若き獅子たちの伝説

■クエストシナリオ


担当:秋山真之

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年05月01日
 〜2007年05月31日


エリア:ビザンチン帝国

リプレイ公開日:05月19日08:25

●リプレイ本文

若き獅子たちの伝説
■第4回リプレイ:アドベンチャーマーチ

●旅愁
 ゴト。不意に床が跳ね上がった。柏布団をさっと跳ね上げ、剣に手を掛けるリョウ・アスカ(eb5646)。一呼吸の後、
「ははは‥‥」
 照れ隠しの笑い。
「まだ交代の時間ではありませんよ」
 イワン・コウルギ(ec0174)が気付けのワインが入った革袋を渡す。

 協議の結果。見習い近衛達は使節の護衛として同行していた。
 繁文縟礼な宮廷の作法は帝国の威儀を示す方便であるが、実務に置いては万事実状重視にある。遠隔地にあって実状に合わない命令は大局を誤る。このため、将軍や提督、独立任務を帯びた者達に関して、帝国は任務遂行のための独断専行を認めていた。部分的に命令に背いても、大筋として従っていれば罪に問われない。
 盤根錯節した謎を解くためには、聖遺物の謎を解かねばならないそのためには使節と同行する必要がある。このような事は報告出来る環境が整ったときに連絡すれば良いのである。

 さて。アナトリアの旅は山勝ちの地形が続く。高原の白い花が一行の目を楽しませる。雪解け水を集めて流れの速くなった川。浅い川だが岩襞をすり抜ける水の音は滝のようである。
 長渡昴(ec0199)はその勢いを見て
「なんだか故郷の川を思い出しますね」
 しみじみと言う。

 その夜。昴と御法は同じ時間に見張りに着いた。遠く異国の地で同じ国の者と出逢う。それは何か国に帰ってきたような錯覚に陥り、少々懐かしさがこみあげてくるものだと昴は思う。御法と出会えたことで久しぶりに日本語同士の会話ができるのだから、これで会話が弾まないといったら嘘になるだろう。
 二人は焚き火を囲んでひと時の会話を楽しむ事にした。
「日本も春なんですよね‥‥我が家の桜はとても美しいのですよ」
 焚き火を眺めながら御法は嬉しそうに昴に言った。
「そうですね、きっと今頃は花見には良い時期なはずですね」
 御法にそう言うと、祖国でも同じ月が浮かんでいるだろうかと昴は月を見上げた。月明かりと焚き火の炎が二人を優しく照らし出す。
「お茶と桜餅‥‥たべたいなあ」
 何気なく呟いた御法の言葉に昴はにっこりと微笑むと、独特の歌い方で御法に語りかけた。
――――――――――――――――――――――――――――――
 異国(とつくに)に 逢うて楽しき 大和人(やまとびと)
  訪ねまほしき 汝(な)が郷(さと)の宇(いへ)
――――――――――――――――――――――――――――――
 それはジャパンに伝わる定型詩、和歌である。独特の決まりごとと節のついた歌い方で、色々な感情表現ができるのだ。昴は人事詠で御法に会えて嬉しいということ、あなたの故郷をいつか見てみたいと詠った。
 御法は少し驚いた顔をして昴を見ていたが、やがて嬉しそうに口を開いた。
――――――――――――――――――――――――――――――
 我が庵(いほ)は 鄙(ひな)と雖(いえど)も 大君(おほきみ)の
  行幸(みゆき)賜いし 風雅士(みやびを)の里

 みすずかる 信濃の国の 奇稲田(くしなだ)の
  月の名に立つ 姨捨の山(おばすてのやま)
――――――――――――――――――――――――――――――
 御法の返歌は自分の故郷のすばらしさを詠んだもの。歌が終わると二人はなんとなくクスクスと笑いあった。
「いつか見てみたいです」
「ええ、いつかご家族でいらして下さい。ご案内いたしますよ」
「家族‥‥」
 御法の優しい言葉に昴の表情が一瞬曇る。
「どうかいたしましたか?」
 御法はそれに気づき心配そうに覗きこんだ。昴は大丈夫という代わりに笑顔で答え、酒を勧めた。
――――――――――――――――――――――――――――――
 太刀一つ 縁(よすが)に生きる吾なれど
 なお恨めしき 兄の面影
――――――――――――――――――――――――――――――
 お酒を飲みながら昴は自分に語りかけるかのように小さな声でポツリと呟いた。
 御法は気づいていないのか、何も言わず月をながめていた。
 この道は少なくとも故郷には続いていない。そう思うと何とも言えない感傷的な気持ちになってしまい、昴はお酒を一口飲むと月を見上げた。故郷に見えるのと同じ月を。
 そして、滲む月に浮かんだ帰れぬ道を辿りし兄の横顔を。

 朗々と光る月影は、雲無き美空に輝いていた。

●文字は語る
 意味不明。しかしそれで居て意味深な記号。異国の文字かも知れぬそれは、紗の上に刺繍されていた。イーシャ・モーブリッジ(eb9601)の持ち込んだ珍品に、学師は見入る。
「何だね?」
 異邦人ケマル・トゥファン・ユルマズは、皇后のサロンに出入りする学師。上は天文の運行から下は世界の民情まで、知らざる物無きと豪語する学者であった。少なくとも、
「知る者の名か、記した書物か、帝国に知る者がいるかどうかを知っております」
 とは彼の弁。些か誇張はあるものの、魔法を除く博物学に関しては有数の知識人であった。
「ふむ。これは初めてみる文字だな」
(「えー」)
「だが、本に語らせることは出来る」
 そうして。彼は呪文を唱えた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 神の指を以て銀のタブレットに刻まれし言葉。

 神官ヤプシリは、ハッティの偉大な王ムワタリにかく告げり。

 ハッティの千の神々は、正義の業を王に命ず。
 ラーメススー・メリーアメンは暴虐の王。
 虐げられしゴシェンの声は、ハッティの地境を越え響く。

 強き牡牛は猛き王、4つの角を生やしたり。
 国をば挙(こぞ)る猛き王、今しもハッティを呑まんとす。

 嵐と雷に生まれたる、テシュブが鍛えし神の剣。
 今、一振りを王に与う。この剣(つるぎ)もて魔を降せ。
 今、一流を王に与う。この旗の下、兵を呼べ。

 テシュブの剣は雷(いかずち)の剣。闇を切り裂く光の剣。
 テシュブの旗は雷鳴の槍。味方の矢玉の当たる事無し。

 強き牡牛は一打ちに、両の角をば失わん。
 ラーとアモンは一打ちに、大王が前に崩れ去らん。

 ハッティの千の神々は、敵の命を王に渡す。
 ムルシリの子ムワタリよ、ハッティの地境を越えて征け。
 乳と蜜の流れる土地は、テシュブの剣に開かれぬ。

 (地図の部分)

 アシュラの使徒、ガイの戦士クロトよ。
 凍れる時の呪法を解け。
 寝ずの番人の呪いを解くは汝のみ。
 彼は癒えぬ呪いを受け、永き時を流離う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「この地図は、アナトリアの東方に良く似ておりますな」
「アナトリアですか?」
「大分東のほうです」
 学師は地図を照らしながら指し示した。

●錬金術師
 人里離れた隠れ屋とも言うべき石造りの舘。何の飾りも無いものの、敷地だけはやたらと大きい。山の岩肌より石樋で自前で引いたとおぼしき水道が流れ込んでいた。
「ここだな‥‥」
 テオフィロス・パライオロゴス(ec0196)と昴は辺りをうかがいながら樫の扉の前に立つ。そして呼び鈴を鳴らし
「パラケルス先生はご在宅か?」
 大声でテオフィロスが呼ばわる。暫くして、
「先生になにかご用ですか?」
 青年が顔を出した。
「モリス殿の紹介で先生の教えを請いに来た」
 テオフィロスが手短に用件を話すと、
「つい先ほど出かけられましたが、宜しければ中でハーブティーでも‥‥」
 思わず目移りするのは仕方ないだろう。応接室らしき部屋の中にも、掛け流しの水道が通っている。豊富な水量を利用した水車の音が、リズミカルに臼を叩いている。
「今、鉱石を砕いているところです」
 気を利かせた青年が解説する。
「先生が戻られるまでにかなりありますが、バラ水の作り方でも体験して行きますか?」
 帰りを待つまで時間は余っている。
「ほう。どうやって作るんだ?」
 テオフィロスはハーブティーを啜りながら、身を乗り出した。

 地下に案内された二人の前で、青年はガラスの容器と銅の管を組み合わせ、実験装置を組み上げる。ランプの火を調整し冷却器に水を通す。蒸気がバラのポプリを通り、ドレンが還流する仕組みだ。そして、十分に蒸気を馴染ませた後、冷却器へ繋がるコックを解放してやる。すると
ポタポタと、香料と共に上に至った蒸気が冷却されて容器に落ちてくる仕組みだ。
「なに、簡単な単蒸留です。揮発度の違いで精製する精流ほどの難しさはありません」
 言っている事の半分も判らぬが、まもなく小瓶一杯分のバラ水ができあがった。

  テオフィロスは先ほど出来たばかりのバラ水を不思議そうに眺めながら素直な感想を呟いた。
「しかし‥‥制作するところをはじめて見たが、見ていても俺には半分も分からなかったよ。時間をかけてようやく小瓶ひとつ、不思議なもんだな」
「確かに、先ほどまではただの水だったはずなのに道具を通って出てきた時には違うものに生まれ変わるというのは不思議ですね」
 昴もテオフィロスの言葉に同意し、バラ水の香りを嗅いだ。
出来たてのバラ水は生まれたての匂いを放ち、冷却してもまだほんのり暖かい気さえする。 青年は冷めたハーブティーを入れなおしながら二人に話しかけた。
「正しい道具と正しい材料と正しい手順を通れば、どんなに時間をかけてもいつか答えにたどりつきます。何事もあせりは禁物なのですよ、焦りや先入観は真実を曇らせ結局は全てを無くしてしまう事が多い。このバラ水を大量につくろうと手順や量を変えてしまえば匂いが薄くなったり飛んでしまい台無しになるようなものと言えば良いのでしょうか」
 青年の言葉はバラ水の話しのはずなのに、昴とテオフィロスはなぜか自分達に言われているような錯覚に陥った。いや、もしかしたらその言葉は本当に自分達に何か伝えようと語っているのかもしれない。
 しかし、青年はそれ以上は語ることなく2人に新しくいれはハーブティーを差し出し飲んで下さいと促した。

 そうこうする内に、舘の主が帰ってきた。
「オーフェン。掃除は終わったか?」
「先生‥‥。また今日もパンだけですか?」
「よろこべ、今日は水付きだ。もっとも‥‥早く掃除せんと、水だけになるがな」
 錬金術師パラケルスは、弟子のオーフェンに向かってうそぶいた。とかく学師と言う人種は浮世離れしている者が多い。探求する分野においては識らざるものは無いが、世知に疎いもの。その分弟子の負担は大きいようだ。
「おや? この方たちは?」
 パラケルスは怪訝そうに弟子に聞いた。

「先生、こちらの方達はモリス様の紹介でいらしたお客様です」
 青年‥‥いや、オーフェンの紹介に昴とテオフィロスは慌てて立ち上がると深々と一礼した。
「学士殿、我々はモリス殿の紹介により知恵を拝借いたしたく参りまし‥‥」
「あー‥‥堅苦しい挨拶はいい、いい、パラケルスと呼んでくれ。君達の質問が私の興味を持つものならば我が神ジーサスの名において答えようじゃないか」
 パラケルスは昴の挨拶をかき消すように芝居かかったように天を仰いで高らかに言った。学者など研究者達には変わり者が多いと聞いてある程度の覚悟はしていた二人だが、やはり実際に目の前でその片鱗をみると気後れしてしまう。昴とテオフィロスは見合わせると苦笑いをした。
「先生、お客人が驚いてます。普通に話してください普通に」
「ほう、私のどこがおかしいと言うのだね?」
 オーフェンは掃除をしながらパラケラスをたしなめるが、パラケラス本人は気にもする様子はない。
このままでは話題に入るまえに日が暮れてしまうと、テオフィロスと昴は自分達の聞きたかった事を素直にパラケラスにぶつけてみる事にした。
「実は‥‥」
 パラケラスは二人の話しに興味深げに相槌を打ち、時々オーフェンに耳打ちすると何かを取って来てもらっていた。
その度に、折角掃除を始めた場所に色々と本や古文書が集められていく。
話しが一通り終わる頃には、部屋は確実に先ほどより埃っぽい匂いで埋め尽くされ散らかっていた。
「ふむ、これは違う‥‥これも違うか。どれも違うな‥‥そうだあそこかも知れない」
パラケラスはブツブツと呟きながら部屋の奥の書庫らしき所に姿を消した。何かを探しているらしく他が見えていないのか、先ほどの本と古文書に体をぶつけて山を崩してしまう。気にせず奥に消えた彼を見送ると、オーフェンは日常の事のようにちょっとだけ顔をしかめてもくもくと片付けをはじめた。
「先生は夢中になるとそれ以外に何も見えなくなるんです」
オーフェンは本を元々あった場所に戻しながら、独り言に間違えそうな口調で言った。
「はぁ‥‥」
気後れしながらも昴は返事をして気を落ち着かせるためにお茶でも飲もうと思ったが、お茶はすでに冷め切りなかには埃が大量に浮かんでいるのを見てなんとなくそのままカップを戻した。
「おお、これだこれだ」
一瞬忘れられてたらどうしようかという不安な時間を過ぎた頃に、パラケラスは上機嫌な声をあげながら奥の書庫から一本のスクロールを持って現れた。
一目で分かるぐらいかなり古いスクロールだ。
 パラケラスはそれを慎重に広げながらこう言った。
「こういう記録がある」
 古い羊皮紙を張り付けたスクロール。その古文書を指さしながら読み上げる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 智慧ある者は訪ねよ。

 アボロンに捧げられし予言の泉。神託の泉。
 読み解けぬ者には破滅を、智慧ある者にはモイラをその手に握らせん。
 聞け、紡ぐものよ。角笛の吹き鳴らされる時。汝は地を受け継ぐであろう。

 疾風のアルゲイン ポンテス。汝、智慧よ。神に愛されし者よ。
 炎のアレス。汝、力よ。主の恵み深き者よ。
 日出ずる処のアテナ。汝、勇気よ。統べる者、率いる者よ。
 汝ら、千の戒めを一触に解き放つ者よ。
 大帝の剣を携えて月の神殿を訪ねよ。
 ヘロストラトスの火に産声を上げし大帝の如く。汝らは運命を断ち切るであろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 そこから先は、破損していて失われていた。
「10日後にまた来てくれ。それまでにもっと調べておこう」
 パラケラスは真顔でそう言った。

●アドベンチャーマーチ
 一種の誘いであった。正使ガルシア・マグナス(ec0569)と、その護衛に収まり込んだ近衛候補達は、宿場町に宿を取った。使節と雖もガルシアも一級の武人である。
 月明かりで薄暗い中、昴の部屋の明かりがわずかに灯された。
使節の人たちはもう眠りの中だろう。目覚めに昴はイワンから受け取ったワインを少しだけもらうと、荷物の中から聖書を一冊取り出して読み始める。
「お若いのに勉強熱心なんですね」
 イワンはそう言いながら自分の持ってきたワインを飲んだ。
「イワン殿、私はまだ若いからこそ勉強しなくてはならないことが沢山あるのです」
 昴はそういって眼を細めて微笑むと、視線をまた聖書へと落とした。
その時、明かりの届かない闇の向こうで草のすれる音が聴こえた。
イワンはワインを飲みつつも腰の武器にそっと手を添え、昴は闇の向こうを見透かそうとすべく睨みつける。
「交代前に酒とは余裕ですね」
 闇の向こうから声がしてリョウがガルシアと共に現れた。
「見回りをしていたら、楽しそうにお酒を飲んでいる昴殿達を見かけたものでな」
 ガルシアはそう言うとイワンに向かってニヤリと笑った。
「はは‥‥月明かりの下で中々風雅でしょう?」
 昴は笑って答える。和やかな空気が当たりを包んだ時、急に風が吹き雲が流れ始めた。4人は顔を見合わせると空を見上げた。
 みるみる雲は月を隠すように周りを暗くしていく。
「嫌な天気になってきましたね、何事もなければ良いのですが‥‥」
 イワンは空を見上げたまま顔を僅かに曇らせる。月はすっかり雲に隠されて部屋からのランプの僅かな灯りのみになってしまった。
 一瞬の沈黙の中、別な場所から突然金属のぶつかり合う音と争う声が聴こえてきた。
「言った矢先からですか!」
 イワンの苦々しい声に反射的に全員が音の方を向く。その時、人影が音も無く昴とイワンの背後からすべるように現れた。人影の手には独特の形をした短剣ジャンビーヤが握られている。
「チィッ」
 ガルシアとリョウは同時に走り出すと、昴とイワンの間を割るように人影に向かって飛び込んだ。
 二人は盾を前に出すように相手の攻撃にに割り込む。盾に武器が当たりガッという鈍い音があたりに響いた。本気で相手を殺す意思の見える威力に、リョウはそのまま躊躇せずに短剣を受け流しながらスマッシュを相手に叩きこむ。
 ランプの明かりに照らされて敵が吹っ飛ばされた時に、ゴドラの布をマスク風に顔に巻いているのがリョウとガルシアには見えた。
「襲撃だ!」
 ガルシアの声に全員の顔が険しくなる。背後からの攻撃にも備えて、昴とイワンは互いに背中を合わせた。吹っ飛んだ相手は石造りの壁にまともにぶつけると体を大きくバウンドさせて動かなくなったようだ。
 ガルシアはもう一人の相手と盾でけん制しつつオーラボディを発動させ、体を淡い輝きに包み込ませる。そのままカウンターをかけようとした時、敵はさっと後ろに飛んでけん制した。
「みんな大丈夫か!?」
 息を切らせながらテオフィロスが合流してきた。
「テオフィロス殿! 暗殺者がいます。聖遺物を!」
 昴は周りを注意深く見ながらテオフィロスに向かって叫んだ。
「わかってる!あっちはヴァレリーと俺のやとった傭兵がなんとかしてる!」
 テオフィロスはそういうと皆の輪に加わり言葉を繋げた。彼の一時雇いした兵士をヴァレリー・セティオニス(ec0166)に任せてあったのである。
「皆も応援に入ってくれ」
「こいつを倒したらすぐにでも合流だ」
 ガルシアは目の前の敵を睨んだまま答え、じりじりと自分の間合いへと詰めていく。
「ガルシア殿。情報を得るためにも生かして捕まえましょう」
 リョウの言葉にガルシアは暗殺者から目をそらさずに軽くうなづくと、攻撃の体制に入った。
 すると敵は防御の姿勢をとるとピィー‥‥と指笛を鳴らした。とたんにシュッっと空気を裂く音が聞こえ、一本の矢が指笛を吹いた敵の眉間に短い音を立てて貫く。まるで敵に捕まるぐらいならという意思が感じ取れるような、狙い済ました攻撃だ。
「やはり他にもまだ敵がいたか」
 誰に言ったわけでなく昴は呟き、矢の飛んできた方向を見据えるように腰を低く落として身構えた。
 その一本の矢が合図かのように、無数の矢が五人を襲う。イワンと昴は部屋の物陰に飛び込むように突っ込み応戦用に弓を取り出し、それを援護するようにガルシア、リョウ、テオフィロスの三人は盾で防御に入り。
「あながち100人の暗殺者という話しもウソじゃないようですね‥‥」
 イワンはカラカラに乾いた唇を一舐めすると、窓の隙間から矢を放って応戦を始めた。
それに続くように昴とテオフイロスも飛んでくる矢の方向を見定めては応戦した。
 矢叫びと共に、建物を取り囲むように黒い装束の人影が一人‥‥二人‥‥と次々と降り立つ。最初の数人は矢で倒せたものの、雨のような矢が止まる頃には建物をすっかり黒装束の集団に囲まれてしまった。
「どうやら、完全に囲まれたようだな」
 テオフィロスは盾の隙間から外を慎重に見た。 
「これだけ騒いでも宿の者が騒いでいないところを見ると、隠れたかあるいは‥‥」
 昴は顔をしかめながら武器を弓から剣に持ちかえる。
 5人は確かめるように互いに目配せして頷くと、ドアと窓の二手に別れて飛び出した。
「うぉぉぉぉぉ」
 ガルシアはオーラパワーとオーラリベイションを更に発動させて敵に飛びこんでいった。とたんに幾人もの敵が同時に彼に向かって武器を振りかざし襲ってくる。
 ガルシアは盾で左側からの攻撃を受け止めた。3本の剣が盾に一気に振り下ろされて、左腕にしびれるような衝撃。ガルシアは顔を僅かにしかめると、正面と右側の敵にスマッシュを叩きこみ、そのまま軸足をきゅっと回転させ、体を流し盾の剣を流す。
 数本の剣が彼を掠めるように通過した。オーラボディをも発動させているとはいえ、あくまで軽減で完全に防げるものではない。
 思わず呼吸をぐっとこらえるように気合を入れてよける。視界の下から鋭い切っ先が見えた。よけられない‥‥そう思ってある程度のダメージを覚悟して次の攻撃態勢に入った時、横からイワンが突っ込み相手の首に刃を当てるとそのまま敵を引きずり投げ捨てるように走り抜けた。
「はやくここを何とかしましょう、ヴァレリーと傭兵がいるとはいえ敵の主導下での戦いは不利です」
 数人の暗殺者を切り倒しながらイワンは言うと、剣に付いた血糊を素早く払いまだいる敵に睨みをきかせた。
 テオフィロスの援護を受けつつ窓側から飛び出したリョウと昴は、互いに背中を合わせて体をぐっと沈めるような攻撃態勢になった。
「倒せない相手だとは思いますが、人数がなかなか多いですね」
「ふふ‥‥臆しましたか?」
「そんなぁ酷いなあ‥‥俺に向かってきた事を後悔させてあげますよ、地獄でね」
 昴の言葉に冗談ぽく答えるリョウだったが、その目には本気の炎があがっていた。
「では‥‥」
「参る!」
 姿勢を低くした二人はぐっと足を踏み込むと、その力を一気に爆発させるように韋駄天のごとく走り出した。
 素早く走ってくる大きな男に敵は一瞬下がったように見えたが、高く跳ね上がり上からシミターを振り上げると同時に下からも数人が切り上げるような攻撃が襲ってくる。
「はぁっ」
 リョウは短く気合を入れると盾で上からの攻撃をなぎ払い、下の一人を蹴りあげるように一歩踏み込むとスマッシュを目の前の敵に叩き込んだ。
 敵はまたもや大きく吹っ飛び、数人を巻き込んで地面に叩きつけられる。
「チェーーストー!」
 昴も負けじと一人づつではあるがテオフィロスの矢の援護で確実に敵を斬り伏せていく。
 どれぐらいの敵を倒しただろうか、敵を倒すのが先か? 体力の限界が来るのが先か? と思われた時に‥‥。
 ピィィィィィィィ‥‥
 どこからか甲高い澄んだ笛の音が響いた。まるでそれが合図なように、敵の囲みが解けザッっと後ろに飛びのく。
「これは一体?」
 戸惑いながらも攻撃にそなえて構える昴にリョウもうなづく。
「まさか、聖遺物の方でなにか!?」
 チッとしたうちをしながら、リョウは不安気につぶやいた。
 音が止むと黒装束の一団は一斉に背を向けて夜の闇へと走っていく。
「まて!」
 リョウが慌てて追い討ちをかけようとするが、昴はそれを止めた。
「まずは合流だ」
 ガルシア、イワンの方も同じだった。
 笛の音が聞こえたかと思うと、生き残った敵は全員夜の闇へと逃げて行ったのだ。ここではこれ以上は情報は得られないと判断し、使節へ向かおうと合流を始めた時に建物の中からテオフィロスの声がきこえた。
「おい、みんなちょっと来てみろ!」
 何事かと思い、4人が集まると最初に襲撃にあった時にリョウに飛ばされた暗殺者の前にテオフィロスは立っていた。
「テオフィロス殿、これは?」
 昴は怪訝そうな顔をしてテオフィロスに聞く。
「まだ息があるようだ‥‥」
 テオフィロスの言葉に4人に緊張が走るが、それは杞憂に終わった。
 リョウのスマッシュをまともにくらったらしく、息をするのがやっとというぐらいの重症だということが目に見えてわかった。手当をすれば助かるだろうが、戦える力の欠片とて残っては居ない。
 良く見るとこの敵は他の敵と比べて幾分小柄な気がする。イワンが注意深く近づきゴランを剥がすのを、他の者は武器を構えて援護の体制をとって見守った。
「!?」
 ゴランが取り除かれ敵の顔が露になると、全員の顔が驚きに変わった。
「これはまた‥‥まだ子供ではないですか」
 イワンの言葉通りだった。少女と見紛う美しい顔立ちを持つ少年の顔はまだ幼さが残っていた。ゴランを外され、さらりと流れた栗色の髪は耳元で綺麗に揃えられている。
 しかし、その顔はむせる度に溢れだす口と鼻からの出血に青ざめていた。

●小さな命
 約束の10日が過ぎた。命は取り留めたものの昏睡状態の少年を伴い。パラケラスの工房に戻った一行を待っていたのは‥‥。
「な、なんじゃ!」
 ガルシアが戸惑うのも無理はない。御法は思わず手で目を覆い、ぽっと顔を赤らめた。リョウは硬直し、ヴァレリーは口をあんぐり。一番冷静なイワンさえも目を丸くしている。
 ルスキニア・サビーヌスをまんま縮めたような羽を持つ妖精のような者が出迎えたのだ。サイズはシフールの半分くらいだろうか。そして、狙い澄ませたようにリョウの頭の上に飛んで行き、ちょこんと座って陣取った。
 助手のオーフェンは遠い目をして、
「実験の最中、ガラス器具が破裂してこの子が現れました」
 ついさっき。実験器具の中からいきなりこの子が現れたと言う。
「‥‥こいつが洗浄したガラス器具に、なにやら不純物が付着していたらしい。まさか
わし如きが主の御業を再現しようとは‥‥」
 理由は判らぬが、失敗した実験で生き物を作り出してしまったらしい。
 雪のように白い肌。ラピスラズリのように輝く瞳。そして、黒貂の毛皮よりも艶やかな黒髪。違うと言えば羽を持つ事くらいだろう。
「な、なんじゃ。な、なんじゃ‥‥。くすくすくすくっ」
 彼女? が行うガルシアの口真似の声は、彼女を幼子にようなものであった。
「‥‥とりあえず‥‥服を用意しましょう」
 昴は、無邪気にはしゃぐ小さなルスキニアに、袖をちぎった端切れを巻きながら言った。

●第5回『勇気の歌』選択肢(同時実現可能なものは複数選択可能)
ア:ヘテ人の都(距離の問題でイ・ウと同時選択不可)
イ:異教の神殿跡(個別参照)
ウ:アッタロスの都(個別参照)
エ:○○殿に侍る(同意が有ればPC指定も可)
オ:賢者の石(要推理)
カ:その他

※移動者・新規参加者・再開参加者がいる場合。都合の良い場所から現れて下さい。

■解説
 ビザンツは自分で道を切り開いてやろうと言う上級者向きです。セーフティーネットとして参加者は毎回のプレイングに以下の符号を付けることが出来ます。符号が意味する事を重点的に処理されますので、必ず明記してください。符号は矛盾しない限り複数書けます。勿論、目安ですので、プレイング如何によっては個人描写も業績を上げることも両立いたします。
 訪ねるべき土地は、隔たっております。次回はバラバラに動く必要が在るかもしれません。また、人数が少ないため、一人で何役も働く必要があります。

A:プレイング重視。
 仮令それを通すことでどんな酷い目に遭うとしても、書いたとおりの行動をさせて欲しい。

B:成り行き重視
 分かり切った失敗行動の場合。出番が無くなっても良いからその部分のプレイングを無視して欲しい。

C:描写重視
 大したことが出来なくても良いから、個人描写を多くして欲しい。
(物語の展開が遅くなる傾向があります)

D:業績重視
 個人描写が無くとも、希望する方向に状況を動かしたい。


今回のクロストーク

No.1:(2007-05-10まで)
 襲ってきた敵の中に、まだ幼い子供が居ました。遺棄された死体に混じって、重傷の子供が残されました。あなたの対応は?