蝦夷解放

■クエストシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年08月01日
 〜2007年08月31日


エリア:蝦夷

リプレイ公開日:08月23日01:30

●リプレイ本文

●三章 サッポロペッ(札幌)
「はぁ‥‥、これからどうすればいいんでしょうか。何だか日が経つにつれて扱いが良くなっているような気がするんですが‥‥」
 魂の抜けた表情を浮かべ、ルウォプ(ec0188)が深い溜息を漏らす。
 サッポロペッの聖域に来てから、早数ヶ月。
 酷い扱いを受けるどころか、まるで一国の女王のような扱いを受けている。
 そのため、身につけているものは最高級の服。
 体に吹きかけられている香水も、濃厚なニオイのするものだった。
 もちろん、ここまで良い生活をしているのだから、パウチカムイ(淫らな女神)に対してほとんど不満は無いのだが、常に身の危険を感じている事は間違いない。
 それでも何度か彼女の住む屋敷から逃亡を図ろうとしたのだが、濃厚な香のニオイにやれられて気がつくと布団に寝かされていた。
 しかし、パウチカムイが強引に迫ってくる事はなく、まるでその過程を楽しんでいるような雰囲気だ。
「あらぁん、どうしたのかしら?」
 妖艶な笑みを浮かべながら、パウチカムイが擦り寄ってくる。
 だが、彼女にベタベタと触れるわけでなく、その反応を楽しんでいるだけのようだ。
「えーっと、厠に行きたいのですが‥‥」
 何とかしてパウチカムイから逃げるため、ルウォプが愛想笑いを浮かべて厠に行こうとする。
 ただし、厠まではパウチカムイの侍女達がついていくため、迂闊な行動をするわけには行かない。
 ここで彼女が逃げ出してしまえば、間違いなくルイ達が処刑されてしまう。
 ‥‥それだけは何としても避けたかった。
(「今までの思い出が走馬灯のように蘇ってきているのは‥‥、気のせいじゃありませんね。ああ‥‥、何だか涙が‥‥」)
 自分の身に降りかかってきた不幸を呪いながら、ルウォプが虚空を見つめて乾いた笑いを響かせる。
 出来る事ならこのまま脱兎の如く逃げ出したい気分だが、ルイ達の顔が脳裏を過ぎるので何か方法を考える必要があった。
(「このままインビジブルの魔法を使って逃げる事は簡単ですが、そんな事をすればルイ達が処刑される事は間違いありませんよね。パウチカムイは男の人に対して嫌悪を感じているようですし‥‥」)
 引きつった笑みを浮かべながら、ルウォプがうまい方法が無いか考える。
 頭の中で円らな瞳のハツカネズミが回し車をカラカラとまわり、彼女の脳味噌をフル回転(注:イメージ映像)させているのだが、やはり良いアイデアが浮かんでこない。
 そんな事をしているうちに、侍女からパウチカムイに報告が入る。
「うふふふふ‥‥、ルウォプさん、喜んで。あなたのお友達が捕まったそうよ」
 含みのある笑みを浮かべ、パウチカムイが彼女に迫っていく。
 いまにも『残念だったわね』と言わんばかりの表情を浮かべ‥‥。
 そして、連れて来られた者達は、ルウォプの知っている人物達ばかりであった。
 多分、彼女を助けに行こうとして、パウチカムイの罠に嵌ってしまったのだろう。
 みんな悔しそうな表情を浮かべて、唇をグッと噛み締めている。
「こんな真似をして‥‥。俺達をどうするつもりだ」
 両手を後ろに縛られた状態のまま、伊達正和(ea0489)がパウチカムイを睨む。
 しかし、パウチカムイは扇子を仰ぎ、正和達を見つめて高笑いを響かせる。
「あ〜ら、それはこっちの台詞よぉ。私達が愛を語り合っている時に、土足で入ってきた癖に‥‥。お客だったらそれなりの礼儀を心得ておきなさい。それともアレかしら? 私が八傑衆と言うだけで、この聖域に踏み込んできたわけじゃないでしょうね? ‥‥悪いけど私は他の奴らと違うの。ここにいる人達だって別に力ずくで支配しているわけでもないし、出来るだけ穏便にコトを運んできたんだから‥‥。まぁ、無駄な抵抗をする悪い子は、可愛いペットちゃんの餌にしちゃったけどね」
 正和達の顔色を窺いながら、パウチカムイがニヤリと笑う。
 彼女の言っているペットがどんなモノなのか不明だが、その口ぶりから人を喰ってしまう生き物らしい。
「まさか、その程度の脅しで自分達が命乞いをするとでも思っているんですか? だとしたら、とんだ考え違いですね。自分達はルウォプさんを助けるために、ここまで来ました。既に覚悟は出来ています」
 パウチカムイから全く視線を逸らさず、闇目幻十郎(ea0548)がキッパリと言い放つ。
 いまさら命乞いをしたところで、事態が良くなるとは思えない。
 この状況で何を言っても、パウチカムイの答えは決まっているのだから‥‥。
「ふふっ‥‥、勇ましいのね。だったら、彼女を返してあげる。それであなた達は満足なんでしょ? その代わり二度とこの地に足を踏み入れないと約束してくれるかしら? 私はこれでも平和主義だから、面倒事がキライなの」
 扇子をパタパタさせながら、パウチカムイがゆっくりと背を向ける。
 それと同時に侍女達が幻十郎達の縄を解き、ペコリと頭を下げて後ろに下がっていく。
 呆気に取られて、言葉を失う男達。
「ちょっと待ってくれ。何だか話がうま過ぎないか? そんな事を言ってオイラ達を罠に嵌めるつもりだろ? ひょっとしてカムイの剣を渡すのが嫌だから、オイラ達をここから追い出すつもりなのか!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、ハクオロゥ(eb5198)が文句を言う。
 カムイの剣はもともと二風谷にあったものだが、酋長のキラウからパウチカムイの手に渡っている事までは分かっている。
「ふふっ‥‥、何も知らないのね。カムイの剣なら、とっくの昔にキムンカムイ(山の神)に渡したわ。‥‥言ったでしょ。面倒事はキライだってね。だから私は時間稼ぎを頼まれただけ。嘘だと思うんだったら、本人に聞いてみなさい。もしも私が嘘をついていたら、首を刎ね落としても構わないからさ」
 凍るように冷たい視線を送り、パウチカムイがハクオロゥ達を挑発した。
 その表情から嘘をついていないようだが、キムンカムイについてはあまり話したくないらしい。
「あ、あの‥‥。エカシさんと、ルイは‥‥」
 申し訳無さそうな表情を浮かべ、ルウォプがふたりの安否を確認する。
 ふたりとも今頃、遊女達に襲われて骨抜きになっている頃なので、だんだん心配になってきたらしい。
「‥‥死んだわ。これが、その証拠よ」
 少し寂しげな表情を浮かべ、パウチカムイがルイの持っていたバンダナを渡す。
 彼女の話ではエカシは二風谷の長老として遊女達の誘惑を跳ね除け、漢らしく自ら死を選んだようだ。
 そのため、絶望に打ちひしがれたルイは泣き叫んで命乞いをした挙句、おかしくなって牢獄で命を絶ったという話である。
「嘘をつくんじゃねえ! どこまで俺達を馬鹿にすれば気が済むんだ! カムイの剣だって、本当はここにあるんだろ?」
 殺気に満ちた表情を浮かべ、正和がパウチカムイを威嚇した。
 しかし、この場所に連れて来られた時に武器を没収されてしまったため、ここでパウチカムイに攻撃を仕掛ければ命はない。
「残念ながらカムイの剣はここにないわ。それじゃ、逆に聞かせてもらうけど、私がカムイの剣を持っていて得する事があると思う? 二風谷の連中を脅かすだけなら、『持っている』と言うだけでいいんだから‥‥」
 飾り付けられた椅子に座り、パウチカムイがキセルを吹かす。
 死ぬ事に対してまったく興味が無いのか、正和達がいくら脅してもビクともしない。
「それじゃ、あなたはキムンカムイがカムイの剣の力を解放するまで、自分達を足止めしていたというわけですか? 何とも信じ難い話ですね。少なくともこんな状態で聞く話ではありません」
 いまいち彼女の話を信じる事が出来なかったため、幻十郎が納得のいかない様子で答えを返す。
 ここで彼女の言葉を鵜呑みにする事は簡単だが、二度とサッポロペッの聖域が入る事が出来ないとなると話が変わってくる。
「それじゃ、私の命を奪ったら納得するのかしら? 私の部下はしつこいわよ。地の果てまで追いかけてくるからね。そこまでの覚悟があるのなら、私を殺ればいいじゃない」
 勝ち誇った様子で胸を張り、パウチカムイが腰に手を当てた。
 彼女は幻十郎達と戦うつもりが無いため、このまま彼らを帰すつもりでいるようだ。
 しかし、彼女がここにいる限り、サッポロペッの聖域を取り戻す事は出来ない。
「一体、オイラ達はどうすればいいんだよ。これじゃ、どちらか片方だけ選ぶ事なんて出来ないよ」
 拳をギュッと握り締めながら、ハクオロゥがパウチカムイを睨む。
 だが、彼らは選択しなければならなかった。
 この状況で最善の方法を‥‥。

●四章 二風谷
「‥‥困りましたね。こんな場所で寝泊りしていたら、いつ病気になってもおかしくありません。申し訳ありませんが、掃除道具を御借りしても宜しいでしょうか? それに着物も洗濯させて頂けると助かります‥‥」
 自分達が閉じ込められている牢屋があまりにも汚かったため、和泉みなも(eb3834)が見張りの男を呼んで掃除用具を要求する。
 しかし、みなも達が掃除用具をバラして逃亡用の道具を作る恐れがあるため、彼女の要求は無情にも却下された。
 もちろん、彼女も逃亡用の道具を作るために、掃除用具を要求したわけではない。
 純粋に牢屋の中が汚れていたから、掃除をしたかっただけなのだ。
 その代わり彼女達の着ている服は、コロポックルの娘達が責任を持って洗濯してくれる事になった。
「まぁ‥‥、わたくし達は囚われの身ですからね。簡単に要求が通るほど、信頼されているわけでもありませんし‥‥」
 苦笑いを浮かべながら、井伊文霞(ec1565)が手拭いを使って体を拭く。
 彼女達が閉じ込められている牢屋には、常に水の入った桶が置かれており、壁には手拭いが掛けられていた。
 桶に入った水は毎日交換されており、この水を使って顔を洗ったり、手拭いを湿らせて体を拭いている。
 牢屋での生活は決して快適なものでなかったが、仲間達が帰ってくるまでは我慢するしかなかった。
「ああ、悪いがあんたらを信頼しちゃいない。この谷に住む者は誰ひとりとして、な。ハピリカ様を八傑衆に売った人間を信じるほど、俺達もお人よしじゃない。‥‥それとも何か? 今までの事を悔いて、いますぐ土下座でもするか? どうせ、あんたらの仲間は帰ってこないんだから‥‥」
 含みのある笑みを浮かべながら、見張りの男が文霞に顔を近づける。
 ‥‥この男は何か知っている、と直感的に思った。
「それって‥‥、どういう意味ですか? まるで何か知っているような口ぶりですが‥‥」
 感情を押し殺すようにして口を開き、みなもが見張りの男をジロリと睨む。
 ここで感情的になっても問題は無いのだが、それ以上に相手の真意を知りたかった。
「そのままの意味さ。フラヌィ(富良野)の聖域に行って、誰ひとりとして帰って来た者はいない。あそこにいる八傑衆のひとりは、卑怯な手段を好んでいるからな。みんな騙まし討ちに遭って死んでいる。きっと、今頃は‥‥、おっと危ない、危ない」
 みなも達の顔色を窺いながら、見張りの男がヘラヘラと笑う。
 まるで彼女達の感情を逆撫でするような口調。
 みなもは正直、腹が立っていた。
 そのため、相手が二風谷の住民でなければ、冷静でいる事が出来なかったかも知れない。
(「それを狙って、こんな事を‥‥。卑怯にも程がありますね!」)
 その事実を知った時、みなもは余計に腹が立った。
 ここで彼女達が騒ぎを起こせば、その事を口実にして仲間達を脅す事が出来る。
 それどころかドサクサに紛れて、彼女達を始末する事だって出来るのだ。
 ‥‥男の口調が挑発的になるのも無理はない。
(「まさか、この男がキラウ様を‥‥」)
 険しい表情を浮かべながら、文霞が拳をギュッと握り締める。
 見張りの男が実行犯ではないにしろ、鬼面衆を手引きした事は間違いない。
 だが、この状況では見張りの男を殴る事さえ出来ない。
 それが悔しくて仕方がなかった。
 自分達を陥れた男が目の前にいるにも関わらず、何もする事が出来ないのだから‥‥。
「まぁ‥‥、しゃあないわな。あんたらがキラウ様を殺害し、ハピリカ様を変態野郎に売ったんだから‥‥。俺だって本当はこんな事をしたくは無いんだぜ。でもなぁ、キラウ様に至っちゃ、あんたらが殺しているところを見ちまったからよぉ。あんときゃ、本当に驚いたぜ。俺も真実を話すべきか悩んだが、事実なんだから仕方ねぇよな!」
 高笑いを上げながら、見張りの男が文霞達を挑発する。
 すべては仕組まれていた事だった。
 鬼面衆達によって、何もかも‥‥。

●六章 見捨てられた村
「‥‥いいですか。私はすぐ戻りますけど、その間は貴方が皆を守るのですよ」
 リーダーらしき子供を体長に任命し、フレイヤ・シュレージェン(ec0741)が連れ去られた女の子達の捜索にむかう。
 子供達が寂しがらないようにするため、最後の夜はみんなで一緒に眠ったが、その事で余計に子供達と別れるのが辛くなった。
「お姉ちゃん、行かないで!」
 大粒の涙を浮かべながら、子供達が次々としがみついてくる。
 だが‥‥、ここで躊躇っているわけにはいかなかった。
 例え子供達が涙を流して懇願したとしても、連れ去られた女の子達を助けるためには、見捨てられた村から旅立たねばならない。
「‥‥行くか。これ以上、ここに居ても別れが辛くなるだけだ」
 クールな表情を浮かべながら、ゲレイ・メージ(ea6177)が溜息を漏らす。
 こうしている間も仲間達が八傑衆との戦いに明け暮れているため、いつまでものんびりしている訳には行かなかった。
 八傑衆が蝦夷を拠点としている以上、戦いを避ける事など出来ないのだから‥‥。
「それじゃ、私達が帰ってくるまで、この村をよろしく頼みますね」
 後ろ髪を引かれる思いで別れを告げ、フレイヤが見捨てられた村を後にした。
 彼女達がまずむかう事になったのは、サッポロペッの聖域。
 サッポロペの聖域は半ば遊郭と化しているため、見捨てられた村で誘拐された少女達が働かされている可能性が非常に高い。
(「‥‥何とか間に合ってくれるといいのですが‥‥」)
 祈るような表情を浮かべながら、フレイヤがサッポロペッの聖域にむかう。
 サッポロペッの聖域までの道程は険しく、慣れない場所であったため何度も迷った。
 しかし、彼女達は決して諦める事なく、サッポロペッの聖域を目指して茂みを掻き分けていく。
「‥‥困ったな。どうやら完全に迷ったらしい」
 疲れた様子で溜息をつきながら、ゲレイがキョロキョロと辺りを見回した。
 間違いなくサッポロペッの聖域を目指して来たはずだが、何処かで道を間違ってしまったようだ。
 だからと言って、いまさら後戻りする事も出来ない。
 引き返したところで元の場所に戻れる保証がないし、それだけ時間をロスしてしまうだけだ。
 せめて目印でもつけておけば迷う事はなかったのだが、こうなってしまってからでは後の祭りである。
「‥‥進みましょう。まだ迷ってしまったと、決め付けるには早過ぎます」
 わずかな可能性に希望を託し、フレイヤがゆっくりと歩き出す。
 このまま歩き続ければ、いずれ何処かの集落に辿り着くはずだ。
 そこでサッポロペッの聖域に関する情報を聞きだす事が出来れば、後戻りするよりも無駄な時間を短縮する事が出来る。
「この辺りは八傑衆の支配下にある可能性が高い。インネ(悪人)達によって、私達の人相書きが出回っているらしいからな。自分達の身を守るために、私達を『売る』可能性もある」
 蝦夷の大半が八傑衆に支配されている事を危惧し、ゲレイがフレイヤに対して警告まじりに呟いた。
 もちろん、八傑衆の支配が何処まで進んでいるのかわからない。
 だが、冒険者達によって解放された聖域がほとんど無いため、立場的には不利であると考えるべきだろう。
「ええ‥‥、分かっています」
 覚悟を決めた様子で茂みを掻き分け、フレイヤが森の中を進んでいく。
 サッポロペッの聖域があるのは、乾いた広大な河があった場所。
 とにかく森を越えて乾いた広大な河を見つけねばならない。
「ほっほっほっ、なにやら困っているようじゃのう。良かったら、わしが道案内をしてやろうか?」
 それは見た事の無いコロポックルの老人と、子供であった。
 だが、敵ではない。
 何故かフレイヤにはそう思えた‥‥。

●八章 フラヌィの聖域
「サッポロペッの聖域を開放する前に、フラヌィの聖域を支配しているパトゥムカムイ(病魔の神)を倒せとは‥‥、随分と難しい注文をつけてきましたね。しかし、二風谷の牢獄に閉じ込められた仲間達を解放するためにも、全力を尽くさなければなりません。例え、フラヌィの聖域を支配しているパトゥムカムイが、どんな相手だったとしても‥‥」
 自分自身に言い聞かせるようにしながら、マミ・キスリング(ea7468)が閃光皇(優れた戦闘馬)に乗ってフラヌィの聖域を目指す。
 フラヌィの聖域は異臭が漂っている酷い場所で、辺りにはコロポックル達の死体が転がっている。
 しかも大半の死体が拷問を受けており、苦悶の表情を浮かべて亡くなっていた。
 二風谷に住むコロポックル達の話では、フラヌィの聖域を支配しているパトゥムカムイは三度の飯より拷問が好きで、男をいたぶる事に至福の悦びを感じる変態らしい。
 そのため、フラヌィの聖域を守っていたコロポックルの男性達がパトゥムカムイに捕まって拷問を受けて惨殺され、コロポックルの女性達はサッポロペッに運ばれ遊女として生きる事になったと言う話である。
 しかし、パトゥムカムイも八傑衆のひとりなので、そこまで酷い事をされても逆らう事が出来なかった。
「でも、二風谷のコロポックル達と争いが避けられただけでも良かったと思いますよ。あのままコロポックル達と戦う事になっていたら、沢山の血が流れていたのかも知れませんし‥‥。誤解されたままコロポックル達と戦っても、後味の悪い結果にしかなりませんからね」
 自分達の身代わりとなって牢屋に入れられた仲間達の顔を思い浮かべ、カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)がアスファロス(優れた駿馬)の手綱を握る。
 どちらにしてもフラヌィの聖域を開放するためには、パトゥムカムイを倒さなければならないため、コロポックル達の要求を拒む理由がなかった。
 二風谷に住むコロポックル達の話が間違っていなければ、フラヌィの聖域に太陽の巫女であるハピリカが囚われている可能性が高いのだから‥‥。
「それにしても、このニオイ‥‥、耐えられんな。二風谷のコロポックル達からクサイ場所だと聞いていたが、まさかここまで臭うとは‥‥。これは死臭だけでなく、別のニオイも混ざっているようだが‥‥。本当にこんな場所で生活する事が出来るのか? 正直‥‥、あまり想像したくないな」
 険しい表情を浮かべながら、橘一刀(eb1065)が口元を押さえる。
 辺りから漂う汚物のニオイで、何度も吐き気が襲ってきた。
 もちろん、ここで引き返すわけにはいかないため、ハピリカを助け出すので我慢するしかなさそうだ。
「ハピリカ様が無事だといいのですが‥‥」
 心配した様子で辺りを見回しながら、アヴリル・ロシュタイン(eb9475)が深い溜息を漏らす。
 ハピリカが行方不明になってから、しばらく時間が経っているため、彼女が囚われの身になったままなら生きている可能性が低い。
 その上、パトゥムカムイ側から何の要求も無いため、どうしても最悪の結果ばかりがアヴリル達の脳裏に過ぎってしまう。
「‥‥祈りましょう。ハピリカさんが無事である事を信じて‥‥」
 突然、アスファロスが走る事を止めたため、カスミが警戒した様子でブレスセンサーを発動させた。
 次の瞬間、死体の山に潜んでいたインネ達がムックリと起き上がり、カスミ達の逃げ道を塞ぐようにしてまわりを囲む。
 インネ達はカスミ達を睨んだまま弓を構えており、雄叫びをあげて一斉に弓矢を放ってきた。
「‥‥やはり罠か」
 雨のように降り注ぐ弓矢を避けながら、一刀が襲い掛かってきたインネを殴る。
 そのため、インネ達は呻き声を上げて弓を落とし、崩れるようにして地面とキスをした。
「こ、殺せ! ひとり残らず、殺っちまうんだ!」
 それでもインネ達の勢いが収まる様子はまったくない。
 それどころか興奮した様子で雄叫びを上げながら、今度は錆びついた刀を振り回して襲い掛かってくる。
「自然は例えどんなに汚されようが、自らの力で浄め必ず元の美しい状態に戻っていく。‥‥人は努力する事を諦めてはいけませんわ。現状を変えようと努力すれば、必ず事態は好転するものです。人はそれを『自戒』といいますわ」
 オーラシールド、オーラボディ、オーラエリベイションを使ってから、マミが一気に駆け抜けてスマッシュを放つ。
 そのため、インネ達が次々と弓を射ってきたが、マミは躊躇う事無くカウンターアタックを炸裂させる。
「こ、こんな場所で足止めを食らうとは‥‥、悔しいですわ! パトゥムカムイに情報をリークしたのが、二風谷のコロポックル達なのか、それとも キムンカムイ(山の神)なのか分かりませんが、私達の戦力を分断させて叩き潰そうとしていた事は間違いありませんね」
 インネ達の相手をしながら、アヴリルが唇をグッと噛み締めた。
 誰かが情報を漏らしていない限り、アヴリル達の奇襲が成功していたはずなので、誰かが彼女達を罠に嵌めた可能性が高いのだが、インネ達を退治する事が出来なければ、その真相を探る事さえ出来ない。
「犯人探しをするのは後回しだ。この状況じゃ、すべて『仕組まれていた』ようだしな。余計な事を考えていたら、拙者達の命が無い‥‥」
 仲間達と連携を取りながら、一刀が『夢想流奥義・閃(ブラインドアタックEX+ポイントアタックEX+シュライク)』を放つ。
 色々と気になる事はあるのだが、ここで悩んでいても仕方が無い。
 こうしている間もインネ達が攻撃を仕掛けてくるのだから‥‥。
 インネ達に囲まれている間も五感を研ぎ澄ませ、しっかりと回避した上でひとりずつ確実にトドメをさした。
「大気に宿りし風の精霊達よ、雷の槍となりて敵を貫け!」
 相手の戦意を挫くために達人クラスの雷撃(ライトニングサンダーボルト)を放ち、カスミが襲い掛かってきたインネを倒す。
 しかし、インネ達の士気は一向に下がらず、捨て身の覚悟で攻撃を仕掛けてくる。
 もともとインネ達は陸のアッコロカムイ(海の木幣の神)の部下だったため、今回の戦いで手柄を上げないと命が無いのかも知れない。
 それぐらいにインネ達は必死であったし、まったく躊躇う事がなかった。
 ‥‥自らの命を懸けた最後の戦い。
 少なくともカスミには、そう思えて仕方がなかった。
 インネ達はどんなに傷つき倒れそうになっても、カスミ達を睨みつけて喉元に噛みつく勢いで襲い掛かってくる。
 まるで血に飢えたケダモノのようになったインネ達に対して、恐怖すら感じるカスミ達‥‥。
 だが、ここで怯んでいるわけにはいかなかった。
 例え相手がどんな状態にあったとしても、一瞬の油断が命取りになってしまうからだ。
「この様子ではパトゥムカムイに何か吹き込まれているのかも知れませんね。例えば私達の首を持ってこないと命が無いとか‥‥。そうでなければ、ここまで必死になる理由が分かりません。少なくとも彼らだって人間なのですから、自分の命は惜しいはず‥‥。ここまで無茶な戦いをすれば、どれだけ自分の身体に負荷が掛かるのか分かっているはずです」
 インネ達の凄まじい気迫に圧倒され、アヴリルがジリジリと後ろに下がっていく。
 今まで相手にしていたインネ達は自分の命が大事なので、身の危険を感じるとすぐに逃亡していたが、そんな事をしそうな素振りが無い。
 まるで人が変わったかのように凶暴で、その表情は殺気に満ちている。
 そのため、ここでインネ達に警告を発したとしても、彼らが怯む事は無いだろう。
「私の怒りは、爆発寸前!!」
 もちろん、そんな事でマミ達の士気が低下する事は無い。
 すぐさまスマッシュEXを放ち、インネにトドメをさしていく。
「ば、馬鹿な! コイツらはバケモノか‥‥」
 ガックリと膝をつきながら、インネが信じられない様子でマミ達を睨む。
 インネ達との戦いで彼女達も傷ついているが、ハピリカを助け出すまで倒れるわけには行かなかった。
 そういう意味ではマミ達もインネ達と同じくらい気合が入っていたのかも知れない。
「確かに‥‥、バケモノかも知れませんね。すくなくとも私は『魔女』ですから‥‥」
 苦笑いを浮かべながら、カスミがライトニングサンダーボルトを放つ。
 その一撃が致命傷となり、インネ達がその場に崩れ落ちる。
 ‥‥こうしてインネ達との戦いは幕を閉じた。
 だが、しかし‥‥。
 まだ戦いは終わっていなかった。