬時に察知する。そしてヲークの言葉を待つまでも無く、アルベルトまでの道のりを固める兵士たち。
「‥‥せっかくここまできてもらっているんだ。面白い、俺がいかせてもらう!」
「おぃおぃルシファーの旦那、独り占めってのははアレだろう、あたしもいかせてもらうよ!」
 ゼナイドの姿に刺激を受けたかのように、勢いよく大地を駆ける二名の冒険者たち!

「お前が、お前がアアァア!」
「チエストオオォオオ!!」
「‥‥昂ぶっているなルシファー君。如月君。だが、こちらもきょうは数多くの人数をお相手するつもりなんだ。そちらに付き合うことはできないな!」
 三者の叫び声はそれぞれに木霊し、振り上げられた刃は重なりをみせる。ゼナイドは二人の冒険者もこれまでと同じく、最低限の動きをもって受け流そうとするが、戦いそのものに『昂ぶる』二人は身体をもってその行動を止める。
「どうだっ! 最近欲求不満がたまっていたんだ。そう簡単に通しはしないぞ!」
「ずいぶん熱いご勧誘、感謝する。‥‥ひょっとして一人身の私に気があるのかな!?」
 戦いのために身を挺したといえるルシファーに突き刺さるゼナイドの刃! ルシファーは気力をもって大地に足を踏みしめ、その場に踏ん張ろうとするが‥‥力は、無常にも入らない。
「馬鹿な‥‥これが‥‥」
「初太刀をかわされようとも次の初太刀を放つのみ! 覚悟はいいかぁ!」
 茫然自失といった表情で肩膝をつくいて倒れるルシファーの頭上を跳躍し、太陽光を遮る形で姿を表す如月!
 振り上げられた刃はいつものように彼女のすべてをのせており、次の行動などは考えられていない!
「決して‥‥受け止められない一撃ではない!」
「‥‥!?」
 激しい金属音と共に刃を重ね、初めてその場に足を止めるゼナイド。
 防御を固められた相手に如月は一瞬表情をこわばらせるが、振り上げた刃を留めることこそが恥だと、構うことなく地の底目掛けて刃を落とす!
『まいったねぇ‥‥こりゃ』
 呟き、大地に倒れる如月。そして息を切らしながら、言葉を紡ぐゼナイド。
「その腕、確実に以前より磨きがかかったな。本来ならば無傷の状態で刃を交えたい。‥‥残念でならない」
「なぁに、まだ宴は終わるには早いさ」
 既に刀を杖代わりにして立つゼナイドの前にたちはだかったアインは、冷徹な視線で彼女を睨みつけ‥‥刃を向けた。

今回のクロストーク

No.1:(2007-07-05まで)
 【フォルテュネ・大宗院に質問】
1.今回入手したアイテムはどちらが持ちますか? また、最終的に入手するものはなんだと思いますか?


No.2:(2007-07-05まで)
 【アルベルト軍所属員に質問】カルロス二世の処遇についての意見を述べてください。

No.3:(2007-07-08まで)
 あなたにとって「戦うこと」とはなんですか?

No.4:(2007-07-09まで)
 冒険者同士で敵味方入り乱れる状況になっていますが、一番戦いたい相手と戦いたくない相手を述べてください。