Blowi non amicizie Blowi non Coraggio
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■クエストシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:‐
難易度:‐
成功報酬:-
参加人数:17人
サポート参加人数:-人
冒険期間:2007年02月01日 〜2007年02月31日
エリア:神聖ローマ帝国
リプレイ公開日:-
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●リプレイ本文
●そして死すものに、蜜より甘い口づけを
「まずはその怪しい仮面を外せ」
ベネチアを動き回ろうとした段階で、イギリスで活躍していた忍者の風霧健武(ea0403)はそう申し渡された。何の妥協点も見いだせない冷ややかな口調で警邏の衛兵に申し渡された。
健武は無言で仮面をむしり取る。
「そうだ、それで正しい。外国人が歩いて良い、鐘の音の合図を忘れるな」
「クレメンス氏にあうまでの辛抱、辛抱」
警邏が立ち去ったことを確認して、ヴィヴィこと、ヴィルジール・ヴィノア(ec0235)が学者と入国すると申請して、鼻で笑われた屈辱も捨て置いて、健武に囁いて慰める。
同じ船を護衛していたジョヴァンニ・セラータ(ec0232)も、行く道が同じという事もあって同行している。ハーフエルフという鬼子扱いに慣れたもので積もりであるが、ここまで非道な扱いをされるとは思っていなかった。
「‥‥・種族による差別は、慣れていますが、しかし‥‥・ローマ人はこれが当然と」
「ジョヴァンニも黒羊亭に行くんだろう? 何か知っているメニューでもあるか? お薦めの奴だ」
ヴィルジールはさりげなく、ジョヴァンニに問いを投げかける。ジョヴァンニも慎重に答えを返す。
「そうだな? 神聖暦1003年もののワイン辺りなんか、か」
「──ああ、あれは当たり年だったからな」
「──お前はモリアナの谷にて、天使より、わが殿にもたらされ。
そは かたじけなくも、この己の名を 覚えとどめてくださり、この私めローラン、カール帝王の家臣にお前、ドゥリンダルを佩かせ、寡婦や孤児らの守護たらんと仰せつかった──」
そんな一同が通り過ぎるのを詩を吟じながら、ただ見送るシェラザード・クレイソン(ec0240)。
そこへ帯剣していた事を、天使の羽根飾りという、神聖ローマ特有のジーザスの『正当解釈』から行くと『異端視』され、そこを警邏に見とがめられたうら若いハーフエルフの女性、トゥルエノ・ラシーロ(ec0246)が、相手からパイラムを突きつけられた事で狂化を起こしていた。
「何よ! ひとが父の愛した故郷見たさにやってきて何が悪いのよ、ハーフエルフである事が罪? そうよ私は罪の子よ! 禁じられた忌み子、それがトゥルエノ!!」
「まずい! 狂化している? 斬り殺されかねないぞ!?」
ジョヴァンニが自分が異教徒、外国人、混血種族というみっつの枷を填められているのを自覚した上で、ただただ、ヒステリックに警邏に詰め寄っていくトゥルエノを庇いに入った。当然徒手空拳である。
しかも、トゥルエノはパイラムの突きを片手で受け、赤ワインの如き流血を周囲に見せつけていた。
普段のトゥルエノなら、パイラムの柄の部分を素手で受け止める事で、流血するようなダメージを避けていたろうが、狂化しているとなるとそうもいかない。
しかし、ジョヴァンニも戦いの高揚に狂化してしまう。
殴って、殴って殴りまくろうとした所を、ヴィルジールが咄嗟に青い淡い光に包まれ、後ろから間合いギリギリの所で、衛兵を氷棺に封印する。
「顔を覚えられていない筈だ、そのお嬢さん以外は──」
ヴィヴィが確認しようとした所で、シェラザードが囁く。
「そこの道を右に折れなさい、多分ボートが来る頃合い」
「何故、そんな事を‥‥」
「暦史の伝承者故──急ぎなさい、警邏の増援が来る」
「礼を言う」
急ぎシェラザードの指示通りの道を行き、船頭にボートの運賃を払って、黒羊亭まで急ぎ、船を出して貰う一同。
「黒羊亭って事は何か好みのメニューでもあるのか?」
船頭はさりげなく尋ねてくる。このヴェネチアは警邏と謎かけしか存在しないかのようであった。
ヴィルジールはため息をひとつ吐く。
「思ったより賑やかだ」
百人ほども入りそうな大ホールを持つ、ヴィルジールは黒羊亭に案内されるとカウンターで女主人に健武は神聖暦1003年ものの、ワインを注文した。
「おやおや、今は神聖暦1002年だがね?」
「どっかにあるんんじゃないのか?」
ヴィルジールは言葉を挟む。
「じゃあ、確認してもらいたいから、一緒に倉まで来ておくれ」
さっぱり、要領の掴めない会話にトゥルエノは目を白黒させながら、ついていいく。
「クレメンスさん、新しいお客さんですよ」
倉に通されると、地下への縄ばしごが降ろされており、ジメジメとした空気が満ちていた。
「ようこそ。新しい一団よ‥‥?」
赤毛の長髪を後ろに流した年齢不詳の男が書類と戦っていた。
「私がクレメンスだ。今、情報の確認中だ。ながら話をしながらでも構わないかね?」
「紹介状だ、ノエルくんからの?」
「真面目だな、彼はリップサービスというものを理解していない」
と笑みを浮かべながら、書類を一時床に起き、ヴィルジールから受け取ったノエルが書いた手紙を開く。
「成る程、君たちが天使の加護の元にある事を認めよう」
「私も? いったい何なのよこれ?」
「彼女は?」
トゥルエノの言葉に一同にしまったという顔をする。
「巻き込まれたのかな?」
うなずくトゥルエノ。
「ならば、ここの事は忘れなさい」
優しくしかしきっぱりとクレメンスは断言した。
「俺の言葉が判るか?」
と健武はアブラハムにゲルマン語で問いかける。
返答はジャパン語で返ってきた。
「ああ、判るよ。一応、セージなのでね」
「皆が判るように、ゲルマン語で喋りたい」
「良いだろう。その前にそこの若い女性には出て貰いたい。覚悟の無い者が聞くには危険すぎる会話だ」
トゥルエノは女主人と一緒に表に出された。
入れ替わりでメルフィナ・ハーラル(ec0233)が入ってくる。エルフのたおやかな女性だ。
「大体の手配は済みましたわ。多分、罠ですね」
「予想の範囲内だな」
と、クレメンス。そこへ健武が──。
「『神聖ローマの屋台骨を揺さぶるのが最終的な目標』について、具体的にどうしたいのか、どんな方法を執っていくのかを確認したいものだ。
革命を起そうとは思わぬだろうが、ローマ領民の意識改革をするには、途方も無い時間と労力が必要な筈。
今後の方針や方策を聞いておきたい」
「選帝候家を入れ替える。選帝候家の1/7でも入れ替えれば、無視できない勢力になる」
「ならば、使っている忍び達と繋ぎを取っておきたい。
今後、情報の収集や交換等で世話になるからな」
「いや、それは断っておこう。互いに情報漏洩をする可能性があれば、頭をすげ替えれば、組織は動くようになっている。もちろん、この頭をすげ替える事態というのは、このクレメンスがリーダーとして不的確と見なされる状況を含むがね」
「では、アブラハム殿の許可が下りれば、彼等にも魔剣に関する情報を集めて貰いたい。
もし、此方にも魔剣の1本でもあれば、交渉の切り札に使えるかもしれぬからな」
(神の都合とやらで運命を決められてしまった少女に一度会ってみたいのだが、異国人の俺には今は無理な話なのだろうな‥‥)
トゥルーズの3魔剣かね? とクレメンス。
「やはり、ここまでジャンヌ・ダルクの噂は流れているのか?」
「いや、私も以前はそのひとふりの主だった事がある」
「!」
一同はその言葉に驚きを隠せなかった。
「『あれ』の封印は解かない方がいいよ、うん。それ以上の災厄を巻き起こす場合をのぞいてね? 何しろデビルは地上の肉体を滅ぼした所で、地獄からいつしか舞い戻ってくる。地獄で本体を滅ぼすか、それぞれのデビル固有の滅ぼす方法を知らなければ、封印は解くべきではない」
「──デビルが関わっていますのね」
このスラム街で動いていたメルフィナも初めて知った事実であった。
「そう知らない人間は少ない方がいい。しかし、そのデビル以上の脅威が合った時に備えて伝承は残しておかなければならない」
そして、忠犬号──カーネ・フェデーレの入港の晩となった。
健武が得物無く──持ってくる手段を考えていなかったためだ。しかし、得物無ければ己の身を必勝の手段とするのは忍者の倣い。
新月よりも密やかに、カーネ・フェデーレに忍び込む。あらかじめ、よろず開きの根は服用済みである。
ジョヴァンニが盗賊ギルドと接触して購入したロッドふたふりを手に──。
「‥‥忠犬。ですか──。
‥‥奴隷を管理する、牧羊犬‥‥。
それとも、非ローマ人を狩り出す狩猟犬‥‥か。
‥‥罠。と言うことは‥‥‥‥いや、どのみち、やることは変わらない。か」
メルフィナがあらかじめ打ち合わせておいた通りに手筈が進む。どうやら、クレメンスは象牙の塔の住人らしかった。
ヴィルジールが物陰に隠れて発動したブレスセンサーで中の人間の動きを探る。
「近くに固まった集団がいるみたいだけど──? 警邏、それとも奴隷? 動きがないからどちらでも取れるな。 船の方では── あ、倒れた? また、倒れた? 健武が当て身でも? まあ、船の中では隠れる場所がないからね」
如何に健武が隠行の達人でも天井を張ってでも進まなければ、狭い船内では、隠れきれるものではない。
「集団の方を調べてみましょう。ひょっとしたら悪趣味芝居を楽しみに来た、一団という可能性も──ないか?」
ジョヴァンニが呟きながらも、気配を殺しながら、顔を隠しつつ、ヴィルジールの手短なサポートの下、その気配の方に進んでいく。
近づいていくと、鎖で縛られた50人ほどの一団が5人程の精兵に守られているのが判る。
「こちらに奴隷が──奴隷の交換会という事もないでしょうから、船の方が罠?」
急いで戻ってきたジョヴァンニの報告を聞くと、懐から取り出したスクロールを開くクレメンス。銀色の淡い光に包まれ、健武の頭の中に声が響く。
「健武──急ぎです。予想通りそちらの船は囮です。3分で船を沈めますから、主立った面々を捕まえてください」
「了解、奴隷はいないのだな」
「はい」
すると、カーネ・フェデーレ号を視界に修めると、風に赤毛をたなびかせてクレメンスは精神集中を始めた。
健武が当て身を入れて捕まえた、船長とオーナーを水路に放り込むのを確認すると、クレメンスは魔法を唱える姿勢を取る。
「グラビティキャノンで船を沈めます」
「まあ、材質が木じゃ、ライトニングサンダーボルトじゃ、効力は薄いしね」
とヴィヴィ。
それから10秒、クレメンスは完全に詠唱し通しである。高速詠唱は出来るだろうが成功率が下がるのを危惧にしたのだろうか?
そして、大きく右手で描いた印からは褐色の光が、クレメンスに収束していく。
「大地の精霊よ、我が呼び声に応え、鉄槌と化し、不動なる者への絶対の鉄槌と化せ」
ヴォルト・フロム・ザ・ブルー。
クレメンスの左手のケリュケイオンから真っ直ぐな黒い線の伸び喫水線沿いに大穴を空けた。
沈み行く船の中から、競って逃げ出そうとする重歩兵達。しかし、ベネチアの水路に潜っていく。
次の日、ベネチアの広場に『私は奴隷を売買しました』と首から札をかけられた、船長とオーナーの姿があった。
しかし、奴隷達は自らの自由を得ても、何するでもなく、逆にクレメンス達に詰め寄った。
「俺たちがメシを食えないんだどうするつもりだ」
「せめてせめて、この子たちだけでも」
完全に他力本願である。
ジョヴァンニは保護される義務を持ち、しかし自らの奴隷にならないビザンチンの奴隷達と、自分で自分を貶めているこの奴隷達を見比べてため息をつくのであった。
結局、奴隷達は警邏により保護されたオーナーの私有物として戻っていくのであった。
法律上、奴隷はいない事になっているが、精神が奴隷の者は神聖ローマ帝国には幾らでもいる。
●ぼくは間違っていく
「やっと帰ってきたのだ〜、この風、この肌触りこそ神聖ローマよ!」
感慨深げに叫ぶヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)であったが、少年の背後には暗い影が背負わされている。
ローマ至上主義を掲げる狂信者集団『キンデルスベルグ騎士団』による、故郷と親族の喪失というふたつの影であった。
(余の身の振り方も考えないといけないであるな)
実家は滅ぼされたであるか‥‥父上、母上、と涙を隠しつつ、ヤングヴラド少年は──。
(しかし、このままじゃ余の身も危ういのだ。ここはひとまず生存を最優先するのだ。
アウグスト家と教皇庁に伝令者ギルドに40Gを払い込む。尚、一件10Gで伝令を出してくれるが、2箇所に対して出すので20G。それぞれに相手からの確実な返答を得る為のエチケットとしての20Gである
『帝国と貴家に対し二心無し』
──を主題とした文面をアウグスト家に送り。
「異端たる黒派の子に生まれた罪を償うため、聖女ジャンヌの探索行に同行する」
アビニョンの教皇庁へは、その様な文面を送った。
返答が来る前に、送付先住所のオルレアンへと急ぎ移動する。
ヴラド少年が遠目にジャンヌ・ダルクの姿は、白銀の鎧と長剣、盾に身を装い、兜をつけず、黒髪は流したままの、本百の吟遊詩人なら美女と褒め称える様な少女の姿であった。
「ジャンヌどのは聖女と言うだけあって、美人なのだ。いや〜色々と楽しみなのだ。
しかし、いかに神聖力が高いと言えども、騎士としては駆け出しなのだ。
武芸と貴族としての立ち居振る舞いを旅しながらみっちり叩き込むのだ!
手取り足取りなのだ〜うへへへ」
腰取りとまで言わないところがヤングヴラドがまだ若い由縁であろう。その頃、同じく──。
「久しぶりの神聖ローマだねぇん」
と懐かしげに呟く、エリー・エル(ea5970)自称23歳──しかし、とてもそこまで成熟している様に見えない──が、オルレアン侯爵家に敬意を持って通されるのと裏腹にヤングヴラド少年の前で無情に門は閉ざされた。
「なぜだー、なぜなのだ!」
ジーザスの使徒たる、神父のフォス・バレンタイン(ec0159)は閉ざされた門の上から──。
「聖女はジーザス白のもの、異端が過ぎて領地を愛国者に滅ぼされた罪深きものと交わす言葉などございません。行きたければビザンチンなり、ロシアなりの異端の天国で生きて、正当なる地獄に堕ちなさい、煉獄の扉は貴方には開かれておりません」
とぼとぼと来た道を帰ろうとするヤングヴラドであったが、そこへ黒いドミノに、黄色い修道服に身を包んだ自分よりやや背の高い──正確にはヤングヴラドが小柄すぎるのだが──多分、クレリックの少年、ノエル・スタビンズがいた。
「はじめまして、ジャンヌさんに会いにきたのですね? あのフォスさんは悪い人ではないのですが、些か狭量な所があるようでして‥‥ミミクリーとか使えませんか?そうしたら、ぼくに化けて屋敷内に入って‥‥」
「むう、ミミクリーは黒の技であるぞ? 何で神聖ローマの民であるノエル殿が平気でそんな事を言えるのだ? それはともかくとして、まあ良いのだ、我が輩はミミクリーは使えるのである。自分で化けるから、荷物をよろしく頼むのだ」
他人がいない事を確認して、ヤングヴラドはノエルに化けて、本物のノエルが出てきた裏木戸からオルレアン邸に入り、ようやく聖女と対面を果たすのであった。
八割美人といった所であろうか?
一方で、フォスの貴族階級には有効な論理攻撃も、非論理が論理になっているバラン・カリグラ(ec0735)、門を強硬によじ登ってまで到達したその狂信ッぷりに一種歓喜の念をば抱いた。
ナックルで後ろから連打を確実に入れるが、筋肉の絶対量に阻まれて痛痒も感じていないかのようであった。
「可愛そうだが、聖女様の為だ!」
出逢った影に、バランは旅の仲間に入れてほしいとダイビング土下座してお願いする。
「わたくし、生まれも育ちも神聖ローマです。名もない田舎の村で産湯を使い、姓はカリグラ、名はバラン、人呼んで“バラン・ラ・ムスクルス”と発します。不思議な縁持ちまして、お会いできた聖女様のために粉骨砕身、励もうと思っております。
西に行きましても東に行きましても、とかく土地のおアニィさんにごやっかいかけがちな若僧でございます。以後、見苦しき面体、お見知りおかれまして恐惶万端引き立てて、よろしく、お願(たの)み申します」
「あの、失礼ですけれど──」
「何なりとお申し付けください。聖女様が死ねと言えば笑って死に。神と戦えと言えば、正面から戦って見せましょう、何なりと──」
「ぼく聖女さまでなく、そのお付きのノエルですけど」
「何と!? これは予想外?」
「ノエル、何の騒ぎ」
と黒髪に汗を滲ませてジャンヌが出てくる。
「あ、ジャンヌさん──実は」
と、ノエルが解説しようとした所でバラン節炸裂。
目の幅いっぱいの涙を溢れさせ床に頭をすりつける。
「何と神々しき御姿、生まれてきた事を聖なる母と生みの母に感謝したい、むおー!」
「この狼藉者ですか? 何かお怪我は? 何かありましたら──すぐ処分しますから」
「A・M・O・R! ジャンヌ様ーっ!!」
「多分、只の田舎者ね。別に旅に加えても良いんじゃない」
「はは、確かに腕は立ちますな──腕だけは」
「うおぉぉっ! 聖女様じゃー! 本物の聖女様なんじゃー!!」
そこで面会を待っていたエリーがジャンヌの気まぐれ? とも取れる言動を見て。
「うぅん、聖なる乙女っていよりぃ、思春期の子供みたいだねぇん」
──とダイレクトに感想を云うが、何かこれからの彼女の聖なる乙女としての試練を考えると母性本能をくすぐられ放っておけない気持ちになり──。
「旅は道連れっていうしねぇん」
と一方的に彼女に同行することを決心する。
そこへ一同の顛末を見ていたルイス・フルトン(ec0134)曰く。
「聖女様はじめまして。私は神聖騎士のルイス・フルトンです。聖女様の助けになるべく馳せ参じました。どうか魔剣探索の一翼を担う事をお許しください」
「一翼ってそんなにいないじゃない──それに私は聖女じゃなーい、向こうが勝手にそう言っているだけだって」
ルイスは聖女様にオルレアンを発つ前に近在の修道院で三振りの魔剣とカール大帝の建国神話について予備知識を得る事を進言する。
その言葉に反応したフォスは俊敏にルイスを4発殴りつける。勿論全力である。
「建国神話──そんなものは『神聖ローマ』には存在はしない。カール大帝がレオ3世より、聖別された宝冠を抱いた神聖暦800年の出来事を言いたいのか? それは暦史であって、神話ではない。神話とは聖なる母とその御使いの行いをこそ示す」
「どうやら鞭が過ぎたようでして‥‥」
ルイスは一応、『正当解釈』に敬意を表して、建国神話を引っ込める。
「では、ジャンヌ様一口に魔剣と仰るが一体どの様な剣をお探しですか?」
「さあ、向こうが導くんでしょう」
「まあ、託宣を信じれば剣の大きさや形状が判らねば探しようも御座いません」
剣を探している積もりが、実は小剣で見過ごしていたというオチでは話にはならない。
「また剣の由来が探索の手掛かりになるやも知れませんな。まずは近在の修道院へ人をやり図書室で資料を探し、高名な学者に聞取り調査を行いましょう」
「失礼ですが、トゥルーズの三魔剣と言えば、『オートクレール』『ジョワイユース』『デュランダル』です。ナイトであるカール大帝の振るっていた『ジョワイユース』これは魔を退け、また自らを魔より加護する魔法が封じられている力を有している長剣とされます。カール大帝が、まだ王であった頃に、父から王位と共に譲り受けた、いわば王の象徴。ジョワイユースとは『喜ばしき』の意。柄には聖遺物としてロンギヌスの槍の穂先が入っております。
テンプルナイトであるオリヴィエの振るっていた『オートクレール』は刀身こそノーマルソードなれど、その身は軽く、握り柄は黄金、柄頭に水晶の飾り玉がついており、刃は茶褐色に施した鋼であり、魔力を打ち消す魔力を封じられていると聞きます。
そして、ノルマンでも紛い物が出回っている『デュランダル』はロングソードの型をしながら、その重さはジャイアントソード以上! その黄金造りの柄の中には、聖者ペトロの歯、聖者バジルの血、聖者ドゥニの毛髪、聖母マリアの衣片といった聖遺物が入っており、常に神の加護を得ていたといわれています。
そして、何より敵にとって怖ろしき全てを切り裂く純白のブランの刀身を持ち。十一とひとりのテンプルナイトが内の筆頭騎士、ローランが扱っていた品。天使より賜ったとされています。しかし、イスパニアに遠征に行った際、裏切り者の手引きによるサラセン軍のだまし討ちに遭いテンプルナイト壊滅の憂き目に遭った際、この剣をサラセン人に渡してはならないと、岩に叩きつけて刀身を砕こうとしましたが、逆に岩の方を破壊したという伝説の品です。
そのままローランの亡骸は天使によって何処へともなく運び出されたといいます。
後に援軍の要請に気づいたカール大帝がとって返し、若き騎士にこの剣を与えて弔い合戦に挑み、戦いは勝利。見事、現在の様に、サラセン人はイスパニアではカスティリアの一部に封じられた形となっており、魔剣はトゥルーズに封じられた形となっています」
と、オルレアンの司教が解説を入れる。まあ、一般常識の類であるが、ジャンヌは初耳であったようだ。
「最強の騎士が持っていてい負ける剣で、若き騎士が持つと勝てる剣ってそれ何よ、私、絶対『デュランダル』だけはいらない」
とジャンヌはへそを曲げた。まあ、別に探索に出たものが持つという事もないだろう。 グイード・ルークルス(ec0283)はそれまでの会話の流れから──。
「ならば丁度良いです。私がデュランダルを頂きましょう」
と宣言。
「魔剣を入手するために同行したいと思ってました。これからよろしくお願いします。人々が不幸にならないような使い方ができればいいのですが、大きな力はそれ自体災いとなりますからね。
力のあるアイテムは争いを生みます。こんなものは見つからないにこしたことはないんですけど」
「いえ、デュランダルの使命がこの神聖ローマに打ち込む楔となるでしょう。あれは作られた時から因果律に介入し続けますから。あなたが『つい』口に出してしまったかもしれないその言葉も、デュランダルのカラクリかも‥‥いえ、ついというのは失礼でしたね。」
と、グイードの話に割り込んだノエルは謝罪する。
失礼、新たな客人だ、とオルレアン候は来客を告げる。
「私はクローディア・ラシーロ。今は亡き父に代わって、この神聖ローマの為に働きたく思います。ローマの守護天使サマエル様に選定されし、聖女様を護る盾としてこの身はありたいと思います」
と、クローディア・ラシーロ(ec0502)は一呼吸おいて。
「ジャンヌ様は聖女に選定されてから間もないと聞いておりますので、傍にある事を許されたなら、ジャンヌ様に聖職者として礼儀作法やルール、又は剣の修行や神聖魔法の理について等、私の知りうる限りの技術・知識をご教授できればとも思います。
剣については、未だ皆様とどの流派を教えていけばいいのかという話合いが済んでおりませぬゆえ、今は教授できる機会があっても基礎に留めねばなりませんね」
かくして、バランが大旗に、オルレアンの聖女様ご一行と大書して振りかざし、一同の探索の旅への気運を嫌が応にでも高めるのであった。
●誰も知らない都会は荒野
「今回の布告を受けノルマンから参上しましたディアルト・ヘレスです。宜しくお願いします」
アヴィニョンに最後に着いたのはディアルト・ヘレス(ea2181)であった。
彼は装備していなければ、詮索はされないだろうという楽観の下に軍馬に多量の武器を持ち込んで、神聖ローマへと乗り付けたが、外国人蔑視は彼の予想を遙かに上回っていた。
服装等持ち物を荷改めされる場合には──。
「こちらでは普段使っているような武装はできないと伺いましたので」
──と没収されるような物は持っていないとアピールしたものの、但し見せるのはバックパックまで、という体勢が反神聖ローマ市民の関係者ではないかという疑いを催させてしまい。クラウンマスク、パラスの鎧、ホーリーメイス、ホーリーレザーヘルム、ラハト・ケレブ、リベットナックル、茨の冠、月桂冠、写本『悪魔学概論』、聖騎士の盾、聖剣『アルマス』、日本刀を無断持ち込みの段で没収され、軍馬を没収しないのが、せめてもの情けだと言わんばかりに国境から教皇庁への道のりを歩んでいた。
幸い杖一本あれば、降りかかる火の粉は払える。
そして、謁見が許され、ラスビリニ1世の目前に膝を折り──。
「聖なる母に殉ずる者としてやってきました」
と、挨拶したのである。
「ふん、本当に殉じる覚悟があればいいのだがな?」
と、教皇に見えない位置から毒息を吐きかける、デウス・アマデウス(ec0145)。
「さて、君で5人目だ。信仰の盾となりに訪れたものは、奇跡という例外措置を聖なる母のおわす天界から下された、と君たちも噂で聞くサー・ジャンヌは別格として、だが、ビショップ、テンプルナイトになるのは、相応の何かを見せなければならない、というのは理解しているね。
そこでだが、ドラゴンのカルブンクルスアニマを退治して欲しい」
これは『ルビーの息』という意味だ。教皇は一息入れて続ける。
「この長い名前のドラゴンは漁港としてしか知られていないタラント付近の火山に住んでいる竜だ。竜としての格はバーニングドラゴン、砕いて言えば炎のミドルドラゴンクラスである。しかし、年を経た為か、本来畜生なみの知性から成長したのか、人並みの知恵を持ち、竜独特の魔法で、翼を生やして、空中から炎を何度も吐きかける難敵だ。そう、カルブンクルスアニマは炎の精霊魔法をも行使する。更に頑丈な鱗でホーリー程度は軽く弾き返す」
「では、このカルブンクルスアニマを倒せば、修道士会を作る事を許可して頂けるので?」
と、シリウス・ゲイル(ec0163)が、自らがそれまでに構想を練り上げていた、国、宗派を越えた自らを鍛え上げ、共に信仰の道を分かち合おうという集団に関して改めて、許可を教皇に求める。
「修道士会のルールは、テンプルナイトとなった君が練り上げればいい。勿論、テンプルナイトという事で各所に浄財を求める事も出来よう。しかし、神聖ローマの中での特権は選帝候家の面々と、帝国の皇帝その人から求めねばならないだろうね。
まずは財源だよ、許可と出資は別物だ。
そして、修道士会が異端か否かも判断する権限は教皇庁の組織として動く以上、こちらにある。宗教の自由を求めたければ、ビザンチンで行い給え」
デウスは同じく、奴隷が反乱を起こした際のシンボルとなる騎士団の成立を教皇に求めていたが、財源は? の一言で斬り捨てられていた。
教皇もデビルではない。古典ローマ勢力の最右翼である、キンデルスベルク騎士団への紹介状を書いてくれた。
ガイセンベルクの近くキンデルスベルクの山に根拠地に置くのがこのキンデルスベルク騎士団であり、キンデルスベルク銀山から得られる富で、帝国内に独立勢力を気付いており、帝国の掲げる選民思想を忠実に遂行しており、ローマ市民以外に対してしばしば容赦のない略奪暴行行為を行う集団として知られていた。
テンプルナイトとなったデウスが入れば、その重しとなると教皇は考えたのだろう。
諸侯らの争いから生じた難民への、炊き出しから先程戻ったばかりのジュゼッペ・ペデルツィーニ(ec0207)は──。
「教皇猊下はこう仰られました。
『教皇庁の負担を二割減らす。その分、貧しき者達への施しを二割増やす』
僧職の人材を募った事で人手については多少緩和されたかと思いますが、やはり僧職のみでは人の世の隅々までに施しを与えるには、到底人手が足りないでしょう。僧職以外で人材を募ってみるのはどうでしょうか。
その為に財が必要であるならば‥‥免罪符。非ローマ人の商家に浄財を求め、免罪符を授けるのはどうでしょうか。施す為の財も、これで賄えるのではないでしょうか」
「ジュゼッペくん、君は非ローマ人に、それだけの理由で罪があると思うのかね?」
教皇は斬り返す。
(いやある)
デウスは胸の中で呟いた。
「よしんばあったとしよう。だとすれば、金で魂の汚れを落とせると思っているのかね? 魂の罪は金では購えない。地上の富に拘泥しないのは良い事だが、罪が許されるという事を理由にして金を集めるのは聖なる母の御心に沿う事とは私には到底思えない」
「ああ、教皇猊下は寛大なお方です。ノルマン人の血を半分持つジャンヌを正式なテンプルナイトとしてお認めになさったのですから。
『ローマ至上主義』と『異民族、異種族隔離政策』を当然のものとして育てられた私には、ローマの守護天使サマエル様の託宣が無ければ大手を振って認める事はできないでしょう。
‥‥いえ。信じます。教皇猊下のご判断を。信じる事。たとえ自分には信じられない疑わしい話でも。
それが『服従』の教えに込められた、愛の精神なのですから」
配給という難民達と触れ合って、自分のクリエイトハンドの魔法では人を十数人救うのが限度と思い知らされたジュゼッペであった。
だが、無謀な事をやった命知らずの怪我を治せば、自分の施しの魔法より遙かに多く、感謝の喜捨を受け取れる。その金銭で食料を買った方が遙かに多くの施しを出来るのだ。
これがジュゼッペの抱える矛盾であった。
指摘したのは、ディアーナ・ユーリウス(ec0234)は胸が大きい才女という、女性蔑視の者が見れば、すぐさまやり玉に挙げそうなタイプであったが、確固たる信念はそんなものは寄せ付けなかった。
(『一年以内に教皇庁の負担を二割減らし、貧しき者達への施しを二割増やす』のが目標なんだから、のんびりなんてしていられないわ)
空の下では精力的にニンニク畑の地ならしをし、聖堂に入っては帳簿を調べる。そこで見たのがジュゼッペの限界であった。
人はマナのみにて生きるにあらず。
やはり、日常食のニンニクも大事なのである。
「猊下、唯一の(?)特産品である、『アトラス派』の画家たちの育成‥‥学費援助とか。
または「アトラス派」に変わる名物を探してはどうでしょう?」
「いや、ディアーナくん、それは困った点がふたつある。画家の育成に力を入れると、教会の負担が増える。そして、私は私の目の青い内にローマに教皇庁を戻すつもりなのだから」
そして、デウスの力添えと発案で作られたクルス・グラディウスがこのビショップとテンプルナイトを目指す一団に配布されたのは月末の事であった。
しかし、ディアルトに渡される事は無かった。
「残念ですが、異民族に武具を渡すべからずというのが、神聖ローマの法です」
「では、ドラゴン相手に死ねというのか?」
「教皇猊下の前で大言したのはどなたかな? 殉じる為に来たのでしょう? まさかビショップを守護すべきテンプルナイトが場合を選んで戦える生半可な役職であるとお考えで?」
黒子はまだ姿を見せない。
次回:『蜜より甘い口づけを、全てを失いながら』
今回のクロストーク
No.1:(2007-02-09まで)
あなたのコンセプトを教えてください。
No.2:(2007-02-09まで)
あなたの進行方向で、最近貴族同士の戦争が勃発したとの噂が耳に入りました。
このまま行くと次の日の昼にはその抗戦地域に入りそうです。どんなリアクションをしますか?
No.3:(2007-02-09まで)
好みのタイプの恋愛相手を述べよ。固有名でも、漠然としたイメージでも可。信仰と結婚しているなら、崇拝対象を述べよ。
ただし、その相手と出会ったら一目惚れするものとする。