蝦夷解放

■クエストシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年11月01日
 〜2007年11月31日


エリア:蝦夷

リプレイ公開日:12月03日18:34

●リプレイ本文

●一章 二風谷
「‥‥ついに最期の戦いですね。どのような形であれ、悔いを残さないよう出来る限りの事を!」
 最後の戦いに向けて仲間達の士気を高めるため、カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)がコロポックル達を広場に集める。
 コロポックル達は火事によって家族を失っている者もいたが、みんな思いは同じらしく誰ひとりとして広場に集まる事を拒否する者はいなかった。
 それだけ鬼面衆に対する恨みは深く、誰もが復讐を望んでいたのだが‥‥。
「私達の目的は復讐ではありません。復讐だけを考えてキムンカムイ(山の神)と戦えば、さらなる悲しみを生むだけです。この戦いはこれ以上、悲しむ人達を増やさないようにするための戦いです。もちろん、鬼面衆によって家族の命を奪われた方々に、それで納得してくれとは言いません。しかし、すべて元凶であるキムンカムイを倒さねば、この戦いが永遠に終わらないという事を忘れないでください。キムンカムイが存在している限り、蝦夷に平和が訪れる事はないのですから‥‥」
 復讐に燃えるコロポックル達の顔を見つめ、カスミが落ち着いた様子で優しく語り掛ける。
 コロポックル達が復讐だけを考えて鬼面衆と戦えば、沢山の犠牲者が出る事は間違いない。
 彼らが復讐を考えて行動している限り、後先考えずに動いてしまう可能性が高く、その事によって士気が乱れてしまうため、戦略的に考えてもマイナス点が目立ってしまう。
 それでもコロポックル達の中には復讐を諦めていない者達がいるため、最悪な結末を迎える前に何とか手を打っておく必要があった。
 例え、コロポックル達に恨まれるような状況になったとしても、それで犠牲者の数が激減するのなら後悔する事もない。
 しかし、コロポックル達の中には復讐しか頭にない者もいるため、少しずつ時間を掛けて説得していく必要がありそうだ。
「いよいよ大詰めですわね。遠回りはしてしまいまいたが、漸く辿り着く事が出来ました。他の方々同様、文字通り死力を尽くして戦いましょう」
 ピリピリとしたムードが漂ってきたため、井伊文霞(ec1565)がカスミの肩を叩く。
 コロポックル達の殺気を一身に受け止めているような状況になっていたため、彼女を慰めるようにしてフォローを入れた。
 最後の戦いが迫っているというだけあって、コロポックル達が興奮気味なのは間違いないが、その勢いに飲み込まれてしまってはキムンカムイを倒す事など不可能である。
 何よりもキムンカムイがもっとも得意としているため、コロポックル達の恨みまで利用されてしまう可能性が高い。
 キムンカムイが今までしてきた事を考えれば、それが十分にありえる事であり、既に災いの種を蒔き終えているのかも知れないのだから‥‥。
 万が一、災いの種が蒔かれた後なら、それが簡単なキッカケで花開く。
 復讐の花は沢山の悲しみを吸って成長し、まわりに絶望の種を撒き散らす。
 そうなってしまえば、文霞達だけでは防げない。
 例えキムンカムイを倒す事が出来たとしても、復讐の種が根付いた後では、無益な戦いが繰り返されていく事になるだろう。
「そうですね。ここで選択を間違えれば、最悪な結末を迎える事になります。そうならないためにも、不安な要素をなくしていかねばなりません」
 キムンカムイの嘲笑う声が聞こえているような感覚に襲われ、マミ・キスリング(ea7468)がコクリと頷いた。
 二風谷に鬼面衆のスパイが潜んでいる可能性も高いため、最後まで気を抜く事が出来ない状況である。
 そのため、鬼面衆のスパイ探しをする事になったのだが、コロポックル達に知られると疑心暗鬼に陥ってしまうので、怪しまれないようにしながら慎重に行動する必要があった。
「ここで作戦のすべてを話す事は止めておいた方が良さそうだな。怪しげな人物がふたり。広場の両端に分かれて立っている。そして、中央にひとり‥‥。現時点で鬼面衆の間者であると断定する事は出来ないが、しばらく尾行を続けた方が良さそうだな。鬼面衆も儀式の日に備えて邪魔者を排除しておきたいだろうからな」
 険しい表情を浮かべながら、橘一刀(eb1065)が口を開く。
 ここに来る前、最後の戦いに備えて二風谷の刀鍛冶に会って来たのだが、本当にいい物を作るためには数ヶ月の時間を要するため、いま持っている刀を鍛え直してもらう事になったようだ。
 その時、刀鍛冶の男からコロポックル達の中に裏切り者がいる事を告げられ、最近になって不審な行動が目立つ要注意人物を教えられていた。
 そのうち、半数は刀鍛冶の男が勘違いしていただけだったが、残りの者達は鬼面衆と繋がりのありそうな者達ばかり。
 しかし、鬼面衆との繋がりを証明する証拠がなければ、迂闊に排除する事も出来なかった。
 間違って関係のない人物をスパイと勘違いした場合、冒険者達に対する信頼が一気に失われてしまうからだ。
「ギリギリまで様子を窺っていた方が良さそうですね。鬼面衆に脅されてスパイになっているのなら、途中で私達に気づかれたとしても、誤解である事を強調しますから‥‥。特に人が多い場所ではわざと騒ぎ立てて、コロポックル達を巻き込む可能性もありますから慎重に動くべきだと思います」
 今までの事を思い出しながら、アヴリル・ロシュタイン(eb9475)が冷静に分析する。
 鬼面衆の姑息なやり方のせいで酷い目に遭っているため、最悪のパターンを考えて行動する必要があった。
 ここで楽観的な考え方をして行動すれば、必ずその弱点をつくような行動をしてくるだろう。
「‥‥と言う事はある程度、間者を泳がせて鬼面衆の裏を掻く必要がありそうですね。そのためには誰かが彼らを監視しておく必要がありそうですが‥‥」
 警戒した様子で辺りを見回しながら、和泉みなも(eb3834)がと呟いた。
 鬼面衆が冒険者達を監視して行動パターンを熟知しているはずなので、普通にスパイを見つけただけでは意味がない。
「ならばシレトク(知床)の聖域に行くまで監視をよろしくお願いします。他の場所の方々とは連絡を取る事が出来ませんが、彼らもきっとシレトクの聖域の聖域に向かっているはずです。鬼面衆のスパイが何を考えているのか分かりませんが、ここで立ち止まっているわけにも行きません。キムンカムイが儀式を成功させる前に、ハピリカを助けましょう」
 自分自身に言い聞かせるようにしながら、カスミがシレトクにむけて進軍を開始する。
 コロポックル達が何処まで戦ってくれるか分からないが、彼らを置いてシレトクに行く事は出来なかった‥‥。

●二章 サッポロペッ(札幌)の聖域
「いよいよ、正念場ですね。おそらく最終決戦の場はシレトク。気を引き締めて頑張りましょう」
 焦土と化したサッポロペッの聖域を見つめ、ルウォプ(ec0188)が決意を新たにして拳をギュッと握り締める。
 鬼面衆の放った火によってサッポロペの遊郭は焼け落ちており、パウチカムイ(淫らな女神)の屋敷も瓦礫の山と化していた。
 そのため、生き残った遊女達が力を合わせて復興している最中だが、あまりにも人手が足らないためもうしばらく時間が掛かりそうである。
 だが、八傑衆のひとりであるパウチカムイを奇跡的に助け出す事に成功したため、彼女の口からキムンカムイに関する情報を聞きだす事が出来そうだ。
「‥‥教えてくれ。キムンカムイの根城は何処で、最も早く辿りつく方法を!」
 胸倉を掴むほどの勢いで、伊達正和(ea0489)がパウチカムイに迫っていく。
 正和達に残された時間は、後わずか。
 儀式が終わってしまった後では、例えシレトクに行っても意味がない。
「そんなに慌てたら、助かる命も助からないわ。あなた達が相手にしているのは、利用する事が出来るものなら、親だって犠牲にするような残忍な男。殺気だって攻撃を仕掛けたところで、キムンカムイを倒す事なんて出来ないわ。それでも行くって言うのなら止めはしないけど、無駄に命を散らす事だけは止めなさい」
 不機嫌な表情を浮かべながら、パウチカムイがキセルを吹かす。
 確かにキムンカムイを何とかしなければならないのだが、彼女にはそれよりも先にサッポロペッを復興しなければならない。
 ただし、サッポロペッの聖域を元通りにするつもりは無いらしく、しばらくの間は中立の立場を取るつもりでいるようだ。
 もちろん、これは遊女達を守るための手段であり、別に正和達に不満があるというわけではない。
 本当なら正和達と共に八傑衆と戦っていきたい気持ちはあるのだが、自分ひとりではサッポロペを守り抜く事が出来ないので悩んだ末の決断だった。
 これには反対意見もあったのだが、正和達がキムンカムイを倒しても、八傑衆との戦いが終わるわけではないため、パウチカムイの決断が覆る事はなかったようだ。
「ならば自分達に協力すると言ったのは、その場しのぎの嘘ですか?」
 信じられない様子でパウチカムイを見つめ、闇目幻十郎(ea0548)が腕を組む。
 立場的に彼女が中立になった事は理解しているつもりだが、キムンカムイについては協力すると言った以上、いまさらなかった事として片付ける事は出来ない。
「誤解しないでくれるかしら。あたしだって、あなた達に時間がない事くらい分かっているわ。でもね、鬼面衆が近道の途中で待ち伏せしている可能性も捨てきれないの。わざわざ危険な状況に曝される事が分かっていて、あなた達を戦場に送り出すほど、あたしだって酷いオンナじゃないわ。それでもシレトクの聖域に行くって言うのなら教えてあげる。ただし、必ず生きて帰ってくると約束して。最悪の場合はルウォプちゃんだけでも‥‥。むしろルウォプちゃんだけ生きて帰ってくれば文句は無いから‥‥」
 妖艶な笑みを浮かべながら、パウチカムイがキッパリと言い放つ。
 その一言で冒険者達が頭にカチンと来たようだが、シレトクの聖域に行くための近道を聞いていないので、表面上は笑顔を浮かべてグッと堪える事にした。
「と、とにかくシレトクまでの近道を教えてくれるかな? このままじゃ、何もかも手遅れになってしまうからさ。例え危険である事が分かっていても、いまさら後戻りする事は出来ないし、ここで逃げるわけにも行かないだろ?」
 祈るような表情を浮かべ、ハクオロゥ(eb5198)が口を開く。
 確かにパウチカムイの言う通り、最短ルートの途中で鬼面衆が待ち伏せしている可能性も高いのだが、どのルートも安全であるという保証がないので急がねばならない。
「‥‥分かったわ。この状況で引き止める方が野暮ってモノね。でも、忘れないで‥‥。あなた達の息の根を止めるために、鬼面衆が暗躍しているという事を‥‥。もしかすると、ここにも間者が紛れ込んでいるかも知れないからね。いるんでしょ、この中に‥‥」
 含みのある笑みを浮かべながら、パウチカムイが遊女達を見つめて腰に手を当てる。
 それと同時に遊女のひとりが青ざめた表情を浮かべ、いきなり悲鳴を上げて逃げ出そうとした。
「じょ、冗談だろ!? まさか、本当に間者が紛れ込んでいたのかよ?」
 慌てた様子で遊女の行く手を阻み、ハクオロゥがダラリと汗を流す。
 そのため、遊女は懐から白い粉を取り出し、一気にそれを飲み干そうとした。
「‥‥やめておけ。ここで自害したところで、喜ぶのは鬼面衆だけだ。それなら生きて罪を償った方がいいんじゃないか?」
 遊女の腕をガシィッと掴み、正和が素早く当て身を放つ。
 その一撃を喰らって遊女が呻き声をあげ、崩れるようにして意識を失った。
「お、驚いた。単なるシャレのつもりだったのに‥‥。まさか、本当に間者が紛れ込んでいたなんて‥‥。正直、ヘコんだわ。誰ひとりとしてあたしを裏切る者がいないと思っていたから‥‥。単なる驕りだったのね。はぁ‥‥」
 唖然とした表情を浮かべ、パウチカムイがキセルを落とす。
 キムンカムイならやりかねないと思っていたが、心から遊女達を信じていたので、だいぶショックを受けているようだ。
「げ、元気を出してくださいね‥‥。ここで慰めたら押し倒されると思うので、これ以上近づく事は出来ませんが‥‥。生きて帰ってきたら、今までの恩返しを考えていますから‥‥。ただし、変な意味じゃないので、暴走しないでくださいね」
 色々な意味で身の危険を感じながら、ルウォプがパウチカムイを慰める。
 パウチカムイにとってルウォプは獲物。
 ネコとネズミのような関係である。
 そのため、一瞬でも気を許せば、すぐにガブリと来られてしまう。
「ふふっ‥‥、安心して。そのままの意味で受け取っておくから。これがシレトクまでの地図よ。手書きだから分かりづらいかも知れないけど……」
 シレトクまでの最短ルートが書かれている地図を手渡し、パウチカムイが気絶した遊女を抱き上げた。
 彼女はパウチカムイにとって右腕と呼べる存在。
 未だに裏切られた事が信じられないようである。
「それじゃ、気をつけて」
 パウチカムイに別れを告げ、幻十郎が地雷也(優れた戦闘馬)に飛び乗った。
 儀式の日まで、後数日。
 それまでに何としてでも、シレトクの聖域に行かねばならない。

●三章 鬼面衆
「まさかここまで早く動いていたとは‥‥。やはり情報が漏れていたようですね」
 シレトクの聖域に行く途中で鬼面衆に足止めされ、幻十郎が地雷也の手綱をギュッと握り締める。
 鬼面衆が待ち伏せしていたのは、シレトクの聖域の手前。
 後もう少しと言うところで、鬼面衆が一斉に襲い掛かってきたのである。
 幻十郎達も鬼面衆が不意討ちを仕掛けてくると予想をしていたため、思ったよりも被害が出る事は無かった。
 それどころか奇襲を仕掛けてきた鬼面衆を切り捨てる事が出来たため、状況的には相手側より優位な状況に立っている。
「何故、我々の奇襲に気づいた。まさか間者が捕まったのか!」
 右腕を押さえて冒険者達を睨みつけ、鬼面衆の男が拳をぶるりと震わせた。
 本当なら奇襲に成功して冒険者の首を刎ねていたはずなので、一気に悔しい気持ちが膨らんで爆発しそうになっている。
 それだけ今回の奇襲作戦には自信を持っており、失敗する事など考えてもいなかった。
 その上、ここで冒険者達を足止めする事が出来なければ、キムンカムイが行っている儀式の妨げとなってしまう。
 そんな事を許してしまえば、例え逃げ帰ったとしても自分達の命はない。
「オイラ達の仲間がいつまでも、鬼面衆の言いなりになっていると思うなよ! みんなが教えてくれたんだ。ここでお前達が待ち伏せしている事を!」
 鬼面衆を狙って短弓を構え、ハクオロゥが答えを返す。
 ハクオロゥはコロポックル達を説得し、一緒にシレトクの聖域に行くつもりでいたのだが、彼らの家族が人質に取られている事を知り、鬼面衆が待ち伏せしている場所だけ聞き出していた。
 その代わり、自分達の家族を助け次第、彼らも戦いに加わってくれると約束してくれているため、こちらで鬼面衆を引きつけている間に救出作戦を実行しているかも知れない。
「ば、馬鹿な! そんな事をすれば、家族の命が‥‥。そうか、そういう事か。ならば我々に漏らした情報も、すべて嘘か‥‥クッ!」
 自分の置かれている状況を理解し、鬼面衆の男が近くの木に拳を叩きつけた。
 まさかコロポックル達が裏切る事を予想していなかったため、鬼面衆の半数を連れ出してしまったようだ。
 そのせいで手下達からも冷たい視線を浴び、鬼面衆の男も引き下がる事が出来なくなっている。
「ようやく理解していただけたようですね。それじゃ、ここを退けていただけますか? あたし達も無益な殺生は望んでいませんので‥‥」
 一気に間合いを詰めてダブルアタックを放ち、ルウォプが警告まじりに呟いた。
 鬼面衆の男は頭に血が上っているため、小刻みに身体を震わせて『殺れ!』と叫ぶ。
 それと同時に鬼面衆が一斉に火矢を放ち、次々と攻撃を仕掛けてきた。
「素直に道を開けていれば、傷つく事もなかったものを‥‥。やはり、これも運命か」
 電撃号(水馬)に乗って小太刀『微塵』を引き抜き、正和が鬼面衆の攻撃を寸前で受け止める。
 それに合わせて鬼面衆の男が切りかかってきたため、攻撃を受け止める事が出来ずに尻餅をつく。
「まずはお前の首からだ!」
 興奮した様子で小太刀を振り上げ、鬼面衆の男が雄叫びを上げる。
 次の瞬間、貴政(通常馬)に乗って文霞が現れ、鬼面衆の男が持っていた小太刀を弾く。
「まさかこんな場所で会えるとは‥‥。お久しぶりです、皆さん」
 正和を守るようにして日本刀を構え、文霞が鬼面衆の男と対峙した。
 文霞の背後には武装したコロポックル達が立っており、いまにも鬼面衆の攻撃を仕掛ける勢いだ。
 そのため、鬼面衆の男が横に飛び、地面に落ちていた小太刀を拾おうとする。
 それよりも速くアスファロス(優れた駿馬)に乗ったカスミが動き、鬼面衆の男に体当たりを喰らわせた。
「伊達さんに闇目さん、ハクオロゥさんも‥‥皆さんご無事で何よりです。そして、貴方はルウォプさんですね。お噂はかねがね。‥‥貴女のような味方がいて心強いですわ」
 仲間達と再会する事が出来た事に喜びを感じ、カスミがホッとした様子でニコリと微笑んだ。
 その間も鬼面衆が襲い掛かってくるため、アスファロスの手綱を握って反撃に移る。
「夢想流奥義・閃(ブラインドアタックEX+ポイントアタックEX+シュライク)」
 光の如く速さで鬼面衆の男に斬りかかり、一刀が般若の仮面を真っ二つに割った。
 鬼面衆の男は一瞬何が起こったのか分からず、仮面が落ちたのと同時に血反吐を吐いて倒れ込む。
 しかし、鬼面衆は戦う事を止めるどころか、コロポックル達を次々と血祭りに上げ、凄まじい殺気を辺りに放つ。
「シレトクの聖域まで目と鼻の先なのに‥‥。鬼面衆を倒さねば、先には進めないようですね」
 ダブルシューティングで鬼面衆を射抜き、みなもが疲れた様子で溜息を漏らす。
 だが、このまま鬼面衆を放っておけば、コロポックルの村が襲われる事は目に見えていた。

●四章 シレトクの聖域
「どうやら、お前の仲間が敵を引きつけてくれたようだな」
 物陰に隠れて様子を窺いながら、ホロケウカムイ(狼の神)がクスリと笑う。
 ‥‥シレトクの聖域は地の果てにある。
 誰も立ち寄る事のない禁断の場所。
 故にコロポックルでさえ、知らない事実があった。
 太陽の巫女であるハピリカは、キムンカムイに捕らわれる。
 真のニッネカムイ(魔神)を呼び出すための生贄として‥‥。
「そのおかげでキムンカムイの儀式を阻止する事が出来そうですね。私達だけで何処まで出来るか分かりませんが、例え志半ばで倒れたとしても他の皆さんが仇を取ってくれるはず‥‥。悔いのないように全力で戦おうと思います」
 辺りに人の気配がない事を確認しながら、フレイヤ・シュレージェン(ec0741)が鬼の面を被った。
 ここに来る途中までエカシ達がついてきたのだが、キムンカムイに捕まって人質になる可能性が高かったため、日暮れまでに帰ってこなかった場合の伝令役として待機してもらっている。
 その代わりホロケウカムイが一緒についてくる事になったため、彼女にとっても心強かった。
 ホロケウカムイ曰く、『たまたま道が一緒』だったらしい。
 もちろん、彼がずっとついてくる保証はないため、無謀な真似をしないように監視しておく必要があった。
 彼の性格を考えると単独でキムンカムイに攻撃を仕掛ける可能性が高いからだ。
「そうだな。中途半端な気持ちで戦えば、キムンカムイに勝つ事は出来ない。‥‥ヤツの事だ。儀式を成功させるために、いくつもの罠を仕掛けているはずだ」
 クンクンと鼻をヒクつかせ、ホロケウカムイが茂みを掻き分けていく。
 ホロケウカムイは人並み外れた嗅覚を持っているため、キムンカムイの仕掛けた罠を難なくかわしている。
 そのため、ホロケウカムイが同行していなければ、罠を発見する事が出来ずに命を落としていた事だろう。
「ハピリカが無事だといいんだが‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、ゲレイ・メージ(ea6177)が溜息を漏らす。
 ハピリカが居なくなってから、数ヶ月ほど経っているため、酷い目に遭っているかも知れない。
「太陽の巫女なら無事だ。儀式を成功させるためには、穢れなき乙女の生き血が必要だからな。その事が分かっていて、酷い目に遭わせるほどキムンカムイも愚かではない」
 シレトクの聖域が近づいてきたため、ホロケウカムイがハンドサインで合図を送る。
 その場所にはキムンカムイの姿があり、ハピリカが石柱に磔られていた。
「あ、あれは!!!!」
 あまりの出来事に驚きながら、フレイヤがカムイの剣に手を掛ける。
 唯一、真のニッネカムイを傷つける事が出来る剣。
 例え儀式が成功したとしても、この剣さえあればニッネカムイを倒す事が出来る。
 ただし、カムイの剣を自由に扱う事が出来るのは資格がある者のみ。
 それ以外の者が持っても、単なるナマクラである。
 残念ながらホロケウカムイには、その資格が無かった。
「‥‥来たか」
 石柱の上に立ったまま腕を組み、キムンカムイがジロリと睨む。
 キムンカムイの存在に気づいた時には、左肩から鮮血が噴き出していた。
「い、いつの間に‥‥」
 信じられない様子で右肩を押さえ、フレイヤがカムイの剣を守るようにして後ろに下がる。
 それと同時にホロケウカムイの身体が切り裂かれ、崩れ落ちるようにして膝をつく。
「無駄な抵抗は止めて、その剣を渡せ。素直に渡すのなら、瞬殺。抵抗するのなら、それだけ苦しむ事になる。それでも向かってくるというのなら覚悟しろ。俺に歯向かった事を一生後悔させてやるっ!」
 フレイヤの背後に回って短刀を押し当て、キムンカムイが殺気を放って選択を迫る。
 彼女にはまったく相手の動きが見えなかった。
 別の意味で例えるのなら、カマイタチ。
 存在に気づいた時には手遅れだった。
「騙されてはいけません。これはすべてキムンカムイが作り出した幻。ここでキムンカムイの口車に乗れば、幻惑の世界から抜け出す事が出来なくなります。自分を信じて早く刀を抜いてください」
 時空を切り裂くようにして幻十郎が神刀『クドネシリカ』を振り下ろし、フレイヤに対して警告する。
 そのため、フレイヤはしばらく状況を飲み込む事が出来なかったが、これがキムンカムイの作り出した幻である事を理解した後は何とか我に返る事が出来た。
「ハピリカはオイラが助けたから! いまのうちにキムンカムイを!」
 ハクオロゥの声が響く。
 傍らにはハピリカの姿。
「おのれ、小癪な真似を! こんな事をしてタダで済むと思っているのか! お前達も纏めて幻惑の世界に引きずり込んでやる!」
 キムンカムイの雄叫びが響く。
 だが、幻覚の香を使って、フレイヤ達を惑わせる事は出来ない。
「残念ですが、その手はもう通じませんよ。パウチカムイさんに感謝せねばなりませんね。香のカラクリを教えてもらったのですから‥‥!」
 巧妙に隠された香の壺を踏み潰し、ルウォプがニコリと微笑んだ。
 その交換条件としてパウチカムイからとんでもない要求をされていたような気もするが、最近忘れっぽくなっているので華麗にスルーする事にした。
「お待たせしました。何とか間に合ったようですね」
 キムンカムイの作り出した幻覚が消え、みなもとコロポックル達の姿が浮かぶ。
 鬼面衆との戦いで傷つき倒れそうになっているが、彼らの瞳には未だに戦う意志が感じられる。
「お、俺は夢を見ているのか! 何故ここにコロポックル達の姿がある!? ぶ、部下達はどうした!? お前達の足止めをしていたはずだっ!」
 信じられない様子でみなも達を見つめ、キムンカムイがダラリと汗を流す。
 ‥‥そこに鬼面衆の姿はない。
 屈指の精鋭であるはずの手下達が、コロポックル達に敗北した。
「いい加減に現実を見たら、どうなんだ? これでお前は‥‥終わりだっ!」
 正和のソニックウェーブが、キムンカムイに直撃する。
 悔しそうにギチギチと歯を鳴らし、キムンカムイが小太刀を抜く。
 これ以上、香の力は頼れない。
 そして、今までアテにしていた鬼面衆の力も‥‥。
「キムンカムイ、貴様の所業に苦しんだ者の為、そして蝦夷に住む同胞の為貴様を討つ」
 背後には一刀の姿。
「私は嵐の魔女‥‥、今日は容赦出来ませんわよ?」
 カスミもキムンカムイの逃げ道を塞ぐようにして行く手を阻む。
 彼女に続くようにして文霞が斬りかかり、キムイカムイの小太刀が宙を舞う。
「‥‥これですべてを終わりにします。負の連鎖を断ち切るために!」
 フレイヤの放った一撃が、キムンカムイの身体を貫いた。
 キムンカムイの腹部に突き刺さったカムイの剣。
 そこから大量の血が噴水の如く噴き出した。
「こ、これで終わったと思うなよ。これはすべての始まりだ。俺が死んだところで、何も変わらん」
 含みのある笑みを浮かべながら、キムンカムイがガックリと膝をつく。
 みるみるうちに血の海が広がり、鬼の面がポトリと落ちる。
 そして、醜く歪んだキムンカムイの素顔が露わになった。
「覚えておくがいい。俺は太陽の巫女の身代わりとなって、真のニッネカムイの生贄となったのだ。この地が大地に染み渡り、必ずや真のニッネカムイが目覚める事だろう。その時こそ貴様等は本当の意味で地獄を見る事になる! その時、俺に殺されなかった事を後悔するんだな。ふふ、ふはははは、はーっははははははははははははははははは! ぐがああ!」
 高笑いを浮かべながら、キムンカムイが血の海に沈む。
 それがキムンカムイの最後であった。