二つの理想

■クエストシナリオ


担当:みそか

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:31人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年03月01日
 〜2007年03月31日


エリア:イスパニア王国

リプレイ公開日:03月25日19:56

●リプレイ本文

 変化は突然起こるといわれているが、
 変化とは総じて突然何かが変わることを指すものだ
  〜 カルロス一世 〜

<デヴァーレ。傭兵団・詰所>
「どういうことだ? 確かに数が多いとは聞いていたが、最低でも十数匹のオーグラ? ‥‥冗談にしちゃ、ずいぶんとおおげさな話だな」
 オーグラを退治するため、エル・ヴァロッサの案内によりナバーラの傭兵団・デヴァーレのもとへと訪れていた冒険者達。彼らは前回の『依頼』において確認・推測したことをそのまま話したが、応対にあたった者は事の真違を図りかねているのか、おどけた口調で事実から目を背けようとする。
「信じる、信じないはそっちの自由だ。だが、これは間違いなく事実だ。信じられないことが起こっている事実。そこから目を逸らしてもろくなことにならないと思うがな」
 突然告げられた『事実』に混乱しているのか、頭をボリボリと掻きながら苦しげな声を出す団長代理。
アルバート・オズボーン(eb2284)は煮えきらぬ態度の彼に詰問するが、団長であるホセを欠いているデヴァーレは言葉を濁す。
「‥‥なるほど、事情は大体わかった。だが、こちらも何があるか分からないところがあってな」
「そういう問題ですか? この段階で既に『何かあっている』と思うのですが」
「そうだがな、それだけのオーガの大群、果たして本当に俺たちだけで倒すことができるか」
 秋朽緋冴(ec0133)が言葉の裏を攻めようとも、副団長は無精髭を指の腹で撫でながら苦しげに言葉を紡ぐだけである。
自由な気風がウリの傭兵団ではあるが、その現実は団長であるホセに率いられた烏合の衆といえる。
外貨を獲得しなければいけないという現実と我が身可愛さの間で揺れ動く気持ちは決して否定できるものではないが、他国から見た『脅威の5万人』というイメージからはかけ離れて思えた。
「それなら‥‥っ」
「やめておくでござる。何を思い詰めておるのかは分からぬが、貴女が身体を張るほどではない」
「まっ、そんなとこやろうな〜〜。ここでセクスアリスさんに出られたらわいの立場ないわ〜」
 神妙な面持ちで一歩前に踏み出そうとしたセクスアリス・ブレアー(ea1281)をアルバート・レオン(ec0195)と飛火野裕馬(eb4891)がたしなめる。
「険しい地形、統率されたモンスター、何より尋常ではない数‥‥この国で何か起こっているということはあんたらにも分かっているやろ。ここでこうしてうだうだ言って、取り返しがつかなくなってから動き始めるのがあんたらの故郷を思う気持ちなんか?」
 尚も喋ろうとするセクスアリスのを右腕一本で制しながら口を開く飛火野。ふだんな穏やかな彼の語気が若干荒がせたのは、果たして事態の深刻さだけであろうか。
「‥‥他国から来た者が言ってくれるな」
「拙者はこの国の生まれでござるが、この事態、決してこの小さな町ひとつでおさまることではないと思うでござる。団長が追っている魔法使いにしろ、この事件にしろ、ナバーラ王国自体がひとつのセレクション会場になっているようにすら思えるでござる」
「‥‥‥‥あ〜〜〜! わかったわかった! どうやら俺に反論材料はないようだ。詳しい話を聞かせてくれ。ナバーラの傭兵が臆病者じゃないってところを見せてやるぜ」
 アルバートの言葉についに副団長は手を挙げる。イスパニアの出身であるアルバートの言葉があったことも大きかったが、少なくともナバーラに縁もゆかりもない冒険者達までが大きな影を感じ取って動いてくれているのだ。
団長不在とはいえ、仮にもナバーラの、しかもこの街を拠点にしている傭兵団が逃げ出したとあっては国中の笑われ者になってしまう。
「フン、最初から腹を括っておけば余計な時間を使わずにすんだんだ。‥‥行くぞ。あの炎の男を追うためにも、こんなところで立ち止まっている時間はない」
 壁にたてかけていたデスサイズを握り締め、扉を蹴り飛ばすルシファー・パニッシュメント(eb0031)。見上げたナバーラの空は、あの日見たように薄い雲がかかっていた。


<魔法使いに対する認識>
「ルシファーさん、少しだけお伺いしたいのですが」
 十数名の傭兵と共にオーガが大量発生している現場へと向かう最中、クレア・エルスハイマー(ea2884)がルシファーへと声をかける。
 ペガサスの翼音が気になったのか、ルシファーは表情一つ変えることなく、視線だけでクレアに言葉の続きを求める。
「先日の炎の魔法使いの件ですが、何かご存知ないですか?」
「詳しい情報は何より俺が知りたいところだ。‥‥突然上から熱い何かに押さえつけられるような衝撃を受けて、気がついたらあのザマだ」
 吐き捨てるように声を発するルシファー。先日の炎の魔法使い。突然現れて消えた彼の正体はおろか、目的すら明らかにはなっていない。
「いずれにしろ只者ではないだろうがな。何のためにあの町を‥‥いや、我らを襲撃したのか」
「ギルド職員から詳しい話を聞いて見ましたが、あのクラスの魔法を使える存在そのものが、この国には数えるほどしかいないようです。魔法王国ポルトガル‥‥詳しい情報はありませんでしたが、そのあたりからならもう少し詳しい情報も仕入れられるのでしょうが」
 アイン・アルシュタイト(ec0123)と秋朽の認識は共通している。『なぜあの男が小さな町に現れ、襲撃したのか?』
 相手はそれこそオーグラのように、こちらの姿を確認するや否や食糧目当てに襲い掛かってくるモンスターとは違う。あの日、あの場所で、相当のリスクをおかしてまで事件を起こした理由は何か?
「可能であれば接触したいのですけど‥‥」
「当然だ。あの首、俺が切り落とす」
 いち魔法使いとして接触を持ちたいクレアと、闘う呪縛を自らに課すルシファー。
 彼らの思考が、推理へと到ることはなかった。


<山中・かつての場所>
「このあたりか? ‥‥確かにオーグラの足跡があるな。それも複数種類か?」
「そうやな。俺達がおかしい思うのもわかったやろ? もうすぐオズボーンさんがもう少し詳しい情報を伝えてくれるやろうから、実態がわかると思うで〜」
 目的地に到着して暫くの後、飛火野は副隊長と挨拶と情報交換を兼ねた言葉を交わしていた。出発するまではこの事件に関わること自体に難色を示していた傭兵団であったが、十数名が連なって一度現場に出てしまえば、その表情はガラリと変わる。
 持ち込んだ保存食を火で炙りながらも、付近のおおまかな地図を取り出して、飛火野達と共に『未知なる』敵の居場所について思案をはじめる。
「隠れられそうな場所だらけだな。どこか纏まって生活できるような切り開かれた場所を知らないか?」
「そういえば早河さんから聞いたことがあったわ。あれだけのオーグラがいることはおかしいんですって」
「‥‥どういうことだ?」
 アインの誰へともない質問を受けて口を開いたセクスアリスの言葉に、傭兵の一人がピクリと眉を動かす。
 『いることはおかしい』。そう、この単語にはふたつの意味があるのだ。ひとつは通常多くとも2〜3体程度で行動しているに過ぎないオーグラが、これだけの数行動していることはおかしいという点。そしてもう一つは‥‥
「食糧だな」
 所々黒くこげた保存食を強く歯で噛み、千切る。オーグラは空気を食べて生きるわけではない。ナバーラの土地は御世辞にも豊かであるとはいえない。ならば‥‥
「定期的にどこかから食糧を運んでいる?」
「ん〜〜〜、‥‥今めっちゃすごいこと言ったやん! っていうと、あれやな、つまり」
「オーグラを数箇所に集めて飼育しているということですか? 食糧を運ぶのであれば‥‥なるほど、確かにかなり範囲は限定される」
 セクスアリスの一言から始まったパズルの解明に、口元を綻ばせる秋朽ら冒険者の面々。この山中にはしっている道は数えるほどしかない。周囲の町に聞き込みをすれば、敵の正体や目的もわかるかもしれない。
「どうした、うかない顔だなルシファー。何を考えていたんだ?」
「フン、決まっている。‥‥戦いの準備だ。組織だった相手に空から偵察をかけるほど危険なことはない」
『!!?』
 デスサイズを握り、オズボーンが帰還するはずの方向へ駆け出すルシファー。事態の深刻さに気がついた冒険者と傭兵も、次々に武器を握り締め、その場から駆け出していった。


<空>
「水飲み場、小屋、柵‥‥あれは食糧貯蔵庫か? いったいどうなっている?」
 広範囲に及ぶオーガの索敵を行っていたオズボーンは、眼下に広がった光景に我が目を疑う。
 そう、彼の視界に広がったものは、まるで牛や馬でも飼うかのごとく、『モンスターを飼育している』光景であった。
「何のためにこんなことをする必要がある? まさか‥‥っ!!」
 唐突に彼が騎乗するグリフォンの挙動が乱れる。視線を移すまでもない、『矢』が腹に突き刺さったのだ!
「UUUAUUU!」
「静まれぇエエェエ! ゲールハルト!! ‥‥っ、詮索は後だ! 今はこのことを伝えねば‥‥っ!」
 よもやの展開に、オズボーンは暴れようとするグリフォンを一瞬で制御すると、『飼育場』に背を向けてこの場からの逃走を図る。
「逃がすわけにはいかんなぁ!」
 眼下からの叫び声と共に彼を包み込む氷の吹雪! さらに放たれた矢は、彼の足に突き刺さる。
「落ちつけ、落ちつくんだゲールハルト。お前の足なら地上からの追撃程度‥‥‥‥」
「驚いて言葉すら失ったか冒険者? まさか空を跳ぶのが自分だけだと思ったわけではあるまい?」
 身体が割かれるような痛みを理性で抑えつけ、ゲールハルトに先を急がせるオズボーン。だが、そんな彼をあざ笑うかのように立ち塞がったのは、鏡を映すかのように空を舞う、一匹のグリフォンであった。
「‥‥なに、まったく予想していなかったわけじゃなかったさ」
 鬼面頬を装着し、ゆっくりと言葉を紡ぐオズボーン。
 せめて表情を読まれないように顔を隠し、時間を稼ぐ。‥‥今の彼にできる、精一杯の対抗手段であった。
「この大陸の激動の舞台に、どうやら貴様は不要だったようだなアルバート・オズボーン。脇役以下がお似合いだったということだ」
「どうして俺の名前を‥‥っ!」
「さぁ、舞台から退場せよォ!!!」
 眼下から来る弓と吹雪、そしてたたみかけるような前方からの攻撃に、オズボーンとゲールハルトは地面に落下していった。
「ふん、腰抜けどもだけではないか。そろそろここも潮時かもしれんな」
 落下していくオズボーンを視界に、ニタリと歪む男の口元。彼の表情はこれから起こるであろう出来事を期待しているかのようにも読み取れた。


--------------------------------------------------------


<造船所  〜 出発前の憩いの場 〜>
 再生とはその名の通り、再び生き返るという意味である。
 瑣末な行程を経てつくられ、海賊船として手荒に扱われ、冒険者との戦いで傷ついた船は、今まさに再生しようとしていた。
「へえぇ〜〜、だめな部分は新しい板に取り替えて修理するのか」
「少し痛みが激しいからな。どうしようもない部分は取り出して、新しい板をつけるわけさ。普通これくらいなら取り外さなくても、補修して終わりにするんだが‥‥どうせあんた達、丁寧に扱っちゃくれないだろ?」
 『元』海賊船は腐食がすすんだ板を取り外され、新しいものに付け替えられていく。一種パズルのような作りをしている木造船は、傷んだ部分を取り外すことによって全く新しい顔を見せていく。
「ははっ、まあ丁寧にとはいかないかもしれないけど、大切には使わせてもらうよ」
 修理工に痛い部分を突かれたカジャ・ハイダル(ec0131)は、頭をポリポリと掻きながら、船の修理状況や使用上の注意点‥‥ついでに言えば海賊の情報を引き出していく。
 小型船舶ゆえにそれほど沖に出ることはお勧めできないようだが、そもそも現在、地中海を越えてられる船を持っているのは領主と冒険者ギルドくらいなものだというのだから、海賊退治には差し支えないだろう。
「ポルトガルに行けばとんでもなく大きな船があるんだがな。‥‥まあもっとも、海賊が買えるような代物じゃないから、あんたらの目的くらいならこの二隻で達成できるはずだぜ」
「なるほど‥‥それじゃ、また見に来るんで、その時はよろしく」
「おぅ、楽しみに待ってな」
 木槌を片手に威勢良く腕を振る修理工に口元を崩しながら、カジャは町へと続く道を歩いていく。昨日の事件で冒険者は大きく評判を落としたが、それでもオーグラや海賊など、傭兵ですら手をこまねいていた事件に積極的に手を出しているのだ。周囲の評価は決して良くはないが、最悪というわけでもない。
「‥‥よう。船の調子はどうだった?」
「順調だったぜ。そっちも屋台の売上は順調にいってるか?」
 だからこそ、早河恭司(ea6858)も住民から何の妨害も苦情もなく、屋台を出せている。売上の方は彼が首を横に振る通り、可もなく不可もなくといったところであったが、排斥される立場からは一応脱出した分だけよほどましだろう。
「今のところほとんど身内商売だな。もっとも、ポツポツでも買いに来てくれる人がいるから作りがいもあるというものだが」
「ほんと、こんなにうめぇのにもったいねぇよな。おまけに酒場のあたりにはまだ近づけねぇし。‥‥修理の手伝いもさせてくれやしねぇ」
 早河から差し出された料理を受け取り、口にするカジャとクリムゾン・コスタクルス(ea3075)。クリムゾンは先ほど先日の事件で燃えた酒場の修理を手伝おうと出かけていたが、どうやら門前払いされてしまったらしい。

「何事も時間が必要だってことさ。みんな根はいい奴ばかりだから、少し時間がたてばこんなうまい物くらい食いにくるさ」
「お疲れ様です。魔道士についての情報はありませんでしたが、謎の男とガルバアについての情報は集まりましたよ」
「そうでござる。‥‥あっ、その具は私の分もとっておいてほしいでござる〜〜」
 冒険者たちが屋台の前に集まり食事を取っていると、エル・ヴァロッサとシリル・ロルカ(ec0177)、香月七瀬(ec0152)が情報収集を終えて帰ってくる。昼過ぎまで町の中を歩いていて空腹になっていたのか、三人とも情報を話す前にとりあえず早河のつくった鍋の食事にあずかる。
「それで、なにがわかったんですか? あっ、それから謎の男さんの呼び方はタコ君に決まったんですよ」
 情報を携えてやってきた面々から早く何か聞きたいのか、鷹杜紗綾(eb0660)は似顔絵を書くのもそこそこに(似顔絵を描いているうちに芸術意欲に目覚めたのか、いつの間にか屋台は似顔絵だらけになってしまっていたが)シリル達に分かったことを聞こうとする。
「それについては、私からお答えしますわ。‥‥食事中に話をしても、あまりいいことにはなりませんし」
 香月の背後からひょっこりと現われるリンカネーション・フォレストロード(ec0184)。偶然冒険者から見えない位置にいたのか、それとも意図的に今まで隠れていたのかは不明であるが、どちらにしろ驚いた鷹杜は早河の腕にしがみつく。
 リンカネーションは、そんな周囲の反応に気を良くしたのか、可愛らしく人差し指を一本立て、まるで先生が生徒に教えるように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「ガルバアについてはエルさんの協力ですぐに分かりましたわ。本人が言っているように元ナバーラ傭兵団小隊長で、半年前に脱退したようですわ」
「とりたてて大きな活躍はなかったようでござる。ただ、口癖は『でかいことをしてやる』で‥‥」
「自分の実力を大きく見せようと独立傭兵団を作ろうと思って、挫折、海賊へ‥‥まあ、そのへんに転がっている話だな」
 リンカネーションの言葉を、食事を喉に通した香月とエルが拾う。
 
 そう、話を聞く限りにおいてはガルバアとはどこにでもいる、傭兵崩れの海賊であった。彼は羊を育てる牧畜農家に生まれ、近所の子供たちのリーダー格として育った。腕力は人並みはずれて強く、両親は迷うことなく彼が12歳になったその日にナバーラ細大の傭兵団『サーマイル』に入団させる。
 最初は厳しいだろうが、彼であればすぐに這い上がってくれる。両親はそう信じて疑わなかった。
 しかし、現実はうまくいかず、彼は20歳の時に小隊長となった数ヵ月後に団を抜け、やがて小規模な海賊を立ち上げる。虚勢はいつも張っていたが、傭兵団を見れば迷い無く逃げた。勝ち目が無いことはわかっていたから。
「ですが、この謎の男‥‥タコさんはどうやら違うようですよ」
 紗綾が描いた似顔絵をヒラヒラとさせながら、ほんの少しだけの間を置きながら口を開くシリル。
「昨年中旬に突然現われ、傭兵崩れの厄介者をバタバタと倒してきた剣豪。一時はジュリオ王はおろか、カスティリアやポルトガルにも声をかけられた凄腕ですって」
「へ〜〜、凄い人なのね。でも、そりゃまたなんでそんな人が海賊に?」
 近くの酒場で買ってきたスナックフードを食べながら、会話に混ざるヒスイ・レイヤード(ea1872)。前回見ただけでもこのイスパニアの人間ではないことくらいはわかったが、それだけの凄腕が『冒険者以前に』来ていたということは初耳だ。
「それはわかりません。ですが、特に珍し物好きのポルトガル王国はかなり積極的に‥‥」
「そうだよ、まったく無礼だと思わないかぃ!? わざわざこちらが通訳まで用意してやって登用してやろうとしているのに、断っただけじゃあなくて、よりにもよって新興の海賊に入るんだよ!? まったく、面子をつぶされたこちらの身にも‥‥おや、これおいしいねぇ。もうひとつもらおうか」
「はいどうぞ。お代はそこに置いておいてくださいね」

 ・ ・ ・ ・ ・

 暫しの静寂の後、
「誰ですか〜〜あなたは?」
「おや、君は占いをやっているのかい? それじゃあ簡単に占ってくれないかな」
 迷宮にさしかかろうとしていた話の腰がゴギゴギと音を立てて折れる。突然現われた男は(一人の例外である紗綾を除いて)呆然とする冒険者の視線を受けながら、尚平然と氷凪空破(ec0167)に占いをするように求める。
「あ〜〜、あなた、人の話を聞かないってよく人に言われるって出てますよ〜」
「これはびっくりだ! そう、なぜかよく言われるんだよ。僕の頭の中ではすべてが理論立てて構築されているんだけどね。そう、どこまで話したっけな‥‥聖夜とジーザスが実は関係なかったって噂話なんて、君の占いの足しにならないかな?」
 小劇場のような会話を交わしながら、冒険者のまわりをくるくると移動する男。チラチラとその場にいる冒険者全員に話しかけては、話を煙にまいていく。

「どこのどなたか知りませんが‥‥人間観察のおつもりでしょうか? 依頼ならば、冒険者ギルドを通していただけるとありはたいのですが」
「‥‥っ‥‥と、なるほど。噂は本当だったようだね。だけど、少し違うんだ。僕は君たちに依頼を出しに来たわけじゃない。言うなら‥‥そう、『興味本位』この言葉がいちばんしっくりくるかな」
 心の底を見通したようなシリルの言葉に額からうっすらと汗を流し、移動を中断する男。態度はまだずいぶんと軽いが、多少かしこまった分、会話をしようという意識が感じられる。
「それで、一体誰なんだあんた? そんな変わった服を着ているあたり、見たところナバーラの人間には見えないが」
 (彼女がいえたことではないが)見たこともないデザインをした男の衣服を一瞥し、話の軌道修正をしようとするクリムゾン。
 男はその言葉を耳にすると、もったいぶっているように、ゆっくりと口を開いたのであった。


--------------------------------------------------------

<山中>
 空はどこまでも透き通っており、星は綺麗にまたたいていた。
 『傭兵国家』と血なまぐさい雰囲気のあるナバーラではあるが、その実は産業らしい産業を持たない国家である。あたりには灯りも少なく、それゆえ星はどこまでも輝いて見える。
「いやいや、まだ夜になると寒いですねぇ。温かいスープを持ってきましたよ」
「おぉ、気が利くなお前‥‥確か‥‥」
「ヲークです。ヲーク・シン(ea5984)。これからしばらく一緒に旅をすることになるんです。好きなように読んでください」
 テントの見張りに立っていた傭兵達に暖かいスープを差し入れするヲーク。見れば彼らの輪の中には氷雨絃也(ea4481)が既に混じっており、親しげな口調で(通訳のシフールを通しながらではあるが)歓談を交わしていた。
「しかし、まさかエルの娘が傭兵だとは思わなかったな」
「‥‥あぁ、そういえばそっちでは珍しいのか。ナバーラでは当然だよ。若い奴は男だろうと、女だろうと戦地に出る。しかもニーナはホセに次ぐ実力の持ち主だ。かわいい女だってなめてかかると、痛い目を見るぜ」
 傭兵からの言葉に苦笑いをする氷雨と、しきりに大きく頷くヲーク。よく見れば彼の身体は‥‥雨も降っていないというのになぜか濡れ、後頭部には大きなこぶができていた。
『‥‥‥‥』
「あぁ、これはお気になさらず。どうぞ、続けてください」
 事実に気付いた各々が黙る中、続きを促すヲーク。しかし続けてくれといったところで気になるものは気になる。
 いったい、いつ、ヲークが、なにをしたのか!? 妄想という名のパンドラの箱の中に入っているものは!?
『‥‥‥‥』
「あぁ、なんかあんまりいい男がこっちにはいないみたいだねぇ」
 奇妙な静寂をかき消したのは、口元を僅かに緩ませたジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)の声であった。男同士の奇妙な空間は打ち破られ、パンドラの箱は翼が生えてどこぞへと飛んでいった。
「しつこくナンパして池に落とされただけだろ? そういう話もいいけど、お頭‥‥じゃなくて団長、そろそろ国境線沿いつきそうなんだけど、情報を教えてくれてもいいんじゃない?」
 ジョーが発した言葉に驚き、周囲を見渡す傭兵達。すると完全に闇に溶け込んでいた倒木のようなものがノソリと動く。
「やれやれ、眠りを邪魔してくれたか。‥‥そうだな。そろそろ教えてもいいだろう。簡単に会議をするぞ。ニーナにも誰か伝えておけ」
『ハイ!!』
 最後の言葉に反応して一斉に駆け出す傭兵‥‥とヲーク。猛獣に追いかけられているかのように、限界まで己を高めたスピードでテントに突進していく彼らの姿は、一種晴れやかにすら見えた。
「‥‥‥‥」
 その姿を呆然と見送る、氷雨という存在を置いて。


<女性用テント>
「やれやれ、なかなか派手な動きにはあずかれないもんだねぇ‥‥」
「本当だね。でも、お頭についていけば大丈夫だよ。あの人は本当にすごい人だから」
 低い天井をのんびりと眺めながらナイフをいじっていたジョセフィーヌは、干せについて熱っぽく語るニーナと言葉を交しながら、ナイフをいじっていた。
 あの一見のんびりしている団長が只者ではないことは、先ほどの一件からも想像はついたが、どうにも彼女のタイプからは外れている。
「さて、積極的に動くのはありとしても、しばらくここから身動きがとれないのか〜〜‥‥‥‥ほんと、退屈だねぇ」
 言葉と言葉の間にあった、一秒足らずの静寂。
 その間に、彼女の掌には、ナイフが力強く握り締められていた。
「もっとも、それはあちらさんもおんなじみたいだけどね」


--------------------------------------------------------

<ナバーラ・木造小屋>
「ようっ、カルロス二世殿。ちょっといい酒が手に入ったんだ。軽く付き合ってくれないか?」
 付近の農家から手に入れたワインを片手に、ぼんやりと小屋の外を見ていたカルロス二世の隣にどっからいと腰をおろす名無野如月(ea1003)。必要以上に身体を寄せるその仕種は、これから主たるものの器をはかろうとしているように感じられた。
「酒か‥‥あのわけのわからない副官のせいで動けないからな。まあ飲むのも悪くなかろう」
 如月から受け渡されたコップを傾け、ぐびりと飲むカルロス二世。あっさりと街には入れるとでも思っていたのか、時折出される溜息は失意に満ちている。
「おぉ、いい飲みっぷりだねぇ旦那。‥‥ところで、これからナバーラの国王様になる人にちょっと話を聞いておきたいんだ。この国の現状についてどう思っていて、どうしたいのか」
「なるほど、それはぜひとも私も聞いてみたいですな。二世様の向いた先に何があるのか、個人的にとても気になります」
 壁にもたれかかり、紅茶を飲んでいたオルト・リン(ec0192)が会話の輪に交ざる。如月と彼とでは、聞くことの目的はそれぞれ全く違うものなのであろうが、偶然ながらもsの点では一致した。
「そういうわけでデモリスさん、少しの間入り口の警備はお任せしましたよ」
「わかりました。ですけど、早く相手と交渉に向いましょうね」
 入り口に立つデモリス・クローゼ(ec0180)。これでとりあえず二世の逃げ道はふさがれたことになる。
「フム、この王国の現状か。本来であれば我を護衛する従者たる貴君らにも知っておいて欲しいことではあるが、どちらにしろ一段階高い視線で見れはしないだろうからな。‥‥よろしい。聞かせてやろう」
 少し酒がまわったのか、鼻から大きく息を出すカルロス二世。今までのところ信頼に足るような行動など何一つとっていないこの主の口から何が発せられるのかと耳を傾ける。
「このナバーラに何が足りないか、諸君には分かるかな?」
「いえ、なんのことやらさっぱり」
 おぽげさに手を広げ、『分からない』姿勢をアピールするオルト。カルロス二世はその態度に期限を良くしたのか、先ほどよりも大きな声で、少しだけ間をおいて答えを発した。

「それは『カルロス1世』なのだよ。諸君」

  ・ ・ ・

「‥‥はぁ」
 あまりにもな返答に返す言葉も見つからず、ただ相ずちをうつオルト。
「カルロス1世はもう死んだんじゃなかったのかぃ?」
 問い掛けねば何も聞き出せぬと、如月は続きを2世に促すために敢えて分かりきった質問を投げかける。
「フフ、ならば諸君らにも分かりやすいようにもう少し丁寧に言おうか。カルロス1世‥‥我が父上の偉大なことといえば、諸君らも知ってのことだとは思うが、父上は何が偉大だったのか、それは『敵を作らなかった』ことにあるのだよ」
 得意満面に述べるカルロス二世。受け売りなのか、それとも自分の考えなのかは分からないが、少なくとも現状のナバーラの問題点の一側面は捉えている。
 国内に大きな不安を抱えるジュリオにしろ、ナバーラ国民のためだけの自治を唱えて他国をないがしろにするアルベルトにしろ、敵を作りすぎている問題点は否めない。
「しかし、あん‥‥2世様なら敵をつくらないってのか」
「だからこそ、血筋が重要なのだよ。さまざまな事情があり今まで表舞台には出られなかったが、正当な継承権というものは、皆を黙らせる効果があるのだ!」

「‥‥またこのパターンか」
 額に掌をあてる名無野。なるほど、これならオルトが言っていたようにジュリオが二世を眼中外にする理由も何となく分かる。
「カルロス様、事態はあなた一人の権限で動かせるほどあまくはないと思うのですが」
「わかっておる。だからこうして更なる協力者を探しておるのではないか」
 痺れを切らして会話に交ざったデモリスからの諌言も聞いているのか聞いていないのか、どこふく風となっている。
「それはそうと二世の旦那。砂の魔法使いについて本当に知らないのかい? あいつが襲撃してくるとなるとちょっと厄介なんだ。小さな情報でもいいから教えてくれないかね?」
「砂の魔法使いか‥‥町の酒場を燃やした張本人であるという情報は聞いているが、知らないものは知らんな。‥‥このカルロス二世が知らんのだ。およそこの国にはいないと考えていいだろうな」
 知らないことを威張るカルロス二世。炎と砂が入り混じったような、そんな魔法を使用する魔法使いなど、それほど魔法の研究が盛んではないこの傭兵国家、ナバーラにはいないと彼は断言する。
「ならば他の国には?」
 叶朔夜(ea6769)からの質問に二世の眉がピクリと動く。
「何かご存知なのですか?」
「知っているというほどのことではないがな。アラゴン、カスティリアにもいるだろうし。一番怪しいのはポルトガルか? あそこの船団には信じられないほど魔法兵がいる」
 髭を二本の指でつまみながらデモリスの質問に返答するカルロス2世。調子に乗った彼は各々の王国についての説明を始める。
「ポルトガル王国はカスティリアの西の、それこそいつカスティリアに制圧されてもいいような王国だがな。いやいやいや、現実はどうだ。奴らはナバーラ以上の基盤を持っている。船団による圧倒的な海軍力だ。あそこの船団はホアン・デ・ララを中心にそおの道のスペシャリストが乗船していてな、達人クラスや人間の実力を超越した者も珍しくはない。 わしも昔ポルトガルに行ったことがあってな。なるほど、魔力の効率的な運用とはかくあるべきなのかと感心したものだ。
 王国最大の勢力を持つカスティリアは当然として、だ。考えてみれbあそんな見たこともない魔法はアラゴンこそが怪しいのかもしれんな。奴らは『法』『法』とのたまっているが、法の表舞台に出ないところでは好き勝手やっている」
「‥‥アラゴン王国に、行ったことがあるのか?」
 今ナバーラが混乱している最大の原因、アラゴン王国の話題にカミロ・ガラ・バサルト(ec0176)はカルロス二世の話を遮るようにして言葉を投げかける。イスパニア出身の彼でさえ知らなかった外国の情勢をこれほど知っているとなると、カルロス1世の跡取りであるということも、信じられなくもなくなってくる。
「ああ、行ったことがあるとも。国王のペドロ4世は信用ならん奴だが、賢王エンリケ・デ・ララはいい意味で狡猾な奴だ。住みにくさはこのナバーラ以上であるがね。直接的命の危険がないだけマシということだよ」
「‥‥‥なるほど。勉強になりますね」
 ほんの少しだけ口元を緩めるフィディアス・カンダクジノス(ec0135)。‥‥どうやらこの2世との接触、あながち大はずれというわけでもなかったらしい。

<ザラウズ・市街地>
「案外簡単に入れるものですね」
「‥‥そうだな」
 カルロス二世の話を聞いた(結局締めは『わしにはこれほどの人脈がある、わしこそが国王にふさわしい』であった)翌日、フィディアスとカミロ、そして朔夜はザラウズの街に入り込んでいた。
 先日の事件で顔を見られた冒険者達も街に入ることを拒否されるかと思い、街道を避けて通ってきたが、特に監視する者の存在を感じることもなく街に入ることができた。
「これならばカルロス2世様を町に入れることもできるかもしれませんね」
「‥‥いや、それは少しばかり危険だ。副官のヴァレーンという男、それほど無能には見えなかった」
 ザラウズの町を見回しながら言葉を交わすフィディアスとカミロ。見ればこの町にはアルベルトの評判を聞きつけて集まってきたのか、傭兵の姿が数多く見える。

「簡単にアルベルト、アルベルト軍、ヴァレーンの評判を聞いてきたが、軒並み悪くはないようだな。理想に燃えて、新しいザラウズをつくってくれると評判がいい」
 朔夜が町の中で情報を集めれば集めるほど、事前にエルから提示されていた情報の通りであったということを確認することになる。
 理想に燃え、誰にでも平等に接するアルベルトは遠くから見れば甘く見えることもあるが、嫉妬以外の感情でなかなか嫌いにはなる者はいない。
 副官のヴァレーンも、良い意味での『頑固じいさん』であるといった印象しかもたれていないようであった。

「‥‥誰に聞いても同じ答えしか返ってきそうにないな。私はいったんカルロス2世のところに帰るが、お前たちはどうする?」
「俺は少し寄るところがある。後で合流させてもらうさ」
「私はもう少し町の人々の話を聞いておきたいですから。明日までには帰りますよ」
 複数任で行動していては目立つからと、それぞれ別行動をとる3名。

 小高い丘の上から見るザラウズの町は‥‥どこまでも美しかった。


今回のクロストーク

No.1:(2007-02-28まで)
 <依頼書F遂行中の冒険者のみに関係>
あなたたちの後ろを隠れながらつけてくる存在に気付きました。どうしますか?

No.2:(2007-04-10まで)
 現在一番興味がある勢力とその理由を言ってください。

No.3:(2007-04-09まで)
 一番言いたいことがある人に一言いってください。(例: エル:本当は何歳なんですか?)

No.4:(2007-04-10まで)
 「あなた達はジーザスの存在を信じますか?」
ホーリーシンボルを掲げたうさんくさい男が質問してきました。どうしますか?