Blowi non amicizie Blowi non Coraggio
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■クエストシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:‐
難易度:‐
成功報酬:-
参加人数:17人
サポート参加人数:-人
冒険期間:2007年02月01日 〜2007年11月31日
エリア:神聖ローマ帝国
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●教皇庁の憂鬱
幾度滅びようと、聖なる母の威光ある限り立ち上がり、数多の聖者と、勇者達を産んだ土地ローマ。
この地にはジーザス白の教会の総本山であるアビニョン教皇庁が存在する。
過去にあったノルマン制圧の際、ローマにあった教皇庁も略奪に逢い、教皇庁は田舎町アビニョンに居を変えた。
もっとも、知名度はローマ教皇庁の方がはるかにメジャーである。
更に近年に発見された、謎の土地へと通じる“謎の月道”への、高位の司教、大司教の投入により、幾つかの教会の所領を、教皇が一括して扱っていた。
人がいない。上にもいなければ、下にもいない。
神聖ローマ人の常食である『生ニンニク』を食事の時間という事で、礼儀正しく口に入れる男──この40代にようやくなった男──こそが現在の神聖ローマ、最高位の──格式においても実力においても──ビショップ、教皇ラスビリニ1世である。
金髪青目、やや窶れ気味だが、人々を魅了せずにはおけない、そんな若々しい雰囲気をこの教皇は醸し出していた。
それでもニンニクを囓るのだが、神聖ローマではニンニクには祓魔の力があると信じられている。
ラピズリニ教皇は手早く食事を終えると、達筆な文章で書かれている先程まで大司教間でやり取りされていた手紙を見た。
どこも、教会の代理人である『ビショップ』と、その守護者である『テンプルナイト』の稀少さに嘆いていた。
教会の全権代理人ともいうべきビショップはクレリックが修行の末に到達する境地であり、テンプルナイトはその守り手であり、人々を霊的に守護するビショップに対し、テンプルナイトは物質的に人々を守るものとされていた。
どちらにしても、信仰篤く、人々の模範たる存在に達しなければ、到達できる領域の存在ではない。
「『テンプルナイト、ビショップともに、聖なる母に身を献げる事を望まんとする者にはアビニョンに来たれ』と布告を出したまえ。一年以内に教皇庁の負担を二割減らす。その分、貧しき者達への施しを二割増やす」
静かながら威厳に満ちた声でラビズリニは宣告した。さて、ローマやら、あちこちの月道の通じる国家へ、またマルセイユから、外交ルートのある道へとそれらの書簡は運ばれていった。
●ローマの常識は、世界の非常識
こうして、教皇庁から手紙は各国へと運ばれていった──ローマ人の所領がある土地へ。
70年ほど前から神聖ローマは他国とは隔絶したジーザスの教えと、古代ローマへの回帰を目標とする『ローマ至上主義』をとっており、徹底した『異民族、異種族隔離政策』を打ち出す事で、商業、宗教以外の交流は他国とはなかった。
無論、宗教にしても人間以外の種族が高位の地位にある事は余程の事が無い限り希である。
他民族、多種族の出入りも自由にはならず、入国後も外出時間など厳しく制限がかかっている。
その異国人の使う魔法であれ、神聖ローマの市民の用いるそれであれ、神聖ローマでは、神聖魔法以外禁止であり、破れば当然罰則が待っていた。
その唯一認可されている神聖魔法ですら、緊急時の回復魔法としての使用さえも、みだりと見なされれば処罰の対象であった。
そんな神聖ローマの世俗の行く末を決める7人の選帝候──かつての皇帝が遺子を託し、兵法で鳴らした一族の末裔である。
攻勢を旨とするアウリッシェン家。
攻城戦を得意とするサクソニア家。
諜報戦を得意とするアウグスト家。
騎兵戦術を得意とするユージン家。
劣勢時の戦線維持のマッセンバッハ家。
守りにおいては右に出るもの無しと謳われたヒューロボーバン家。
突出した所はないが、他の六家の兵法をまんべんなく取り入れているマルモンロイド家。
無論、それぞれも一角の武人である。
それら選帝候に選ばれた現在の皇帝、『マクシミリアン3世』には悩みがあった。
側室に産ませた双子の息子、ヒエロニムス(兄)と、レオ(弟)である。
これが適材適所という言葉を薬にもしたくもない、マクシミリアン3世は育て方を誤ったのでは、と悩んでいる。
長男は腰までの銀髪豊かなれど、線が細く華奢で儚げなヒエロニムス少年──ふたりとも1002年初頭では12才である──はローマ皇帝の宮殿にある礼拝堂(攻城戦になった時の事を考えて礼拝堂は城内にあるのが通例である)で、聖なる母に祈りを捧げていた。
「どうか、地の果てまで──ジーザスの福音のもたらし手となれるビショップになれる様ぼくを見守ってください」
片膝を突き、目前にある磔刑に真摯な瞳をやる、ヒエロニムス少年は十字を切る。
その一方で、レオ少年は銀髪を短く刈り込み(板金鎧一式に身を包んでいるため、それは見て判らないが)軍馬に乗り、ランスを構える、華奢ながらも線の細さは感じさせない、むしろ元気爆発な感じのレオ少年は激しく教官と、盾とランスを交えていた。
普通のローマ軍の戦術は長槍衾のファランクス兵団であるが、最近になって騎士団へのウェイトの変更も行われている。
レオ少年はその変革の嵐に乗ろうというのだろう。
しかし、未熟な身、教官のランスの一撃をまともに浴びる。ふらつくレオ。
「こんな所で負けているのでは、神の正義の戦いに身を捧げるテンプルナイトの資格はない! まだまだ!!」
「陛下──まだ弱小の頃から無理して武術をやれば、その反動は必ず来ます。どうか、ご自愛を──」
教官が窘めるが、レオは構わず。
「テンプルナイトを目指す身なれば、弱者の為、何時如何なる時でも闘わなくては行けない時がある! ならば──その時に大事なものを失わない様に腕を磨かねば」
と、言いながら体力が尽きて落馬する。
もちろん、供回りがずり落ちる途中で押さえるが、子供の体力の限界というものをもっと考えるべきだろう。
マクシミリアン3世はは宮廷の一角にある皇子達の練習? 風景を目にして──もっとも、慣れっこの風景であり、昨日今日に言い出したわけではないのだが。
「やれやれ、天上の栄光──結構だが、レオにはビショップになって、行く行くは枢機卿を経て、教皇になり。ヒエロニムスはナイトとなって、私の右腕の位置から、皇帝の座を選帝候に認めさせようと目論んでいたのだが‥‥」
どんなに自身に権威があろうとも、次の皇帝は選帝候の選挙で決まる。
皇帝の息子が皇帝とは限らないのだ。
少なくともビショップにしろ、テンプルナイトにしろ教皇庁のからくりに組み込まれてしまう。
そんな人物をどの選帝候が認めるのだろうか?
●羅馬人からの手紙
先程も述べたが、神聖ローマの民人は、外国の人物は、金でやり取りするだけの相手か、殊勝にも聖なる母を信じるだけの相手としか見ていない。
ましてや、異種族、異人種、異教の者ならば人間扱いして貰えない。
市民権、定住権すら認めて貰えないのであった。
そんな者はスラム街未満の密集した地域に押し込められ、神聖ローマから放り出される日を待つしかない。
そんな彼らが押し込められているのはベネチア。
島々を橋で繋いで造られた商業都市。街中に張り巡らせた運河は有名で、フランクとの通商拠点でもある。
古代ローマの将軍によって世界に散らばったユダヤ民族が安心して住める数少ない都市である。彼等は法により土地の所有や公務(兵役も含む)を禁じられているため、学者や商人、金融業者としてベネチア経済の中核を支えている。
無論、ユダヤ人の他の異人種がその恩恵を受けている訳ではなく──そんな現状に満足しているものだけではない。
「海」
「山」
これらの日本語の会話が繰り広げられたのはそんな外国人居留区のひとつ。
入ってきた影は典型的なローマ人の商人と言った風体であったが、印を組み、煙に包まれると忍び装束の姿を露わにする──忍者だ。
「どうでしたか? やはり現状は『奴隷制度』の復活に向かっていますか?」
優しいテノールの声で忍者に問いかけるのは、真っ直ぐな赤毛を、背中まで垂らした優しげな人間の青年であった。
金目のアーモンド形の瞳をした、この男は名をクレメンス・アブラハム。ベネチアの外国人居留街の顔とも言うべき存在であった。
見た目から外見を推し量ろうとしても、20代と言われれば、20代だろうし、40代と言われれば、そうか‥‥と納得せざる得ないような年齢不詳ぶりであった。
身にまとうは白いローブとマント、手には絡み合う2匹の蛇と、翼を意匠としたケリュケイオン──俗に言うヘルメスの杖であった。
彼は非神聖ローマ人の居留者をまとめて、神聖ローマの屋台骨を揺さぶるのが最終的な目標であった。
何の魔法を使うかは不詳。怪我をしたらポーションで癒してくれる。
少なくとも彼は神聖ローマの出身ながら、神聖ローマの現状を良くは思っていないらしい。
「ベネチアの水路は入り組んでいる。制度化される前の勇み足の奴隷売買の現場を押さえて、罪人として晒し、『奴隷制度』が制度として確立される前に、奴隷とされる者を解放しなければ──」
「まだ留まっている異国人に声をかけてみます」
忍者達のネットワークによる暗躍により、あちこちの居留区にいた異国人とも、繋ぎもとれ、クレメンスも独自に調査を進めて、今度の晩に入港する船、カーネ・フェデーレ号が荷物を積み降ろす事まで確認が取れた。問題は奴隷を降ろすのか、奴隷を積むのかが判然としない点であった。
「善良なローマ人には手出し無用、後の対話の糸口を自ら斬る事はない」
クレメンスは集まった面々にそう宣言した。
●Dieu le veult!
ノルマンとの国境の街オルレアン。
この地には『世に悪のはびこる時、聖なる乙女が現れて国を救う』という言い伝えが残っている。
だが、現実とは誰もが思っていなかった。いや、思いたかったのかもしれない。
そんな中『聖なる乙女』に言葉を告げた、クレリックの少年はノエル・スタビンズと名乗った。
黄色と黒をトーンとした質素な修道服を身に纏い、粗末な木の十字架を首からぶら下げている12才ほどの金髪を肩で切りそろえ、茶色の好奇心旺盛そうな、それでいて純真な眼差しが『聖なる乙女』の少女をまっすぐ見つめる。
ローマ人の17才の少女。とは言っても、過去のノルマン解放戦争の当時に、ノルマン人に、ローマ人の母親が乱暴され生まれ落ちた存在である。
その異人の血を引くという微妙な存在から、家族内でも疎まれている。
そんな烏の濡れ羽色の髪をした『聖なる乙女』にひとりのクレリックが跪いたのである。
「聖なる母より神託が下ります。ぼくがあなたをトゥルーズの魔剣の元へと導け──」
ノエル少年は甘い声でささやきかけるが、『聖なる乙女』はその肩を突き飛ばし。
「あんた莫迦ぁ? そんな事言って信じるのは莫迦だけよ!」
転倒して立ち上がるのに四苦八苦のノエル。
「ええと、あなたが勇者となるか、その友となるか、あるいはその王となるか、全てはあなたの選択次第です」
「何、坊さんだからといって、言いたい事言ってるのよ!」
「試練と免れざる死を選ぶなら──私は栄光へと汝等を導こう」
そこへ朗々と上がる、まるで極上のオリーブの様に人々の心に響き渡る言葉。
『聖なる乙女』がそちらに視線をやると、幾重もの翼を持った『光の固まり』が人々の視線を釘付けにする。
「神託が剣を導こう。剣が勇者を導こう。勇者が、その友と王を導こう。友と王が人々を守るだろう。母はかく望まん。聖なる母よりの言葉を地上の民人に告げる、我はサマエル! ローマの守護天使也!」
言って、光の固まりから一条の光が伸びて『聖なる乙女』を指し示した。
逃げようとする『聖なる乙女』だが彼女の心臓にその光は擬されたまま。
「神それを欲し給う」
言って、無数の光の羽毛をまき散らすと、光の固まりは消失した。
羽毛も地上に墜ちる前に消え失せる。
『聖なる乙女』に周囲の注目が集中する。ノエル少年に詳しく彼女は問い質そうとするが──。
「ちょ、ちょっと何よあれ?」
「ええと、守護天使なのでしょうね? 神託って言っていますし。多分、神託が降りたのは、あなたですから──勇者らしい格好をした方がいいですよ?」
昼頃には神託の噂はオルレアン中に伝わっていた。
指名された『聖なる乙女』の名前はジャンヌ・ダルク。
オルレアンの聖女と呼ばれることもある。
翌日にはオルレアンの領主宅に招かれ、神の威光を駆る騎士として叙勲を受けようとするが──オルレアンの大司教代理があわてふためく。
「彼女はすでに聖なる母の加護が降りているのを感じます。ひょっとして、神聖騎士──いえ、テンプルナイト級かも」
「莫迦な! ただの農民の娘だぞ! そんな事が──」
「こういう時に便利な言葉があります。『奇跡』という言葉です。ジャンヌ様は生まれつき神の加護を帯びているのです」
ジャンヌと一緒に同道したノエルが『便利な言葉』で決着をつける。
こうして、ジャンヌは俄拵えの白銀の武具に身を包み、勇者の側で闘おうというジーザス教徒と共に、トゥルーズまでの旅に出る事になった。
トゥルーズ辺境伯領には神聖ローマの祖、カール大帝とその配下である十一と、ひとりのテンプルナイトが残した遺品が残されているという。
特に重要視されるのは三振りの魔剣、カール大帝の甥にして、配下の最強の騎士であるローランの得物、天使の魔剣『デュランダル』と、カール大帝の自らの愛剣『ジョワイユース』、ローランの親友であるオリヴィエの残した愛剣『オートクレール』である。
最近ノルマンなどで同じ銘の品が流通しているが、これらはそのオリジナルバージョンである。
これらのオリジナルは過去、アラビア教徒と紛争の絶えなかったトゥルーズの地にて、行方不明となっているが、まことしやかな噂では、トゥルーズの地を出た事はないという。
「とにかく──その三魔剣とやらを探せばいいのでしょう?」
「ジャンヌ様は生まれついてのテンプルナイトですから、魔剣達が織りなす運命の波紋に、否応なく巻き込まれていきます」
「知った風な口聞くわね、大体何よ、その生まれつきのテンプルナイトって? 大体、国を救うって何よ」
ジャンヌはオルレアンの城塞で、同志が集うまでノエル相手に毒を吐いていた。
こうして、ローマを動かすカードの全てはそろった。
どのカードに賭け、どれだけのレイズをするかは貴方次第。
──天使と悪鬼の戦場が始まる