蝦夷解放

■クエストシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年04月01日
 〜2007年04月31日


エリア:蝦夷

リプレイ公開日:04月20日00:40

●リプレイ本文

●箱館
「‥‥思った以上に箱館の状況が悪化しているようですね。このままでは八傑衆が定期船に乗って、江戸に攻め入るのも時間の問題‥‥。そうなる前に何とかして阻止せねば‥‥」
 物陰に隠れて箱館の様子を窺いながら、闇目幻十郎(ea0548)が溜息を漏らす。
 幻十郎達が箱館を離れた隙に、陸のアッコロカムイが攻め込んできたため、港町は異様な空気に包まれており、インネ達が辺りをウロついている。
 この状況を重く見た幻十郎達はバラバラになって行動し、出来るだけ多くの情報を集めて対策を練る事にした。
「‥‥遅かったか。まさかこんな事になっているとはな。これじゃ、迂闊に手出しは出来ねぇ!」
 険しい表情を浮かべながら、伊達正和(ea0489)が辺りを見回した。
 いまのところ誰も傷つけられていないようだが、避難所にいるコロポックルが不安げな表情を浮かべている。
「それじゃ、あの男が陸のアッコロカムイでしょうか? 右腕に特徴のある刺青が彫られた、あの男が‥‥」
 やけに偉そうにしている男がいたため、幻十郎が物陰に隠れたままで正和と一緒に確認をした。
 陸のアッコロカムイと思しき男はインネ達を集めて酒を飲んでおり、コロポックルの少女を抱き寄せ高笑いをあげている。
 そのため、コロポックルの少女は怯えた表情を浮かべ、カタカタと身体を震わせながら酒を注いでいる。
「‥‥間違いない。あの野郎っ! 好き勝手にしやがって! 俺がとっちめてやらぁ!」
 激しく拳を震わせながら、正和が物陰から飛び出そうとした。
 しかし、幻十郎が正和の肩を掴み、何も言わずに首を振る。
「止めないでくれ、幻十郎! こんな状況を目の当たりにして、ジッとしているわけにはいかないだろ? それともコロポックル達を見殺しにしろって言うのか!? そんなの俺には我慢する事が出来ねぇ!」
 納得のいかない様子で幻十郎を睨みつけ、正和が拳をブルブルと震わせた。
 正和も幻十郎が引き止めた理由を理解する事が出来るのだが、怒りで我を失っているため認めたくないようだ。
「いまは、その時ではありません。この状況でコロポックル達を救出にむかったとしても返り討ちに遭うだけです。そんな事をしてコロポックル達が喜ぶと思いますか? 自分だって考えている事は正和さんと同じです。しかし、このまま攻撃を仕掛けて勝てるほど甘い敵ではありません。彼らを救出する事が出来るのは自分達だけですから、ここは堪えて出来るだけ情報を集めましょう」
 真剣な表情を浮かべながら、幻十郎が正和に言い聞かせる。
 ここで慎重に行動しておかねば最悪の結果を招いてしまうため、辛い事かも知れないが我慢するしか無さそうだ。
「‥‥畜生っ! ここでコロポックル達を助ける事が出来ないなんて歯痒いな。だが、幻十郎の言っている事も理解できる。コロポックル達にとって俺達は希望だ。確実にあいつらを助け出す保証がなければ、ここで飛び出しても犬死だしな。俺はイクシペを見つけて協力を求めてみよう」
 だんだん冷静になってきたため、正和がイクシペを捜す事を提案する。
 イクシペはチセコロカムイ(家の守り神)の聖域があるトマコマナイ(苫小牧)からやって来たコロポックルの酋長。
 ハピリカと同じように冒険者ギルドまで助けを求めてきたコロポックルで、仲間達の信頼も厚く冒険者達に対して友好的だ。
 そのため、何とか彼に接触して事情を話せば、コロポックル達の協力を得る事が出来るかも知れない。
「それじゃ、自分は松前氏に接触してみようと思います。この状況で松前氏に接触するのは危険な事かも知れませんが、うまく行けば松前氏の協力を得る事も出来ますし、やってみる価値はあると思います」
 警戒した様子で辺りを見回しながら、幻十郎が松前氏の屋敷に移動するための最短ルートを導き出す。
 インネ達だけならそれほど苦戦する相手ではないため、松前の屋敷まで行くのはそれほど難しくはなさそうだ。
「よしっ! そうと決まったら、行動あるのみだ! まずはハピリカに接触して、イクシペの似顔絵を描いてもらうかな。‥‥とは言え、ふたりとも無事でいる可能性は低いから、あまり期待するのも禁物だが‥‥。だからと言って、このまま手をこまねいていれば、ふたりともどうなるか分からねぇ‥‥。俺はわずかな可能性に賭けてみようと思っている」
 韋駄天の草履に履き替え、正和が辺りを見回した。
 コロポックル達の大半は避難小屋に集められているのだが、陸のアッコロカムイに気に入られた女性は酒の相手をしているようだ。
 しかし、陸のアッコロカムイがいる場所にハピリカの姿がないため、何処かに避難しているのかも知れない。
「それじゃ、作戦の決行は夜という事で。それまでにこちらも情報を集めて、松前氏の邸宅に忍び込もうと思っています。それじゃ、正和さんも気をつけて‥‥」
 物陰に隠れて辺りの様子を窺いながら、幻十郎が正和の無事を祈って別れを告げた。
 どちらか片方の作戦が失敗しても、暗闇の紛れて逃げる事が出来るため、昼間に行動を起こすよりはマシだと思いつつ‥‥。

●松前氏
「‥‥そうか。やはり箱館の町を去る事にしたのだな。お前達も色々と悩んだとは思うが、正しい判断だったとわしは思う。お前達は胸を張って、この町から出て行っていいんだぞ」
 陸のアッコロカムイの要求に応じて冒険者達が町を去ると報告を受けたため、松前がホッとした様子で溜息をつく。
 元々、松前は八傑衆との戦いを避けたかったため、冒険者達が箱館の町を去る事で陸のアッコロカムイが約束を守ってくれると思っている。
「‥‥これ以上、コロポックル達に迷惑を掛けるわけにも行きませんからね。私達が箱館の町を去る事によって、陸のアッコロカムイの考えも変わるかも知れません。その代わり、くれぐれもコロポックル達をよろしくお願いします」
 陸のアッコロカムイが約束を守る保証が無いため、フレイヤ・シュレージェン(ec0741)がコロポックル達の事を松前に頼む。
 本当なら自分達が残ってコロポックル達を守りたいのだが、陸のアッコロカムイの要求を突っ撥ねて事態を悪化させるわけにも行かない。
「‥‥分かった。コロポックル達は、わしが責任を持って守っておく。‥‥安心しろ。お前達がこの町を去れば陸のアッコロカムイだって、迂闊に手出しは出来ないはずだ。‥‥お前達も気をつけてな」
 自信に満ちた表情を浮かべ、松前が小さくコクンと頷いた。
 しかし、松前の娘が八傑衆に捕らわれているため、場合によっては見てみぬフリをするかも知れない。
「あの‥‥、話の途中で申し訳ありませんが、一体ここで何が起こっているんですか? まだ、箱館の町に来たばかりで何も分からないんですが‥‥」
 船から降りてすぐに松前氏の屋敷に連れてこられたため、井伊文霞(ec1565)が不思議そうに首を傾げる。
 何の事情も分からずこの場所にいるので、フレイヤ達が何を話しているのか分かっていない。
「‥‥戦だ」
 険しい表情を浮かべながら、ゲレイ・メージ(ea6177)が口を開く。
 ‥‥それだけ言えば十分だった。
 途端に文霞の顔色が変わる。
「それじゃ、この町に攻め入ってきたのは、八傑衆を名乗る者達なのですか?」
 ハッとした表情を浮かべ、文霞がボソリと呟いた。
 八傑衆に関しては江戸の冒険者ギルドでも話題になっていたため、事情を知らない彼女にも理解する事が出来る。
「ああ‥‥、その通りだ。陸のアッコロカムイがトマコマナイの聖域を明け渡す代わりに、箱館の町が欲しいと要求してきたのでな。お前達さえここから居なくなれば、コロポックル達に手出しはしないと言っている。単なる口約束かも知れないが、このままだと町の者達まで巻き込んでしまう事になるからな。お前には悪いが、この町から出て行ってくれ。お前達が居る事で陸のアッコロカムイを刺激する事になってしまう。このまま事態を悪化させて、海のアッコロカムイを呼び寄せられても困るだろ?」
 文霞にも分かるように説明した後、松前が部下を呼んで彼女達を追い出そうとした。
 松前にとって冒険者達は必要な存在ではあるものの、それ以上に娘の事が心配なので、なかなか協力する気持ちにはならないようだ。
「それじゃ、最後に‥‥。海のアッコロカムイって誰ですか?」
 キョトンとした表情を浮かべ、文霞がフレイヤ達に問いかけた。
 陸のアッコロカムイに関しては、この屋敷に来る前にチラッと見たので分かっているが、海のアッコロカムイに関しては見た事が無いので分からない。
 一瞬、双子の兄弟でもいるかと思ったが、まわりの雰囲気からして何か違うようだ。
「陸のアッコロカムイが操る化け物の名前です。いまのところ大人しくしていますが、陸のアッコロカムイが指示を出せば、すぐにでも船を沈めに来るでしょう」
 彼女の気持ちを察したのか、フレイヤが海のアッコロカムイについて説明をする。
 海のアッコロカムイは漁師達の間で恐れられている存在で、箱館にある船だけではとても太刀打ちする事が出来ない。
「‥‥これで事情は分かったな? わしが協力できるのは、ここまでだ。これ以上、お前達に味方すれば、コロポックル達だけでなく、この町の人間を巻き込む事になる。‥‥すまないが、早くここから出て行ってくれ」
 辺りの様子を気にしながら、松前がそそくさと立ち上がる。
 何処に内通者がいるのか分からないため、これ以上彼女達と話をするつもりはないようだ。

●サヨ
「は、箱館の町を出るって‥‥、嘘でしょ? だって、外にはインネ達がいるのよ? ‥‥無茶よ。そんな事をしても捕まるだけだわ!」
 信じられない様子でハクオロゥ(eb5198)を見つめ、サヨが不安げな表情を浮かべて瞳を潤ませる。
 サヨはモンベツ(紋別)の聖域から箱館に避難してきた少女で、最近になってようやく意識を取り戻し元気になりつつあるようだ。
「このまま箱館に残っていたら、陸のアッコロカムイに何をされるか分からないだろ? それよりも陸のアッコロカムイが放棄したトマコマナイに避難して、みんなと一緒にいた方が安全だよ」
 大急ぎで荷物を纏めながら、ハクオロゥがサヨに答えを返す。
 現在、ハクオロゥ達はコロポックルの避難所にいるのだが、外にはインネ達がウロついているので油断は出来ない。
「で、でも‥‥、トマコマナイに避難するって事は‥‥」
 ションボリとした表情を浮かべ、サヨが気まずい様子で視線を逸らす。
「どうしたんだ、サヨ? どこか身体が痛むのか? おいらに出来る事があったら、なんでも言ってくれ! 遠慮しなくいいんだぞ!」
 妙にサヨが落ち込んでいたため、ハクオロゥが心配した様子で口を開く。
 ハクオロゥとしてはサヨのためを思って箱館の町から離れるつもりでいたのだが、彼女の態度を見る限りそれほど乗り気ではないようだ。
「‥‥悪いけど、私はここに残るわ。例え一緒に逃げたとしても、足手纏いになるだけだから‥‥。モンベツから逃げる時だって、たくさんの人達を犠牲にしてきたのよ? 私さえいなければ助かった人だっていたはずなのに‥‥。それなのに私は何もしなかった。ただ逃げる事に必死だったから、仲間達の事なんて考えていなかったのかも知れない。だから、今度はハクオロゥを見捨てるかも知れないでしょ? これ以上、大切な人を失いたくないから‥‥、ごめんなさい」
 今にも泣きそうな表情を浮かべ、サヨがペコリと頭を下げた。
 モンベツから箱館に避難している途中で、仲間達がインネ達に殺された事を思い出し、瞳には溢れんばかりの涙を浮かべている。
「で、でも、ここに残っていたら、間違いなく殺されるぞ! おいらの事は気にするなって言ったろ? これでも自分の身を守る事くらい出来るからさ。サヨは自分の事だけ考えていればいいんだよ。それでも考えは変わらないのか?」
 最悪の結果が脳裏を過ぎり、ハクオロゥがサヨの肩を掴む。
 しかし、サヨの考えは変わらず、ハクオロゥを振り払うようにして首を振る。
「私達が逃げれば同じ事よっ! そんなの私には耐えられないっ!」
 大粒の涙を浮かべながら、サヨがキッパリと言い放つ。
 モンベツで八傑衆率いるインネ達のやり方を見ているため、余計に箱館から離れる事が出来ないようだ。
「ご‥‥、こめん。おいら、そこまで考えていなかったから‥‥」
 申し訳なさそうな表情を浮かべ、ハクオロゥが深々と頭を下げる。
 もちろん、ハクオロゥも仲間のコロポックル達を見捨てるつもりは無かったが、結果的にそうなっていたので反省した。
「ハクオロゥが悪いわけじゃないわ。悪いのは八傑衆達よ。そのせいでモンベツが滅ばされたんだから‥‥」
 仲間達が死んだ時の事を思い出し、サヨが瞳に浮かんだ涙を拭う。
 それと同時に失われた記憶が蘇り、サヨがハッとした表情を浮かべて口を開く。
「‥‥モンベツを滅ぼしたアッコロカムイは、ケムラムカムイを名乗っていたわ。髑髏の被り物をしていて‥‥みんなを‥‥ううっ!」
 ガタガタの身体を震わせながら、サヨがその場に膝をつく。
 モンベツの聖域を襲撃された時のショックまで蘇ってきたのか、いつまで経っても身体の震えが止まらない。
「無理をしなくていいんだぞ。それでもう充分だから! これ以上、サヨが苦しむ姿を見たくないから!」
 サヨをギュッと抱き締めながら、ハクオロゥが優しく囁いた。
 ケムラムカムイは、飢饉を司る神。
 これでモンベツの聖域を支配する八傑衆の名前が分かった。
「‥‥それじゃ、気をつけてね。私の出来る事はこれだけだから‥‥」
 そう言ってサヨがハクオロゥに別れを告げる。
 ハクオロゥが必ず戻ってくる事を信じて‥‥。

●二風谷
「やっぱり、わしは処刑されてしまうんかぉ‥‥」
 ガックリと肩を落とし、エカシが大きな溜息をつく。
 エカシはカムイの剣を盗んだ罪に問われ、火炙りにされる事が決まっている。
 もちろん、エカシがカムイの剣を盗んだという事実は無い。
 しかし、二風谷の酋長であるキラウがエカシ犯人扱いしたため、誰もその事をおかしいとは思っていないようである。
「この前は、やっちゃってくださいなんて酷い事を言ってしまいましたけど、アレはもちろん冗談ですからね。目の前でよくしてもらった恩人が殺されるのは、流石に嫌です。ほ、本当ですよ。だから、そんな顔をしないでください」
 苦笑いを浮かべながら、ルウォプ(ec0188)がエカシを慰めた。
 それと同時にエカシがいやらしい笑みを浮かべたため、何か妙な事をされる前に殺意の眼差しを送って黙らせる。
「と、とにかく! ジィちゃんはオイラが命を懸けて守るから、そんな事を言わないでくれよ! それともおいらを信用する事が出来ないのか?」
 気まずい雰囲気が漂ってきたため、ルイが心配した様子でエカシを睨む。
 そのため、エカシが何も言わずに視線を逸らす。
「ジィちゃーん! そこまであからさまだと、おいら悲しいよ〜! 一体、おいらが何をしたって言うんだよぉ〜!」
 大粒の涙を浮かべながら、ルイがエカシにツッコミを入れる。
 余計に気まずい雰囲気が漂ってきたため、ルイ自身も壊れかけているようだ。
「いや、信用しているから心配なんじゃ。お前に任せてうまく行った事などほとんどないじゃろ? ‥‥思い出してもみろ。今までの事を‥‥」
 走馬灯のように嫌な思い出が脳裏を過ぎったため、エカシが今まで経験した不幸自慢をし始める。
 それは笑い話で済む事からドン引きする話まで様々だったが、そのキッカケがすべてルイだったりするのでルウォプをフォローのしようがない。
「えーっと‥‥、とりあえず骨は拾っておきますね」
 うまい言葉が思い浮かばなかったため、ルウォプがパタパタと手を振った。
 例え、ここでフォローを入れたとしても、処刑の前では説得力がまったくない。
「ね、姉ちゃんまで! ジィちゃんを火炙りにしたところで、喰うところなんて何処にも無いぞ!」
 ビシィッとエカシを指差しながら、ルイが訳の分からない事を叫ぶ。
 そのため、エカシが必要以上にショックを受け、ガーンと音を響かせている。
「喰うんか、わしを! みんなで焼肉パーティか!」
 色々な意味で身の危険を感じたため、エカシがジリジリと後ろに下がっていく。
 脳裏に過ぎるのは、マイムマイムを踊るコロポックル達。
「お、落ち着いてください! あたし達だってエカシさんを食べるほど飢えちゃいません。どうせならダシに‥‥って、何の話をしていたんでしたっけ?」
 フォローを入れている途中で妙な事に気づき、ルウォプが不思議そうに首を傾げる。
 確か先程までエカシの処刑について話し合っていたはずなのに、気がついた頃には話題が焼肉パーティに変わっていた。
「ううっ‥‥、死んだら化けてやるぞ〜。いいか、覚えておけ! わしは‥‥、わしは‥‥執念深いんじゃぞぉ〜」
 恨めしそうに両手をダラリと垂らし、エカシが呪いの言葉を吐いていく。
 それと同時に入り口の扉が開き、キラウが処刑執行人を連れてやってくる。
「‥‥別れは済んだか。そろそろ時間だ」
 その一言でエカシの口から、ひょろりと魂が抜け出ていく。
 こうしてエカシは処刑執行人に連れられ、コロポックル達が集まっている広場へと連れて行かれるのであった。

●トマコマナイ
「‥‥前回はしてやられましたわね。この屈辱は必ず晴らさせてもらいますわ!」
 自分自身に言い聞かせるようにしながら、マミ・キスリング(ea7468)が拳をギュッと握り締める。
 幻十郎達と一緒に箱館に戻った時に文霞と出会い、陸のアッコロカムイがトマコマナイを放棄した事を知ったため、すぐさまブリュンヒルト(ペガサス)を放って上空から偵察に行かせ、閃光皇(優れた戦闘馬)に飛び乗ってトマコマナイを目指す事にした。
 それに、このままでは敵中に孤立してしまうのは目に見えているため、トマコマナイに行き八傑衆に対抗するための何かを得ようとしているようだ。
「‥‥前回は状況を読みきれず先手を取られてしまいましたからね。結局の所、現在までなんの情報も掴めておりません。自分の迂闊さを痛感する所ですが、このままではいけませんね。もう少しだけ頑張ってみましょうか」
 悔しそうな表情を浮かべ、カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)がアスファロス(優れた駿馬)の手綱を握る。
 状況的には八傑衆の方が有利な立場にあるため、カスミ達も負けてはいられない。
「どうやらこちらの情報は敵に筒抜けのようですからね。最悪の場合、私達が文霞さんと合流した事も、敵の耳に入っているかも知れません」
 エシュタット(駿馬)に乗ってカスミ達の後を追い、アヴリル・ロシュタイン(eb9475)が溜息を漏らす。
 いまのところ誰が陸のアッコロカムイと内通しているのか分からないため、しばらくの間は警戒しておく必要がありそうだ。
「わたくしもここに来たばかりなので、詳しい事は分かりません。ただ一緒にいたはずのフレイヤ様や、ゲレイ様と逸れてしまったので、少し心配なんですが‥‥」
 箱館の町で一緒にいた仲間達の事を思い出し、文霞が心配した様子で貴政(通常馬)の手綱を握る。
 途中までフレイヤ達と一緒にいたのだが、箱館の町を出た途端にいなくなってしまったため、何か事件に巻き込まれたのかも知れない。
「とにかく今はトマコマナイに行く方が先だ。陸のアッコロカムイが言っていた『ゴミ』が苫小牧の民を指すのであれば、巫女の力によってカムイの力を借りる事が出来るかも知れぬからな」
 険しい表情を浮かべながら、橘一刀(eb1065)が皐月(優れた通常馬)から降りる。
 ここから先は雪が積もっているため、馬を走らせて進む事は難しい。
 場合によっては凍った湖の上を知らずに走らせてしまう場合もあるからだ。
「今からだとトマコマナイに着くのは夜明け。巫女さえ生きていてくれれば、カムイの力を得る事が出来るんですが‥‥」
 グリフォン達の頭を撫で、和泉みなも(eb3834)が雪道を進んでいく。
 巫女が居なければカムイの力を得る事が出来ないため、今は彼女の無事を祈るしかなさそうだ。

●野営
「まさかここまで足場が悪いとは‥‥。思った以上に時間が掛かるかも知れませんね」
 だんだん日が暮れて来たため、カスミが野営の準備をし始める。
 トマコマナイの土地は沼地が多く、聖域の近くには川があるため、馬での移動は適していない。
 それでもコロポックル達からトマコマナイの聖域がある場所を聞いていたため、途中で道に迷う事なく時間の短縮をする事が出来た。
 しかし、ここから箱館に戻るためには、数日から数週間は掛かりそうである。
「‥‥陸のアッコロカムイが箱館にいる以上、トマコマナイの聖域が手薄になっているはずです。もちろん、敵の言っている事なので油断は出来ませんが‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、アヴリルが食事の準備をし始めた。
 いくらトマコマナイの土地に価値がないとは言え、陸のアッコロカムイがそう簡単に聖域を明け渡すものだろうかという疑問が残る。
「わざわざ向こうから来るという事は、相当の自信があるんだと思いますが、確かにおかしな部分がいくつもありますね。箱館の町に攻め入った時も、私達を別の場所に誘き寄せるような事をしていましたし、そう簡単にトマコマナイを明け渡すようには思えないんですが‥‥」
 だんだん嫌な予感が膨らんできたため、マミがハッとした表情を浮かべて汗を流す。
 ‥‥これも罠かも知れない。
 しかし、今から箱館に戻ったとしても時間が掛かってしまうため、このまま危険を承知で突き進むとかなさそうだ。
「陸のアッコロカムイがトマコマナイに残した『ゴミ』ってなんだろうな? 拙者達は、その『ゴミ』がトマコマナイの巫女か、コロポックル達だと思っているが、何か別のものである可能性もあるはずだ」
 出来たばかりの煮物を掻き混ぜ、一刀がそれを御椀によそっていく。
 陸のアッコロカムイの言っていた事に関しては、妙に引っかかる所があるのだが、ここまで来た以上は後戻りする事も出来ない。
「確かにその可能性もありますね。それにトマコマナイは陸のアッコロカムイが放棄したと言っている以上、ただ放棄された事でない事は確実です。それに聖域に残された人達がどのような状況に置かれているのか確認する必要があります」
 馬に積んであった毛布を下ろし、カスミがアスファロスの頭を撫でる。
 だんだんが寒くなってきたため、毛布に包まって暖をとる事にした。
「どちらにしても油断する事は出来ませんね。それでもトマコマナイの巫女が生きている可能性があるのですから、行ってみる価値があると思います。カムイの力を得る事が出来れば、八傑衆に対抗する事が出来ると思いますし、何より儀式がどんなものなのか興味がありますしね」
 食料の数を確認しながら、みなもがコロポックル達を用意する。
 トマコマナイにコロポックル達が残っている可能性も捨てきれないため、出来るだけ食事の量を減らして彼らに配るための食料を確保した。
 彼らが生きていれば必ず食料を必要としてくるからだ。
「それじゃ、皆さん。今日はゆっくりと休みましょうか。これから先は眠る事さえ出来なくなるかも知れませんから‥‥」
 最悪の事態を想定し、カスミが毛布に潜り込む。
 眠る事が出来る時間に休んでおかねば、敵がいつ襲ってくるかも分からないからだ。

●陸のアッコロカムイ
「それじゃ、あちこちに虫が入り込んでいるわけか」
 情報収集にむかわせていたインネ達からの報告を受け、陸のアッコロカムイがニヤリと笑う。
 もしもの場合を考えて箱館の町に内通者を忍び込ませていたため、冒険者達の行動が筒抜けになっている。
「はい、冒険者達はまんまと罠に引っかかり、トマコマナイの聖域に移動しています。江戸に攻め入るのなら、今しかないと思うんですがいかがでしょうか?」
 いやらしい笑みを浮かべながら、インネが揉み手で答えを返す。
 この男は箱館の商人達と繋がりのある男で、コロポックル達の弱みもいくつか握っている。
 そのため、何か異変があるたび、彼の元に情報が届いていた。
「‥‥そう焦るな。せっかく女共を手に入れたんだ。景気づけに宴と行こうじゃないか。冒険者達が罠だと気づいたところで、トマコマナイの聖域から引き返すまで時間が掛かる。いまさら何をしたって間に合わねぇよ!」
 含みのある笑みを浮かべ、陸のアッコロカムイが酒を飲む。
 正和達が箱館の町に残っている事を知らないため、すっかり油断しているようだ。
「いまは宴を楽しもうじゃねぇか! ここに居る奴らだけじゃ、何も出来ねえんだからよっ!」
 コロポックルの少女を抱き寄せ、陸のアッコロカムイが高笑いを響かせる。
 真夜中になってから正和達が行動を開始するとは思わずに‥‥。


今回のクロストーク

No.1:(2007-04-10まで)
 一番大切な人は誰ですか?