蝦夷解放

■クエストシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年02月01日
 〜2007年02月31日


エリア:蝦夷

リプレイ公開日:-

●リプレイ本文

●箱館
「‥‥随分と難民がいるようだな」
 江戸の港から交易船に乗って数日ほど掛けて、橘一刀(eb1065)が箱館の港に辿り着く。
 箱館の港は唯一本土と交流のある場所で、松前藩藩主である松前・典英(まつまえ・のりひで)が交易独占権を持っている。
 しかし、八傑衆がコロポックル達の聖域を支配していったため、箱館の町には各地から難民が押し寄せていた。
「皆さん、江戸に避難するようですね」
 何処か寂しげな表情を浮かべながら、フレイヤ・シュレージェン(ec0741)が溜息を漏らす。
 フレイヤは冒険出発当日に寝坊をしてしまったせいで、危うく船に乗り遅れそうになったので、小船を漕いで箱館の港に行こうと考えていたのだが、江戸の港からここまで来る事が不可能に近いため、一刀と同じ便で箱館
の港に降り立った。
「ハピリカ様が冒険者達を連れてきたぞぉー!」
 フレイヤ達の姿に気づき、難民達が駆け寄ってくる。
 みんなフレイヤ達を英雄扱いしているため、尊敬の眼差しを浮かべて両手を合わす。
「か、勘弁してくれ! 何もしないうちから、尊敬されても困るだけだ」
 恥ずかしそうに頬を染め、一刀が気まずい様子で後ろに下がる。
 何もしないうちから期待されてしまうと、失敗した時に難民達がひどく落ち込んでしまうため、過度な期待は持たせたくないようだ。
「そ、それじゃ、わしらを見捨てるのか!?」
 驚いた様子で目を丸くさせ、難民達がガックリと肩を落とす。
 一刀達が来る事をずっと待ち続けていたせいか、難民達の中では勝手に英雄像が出来ていた。
 そのため、自分達が想像していた英雄像と一致していない部分があると、それだけでショックに陥ってしまうようだ。
「いや、そんな事は言ってない。生まれた場所は違っても、同じパラの同胞が窮地と聞いては見過ごすわけには行かぬだろう。それに仕合で研いた腕を試す良い機会だと思ってな。蝦夷解放の為に同胞の力に成る事だ」
 慎重に言葉を選びながら、一刀が難民達に答えを返す。
 もちろん、一刀も難民達に英雄視されて嫌な気分ではないのだが、だからと言ってこのままの状態で歓迎されているわけにも行かない。
「ならばわしらにとっては英雄じゃ。まぁ、そんなに畏まる必要はない。ここに来てくれただけでも、嬉しいのだから‥‥」
 満面の笑みを浮かべながら、コロポックルの老人が胸まで伸びた顎鬚を撫でた。
 ジャパン語を理解している事から、箱館と交易があった聖域の者かも知れない。
「それなら素直に歓迎を受けましょう。ここで無下に断っても失礼ですし‥‥」
 ここで難民達に落ち込まれても困るため、フレイヤが彼らの歓迎を受ける事にした。
 確かに一部の者達はフレイヤ達に対して過度な期待を持っているようだが、彼らの協力が必要になる時も来るのでぞんざいには出来ない。
「うわあ!? く、喰われる!?」
 怯えた様子でフレイヤから離れ、コロポックルの子供達が身体をブルリと震わせる。
 子供達はあまり大きな人間を見た事がないため、フレイヤの姿を見て随分と驚いているようだ。
「喰うわけがないだろ。鬼じゃあるまいし‥‥」
 呆れた様子で溜息をつきながら、フレイヤが子供達の頭を掴む。
「‥‥えっ? 鬼って何?」
 キョトンとした表情を浮かべ、子供達が不思議そうに首を傾げる。
 コロポックルの子供達は鬼の姿をまったく見た事がなかったため、フレイヤの言った言葉に対して疑問を持っているらしい。
「ひょっとして、鬼を知らないの? それじゃ、どんな魔物なのか分からないわね。鬼って言うのは、頭に角を生やした巨人。子供達をさらって食べてしまう存在よ」
 難しく説明しても子供達には理解しづらいため、フレイヤが噛み砕いて鬼の特徴を語っていく。
 その説明を聞いて子供達が笑みを浮かべ、『それならオバちゃんも鬼だね』と答えて彼女に首根っこを掴まれる。
「‥‥何か言ったかしら?」
 爽やかな笑みを浮かべ、フレイヤがこめかみをピクつかせた。
 そのため、子供達も小動物のような表情を浮かべ、自分達の言った言葉がいかに危険な凶器であったのかを実感する。
「お、落ち着け! 拙者の前で面倒事は勘弁してくれ」
 このままでは子供達に危険が及ぶため、一刀が慌てた様子でフレイヤの腕を掴む。
 フレイヤも本気で子供達を仕留めるつもりはないようだが、言葉の刃物が胸に刺さり感情を抑える事が出来ないようだ。
「そ、そうですね。ここで問題を起こせば、冒険者に対する信頼もガタ落ちですし‥‥」
 ハッとした表情を浮かべ、フイレヤが子供達から手を離す。
 子供達は『オバちゃんを怒らせたら、鬼になる』と言う事を学習し、わざとらしい笑みを浮かべて『ごめんね、お姉ちゃん』と呟いた。
「それにしても、まだ10代なのにオバちゃんって‥‥。一体、ここの子供達はどんな教育を受けているんだか」
 オバちゃんと言われた事にショックを受け、フレイヤがションボリとした様子で肩を落とす。
 一刀のおかげで最後の一線を越える事はなかったが、それでもオバちゃんと言われた事がショックである。
「‥‥すまないのぉ。お詫びにわしに家で一杯どうかな? 大した持て成しは出来んが、わしらも金がないのでな」
 申し訳なさそうな表情を浮かべ、コロポックルの老人が口を開く。
 子供達も心配した様子で、フレイヤ達の顔色を窺っている。
「せっかくだから、御馳走になるか。貴殿らの住んでいた聖域について、詳しい話も聞きたいしな」
 そう言って一刀が老人の肩をぽふりと叩く。
 上手く行けば貴重な情報が得られるかも知れないと思いつつ‥‥。

●ハピリカ
「まずは、情報集めだな。そして集めた情報を整理して戦略を立てねえと‥‥。だが、腹が減っているままじゃ、仕事にならねぇな。とりあえずここで飯にするか」
 腹ごしらえをするため、伊達正和(ea0489)がハピリカ達を連れて酒場に入っていく。
 以前と比べて酒場には活気がないらしく、正和達が入ってきても決して視線を合わさない。
「‥‥何だか様子がおかしいですね」
 険しい表情を浮かべながら、アヴリル・ロシュタイン(eb9475)が辺りを見回した。
 八傑衆が現れた事で蝦夷各地から物資が届けられなくなったため、一部の値段が釣り上げられているようだが、酒場を出入りしている商人の中には、ホクホク顔で取り引きをしている者もいる。
「噂ではトマコマナイを支配しているニッネカムイ(悪神)が、私達の同胞から奪った物を商人達に売り渡し、私服を肥やしているようです。そのせいで真面目に商売をしている人達に物資が届きにくくなり、急激に物価が
上がっています」
 何処か悲しげな表情を浮かべながら、ハピリカが心底疲れた様子で溜息を漏らす。
 しかも八傑衆のやり方は巧妙で途中に事情を知らない者達を挟んで物資を運ばせていたり、商人達の家族を人質にとって強制的に物資を運ばせているため、迂闊に商人達を捕まえて八傑衆との関係を聞くわけにも行かない。
「‥‥なるほど。一部の商人達がニッネカムイと手を組み、物資を横流ししているというわけか。確かに他にルートがないのだから、ニッネカムイも商人達を抱き込む必要があるだろうしな」
 納得した様子でハピリカの話に耳を傾けながら、正和が給仕の持ってきた団子を食う。
 どちらにしてもトマコマナイを支配しているニッネカムイを倒さねば、この悪循環が改善される事はない。
 それどころか、さらに協力者が増えていき、蝦夷を取り戻す事が難しくなっていく事だろう。
「そのためにも証拠が必要というわけですね。一体、誰がニッネカムイと手を組んでいるのか調べるために‥‥」
 この数日で物価が急激に上がっている事に危機感を感じ、アヴリルがハピリカを見つめて口を開く。
 依頼を引き受けている間に飲み食いしたものは、すべてハピリカ達が負担する事になっているため、時間が掛かればかかるほど彼女達に迷惑を掛けてしまう事になる。
 かと言ってアヴリル達が報酬を一部でも拒否すれば、今度は彼女達がいらぬ気を使ってしまう事になるだろう。
「‥‥知っている事だけでいい。ニッネカムイについて教えてくれ。まだ俺達に話していない事があるだろう? ここれじゃ、話しづらいかも知れないから、当たり障りのないものだけでいい」
 まわりの視線を気にしながら、正和がボソリと呟いた。
 誰かが正和達の会話を盗み聞きしている事は無いようだが、ニッネカムイの事を口にしているまで念のため警戒だけはしているようだ。
「‥‥我々コロポックルは大自然のカムイ達に守られ、この地で生活をしています。ニッネカムイは我々に災いをもたらす悪い神。彼らは神代の時代から、この地に存在していたと言われています」
 真剣な表情を浮かべながら、ハピリカがニッネカムイについて語っていく。
 ニッネカムイについては多くの伝承があるのだが、書物として残っているものがほとんど存在しておらず、大半の場合が口伝として後世に伝わっているらしい。
 しかし、貴重な伝承を知るコロポックル達は、ニッネカムイによって命を奪われているか、どこかに身を隠しているので情報を得るのも一苦労なようだ。
 もちろん、ハピリカはチュプ・カムイ(太陽の神)の巫女であるため、他の巫女と比べたら知っている事も多いのだが‥‥。
「それじゃ、八傑衆についても分からない事だらけなのか? これから戦っていく上で、少しでも情報が欲しいのだが‥‥」
 ハピリカの口ぶりから大した情報が得られないと思ったため、正和が心配した様子で彼女に対して質問した。
「八傑衆はニッネカムイの力を使って、私達の聖域を制圧していきました。彼らがどうやって力を手に入れたのか分かりませんが、私達だけで太刀打ちする事が出来なかったのは事実です」
 悔しそうな表情を浮かべ、ハピリカが拳をギュッと握り締める。
 コロポックル達にとって聖域は、カムイの神託を得るために必要な場所なので、少しでも早く取り戻し仲間達を安心させたいようだ。
「ところで二風谷はどのような場所なのでしょうか? まだ八傑衆の侵攻を受けていないんですよね?」
 気になる事があったため、アヴリルが二風谷について聞く。
「二風谷は私達にとって最後の砦です。そのため、その場所を知っているのは、私達や酋長のみ。八傑衆が現れた事で他の聖域から仲間達が避難しているようですが、本来は外の世界との交流を断っており、ジャパン語を使
える者はほとんどいません。例外として二風谷に迷い込んだ旅人から、ジャパン語を教えてもらっている場合があるようですが、二風谷を治めている酋長が人間達を嫌っているため、私達が行ったとしても決して歓迎される
事はないでしょう」
 気まずい様子で視線を逸らし、ハピリカがボソリと呟いた。
 この様子ではハピリカの口から、二風谷の場所を知る事は難しそうだ。

●二風谷
「ちょっと、待てよ! なんでジィちゃんが罰を受けなきゃならねえんだよ!? ジィちゃんは何も悪い事をしていないだろ?」
 信じられない様子でキラウを睨み、ルイがエカシを助けようとする。
 キラウは二風谷の酋長で、エカシの息子。
 この谷で最も権力を持っており、頭のカタイ人物である。
 そのため、まわりにいるコロポックル達も、黙ってふたりのやり取りを見ているだけだった。
「エカシは外の世界と交流を持った。そして、その証拠が‥‥、これだ」
 エカシの隠し持っていた茶筒を放り投げ、キラウがルイを睨み返してフンと鼻を鳴らす。
 茶筒の中にはエカシが騙されて購入したピリカが入っており、地面に落ちたショックで辺りにバラバラと飛び散った。
「こ、これはピリカ!? だからってジィちゃんが犯人なわけないだろ!」
 納得のいかない様子でピリカを掴み、ルイがキラウに対して抗議する。
 ルイにとってエカシは外の世界を教えてくれた先生であり、ジャパンの言葉を教えてくれた事もあるので色々と恩があるようだ。
「お前は黙っていろ! これは俺とエカシの問題だ! どうせ、あの時だって、お前が手引きしたんだろう! お前のせいでエミカは‥‥ううっ!」
 恨めしそうな表情を浮かべ、キラウがエカシの胸倉を掴む。
 しかし、エカシはまったく動揺しておらず、薄笑いを浮かべている。
「もう少し年寄りは労わるものじゃぞ。それにわしが手引きしなくとも、ふたりは二風谷から‥‥」
「黙れ! お前の意見などは聞きたくない! それよりもカムイの剣を何処にやった! お前が隠している事は分かっているんだぞ!」
 エカシの言葉を遮るようにして、キラウが一方的に怒鳴りつけた。
 それでもエカシは言い返す事なく、キラウの話を聞いている。
「一体、何の騒ぎかと思ったら、また喧嘩をしているんですか? 長老さんがカムイの剣を盗むわけがないのに‥‥。酋長さんのお気持ちもわかりますが、何かある度に長老さんを苛めるのはよくありませんよ」
 呆れた様子で溜息をつきながら、ルウォプ(ec0188)がキラウを睨む。
 ルウォプはエカシからジャパンの言葉を教えてもらった事があるため、彼が悪い人ではない事も分かっている。
「お前には関係のない事だろ! それとも酋長である俺に口答えするつもりなのか!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、キラウがルウォプに迫っていく。
「だから落ち着いてくださいって、言っているじゃありませんか。確かに酋長さんの気持ちも分かりますが、これだけの証拠で長老さんを犯人と決め付けるのは、間違っていませんか?」
 何とかしてキラウを落ち着かせようと思ったため、ルウォプが真剣な表情を浮かべて説得をし始める。
 いつもは大きな胸を武器にして男達をからかっているため、まわりにいるコロポックル達も彼女の行動に驚いているようだ。
「ルウォプお姉ちゃんの言う通りだ! お姉ちゃんはなぁ! 伊達に胸が大きいわけじゃないんだぞ!」
 ルウォプの胸をビシィッと指差し、ルイがキッパリと言い放つ。
「あ、あのぉ〜‥‥、それって褒めているのかな? 何だか素直に喜べないんだけど‥‥」
 ルイの言葉を聞いて派手にズッコケ、ルウォプが気まずい様子でツッコミを入れる。
 一応、ルイも間違った事は言っていないのだが、そこを強調されてしまうと対応に困ってしまう。
「ん、じゃあ、お尻だってぷりんぷりんなんだぞぉ!」
 今度はルウォプのお尻を指差し、ルイが自信満々にニカッと笑う。
 ルイも悪気があるわけではないのだが、本音を言えば他に褒めるところが浮かばなかったらしい。
「だから、そういう意味じゃないでしょ〜!」
 恥ずかしそうに頬を染め、ルウェプがルイを叱りつける。
 そのせいでキラウが心底呆れてしまい、自分の住んでいる小屋に戻っていった。

●難民
「‥‥こっちだ、みんな!」
 仲間達がついて来ている事を確認しながら、ハクオロゥ(eb5198)が獣道を進んでいく。
 ハクオロゥは太陽の神であるチュプ・カムイの神託を受け、すぐさま京都に旅立ったのだが、今回の騒ぎを聞きつけ慌てて箱館の港に帰ってきた。
 そこでモンベツ(紋別)の聖域から避難して来たコロポックルの仲間達から、ここに来る途中でインネ(悪人)達に追われて仲間達とはぐれてしまった事を知り、危険を承知で江戸からやって来た仲間達を連れて助けにむ
かう。
 コロポックルの仲間達が避難している場所は、箱館と苫小牧の国境(くにざかい)。
 早く仲間達を救出せねば、インネ達に見つかって命を奪われてしまう。
「間に合ってくれるといいんですが‥‥」
 祈るような表情を浮かべ、カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)が茂みを掻き分けていく。
 カスミは蝦夷の伝承に興味を持っていたため、箱館を拠点にして各地を回ろうと思っていたのだが、ハクオロゥから助けを求められたので迷わず協力する事にしたらしい。
 もちろん、本来ならハピリカに協力する方が先なのだが、このままコロポックル達を見捨てるわけにはいかないため、彼らの救出を優先する事にした。
「‥‥平和な蝦夷を混乱に陥れた八傑衆は、決して許すわけにはいきません。必ずしでかした事の報いを受けていただかないと‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、マミ・キスリング(ea7468)がコロポックル達を捜す。
 しかし、何処を捜してもコロポックル達の姿はなく、不安な気持ちばかりが膨らんでいく。
 とは言え、ここでおおっぴらに動く事も出来ないため、大声を上げてコロポックル達を捜すわけにもいかないようだ。
「‥‥おかしいなぁ。仲間達の話じゃ、この辺りに隠れているはずなんだけど‥‥」
 困った様子で溜息をつきながら、ハクオロゥが辺りを見回した。
 一応、目印になりそうな場所は聞いていたのだが、そこにコロポックル達の姿はない。
「まさか‥‥、その人達に騙されたんじゃありませんよね?」
 嫌な予感が脳裏を過ぎり、カスミがボソリと呟いた。
 もちろん、カスミもコロポックル達を信じているのだが、何らかの理由で八傑衆に協力している者もいるらしいので、その可能性も捨て切れない。
「そんなわけないだろ! あいつらはおいらの仲間だぞ! 裏切るわけないだろ!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、ハクオロゥがカスミを睨む。
 次の瞬間、遠くの何処かから悲鳴が聞こえ、続いていやらしい笑い声が聞こえてくる。
「‥‥今の悲鳴、まさか!?」
 ハッとした表情を浮かべながら、マミが悲鳴の聞こえた現場にむかう。
 悲鳴が聞こえたのは、遠くの茂み。
 箱館の港にいたコロポックル達の話が事実なら、先ほどの悲鳴はモンベツから避難してくる途中ではぐれた仲間達のものだろう。
「行きましょう、手遅れになる前に‥‥」
 コロポックル達の悲鳴が聞こえなくなってきたため、カスミが慌てた様子でインネ達の姿を捜す。
 インネ達は集団でコロポックル達の逃げ道を塞ぎ、ジワリジワリといたぶっている。
「あ、あれは‥‥!? 畜生っ!」
 仲間達が傷ついている姿を目の当たりにしたため、ハクオロゥが怒りに身を任せて短弓を構えてポイントアタックを放つ。
 ハクオロゥの放った弓矢はインネの喉元を貫き、そのせいで他のインネがハクオロゥ達に気づいてニヤリと笑う。
「まだ兎が隠れていやがったか。へへっ、こりゃあイイ」
 いやらしい笑みを浮かべながら、インネがカスミ達に襲い掛かる。
 しかし、カスミはインネに反撃せず、傷ついたコロポックル達の救出にむかう。
「ここは私に任せて早く!」
 すぐさまマミが援護に入り、日本刀を振り下ろす。
 そのため、インネ達がたじろぎ、悔しそうに舌打ちする。
「こ、こいつ‥‥、強ぇ!」
 青ざめた表情を浮かべながら、インネ達がジリジリと後ろに下がっていく。
 インネ達は弱いものいじめが好きなため、マミの強さに驚いているようだ。
「‥‥もう終りですか?」
 クールな表情を浮かべながら、マミがスマッシュを叩き込む。
 その一撃でインネ達はすっかり戦意を無くしてしまい、誰もマミに攻撃を仕掛けて来ない。
「畜生、覚えてやがれ! 今度、あった時はタダじゃおかないからな! 俺達を襲った事を、絶対に後悔させてやる!」
 持っていた武器を放り投げ、インネ達が武器を悲鳴を上げて逃げ出した。
「残念ですが、ここから帰す訳には行きません」
 しかし、ユミはインネ達を容赦せず、次々と斬り捨てていく。
 ここで彼らを逃がしてしまえば、必ず復讐にやって来るからである。
「みんな、無事か!? 生きているんだったら、返事だけでもしてくれよ!」
 心配した表情を浮かべながら、ハクオロゥがコロポックルに駆け寄った。
 コロポックル達はインネ達に攻撃され、血溜まりの中に沈んでいる。
「まだ、息があります! 早く箱館の港まで運びましょう。彼女の息があるうちに‥‥」
 そう言ってカスミがコロポックルの少女を連れ、箱館の港に帰還するのであった。

●松前氏
「四代目闇目・幻十郎、推参いたしました」
 松前藩藩主、松前・典英(まつまえ・のりひで)の屋敷に案内され、闇目幻十郎(ea0548)が深々と頭を下げる。
 幻十郎達は二風谷に行くため、松前に船を借りる許可を貰いに来た。
「‥‥うむ。お前達の噂は聞いている。何でも二風谷に行きたいとか?」
 険しい表情を浮かべながら、松前が幻十郎をジロリと睨む。
 箱館の港にある船は松前の許可が無ければ、どんな理由であれ借りる事が出来なくなっている。
「はい。陸路での移動が不可能だと聞いたので‥‥」
 松前の顔色を窺いながら、幻十郎が答えを返す。
 八傑衆によって陸路は封鎖されているため、残された移動手段は海路しかない。
 そのため、松前から船を借りる許可が必要になっている。
「‥‥やめておけ。そんな事をしても死ぬだけだ」
 何処か悲しげな表情を浮かべ、松前がキッパリと答えた。
 海路にも何か障害があるのか、松前の表情は暗い。
「なぜですか? 何か理由があるのなら教えてください」
 納得のいかない様子で松前を見つめ、和泉みなも(eb3834)が許可の出ない理由を聞く。
 一応、間者が隠れている可能性を考え、松前に筆談を申し出たが、許可の出ない理由は他にあるようだ。
「‥‥ハピリカが旅立ってすぐの事だ。あの辺りの海域に、アッコロカムイが現れた。もちろん、以前からアッコロカムイの存在は確認されていたのだが、あそこまで酷かった事は無い。あの辺りの海域を通る船を、すべて沈めてしまうのだから‥‥」
 疲れた様子で溜息をつきながら、松前がアッコロカムイの被害を語る。
 アッコロカムイは巨大なタコの化け物で、苫小牧を支配している男と同じ名前。
 苫小牧を支配している陸のアッコロカムイがニッネカムイの力を使い、海のアッコロカムイを操っているらしい。
 それが本当なのか分からないのだが、最近になって海のアッコロカムイが暴れ始めているのは事実である。
 そのため、松前は箱館の港から苫小牧にむけて、船を出す事を禁じる事にしたようだ。
「だからと言って、アッコロカムイを倒そうなんて考えない方がいい。アッコロカムイは神の化身。神の化身を殺せば必ず報いを受けるのだから‥‥」
 それは助言というよりも、警告であった。
 いくら幻十郎達が強くても、神を相手にして勝ち目は無い。
 ‥‥少なくとも松前は、そう思っていた。
「この数日間で状況が変わっていたというわけですね」
 持参した写本『海の魔物』を読みながら、みなもがアッコロカムイに関する情報を捜す。
 しかし、写本にはヨーロッパ近郊の海で見かけるモンスターの事しか書かれていないので、いくら捜してもアッコロカムイの記述は見つからない。
「面白い本を持っているな。しかもアッコロカムイに似た奴まで載っている」
 みなもの持っている本に興味も持ち、松前が感心した様子で覗き込む。
 松前が見たのは、クラーケン。
 全く同じというわけではないようだが、他と比べて類似点が多いようだ。
「よりにもよってクラーケンとは‥‥。神と呼べるほどの力はないにしろ、八岐大蛇を相手にするくらい面倒な事になりそうですね」
 困った様子で溜息をつきながら、幻十郎がボソリと呟いた。
 この数日間だけでほとんどの漁船が沈められてしまったため、アッコロカムイと戦う場合には不利である。
 だからと言って交易船を借りるわけにもいかないため、何らかの方法を考えなければならない。
「それじゃ、海路から二風谷に行くのも不可能という事でしょうか?」
 松前の考えを聞きたかったため、みなもが改めて確認する事にした。
 もちろん、良い返事が聞けない事は分かっているが、蝦夷に来る前から八傑衆が悪神の力を手に入れた事を聞いていたため、いまさら逃げ帰るわけにも行かない。
「いや、海のアッコロカムイを倒す事が出来れば、二風谷に行く事も可能だろう。しかし、海のアッコロカムイを倒せば、陸のアッコロカムイに気づかれる。しかも二風谷は隠れ里になっているため、辿り着く事が出来るか
どうかも分からない。その上、二風谷の住民達はお前達を歓迎してはくれないだろう。それでも行くというのなら‥‥、止めはしない」
 クールな表情を浮かべながら、松前がみなも達の覚悟を確認する。
 一応、船を借りる許可は出たようだが、この様子では漁船程度しか借りる事が出来そうにない。
「‥‥なるほど。許可を出す事が出来たとしても、問題が山積みというわけですね」
 納得した様子で松前を見つめ、幻十郎が溜息を漏らす。
 幻十郎達が力を合わせて戦えばアッコロカムイに勝つ事が出来るかも知れないが、最悪の場合は誰かが命を落としてしまうかも知れない。
「‥‥かと言って陸路から行けば、沢山のインネ達と、陸のアッコロカムイを相手にしなければならなくなる。それでも、お前達は二風谷に行くのか?」
 幻十郎達の顔を見つめ、松前が深い溜息をつく。
 ‥‥どちらにしても、やるべき事が多そうだ。

今回のクロストーク

No.1:(2007-02-09まで)
 あなたにとって守るべきものとは何ですか?