蝦夷解放
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■クエストシナリオ
担当:ゆうきつかさ
対応レベル:‐
難易度:‐
成功報酬:-
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:2007年02月01日 〜2007年11月31日
エリア:蝦夷
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●八傑衆
太陽の神であるチュプ・カムイから『大いなる災いが和人の国から訪れる』という神託が下されたのは神聖暦1001年の事。
この神託に従ってチュプオンカミクルとカムイラメトクは、大いなる災いの正体を探って危機を回避する為に次々と蝦夷の地を旅立っていった‥‥。
この後、蝦夷の地に大いなる災いが降りかかるとは夢にも思わずに‥‥。
事の始まりはチュプオンカミクルとカムイラメトクが旅立った後であった。
突如、蝦夷の地に『八傑衆』なる者が現れ、コロポックル達の聖域を制圧していったのである。
もちろん、コロポックル達も『八傑衆』に抵抗したのだが、チュプオンカミクルとカムイラメトクの大半が蝦夷の地を離れていたため、成す術もなく力尽きて倒れていった。
そして、蝦夷の地は松前藩に守られた箱館を残して、『八傑衆』に制圧される事となる‥‥。
●松前藩
「松前様、いまこそ御決断を!」
松前藩藩主、松前・典英(まつまえ・のりひで)は決断を迫られていた。
『八傑衆』を名乗る者達はその勢力を拡大させていき、いまや箱館を陥落させんばかりの勢いである。
そのため、コロポックルの酋長(コタンコロニシパ)達が松前の力を借りるべく、ゾロゾロと彼の屋敷にやって来た。
いつまでも兵を派遣しようとしない松前藩を動かすために‥‥。
「‥‥残念だが、協力する事は出来ない」
険しい表情を浮かべながら、松前がゆっくりと首を横に振る。
‥‥松前なりに考えた上での答えであった。
別にコロポックルに対して恨みはない。
しかし、彼には手を出す事の出来ない理由があった。
「わしとて、お前達の気持ちは理解しているつもりだ。『八傑衆』を名乗る者達によって数多くの同胞達が命を落とし、聖域まで奪われてしまったのだからな。しかし、わしの兵を動かすわけにはいかんのじゃ」
コロポックル達の視線に気づき、松前が気まずい様子で視線を逸らす。
「何故に! 何故に兵を出せぬのだ! 松前の兵を動かせば、あのような輩を鎮圧させるのは容易な事。このまま奴等を放っておけば、いずれ箱館の地まで危険に曝される事になるんだぞ! それが分かっていながら、我等を見捨てるつもりなのか?」
納得のいかない様子で松前を睨みつけ、コロポックルの酋長が立ち上がる。
コロポックルの酋長であるイクシペは、チセコロカムイ(家の守り神)の聖域があるトマコマナイ(苫小牧)からやって来た。
他の聖域から避難したコロポックル達を守りながら、松前藩の助けを期待して箱館まで避難してきたのである。
それなのに協力する事は出来ないと言う返答では、多くの犠牲を払ってまでここに逃げてきた意味はない。
「‥‥分かってくれ。わしだってツライんだ。それに『八傑衆』が狙っているのは、コロポックルの聖域だけだ。ここでわしが兵を出してお前達に協力すれば、無関係な者達まで巻き込んでしまう事になる‥‥」
どこか寂しそうな表情を浮かべながら、松前が煌びやかな扇子を見つめて溜息をつく。
『八傑衆』によって娘が誘拐されたのは数日前の事。
『娘を返して欲しくば、大人しくしていろ』というのが『八傑衆』からの要求であった。
ここでコロポックル達に協力すれば、松前の娘が無事に帰ってくる保障はない。
娘の安否が分かるまでは、迂闊に手出しする事が出来ないと言うのが本音である。
「自分達さえ助かれば、我々はどうなっても構わないと言う事ですね。‥‥分かりました。ならば我々にも考えがあります。本土に旅立った同胞達を呼び戻し、『八傑衆』から我等の聖域を取り戻します!」
そう言ってチュプ・カムイ(太陽の神)の巫女ハピリカが、江戸に旅立つため松前の屋敷を出ていった。
●冒険者ギルド
「この街にみんなが‥‥」
蝦夷の地を出てから、数十日後。
ハピリカは仲間達を捜して江戸の町に来ていた。
ここまでの道程は決して楽なものではない。
途中で何度も命を落としかけ、江戸についた時にはボロボロであった。
それでも頑張ってこれたのは、蝦夷で待つ仲間達の期待に応えるため‥‥。
彼女が旅立つ直前まで松前藩は兵を派遣する事には躊躇っていたが、ハピリカが帰ってくるまでコロポックル達を匿ってくれる事だけは約束してくれた。
自分達はあくまで中立であると念を押した上で‥‥。
そのため、全世界に散らばった仲間達が協力者を連れてきたとしても、松前藩とは無関係である事を強調して欲しいとまで言われている。
もちろん、ハピリカも松前藩城代である齊藤尚之介から、松前の娘が人質に取られている事を教えられたため、あまり無理強いする事は出来ないと思っているのだが‥‥。
「とにかくみんなを捜さなきゃ。さすがに手ぶらじゃ帰れないしね」
泥だらけになった顔を拭い、ハピリカが冒険者ギルドの戸を叩く。
ひとりでも多くの仲間達に蝦夷の危機を知らせるため‥‥。
「蝦夷の地が未曾有の危機に瀕しています。敵は『八傑衆』を名乗っており、ニッネカムイ(悪神)の力を使ってコロポックル達の聖域を支配しています。皆さんも知っての通り、コロポックルの聖域は八ヶ所。チセコロカムイ(家の守り神)の聖域トマコマナイ(苫小牧)、ワツカウシカムイ(水の神)の聖域サッポロペッ(札幌)、ヌサコロカムイ(農業の神)の聖域フラヌィ(富良野)、シランバカムイ(森の神)の聖域インガルシ(遠軽)、カムイフチ(火の神)の聖域チパシリ(網走)、カンナカムイ(雷の神)の聖域シレトク(知床)、ハシナウカムイ(狩猟の神)の聖域モンベツ(紋別)、チュプ・カムイ(太陽の神)の聖域ワッカナイ(稚内)。『八傑衆』は多くのインネ(悪人)を率いて、蝦夷の地を支配しようとしています。残念ながら『八傑衆』の正体は分かっていません。しかし、『八傑衆』がニッネカムイの力を手に入れたと断言している以上、このまま放っておくわけには行かないのです」
そこまで説明を終えて、ハピリカがションボリとする。
ハピリカはチュプ・カムイの巫女をしていたが、『八傑衆』の襲撃を受けて箱館まで避難してしまったため、その事をずっと悔やんでいる。
最後まで聖域に残って戦っていれば、多くの仲間を救う事が出来たのではないかと後悔しつつ‥‥。
●二風谷
「ちょっ、ちょっ、長老様! た、大変だああああ!」
青ざめた表情を浮かべながら、カムイラメトクのルイがエカシ(長老)のチセ(家)に入ってきた。
二風谷はコロポックル達の集落で最大規模を誇っており、『八傑衆』の襲撃から逃れた者達が隠れ住んでいる場所だ。
「なんじゃ、騒々しい。わしゃあ、忙しいんじゃ!」
不機嫌な表情を浮かべながら、エカシがジロリとルイを睨む。
エカシは茶柱を立てるため朝からお茶を淹れていたのだが、思わぬ邪魔が入ってしまったのでブツブツと愚痴をこぼしている。
「そ、それが大変なんだ! ちょっとお茶を貰うぜ!」
強引にエカシからお茶を奪い取り、ルイが一気に飲み干して口元を拭う。
「こ、こら! 待て! それを飲んじゃイカン! 茶柱が立つまで飲んだら、ぬおおおおおおおおおおおおおおお!」
ルイがお茶を飲んでしまったため、エカシが悲鳴を上げてガックリと肩を落とす。
必ず茶柱の立つお茶『ピリカ』。
このお茶を手に入れるため、エカシは大切にしていた高級毛皮を手放した。
幸せを手に入れるためなら、安いものだと思いつつ‥‥。
「うげぇ‥‥、マズッ! なんだ、こりゃ」
マジマジとお茶の入った湯飲みを見つめ、ルイがペッと茎を吐き出した。
茶柱になるべく誕生した茎が目の前で虚しく跳ねる。
「ば、ば、馬鹿者! こ、この茎が何だか分かっておるのか! 高級毛皮一枚分の価値がある茎なんじゃぞ!」
怒りに身を任せて拳を振り上げ、エカシがルイの胸倉を掴む。
決して振るう事はあるまいと思っていた黄金の右。
その一撃は熊すら倒す事が出来ると言われていたが、夫婦喧嘩の際にカウンターパンチを食らってから、20年以上も封印したままである。
「この茎が高級毛皮一枚分だって? じっちゃんも冗談キツイぜ。また騙されたんじゃないのか」
苦笑いを浮かべながら、ルイがエカシの肩をポンポンと叩く。
‥‥エカシは騙されていた。
蝦夷で出会った商人の言葉巧みな話術によって‥‥。
「ぬぐおおおお、お、覚えておれ! きっと後悔する事になるぞ!」
寝小便の呪いを掛けながら、エカシがルイをビシィッと指差した。
エカシ自身は商人に騙されている事にまったく気づいていない。
「そ、そんな事より大変なんだって! カムイの剣が盗まれたらしいんだ! あれって二風谷の宝だろ?」
エカシの指から逃れるようにして身体を動かし、ルイが煎餅を掴んでパリポリと食べ始める。
「な、な、な、なんじゃとおおおおお! 何故、それを早く言わんじゃ! あの剣があったからこそ、わしらは無事でいる事が出来たんだぞおおおお!」
‥‥そしてエカシの絶叫が集落中に響くのであった