蝦夷解放

■クエストシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年05月01日
 〜2007年05月31日


エリア:蝦夷

リプレイ公開日:05月19日00:41

●リプレイ本文

●箱館
「‥‥この男が本当に陸のアッコロカムイなのですか? それにしてはあまりにも弱過ぎると思うのですが‥‥」
 納得のいかない様子で陸のアッコロカムイの死体を調べ、闇目幻十郎(ea0548)が不思議そうに首を傾げる。
 陸のアッコロカムイは首に突き刺さったクナイが原因で、マトモに戦う事も出来ずに呆気なく命を落とした。
 もちろん、陸のアッコロカムイが本気を出す前に倒れた可能性や、不意討ちを食らったせいで攻撃を避ける事が出来なかったという考え方もあるため、ここでキッパリと断言する事は出来ない。
 しかし、僅かな可能性がある以上、ここは疑って考えるべきだろう。
「‥‥こいつはもしや影武者か? それならすべて説明がつく。どちらにしても警戒しておく必要がありそうだな」
 険しい表情を浮かべながら、伊達正和(ea0489)が陸のアッコロカムイの首に刃物を立てる。
 そのため、辺りから悲鳴が上がっているが、マサカズは気にせず体重を掛けて首を切り落とす。
 箱館の者達から残酷な人間だと思われたかも知れないが、陸のアッコロカムイが身元を証明するものを何も持っていなかったのでこうする以外に方法がない。
「それよりも早くみんなの無事を確かめよう!」
 心配した様子で辺りを見回しながら、ハクオロゥ(eb5198)がコロポックル達の避難所にむかう。
 コロポックル達はインネ達が逃げた事でホッとしているのか、むりやり酒盛りに参加させられていたコロポックルの娘達を介抱しているようだ。
 彼女達のショックは大きいもので、仲間達が助けに来た途端に泣き出してしまった者もいる。
 幸い身体的な外傷はほとんどないものの、それでも精神的なダメージが大きかった。
 そのため、サヨが率先してコロポックルの避難所に簡易診療所が作り、コロポックルの娘達を次々と連れて行く。
「クッ‥‥! 俺達がもう少し早ければ‥‥」
 悔しそうな表情を浮かべ、正和が拳をギュッと握り締める。
 しかし、被害を最小限に抑えられたのも、また事実。
 コロポックルの娘達を悪夢から解放するためにも、その原因となって八傑衆を倒して蝦夷を元の平和な土地にしなければならない。
「とにかく、おいら達で出来る事をしよう。みんなには悪いけど、過去を変える事は出来ないから‥‥。それってとてもツライ事だけど、落ち込んでいるわけにはいかないしね。‥‥サヨだって頑張っているんだ。おいら達がここで立ち止まっていたら、みんなに笑われちゃうからさ」
 どこか悲しげな表情を浮かべ、ハクオロゥが自分自身に言い聞かせる。
 本当は他のコロポックル達と同様にショックを受けているのだが、使命感に燃えて頑張っているサヨを見ていると落ち込んでもいられなくなった。
「立ち止まっているわけには行かない‥‥か。確かに俺達が何もしなければ、事態が悪化していくだけだからな。とにかく八傑衆に関する情報を集めよう。それと松前の娘に関する情報もな」
 陸のアッコロカムイの生首を布で包み、正和がコロポックルの避難所を睨んで溜息を漏らす。
 本当ならこの生首をトマコマナイの長老に見せて確認を取るべきだが、コロポックルの娘達が落ち着くまでは迂闊な行動をするわけにはいかない。
「‥‥なにやら困っているようだな?」
 正和達の気持ちを察したのか、トマコマナイの長老が近寄ってきた。
 その視線は既に陸のアッコロカムイの生首に向けられており、いつでも質問をしてくれといわんばかりである。
「こいつがあんた等を襲った敵の頭か? もしも違うヤツだったら、本星について教えて欲しい」
 陸のアッコロカムイの生首を見せ、正和が本物かどうか確認をした。
 するとトマコマナイの長老が陸のアッコロカムイの生首をマジマジと見つめ、今度は首のなくなった死体の右腕をガシィッと掴む。
「‥‥間違いない。この右腕がその証拠だ。こんなに派手な刺青を彫っているヤツなんて、そんなに多くはいないはずじゃ。仮に同じような刺青を彫っているヤツがいたとしても、わざわざ陸のアッコロカムイの名を語るような危険を冒す事はしないじゃろう。そんな事をすれば陸のアッコロカムイに目をつけられてしまうし、影武者が多ければ多いほどインネ達の統制が取れなくなって反乱を起こされる危険性が孕んでくるからな」
 仲間達を呼んで陸のアッコロカムイの死体を荷車に乗せ、トマコマナイの長老が答えを返す。
 戦いで命を落としたインネ達の死体を処分するつもりなのか、トマコマナイの長老が仲間達に指示を出している。
「それにしても‥‥、陸のアッコロカムイにトドメをさした忍者は、何者なのでしょうか? 我々の味方とも思えませんし、だからと言って敵だと断言するには早過ぎます。現時点では中立の立場にあると考えるべきですが、不確定な要素が多いので調べておく必要がありそうね」
 陸のアッコロカムイを殺した忍者が気になっていたため、幻十郎が何か手掛かりがないか調べに行こうとした。
 謎の忍者に関してハッキリとした事は分かっていないが、相当の手練れである事は間違いない。
 陸のアッコロカムイが倒された事で、今まで脅されていた人間が協力してくれるかも知れないので、何らかの情報を得る事が出来るはずだ。
「ちょっと危ないんじゃないのかな〜? 陸のアッコロカムイが倒された事で、八傑衆を敵に回しちゃったわけだし、箱館の領主様だっておいら達に協力してくれるわけじゃないだろ? そんな状況で忍者の事を調べても、危ない目に遭うだけじゃないかな?」
 色々と気になる事があったため、ハクオロゥが心配した様子で口を開く。
 コロポックル達も八傑衆の報復を恐れてハクオロゥ達に協力する気はないので、陸のアッコロカムイが倒されただけでは安心する事が出来ない。
 ‥‥それに残る八傑衆は全部で七人。
 とても楽観的な立場ではいられない。
「そう言えばハピリカはどこだ? まさかインネ達に殺されたわけじゃないだろうな?」
 いつになってもハピリカが現れなかったため、正和が心配した様子で辺りを見回した。
 しかし、どこにもハピリカの姿はなく、不安な気持ちばかりが膨らんでいく。
「いや、ハピリカ様が亡くなったという報告は聞いておらん。仲間達の話では八傑衆に連れ去られたという話もあれば、混乱に紛れて二風谷まで助けを求めに言ったと言っている者もいる。本当ならわしらも協力したいのじゃが、これ以上お前達に協力すれば、箱館の街と仲間達まで巻き込んでしまう事になるからな。松前様だってそんな事は望んでおらん。‥‥悪いが早くこの町から去ってくれ」
 とても迷惑そうな表情を浮かべ、トマコマナイの長老が正和を睨む。
 正和達が箱館の町にいる限り、八傑衆達が襲撃を仕掛けてくるため、出来るだけ早くどこかに行ってほしいと思っているようだ。
やはり謎の忍者が絡んでいるのかも知れませんね。念のため身元を探っておきます。それが終わったら、すぐに箱館の街から去るつもりです。それまでしばらくは‥‥堪えてください」
 申し訳無さそうな表情を浮かべ、幻十郎が情報収集にむかう。
 もちろん、危険は承知の上だが、それだけの価値はあるはずだ。

●海のアッコロカムイ
「まさか、こんな舟でトマコマナイに行く事になるとは‥‥。何だか先が思いやられますね」
 心配した様子で目の前の舟を見つめ、フレイヤ・シュレージェン(ec0741)がボソリと呟いた。
 海路からトマコマナイの聖域に向かった仲間達を救援するため、漁師達と交渉をして舟を借りたのだが、強度的に問題があるのでどこまでいけるか分からない。
 フレイヤの予想では陸のアッコロカムイが箱館から江戸を攻める予定があったので、移動用の船か悪徳商人の所有している密貿易船があると思っていたのだが、インネ達も交易船を奪うつもりでいた事を知り仕方なく漁師達の舟を買い取る事にした。
「‥‥仕方ないさ。松前の許可がなければ、船を借りる事なんて出来ないからな。まぁ‥‥、舟が借りられただけでも良しとしよう」
 愛用のパイプを咥えて舟に乗り込み、ゲレイ・メージ(ea6177)が溜息を漏らす。
 漁師達の話では陸のアッコロカムイが倒された事で、海のアッコロカムイが大人しくなっているという話だが、何の根拠もないのでアテには出来ない。
「そう言えば、このクナイ‥‥。鬼面衆と名乗る忍者達が使用している物のようです」
 謎の忍者が投げたクナイを取り出し、フレイヤが漁師達の言葉を思い出す。
 鬼面衆はキムンカムイ(山の神)の配下で、鬼の面を被っているのが特徴らしい。
 ‥‥彼らの主な仕事は暗殺業。
 最近になって急激に活動範囲を広げてきたため、畏怖の対象として恐れられているようだ。
「‥‥鬼面衆か。面倒な事になる前に手を打っておいた方が良さそうだな。それよりも今は海のアッコロカムイを倒す方法を考えねば‥‥。巨大なタコならクラーケン、巨大な魚ならばリヴァイアサンの親戚だと思うが、最近になって暴れだしたという事は、この前死んだ陸のアッコロカムイに操られていたのかも知れないな」
 険しい表情を浮かべながら、ゲレイがムーン(猫)の頭を撫でる。
 海のアッコロカムイに関する情報が少ないため、モンスターに関する知識を使って見当をつけるしかないのだが、ゲレイの予想が間違っていなければ勝てるかも知れない。
「どちらにしてもトマコマナイに渡るためには、海のアッコロカムイを倒さなければならないんですよね? 本当に海のアッコロカムイが神の化身なら、私達に勝ち目はありませんが‥‥」
 自分達の舟に『初春』と名づけ、フレイヤがトマコマナイにむけて舟を出す。
 八傑衆の報復を恐れた松前の命令によって、冒険者達の締め出しが行われているため、ここで迷っている暇はない。
「それでも‥‥、行くしかないか。他の仲間達も箱館の街を発った後だ。いまさら後戻りしても、仲間達に追いつく事は出来ない。それなら可能性に懸けてみるしかないからな」
 だんだん雲行きが怪しくなってきたため、ゲレイが空を眺めて溜息を漏らす。
 例え相手が神の化身だとしても、人に仇なす存在ならば倒さねばならないだろう。

●トマコマナイの聖域
「ははははは! これでお前達は手も足も出ないやろ! せっかくここまで来たのに、残念やったな! 素直にオダブツしてくれや」
 トマコマナイの巫女を人質に取りながら、陸のアッコロカムイ(弟)が勝ち誇った様子で海を浮かべてインネ達に指示を出す。
 インネ達は刃物をペロリと舐めた後、少しずつ逃げ道を塞いでいく。
「‥‥まさか、トマコマナイの巫女を人質に取られるとは思っていませんでした。最初から敵が卑劣漢だと知っていたのですから想定すべきでしたね。‥‥とはいえこのままでは手も足も出ません。なんとか隙を作って巫女を助け出さないと‥‥」
 悔しそうな表情を浮かべ、アヴリル・ロシュタイン(eb9475)が拳を握る。
 トマコマナイの巫女が人質に取られているため、迂闊に動く事が出来ないのだが、このままではインネ達に攻撃されても抵抗する事が出来ない。
 ‥‥そのため、アヴリル達は選択を迫られていた。
 トマコマナイの巫女を助けるため、僅かな可能性に懸けてインネ達に手を出さないか、トマコマナイの巫女をアッサリと見捨てて、陸のアッコロカムイ(弟)を倒すかのどちらかである。
 本当ならトマコマナイの巫女を救った上で、陸のアッコロカムイ(弟)を倒したいのだが、彼女が人質に取られている限りは不可能に近い。
「相手の行動について卑怯だと言えばそれまでですが、相手も手段を選んでいられない状況にまで追い込まれていると思いたいですね。なんにせよ、この状況を打開しない事には何も始まりません。今までの事も含めて、相手にはそれ相応の対価を払っていただきましょう」
 クールな表情を浮かべながら、カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)が陸のアッコロカムイ(弟)を睨む。
 冷静に相手の様子を窺っているつもりだが、凄まじいプレッシャーが圧し掛かってきているので心臓が高鳴っている。
 しかし、ここで動揺している事が分かれば、陸のアッコロカムイ(弟)の思うツボなので必死に自らの感情を殺す事にした。
「だが、巫女を人質に取られている以上下手に動けんな。昔、師の見せてくれた奥義ならば反撃の隙すら与えず倒す事も出来ようが、一度も成功した事のない奥義を成功させる事が出来るだろうか‥‥? いや、やらねばならん」
 険しい表情を浮かべながら、橘一刀(eb1065)が大脇差に手を掛ける。
 ‥‥チャンスはたったの一度きり。
 ここで失敗すれば巫女の命はないだろう。
 それでも勝負を仕掛けねば、こちらに勝ち目はなさそうだ。
「‥‥気をつけてくださいね。陸のアッコロカムイ(弟)を倒す事も大事ですが、トマコマナイの巫女を救い出す事が第一です。それだけは忘れないでくださいね」
 警戒した様子で陸のアッコロカムイ(弟)を睨みつけ、和泉みなも(eb3834)がボソリと呟いた。
 そのため、陸のアッコロカムイ(弟)がニヤリと笑い、見せ付けるようにしてトマコマナイの巫女の喉元に刃物を当てた。
「おらっ! 一体、何を話しているんやっ! 自分達の立場が分かっていないようだなっ! だったらオレにも考えがあるで!」
 邪悪な笑みを浮かべながら、陸のアッコロカムイ(弟)がゆっくりと横に引く。
 途端にトマコマナイの巫女の首から鮮血が流れ、地面に真っ赤な花を咲かせていった。
「あなたの命綱は、その巫女殿とナイフ一本‥‥無くなった時に命運は尽きますわよ?」
 危険を承知で一歩前に出て、マミ・キスリング(ea7468)が陸のアッコロカムイ(弟)に警告をする。
 もちろん、陸のアッコロカムイ(弟)が怯むとは思っていないが、少しくらいは時間を稼ぐ事が出来るだろうと思いつつ‥‥。
「ははっ! この状況でわいを脅すんか? 面白いやっちゃなぁ! わいの指示ひとつでインネ達がお前達に斬りかかっていくんやで? 命運が尽きるのはそっちやろ! 勘違いしているようだから教えてやるけど、インネ達はまだまだ隠れているんやで!」
 いやらしい笑みを浮かべながら、陸のアッコロカムイ(弟)がインネ達を盾にした。
 インネ達の中にはマミ達に斬られたものの、傷が浅かったおかげで命拾いした者もいるため、恨めしそうな表情を浮かべている。
「ふん、あなたの言うアッコロカムイの力とは人質を取らなければ、我々にも及ばないようなものなのですか? ‥‥無様ですね」
 備前長船を握り締めながら、アヴリルが陸のアッコロカムイ(弟)を挑発した。
 しかし、陸のアッコロカムイ(弟)はまったく怯んだ様子もなく、トマコマナイの巫女を人質に取ったままケラケラと笑う。
「本当に面白いやっちゃな! 当たり前やろ! わいは卑怯で下劣な八傑衆のひとりやで! まぁ、八傑衆として認められたのはアニキやけど‥‥。そんなん今は関係ないっ! それにアッコロカムイの力を使う事が出来たのはアニキだけや! ‥‥とは言え海のアッコロカムイの力を充分に操っていたとは言えんけどな!」
 自分の兄に対してあまり良い印象を持っていないのか、陸のアッコロカムイ(弟)が愚痴をこぼす。
 海のアッコロカムイについては未だに謎が多いのだが、ヤマタノオロチと同じくらい強いと噂されている。
「それじゃ、貴方の切り札は海のアッコロカムイですね? ‥‥ですが海の上ならともかく陸の上では私達の敵ではありません」
 陸のアッコロカムイ(弟)の顔色を窺いながら、カスミが自信に満ちた表情を浮かべてキッパリと言い放つ。
 もちろん、何の根拠もないため、相手の動揺を誘う事が目的だ。
「まぁ‥‥、アニキだったら、そうやろな。せやけどわいは海のアッコロカムイを操る事なんて出来んからな。アイツさえいなけりゃ、アニキにだって勝つ事が出来たんやから‥‥! それにアニキが死んだ途端に海のアッコロカムイが暴走するかも知れんから、切り札と言うより疫病神や! 出来る事なら関わりたくもない! ‥‥って、わいが油断した隙に巫女を助け出そうとしたやろ!? そんな事くらい、わいだって分かっているんやで!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、陸のアッコロカムイ(弟)が後ろに下がっていく。
 いつの間にかベラベラと関係のない事まで喋ってしまったため、まわりにいるインネ達からも冷たい視線を送られている。
「一体、何が目的なんですか! こんな事をしても自分の立場が悪くなるだけですよ? それとも、これが八傑衆のやり方ですか!」
 少しずつ間合いを取りながら、井伊文霞(ec1565)が日本刀を陸のアッコロカムイ(弟)にむけた。
「‥‥おっと! それ以上ちぃっとでも動いたら、巫女の命はあらへんで! 八傑衆が何を考えているのか知らん! わいはアニキの影武者みたいなモンやからな! 何か知りたい事があったら、アニキにでも聞くんやな。まぁ‥‥、うちのアニキは目的を果たすためなら、恋人だって利用するほど非情なヤツやから、お前達が何を言っても教えてくれんと思うけどな!」
 トマコマナイの巫女の喉元に刃物を当て直し、陸のアッコロカムイ(弟)がニヤリと笑う。
 それに合わせてインネ達が逃げ道を塞ぐようにしてまわりを囲み、ジリジリとその幅を狭めていった。
「ここでトマコマナイの巫女を殺したら、次に死ぬのは間違いなくあなたになりますよ?」
 温和な表情を崩さないように心掛けながら、カスミが再び陸のアッコロカムイ(弟)に対して警告する。
 インネ達の実力はたかが知れているため、不意討ちさえ食らわねば苦戦するほどの相手ではない。
「‥‥この状況でわいに説教をするんか? まぁ‥‥、そこまで言われたら、一思いに殺すのは勿体ないな。いくら温厚なワイかて堪忍袋の緒が切れたで! どうせだからジワリジワリと苦しませてやるか」
 含みのある笑みを浮かべ、陸のアッコロカムイ(弟)が刃物を振り下ろす。
 それと同時にトマコマナイの巫女が悲鳴をあげ、深々と刃物が突き刺さった右肩からドクドクと血が流れている。
「ま、待ちなさい! それ以上、巫女を傷つければ、死ぬよりも恐ろしい事が待っていますよ。我々もまだ全力を出した訳ではありません。貴方の命を賭けてみますか?」
 拳をぶるりと震わせながら、カスミが陸のアッコロカムイ(弟)を睨む。
 しかし、陸のアッコロカムイ(弟)はトマコマナイの巫女を刃物で傷つけ、『やれるもんならやってみぃ』とばかりにいやらしい笑みを浮かべている。
「おらおら、どうするつもりや! 早くしないと巫女がどうなってしまうかワカランで、わいに下手な小細工は無駄や! コイツを助けたかったら、力ずくでかかってきい!」
 殺気の満ちた表情を浮かべ、陸のアッコロカムイ(弟)が叫ぶ。
 それと同時にマミがチャージングで突っ込み、オーラシールドでインネを弾く。
「ははっ、それでええ! お前らも気合を入れて頑張りや。コイツらが命を懸けて鍛えてくれるんやからな!」
 満足した様子で笑みを浮かべ、陸のアッコロカムイ(弟)がインネ達を嗾ける。
 そのため、インネ達は錆びた刀などを振り上げ、次々とマミ達に斬りかかっていく。
「ここは自分達に任せて早くトマコマナイの巫女を!」
 アイスチャクラを使って氷輪を作り、みなもがマミに声を掛けてインネ達に攻撃を仕掛けていった。
 インネ達は自分より弱い相手としか戦った事がないため、みなもの作り出した氷輪に驚いて悲鳴を上げている。
「おらっ! 何をやっているんや! そんな輪っかに惑わされるんやない! ちんたらしていると、わいがお前らをしばくぞ!」
 あまりにもインネ達が動揺していたため、陸のアッコロカムイ(弟)が溜息を漏らす。
 インネ達の大半はゴロツキばかりなので、本能に忠実な割には命を捨てる覚悟がない。
 そのせいでなかなか攻撃を仕掛ける事が出来ず、みなもの作った氷輪の餌食になっている。
「‥‥油断しましたわね。トマコマナイの巫女は返していただきますわ」
 陸のアッコロカムイ(弟)が油断した隙を狙い、マミがオーラ魔法で身を固めトマコマナイの巫女を助け出す。
 次の瞬間、陸のアッコロカムイ(弟)の放った刃物が右肩にグサリと突き刺さったが、マミは痛みを堪えてフラフラと仲間達のところに戻っていく。
「‥‥人質を盾に取るようでは、実力もたかが知れていますわね。もうひとりのアッコロカムイが『トマコマナイのゴミは好きにしろ』と仰りましたが、貴方もそれに含まれていたのですわね」
 陸のアッコロカムイ(弟)を挑発し、文霞がマミを守るようにしてソードボンバーを放つ。
 その一撃を喰らって陸のアッコロカムイ(弟)が膝をつき、悔しそうな表情を浮かべて文霞を睨む。
「‥‥わいがゴミやと!? アニキのヤツ、相変わらずヒドイ事を言うな。わいかて海のアッコロカムイの力さえ使えれば、アニキなんかに負けんのに‥‥。せやけどアニキは海のアッコロカムイの力に頼り過ぎている。そのうち自爆するのがオチや! そん時、絶対わいを頼りにする‥‥」
 わなわなと拳を震わせながら、陸のアッコロカムイ(弟)がふらりと立ち上がる。
 一対一の戦いなら陸のアッコロカムイ(弟)にも勝ち目があったのかも知れないが、実力のある者達が連携攻撃を仕掛けてきたので反撃する事さえ出来ない。
「そろそろ観念して、八傑衆について教えてください。このまま逃がすわけには行きませんが、素直に話してくれるのなら命までは奪いません」
 ゆっくりと長弓を構え、みなもが警告まじりに呟いた。
 しかし、陸のアッコロカムイ(弟)は警告を無視し、インネから刀を奪ってみなもに斬りかかる。
「どんなに悪が強大で我が世の春を謳歌しようとも、最後は必ず正しい力と心を持つ者が現れそれを駆逐するのです‥‥人はそれを『裁き』と言いますわ!」
 陸のアッコロカムイ(弟)との間合いを一気につめ、マミが長曽弥虎徹を振り下ろしてスマッシュEXを叩き込む。
 それに合わせて一刀が『夢想流奥義・閃(ブラインドアタックEX+ポイントアタックEX+シュライク)』を放ち、陸のアッコロカムイ(弟)にトドメをさした。
「ははっ‥‥、これで終りやないで! わいは所詮、影武者や。この仇はアニキが‥‥。いや、仲間達がきっと‥‥ぐはっ!」
 大量の血を吐きながら、陸のアッコロカムイが血溜まりに沈む。
 それと同時にインネ達が持っていた武器を放り投げ、蜘蛛の子を散らすようにして逃げていく。
「今回の事を考えるに、相手も一枚岩ではないとの事でしょうか」
 どこか寂しげな表情を浮かべ、カスミが陸のアッコロカムイ(弟)を見つめて溜息を漏らす。
 ‥‥残る八傑衆は、あと七人。
 そして、カスミ達は助け出したトマコマナイの巫女から話を聞き、コロポックル達の聖域である二風谷を目指す事になった。

●二風谷
「う〜ん‥‥、これからどうしたらいいのかしらねえ」
 苦笑いを浮かべながら、ルウォプ(ec0188)が気まずい様子で汗を流す。
 ルウォプがすべて暴露してしまったせいで、キラウの立場が危うくなったため、辺りには険悪なムードが漂っている。
「姉ちゃんがそんな調子でどうするんだよっ! せっかくジィちゃんの無実を晴らすチャンスだろ!? 何か考えがあってあんな事を言ったんじゃないのかよ!」
 驚いた様子で目を丸くさせ、ルイがルウォプにツッコミを入れた。
 このままでは谷の者達を不安な気持ちにさせただけで、何の解決にもなっていない。
「そ、そんな事を言われても、あたしだって悩んだ結果がアレなのよ? エカシさんを救うためには、ああするしか方法がなかったから‥‥。だから後先考えずに行動しちゃったのも事実‥‥。え〜っと、とりあえずカムイの剣について、もう一度調べてみましょうか?」
 仲間達の冷たい視線を浴びながら、ルウォプがボソリと呟いた。
 いまさら何をやっても手遅れかも知れないが、八傑衆に二風谷の場所が知られている以上、何か手を打っておかねばならない。
「カムイの剣はサッポロペッのパウチカムイ(淫らな女神)が持っている。しかし、いまのサッポロペッは遊郭の都となっており、多くの仲間達がパウチカムイの虜になっている。故にカムイの剣を取り戻すためには、仲間達と刃を交える事になるぞ」
 警告まじりに呟きながら、キラウが深い溜息をつく。
 どうやらキラウは仲間達と戦いたくなかったため、カムイの剣を渡して二風谷を守る事にしたようだ。
 それを聞いて谷の者達も納得したのか、申し訳無さそうな表情を浮かべてキラウに謝っている。
「それじゃ、カムイの剣はサッポロペッにあるのですね。このままジッとしていても、八傑衆の軍勢が二風谷に攻めてくる事には代わりがありません。ならばカムイの剣を取り戻し、戦うべきなんじゃありませんか?」
 仲間達の気持ちを奮い起こすため、ルウォプが必死になって説得を試みた。
 そのため、谷の者達は『いまこそ立ち上がるべきだ』と叫んで、高々と拳を突き上げる。
 こうして二風谷のコロポックル達は、八傑衆と戦う事を決意するのであった。