BlowinonamicizieBlowinonCoraggio

■クエストシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:17人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年03月01日
 〜2007年03月31日


エリア:神聖ローマ帝国

リプレイ公開日:03月21日18:08

●リプレイ本文

●蜜より甘い口づけを、全てを失いながら
「どうされたのですか? エリー殿」
 と、クローディア・ラシーロ(ec0502)が一同から外れて、エリー・エル(ea5970)が街道脇に倒れた少年達の所に向かう。
 子供が今ひとつ苦手なクローディアは───。
「任せるわ」
 一方で、フォス・バレンタイン(ec0159)、この神父は街道で倒れていた銀髪の少年ふたりを、介抱し、聖なるパンを与える。
「貴方がたがこの我々一行に遭遇したのも神の御加護があっての事でしょう。さあ、これを神に祈りながらお食べなさい。その傷も癒えるでしょう」
「アーメン」
「アーメン」
「で、あなた方はローマ人ですか? 言うまでもなくローマ人と言えば、神聖ローマ帝国の臣民を指す言葉ですけれど」
 正確にはローマ市民は古代ローマの民を指す言葉であり、広義にはビザンチン帝国の民をも指す言葉であったが、フォスの正当解釈はそれを許さない。
「ローマ人云々はおいといて怪我とか負っていないのねん?」
 エリーが見立てるが、負傷はしていないようだ。
「ありがとうございます、お姉さん。自分はレオンハルト、帝国の臣民です」
 とがっちりした、銀髪を短く刈り込んだ方の少年が応えた。
「僕はシャローム、神聖ローマの民人です」
 銀髪を流した少年の言葉が続いた。
「僕たちは聖女様の探索にお付き合いしたく参りました」
「行き倒れの少年がふたり。この旅は神託が切っ掛けの旅だ。この二人は神が選んだ。この一行の最後の参加者なのだろう。勇者と王とその友か。ならば彼らが勇者であったり王になったりするのだろうか」
 ルイス・フルトン(ec0134)は一同に訴えかける様に語り出す。
「これも聖女の導きのせいかもしれませんが───聖なる母の意志を推し量るのは如何なものかと?」
「いいや、最後のひとりはここにいるのである!」
 木の枝の上に腕を組んで、小柄な影が現れる。
 ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)である。
 それを見たバラン・カリグラ(ec0735)は───。
「むんっ!」
───筋肉を強調したポージングをする。だからどうなるという訳ではないが、ヤングヴラド少年並びに一同の顔は青ざめる。
「ふんぬーっ! 聖女様に近づく不貞の輩は、わしの筋肉が粉砕するんじゃー!」
「異教の輩めが!」
 フォスが体重を乗せて全力で木を蹴り飛ばすが、確実に当てる事しかできず、木を揺らすのみ。
「まあ、待つのである───いや、待って欲しいのだ。大いなる父の教えを捨て、聖なる母が慈愛の教えに目覚めたのだ。是非とも洗礼をお願いしたいのだ」
「嘘偽りはないな」
「我が亡くなった父母の御霊と、新しき信仰に賭けて」
「ちょっとこれどういうお笑い劇? さっぱり意味が判らないわよ!」
 地団駄を踏むジャンヌであった。
 エリーがジャンヌの肩を押さえて───。
「あら〜ヴラドくんお久しぶりねん。もそこの聖なる母の教えに目覚めたのねん? じゃあ、ちょうど、そこに立派な教会が見えているから、ちゃっちゃと済ませるの、善は急げって言うしね」
 その教会でノエル・スタビンズとフォスが教会を当座使えるだけの交渉をし、自らも助手を務めながらも、儀式は続く。
「洗礼とは、ジーザス信者となり、教会の一員に加えられるための儀式である。洗礼は、聖餐と並んで、主ジーザスご自身がお命じになった、神々の救いのしるしです。それを聖礼典と言います。
 洗礼を受けることによって、私たちの罪の赦しのために身代わりになって十字架にかかって死んで下さったジーザスの救いにあずかり、ジーザスの復活によって打ち立てられた新しい命に生きる者となり、礼拝を守りつつ生涯を歩むジーザス信者となるのです。白の教会が言い表している信仰を自分も信じ、受け入れることを表明した人に洗礼が授けられます───かくあれかし」
 教会の司教が、聖水を作り、ヤングヴラドの頭上から振りかけられる。しめやかに唱和するヤングヴラド少年。
「かくあれかし」
 少年達も祈りを捧げる。
「かくあれかし」
 かくして、白の神聖騎士『ヤングヴラド・ツェペシュ』が誕生したのである。

 一方、グイード・ルークルス(ec0283)は聖女様ご一行に先行して、安全なルートを確保しようとしたが、ノエルに聞いても───。
「さあ、判りかねます。ごめんなさい」
 と、返されてしまうのであった。
 どのあたりが目的地かも判らない。一応の目処はブロア王国であるが、これも内乱状態に陥っており、周囲もパイの取り分けに余念がない状態である。
 こんな所で聖女様ご一行が通ろうものなら、自分の勢力が正義であると、喧伝する材料に使われかねない。
 かなりの大回りになりそうであった。

「なんにせよ、そのような貧弱な体では話にならん! そっちの髪の短い方は見込みがあるが、長い方は駄目駄目じゃ。まずはわしのように立派な筋肉をつけるんじゃ」
 と、子供達をバランはジャンヌに結局どうするかを委ね、『聖女様』の判断に従う。

「一緒に連れて行きましょう。旅は道連れと言うから」
「やった、レオ‥‥ンハルト」
「うん、シャローム兄さん」
「あら、兄弟だったの?」
 クローディアは驚いたように口に手を当てる。
「兄弟とは良いものだ!」
 バランがポージングしつつ肯定した。
「うちでは義兄弟がちょっとした遊技をして誰が兄貴かを決めておる。今年は我が輩が兄役であるがな」
 レオンハルト少年とシャローム少年の兄弟に対し、ヤングヴラドは───。
「はっはっは、兄弟愛ではあるな。だが我が輩の愛情はスパルタ式、ローマとちょっと違うが、体力系で行くのだ。雑用役を召しつける」
「むう、身体を鍛えなくちゃ、聖女さまには会わせんのだ───」
 バランが宣言。
「この人達って」
 クローディアとジャンヌは立ちつくすのであった。


 結局一同はノルマンの国境すれすれに大回りする事になったのであった。
 次に目指すはクレルモンであるが、ここは最も信仰───神聖ローマ帝国に対する───が試される場所になりそうであった。

●シェラザード・クレイソン(ec0240)の遁走曲(フーガ)
 風霧健武(ea0403)曰く。
「随分と静かになったものだ───最も隠密は最初から音など立てぬが」
 クレメンスの配下の情報網で、クレメンスが魔法を使って、造反者(まあ、物は方便という言葉もある)をあぶり出すという話が広まると、櫛から歯が一本二本と抜けるように、ではなく、広まる先から、クレメンスの情報網は瓦解していった。
 あの人が───と、思うケースがあれば、単純に自分の事を喧伝されたくないため、関係者を無差別に殺していった殺戮者もいる。
 ともあれ、隠密稼業は情報が命。その情報を魔法で自由にやり取りされるとなると、本当に信頼できるものは居なくなってしまった。
 信用できる者は、異国人ばかり。
 ノルマン王国のヴィルジール・ヴィノア(ec0235)、イスパニア王国のトゥルエノ・ラシーロ(ec0246)、ビザンチン帝国のジョヴァンニ・セラータ(ec0232)。
 トゥルエノは狂化した自分を救った健武とヴィルジールの先日の義に応えるべく参上したのだ。ヴィルジール等を探そうとしたが、何のことはない、黒い子羊亭に行けばいつでも会えた───考えてみれば自分もクレメンスの所まではやってきたのだ。
 この思考に誘導するのにシェラザードの様々な誘導があった事は言うまでもない。
「しかし、所帯も小さくなったものだ。
 ジョヴァンニがその感慨を共有しつつ───。
「先にリードシンキングを受けておきたかったのですが‥‥新参者と言う理由で疑われるのも嫌なので、
 ところで、前回の作戦を知っていた組織のメンバーは? どれ位」
「二十四名。その内、七人が死体を確認できていない」
 潮に流されたか───逃げ延びたのかは不明である。
「忍者のネットワークが健在ならば、くだんのカーネ・フェデーレとそのオーナー、その取引先を洗いたい」
「どこもかしこも真っ黒だよ」
 神聖ローマなら真っ白という事だろう。
「解放した奴隷の受け入れ先に当ては?
 ないなら外国の組織を頼ってはどうかと」
「自分たちでこっそりと───今はだが、隠れ里を造ってもらい、一大勢力になるのを待つつもりだったよ。外国の組織か? 彼らを卑下する訳ではないが、自国語の読み書きもままならない被害者を、更に言葉まで判らない異郷に放り出すつもりかい? それはノルマンは色々遺恨があるだろうが、これが火種で戦を起こしたくはない」
「教皇庁の改革派と手を組むつもりは?」
「自分が今一番手を組んではいけない相手は教皇庁だと思っている。白の神聖騎士の教えに背を向け、黒の神聖騎士から、ウィザードを経て、セージになった身だ。教皇庁も元身内というだけで、十分に柔軟な対応が出来なくなるだろう」
『国外組織と協力体制を得る為の秘密会談がある』という偽情報で燻り出そうかと考えていたよ。
 俺たち冒険者はローマ国外から来た身だし、そういった事情も偽情報の信憑性に役立つかなと思ったんだけど、効き過ぎたかな?」
「その様だ。特に健武が劇薬過ぎた」
 と、クレメンス。
 一息入れてワインを煽り、クレメンスはジョヴァンニの問いに応える
「それと、忍者のネットワークからの情報収集の件だったね」
 アルス・マルモンロイドの動向───これは今現在はローマにいるそうだ。
 ベネチアの衛視の巡回ルート、時間が判っても、一時的な物だ。潮にも左右されるしね」
「そういう要因か‥‥」
 話が途切れたところで、健武がクレメンスに尋ねる。
「クレメンス、駄目元で魔剣の封印場所を聞いてみていいか」
「駄目駄目‥‥というより、聞いてどうするつもりだい? トゥルーズに眠る事なき守護者に守られているよ、封じられし者と共にね」
「封じられし者───では、やはり、トゥルーズの3魔剣が揃うと何が起こるのか?」

「正確には違うね、起こさない為にある」
「起こす? ‥‥ウエイクアップ? コーズ?」
「───両方だよ。あるデビル───名前は不明だが、トゥールーズの地にを封じている。
 全てを消滅させる四大精霊全ての力を用いた魔法以外で、悪魔を完全に滅ぼす手段は少なくとも自分には判らないからね。
 もちろん、地獄界に行って本体直接攻撃するならともかく、ああ悪魔の精神、魂、イデア? 本質は地獄にある。地上にあるのは悪魔で仮初めの肉体でしかない。
 デビルがかりそめの肉体を破壊された時に、次の肉体を得るには、数年〜数十年くらい、地獄界でおとなしくして回復すれば、現世に戻ってこれるようになる。
 三魔剣はそのデビルの本質を地獄に帰さず、大地に封じるためにある。一本、賭けてもその霊力は損なわれる」
 と、ビザンチンにいた時セージとしての師に教わったとクレメンス。
「何故貴方が所持していたのか?」
「何故、と聞かれて応えようがないな。表面的にはアドリア海の沈没船から引き上げたからだよ。しかし、因果律の彼方には計り知れない意図を持って、自分を一時の主に選んだのかもしれない。トゥルーズに再び置くためにね」
「持つ者に資格の様なものが必要か? 異国人の俺や、ジャンヌ・ダルクにも使いこなせるモノなのだろうか?」
「判らないね。ただ、言えるのは神聖騎士であった自分には使えた、という事だよ」
「ちんぷんかんぷんだ。まるで魔法だ」
「それは自分がセージだからだよ」
「で、選帝候家を入れ替える為の根回しだが、実際に入れ替えるには、どのような方法があるのか?
 選帝候家にクレメンス殿の理解者はいるのか?」
 ジョヴァンニも───。
「『選帝候家を入れ替える』と、言われましたが‥‥新たな選帝候になれる程の有力貴族、それもローマ至上主義者ではない人物がいるのですか?」
 続けてヴィルジールは───。
「クレメンスは入れ替えを考えてるようだね。
 何か秘策でもあるなら良いけど‥‥。
 でも、それの他にも、こんな手を打っておくのはどうだろう?
『選帝候家当主の挿げ替え』を狙う。
 各選帝候家の次期当主候補の中で、歪んだローマ至上主義を憂いている人物を見付け、組織と繋がりを持ってもらい協力体制を取る。
 無論、当主交代には何年も掛かるかもしれない‥‥それでもやる価値はあると思う。

 他にも至上主義に密かに反感を持つ従国王ともコネが欲しい。
 繋がりを持つには慎重な見極めが必要だろう」
「自分が推すのは、ヤーグルくんだね。サクソニア家の次代、といっても今18歳の若君だがね。何しろ、12年前の大敗戦で当時の選帝候がまとめて、まあ皇帝も含めて代替わりしたので、例年の平均に比べると代表も、次代も若くなっているのだよ、の家庭教師をして、言うなれば尊敬されているね。そこから意見をすり替えていこうと思う」
 健武が言葉を接ぐ。
「居るのか。必要あらば裏から支援をしたいのだが‥‥」
「どんな支援をするつもりだい? 異国人が近づけば今は排斥しなければいけない身の上にあるのだよ」
「俺は暗殺者になりたいと思っていた。当代の首を撥ねれば、選帝候の内、1/7分の意見は身につけられるのだろう? ともあれ、民衆に、異国人の認識を改めて欲しいので、山賊や魔物で困っている人々がいれば退治をしたい。
 役人に対して出しゃばる気は無いので、退治後は直ぐに撤収するつもりだ。
まぁ、クレメンス殿が反対すれば中止するが」
「反対だ。そもそも組織を表立てる気はない。求められれば、行いもしようが───生憎と自分は慈愛心の使徒ではない。
 だから、一匹の羊を探すために、九十九匹の羊を置いていくわけにはいかない。その一匹の羊に天が───東洋的な意味ではないが───与えた試練だと自分は考えている。
 もっとも望ましいのは九十九匹の羊が自分の意志で立ち上がり行動することだからね───黒い子羊、皮肉な名だよ」

 ジョヴァンニは悩みながらメルフィナ・ハーラル(ec0233)と、ゴンドラに無意識にのり表に出る。
「‥‥困った
 マルモンロイド家の影響は排除したい、が。
‥‥裏街道に更に一歩、踏み込む。か?
マルモンロイド家の息のかかってないシーフギルドの幹部と接触を図ろう、いや図らねば。
‥‥仁義だとか誇りを持っているマシな人間がいればいいが」
「へへ、お悩みのようで?」
 ゴンドラの漕手が声をかけてくる。
「マルモンロイド家の事で何か?」
「口に出していってたか?」
「まあ、ぶつぶつと‥‥」
 ポーカーフェイスが自然と身に付いていたようであるが、この難事につい後ろ向きになりすぎていたのだろう。
「もっとも、マルモンロイド家の息のかかった間諜は、皆クレメンスの元を離れましたがね。あの人は諜報戦には向いていないようでして」
「そこまで判っていて───」
「なーに、奴隷だったり、奴隷にされかかった身としては放っておけないんですよ。法律書には奴隷と書かれていなくてもね。全く、今、シーフギルドにクレメンスの部下だと判っている身が行くのは遺書を書いてからの方がいいですぜ───おっと、彼女も止めた方が良いですぜ、クレメンスの所に通った女としてマークされている」
「随分と事情通だな」
「───へへ、シーフギルド、身内での名前はベネチア教皇庁が女枢機卿のひとり『慈悲の』マリアと申します」
「異性装か───地獄に堕ちても自分の責任だからな」
「ビザンチンの方は砕けていて良い。都市の空気は人を自由にしやすからね」
「その物言いはやめろ」
「人は服にあった行動しか出来ない物ですからね」

●奇跡の価値は───?
「やれやれ、マルセイユ見物をする暇も無いとはね」
 シリウス・ゲイル(ec0163)は最近海軍基地が出来たというマルセイユの最新の施設見物を楽しみにしていたが、善は急げとばかりにローマへと船での旅路を急ぐことになった。
 ローマまで後1日という所で叫ぶシリウス───。
「ドラゴン! 赤い! これは!」
 水平線上を滑るように飛んでくるカルブンクルスアニマの存在に気がついたシリウスは足元のバックパックから盾代わりに鉄鉱石を取り出そうとするが、バックパックから何かを取り出すには時間もかかる上、元々、鉄鉱石は一塊というわけではない───第一、加工もされていない鉄鉱石が何かを遮るの適した形状ではない。
 バリスタを打ち込むが軽く避けられる。
 そんな彼らを船上の嘲笑うかのように、30メートルまで近づくとドラゴンは大きく口を開く。
 ディアルト・ヘレス (ea2181)はそれをブレスを吐く前触れだと察し、近くの遮蔽物へ身を隠す。船上だけあって荷物は多い。
 一方、デウス・アマデウス (ec0145)は───。
「帝国の正義と、ローマ人、そして天上の栄光の為! さあ、戦え!」
───ローマ人を護る為、また迎え撃つ為に前に出る。そして、ブレス攻撃に備え盾を押し出すように防御。
「クルスグラディウスよ聖なる母の為の祈りの十字架となれ、コア───駄目だ遠すぎる」
 咄嗟の事に判断がつかぬ、ジュゼッペ・ペデルツィーニ(ec0207)。ディアルト・ヘレス(ea2181)、ディアーナ・ユーリウス(ec0234)はそのまま炎に晒される。
 円錐状に吹き出された炎はデウスの片眼の赤さよりも赤く、地獄のように熱かった。

 結局無事だったのはディアルトだけであった。
 帆は焼け爛れている。これからは近くの港に寄って、帆を取り替えねばならないが、それまでは怪我人達も力を合わせて漕ぐしかないだろう。
 カルブンクルスアニマはそのまま、哄笑をあげて去っていった。どうやら、ただの戯れらしい。怖ろしい───つまりは本能ではなく、悪意を持って行動できるだけの知識を持っているのだ。
 一方、ディアルトは───。
「今、苦しみを押さえましょう。これだけの参上です。みだりではありませんよね?」

 周囲で苦しむ者にリカバーをかけて、一時的な応急処置とする。ディアルト。彼が生きていたのは逃げる事を選んだからであり、痛みに苦しむ者は彼の慎重さに救われた事になる。
「私に力があれば、デウスだけでも救えたのだが───」
 ディアーナは傷つきながら、息も絶え絶えに、言葉を漏らす。
「いや、大丈夫だ。準備がある」
 と、ヒーリングポーションを呑んだ後、リカバーポーションを煽る。
 痛みは失せた。
「聖なる母よ。あなたの御力を帯びたポーションで傷は癒されました、感謝します」
 痛みが一時やんだディアーナは───。
「本当に圧倒的すぎます。予備知識があれば───と、思ってましたけど、あっても倒せるかはあやしいかも。今のは戯れだった? でも、本気だったら───空を駆ける竜に抗すべき手段は事実上無いでしょう」
 テンプルナイトに求められているのは格闘術であって、射撃術ではない。たしかにこの差を埋めれば、奇跡にも等しいだろう。
 ジュゼッペは───。
「今回は準備に専念するべきとの考え方をされる方がいらっしゃいます。
 教皇庁からの任務は速やかに行うべきと思いますが、不十分な準備では達成できないのも道理。
 良く判りました、カルブンクルスアニマにとって遊びだけでこの惨禍ですから。
 表立って期限を切られてはおらず、どこかの村が襲われたという話も聞いていませんので、準備を必要とする方の用意が整ってから討伐に向かう事に致します。
 もっとも遊びで炎を吐きかけるほど、炎種の竜は元々気性が荒い事が多いとこの目で見ましたので、村が襲われている事は暗黙の了解なのかもしれませんが。また教会の目標達成に遅延が出ないように気をつけねば」
 それに応えてタラント生まれの船員が、カルブンクルスアニマはタラントの街ではひと月に一度くらいは襲撃にあっているし、それがいつかは判らないから、皆船で海に出て、魚を採って、それを船上で加工して、近くの都市へ売りさばきにいくんだそうだ。無論、運が悪ければ海の上でもこの様に襲われる、カルブンクルスアニマの行動を予測はできない、と明言した。
「なるほど、皆で行って正解な様です。万一どなたかが今回討伐に向かうようであれば、そのままにするわけにも行きませんので引き止めようと思ってました。ひとりふたりでかなう相手ではなさそうですので。全員で行っても、距離の差という暴力をどうにかしなければ、我らは単なる狩りの獲物になるだけでしょう」
 そして、一同は途中で船を乗り継いで、ローマへとついた。
 シリウスが期待していたローマ教皇庁跡であったが、略奪の跡も激しく、鍛冶場も相当に時間をかけなければ使えそうになかった。
「これは困りましたね───」
「ふむ、幾ら名鍛冶師といっても罅だらけの炉では何もし難い? という事か?」
 デウスが自嘲気味の笑みを浮かべる。
「そもそもデウス殿、貴殿の方も人集めは上手く行っていないようだが?」
 皮肉でも何でもなく、シリウスはデウスに告げた。
「全く集まらない。テンプルナイトになる、あるいはビショップを目指すだけの志があるものは我らだけの様だ。カルブンクルスアニマの話をしたら、逃げ出すような輩ばかりだ、ローマの民たる誇りはないのか?」
「一番、カルブンクルスアニマに利きそうなのはパイクによるスマッシュか、ポイントアタックだろう。パイクはなにしろ重量があるからね」
「どうしてこういう時に限ってコナン流を納めた志望者がいないのだ! 悪意すら感じるぞ」
「これはそれらの技を修めよ、という聖なる母のご意志かもしれない。あるいは教皇猊下に上手く誘導されているか───」
「ところでシリウスはここは駄目だと言ったが、工房を借りられるかもしれないぞ───」

「直際に言おう。デウス、自分たちの考えていた武具は実現不可能だ。例え自分が錬金術に詳しく魔力が籠もっていても、私の作れる範疇にはない破壊力だ。年単位で時間をかける『研究』が必要な得物だよ。クルスグラディウスは今までの得物を極論すれば刃を付け替えただけだったが、これはゼロから作り出さなければならない。超人めいたインスピレーションが無ければ到底造りあげる事も出来ない。ましてや、探索などしながら出来る事ではない」
「成る程、信仰の鍛え手たる貴殿が言うのならそうなのだろう───失望したよ。
 ともあれ、ドラゴンの硬い鱗をどうやって突破するかに関してはパイクによる一点突破か。誰かが覚える必要のある技だろう。
 飛行するドラゴンをどうやって地上に落とすか、だが。相手が余程特殊な状況、ブレスだけでは埒を空かないと思わせるか、地上戦でなければ勝てない、と考えさせる必要があるだろう」
 デウスは後ろ手に腕を組み工房跡を歩き回り。
 固い鱗を突破するかにについては目や鼻、口内、関節部分、翼などが攻撃が通じるのではないかと推察。だが、空中では届かないという根本的な問題があり、そういった隙間を狙い撃ちできる技量の者が欠けている。
 飛行するカルブンクルスアニマを地上に落とすにはコアギュレイトで動きを封じれないか考えてみるが、それには間合いがこの魔法だとあまりに短すぎる。
「我らが栄光ある皇帝、マキシミリアン・カースン3世陛下への謁見に出るか───武装は我らが礼装なれど、カルブンクルスアニマに一方的に焼かれた服では見苦しかろう、それとも可能性を信じて、工房で何かを作れるか試してみるか───テンプルナイトならいざ知らず、一介の神聖騎士では謁見できるか───それにどれだけ待たされるか判った物ではないぞ」
「そこはそれ、鼻薬を嗅がせる必要があるだろう。まあ、今は選帝候を交えての我らが祖国神聖ローマ帝国の将来をかけた会議の真っ最中だけあって難しいだろうがな」
 一方、ディアルトは武具作製の鍛冶屋は恐らく立ち入り制限区域だと予想し、それが外れていなかった事に半ば嫌気がさしながらも、立ち入れる場所にてローマの近況をつぶさに観察。内情把握に努めようかと思ったが、これではスパイと勘違いされて物事をややこしくするだけだと思い直し、もっと直際に自分の身分を明かし、これから向かう南部方面の情報を収集する。
 領主は誰で雰囲気はどうだとか、ローマの法を厳格に適用するのか少しは融通が利くのかとか。商人や旅芸人を中心に聞いて回ったが、アンゲルス公爵という貴族が代官に納めさせている土地で、カルブンクルスアニマがいつ来るか判らないため、都市の人間は逃げられるだけの資金が無くて出られない者か、余程タラントに愛着があるものかの両極端だという。雰囲気は麻薬などが蔓延し退廃的だが、代官が厳しい為、表面上は秩序だって納められているという、情報が判った。
 話半ばで、教会でドラゴンについての過去に退治した記録とか、どのような行動を取るかとかを探し、今回の退治の参考にする。
 修道院で見つけた資料によると、空を飛ぶドラゴンは弓で翼を切り裂き、地上に落とす。地上のドラゴンは軍隊で取り囲んでファランクスで蹂躙する。
「今の人数では無理だな───」
 ディアルトは午後4時の鐘がなる前に注意を促され、修道僧に資料を返すと急ぎ宿に戻るのであった。
 ディアーナは調べ物を続けていた。カルブンクルスアニマは火山に住み着いているということだけれど。頻繁に火山から外へ出ることはあるのか、おそらく週に二遍程度。
「まずはカルブンクルスアニマの実態を詳しく調べたいわね。
それから、カルブンクルスアニマと戦いを挑んだことのある人がいるかどうかも」
 いたけど、誰も帰ってこなかった。火山というだけでそれ以上に詳しい話が出てこないのは火山の方角に飛び去ったからだ。
「カルブンクルスアニマに限らず、世界には様々なドラゴンがいるけれど、人々がどのようにドラゴンを退治してきたのか」
 これはディアルトと同じであった。ただ、神聖ローマ以外では魔法という選択肢が増えたのである。
または、著名な学者は合うのに予約がいるが、暇にしている吟遊詩人に話を聞いてみたりすることにするディアーナ。
 人並みの知恵を持っているというけれど、人の言葉を理解できたりするのかしら?
 不明。
 好きなもの、苦手なものなどはあるのかしら?
 多分、陸生の生き餌。二本足であるく奴。
 夜行性だとか、または夜は熟睡しているとか?
 不明、ただし、襲撃は昼間が比較的多いらしい。
 暗いところではあまり目が見えないとか、逆に夜目が利くか?
 不明。
 視野は広いのか狭いのか?
 恐らく目の位置からして比較的狭いはず。断言は出来ない。
 空腹時は凶暴になるとか、満腹時は動きが鈍くなるとか?
 たぶん、いつも凶暴。
 いつも活動している時間、活動範囲&拠点、ねぐら、癖。
 多岐すぎて不明。
 これらの結果をディアーナは教皇猊下に報告書という形で送っていた。
 一方、ジュゼッペは───。
 タラントという都市の様子、竜による被害はディアルトと同等の知識を得て。
 竜の普段の生活に関してはディアーナと同等の知識を得た。
 竜の住居に関して判らないのは同じであった。
 竜を狩る者は、ローマで更に情報収集するか? それともタラントに移動するか?
 二択がクルス・グラディウスの同志達に迫られていた。
 ともあれ、一同は全身を覆う火傷を癒し、デウスはちゃっかり、教皇庁跡からポーション達を発見していた。
 今はこれが精一杯。

●次回タイトル:全てを失いながら、我ら挫けず


次回舞台となる予定の都市
1)ローマ(竜を狩る者、奴隷制度関係)
2)ベネチア(黒い子羊関係)
3)クレルモン(新規向け)
4)ノルマンとの国境沿いの小さな街(聖女関係)
5)タラント(非推奨)

A)得物に物を言わせる
B)舌先三寸
C)情報集め
D)人集め
E)教える/教えられる
F)フリー

※行動はアルファベットと数字を組み合わせる事、アルファベットは幾つつけても構わないが、その分描写は薄くなる。
※2宗教やクラスチェンジの希望などはしたいな〜、ではなく。クラスチェンジしたい、宗旨変したいと明言する事。あくまでロールプレイとして迷っている描写が欲しければその旨書き添えること。

今回のクロストーク

No.1:(2007-02-26まで)
  あなたの得意料理はなんですか?
 また、好みの相手に食べさせたい料理は何ですか?

No.2:(2007-02-26まで)
  神聖ローマ帝国はどこらへんが素晴らしいと思いますか?

No.3:(2007-02-26まで)
  あなたは自分の宗派から異端者として告発されたので、近くの宗教施設に出頭するよう召喚状が来ました。どんな準備する?

No.4:(2007-02-26まで)
  自分たち以外、人がいない状況で非ローマ人が武装しようとしています。偉大なる探索のためですが、あなたとしてはどうしますか?

No.5:(2007-03-01まで)
  PCの知っている家族構成は?

No.6:(2007-03-01まで)
  転職できるなら、何がいい?

No.7:(2007-03-09まで)
  あなたの切り札は何ですか?

No.8:(2007-03-09まで)
 あってみたい選帝候(先代を含む)や皇帝はいますか?

No.9:(2007-03-09まで)
  船の上で巨大赤いドラゴンが水平線上を飛んできて、此方に向かって口を開けました。リアクションは?(教皇庁関係向け)

No.10:(2007-03-31まで)
  あなたの人生最大の逆境は何でしたか?(過去形)

No.11:(2007-03-31まで)
 あなたの人生最大の幸せは何でしたか?