蝦夷解放
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■クエストシナリオ
担当:ゆうきつかさ
対応レベル:‐
難易度:‐
成功報酬:-
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:2007年03月01日 〜2007年03月31日
エリア:蝦夷
リプレイ公開日:03月20日20:19
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●リプレイ本文
●サヨ
「‥‥サヨさんは目を覚ましましたか?」
モンベツ(紋別)の聖域から避難してきたサヨの様子を見るため、カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)がハクオロゥ(eb5198)の小屋にやってきた。
ハクオロゥの小屋はハピリカが用意してくれたもので、他の聖域から箱館の町に避難してきたコロポックル達が住む小屋と同じ造りになっている。
サヨの見舞いにやって来たカスミは、イクパスイ(ジャパンの北方で使われている長さ15cmくらいの木製の祭具)と御神酒『トノト』をお土産として持参し、ハクオロゥにペコリと頭を下げた。
ちなみに依頼中に使用したアイテムなども報酬に含まれているため、ハピリカが新しいものを持ってくる事になっている。
「いや‥‥、まだだ。結局、オイラはサヨ以外の仲間達を助ける事が出来なかった‥‥。こうなったらサヨだけでも早く元気になって欲しいよ」
ションボリとした表情を浮かべ、キクオロゥが疲れた様子で溜息をつく。
あれからサヨは眠り続けたまま、決して目を覚まそうとしない。
まるで現実に起こった出来事を否定するかのように‥‥。
「‥‥そうですね。サヨさんが目覚めれば、何か分かるかも知れませんし‥‥」
サヨの額に置かれた手拭いを手に取り、カスミが水桶にゆっくりと浸す。
いまのところモンベツの聖域で起こった事は、何も分かっていないといっていい状況だ。
そのため、モンベツの聖域に関する情報を得るためには、どうしてもサヨの協力が不可欠になってくる。
「その事なんだけど、オイラには聞く事が出来ないよ。聖域で起こった事はある程度予想する事が出来るし‥‥、その事を思い出したくないから、サヨは眠っているんだろうから‥‥」
何処か寂しげな表情を浮かべながら、ハクオロゥがボソリと呟いた。
確かに八傑衆に関する情報は必要だが、その事によってサヨが傷つく事は間違いない。
(「ふたつに‥‥ひとつ‥‥か」)
‥‥選ぶのは、ハクオロゥ。
サヨの幼馴染であるからこそ、彼が選択する必要がある。
‥‥選ばなければならない。
例え、それがどんなにツライ選択であったとしても‥‥。
彼女が目を覚ましたら‥‥、選択肢なければならない。
「出来るだけサヨさんについていて下さいね。‥‥大丈夫、貴方の思いはきっと届きますよ」
ハクオロゥの肩をぽふりと叩き、カスミがニコリと微笑んだ。
彼女の心を癒す事が出来るのは、ハクオロゥしかいない。
その事が分かっているからこそ、カスミはハクオロゥに彼女の看病を任せる事にした。
●ハピリカ
「一体、八傑衆は何処でインネカムイの力を手に入れたのでしょうか?」
八傑衆に関する情報を調べるため、アヴリル・ロシュタイン(eb9475)がハピリカの小屋を訪れた。
しかし、コロポックル達は聖域から避難するのがやっとで、八傑衆に関する情報は何も知らないようだ。
それどころか襲撃された時のショックで、聖域で何が起こったのか話そうとする者もいない。
そのため、八傑衆に関する情報は何も集まらず、ハピリカも困り果てていた。
「これは私の憶測でしかありませんが、何らかの方法を使って聖域の力‥‥、つまりカムイの力を手に入れ、悪用しているのかも知れません。逆に言えば八傑衆を倒さない限り、聖域の力が元には戻らないというわけです‥‥」
現状ではハッキリとした事が分からないため、ハピリカが自分の考えを述べる。
「それじゃ、蝦夷に伝わるカムイの力を借りて、八傑衆に対抗する事は不可能というわけですか?」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、アヴリルがボソリと呟いた。
「八傑衆に占拠された聖域を取り戻さない限り、カムイの加護を受ける事は出来ません。その上、各聖域の巫女がいなければ、カムイの加護を受ける事は難しいと思います。何処かに避難しているといいんですが、もしも亡くなっていた場合は‥‥、諦めた方がいいかも知れませんね」
各聖域の巫女を捜す事が難しいため、ハピリカが落ち込んだ様子で溜息をつく。
安全な場所に避難していればいいのだが、現状では亡くなっている可能性が高い。
「それじゃ、カムイの力も期待する事が出来ないというわけですね」
自分自身に言い聞かせるようにしながら、アヴリルが拳をギュッと握り締める。
しばらくの間は自分達だけで何とかしなければならないようだ。
●二風谷
「‥‥やはりな。どうやら、この谷にカムイの剣はないようだ」
二風谷の酋長キラウは他の聖域から避難してきたコロポックル達の受け入れを拒否し、要注意人物であるエカシを牢に閉じ込め、カムイの剣に関する情報を集めていた。
しかし、カムイの剣に関する有力な情報は得られず、無情にも時間ばかりが過ぎていく。
そのため、キラウがエカシを犯人に仕立て上げ、仲間達の怒りの矛先を彼に向けさせた。
一方、エカシは‥‥。
「ふぅ‥‥、茶がウマイ‥‥」
のほほんとした表情を浮かべ、牢屋でお茶を飲んでいた。
「‥‥って、のんびりし過ぎじゃありませんか? 何も悪い事をしていないのに、牢屋に閉じ込められたんだから、もう少しハラハラしていないと‥‥」
呆れた様子で溜息をつきながら、ルウォプ(ec0188)がエカシの食事を地面に置く。
エカシが牢屋に閉じ込められてから、毎朝ルウォプ達が食事を持ってきているのだが、日に日に仲間達の態度が冷たくなってきているので困っている。
そのため、ペットを飼ってのんびりと暮らす計画が、音を立てて崩れようとしているようだ。
「そんな事を言っても、わしは騒いだ所で状況は変わらんじゃろ? ‥‥牢屋に閉じ込められたのだって、カムイの剣が見つからない言い訳をするためのようじゃし‥‥、いまさら何を言っても無駄だと思うんじゃよ。まぁ‥‥、何の証拠も無いのじゃから、間違っても処刑される事はないじゃろ。だったら、こうやってのんびりお茶を飲みながら、お前達がどうにかしてくれるのを待つだけじゃ。お前達だって何もせずにいるわけじゃないだろ? こうやってしている間にも、わしを助け出すために色々と裏工作を‥‥してないのか?」
ハッとした表情を浮かべ、エカシが箸をボトリと落とす。
牢屋暮らしは色々と不便な事もあるようだが、ルイ達が頑張っていると思ったため、いままで挫けず我慢する事が出来たらしい。
「何も言われていなかったんだから、そんな事をしているわけがないだろ! 本当にどうするつもりなんだよ! このまま処刑されちゃうかも知れないんだぞ! それなのにお茶なんか飲んでいやがって! だああああ、何だか腹が立ってきたぁ!」
今にも泣きそうな表情を浮かべ、ルイがエカシに蹴りを入れた。
興奮しているためか、まったく手加減をしていない。
「やめ、やめんか! そんな事をしたら‥‥あばらが‥‥レバーが‥‥もも肉が‥‥ぐはっ!」
血反吐を吐くエカシ。
何度か蹴りを放っていくうちに、辺りには血溜まりが出来ている。
「ちょっ、ちょっと、ルイも落ち着いて!」
慌てた様子で悲鳴をあげ、ルウォプがルイを取り押さえた。
「はっ‥‥、おいらは今まで何を!? ‥‥って、大丈夫か、ジィちゃん!! 一体、誰がこんな酷い事を‥‥!」
ハッとした表情を浮かべ、ルイがエカシを抱き起こす。
エカシは『お前じゃ』と答えを返し、ブクブクと泡を吐いて意識を失った。
「ジィちゃん‥‥、ジィちゃん!! 目を開けてくれよおおおおおおおおおお!!!!」
そしてルイの絶叫が辺りに響く‥‥。
●箱館
「‥‥海に出ると言う魔物が海のアッコロカムイで、それを操っているのが陸のアッコロカムイなのですね。そして、海のアッコロカムイを倒せば、陸のアッコロカムイにその事が知られてしまい、そのまま二風谷に向かえば陸のアッコロカムイに二風谷の位置を知らせる事になりかねないと‥‥。つまり陸のアッコロカムイを倒さない限り、永遠に手詰まりと云う事ですね」
今まで得た情報を纏めながら、アヴリルが酒場で溜息をつく。
陸のアッコロカムイがどんな人物なのか分かっていないが、本当に海のアッコロカムイを操るほどの力があるのなら、かなりの強敵であると考えていいだろう。
「地に足つけて、陸のアッコロカムイの情報を集めるか」
少しでも多くの情報を集めるため、伊達正和(ea0489)が小屋を飛び出した。
箱館の町で陸のアッコロカムイに関する情報を得る事が出来るかどうか分からないが、このまま何もしないよりはマシである。
「そう言えば、まだ本当に戦わなければならない相手と、対峙すらしておりませんわね」
未だに箱館から身動きが取れないため、マミ・キスリング(ea7468)が焦った様子で汗を流す。
こうしている間にも刻々と状況が悪化しているため、早く何とかしなければならない。
「‥‥とはいえアッコロカムイの軍勢に正面切って戦いを挑めば、人数の少ないこちらではどうしようもありませんしね。まずはアッコロカムイが居るというトマコマナイの事を調べてみましょうか?」
トマコナイに関する情報を集めるため、アヴリルが聖域から避難してきたコロポックル達を呼び集める。
コロポックル達の話では、トマコマイは沼や川が多いため、食料を箱館から仕入れていたらしい。
そのため、いずれ陸のアッコロカムイがインネ達を引き連れ、箱館の町にやって来るかも知れない、という事だった。
「‥‥どうやらマズイ状況になっているようだな」
険しい表情を浮かべながら、ゲレイ・メージ(ea6177)が腕を組む。
松前が無駄な抵抗をしない限り、陸のアッコロカムイが箱館の町を襲撃する事は無いのだが、冒険者達を囲い込んでいる事を知れば、だいぶ話が変わってくるだろう。
「しばらく箱館の町から遠ざかっておく必要がありそうですね。どちらにしても、陸のアッコロカムイと戦う事にはなりそうですが‥‥」
このままでは勝ち目が無いため、カスミが箱館の町から遠ざかる事を提案する。
その間にインネ達を捕縛し、トマコマナイに関する情報を得るために‥‥。
「‥‥そうだな。とりあえず松前氏には『冒険者達に脅されて仕方なく道を通した』と答えるように言っておくか。自分達がいなければ、陸のアッコロカムイも迂闊な真似は出来ないだろう」
最悪の事態を想定した上で、闇目幻十郎(ea0548)が予防線を張っておく事にする。
その事によって松前氏の協力を得る事が出来なくなるかも知れないが、箱館に避難してきたコロポックル達を守るためには仕方が無い。
「それじゃ、コロポックルの難民を装って町から出る事にしましょうか。何処でインネ達に遭遇するか分かりませんからね」
コロポックルの難民を装うため、カスミが彼らから借りた衣装を纏う。
インネ達を油断させるためには、最も有効的な手段である。
「あ、あの‥‥、おいらは残っていいかな?」
申し訳無さそうな表情を浮かべ、ハクオロゥがボソリと呟いた。
本当ならハクオロゥも一緒に行くつもりでいたのだが、サヨの事が気になって箱館の町を離れる気にならない。
しかも、彼女がうわ言のようにハクオロゥの名前を呼んでいるため、余計に彼の決断を鈍らせた。
このまま仲間達についていく事は可能だが、一生後悔しそうな気分である。
「ハクオロゥ殿もコロポックルだから、正体を明かさねば残っていても大丈夫だろう。例えインネ達に怪しまれたとしても、仲間達が守ってくれるだろうからな」
コロポックルの民族衣装に着替え、橘一刀(eb1065)がハクオロゥを見つめてクスリと笑う。
そのため、ハクオロゥは『サヨが目を覚ましたら、すぐに後を追う』と答えて小屋を出て行った。
「‥‥すまないが、私も此処に残っていいか? 万が一、陸のアッコロカムイが箱館の町を襲撃するような事があった場合の事を考えて、誰か残っていた方がいいと思うんだ。もちろん、それまでは何処かに隠れている。私が箱館の町にいる事で陸のアッコロカムイが機嫌を損ねても困るからな」
町の外に隠れる場所を見つけたため、ゲレイが仲間達と別行動をとって非常事態にも備える事にする。
最悪の場合は単独でも陸のアッコロカムイと戦う事も考えて‥‥。
「‥‥気をつけてくださいね。陸のアッコロカムイがどんな手を使ってくるか分かりません。場合によっては捕縛され、拷問を受けるかも知れませんから‥‥。くれぐれも身の危険を感じたら、逃げるようにしてください。それじゃ、行ってきますね」
一通りマッパ・ムンディに目を通し、和泉みなも(eb3834)がかんじきを履いて箱館の町を出る。
雪が積もって戦闘が困難になる前に、インネ達を見つけねばならない、と思いつつ‥‥。
●コロポックル
「‥‥何だか騒がしいですね。何か遭ったのでしょうか?」
各地から避難してきた子供達の相手をしながら、フレイヤ・シュレージェン(ec0741)が不思議そうに首を傾げる。
フレイヤは仲間達と別行動をとっていたため、インネ達が捕縛する事は聞いていない。
「えーっと、確か旅に出るとか言っていたぜ」
と答える子供。
「‥‥‥‥ひょっとして、忘れられているって事ですか!?」
唖然とした表情を浮かべ、フレイヤが慌てた様子で仲間達の後を追おうとする。
しかし、子供達に懐かれていたため、あっという間にまわりを囲まれてしまう。
「行かないでよ、お姉ちゃん! うちの父ちゃんだって『彼女とならやり直してもイイ』って言っているからさ! 父さんが言っていたぞ。『フレイヤは別れた妻によく似てる。いや、あれは俺の妻だ。きっと記憶を失っているだけだろう。ちょっとだけ待っていろ。すぐに弟か妹が出来るからな!』って!」
やけに渋い表情を浮かべ、子供のひとりが父親の真似をする。
そのため、フレイヤがキョトンとした表情を浮かべ、子供の父親の顔を思い出す。
「そう言えば昨日‥‥、飲み会で一緒だった気が‥‥」
一瞬、気のせいかと思ったが、子供が『それだ』と言って断言した。
‥‥どうやら気づかないうちに、ロクに話した事もないオヤジの嫁にされていたらしい。
「まぁ‥‥、小さい事は考えちゃ駄目ですね」
早めに対策を練っておかないと、気づかないうちに籍まで入れられていそうな勢いだが、彼女には他にやるべき事があった。
難民達に紛れ込んで箱館の町に忍び込んできた八傑衆の手先を捜す事である。
コロポックル達と親しくなったため、いくつか有力な情報が手に入った。
ひとつは難民の中には定期的にいなくなる者達がいる事。
ふたつめはフレイヤ達の行動を逐一調べている者達。
そして、最後は八傑衆と取り引きしている悪徳商人の存在だ。
すべてがフレイヤ達にとって不利に動いていた。
その代わりコロポックル達から協力を得る事が出来そうなので、うまく行けば形勢を逆転する事が出来るかも知れない。
コロポックル達の話では箱館の町で商いをしている商人の大半が八傑衆の手先であり、フレイヤ達に関する情報も既に流れているという事だ。
そのため、箱館の町に滞在している限り、フレイヤ達の行動が敵側に知られてしまうため、早く拠点を移すべきだとコロポックル達に説得された。
●インネ
「‥‥どうやら罠に引っかかってくれたようですね」
ブレスセンサーを使ってインネ達の気配に気づき、カスミが仲間達にむかって合図を送る。
インネ達はいやらしい笑みを浮かべながら、逃げ道を塞ぐようにして散開した。
「あまり期待しない方がいい。インネ達が狙っているのは、コロポックルのみ。つまりパラだ。自分達がいるのでは、あまりにも怪し過ぎる。それなのに自分達に対して攻撃を仕掛けてくるという事は、よほどの利口か、その逆だ‥‥」
険しい表情を浮かべながら、幻十郎が手裏剣を構える。
いくらコロポックルに扮装しても、さすがに体格までは誤魔化せない。
そのため、利口なインネなら、これが罠だとすぐに分かる。
しかし、大粒の雪が降って視界が悪いためか、インネ達が気づいている様子はない。
「でも、陸のアッコロカムイに関する情報は得られるはず‥‥。例えそれがどんなに些細な情報でも、自分達にとっては必要なものです‥‥」
なるべく戦いやすい場所を探しつつ、みなもがインネ達を引きつけていく。
雪が降っているせいで足場が悪くなっているため、状況によってはこちらが不利になるからだ。
「げひゃひゃひゃ! 待ちやがれ! 俺達とイイコトしようぜぇ!」
一斉に刀を抜いて雄叫びを上げ、インネ達が攻撃を仕掛けてきた。
「そのためにもインネ達を生きて捕縛しなければなりませんね」
オーラシールドを発動させ、マミがオーラボディを使用する。
インネ達はマミ達を難民だと思い込み、いきなり投網を投げてきた。
「‥‥なるほどな。インネ達も似たような目的か‥‥」
大脇差を使って投網を切り裂き、一刀が居合い斬りを炸裂させる。
何が起こったのか分からぬまま、アングリと口を開くインネ達。
その間に正和がスタンアタックを放ち、気絶したインネ達を捕縛する。
「こ、こ、こいつら、冒険者だっ! 畜生、俺達を騙したな!」
青ざめた表情を浮かべながら、インネが悲鳴を上げて尻餅をつく。
何人かのインネは逃げようとしたが、雪で足が取られて身動きが取れない。
「いまさら気づいたのか。‥‥もう遅いっ!」
一気に懐に潜り込み、一刀がスタンアタックを炸裂させる。
その一撃によってインネはぶくぶくと泡を吐き、雪の上に大の字になって倒れ込む。
「それじゃ、近くの洞穴まで運びましょうか」
インネ達を縛り上げ、カスミが洞穴にむかう。
そこはコロポックル達が、しばらく隠れ住んでいた場所である。
●サヨ
「こ、ここは‥‥?」
カスミ達が箱館の町を旅立ってからしばらく経った後、ハクオロゥの小屋でサヨが目を覚ました。
しかし、意識がハッキリとしていないため、ハクオロゥを見つめてボォーッとした表情を浮かべている。
「目を覚ましたのか、サヨ! ここは箱館の町だ! おいらの事は覚えているか!?」
ホッとした表情を浮かべ、ハクオロゥがサヨに抱きついた。
次の瞬間、サヨが悲鳴を上げてハクオロゥを突き飛ばし、身体をガタガタと震わせる。
「み、みんなは‥‥、みんなはどうしたの? 一緒に避難したはずなのに‥‥、どうして私しかいないの? ねぇ、答えて! 何か知っているんでしょ!?」
怯えた様子でハクオロゥを見つめ、サヨが毛布をギュッと掴む。
‥‥意識を失う前に、彼女が目の辺りにした光景。
それはインネ達によって仲間達が次々と殺されていく様であった。
成す術もなく倒れていく仲間達。
ただ怯える事しか出来なかった自分自身。
何度もカムイに助けを求めたが、仲間達の死を防ぐ事は出来なかった。
「ご、ごめん! 他の人を助ける事は出来なかった。おいら達が来た時には手遅れだったから‥‥。本当にごめんよ。‥‥ごめん」
ションボリとした表情を浮かべ、ハクオロゥが申し訳無さそうに答えを返す。
ハクオロゥも出来る限りの事をしたつもりだが、仲間達を救えなかった事は事実である。
「やっぱり‥‥、あれは夢じゃなかったんだ。モンベツの聖域で起こった事もすべて‥‥」
ボロボロと涙を流しながら、サヨがハクオロゥにしがみつく。
よほど怖い体験をしたのか、身体を小刻みに震わせて‥‥。
「おいらに話してくれないか? モンベツで起こった事を‥‥」
覚悟を決めて大きく深呼吸をした後、ハクオロゥがサヨの身体をギュッと抱き締めた。
時間が掛かるかも知れないが、ゆっくりと‥‥。
モンベツの聖域で起こった事を聞くために‥‥。
●処刑
「おい、嘘だろ! ジィちゃんを火炙りにするなんて! 結局ジィちゃんがカムイの剣を盗んだって証拠は出てこなかったんだろ! それにジィちゃんがよそ者の手引きした証拠だって無いんだぞ! それなのに処刑なんて‥‥、酷過ぎるよ!」
信じられない様子でキラウの服を掴み取り、ルイが大声を出して文句を言う。
‥‥エカシの処刑は突然決まった。
いきなりキラウが仲間達を連れて牢屋に来たかと思えば、今度はエカシの胸倉を掴んで広場にむかい彼の処刑を宣言したのだ。
「火炙りが嫌なら、岩を抱かせて湖に沈めるか? カムイの加護があるのなら、必ず浮かんでくるはずだ。それが嫌なら雪の中に裸で放り出してもいい。処刑の方法なら色々あるぞ。お前が好きな処刑方法を選べ。そのくらいの権利はあるぞ」
クールな表情を浮かべ、キラウがジロリとルイを睨む。
キラウにとってエカシの処刑は決まっているため、後はどんな方法で刑を執行するかだけである。
「ふざけるのもいい加減にしろよ! 最近、キラウはおかしいよ! 本当は何か知っているんじゃないのか!? すべての責任をジィちゃんに押しつけるつもりだろ! 絶対においらは許さないからな!」
ボロボロと涙を流しながら、ルイがキラウの胸板をポカスカと叩く。
そんな事をしてもキラウは痛くも痒くも無いのだが、何故か胸を押さえてルイの顔を見つめている。
「これは‥‥、カムイの決めた事だ! お前ひとりが文句を言ったところで、変えられるものではない!」
考えを変えるつもりが無いため、キラウがキッパリと答えを返す。
「‥‥もうよい。これも運命じゃ。わしだって覚悟は出来ている」
ガックリと肩を落とし、エカシが深い溜息をつく。
いずれこうなる事が分かっていたため、エカシもここで命乞いをするつもりはないようだ。
「本当にこれでいいのかよ!? ジィちゃんは何もしていないんだろ! だったら、ここでハッキリしちゃえよ! カムイの剣を盗んでないって! そうしなきゃ、処刑されちゃうんだぞ!」
柱に縛り付けられたエカシを見つめ、ルイが大粒の涙を浮かべて地面を叩く。
こんな事なら早く手を打っておくべきだったと思いつつ‥‥。
「構わん! ただひとつだけ頼みがある‥‥」
真剣な表情を浮かべながら、エカシがルウォプを呼んだ。
「‥‥分かりました。あたしに出来る事があるのなら何でも言ってください」
‥‥一瞬の沈黙。
「乳を‥‥触らせてくれんかのぉ‥‥」
ルウォプのこめかみがピクンと動いた。
「キラウさぁ〜ん。やっちゃってくださぁ〜い」
‥‥トドメの一言。
辺りが一気に騒がしくなる。
「うわあああ〜! 姉ちゃん、早まっちゃ駄目だあ〜!」
そしてルイの絶叫が辺りに響くのであった。
●アッコロカムイ
「よぉ! みんな、元気にしていたか! アッコロカムイ様が直々に様子を見に来たぜ!」
邪悪な笑みを浮かべながら、陸のアッコロカムイがインネ達を引き連れ、函館に町にやって来る。
どうやら函館で商いをしている商人達の手引きで町に入ってきたらしく、堂々とした態度で松前氏の屋敷にむかって歩いていく。
「あ、あれは‥‥」
陸のアッコロカムイに気づき、フレイヤがハッとした表情を浮かべる。
次の瞬間、ゲレイがフレイヤの口を塞ぎ、逃げるようにして物陰に潜む。
「‥‥アイツは陸のアッコロカムイだ。さっき町の連中から確認を取った」
帽子を深々と被って顔を隠し、ゲレイがボソリと呟いた。
「‥‥おや? 臭うな! プンプン臭う! いつの間にかネズミが入り込んでいるようだな。‥‥たくっ! 松前のオッサンも馬鹿だよな! 冒険者に協力しなければ、箱館の町は襲わねえって言ったのに‥‥。ひょっとして、難民達が増えすぎて鬱陶しくなったのか? まぁ、ゴミ掃除だったら、いつでもしてやるけどよ。しょうがねぇヤツだな、本当に‥‥。まぁ、いいか。あのオッサンには、後で理由を聞けばいい。それよりもいまは‥‥、ネズミ達の相手をしてやらなきゃなぁ‥‥。オイ、いるんだろ! 出てきやがれ!」
不機嫌な表情を浮かべ、陸のアッコロカムイがゲレイ達のいる方向を睨む。
「‥‥気づかれたか!」
悔しそうな表情を浮かべ、ゲレイがトネリコの杖を握る。
次の瞬間、陸のアッコロカムイが雄叫びをあげて一気に間合いをつめ、ゲレイの腹めがけて必殺のボディブローを炸裂させた。
「‥‥って、早まるんじゃねぇ! 別に俺はテメェ達とやり合うつもりで来たわけじゃねぇ! 話し合いに来たんだよ! ちったぁ落ち着けや」
殺気に満ちた表情を浮かべ、陸のアッコロカムイがゲレイの胸倉を掴む。
‥‥まったく歯が立たなかった。
ゲレイが悔しそうに唇を噛む。
「こんな事をして‥‥、話し合いですか?」
陸のアッコロカムイを睨みつけ、フレイヤがロングソードに手を掛ける。
そのため、陸のアッコロカムイが両手を上げ、溜息まじりにゲレイを放す。
「‥‥最初に攻撃をしてきたのはそっちだぜ。俺だって好きで殴ったわけじゃねぇ。もうちっと大人数でいりゃあ、このまま皆殺しにしちまおうと思ったが、お前らだけじゃ準備体操にもならねぇしな。まぁ‥‥、そんな小せぇ事はどうでもいい。さっきも言ったが、俺は交渉に来たんだぜ。てめえらも知っていると思うが、トマコマナイって場所は、なかなか作物が育たなくてな。しかも、この雪だ。あっという間に食糧不足さ。だからと言って箱館の町を行き来するのも面倒だ。だから俺達を雇わねえか? いまならインネ達までついておトクだぜ!」
インネ達の肩を抱き寄せ、陸のアッコロカムイがニヤリと笑う。
「‥‥信じられませんね。何か企んでいるんじゃありませんか?」
ゲレイの事を抱き起こし、フレイヤが冷たく答えを返す。
彼の傷はそれほど深くないようだが、早く治療をした方が良さそうだ。
「この右腕に誓って断言するぜ! 俺は何も企んじゃいねぇ。でもなぁ、俺の右腕が言うんだよ。トマコマナイを支配するより、箱館の町を支配した方がオトクだってな。この町には各地から避難してきたコロポックルの女達がいる。しかも本土から送られてくる酒も飲み放題! まさにパラダイスじゃねえか! その代わりトマコマナイは、お前達にくれてやる。‥‥欲しかったんだろ? この町の連中から色々と話は聞いているぜ! 俺って心が広いからさ。トマコマナイの聖域をくれてやるよ。ゴミはそのままにしてあるから、掃除はそっちでやってくれ。俺様と戦わずに聖域が手に入ったんだから、あんまり贅沢を言わないでくれよ。‥‥分かったら、早くこの町から出て行け! 俺の右腕が妙な事を口走る前にな!」
魂のタトゥーが彫られた右腕を突き出し、陸のアッコロカムイがフレイヤを睨む。
彼女達が出て行かないのなら、此処にいる者達の命はないという意味を込め‥‥。
「‥‥汚い真似を! それが八傑衆のやり方ですか!」
怒りで拳を震わせながら、フレイヤが吐き捨てるようにして呟いた。
しかし、フレイヤ達は選択せねばならない。
素直にこの町を出て行くか、多くの犠牲を払って箱館の町を死守するかのどちらかを‥‥。
今回のクロストーク
No.1:(2007-03-05まで)
敵が交渉を持ちかけてきたら、どうしますか?