蝦夷解放

■クエストシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年09月01日
 〜2007年09月31日


エリア:蝦夷

リプレイ公開日:09月27日19:46

●リプレイ本文

●一章 サッポロペッ(札幌)の聖域
「し、信じられないわ。この状況で‥‥帰ったわね」
 引きつった笑みを浮かべながら、パウチカムイ(淫らな女神)が頭を抱えて溜息をつく。
 人質となったルウォプ(ec0188)を前にして、伊達正和(ea0489)は屋敷を出て行った。
 パウチカムイが信用する事が出来るのか見極めるため、その間だけ不戦条約を結び‥‥。
「えう〜〜〜〜〜、一体これからどうしたらいいんでしょうかぁ〜。ようやく自由の身になれたと思ったのに、これじゃふりだしに逆戻りじゃないですかぁ〜」
 魂の抜けた表情を浮かべ、ルウォプが自分の身に降りかかった不幸を呪う。
 ようやく助かったと思ってホッとしていた事もあり、その絶望感はハンパなものではなかった。
 しかし、パウチカムイに気に入られているので、すぐにどうこうなってしまうわけではない。
 ただし、彼女と一緒にいる限り、貞操の危機から逃れる事が出来なかった。
「まぁ‥‥、いいんじゃないの? 考える時間が欲しいようだから‥‥。きっとサッポロペの遊女達と、もっと楽しみたいんじゃないのかしら?」
 含みのある笑みを浮かべながら、パウチカムイがルウォプの胸元に手を入れる。
 そのため、ルヴォプは顔を真っ赤にして飛び上がり、慌てた様子で壁際まで避難した。
「な、な、な、な、な、何をするつもりですかっ! わ、わ、わ、私はそっちの趣味がないと言っているじゃありませんか。ドサクサに紛れてヘンな事をしたら、舌を噛み切って死んじゃいますからねっ!」
 大粒の涙を浮かべながら、ルウォプがパウチカムイを睨む。
 再び眠れない夜が続くと思うと、魂が抜け出てしまいそうである。
 せめて‥‥、一緒に連れてサッポロペの聖域から逃げ出して欲しかった。
 そのせいですぐにサッポロペの聖域を取り戻す事が出来なくなるかも知れないが、ここで貞操の危機を感じているよりマシである。
 少なくともゆっくりと夜は眠れるのだから‥‥。
「あらぁん、勘違いされたら困るわ。わたしは胸についていたゴミを取ってあげようと思っただけなのに‥‥。ちょっと手が滑ったくらいで大騒ぎしちゃ駄目よ。どうせ襲うんだったら、夜這いに限るわ。あなたがスヤスヤと眠っている真夜中が狙い目ね♪」
 妖艶な笑みを浮かべながら、パウチカムイがジリジリと迫っていく。
 それは獲物を狙うハンターの目。
 先程の言葉が明らかに嘘である事が分かるくらい、パウチカムイの目がギラギラと輝いている。
「ああ‥‥、いつになったら平和な世界に帰る事が出来るのでしょうか。はやくラヨチちゃんと一緒に遊びたいです‥‥」
 ペットのイワトビペンギンを思い浮かべ、ルウォプが大粒の涙を浮かべて愚痴をこぼす。
 そしてルウェプの悲鳴が辺りに響き渡るのであった‥‥。

●二章 サッポロペの都
「うひゃあ〜、何だかあっちもこっちも目のやり場に困るなぁ〜」
 恥ずかしそうに頬を染めながら、ハクオロゥ(eb5198)が視線を逸らす。
 サッポロペの都は大半が遊郭なので、ハクオロゥには刺激が強すぎた。
 しかも辺りから甘い香のニオイが漂っているため、何も考える事が出来なくなり始めているようだ。
「一見すると平和そのものだが、このニオイは何とかならないのか! 何だか頭がクラクラする‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、伊達正和(ea0489)が口元を押さえる。
 しかし、皮膚からも吸収しているらしく、だんだん目つきが怪しくなってきた。
「こ、これが‥‥、パウチカムイの力‥‥ですか。どうやら遊女達の身体や、土壌から発せられるニオイのようですね。何らかの液体を撒いてニオイを染み込ませたのか、それともこういう土地だったのか分かりませんが、これを防ぐ事は難しそうです‥‥」
 朦朧とする意識の中で煩悩を振り払い、闇目幻十郎(ea0548)がフラフラと歩く。
 まるで体を乗っ取られているかのような感覚に陥るため、少しでも気を抜けば本能に支配されてしまいそうである。
「あらぁん、お兄さん達〜。せっかくサッポロペッに来たんだから、アタシ達と一緒に遊ばなぁ〜い?」
 むせ返るほど濃厚な匂いを漂わせ、遊女達が幻十郎に擦り寄っていく。
 そのせいで本能が爆発しそうになったが、唇をグッと噛み締めて堪えている。
「えーっと、おいら達は仕事で来ているから‥‥、遠慮するよ」
 耳の先まで真っ赤にしながら、ハクオロゥが遊女の誘いを断った。
 そのため、遊女が大きく口を膨らせ、『遊びに来たんじゃないのなら帰れっ!』と叫んだ。
「‥‥すまない。俺の仲間が失礼な事をした。お詫びと言っちゃ何だが、俺達と一緒に飲まないか? 決して悪いようにはしないから‥‥。サッポロペの支配者であるパウチカムイについて教えて欲しい事がある」
 爽やかな笑みを浮かべながら、正和が遊女の肩を抱き寄せる。
 しかし、どの店もべらぼうに高いため、なかなか足が進まない。
「ひょっとして、あなた達が噂の冒険者? だったらいくら積まれたってお断りっ! あなた達ってパウチカムイ様を殺しに来た悪党なんでしょ? そんな奴らにサービスする必要はないから‥‥。アタシ達の命が懸かっているんだから、好き好んであなた達に協力する人なんていないわよ。悪いけど早くこの都から去って頂戴。パウチカムイ様には返しても返しきれないほどの恩があるんだから、あなた達がいると迷惑なのよっ!」
 今までの表情から想像する事が出来ないほど凄まじい殺気を放ち、遊女が正和達に対して最後の警告をする。
 よほどパウチカムイに対して恩があるのか、自らの命を捨てる覚悟が出来ているようだ。
 それは他の遊女達も同じのようで、次第に正和達のまわりを囲んでいく。
「まさか、ここまで信頼されているとは‥‥」
 信じられない様子で辺りを見回しながら、幻十郎がダラリと汗を流して後ろに下がる。
 幻十郎達が本気を出せば遊女達を殺す事など簡単な事だが、そんな事をしても意味があるとは思えない。
「ちょっと待ってくれ。おいら達だって、わけもなくパウチカムイを倒そうとなんて思っちゃいない。ここでパウチカムイに関する聞き込みをして、倒すべき相手か見極めたいんだっ!」
 真剣な表情を浮かべながら、ハクオロゥが遊女達の説得を試みた。
 しかし、遊女達の気持ちは変わらず、ハクオロゥ達を街から追い出すつもりでいるようだ。
「ハッキリ言って迷惑だから帰ってくれる? アタシまでグルだと思われると、物凄く迷惑なんだけどっ!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、遊女がキッパリと言い放つ。
 よほど腹が立っているのか、ハクオロゥ達と話もしたくないようだ。
「ひとつだけ聞かせてください。この街に松前の姫やコロポックルの巫女が来ませんでしたか?」
 このままでは何の収穫も得られないため、幻十郎が無理を承知で遊女達に問いかけた。
 そのため、遊女達は幻十郎を睨みつけ、吐き捨てるようにして答えを返す。
「知らないねぇ、そんなヤツらは‥‥。第一、そんなヤツがこんな場所にいるわけないだろ? いるとしたら‥‥、ふんっ! やっぱり止めた。お前達に教えたところで、アタイらが幸せになれるわけでもないしねぇ。どうしても知りたいのなら、二度とパウチカムイ様に手を出さないって約束するんだな。どうせお前たちの事だから、口約束で済ますつもりだろうけど、アタイらは忘れたりしないからね」
 幻十郎達をジロリと睨みつけ、他の遊女達がゾロゾロト集まってくる。
 彼女達の中には男に騙されてここに来ている者もいるため、幻十郎達の言葉がどうしても信用する事が出来ないようだ。
(「‥‥随分と嫌われてしまったな。やはりパウチカムイの屋敷から出るべきではなかったか」)
 険しい表情を浮かべて腕を組み、正和が深い溜息を漏らす。
 本来ならばパウチカムイを討つか、サッポロペッの聖域を去るかのふたつにひとつだったため、サッポロペッの都で彼女に関する情報を集めるという選択肢はなかった。
 どちらにしても正和達が八傑衆と敵対しているのだから、こんな状況でなかったとしても結果は変わらなかったのかも知れないが‥‥。
「あなた達は騙されている! パウチカムイは女性達の守護者を気取っているようだが、あなた達が被害に遭ったというインネは八傑衆の手下。パウチカムイが己の欲望の為に他の八傑衆を嗾けて、あなた達が遊女とならざるを得ない状況を、わざと作り出したとの推測も成り立つんですよ。それでも彼女を信じるというのですか?」
 覚悟を決めて遊女達を睨みつけ、幻十郎が彼女達にむかって問いかける。
 しかし、インネ達の大半はアッコロカムイ(海の木幣の神)の手下だったため、彼女達の心を揺り動かす事は出来ない。
 すなわち現時点でパウチカムイが『黒』であるという確証を得る事が出来ないというわけだ。

●五章 二風谷
「ふあああ‥‥、眠い‥‥。たくっ‥‥、昨日はまったく眠れなかったぜ。これじゃ、まともに見張りをする事も出来ないな。途中でウッカリと居眠りしてしまうかも知れん」
 わざとらしくアクビをしながら、見張りの男がフラフラと牢屋の前に立つ。
 見張りの男は昨日の夜に鍵を忘れて出て行ったのだが、一睡もする事が出来なかったらしく目の下にクマが出来ている。
「それは災難でしたわね。そんな事よりも牢屋の鍵が落ちていますわよ。こんな事が他のコロポックル達に知られたら、マズイ事になるんじゃありませんか?」
 含みのある笑みを浮かべながら、井伊文霞(ec1565)が牢屋越しに語りかけた。
 そのため、見張りの男はチィッと舌打ちし、彼女の事をジロリと睨む。
「なんで逃げな‥‥、じゃなかった。ろ、牢屋から逃げたりしていないだろうな? お前達が妙な真似をすれば、タダじゃおかねえからな!」
 落ちていた鍵を拾い上げ、見張りの男が警告する。
 もちろん、彼女達には逃亡する気がないため、牢屋の鍵に触れてすらいない。
「ご安心ください。わたくし達は仲間を信じていますから‥‥。ここで脱獄する事は簡単ですが、そんな事をすれば仲間達にまで迷惑が掛かってしまいますからね。例え逃げる事が出来る状況にいたとしても、仲間達が助けに来るまでここから出るつもりはありません」
 見張りの男に疑われていたため、文霞がキッパリと断言する。
 どちらにしても仲間達と合流しなければならないので、牢屋から出たところで安心する事が出来ない。
 そんな不安を抱えて逃亡生活をするよりも、大人しく牢屋で待っていた方がマシである。
「それじゃ、ハッキリと言っておくが、絶対にヤツらは帰って来ねぇ。ヤツらが向かった先は、フラヌィ(富良野)の地。あの土地の主であるパトゥムカムイ(病魔の神)は、狙った獲物は絶対に逃がさないからな。今頃、酷い拷問に遭って命乞いをしているはずさ。そんな状況でお前達の事を考えていると思うか? ‥‥答えは『いいえ』だ。自分達が生き残るために、平気で仲間達を売るはずさ」
 わざと挑発的な言葉を選びながら、見張りの男が文霞達の顔色を窺った。
 本来なら牢屋の前に落とした鍵を文霞達が拾って脱獄し、外に出たところで仲間のコロポックル達と一緒に袋叩きにする予定でいたのだが、思い通りにならずに恥まで掻いてしまったらしい。
「あなたと同じように‥‥ですか? あなたが八傑衆‥‥。いえ、鬼面衆と繋がりがある事は分かっています。あなたが自分の身を守るために、二風谷の仲間達を売った事も‥‥。どうせキラウさんをそそのかしたのも、あなたなんじゃないですか? 申し訳ありませんが、そろそろ本当の事を話してくれませんか?」
 出来るだけ多くの情報を得るため、和泉みなも(eb3834)が見張りの男にカマをかけた。
 そのため、見張りの男が酷く動揺してしまい、しどろもどろになって答えを返す。
「ば、ば、ば、馬鹿を言うんじゃねえ。俺がいつ仲間達を売ったって言うんだ! 適当な事を言っているんじゃねえ! そんな証拠があるのなら、いますぐ俺に見せてみろ! 単なる勘で言っていたのなら、痛い目に遭わすからな!」
 ‥‥図星だった。
 もともと嘘がつけない性格なのか、こちらがずうっと黙っていれば、怖くなって勝手にペラペラと話してきそうである。

●七章 フラヌィの聖域
「おーっほっほっほっ! ほらほら、どうするのかしらぁん。早くしないと、この娘がどうなっちゃうか分からないわよぉん。まぁ‥‥、散々この娘で楽しませてもらったから、どうなろうが知ったこっちゃないけどねぇ。おほ、おほ、おーっほっほっ!あっ‥‥、勘違いしないでね。あたしはオンナになんて興味がないから‥‥。純粋な意味で楽しませてもらったと言う事だから、ヘンな勘違いをしちゃ駄目よぉん」
 含みのある笑みを浮かべながら、パトゥムカムイが冒険者達を挑発する。
 ハピリカらしき少女が人質に捕らえられているのだが、酷い拷問を受けているためか何も答えようとしない。
 そのため、まるで人形に動かないのだが、何とか息はしているようだ。
 その事だけが冒険者達にとっては救いであり、わずかに残された希望の灯火となった。
 もちろん、彼女を助け出すまで、安心する事が出来ない。
 最悪の場合はパッコロカムイの手によって、彼女の命が奪われてしまうのだから‥‥。
「パトゥムカムイ!! 人質を取るなど、言語道断!! 必ずその罪を償わせて差し上げますわ!!」
 悔しそうな表情を浮かべながら、マミ・キスリング(ea7468)が拳をギュッと握り締める。
 ‥‥状況的には冒険者側が圧倒的に不利だった。
 しかし、その事をパトゥムカムイに知られれば、それこそ敵の思う壺である。
 ハピリカと思われる少女の身体を切り裂き、冒険者達の心を惑わそうとするはずだ。
 パトゥムカムイにとって冒険者達の苦しみは、最高の調味料。
 あの手この手を使って彼女を拷問した上で、冒険者の苦しみを骨の髄までしゃぶり尽くしてしまうだろう。
「あら、あらぁん、罪を償えですって!? その言葉‥‥、ゾクゾクしちゃうわぁん。背筋を駆け巡るカ・イ・カ・ンってヤツ? やっぱり、あんな事とか、こんな事とかしちゃうのかしらぁん。あたしは責めるのが好きだけど、責められるのも大好きよぉん。どうやって満足させてくれるのかしら? 中途半端な真似をしたら、許さないんだから!」
 ハピリカと思われる少女の首に短刀を押し当て、パトゥムカムイが満足した様子でニヤリと笑う。
 冒険者達が苦しむ姿を楽しんでいるため、彼女の首に押し当てた短刀をゆっくりと押しつけていく。
 そのせいで彼女の首から血が溢れ、いまにも噴き出しそうになっている。
「これ以上、罪を重ねるのは止めてください! こんな事をしても不利になるだけですっ! 例えハピリカ様の命を奪う事が出来たとしても、私達が黙っていませんからね。ハピリカを傷つけた事を、きっと後悔するはずですっ!」
 険しい表情を浮かべながら、アヴリル・ロシュタイン(eb9475)が警告する。
 しかし、パトゥムカムイの心には届いておらず、狂ったような笑い声が辺りに響く。
「おーっほっほっほっ! ‥‥後悔ねぇ。本当に後悔しているのは、あなた達の方じゃないのかしら? 自分達の命と同じくらい大切なハピリカちゃんが、変態ホモ野郎に捕まって好き勝手にされていたんだから♪ 普通ならハラワタが煮え繰り返っていても、おかしくない状況のはずなのに‥‥。冷静でいられるって事は、何か秘策でもあるのかしら? あたしをあっと言わせる秘策でもあるんだったら見せて欲しいものねぇ。ほらほら、やってみなさいよ。まぁ‥‥、その状況じゃ、手も足も出ないんだろうけどねぇん」
 恍惚とした表情を浮かべながら、パトゥムカムイが短刀をペロリと舐める。
 それと同時に橘一刀(eb1065)がパラのマントを脱ぎ捨て、大脇差『一文字』を振り上げてパトゥムカムイの短刀を弾く。
「‥‥残念でござったな。これでおぬしは御終いだ」
 ハピリカらしき少女を抱き寄せ、一刀が大脇差『一文字』をパトゥムカムイにむける。
 そのため、パトゥムカムイは唇をグッと噛み締め、悔しそうに拳をぶるりっと震わせた。
「キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ! ム・カ・ツ・クゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!! なんて、小生意気な娘なの! あたしの一番キライなタイプだわっ! そんな奇妙な道具を使って、不意討ちを仕掛けてくるなんて最低の人間がする事よ! 正義の味方を名乗っているのなら、正々堂々と真正面から攻めてきなさいっ! まぁ‥‥、いいわ! そっちがそのつもりなら、あたしにだって考えがあるから! 次にあたしが右手を上げた瞬間、あなた達は蜂の巣になるわ。あなた達は気づいていないようだけど、岩場の影にあたしの部下達が隠れているから。そうね。ざっと1000人くらいかしら? あなた達に逃げ道はないわよ。さぁ、どうするの? 卑怯者さん達」
 自分の事を棚に上げながら、パトゥムカムイが文句を言う。
 だが、あまりにも説得力がないので、みんな呆れ果ててしまっている。
「卑怯な手を使ってハピリカさんを苦しめたあなたに言われたくありませんっ! 正々堂々と勝負して欲しいのなら、どうしてこんな卑怯な手段を使ったのですか?」
 プレスセンサーを使って辺りを警戒しながら、カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)がパトゥムカムイを睨む。
 しかし、パトゥムカムイ以外の気配を感じる事がないため、ハッタリをかましている可能性が非常に高い。
 だが、パトゥムカムイの伏兵が『生あるもの』とは限らないので、迂闊に攻撃を仕掛ける事が出来なかった。
「あら、心外ねぇ。あたしとしては、最高のおもてなしをしたつもりだけど‥‥。やっぱり野蛮人には理解されないものなのかしら? あたしの乙女ゴコロってヤツがね!」
 わざと挑発的な言葉を選びながら、パトゥムカムイがニンマリと笑う。
 何か秘策でも用意しているのか、自分が不利な状況にも関わらず、まったく動揺していない。
「最高のもてなし‥‥か。ハピリカ殿のニセモノを使って、拙者らの心を惑わせておいて大した狸でござるな。寝言は寝てから言って欲しいものでござる‥‥」
 すかさず居合い(ブラインドアタックEX+ポイントアタックEX+シュライク)を放ち、一刀が深い溜息を漏らす。
 それと同時にパトゥムカムイが崖から足を滑られ、悲鳴を上げてゴロゴロと転がっていく。
「やはりニセモノでしたか。だとしたら本物のハピリカ殿は何処に‥‥」
 新たな疑問が脳裏を過ぎり、マミがボソリと呟いた。
 そのため、パトゥムカムイが鬼の首を取ったような表情を浮かべ、彼女達の顔色を窺いながら答えを返す。
「うふふふふ‥‥、どうしようかなぁ。実はあたし‥‥、ハピリカちゃんが何処にいるのか知っているのよねぇ。でも、タダじゃ教えてあげないわよぉん。でもぉ、あたしを助けてくれたら、考えてあげてもイイわ。あたしって心の広いオトメだから♪ ほら、あたしって本当は平和主義者でしょ? 意味もなく傷つけ合うのって趣味じゃないのよねぇ。なるべく穏便にコトを進めた方がお互いのためにもなるでしょ?」
 無駄に爽やかな笑みを浮かべ、パトゥムカムイが冒険者達に擦り寄っていく。
 しかし、誰もバトゥムカムイの言葉を信じていないため、一斉に得物を構えて逃げ道を塞ぐ。
「いまさらあなたの言葉を信じるとでも思っていたのですか? ‥‥だったら自惚れるのも、いい加減にしてくださいっ!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、カスミがパトゥムカムイを睨む。
 ‥‥パトゥムカムイにとっては、何もかもが誤算であった。
 本来ならカスミ達の首を刎ね、高笑いを上げているはずだ。
 だが、実際はカスミ達に囲まれ、逃げ道を塞がれている。
「おぬしの知っている事を話せば、命だけは助けてやるでござる。拙者らも出来るだけ情報が欲しいでござるから‥‥。ただし、先程と同じようなハッタリをかますようなら、拙者も容赦はしないでござる」
 いつでも攻撃を仕掛ける事が出来るように大脇差を握り、一刀がパトゥムカムイに対して警告した。
 次の瞬間、パトゥムカムイが隠し持っていた短刀で一刀を斬りつけ、『おぼえてらっしゃい』と捨て台詞を残して逃げていく。
「姑息な手を使う愚かな者達よ! 例えどんなに悪が栄えようが、正義の名の下に諦めず立ち向かえば、悪は必ず滅びるのです。人はそれを『裁き』といいますわ。さあ‥‥、覚悟なさい!! 愛と怒りと悲しみのぉっ!!縦!一文字斬りぃっ!!」
 パトゥムカムイに対して口上を述べ、マミがスマッシュEXを叩き込む。
 その一撃を喰らってパトゥムカムイが血反吐を吐き、情けない格好のまま息絶えた。
「我が剣に‥‥断てぬモノ無し」
 そして、マミの雄叫びが辺りに響く。
 こうしてフラヌィの聖域を支配していたパトゥムカムイが、冒険者達の活躍によって退治されたのであった。

●九章 インガルシ(遠軽)の聖域
「ほっほっほっ、やはり若いオナゴはええのぉ‥‥。ルウォプもええオナゴだと思っていたが、人間のオナゴもめんこくてええのぉ‥‥。やっぱり旅に出るなら、オナゴがいないとイカン!」
 満面の笑みを浮かべながら、エカシがフレイヤ・シュレージェン(ec0741)を連れてインガルシの聖域にむかう。
 インガルシの聖域は山の上にあり、八傑衆のひとりであるホロケウカムイ(狼の神)の支配下にある土地である。
 この地までエカシはパウチカムイから預かった物を届けるため、フレイヤと会うまで気ままな旅を続けていた。
「まったくジイちゃんは女の話になるとコロッと態度が変わるからなぁ‥‥。調子に乗って妙な真似をしないでくれよ。巻き添えを食らうのは、いつだっておいらなんだからさ」
 呆れた様子で溜息をつきながら、ルイがエカシにツッコミを入れる。
 今までにも何度かトラブルに巻き込まれてきたため、すっかりエカシの事が信用する事が出来なくなっているようだ。
「‥‥教えてください! ホロケウカムイと、パウチカムイが良きカムイなのかを‥‥」
 真剣な表情を浮かべながら、フレイヤが八傑衆について話を聞く。
 するとエカシは深い溜息をつき、フレイヤの顔を見つめて呟いた。
「八傑衆を名乗っている者達は、すべて悪いカムイじゃ。だが、八傑衆同士で内部分裂が始まっている事は間違いない。すべてはカムイの力を手に入れるため‥‥。ニッネカムイ(悪神)の力は限りがある。故にカムイの力を手に入れて、蝦夷を支配しようとしているようじゃ。だが、パウチカムイは他のニッネカムイとは違っていた。あのオナゴは蝦夷の難民達を匿っていたようじゃのぉ‥‥。確か忘れられた村から来たオナゴもおった。いまはパウチカムイの屋敷で、雑用をしているはずじゃ。そして、ホロケウカムイについてじゃが、正直どんなヤツかは会ってみないとワカラン。だが、他の八傑衆と敵対している事は間違いないようじゃのぉ」
 しみじみとした表情を浮かべながら、エカシが顎鬚をさすって答えを返す。
 どちらにしてもホロケウカムイには、会っておく必要がありそうだ。
「それでパウチカムイからは何を預かったんだ?」
 クールな表情を浮かべながら、ゲレイ・メージ(ea6177)がエカシの持っている包みを睨む。
 ‥‥パウチカムイから託された細長い包み。
 だが、エカシでさえも包みの中身を確認していないようだ。
「すまんのぉ‥‥。色っぽいオナゴから、『絶対に見ちゃ駄目』って言われているからのぉ。ホロケウカムイに会う前まで我慢してくれと言われておるんじゃ。約束を破ったら、チューをしてくれんと言っておるから‥‥、わしも約束を守らなければならん! 別に下心があるからじゃないぞ」
 鼻の下を伸ばしながら、エカシがニンマリと笑う。
 パウチカムイの色仕掛けで骨抜きにされているのか、冷静な判断をする事が出来なくなっている。
「中身を確認しなくて、本当に大丈夫なのか? パウチカムイから頼まれたものなら、何か物騒な物である可能性が高いだろ? 最悪の場合は八傑衆の悪事に手を貸す事になるぞ」
 険しい表情を浮かべながら、ゲレイがボソリと呟いた。
 しかし、エカシはまったく聞き耳を持っておらず、パウチカムイとのやり取りを思い出している。
「此処からは‥‥、私の独り言です」
 念のため、断りを入れた後、フレイヤがゆっくりと口を開く。
「もしホロケウカムイが悪で、その届け物が悪しき事に使われようとしたら、私は騎士としてそれを阻止しなければ成らない、そうなった場合、貴方達に危害が加わらぬようにするため、私に脅かされてここまで案内したと言う事にして欲しい。そして、もしも自分に万が一の事があったら、見捨てられた村の子供達を頼みます」
 覚悟を決めた様子でエカシを見つめた後、フイレヤが深々と頭を下げる。
 しかし、エカシは小さく首を横に振り、フレイヤの頼みを断った。
「‥‥悪いがわしらにはやらねばならぬ使命がある。例え、それが間違っていたとしても、最悪の事態を避けるためには必要な事じゃ。場合によっては、おぬしと戦う事になるかも知れないのぉ」
 含みのある笑みを浮かべながら、エカシがジロリと彼女を睨む。
 もちろん、エカシが本気を出したところで、フレイヤの身体に傷ひとつつける事は出来ない。
 だが、ここでフレイヤがエカシを傷つければ、コロポックル達と敵対する事になる。
 ‥‥それだけは何としてでも避けたかった。