若き獅子たちの伝説

■クエストシナリオ


担当:秋山真之

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年02月01日
 〜2007年02月31日


エリア:ビザンチン帝国

リプレイ公開日:-

●リプレイ本文

■第一回:蝶の谷

●ムンド
 そそり立つ城壁。整備された町並み。様々な服装の人々が、聞き慣れぬ言葉を話している。天秤の音、呼び込みの声。色彩々の果物、溢れかえる品物。世界の隅々から集められた品々は、圧倒的な迫力で迫ってくる。
 郷里の豪族の出であるテオフィロス・パライオロゴス(ec0196)にとって、初めてみる市の様子は祭りそのものであった。自然、きょろきょろと目移りをして歩いていると。
「気をつけろ小僧!」
 ぶつかった瞬間、跳ね飛ばされて尻餅を突いたのはテオフィロスのほうだ。確かによそ見をしていた自分が悪い。しかし、だからと言ってこの言い様は無いだろう。
「俺はテオフィロス・パライオロゴス。これでもあと二年で公職に就ける年齢だ。この通り不注意は詫びるが、小僧と言うのは訂正して貰おう」
 目前のがっしりとした、それでも人間にしては背の低い壮年の男は、自慢のヒゲを扱きながら、ちょっと考えるような目をして、
「パライオロゴス‥‥トラキアの徴税人か」
 確かに、彼の一門は郷里でその務めを負う豪族であった。
 謝りながらも挑戦的な目をしていたテオフィロスは、破顔一笑。一門の存在を帝都で知る者がいると言う事実に、一転好意的になる。
「そうか。パライオロゴス一門をご存じか! お詫びついでに食事でもご一緒したい。もちろん勘定は持たせて戴く」
 テオフィロスは諸手を差し出して相手の手を握りしめた。
「‥‥奢るだと? 俺の事を知らぬとは‥‥貴様、帝都に出てきたばかりだろう。まあいい。俺の名はムンドと言う」
 生憎テオフィロスには彼が誰だか判らなかった。

●光と影の国から
 白と黒の教えがモザイクのように交差する共有するイスパニア王国。絶え間ない異教徒との戦いで国土を回復していった彼らは、ビザンツよりも先鋭化した黒の教えを信仰している者達が居る。ナバーラのエル・マロの死後混乱を極める王国を後に、新天地を目指す一人の女性が居た。
 故国のくっきりとした光と影の情景とは異なり、やや柔らかな日差しの世界。世界の都と豪語するだけあって、トレドの街よりも賑やかだ。アラビア教圏からの輸入品であろうか? グラナダと比する美しい工芸品。
 アン・シュヴァリエ(ec0205)はおそるおそるガラスの器を眺めていた。透き通るガラスの中に、まるでレースを編んだような不思議な文様。光の滴を編むマラカイトのような不思議な緑の線が封じ込められている。
「そこの奥方様。どうです? これはアナトリアのアラビア教徒達が創った物ですよ。お安くしておきますよ」
「おいくらですか?」
 異国から来た貴族の婦人が手にとって眺める。
「大負けに負けて500Gだ。お国で買えば2000Gは下らないよ」
 なんとも桁違いの価格である。危ない危ない。驚きの余り、アンは危うく取り落とすところだった。
「これ。どうやって創りますの?」
「それは秘密だね。尤も知ったところで簡単に作れる代物じゃないよ。10年以上の年期が居る。吹いてガラスの板を作れるような腕前じゃないと不可能だ」
(「アラビア教徒の技術かぁ‥‥」)
 余り詳しくないアンは、これから向かう土地の事を調べることにした。幸い帝都には図書館がある。

●操典
「ふーむ」
 リョウ・アスカ(eb5646)は首をひねる。殆ど体当たりで覚えた会話は、どこへ行っても何とかなるものの、読み書きはかなり怪しい。誰でも読むことが許されている鎖で書見台に繋がれた本から挑戦してみたが、1ページ読むのにどれくらい掛かっただろう。
「済みません。これどう読むんですか?」
 近くの男に聞いてみる。
「またいきなり難しい本に挑戦したものだな」
「はあ。ビザンツの戦術書だと教えて貰ったのですが‥‥」
「これは羽騎兵の操典じゃな」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.羽騎兵は弓騎兵也。8騎で1隊を組み進退を共にすべし。
1.攻撃に際しては縦列を作る事。先頭に立つ隊長の後を追い同じ行動を繰り返すべし。
1.軽装兵には矢、重装兵には石弾を以て対応すべし。
1.隊長の射た目標にのみ射撃を集中させ、勝手に目標変更を行わざる事。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●使節募集
「良く来たな。君で3番目だ」
 係員は名前を聞く。
「アン・シュヴァリエだよお兄さん。でも、そんなに応募者が少なかったの?」
「ああ、何せ敵対国だからな。万が一にでも滞在中に戦争にでも為ったら、生きて還れるかどうか‥‥」
 行く先は異教徒の国である。エフェソ、スミルナ、ペルガモン、ティアティラ、サルディス、フィラデルフィア。そこに残されたビザンツの飛び地こそ7教会であった。
「私の祖国は、異教徒から国土を奪い返す戦いを祖父の代以前からやっているんだよね。彼らの言葉の読み書きも出来るよ」
「アラビア語が読めるのか。それはありがたい」
 奥から出てきたのはガルシア・マグナス(ec0569)。老巧なジャイアントの騎士である。出てきて
「おや? アン殿ではないか」
「知り合いか?」
「はい。お嬢さんに助けて貰ったことがあります」
「ルスキニア殿もこちらにおるぞ」
 のぞき込むと手をひらひらと振って応えるルスキニア・サビーヌス(ec0338)。彼女は法律家で名を成したサビーヌス一門の寡婦である。
「アン。あなたもアナトリアへ?」
 いつの間にか盛り上がる話題。
「んー。こほん」
 係員が咳払い。
「あ、ごめんなさい‥‥」
 謝るアンとルスキニア。
「‥‥でもまあこれで、本決まりになりそうですな。知り合いならば都合が良い。3人とは少々少なすぎるが、出立まで時間がない」
「あのー」
 アンが尋ねた。
「採用なら、一人誘いたい人がいるんだけど‥‥」

●試験会場
 戦車競技場が試験会場だ。その入口に一癖も二癖も有りそうな猛者達が所狭しとひしめいている。品の良い貴族の出の者がいるかと思えば、オーガと間違われ兼ねない野性味溢れる人物まで、実に多彩な人種の見本市。
 覇気が溢れ出し、あわや剣を抜きそうな騒ぎも珍しい事ではない。これが犬ならば派手な咬み合いを始めそうな険悪な空気だ。周りは全てライバルという意識もあるのだろう。既に競争は始まっている。皆、目指すは一代貴族エルレオン。

(「あれは?」)
 ヴァレリー・セティオニス(ec0166)は自分達を見下ろす視線に気づく。
「ベリサリウス閣下!」
 身なりの良い若者が叫んだ。
「おい、その隣はジル閣下だぜ‥‥」
 騒然となる応募者達。
「戦士諸君! 帝国は諸君の応募を歓迎する。親衛隊への志願は栄達への近道である。だが心せよ。栄光の道は墓穴に通じている。死ぬ覚悟と生き延びる実力のない者は‥‥悪いことは言わん。この場より立ち去るが良い」
 一瞬静まる応募者達。敬愛するベリサリウス将軍に良いところを見せようと、ヴァレリーは沈黙を破るように青雲の志を発露した。
「赤心の勇者ベリサリウス将軍! 自らを尊しとする者ならば、偉大なる帝国の歴史に名を留めるために、何でこの身を惜しむだろうか!」
「卿の名は?」
 ベリサリウスは青年に向かって問う。
「ヴァレリー・セティオニス。生まれながらのローマ市民であり、陛下に剣を捧げる騎士だ」
 良い度胸をしている。抜け駆けされた連中が、我も我もと倣う声の中。
(「若いな‥‥」)
 隣にいたイワン・コウルギ(ec0174)は苦笑いしつつ。
「ぼうや。威勢がいいのは頼もしいですが、向こう見ずは早死にしますよ」
 小声で耳元で忠告する。

●試し切り
「皆には、先ず試し切りから始めて貰う。一つの据え物につきチャレンジ3回のうちに見事切断できれば一次試験は合格だ」
 先ず地面に置かれた木の束、次に甲冑を着けた藁人形、そして上から吊された牛の枝肉。まずは剣の腕前のほどを見ると言うことか。
「ああ主よ!」
 意外と難物の木の束。何人もの応募者が早くも脱落する。最初の木の束に失敗したらそこで失格なのだ。
 歓声が起こった。ヴァレリーは灼熱のナイフでバターを削るように次々と据え物を斬って行く。特に技巧を凝らした訳ではないが、地力が衆を抜いている。
「ぼうや。いいですか?」
 既に一次試験合格を決めているイワンが、既に2回失敗しているリョウに横から声を掛けた。
「俺はもう24です」
 ジャイアント故、身体も大きい。ぼうやと言われて少しカチンと来たが、周りの目もある。力(つと)めてクールに礼儀正しく返事を返す。
「あなたは人並み外れた力がある。でも力だけでは斬れやしません。もう少し腰を落とし、肩の力を抜きなさい。そうそう。それでいい。そしてただ上からストンと落とす感じで、当たる瞬間に鍬で土を耕すように剣を引くと良いです」
 合格者のアドバイスだけに騙されたと思ってやってみる。
「なんだ?」
 思わず言葉がこぼれた。非常に表現しにくい奇妙な感触。普通なら返ってくる手応えがほとんど無い。それにも関わらず剣は木の束を通り抜け、大地に大きな傷を創った。
「その要領です」
「なぜです? なんでこんなに斬れるんですか?」
 最初の二回よりも力を入れていないのになぜ? 首を傾げるリョウを後目に、
「少しは頭を使うといい」
 イワンは笑いながら立ち去って行く。
「ちょっと‥‥。行って仕舞った」
 くすくすと笑う声。
「変わりに私が説明しましょうか?」
 そう言って地面の砂に図を書いて解説する長渡昴(ec0199)
「この三角柱が剣だとします。ただまっすくに降ろした場合、まっすぐに切断した面はこうなります」
 三角柱にまっすぐに線を引き、断面図の三角形を横に描く。
「そして、当たる瞬間に手前に引いた場合はこうです」
 三角柱に線を斜めに引き、その断面図。つまり底辺が同じで高さが倍くらいある三角形を横に描く。
「二つの三角形を見比べて下さい。どちらの角が鋭いでしょう」
 日本刀の操法ではごく基本的な事だ。西洋の比較的刃の鈍い剣でも理屈は同じ、見掛けの鋭さは引くことで増す。
「おお!」
 またしても歓声。見掛けが小さいのに鮮やかな手並み。
「テオフィロス・パライオロゴス殿合格!」
 試験官が一次合格者の名簿にまた一人勇士の名前を付け加えた。
「さぁ、私たちも参りましょう」
 昴はリョウを促した。

 そして1時間後。あれだけ居た応募者が数えるほどに。一次試験を終えた会場はガランとしていた。係の者が二次試験の案内をする。
「これより試験官の乗った輿を護り、市街を回って貰う。10人づつに分かれろ」
 輿に載るのは二人の将軍。百傷のジルとベリサリウス。
「畏くも皇帝陛下だと思って警護せよ」

●おふろおふろ☆彡
 午後。まもなく女性の入浴時間になる。
 平時の帝都において、普通の自由民は正午を境に職務と余暇が分かたれる。夜明け前から始まる仕事は、平時は太陽の南中を以て終了する。諸般のサービス業に従事する者や、軍務にある者。あるいは日が傾いて来てもさらに新しい働き手を欲するブドウの収穫時期を除いてプライベートな時間に入る。そうそう、貧窮市民に穀物を配給する係や皇帝陛下の給与支払いも数少ない例外。
 誰が言い出したのだろう? 風呂の空気は自由にすると。上は大臣から下は物乞いまで、およそ自由民と名が着く者は、浴場の中においては上下無し。
 海綿で泡立てた石鹸水で身体を洗い、さっと汚れを水に流した後。別室の大理石の壁に作られたベンチに身体を預け、
「はぁ〜。疲れが取れますわ」
 イーシャ・モーブリッジ(eb9601)は大理石を通して伝わってくる程良い熱に身を任せる。霧深き大地イギリスと異なり、当地は気候が良い。殊に帝都は保養地と言っても良いくらいだ。滲んでくる汗をタオルで拭いて、水で割ったワインビネガーを飲む。我ながら王侯貴族になったかのような錯覚を覚える。
 この贅沢が僅か銅貨1枚。庶民も毎日入れる額だ。また土曜は、聖日に備えそれすらも払えぬ貧民のために無料開放される。
 それにしても広い浴場だ。軽く首を動かすと、何人も自分と同じように愉しんでいる者が居る。
「どうも〜」
 と手を挙げて挨拶すると相手も同じように応えた。

「はーい。見慣れない人ね。お近づきにバラ水はどう?」
 一人の婦人が声を掛けてきた。色白で小柄な婦人である。

●襲撃
 皇帝陛下に見立てたジル将軍の輿の周りを囲み市内を巡る。試験とは言え、敵国の刺客が本当に襲ってこないと言う確証はない。市街の複雑な通路を好んで通る輿に、一同は緊張を隠せない。

 昴は建物に目を配る。弓矢で襲ってくるならばどこだ?
 テオフィロスは、自分の出番は敵が現れてからだと心得た。過度の緊張をして不覚をとらぬよう警戒を昴に任せ鼻歌混じり。張りつめた糸は直ぐ切れる。心臓は熱く、頭はクールに徹しよう。ヴァレリーも焦る気持ちを抑え、自然体を目指そうとする。
 その他の者達もそれぞれに想いを巡らせ警護に就いていた。

「閣下!」
 言いつつ昴は輿の担い手の一人の足を払った。体勢が崩れ輿からジルが転げ落ちる。が、早いか、丁度ジルの首があった辺りを矢が通過。落下するジルの身体を昴が受け止める。
 矢は壁に当たって弾かれた。

 前方から柄物を持った襲撃者が接近。警護のうち半数近くが反射的に駆け出し斬り結ぶ。ヴァレリーは前方に盾のように立ちはだかり、敵を待ちかまえる。それを見届けたテオフィロスは、
(「前は大丈夫だ。俺なら引き着けて後ろを襲う」)
 さっと後方に回り、輿を背にして身構える。案の定、後方からも敵の襲来。

 功を焦る突撃組が斬り結んでいる間に、第二波が迂回し突破。輿に向かってくる襲撃者を寄せ付けまいと奮戦するヴァレリー。後方では同様にテオフィロスが防ぐ。昴はジルの傍らにいて避難経路を発見。
「あなた! あっちから逃れて応援を」
 囲みの一角を破ると、輿の担ぎ手に指示を出す。後は応援が来るまで三人で持ちこたえればいい。輿を立てて盾とし、護りも堅く戦い抜く構え。
「これまで!」
 ジルが試験の終了を告げた。
「敵に向かって突進した奴。戦場の先駆け争いではない。護衛を忘れてどうする? 今みたいに斬り結んでいるときに突破されたら防ぎようがない。失格!」
 そう言った後、
「昴、良い機転だ。ヴァレリー、基本に忠実だな。テオフィロス、良い判断だ。‥‥おまえ達は合格だ」
「それに、なかなかの腕ですな」
 襲撃者役の一人が言った。
「ああ。なかなかの手練れだ。流石のおまえ達も危なかったぞ」
 昴がさっきの矢を改めると、鏃の部分が丸い玉であった。当たっても刺さることはない。

●感謝の祈り
 聖日の朝。司教でもあるマルティヌス・ミラは、全会衆を前に教えを説いている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 丁度、今日学ぶマタイによる福音書10章はジーザス様が12弟子を選び、彼らを使わすに当たり、彼らが知らねば為らぬ事を教えてお出でになるくだりじゃ。
 ここに記されている原理は、使徒達の時代だけではなく、全ての時代、主が再臨される迄の全ての時代に適用されるものなのじゃ。この箇所で主がどういうことを教えておられるのであろうか? それは、我らがこの世にあって主の福音を宣べ伝える時、反対者も出てくることを知るようにと言うことじゃ。主は我らが反対者に直面する時、いかなる態度をとるべきか? 
それから迫害者の直接攻撃はどこから来るかに着いて。また間接的な攻撃は何であるかを解かれて居る。
 そして最後に、迫害が来た時どのように対応すべきかについて記されているのじゃ。

 主はここで使徒達を遣わされるのは、狼の中に羊を送り出すようなもの、と言われた。羊とは使徒達、あるいは主の弟子達全てを指しておる。

 羊は全ての家畜の中で、恐らく最も依存的で無力で、しかも愚かな生き物じゃ。羊は危険な物だけではなく、無害な物によってもしばしばパニックになる。まして本当に危険な物が来た場合、逃げる以外に手段は無い。生まれながらに自らを護るものを持っては居らぬのじゃ。

 詩篇23篇を挙げるまでも無く、羊は食べる草を選別する時、識別力が無いため羊飼いは毒草を食まぬよう導かねばならぬ。また、天気の急激な変更や害虫に傷つきやすく、病気になりやすいので、定期的に個人的な危険の兆候、すなわち切り傷、すりむけ、害虫のチェックを怠ってはならない。羊の目や耳の周りに飛んでいるハエすらも、彼らをいらつかせ恐怖を与えるため、彼らはしばしば頭を木や岩にぶつけて死んでしまう。あるいは虫が目や耳に入り、盲目になる例もあるのじゃ。
 身篭った雌羊は、走ったために胎の子羊を失ってしまったり、自分自身を疲れ果たして死んでしまうこともある。
 羊と言うものは、実際の危険や予想される危険から逃れようと、時々盲目的に行動しパニックになる。そういう生き物じゃ。
 笑うでない。主の目から見れば我らとて大差は無いぞ。

 しかし、ただでさえ危うい羊の、最も大きな敵は狼じゃ。
 世界の多くで最も悪い略奪者はいつも狼じゃ。羊飼い達は羊の健康や、羊を満足させるどころか、羊を生かし続けておくそのことが、いかに難しいかを知っておる。

 主はここで、羊と主の弟子達全てを同じにしておわす。主は
『‥‥私があなた方を遣わすのは、狼の中に羊を送り出すようなものである』
 と、言って居られる。はっきりと「狼の中に羊を」と言い切って居られる。これは妙な表現ではなかろうか? 羊の中に狼が来るのは判る。それは当たり前の事件じゃ。じゃが主ははっきりと、狼のまっただ中に、狼の巣窟に羊を送ると言われたのじゃ。これはいったいなぜじゃろう? 主は全き良き羊飼いじゃ。神の愛で以て羊を愛される方。そして、羊のために命をお捨てになる方である。主はかく宣(の)られた。『私は良い羊飼いである。良い羊飼いは羊のために命を捨てる』と。ヨハネによる福音書10章11節じゃ。
 それなのに主は弟子達を遣わすのは羊を狼の中に送り出すようなものとおっしゃられた。これはいかなることじゃろうか? それは羊、即ち主の弟子達が、主のために直面する迫害の事を言われたのじゃ。この世は主の民を憎み、迫害する事があると言われたのじゃ。
 ここで主は、主の弟子であることは楽しく全てか順調で成功する事ばかりだと思っては為らない。寧ろ主の名故に苦しむことを覚悟せよ。と、お告げに為られているのじゃ。

 かつて主は、山上の垂訓で『狭い門から入りなさい。滅びに至る門は大きく、その道は広いからです。そしてそこから入って行く者が多いのです』と説かれた。この世の教えや偽りの宗教は、私の言葉を信じていれば全てが上手く行き、事業にも成功し、苦しみに遭うこともないなどと言う。しかし、それは偽りの約束じゃ。

主を信じない人々は、この偽りの約束に惑わされて広い道に留まり、滅びに向かって歩んでいる。じゃが、彼らはそれが命の道であると誤解して居るのじゃ。

 ともすれば、敬虔なる主の民であっても、健康である事と金持ちになることと物質的に成功することが神に喜ばれる人生を送っている証拠であると考えやすい。じゃがそれは間違いじゃ。かつてローマの執政官マリウスは、ユグルタ戦役に共に向かう戦友達にこういった。『私が君たちに提供できる物は血と汗と涙である。人は生まれながらに貴いのではない。国家に尽くすそのことによって尊いとされるのである』と。
 この世の指導者さえこうなのじゃ。戦いには困難や苦しみ、様々な危険がある事を説明して居る。ならば、主が弟子の要求と危険について警告をせずに遣わすことがあるじゃろうか? 主は警告された。使徒達も調子の良いことを言って人々を主に導くことをしなかった。決して、主を信仰すれば病気にならぬとか治るとか、商売が繁盛するとか、この世で成功すると言わなかったのじゃ。かえって主に従うことは犠牲も伴うとはっきりと語った事が、聖書に記されておる。

 使徒パウロは彼の信仰による子、テモテに対して『キリスト(救い主)である主にあって敬虔に生きようと願う者は、皆迫害を受けます』と、はっきり語った。それは敬虔に生きるといつでもこの世から苦しめられたり迫害されてばかりいると言うことでは無い。主の生涯や使徒の生涯は絶え間ない困難と迫害にあったと言うのでは無い。楽しみの時や喜びの時、休みの時も事実あったのじゃ。しかし、主に忠実に生きるならば、時々、あるいはある程度サタンとサタンの世の攻撃に遭うのじゃ。色々な誘惑もあろう。時には非難されたりもする。あるいは剣を以て襲いかかる敵もある。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 そうして主の道を行うために遭遇する様々な困難について語った後。このたび通信使節に選ばれた者達を、自分の右に並ばせた。

「ここにいるルスキニア・サビーヌス、ガルシア・マグナス、アン・シュヴァリエ、そして佐藤御法の4人は、明日異教徒の地へと旅立つ。
 アラビア教徒はアブラハムの庶子、婢(はしため)ハガルによるイシュマエルの裔。主が誓われたように彼らも大いなる民族となった。しかし、彼らは天地の創造主たる父と、善を為す事を識っているが、主の福音を知らない。主の十字架の贖いを受け入れぬどころか、偉大なる預言者ではあるが人の子であると妄言を吐いておる。総じて言わば我らの道理が通用しない異教徒じゃ。
 今、彼らの旅の安全を感謝して祈って欲しい」
「このルスキニア、確かにお役目を果たして御覧にいれますわ」
 拍手を受けながら力強く言い放った。

●船出
 湾の入口を封鎖する青銅の鎖が、次々に下げられて行く。風をはらむ帆は浦風を受けてはち切れんばかりに膨らんでいる。帆の穴に通したロープを調整し、水主(かこ)達は風を捕まえる。
 流石ビザンツ海軍の船。滑るように動き出し、月の海を進んで行く。これから帝都〜エフェソ〜スミルナ〜ペルガモン〜ティアティラ〜サルディス〜フィラデルフィア〜ラオディキア〜フィラデルフィア〜スミルナ〜帝都の巡りで、旅をするのだ。
 遠くなる帝都の明かりを見つつ、乙女の感傷に浸るアン。
「荷物を改めよう」
 ガルシアが言った。聖遺物は金銭では量れない価値がある。正確に言えば本物かどうかよりも、人々がそれを信じているか否かが重要なのだ。しかし、それにしても、コンスタンティヌス大帝の爪だとか、エルサレムの神殿の土台の一部だとか、聖パウロが織った敷物の切れ端だとか、はたまた十字架上のジーザスに酸っぱい葡萄酒を捧げた投げ槍の穂先だとか、目録を見るにいかがわしいものばかりだ。その中でも厳重に仕舞われていたのは次の七つ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.ナルド壺の欠片
 マグダラのマリアがジーザスに捧げたナルド香油を入れていた石膏の壺の欠片
2.墓石の欠片
 ジーザスが3日間葬られていた墓を封印していた石の欠片
3.聖ヤコブの剣
 ジーザスを捕縛しに来た者の耳を切り落とした剣
4.聖王ダビデの竪琴
 聖王ダビデが使ったと言われる竪琴
5.モーセの杖
 預言者モーセの使ったと言われる杖
6.ギデオンの角笛
 士師ギデオンが三百人の勇士と共にミディアン人たちを討った時の物と言われる角笛。
7.サムソンの髪
 デリラが士師サムソンから切り取ったと言われる髪の毛の一房。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こちらもいかがわしい事には変わり有りませんね」
 ルスキニアが言った。本物だとしても、石膏の欠片には薫り高きナルドの香油の残り香も無い。尤も千年前の代物だから、寧ろ残っていたら疑わしさは増すこと請け合いだ。墓石の欠片なんぞはそこらで売られている石弾の出来損ないみたいだし、サムソンの髪の毛に至っては、どこの床屋から仕入れてきた。と言うような代物である。
「でも、この剣凄く切れそうですよ」
 聖ヤコブの剣に見とれていた御法が言った。確かに、魅入るような剣である。
「マルティヌス殿によると、この七つだけは『何があっても奪われるな』との話だ」
 してみると存外に本物なのかも知れない。
「あはは。まさかね」
 アンは笑いつつも、怪しい聖遺物から目が離せなかった。
「そう言えば、マルティヌス殿が出航の後で封を解けと言われた物がありましたわ」
 ルスキニアは巻物の封を解く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 道中、会話に気を着けるように。アラビア教徒は我らの使えぬ魔法を持っておる。
 例えばグーシュバスタルと言う魔法は、あたかも隣に立っているかのように音を聞く
 ことが出来ると聞く。重要な話は筆談で行うのが望ましい。
 くれぐれも気を着けてな。

 心より
                              マルティヌス・ミラ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●蝶の谷
 近衛の試験に合格した者達。すなわち昴、テオフィロス、イワン、ヴァレリーそしてリョウはジルから直接口答で任務を与えられた。
「アナトリアに派遣したスパイからの報告書が届いた。帝国の領土の中に、アラビア教徒達が密かに探している物があるらしい。知っての通り聖地エルサレムは彼らの手にある。なんでも聖地所有の正統性を握る証だそうだ。その場所は古文書に【蝶の谷】と記されている。実に取り留めもない話だが、調査に向かってくれ。今判っている候補地はアッタロス2世の街の近くのヘルムス峡谷・クルージュの近く・マケドニアのアトス山・デルファイ・セルビア南部のプレセボ峡谷・ロードス島のペタルーデス渓谷のいずれかであろうと言う話だ」
 地図と見比べてテオフィロスはぼやいた。
「ずいぶんとバラけて居ますね」
「絞り込めていたら、アラビア教徒どもが先に聖地の権利書を手にしているだろう」
 如何なる物か誰にも判らないが、聖地エルサレムの正統な所有者の証。それが蝶の谷に隠されているのだと言う。

●胎動
 誰も知らない冬の谷間。幾万もの蝶が羽を畳み、冬の薄い陽の中にじっと忍んでいる。
 いや‥‥蝶達ばかりではない。無数の石像が眠る洞窟の中、一つの影が妖しく動く。
 禍々しい姿の石像の中でも、一等恐ろしく、しかも巨大な石像の前で影は跪く。
「わが主よ。もう少しです。暫しのお時間を」
 影は、笛のような声でそう言った。

 盛りを過ぎつつあると雖も、冬はまだ続く。その力強い行進が、谷に風と雪とを連れてきた。


●第2回『冬の行進』選択肢(同時実現可能なものは複数選択可能)
ア:【蝶の谷】の候補地へ向かう (協議して一つを選択・移動時になにかあるかも)
イ:七教会の○○で○○(移動時になにかあるかも)
ウ:○○殿に侍る(同意が有ればPC指定も可)
エ:○○への転職準備(初期になれるクラス限定)
オ:愛とロマンに生きる
カ:その他

 ビザンツは自分で道を切り開いてやろうと言う上級者向きです。セーフティーネットとして参加者は毎回のプレイングに以下の符号を付けることが出来ます。符号が意味する事を重点的に処理されますので、必ず明記してください。符号は矛盾しない限り複数書けます。勿論、目安ですので、プレイング如何によっては個人描写も業績を上げることも両立いたします。

A:プレイング重視。
 仮令それを通すことでどんな酷い目に遭うとしても、書いたとおりの行動をさせて欲しい。

B:成り行き重視
 分かり切った失敗行動の場合。出番が無くなっても良いからその部分のプレイングを無視して欲しい。

C:描写重視
 大したことが出来なくても良いから、個人描写を多くして欲しい。

D:業績重視
 個人描写が無くとも、希望する方向に状況を動かしたい。

今回のクロストーク

No.1:(2007-02-10まで)
 答えたいものだけ答えて下さい。

●警護
仲間と共に貴人の輿の脇を歩いています。
敵が襲ってきました。どうします?

●聖遺物
解説からして本物かどうか非常に疑わしい物もあります。どれか一つを自分の物として貰えるとしたら。どれを選びますか?
1.ナルド壺の欠片 EP:0
マグダラのマリアがジーザスに捧げたナルド香油を入れていた石膏の壺の欠片
2.墓石の欠片 EP:0.3
ジーザスが3日間葬られていた墓を封印していた石の欠片
3.聖ヤコブの剣 EP:5
ジーザスを捕縛しに来た者の耳を切り落とした剣
4.聖王ダビデの竪琴 EP:2
聖王ダビデが使ったと言われる竪琴
5.モーセの杖 EP:3
預言者モーセの使ったと言われる杖
6.ギデオンの角笛 EP:1
士師ギデオンが三百人の勇士と共にミディアン人たちを討った時の物と言われる角笛。
7.サムソンの髪 EP:0.1
デリラが士師サムソンから切り取ったと言われる髪の毛の一房。

●公衆浴場
気が付いたら、混浴の時間になっていました。どうします?