蝦夷解放

■クエストシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年07月01日
 〜2007年07月31日


エリア:蝦夷

リプレイ公開日:07月19日22:33

●リプレイ本文

●二風谷に向けて
「まさかトマコマナイ(苫小牧)の聖域まで、散々な目に遭っていたなんて‥‥。一体、八傑衆の連中は何がやりたいってんだよ! こんな事をして何が楽しいのか、おいらにはよく分からないよ‥‥。こうなってくると箱館の街に残してきたサヨの事がすげぇ心配になってくるよなぁ〜」
 伊達正和(ea0489)の操る轟轟号に乗り、ハクオロゥ(eb5198)が愚痴をこぼす。
 ハクオロゥ達はトマコマナイの聖域で巫女から仲間達が二風谷に向かったという話を聞き、彼らと合流するため早馬を走らせていた。
 しかし、仲間達が二風谷にむかってから早数ヶ月。
 ‥‥未だに彼らからの連絡が途絶えている。
 その上、気になるのが、八傑衆の動向であった。
 陸のアッコロカムイ兄弟が冒険者達によって倒されてから、八傑衆の動きが活発になっているため事態は最悪な方向に流れ始めている。
 そのため、ハクオロゥは箱館の街に残したサヨの事が心配でならなかった。
 もちろん、箱館の街には仲間のコロポックル達もいるし、陸のアッコロカムイを倒した事で直接的な脅威が去ったため、本来なら心配する必要などまったくない。
 それでも傑衆の命を受けて鬼面衆が暗躍しているため、場合によってはサヨ達にも危険が及ぶ可能性がある。
 鬼面衆の実力を考えれば箱館の街を制圧する事など容易だが、そうしないという事は松前氏と何らかの取引をしたという事だろう。
 もしもハクオロゥの予想が間違っていなければ、松前氏が約束を守っている限り、サヨの身に危険が及ぶ事はないという事だ。
 後は松前氏が鬼面衆との取引で、討伐隊を差向けていない事を祈るのみ‥‥。
 八傑衆相手なら戦う事が出来としても、松前氏が差し向けた討伐隊とは戦えない。
 その中にはハクオロゥが知っている者がいるかも知れないのだから‥‥。
「俺達が箱館にいた時に裏で動いていた鬼面衆が、アヴリル達を罠に嵌めているかも知れないな。どちらにしても俺達を追って鬼面衆もこっちに向かっているはずだ。‥‥急ごう! 手遅れになってしまってからでは、こちらも手の打ちようがない! このまま休憩なしで馬を走らせるぞ!」
 嫌な予感が脳裏を過ぎり、正和が徐々に轟轟号のスピードを上げていく。
 二風谷まで寝ずに馬を走らせねば、時間を半分にまで短縮する事が出来る。
 その上、ハピリカの持っていた地図があるため、近道を通ればさらに時間を短縮する事が出来そうだ。
 しかし、正和には気に掛かる事があった。
 数ヶ月ほど前から行方不明になっているハピリカの事である。
 ハピリカが何処に行ったのかまったく分からないが、何も言わずに姿を消すような女性ではないため、何か事情があって姿を消しているのかも知れない。
 もしくは、ハピリカが行方不明になる前に目撃された鬼面衆に連れ去られたかのどちらかである。
 しかし、鬼面衆から何の要求も無いため、現時点で彼らの仕業であると断言する事が出来ない。
「そう言えば鬼面衆が使っていたと思われる香についてですが、恐らく此方の認識力を僅かながら低下させる働きがあるモノであると思われます。トマコマナイの聖域を守護している巫女の話では、香のニオイを長時間嗅ぐ事によって記憶を失わせる事も出来るとか‥‥。しかも鬼面衆は様々な毒の知識に長けており、普通の解毒剤では毒を中和する事が出来ないようです」
 トマコマナイの巫女から聞いた話を思い出し、闇目幻十郎(ea0548)が優れた戦闘馬の手綱を握って口を開く。
 鬼面衆が毒として用いているのは、蝦夷にしか生えていない毒草の類。
 殆どの毒が即効性のあるものなので、解毒剤を飲む前に命を落としている場合が多い。
 そのため、鬼面衆と渡り合うためには、アンチドートの魔法が必要になってくる。
 例えトマコマナイの巫女が大袈裟に言っていたとしても、鬼面衆が何らかの毒を使っている事は間違いないため、何処かでスクロールを入手せねばならない。
「‥‥と言う事は鬼面衆が使っている毒を解毒するためにはアンチドートが必要って訳か。こいつは随分と厄介なシロモノだな。何とかそれを入手する事が出来るといいんだが‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、正和がボソリと呟いた。
 鬼面衆が使っている毒を入手する事が出来れば色々と調べる事が出来るのだが、最悪の場合は命を落としてしまう可能性もある。
 それでも鬼面衆が使っている毒を入手する事が出来れば、今後の戦いを有利に進める事が出来るかも知れない。
 それに鬼面衆ならば解毒剤を持っているかも知れないため、何とかして接触しておく必要がありそうだ。
「‥‥悪いけどおいらは反対だな。ただでさえ戦わなきゃいけない相手が多いのに、ここで鬼面衆まで敵に回したら、箱館の街で待っているサヨ達まで巻き込んでしまうかも知れないからさ。いずれ戦わなくっちゃいけない相手だって事は分かっているけど、二風谷にいるおいらの仲間達を味方にしてからでも、遅くは無いんじゃないのかな?」
 ただでさえこちらの方が不利なため、ハクオロゥが仲間達に対して提案をする。
 本来なら箱館の街を治める松前氏を味方につけ、蝦夷で最大の集落である二風谷に住むコロポックル達を味方につけていたはずだが、すべてが後手に回ってしまったため現時点でハクオロゥ達に協力してくれる人間は少ない。
 そんな状況で敵ばかりを増やしてしまえば、ハクオロゥ達に勝ち目がなくなってしまう。
「‥‥二風谷にいるコロポックル達ですか。仲間達が帰ってこないところを見ると、彼らも八傑衆側についていると考えるべきですが‥‥」
 今までに得た情報から最悪の事態を想定し、幻十郎が手綱をギュッと握り締める。
 各地で八傑衆が暴れているせいで情報の伝達が遅れているため、場合によっては陸のアッコロカムイ兄弟が倒された事も知られていない可能性が高い。
 そのため、うまくその事を伝える事が出来れば強みになるが、今まで通り後手に回ってしまえば八傑衆の誰かが先に手を打ってしまう。
 そんな不安を胸に秘めながら、幻十郎達は二風谷へとむかうのだった‥‥。

●二風谷
「と、囚われの身になるとは‥‥、屈辱ですわ。‥‥とはいえ我々がコロポックル達を攻撃して脱獄する訳にはいきません。今は食料も提供され、拷問等もされていない以上、大人しく従っておかざるをえませんわ」
 悔しそうな表情を浮かべ、マミ・キスリング(ea7468)が拳をギュッと握り締める。
 マミ達は二風谷の酋長であるキラウを殺害した罪により、疑惑が晴れるまで牢屋に閉じ込められる事になった。
 牢屋は簡単な作りをしているため、脱獄しようと思えば容易に出来る。
 しかし、その事によってキラウ殺害の罪を認めた事になるため、ここで脱獄をするわけにはいかなかった。
 そんな事をすれば疑惑を晴らすチャンスがなくなるだけでなく、二風谷に住むコロポックル達まで敵に回してしまう事になるからだ。
「それにしても、なかなか難しい状況になってきましたわね‥‥。出来れば話し合いで解決したいところですが、村の人達は聞く耳をお持ち頂ける状態でも無さそうですね。このまま酋長殺しの汚名を受けたままでは拙いですし、何とか返上する機会を頂けないと‥‥」
 困った様子で溜息をつきながら、井伊文霞(ec1565)が辺りを見回した。
 牢屋の見張りはふたりずつ交代し、24時間体制で監視を続けている。
 その上、文霞の言葉にまったく耳を傾けず、まるで人形のように立ったままだ。
「まぁ‥‥、状況的に考えれば、自分達がキラウ殿を殺害したと思われているかも知れませんが、やっていないものを認めるほど愚かな事はありません。何とかしてコロポックル達と話が出来るといいんですが‥‥」
 ガックリと肩を落としながら、和泉みなも(eb3834)が深い溜息をつく。
 きちんとキラウの死体を調べれば彼女達が犯人でない事が容易に分かるのだが、この様子では大した調査もせずに彼女達を牢屋に閉じ込めてしまったのだろう。
 そう考えるとこのまま公開処刑になる可能性も捨てきれなくなってきた。
「まずはコロポックルに信頼を得るしかないだろう。それ以前に拙者らの話を聞いてくれるような状況にはないようでござるが‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、橘一刀(eb1065)が監視役のコロポックル達を睨む。
 コロポックル達は一刀達と話すなと言われているのか、口を真一文字に結んだまま目を合わそうともしていない。
 そのため、コロポックル達を説得するためには、彼らが耳を傾けてくれるように行動を起こす必要がありそうだ。
「少しずつ敵の正体が露見してきたところですのに‥‥、状況はますます悪くなっているような気がしますわね。どうやら私達の敵は余程、相手を不安にさせる事に長けている様です。手詰まり感があり時間ばかりが過ぎて状況が好転しない事、それに加えてコロボックル達の無責任感‥‥。現状ではコロボックル達だけでなく私達の中にも焦りと不安が生じています。ハピリカさんも行方不明ですし、打てる手が殆ど見えてこないのが現状ですが、敵が何を考えているかもう少し掘り下げていかなくてはなりませんね」
 疲れた様子で溜息をつきながら、カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)が今後の事を考える。
 次の瞬間、見張りをしていたコロポックルが駆け寄り、殺気に満ちた表情をこう吐き捨てた。
「やはりお前達がハピリカ様を‥‥!」
 明らかにカスミ達に対して憎悪を抱いている言葉。
 何か誤解されているのか、もうひとりのコロポックルが止めねば、殴られていたところである。
「一体、何の話ですか? ハピリカ様は突然いなくなったのですよ? 確かに私達にも非がありますが、そこまで怒らなくても‥‥」
 コロポックル達の殺意に満ちた視線に耐え切れず、アヴリル・ロシュタイン(eb9475)が気まずい様子で視線を逸らす。
 ハピリカがいなくなってから数ヶ月ほど経っているが、彼女の消息を得るような手掛かりは掴んでいない。
 その事でコロポックル達が起こっている割には何か様子が変である。
「しらばっくれるんじゃねぇ! お前がハピリカ様を八傑衆のヤツらに売ったんだろうがっ! しかもフラヌィ(富良野)の聖域を支配しているパトゥムカムイ(病魔の神)に差し出すとはどういうこった! アイツは不潔で拷問好きの変態野郎だぞ! そんなヤツにハピリカを渡したら、どうなるか分かっているだろうがっ! ‥‥それとも何か? 自分達の身を守るためなら、誰が犠牲になってもいいんだな? それならこっちにだって考えがあるぞ。お前達をすぐにでも処刑してやる! 一番苦しむ方法で! ハピリカ様が味わった苦しみの数十倍は覚悟しておけよ!」
 口を挟む隙を与えぬほどまくし立て、コロポックルがアヴリル達を怒鳴り飛ばす。
 しかし、アヴリル達にはまったく心当たりがなかったため、コロポックル達に対して反論する。
「一体、誰がそんな事を! 私達は箱館の港町からトマコマナイ(苫小牧)の聖域を経由して二風谷に来ているんですよ!? フラヌィなんて一度も行った事もありません!」
 アヴリルの言葉に驚くコロポックル達。
 急にソワソワし始めたかと思うと、ふたりで壁に隠れて話し合いをし始める。
「その話は‥‥本当か?」
 警戒した様子でアヴリル達を睨みつけ、コロポックルの男がボソリと呟いた。
 その問いにコクンと頷くアヴリル。
 そのため、コロポックル達もゴクンと唾を飲み込み、アヴリル達を見つめて恐る恐る口を開く。
「その言葉に偽りはないんだな? 本当に嘘じゃないんだな?」
 ‥‥半信半疑であった。
 しかし、アヴリル達が嘘をついているようにも見えないため、コロポックル達も次第に心を開いていく。
「‥‥もちろんです。それとも私達が自分達の身を守るため、適当な事を言っているとお思いですか? それならば大きな誤解です。そんな事をしても、私達にメリットはありませんし、この状況で嘘をついたとしても貴方達には分かるはずです。それよりも教えてください。フラヌィのパトゥムカムイとは一体何者なんですか!?」
 真剣な表情を浮かべながら、カスミがコロポックル達に対して問いかける。
「そ、その様子だと本当に嘘はついていないようだな。パトゥムカムイっていうのは、八傑衆のひとりだ。さっきも言ったが、不潔で拷問好きで、その上、男色の気持ち悪いヤツだ。そのせいで女が近づくだけでも鳥肌が立つらしく、思わずバラバラにしてしまうほどだ。その上、女に対して偏見を持っており、男を惑わすふしだらな存在として認識しているらしい。だから女相手には容赦をしない。例え相手が命乞いをしたとしても、動けなくなるまで拷問をして畑にバラまくって話だからな。ハピリカ様も今頃は畑の肥料に‥‥ううっ!」
 ハピリカの事を思い出し、コロポックルの男がボロボロと涙を流す。
 どうやら彼はハピリカと同郷だったらしく、彼女をとても慕っていたらしい。
「ならば早く助けに行きましょう。私達ならハピリカさんを救えます! ‥‥お願いします。信じてください!」
 わずかな可能性を信じて、カスミがハピリカの救出に行こうとする。
「だ、駄目だ! まだキラウ様殺害の疑惑が晴れていない。お前達の事を信用したいのは山々だが、帰ってくる保証がないヤツを解放するわけにはいかないんでな」
 険しい表情を浮かべながら、コロポックルの男がキッパリと言い放つ。
 いくらカスミ達が嘘をついていないように見えても、疑惑が晴れるまでは牢屋から出すわけにはいかない。
「だからキラウ殿を殺害したというのは濡れ衣だ。キラウ殿を殺害した凶器となった刃物は、拙者らの持ち物ではない。確か[陽]の術には敵意を持つ者が分かる術があったと思うが‥‥、その術を使える巫女はおらんのか?」
 自分達に掛けられた疑惑を晴らすため、一刀が[陽]の術が使える巫女を要求する。
 しかし、二風谷に[陽]の術を使える巫女がいないため、一刀の要求はあっという間に却下された。
「ちょっ、ちょっと待ってください! 自分達がキラウ殿を殺害したのなら、誰かが返り血を浴びているはずです。キラウ殿は鋭利な刃物で喉元を切られ、大量に出血して死亡しているんですよ。それなのに自分達は返り血も浴びていなければ、血に塗れた刃物も持っていなかったはずですよね? この状況で自分達を犯人扱いするのは、あまりにも横暴過ぎませんか?」
 コロポックル達を納得させるため、みなもが事件現場の状況を説明しながら説得を試みる。
 もちろん、アイスチャクラムを作る事が出来れば、刃物がなくても殺害は可能だが‥‥。
「まぁ、確かに‥‥。だ、だがな! 真犯人が見つかるまでお前達を解放するわけにはいかん! そんな事をすれば‥‥! いや‥‥、何でもない」
 ハッとした表情を浮かべ、コロポックルの男が気まずい様子で視線を逸らす。
 何かマズイ事でもあるのか、急にふたりが大人しくなった。
「ならば、わたくし達のうち、誰かが人質として残ると言う事で納得してくれませんか? 外に出していただく代償というか、わたくし達が逃げない保障として‥‥」
 このままでは埒が明かないため、文霞がコロポックル達に別の提案をする。
 そして、名乗りを上げたのは、文霞とみなも。
 説得が失敗した時の事を考え、ふたりとも覚悟をしていたようだ。
「そこまで言うのなら信じよう。ただし、お前達が帰ってこなかったら、人質の命は保障しねぇ! 磔にした上で公開処刑にしてやる!」
 警告まじりに呟きながら、コロポックルの男が文霞達を解放する。
 そして、仲間達と掛け合ってフラヌィに行く許可を貰い、彼女達から預かっていた所持品を返す。
「その前にこれだけは聞かせてください。閃光皇やブリュンヒルトは無事なんでしょうか? ちゃんと御飯を食べてますか? まさか酷い仕打ちを受けているとか‥‥。もしも、そんな酷い目に遭わせていたのなら、私だって容赦しませんからね!」
 嫌な予感が脳裏を過ぎり、マミがコロポックルの男をジロリと睨む。
「か、勘違いするんじゃねぇ! いくらお前達に疑惑の目が向けられていたとしても、動物達にまで罪はねぇ! きちんと三食昼寝つきで面倒を見ていたんだから安心しろ!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、コロポックルの男が答えを返す。
 休憩している間、ずっとペット達の面倒を見ていたのか、男の顔が真っ赤である。
「有難うございます。それなら安心ですね」
 ホッとした表情を浮かべ、マミがニコリと微笑んだ。
「それじゃ、文霞殿、みなも殿。‥‥必ず迎えに来るから、しばらくの間だけ辛抱していてくれ」
 ふたりに軽く抱擁した後、一刀が仲間達を連れてフラヌィにむかう。
 必ずハピリカが生きていると信じ、一刀達は二風谷を後にするのであった。

●サッポロペッ(札幌)
「はぁ‥‥、これから一体どうすればいいんでしょうかねぇ。何だか間違った方向に話が進んでいるような気がするのですが‥‥」
 魂の抜けた表情を浮かべ、ルウォプ(ec0188)が深い溜息を漏らす。
 ルウォプ達はカムイの剣を取り戻すため、サッポロペッの聖域まで来たのだが、その土地を支配するパウチカムイ(淫らな女神)に彼女が気に入られてしまったため、綺麗な着物を着せられて贅沢な暮らしを続けている。
 しかし、仲間達が人質として捕らえられ、屋敷の外に出る事も出来ないため、ほとんど籠の鳥と変わりはない。
「そろそろ此処の生活も慣れた? この前はごめんね。‥‥怖い思いをしたでしょ? でも、これからは大丈夫。あなたも八傑衆の一人として、己の欲望を満たす事が出来るのだから‥‥」
 妖艶な笑みを浮かべながら、パウチカムイがルウォプの胸元に指を這わす。
 パウチカムイはルウォプを八傑衆に取り込むため、彼女に色々と贅沢をさせていた。
 そのため、彼女が誘いを断るとは微塵も思っていない。
 それどころか自分の忠実な下僕として、冒険者達を陥れるために協力してくれると思い込んでいる。
「そ、その事なんですが、八傑衆に入る気はありません。八傑衆になるって事は仲間達を見捨てて、サッポロペッを去れって事ですよね? 申し訳ありませんが、そこまで非情にはなれませんから‥‥。出来ればもう少し此処に居てもいいですか?」
 申し訳無さそうな表情を浮かべ、ルウォプが慎重に言葉を選んでいく。
 ここでパウチカムイの機嫌を損ねれば、自分の命だけでなく仲間達の命まで失われてしまう。
 ‥‥それだけはどんな事をしても避けたかった。
「ふふっ‥‥、なるほどね。もう少しここにいたいと言う事は‥‥分かっているわね? 私もあなたにずっといて欲しいと思っていたのよ。それに八傑衆の一人になったら、私と離れ離れになってしまうものね。そんな事になったら、今度はいつ会えるか分からない。あなたは特別な力を得るより、私を選んだと言う事でしょう? 思ったよりも賢いのね。‥‥いいわ。今日から可愛がってあげる」
 満足した様子で笑みを浮かべ、パウチカムイがルウォプの肩を抱く。
 しかし、ここで抵抗する事も出来ないため、ルウォプも愛想笑いを浮かべている。
「それじゃ、もっと仲を深め合いましょう。お互い知らない部分もあるし、あなただって興味があるんでしょう? たっぷりと可愛がってあげるから覚悟しておきなさい」
 ルウォプの胸元に手を忍ばせ、パウチカムイが耳元で囁いた。
 ‥‥最悪の展開であった。
 一応、命は助かったようだが、別の意味でピンチである。
「えーっと、今日は体調が‥‥。あ、あの、聞いてますか? 風邪を引いているので、熱があるんですよ。ケホ‥‥ケホッ‥‥! ‥‥ほらね。きゃあ!? だ、誰か助けてください〜!」
 そして、ルウォプはパウチカムイに腕を掴まれ、遊女達の待つ大浴場に連れて行かれるのであった。

●見捨てられた村
(「‥‥神よ、お許し下さい。今回、私は騎士の戦いを行いません」)
 悩みに悩んだ挙句、フレイヤ・シュレージェン(ec0741)が覚悟を決める。
 村に残された子供達を守るため、インネ(悪人)達を倒して浚われた女の子達を取り戻さねばならない。
「‥‥お願い。皆、女の子達を助け出すために協力して!」
 まわりで遊んでいた子供達を広場に呼び集め、フレイヤがわざと自分を捕らえるように頼み込む。
 子供達は少し戸惑っていたようだが、フレイヤに恩があるため渋々ながらも頷いた。
「‥‥本気か? てっきり冗談かと思っていたが‥‥」
 納屋の壁にもたれかかり、ゲレイ・メージ(ea6177)がジロリと睨む。
 子供達がフレイヤを捕まえたという話をしても、インネ達が信用するとは思えないため、ゲレイ自身はあまり乗り気ではないようだ。
「ええ、もちろん。ここまでやるからには、必ず成功させるつもりです。インネ達を誘き寄せるため、ここで商談をする事になっていますから‥‥。ただし、あくまで犠牲になるのは私ひとりだけ。どんな事があっても子供達に怪我をさせるつもりはありません。このまま子供達を見捨てれば、一生後悔してしまいますから‥‥」
 優しく子供の頭を撫でながら、フレイヤが躊躇う事なく答えを返す。
 子供達はみんなフレイヤ達を慕っているため、心配した様子で彼女の身体にしがみついている。
「まぁ‥‥。これ以上、おたくに口を出すつもりはない。‥‥おたくが決めた事だ。どんな事があっても、私には関係のない事だからな。だが、危ないと思ったら私を呼べ。それまで納屋に隠れている。大人が多いとインネ達も警戒するだろうからな」
 含みのある笑みを浮かべ、ゲレイが納屋の片づけをし始めた。
 納屋には大量のワラが積まれており、辺りには農耕具が転がっている。
「それでおいら達はどうすればいいんだ? お姉ちゃんには色々してもらったから、どんな事でもするぜ! やっぱり武器は持っておいた方がいいのかな? おいら達だってインネ達の頭をブン殴る事くらいは出来るぞ。相手が気づく前に仕留めちゃえば、おいら達にだって勝ち目があるからな! 遠慮せずに言ってくれよ。おいら達‥‥、お姉ちゃんに恩返しがしたいからさ!」
 自信に満ちた表情を浮かべ、少年が農耕具をガシィッと掴む。
 インネ達が怯んだところでまわりを囲み、一斉にドツキ倒すつもりでいるため、子供達を集めて農耕具をブンブンと振り回している。
「それで私を殴ってください。手加減する必要はありません。中途半端な怪我でインネ達を納得させる事など出来ませんから‥‥。さぁ、遠慮する事はありません。思いっきり‥‥、殴ってください!」
 ゲレイに頼んで自分の身体を縛らせ、フレイヤがゆっくりと目を閉じる。
 そのため、子供達は急に尻込みしてしまったが、フレイヤの気持ちがホンモノである事を悟り覚悟を決めて農耕具を振り上げた。
「ごめん‥‥、ごめんよ‥‥、お姉ちゃん! おいら達のせいで、こんな目に‥‥。ごめん‥‥、ごめんよ‥‥、お姉ちゃんっ!!」
 前が見えなくなるほどボロボロと涙を流し、子供達が次々とフレイヤめがけて農耕具を振り下ろす。
 しかし、子供達の力ではそれほど傷をつける事が出来ず、フレイヤ自身も彼らの気持ちを察したのか、いつの間にか溢れんばかりの涙を流していた。
「はっはっはっはっ! こりゃあ、いい! 誰かと思えば箱館の町にいた女じゃねえか! 俺達の御頭を殺したバチが当たったんだ!」
 満足した様子で高笑いを上げながら、インネ達が村に入ってくる。
 ‥‥フレイヤ達はその顔に見覚えがあった。
 その大半は箱館の港町で酒盛りをしていた男達。
 陸のアッコロカムイが倒された事で行き場を失い、この辺りを荒らし始めていたらしい。
 そのため、フレイヤに対して激しい恨みを抱いている。
「なんだ、その目つきは‥‥。こんな状況で俺達に歯向かおうってのか!? まぁ‥‥、いいや。あの御方のところに連れて行く前に色々と教育してやるか。その方が俺達にとっても楽しみ甲斐があるからな」
 いやらしい笑みを浮かべながら、インネが乱暴にフレイヤの顎をしゃくる。
 インネ達はフレイヤを何処かに連れて行くつもりでいるらしく、他の仲間達を集めて何やらブツブツと話している。
「クッ‥‥」
 悔しそうな表情を浮かべ、フレイヤが唇をグッと噛み締めた。
 本当ならここでインネ達をブン殴りたい気分だが、それでは子供達まで巻き込んでしまう。
「はっはっはっ! いい顔をしているじゃねえか。これからその顔が苦痛に歪む事を考えただけで‥‥、たまらねえな! おい、ガキ共はあっちに行っとけ! これからは大人の時間だ。お前達にはちょっぴり刺激が強すぎるぜぇ!」
 勝ち誇った様子でまわりにいた子供達を追っ払い、インネがフレイヤを引きずるようにして納屋の戸を開ける。
 ‥‥そして、辺りに悲鳴が響くのだった。

今回のクロストーク

No.1:(2007-07-07まで)
 大切な人を守るためなら、命を捨てる事が出来ますか?