蝦夷解放

■クエストシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年06月01日
 〜2007年06月31日


エリア:蝦夷

リプレイ公開日:06月19日23:09

●リプレイ本文

●二風谷のむけて
「‥‥なんとか陸のアッコロカムイ(海の木綿の神)は撃破する事が出来ましたね。トマコマナイの聖域が復興するには、まだまだ時間が掛かると思いますが、今回は一つの成果を上げる事が出来たと考えておく事にしましょうか。それに、この事がキッカケになって、蝦夷の人達の考え方が変わっていくと思いますし‥‥」
 ホッとした表情を浮かべ、カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)が二風谷にむかう。
 二風谷はコロポックル達の聖地だが、外界との交流を断っているため、本当ならカスミ達が入れるような場所ではない。
 しかし、トマコマナイ(苫小牧)の巫女から、二風谷に住むコロポックル達に聖地復興の協力をお願いしてほしいと言われているため、このまま放っておくわけにもいかなかった。
「一先ずは、陸のアッコロカムイ兄弟を倒す事が出来、一歩前進といったところでしょうか。しかし、ここで休んでいる暇はありませんね。陸のアッコロカムイが倒された事で、残りの八傑衆も黙っているわけがありませんし、速やかに二風谷へ助けを求めなければなりませんわ」
 何となく釈然としない感も拭えぬまま、井伊文霞(ec1565)がアッコロカムイとの戦いを思い出す。
 アッコロカムイは海を支配していた悪神の化身と、その力を操る事が出来ると豪語していた男と、その影武者である弟の事を指していたが、思っていたよりも陸を支配していたアッコロカムイ兄弟が弱かったので色々と疑問が残っている。
 もともと陸のアッコロカムイ兄弟の出身は貧民区で、どうやってニッネカムイ(悪神)の力を得たのか分かっておらず、誰かに利用されていた可能性が非常に高い。
 その事から考えても陸のアッコロカムイには、まだまだ秘密が隠されていそうだが、彼らが死んでしまった事で謎を解くための手掛かりがなくなった。
「‥‥八傑衆も、残り七人ですか。まだまだ先は長いようですわね。とにかく何処か拠点となる場所を見つけ、誰かの協力を得る事が出来なければ、今まで以上に面倒な事になりそうですが‥‥」
 警戒した様子で辺りを見回しながら、マミ・キスリング(ea7468)が汗を流す。
 箱館を出た時から何となく誰かに見られているような気がしていたが、トマコマナイの聖域を出た辺り少しずつそれが確信へと変わっていった。
 しかし、こちらが野営をしていても攻撃を仕掛ける事がなかったため、誰かの命令でマミ達を監視しているのかも知れない。
「それでも、陸のアッコロカムイを倒す事が出来たんですから、この地に来て初めて何とかなりそうな気がします。少なくとも二風谷に住むコロポックル達の協力を得る事が出来れば、だいぶ状況が変わってくると思いますし‥‥」
 のほほんとした表情を浮かべ、アヴリル・ロシュタイン(eb9475)が口を開く。
 二風谷はコロポックルの隠れ里で排他的と言う話なので、彼らの協力を得るまで一悶着ありそうだが、ここで悲観的になっている場合ではない。
 陸のアッコロカムイが倒された事を知れば、コロポックル達に希望を与え良い印象を与える事が出来る上、トマコマナイの巫女を助けた事を知れば冷たくあしらう事は出来ないはずだ。
「確かに八傑衆がひとりでも倒された事を知れば、コロポックル達も協力的になってくれるかも知れませんね。トマコマナイの一件を考えると、八傑衆の目的はコロポックル達の聖地を穢してニッネカムイの力を強める事でしょうから‥‥。ただし、陸のアッコロカムイに関しては、聖地に固執していた感じはしませんでしたね」
 何気ない疑問が脳裏を過ぎり、カスミがハッとした表情を浮かべて汗を流す。
 もしかすると陸のアッコロカムイは、トマコマナイの聖域を放棄して箱館に向かい、交易船に乗って江戸に行き己の野望を叶えようとしたため力を失ったのかも知れない。
 もちろん、これは仮説でしかないので証明する手段はないのだが、その考えが正しければトマコマナイの聖域を支配していた弟が、海のアッコロカムイを操る事が出来た可能性が高いという事だ。
 もっともトマコマナイの聖域が海から離れているため、箱館ほど海のアッコロカムイの力を発揮する事が出来たとは思えない。
 ‥‥とは言え、陸のアッコロカムイ兄弟が倒された事で、海のアッコロカムイは制御を失って暴れまわっているという話だが‥‥。
「ただ‥‥、一概には言えませんが、他の場所でも同じ事が起こっていたとすると、既に八傑衆の目的が達成され、まだ見えてこない場所で本当の災いが進行中であるのかも知れませんね。‥‥なにぶん情報が少ないのでこれ以上は考えても仕方ありませんね」
 苦笑いを浮かべながら、カスミが獣道を突き進む。
 トマコマナイの巫女から二風谷の場所を聞いていたので、それほど苦労する事もなかったが、何の情報も無ければ途中で迷っていた事だろう。
 それほど二風谷までの道程は複雑で、行き来するには不便な場所であった。
「‥‥どちらにしても早く二風谷に行かねばな」
 険しい表情を浮かべながら、橘一刀(eb1065)が茂みを掻き分けていく。
 いつの間にかヒルに血を吸われ、藪蚊に身体を刺されているが、休むような場所もないので我慢した。
「本当ならみぞれ(グリフォン)やあられ(グリフォン)に乗っていけば早いんでしょうが、インネ達に見つかっても困りますからね。出来るだけ目立たないように行きましょう」
 巨大な何かが上空を飛んで行ったような気がしたため、和泉みなも(eb3834)が慌てた様子で物陰に身を隠す。
 八傑衆以外にもニッネカムイが存在している事は確かなので、敵に見つからないようにしながら二風谷を目指して進むのだった‥‥。

●目的地はトマコマナイ
「とにかくトマコマナイの聖域に急がねば‥‥。このままじゃ、巫女の命が危ないぞっ!」
 電撃号(水馬)に飛び乗って街道を駆け抜け、伊達正和(ea0489)がトマコマナイの聖域を目指す。
 トマコマナイの聖域が陸のアッコロカムイによって支配されてから数ヶ月。
 陸のアッコロカムイがトマコマナイの聖域を捨てた時点で、生存者がいる可能性はかなり低い。
 それでも正和達がトマコマナイの聖域を目指したのは、わずかな可能性に懸けてみたくなったからである。
「トマコマナイの巫女が無事だと良いのですが‥‥」
 祈るような表情を浮かべ、闇目幻十郎(ea0548)が正和の後を追う。
 ‥‥トマコマナイの聖域まで、あと数日。
 箱館の港町から早馬を走らせれば、誰かひとりくらいは救えるかも知れない。
 例え生存者がゼロだったとしても、死者を埋葬する事が出来る。
「でも、鬼面衆が暗躍しているのなら、急いだ方が良さそうだよね。陸のアッコロカムイが倒された事を知って、鬼面衆が動き出しているはずだから‥‥」
 嫌な予感が脳裏を過ぎり、ハクオロゥ(eb5198)がダラリと汗を流す。
 鬼面衆は謎の多い集団で、ハッキリとした事が分かっていない。
 そのため、様々な噂が飛び交っており、想像だけが一人歩きしている。
 ある者は、大和の地で黄泉女神に仕えて者達だと言って恐れ。
 そして、またある者は河童忍軍を抜けた者達を粛清してきた闇の組織であると囁いていた。
 しかし、誰ひとりとして鬼面衆の正体を知る者はおらず、その規模も謎に包まれたままである。
「何とか間に合ってくれるといいんだが‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、正和が電撃号の手綱を握る。
 トマコマナイの聖域に行くためには、沼の奥にある川を越えていかなくてはならないため、途中から馬を下りねばならない。
 万が一、無理をして沼を渡ってしまった場合、乗っていた馬に負担が掛かってしまうからだ。
「‥‥駄目です。ここから先は馬から降りて、歩いていくしかなさそうですね」
 ボロボロになった地図を開き、幻十郎が深い溜息を漏らす。
 ‥‥コロポックルから貰った地図。
 聖域のある場所が大雑把に描かれているだけだが、これさえあればあまり迷う事もなさそうだ。
 もちろん、この地図が八傑衆に奪われてしまった場合、こちらにとって不利になるかも知れないが、既に八傑衆が地図を入手して聖域を支配している可能性も高い。
 どちらにしても他の場所に向かった仲間達に合流しなければ、情報の共有さえままならない状況だ。
「うひゃ‥‥。これじゃ、遠回りをした方が良かったかもね。まさかここまで足場が悪かったなんて‥‥」
 青ざめた表情を浮かべながら、ハクオロゥが悲鳴を上げる。
 ‥‥目の前に広がる大きな沼。
 一番深いところでも腰までしかないようだが、馬達にとってはキツイ道程になりそうである。
 だからと言って馬をここに置いていけば、インネ達に襲われる可能性があるので、一緒に連れて行かねばならない。
 陸のアッコロカムイが倒された事でインネ達の統率が取れなくなっているため、いずれ馬が必要になってくるからだ。
 そして、ハクオロゥ達は馬を連れ、ゆっくりと沼に足を踏み入れた。

●二風谷
「‥‥自分達は陸のアッコロカムイを討ち、トマコマナイの聖域を解放しました。しかし、現状ではカムイの力を借りる事は出来ません。‥‥お願いします。トマコマナイの聖域を復興するために力を貸して下さい。それがトマコマナイの聖域を守る巫女の願いでもあるのです!」
 ようやく二風谷に辿り着き、みなもが深々と頭を下げる。
 二風谷のコロポックル達は突然の来訪者達に驚き、みなも達の言っている事をなかなか信じてくれなかった。
 そのため、二風谷の酋長であるキラウがみなも達から話を聞き、歓迎すべき客人であるかどうか確かめる事になったらしい。
 ちなみにキラウは二風谷で最も偉い酋長の立場にあり、すべての事柄を決定する権利があるらしい。
「トマコマナイの巫女が何を言ったのか知らんが、俺達がお前らに協力する義理はない。ただでさえ二風谷は八傑衆の脅威に曝されているのだ。ここでお前達に協力すれば、八傑衆を敵に回す事になる。そんな事をして俺達にどんな利益があると言うのだ? トマコマナイの問題は、トマコマナイで片付ければいいだけの事‥‥。わざわざ俺達が仲間を送る必要はないはずだ。それとも俺達を巻き込んで、戦争でも起こすつもりか? だったら余計にお断りだ! 俺には仲間達を守る役目があるからなっ!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、キラウがフンと鼻を鳴らす。
 みなも達が来る前に何かトラブルでもあったのか、キラウはひどくイライラとしているようだ。
「確かに‥‥、八傑衆がここに攻めてくる可能性も捨て切れません。しかし、八傑衆の目的はあくまで各聖域の確保です。聖域が穢される事によって、八傑衆の力は強まっていくばかり‥‥。ここでトマコマナイの聖域を浄化する事が出来れば、八傑衆の力を弱まらせる事も出来るはず。ならば、お互いにとっても利益になると思うのですが‥‥」
 真剣な表情を浮かべながら、カスミがキラウの説得を試みる。
 しかし、キラウはカスミ達の事を快く思っていないため、どんなに説得してもなかなか心を開こうとしない。
「お互いの利益‥‥か。そんな事を言って俺達を騙そうとしても無駄だ! どんな手段を使って、トマコマナイの巫女を騙したのか知らんが、俺達にまで同じ手が通用するとは思うなよっ!」
 殺気に満ちた表情を浮かべ、キラウがカスミを睨む。
 それでもカスミ達は視線を逸らさず、キラウをずっと睨んでいる。
「お前達の目的は‥‥カムイの剣か?」
 ‥‥キラウが言った。
 まるですべてを察しているかのように‥‥。
「確かカムイの剣とは‥‥、八傑衆の力を退ける事の出来る剣の事ですね。その剣さえあれば八傑衆と互角に戦う事が出来るだけでなく、失われた聖域の力を取り戻す事が出来るはず‥‥。今後の事を考えればしばらくお借りしたいのですが‥‥、この状況ではそれも難しそうですね」
 キラウの顔色を窺いながら、文霞がボソリと呟いた。
 一応、ここを訪れる前に刀鍛冶に会って話を聞こうとしていたのだが、八傑衆に命を狙われている事を知って姿をくらましているらしい。
「やはり‥‥な。そうでなければ、お前達がここに来る理由はない。どうせトマコマナイの巫女からの頼みと言うのも嘘か、後からこじつけた事だろう。まぁ‥‥、そんな事はどうでもいい。どんな理由であれ、お前達に協力するつもりはないからな。しかし、残念だがここにカムイの剣はない。どうしても欲しいというのなら、サッポロペ(札幌)の聖域に行くんだな。もしも、そこにいる八傑衆を倒す事が出来るのなら、その時はくれてやる」
 面倒臭そうな表情を浮かべ、キラウが鼻を鳴らして視線を逸らす。
 カムイの剣の回収にはエカシ達も向かっているが、その事まで口にするつもりはないようだ。
「せめて刀鍛冶さえいれば、村雨丸の修理が出来たものの‥‥。これでやるべき事が、もうひとつ増えたな」
 壊れた刀を握り締め、一刀が残念そうに溜息をつく。
 今までコロポックルの聖地として災いとは無縁だった二風谷にも、八傑衆の脅威が迫りつつあるようだ。
「それじゃ、協力は無理と言う事ですね。残念ですが、その事をトマコマナイの巫女にも伝えておきます。本当ならこんな事を言いたくはありませんが、トマコマナイの巫女も、きっとガッカリするでしょう」
 キラウを見つめて深々と頭を下げ、アヴリルが仲間達を連れて部屋を出た。
 仕方のない事かも知れないが、こうなってしまった以上、自分達で何とかするしかなさそうだ。
「ぎゃああああああああああああ!」
 次の瞬間、キラウのいた部屋で悲鳴が上がる。
 慌てた様子で部屋に戻るアヴリル達。
 ‥‥キラウの部屋は一面血の海。
 先程までアヴリル達と話をしていたキラウが、何故か地面に倒れている。
「し、死んでる!?」
 ハッとした表情を浮かべ、アヴリルがダラリと汗を流す。
 キラウは何者かに喉元を切られ、既に息絶えていた。
「ひ、人殺しだああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
 コロポックル達の悲鳴が辺りに響く。
 途端に弓を向けられ、身動きの取れなくなるアヴリル達。
 ここで動けばキラウ殺しを認める事になってしまう。
 ‥‥それだけは何としても避けねばならない。
 こうしてアヴリル達はエカシ殺しの犯人として、牢屋に閉じ込められる事になった。

●野営
「とうとう日が暮れてしまったな。‥‥仕方ない。今日はここで休むとするか」
 トマコマナイの聖域に向かっている途中で日が暮れてしまったため、正和が火打石を叩いて焚き木に火をつける。
 何とか沼を抜ける事が出来たのだが、辺りが暗くなってしまったので、これ以上先に進むのは危険なようだ。
 もちろん、無理に進む事も出来るのだが、ただでさえ迷いやすい場所なので、トマコマナイの聖域に行く事が難しくなる。
「シッ‥‥、静かに。誰かがいます。しかも複数‥‥。どうやら囲まれているようですね」
 神刀『クドネシリカ』を握り締め、幻十郎が警戒した様子で辺りを見回した。
 ‥‥異様な気配。
 先程までまったく気配がなかったため、気づく事さえ出来なかった。
 しかし、その気配が感じられたという事は‥‥。

(「‥‥来るっ!!」)

 そう思った瞬間、暗闇で何かが動く。
 ‥‥漆黒の忍び装束を纏い、鬼の仮面を被った男達。
 その男達に幻十郎は見覚えがあった。

(「‥‥鬼面衆!!!!」)

 刀身が真っ黒に塗られているため、鬼の仮面を被っていなければ、何処にいるのかさえ分からない。
 そして、わずかな香のニオイ‥‥。
 暗闇に浮かんだ鬼の仮面が、まるで妖怪か物の怪の類に見える。
「い、いつの間に‥‥! 全然、気づかなかったぞ!」
 ハッとした表情を浮かべ、ハクオロゥが短刀を抜く。
 すっかり油断をしていたためか、自分の置かれている状況を理解するまで、かなりの時間を必要とした。
「‥‥それだけ相手が手練れだというわけか。だが、俺達だってここで負けるつもりはない!」
 霊刀『ヨミ』を抜刀して手裏剣を弾き、正和が辺りを見回して敵を探す。
 しかし、敵が夜の闇に紛れて攻撃を仕掛けてくるため、頼りになるのは月明かりだけだった‥‥。
 その上、鬼面衆の方が暗闇で戦い慣れている上、この辺りの地理も詳しいはずだ。
 そのため、正和達が苦戦を強いられる事は、容易に予想の出来る事だった。
「い、いくらなんでも、この状況で鬼面衆を相手にするのは無理だよっ!」
 青ざめた表情を浮かべながら、ハクオロゥが悲鳴を上げる。
 それと同時に漆黒の手裏剣が頬を掠り、ハクオロゥが呻き声を上げて膝をつく。
「しかし、ここで敵に背を向ければ‥‥」
 ‥‥待っているのは『死』である。
 それが分かっているからこそ、幻十郎は戦う事を止めなかった。
 一撃‥‥、二撃と、敵に攻撃を打ち込んでいく。
 だが‥‥、それだけであった。
 まるで紙を切っているような奇妙な感覚。
 ‥‥例えようのない違和感。
「ま、待って! 何かおかしくない!?」
 クンクンと鼻をヒクつかせ、ハクオロゥが地面に置かれていた香炉を掴む。
 次の瞬間、鬼面衆の気配が‥‥、消えた。
 一瞬、何が起こったのか分からず、唖然とした表情を浮かべるハクオロゥ。
「こ、これは‥‥、幻!? 自分達はいつから敵の術中に‥‥」
 納得が行かないまま、幻十郎がダラリと汗を流す。
 しかし、誰もその問いに答える者はいなかった‥‥。

●サッポロペ
「ほほぉ〜、ここがサッポロペの聖域か。聖域と言うより、性域ってカンジじゃのぉ。げっひゃっひゃ!」
 いやらしい笑みを浮かべながら、エカシが鼻の下を伸ばして辺りを見回した。
 パウスカムイ(淫らな女神)に支配された事で、サッポロペの聖域は半ば遊郭と化しており、着物を着た女性があちらこちらで手招きしている。
「み、見ちゃ駄目よ」
 恥ずかしそうに頬を染め、ルウォプ(ec0188)はルイの両目を手で塞ぐ。
 何処を見ても子供には刺激が強すぎるものばかりなので、こうでもしておかねばルイまでエカシ化してしまう。
 しかもむせ返るほどキツイ香のニオイ‥‥。
 そのニオイを嗅いだだけでも、頭がクラクラしそうである。
「あのぉ〜、せめてルイだけでも二風谷に帰した方がいいんじゃないのかな? 何というか、教育的にもよろしくないようだしぃ〜」
 苦笑いを浮かべながら、ルウォプが拳をぶるりと震わせた。
 しかし、エカシは好みの女性を捜すのに夢中で、ルウォプの話をまったくと言っていいほど聞いていない。
「‥‥エカシさん。あたしがニコニコとしているうちに、考え方を改めた方がいいと思いますよ‥‥」
 警告まじりに呟きながら、ルウォプが殺意のオーラを漂わせた。
 そのため、ルイは身の危険を感じて物陰に隠れたが、エカシは気にせず遊女達と金額の交渉を始めている。
「えーっと、ルイ。しばらくここで待っていてくれる?」
 引きつった笑みを浮かべながら、ルウォプがエカシをドツキにむかう。
 そこでようやくルウォプの気配に気づいたのか、エカシがビクンと身体を震わせた。
「お、おや‥‥、ルウォプさん。そこにいつからおったのじゃな? わしゃ、最近ボケてしまったのか。ついさっきまでの記憶がスッポリと抜けてしまう事があるのじゃよ」
 わざとボケたフリをしながら、エカシが滝のように汗を流す。
 しかも、エカシは遊女との金額交渉が終え、皮袋の中にあった有り金を全部出そうとしている途中であった。
「一応、それってあたしのお金なんですけど分かっていますよね? ここでハッキリと言っておきますが、そんな事にお金はビタ一文ありませんよ。例え途中で捕まったとしても、カムイの剣絡みじゃなきゃ、今度こそ見放すかも知れませんからね!」
 あまりにもエカシがハメを外していたため、ルウォプが呆れた様子で言い放つ。
 しかし、その言葉に反応したのは、エカシではなく遊女達であった。
「へぇ‥‥、あなた達はカムイの剣を探しに来たのね。
 舐めるような視線を送り、遊女達がジリジリと迫っていく。
 幸せそうな笑みを浮かべ、遊女達に連れていかれるエカシ。
 いつの間にかルイも遊女達に捕まり、羽交い絞めにされている。
「ちょっ、ちょっと! 待っ‥‥」
 だが、ルウォプの意識があったのは‥‥、そこまでだった。
 ‥‥かすかに覚えているのは深い闇。

●見捨てられた村
「おいで、綺麗にしてあげるから」
 浜辺に打ち上げられた廃材を使って風呂を沸かし、フレイヤ・シュレージェン(ec0741)が子供達を呼び集める。
 子供達の身体からはすえたニオイが漂っており、ノミに噛まれている者も少なくない。
 そのため、フレイヤは子供達の服を脱がせ、ひとりずつ風呂にいれる事にした。
 子供達の話では森の果物などを食べて食いつないできたようだが、栄養不足のせいでみんなガリガリに痩せ細っている。
「‥‥どうやら村に大人はいないようだな」
 村をひとまわりした後、ゲレイ・メージ(ea6177)が溜息を漏らす。
 何故か村に大人達の姿はなく、子供達だけしかいなかった。
 しかし、ずっと子供達だけで住んでいたというわけではなく、何らかの事情で村から大人達がいなくなってしまったらしい。
 その理由はいくつか考えられるが、詳しい理由を聞くためには子供達と仲良くなっておく必要がありそうだ。
「もし良かったら、大人達がいなくなった理由を教えてくれる?」
 フレイヤの言葉に子供達がハッとなる。
「この村は‥‥、アッコロカムイを崇めていた村なんだ」
 一番年長の少年が口を開く。
「‥‥アッコロカムイを崇める村?」
 とフレイヤ。
 まわりにいた子供達も、小さくコクンと頷いた。
「この村はアッコロカムイの怒りを鎮めるため、代々生贄を捧げてきた村なんだ。生贄になるのは若い娘‥‥。しかも穢れのない娘だけってオヤジが言ってた。今まではアッコロカムイに生贄を捧げる事で怒りを鎮めていたんだけど、八傑衆が現れてからすべてがおかしくなったんだ。いくら生贄を捧げてもアッコロカムイの怒りは収まらないし、ずっと海は荒れ狂ったまま‥‥。大人達の中には海のアッコロカムイに勝負を挑んだ人もいたけど、帰ってくる大人はいなかった‥‥」
 今までの事を思い出し、少年が拳をギュッと握り締める。
 ‥‥大人達がいなくなってからが大変だった。
 海のアッコロカムイと戦っても勝ち目がないと悟った大人達は、長旅の足手纏いとなる子供達を見捨て、新たな土地に旅立っていったのだから‥‥。
 一応、大人達の話では纏まった金が出来たら、必ず迎えに来ると子供達に約束したが、インネ達の蔓延る蝦夷では稼ぐ手段など限られている。
 そのため、迎えに来る事が出来る大人は数少ない。
 ちなみに子供達が言っているアッコロカムイは、陸にいた兄弟ではなく、フレイヤ達を襲った怪物の方らしい。
「それじゃ、大人達が帰ってくるまで、お前達は待ち続けるというわけか? それじゃ、身体が持たないぞ。せめて飯だけでも喰っておけ。少しでも長く生きていたいのならな」
 険しい表情を浮かべながら、ゲレイがジロリと睨みつける。
 ‥‥村の外れで見つけた無数の岩。
 最初に見つけた時は何かと思っていたが、子供達の話を聞いているうちに岩の正体が分かった。
 あれはすべて、この村で亡くなった子供達の‥‥墓である。
「怖い思いをしたのね、‥‥大丈夫。私達が守ってあげるわ‥‥」
 子供達の気持ちを理解し、フレイヤが優しく抱き締めた。
 そのため、子供達もフレイヤの胸でワンワンと泣き始める。
「ずっと‥‥、我慢していたんだな。まぁ‥‥、いつまでもここに居る事が出来わるわけじゃない。そうやっていると‥‥、別れるのが辛くなるぞ」
 気まずい様子で視線を逸らし、ゲレイがコホンと咳をした。
 もちろん、ここでキッパリと言う事も出来たのだが、子供達の視線が気になったので回りくどい言い方をしたようだ。
「‥‥分かっています。でも、このまま子供達を放っておくわけにもいきません。せめて子供達だけで暮らしていけるような環境を作らねば、彼らを見殺しにする事になりますから‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、フレイヤがゲレイに対して答えを返す。
 本当はずっと子供達と一緒にいたいのだが、自分達がいる事で八傑衆との戦いに巻き込んでしまう事になる。
 こうしている間も鬼面衆がどこかに隠れて監視している可能性があるのだから‥‥。
「とにかく少しだけでも時間をください。絶対に後悔をさせませんから‥‥」
 ゲレイが先に行ってしまったため、フレイヤが慌てた様子で腕を掴む。
 鬼面衆がいつ襲ってくるとも限らないので、ゲレイが単独で行動するだけで死亡率がグンとアップする。
「実は‥‥‥‥‥‥、隠していた事があるんだ」
 覚悟を決めた表情を浮かべ、少年がゆっくりと口を開く。
 ずっと隠して行こうと思っていたが、フレイヤ達がよくしてくれているので嘘はつけない。

<移動可能>
 函館−トマコマナイ
 トマコマナイ−二風谷
 二風谷−サッポロペ
 見捨てられた村−サッポロペ

今回のクロストーク

No.1:(2007-06-06まで)
 自分の事を漢字一文字で表すと何?