蝦夷解放

■クエストシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年10月01日
 〜2007年10月31日


エリア:蝦夷

リプレイ公開日:10月22日19:52

●リプレイ本文

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●一章 サッポロペッ(札幌)の聖域
「一体、どうなっているんだ!? 確かパウチカムイ(淫らな女神)って、八傑衆のひとりのはずだろ? だったら鬼面衆に襲われる理由なんて、何ひとつないと思うんだけど‥‥。それとも何かマズイ事でもしたって事か? だからと言って、ここまでする必要はないよっ!」
 信じられない様子で辺りを見つめながら、ハクオロゥ(eb5198)がダラリと汗を流す。
 鬼面衆によってサッポロペッの都は炎に包まれており、パニックに陥った遊女達が辺りを逃げ惑っている。
 まさか自分達が鬼面衆の標的になるとは思っていなかったため、『どうして自分達が、こんな目に?』と自問自答を繰り返しているようだ。
 そんな事をしているうちにあちこちから火の手が上がり、火の粉がパチパチと音を立てて遊女達の身体に降り注ぐ。
 ‥‥地獄絵図。
 まさにそんな表現が相応しい状態であった。
 そのため、遊郭で遊んでいた男達は服を着る余裕もなく、裸のまま転がるようにして逃げている。
 その間に荒れ狂う炎が男達の身体を包み、断末魔の悲鳴が辺りに響く。
 そんな状況であっても一部の遊女は怯む事無く、井戸水の入った桶を抱えて屋敷の消火にむかう。
 もちろん、そんな事をしたところで屋敷の火が消えるわけはなく、ケモノのような唸り声を上げて紅蓮の炎が猛威を振るう。
 そして、真っ黒な煙が漆黒の闇となって空を覆い、人々の心を余計に不安な気持ちにさせていく。
「思ったよりも火のまわりが早いな。この様子じゃ、街中に油を撒いてから、火をつけたってわけか。随分と姑息な真似をしやがるな。‥‥間に合うか分からんが、幻十郎はパウチカムイの救出に向ってくれ」
 険しい表情を浮かべながら、伊達正和(ea0489)が電撃号(水馬)に飛び乗った。
 鬼面衆は混乱に乗じて街に散らばり、逃げ惑う人々を斬りつけている。
 しかも、ほとんどの人々が武器を持っていないため、抵抗する事さえ出来ずに倒れていった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
 電撃号に跨ったまま雄叫びを上げ、正和が霊刀ヨミを振り下ろす。
 それと同時に鬼面衆が漆黒の刀を抜き、正和の刀をガッチリと受け止める。
「ほぉ‥‥、冒険者か。まさか、こんな場所で会う事になろうとは‥‥。てっきり死んだと思っていたが‥‥。パトゥムカムイ(病魔の神)がしくじったようだな。それとも奴らとは、別の冒険者達か‥‥? どちらにしても、八傑衆の誰かがしくじった事は間違いないな。だが、もう何もかもが手遅れだ。我々の計画は最終段階まで進んでいてるからな!」
 含みのある笑みを浮かべながら、鬼面衆のひとりが正和の刀を弾く。
 実力だけなら陸のアッコロカムイと同等の力を持っているのではないかと錯覚するほどの破壊力。
 ズッシリとした重い一撃が正和の両腕にグッと圧し掛かっている。
「‥‥我が名は虚(キョ)。キムンカムイ(山の神)に仕える者‥‥。すべてを無に返し、新たな世界を創造するのが、我等の役目‥‥。そのためにはコロポックル達の存在が邪魔だ。そして、役目を終えた八傑衆も‥‥」
 少しずつ間合いを取りながら、虚が怪しくニヤリと笑う。
 しかし、その笑みはカラクリ人形のようにぎこちなく、まるで死人が笑っているようだ。
 そのせいで激しい怒りと共に嫌悪感が正和の全身を包み、徐々に刀を握る両手に力が入っていく。
「‥‥凄まじい殺気だな。ここからでもジンジンと伝わってくる。‥‥実にいい兆候だ。我等が理想郷の住民には、お前のような存在が相応しい。‥‥どうだ? 我等と手を組まないか? 決して悪いようにはしない。貴様が望むのなら、蝦夷の半分をやろう。そこで好きな事をやるがいい」
 いやらしい笑みを浮かべながら、虚が両目をギロギロとさせる。
 その事によって次第に力が増していき、刀を受け止めている正和の頬に一筋の汗が伝う。
 ‥‥禍々しい力に魅入られた者達、鬼面衆。
 当初はキムンカムイの単なる手下でインネ達と同等の存在であると思われていたが、調査が進むに連れて八傑衆と同等‥‥。いや、それ以上に力を持っている事が分かった。
 だが、鬼面衆の目的が未だにハッキリとしていない。
 何か目的を持って動いている事は間違いないが、あまりにも情報が不足しているので、彼らの最終目的までは分からなかった。
「ひょっとして寝言を言っているのか? 蝦夷の半分をやると言っても、辺境かをもらえるだけだろ? どうせ、お前達の操り人形になるのがオチだからな。そんな事になったら、お前達にとって都合のいい手駒として使われるだけだ。まずは悪趣味な鬼の面と黒装束を着せて、仲間達を殺してこいって言うんだろ? 自分達の手を汚す事無く、冒険者達を抹殺する事が出来るんだから一石二鳥‥‥。いや、それ以上に得をするはずだ。俺だって、そのくらいの事は分かるぜ。お前達と同じで鼻が利くからな。残念だが俺は、俺の信じた道を突き進むだけさ!」
 含みのある笑みを浮かべながら、正和が霊刀ヨミを握り締めて虚と対峙する。
 次の瞬間、虚が正和の懐に潜り込み、必殺の一撃を叩き込む。
 その一撃を喰らって正和の体から鮮血が飛び散り、地面に真っ赤な花を咲かせていく。
「‥‥愚かな。管理されている事が、どれだけの安心感を生むのか理解する事さえ出来ないのか。例え飼い犬と罵られたとしても、野良犬よりはマシなのに‥‥。素直に手駒として動く事を約束すれば、苦しまずに済んだものを‥‥」
 返り血を浴びて瞳を血走らせ、虚が漆黒の刀を振り上げる。
 だが‥‥、そこまでだった。
 すぐさま闇目幻十郎(ea0548)が手裏剣を放ち、漆黒の刀が握られていた右腕を傷つける。
 その隙にハクオロゥが漆黒の刀を奪い取り、そのまま虚の喉元に突きつけた。
「遅れて申し訳ありません。少しパウチカムイを助け出すのに、苦労をしていたものですから‥‥。とりあえず‥‥、無事ですね?」
 正和を守るようにして陣取りながら、幻十郎が手裏剣で虚を牽制した。
 幸い正和の傷は浅く、運良く急所を外れていた。
「ああ‥‥、俺だっていくつもの戦場を潜り抜けてきているからな。この程度の事でやられる事はない。とりあえず、そっちもうまく行ったようだな。あまりにも遅かったから、何かあったと思ったが‥‥。とにかく無事で良か‥‥ぐっ! げはっ!?」
 ホッとした様子で笑みを浮かべ、正和がげふっと血反吐を吐く。
 どうやら虚の刀に遅効性の毒が塗られていたらしく、正和の体力を徐々に奪っている。
「刀に塗られた毒の解毒剤を渡してもらいましょうか。いますぐにっ!」
 胸倉を掴み上げる勢いで、幻十郎が虚に迫っていく。
 しかし、虚は高笑いを上げながら、歯の奥に仕込んだ毒を飲んで自害した。
「お、愚かな真似を‥‥。でも、このままでは正和さんが‥‥」
 ガックリと倒れた虚を抱き上げ、幻十郎が唇をグッと噛み締める。
 その間に正和の身体に毒がまわり、みるみるうちにどす黒く染まっていく。
「これなら、この薬がよく効くはずよ。使った事がないから、自信はないけど‥‥。きっと毒ではないはずよ」
 正和の症状を見てハッとした表情を浮かべ、ルウォプ(ec0188)が懐から薬を取り出した。
 その薬はパウチカムイの館で手に入れたもの。
 実際に効果があるのか分からないが、他に選択肢がないのでわずかな可能性に懸けてみるしかない。
「‥‥こんな物を一体何処から!?」
 警戒した様子で薬を睨み、幻十郎がボソリと呟いた。
 彼女の事を疑っているわけではないが、八傑衆の館から手に入れた物を信用する事が出来ない。
「多分‥‥、と言ったら自信がないように思えるわね。あたしだって遊んでいたわけじゃないのよ。パウチカムイさんを助けるため、色々と薬を持ってきたから‥‥」
 少し悲しげな表情を浮かべ、ルウォプがパウチカムイに視線を移す。
 何とか彼女を助け出す事は出来たが、これで本当に良かったのか分からない。
 だが、彼女を見捨てる事など出来なかった。
 例えどんな思惑があるとは言え、いままで一緒に過ごしていたのだから‥‥。

●三章 二風谷
「お、俺はどうしたらいいんだ! 取り返しのつかない事をしちまった! まさかこんな事になるとは‥‥。き、鬼面衆の野郎!」
 鬼面衆の手によって二風谷が炎に包まれたため、牢屋番が悔しそうな表情を浮かべて拳を握る。
 まったく予想のしていない事が起こったので、後悔と自責の念に駆られているようだ。
「この危機から脱したいのなら、わたくし達を解放してください。後々で『勝手に抜け出した』と言われたくありませんから、キッチリと手続きを踏んで‥‥。もちろん、この状況で許可を貰えるとは思いませんから、後で説明していただくだけで構いません。所詮は道具として使い捨てる鬼面衆と袂を分かつためにも、わたくし達の協力が必要なんじゃないですか?」
 格子越しに牢屋番の説得をしながら、井伊文霞(ec1565)がクスリと笑う。
 その間も炎が唸り声を上げており、チセ(家)が音を立てて崩れていく。
 コロポックル達は自分の身に何が起こったのか分からず、納得する事が出来ないまま悲鳴を上げて逃げ惑っている。
「わ、分かった。その代わり‥‥。俺が裏切った事は内緒にしてくれ。そんな事が分かれば、鬼面衆と仲間達から命を狙われる事になる。お前達の立場も理解しているつもりだが、出来るだけ協力するから助けてくれ」
 大粒の涙を浮かべながら、牢屋番が両手を合わせて頼み込む。
 あまりの恐怖で冷静な判断をする事が出来なくなったのか、自分の身の安全ばかりを考えている。
「‥‥仕方ありませんね。ただし、途中で裏切ったりしたら、容赦はしませんから覚悟してください。とりあえず自分達の武装が何処にあるのか教えてください。さすがに丸腰で鬼面衆と戦うわけには行きませんからね」
 警戒した様子で辺りを見回しながら、和泉みなも(eb3834)が口を開く。
 最悪の場合は鬼面衆が牢屋番を消しに来るため、その前に手を打たねばならない。
「ぶ、武装ならすぐに持ってくる。きちんと保管してあるからな。お、お前達こそ裏切るなよっ! そ、そんな事をしたら‥‥、泣くぞ!」
 見事なまでのヘッポコぶりを披露し、牢屋番がみなも達の武装を取りに行く。
 牢屋番は鍵を開けずに出て行ってしまったが、すぐに戻って文霞達に武装を手渡した。
「これで鬼面衆と戦う事が出来ますわね。それじゃ、戦いが終わるまでどこかに隠れていてくださいね。戦いが終わって帰ってきたら、変わり果てた姿になっていたとかいうオチは見たくありませんので‥‥」
 苦笑いを浮かべながら、文霞が旅装束を身に纏う。
 鬼面衆は手当たり次第にコロポックル達を襲っており、逃げ道を塞いで二風谷の住民達を皆殺しにしようとしているようだ。
「え、縁起の悪い事を言わないでくれ! ただでさえ殺されるかも知れないのに‥‥。鬼面衆に襲われたら、お前達の所為だからな! ここに隠れているから、誰も近づけるんじゃねえぞ! た、頼むから! 助けてくれ!」
 怯えた様子で瞳をウルウルさせながら、牢屋番が酒樽の中に身を隠す。
 本当は一緒についていきたかったようだが、鬼面衆が怖くて外に出る事が出来なかったようだ。
 だが、ここで牢屋番を連れていく事になれば、間違いなく足手纏いになるので、彼が待っていてくれた方が何かと都合がいい。
「最後に敵の数だけ教えていただけますか? 相手の戦力さえ分かれば、それだけ有利に戦えますので‥‥」
 鬼面衆の恐ろしさを理解した上で、文霞が牢屋番から情報を聞き出そうとする。
 牢屋番は鬼面衆に裏切られた事で躊躇する事がなくなったため、敵に関する情報をベラベラと話していく。
「‥‥敵は5人ですか。自分達だけで勝ち目があるか分かりませんが、ひとりでも多くの住民を逃がすためにも頑張りましょう」
 仲間達が帰ってくる事を信じながら、みなもが強弓『十人張』を構えて牢屋を飛び出した。
 例え、その先に待っているのが地獄だとしても、戦う事以外に選択肢が残されていない。

●四章 フラヌィ(富良野)の聖域
「さて、嫌な気分でしたが、とにかくパトゥムカムイ(病魔の神)を倒せましたわね。それでも、まだ半分も片付いていませんし、気を抜く訳には参りませんわ」
 ホッとした様子で辺りを見回しながら、マミ・キスリング(ea7468)が汗を拭う。
 フラヌィの聖域はパトゥムカムイによって穢され、掃き溜めにも似た異様なニオイが漂っている。
 そのため、フラヌィの聖域を元通りにするまで、しばらく時間が掛かりそうだ。
 だが、そうしている間にも八傑衆が力を蓄えていくため、マミ達に休んでいる暇は無かった。
 今までに解放する事が出来た聖域は、トマコマナイ(苫小牧)とフラヌィの二ヶ所のみ。
 場合によっては仲間達がサッポロペッの聖域も解放しているはずだが、いまのところ確認するための手段がない。
 その上、聖域を浄化する事が出来ない限り、八傑衆の力を弱める事は不可能であった。
 現在、トマコマナイの巫女が聖域の浄化に当たっているが、それだけでは八傑衆の力をほんの少ししか弱める事が出来ない。
 しかし、パトゥムカムイを倒した事で二風谷に住むコロポックルの協力を得られるかも知れないので、八傑衆を全滅させる事が出来なくとも対抗するだけの力を得る事が出来るはずだ。
「何とかパトゥムカムイを退治する事が出来ましたが、いくつか腑に落ちない点が残りましたね。その事が何か悪い事の起こる前触れでなければいいのですが‥‥。とにかく、これで他のところも状況が大きく動いたはず‥‥。それによって色々見えてきた事もありますから、この流れに乗って大きくしていきましょう」
 パトゥムカムイとの戦いで汚れてしまった身体を清めるため、カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)が水浴びする事の出来る場所を探す。
 だが、どこの湖もパトゥムカムイによって穢され、表面が肥溜めのように固まっている。
 そんな状況で水浴びする気持ちにもなれないのだが、身につけている衣服から異様なニオイが漂っているので早く綺麗になりたかった。
 もちろん、水浴びをする季節を過ぎてしまっているので、寒い思いをして水に浸からなければならないのだが、それでも汚れたままでいるよりはマシだった。
「た、確かに‥‥。このままだと痒くて仕方がない。まさかと思うが、パトゥムカムイの所為じゃないだろうな? パッとみた感じ何日も風呂に入っていないようだし、妙なニオイがしていたから嫌な予感がしていたのだが‥‥」
 身体をポリポリと掻きながら、橘一刀(eb1065)が気まずい様子で汗を流す。
 パトゥムカムイの身体はとても不潔な状態で、全身に妙なデキモノが出来ていた。
 そのため、戦っている間も黄色い膿が飛び散っており、返り血を浴びたところが妙に痒かった事が脳裏を過ぎる。
 あれから軽く体を拭いた程度なので、妙な病気をうつされていてもおかしくない。
 ある意味、パトゥムカムイは倒した後の方が恐ろしかった。
 念のため、皐月(優れた戦闘馬)に載せてあった解毒剤を飲んでみたが、やはり‥‥痒い。
 それどころか皐月まで痒そうにしているため、さらに気持ちが憂鬱になった。
「と、とにかく、まずは綺麗な湖を探しませんか? フラヌィの地から離れれば、必ず見つかるはずですから‥‥」
 同情した様子で一刀を見つめ、アヴリル・ロシュタイン(eb9475)が距離をおく。
 いまのところ痒みはないが、うつる可能性があるので近づく事が出来なかった。
 多分、ノミやダニの類が原因だとは思うのだが、ハッキリとした事が分からない。
 もちろん、何か別の原因があるかも知れないので、一刀が解毒剤を飲んでしばらく様子を見ていたのだが、結果は一目瞭然。
 解毒剤を飲んでも症状は変わらず、むしろ悪化して痒みが増しているようである。
 しかも、人間だけでなく馬にも被害が広がっている事を考えると、様々な種類のノミやダニが体にへばりついているのかも知れない。
 その事を考えるだけで全身に鳥肌が立ってきたため、湖まで一心不乱に馬を走らせた。
 しばらくして‥‥。
 宝石のようにキラキラと輝く湖が見えてきた。
「ここならゆっくりと身体を洗う事が出来そうですね。せっかくなので服も洗っておきますか。急いで二風谷に戻らなければなりませんが、こんな状況で戻ったら他の人達にまで迷惑を掛けそうですし‥‥」
 ブレスセンサーで危険がない事を確認し、カスミが苦笑いを浮かべて茂みに向かう。
 一応、着替えを持ってきているので、いま着ている服を洗っても問題ない。
 ただし、乾くまで湖にいなければならないため、そのぶん二風谷に着くのが遅れてしまう事だけは覚悟しておく必要があった。
「拙者はこっちにいるから、何かあったら呼んでくれ」
 恥ずかしそうに頬を染め、一刀がコホンと咳をする。
 だが、ブレスセンサーで反応がなかった以上、それほど心配する事はない。
「身を清め終わったら、すぐに二風谷にむかいましょう」
 嫌な予感が脳裏を過ぎり、マミがボソリと呟いた。
 仲間達の身に危険が迫っているのか、二風谷が近づくに連れて不安が膨らんでいた‥‥。

●五章 鬼面衆
「これじゃ、キリがありませんね」
 荒く息を吐きながら、文霞がダラリと流れた汗を拭う。
 まわりを囲むようにして陣取る鬼面衆。
 鬼面衆の頭は無(ム)と名乗っており、少しずつ間合いを詰めている。
「‥‥どうした? もう終わりか?」
 含みのある笑みを浮かべながら、無が短刀をペロリと舐めた。
 他の鬼面衆もいやらしい笑みを浮かべ、文霞達を切り刻もうと迫ってくる。
「クッ‥‥。せっかく牢屋から出る事が出来ましたのに‥‥」
 悔しそうな表情を浮かべながら、文霞が唇をグッと噛み締めた。
 何とかコロポックル達を逃がす事には成功したが、このままでは間違いなく殺られてしまう。
 何か奇跡でも起こらねば‥‥。
「そこまでですっ! これ以上の殺戮は、私達が許しません!」
 閃光皇(優れた戦闘馬)に乗ってオーラエリベイションを発動させ、マミが鬼面衆の邪魔をするようにして体当たりを仕掛けていく。
 そのため、鬼面衆がチィッと舌打ちし、短刀を構えて横に飛ぶ。
「みなも殿、苦労を掛けたな」
 みなもをギュッと抱き締めながら、一刀が優しく髪を撫でる。
 それと同時に鬼面衆が攻撃を仕掛けてきたが、彼女を守るようにして刀を振り下ろす。
 唖然とした表情を浮かべ、鬼面衆がガックリと膝をつく。
「御帰りなさい、一刀殿。必ず、無事に御戻りになると信じていました」
 愛しそうに一刀の顔を見つめ、みなもがニコリと微笑んだ。
 雄叫びを上げ、攻撃を仕掛ける鬼面衆。
「折角の再会を邪魔するなんて、野暮な真似を‥‥。あなた達の相手は、わたくしがします」
 鬼面衆めがけてソードボンバーを放ち、文霞がみなも達を守るようにして陣取った。
 一刀達が援護に来てくれた事で形勢が逆転しているため、いまなら鬼面衆を倒す事が出来そうだ。
「とにかく今はこの状況を何とかする必要がありそうですね」
 容赦なくストームを放ち、カスミが鬼面衆を吹き飛ばす。
 落下と同時に嫌な音が辺りに響き、肉塊と化した鬼面衆が辺りに転がった。
「小癪な真似を! こんな事をして、どうなるのか分かっているのか?」
 不機嫌な表情を浮かべながら、無が短刀を構えて間合いを詰める。
 ‥‥無にとっては何もかもが予想外であった。
「自らの理想を叶えるために、罪もない他の一般人を巻き込み、悲しみを広げなければならないとは‥‥。自分の理想というものは、他の者の協力を得て叶えるのであればまだしも、他の者に一方的に迷惑をかけて手に入れた理想など、誰にも受け入れられる訳がありません。人はそれを『無理』といいますわ。その間違い‥‥、正させていただきます!!」
 高速詠唱でオーラシールドを発動させ、マミが無にスマッシュEXを放つ。
 その一撃を喰らって無の肩から鮮血が噴き出し、ケモノにも似た唸り声が辺りに響く。
「いまです、一刀殿!」
 ダブルシューティングEXを放ち、みなもが無の動きを封じ込める。
 無は左足に突き刺さった弓矢を掴み、雄叫びを上げて引き抜いた。
「夢想流奥義・閃(ブラインドアタックEX+ポイントアタックEX+シュライク)」
 一気に間合いを詰めて必殺の一撃を叩き込み、一刀が無の身体を真っ二つに両断する。
 こうして二風谷を襲撃してきた鬼面衆は、冒険者達の前に次々と倒れていった。

●七章 インガルシ(遠軽)の聖域
「なかなかやるじゃないか。だが‥‥、これはどうかな?」
 含みのある笑みを浮かべながら、ホロケウカムイ(狼の神)が攻撃を仕掛けていく。
 ホロケウカムイの攻撃は、まさにケモノそのもの。
 ゲレイ・メージ(ea6177)達が唖然とした表情を浮かべるほど、ふたりの戦いは凄まじかった。
「この程度の攻撃で私を倒せると思っているのですか? だったら考えを改めた方がいいですよ。本当にコレが欲しいのなら、私を殺すつもりで‥‥、掛かってきなさい!」
 カムイの剣を深々と地面に突き刺し、フレイヤ・シュレージェン(ec0741)がロングソードを握り直す。
 ここでカムイの剣を使えば簡単にホロケウカムイを倒せるが、それでは本当の意味で勝った事にはならない。
 そのため、あえてカムイの剣を使わず、ホロケウカムイと戦う事にした。
「お前のような人間が‥‥まだこの世にいたとはな。‥‥気にいった。苦しまずに殺してやろう!」
 雄叫びを上げて全身の筋肉を隆起させ、ホロケウカムイが二本の刀(『光』と『闇』)を振り下ろす。
 それと同時にフレイヤの体から大量の血が噴き出し、一瞬だけホロケウカムイが攻撃を与える隙が出来た。
 ホロケウカムイはその瞬間を逃さず、続け様に攻撃を放って返り血を浴びる。
「クッ‥‥!」
 左肩から吹き出した血を押さえ、フレイヤが唇をグッと噛み締めた。
 しかし、ホロケウカムイの攻撃は収まらず、再びフレイヤめがけて二本の刀が振り下ろされる。
「油断‥‥、しましたね」
 次の瞬間、傷ついて動けないはずのフレイヤが動く。
 ホロケウカムイの喉元に突きつけられたロングソード。
「ここまで傷ついていながら、まだ動けるとは‥‥。どうやらお前の実力を甘く見ていたようだな。‥‥完敗だ。これ以上、やっても結果は見えている。俺もまだ死ぬわけにはいかないんでな」
 満足した様子で笑みを浮かべ、ホロケウカムイが刀をしまう。
 このまま戦って決着をつける事も出来るのだが、例えフレイヤを倒す事が出来たとしても無傷ではすまない。
 その事まで計算した上で、ホロケウカムイは戦う事を‥‥、止めた。
「貴方ほどの剣の使い手が何故悪しきカムイに味方するのです!?」
 ホロケウカムイが刀を下ろしても決して気を抜かず、フレイヤがロングソードを向けたまま警戒した様子で口を開く。
 そのため、ホロケウカムイがクスリと笑い、狼の被り物越しに彼女を睨む。
「‥‥強い奴と戦うためさ。俺がカムイの剣を欲したのも、それが理由だ。カムイの剣さえあれば強い奴と戦う事が出来るからな。だが、これで満足だ。お前のような強い奴と戦う事が出来たからな」
 フレイヤを見つめて高笑いを上げながら、ホロケウカムイが躊躇う事なくその場に座る。
 例えこの場で斬られても、本望だと思いつつ‥‥。
「教えてください。あなたの知っている事を!」
 ロングソードを鞘に収め、フレイヤがホロケウカムイに問いかける。
 ホロケウカムイは一瞬虚空を見た後、自分の知っている事を語り出す。
「太陽の巫女は‥‥、シレトクにいる。だが、そこは地の果て。誰もシレトクの聖域まで辿り着いた者はいない。あの場所は鬼面衆の根城でもあるんだからな」
 険しい表情を浮かべながら、ホロケウカムイが酒を口に含む。
 ホケロウカムイも八傑衆に加わる前にキムンカムイと戦った事があるようだが、卑怯な手段を使って攻撃を仕掛けてきたので途中で萎えてしまったようだ。
 その事が原因でキムンカムイと仲が悪く、八傑衆に加わってからも顔を合わせていない。
「それじゃ、キムンカムイの仲間ではないんですね」
 ホケロウカムイが信用する事の出来る相手だと思ったため、フレイヤがホッとした様子で溜息を漏らす。
 少なくともカムイの剣がホムロウカムイの手に渡ったとしても、キムンカムイの手に渡る事はなかったようだ。
「ああ‥‥。だが、餌として使うつもりでいた。アイツは俺達を利用していたようだからな。一生、関わるつもりはなかったが、ここまでコケにされて放っておけない」
 不機嫌な表情を浮かべながら、ホロケウカムイが拳をぶるりと震わせる。
 どうやらホロケウカムイもまた、キムンカムイと敵対している者のようだ。