若き獅子たちの伝説
|
■クエストシナリオ
担当:秋山真之
対応レベル:‐
難易度:‐
成功報酬:-
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:2007年06月01日 〜2007年06月31日
エリア:ビザンチン帝国
リプレイ公開日:06月20日21:15
|
●リプレイ本文
若き獅子たちの伝説
■第5回リプレイ:勇気の歌
●勇気の歌
埃っぽい匂いのするベットに少年は寝ていた。
青ざめた顔、肌にこびりついて褐色に乾いた血の塊、そしてその少年を取り囲むようにいる数人の大人達。
襲撃の後に唯一生き残っていた暗殺者の少年の処遇を皆で話し合った結果、まずは命を助けるところからと学者のパラケルスの下に少年を連れてきたのだ。
最初は驚いたパラケルスだったが、すぐに助手のオーフェンにお湯と清潔な布の用意をすぐに命じ家に招き入れた。
「うーむ、これはいかんな」
苦い表情でパラケルスは唸るように言う。
「何か問題でも?もう助からないのでしょうか?」
リョウ・アスカ(eb5646)はいくら敵とはいえ子供を傷つけてしまった事にいささか責任を感じてしまい、何とか命だけは助けたいと願いつつ心配そうにパラケルスと少年の顔を交互に見た。
「いや、内臓の損傷は見た目よりも酷くはないし、骨も折れてはおらん」
パラケルスはオーフェンと共に少年の身体を布で綺麗に拭いていき、キズの具合を確かめならが言った。
「しかし、刀傷と頭部の裂傷による出血が大きかったらしく昏睡状態じゃ」
少年の服は黒い布だったので気付かなかったが、ガルシア・マグナス(ec0569)とイワン・コウルギ(ec0174)が手伝って服を脱がせていると、パリパリと血が乾いて布が硬くなっている音がした。胸元には大きな切り傷が周りをどす黒く腫らせ血を時々コポリと垂らしている。
「パラケルス殿、何とかこの子を助けてあげられないものでしょうか?この戦いの中で残った命、なにか意味があると思うのです」
長渡昴(ec0199)は真剣な顔つきでパラケルスに頼み込んだ。
「傷はふさぐことは出来るが、失った血液は元には戻らん。今この少年に必要なのは失った血液じゃ」
パラケルスは一冊の本をパラパラとめくりながら言った。
「新しい治療技術のひとつに“輸血”という方法がある」
そう言いながら、パラケルスはもっていた本を全員に見えるように開いて見せた。
そこには文字は読めないものでもわかる絵が描いてある。二人の寝ている人間、腕には何か管のようなものが刺さってお互いを繋いでいるようだ。
「これは‥‥医術書か?」
ガルシアは本に釘つけになりながら呟く。
「そうじゃ。ここには失って足りなくなった血を、健康な人から補うための技術が書いてある」
「なんと、それでは神の教えに‥‥」
イワンは顔を青ざめさせる。
「だが、このままほおっておけば確実に死が少年を襲いますね」
止血と消毒作業をしているオーフェンの言葉に、沈黙という空気の重さが全員に圧し掛かってきた。
「あの、私で良ければ彼に血を‥‥」
重い空気を破るように昴は声をあげた。
「俺も! 最初に彼に傷を与えたのは俺ですし」
リョウは身を乗り出す。
「私は、反対だ。それは聖書が禁じている」
イワンは力説する。神の教えに反する可能性を秘めているのならば、それを厭うのが、敬恭なる信徒というものであろう。と。
「俺は構わないと思うな。新約では、輸血を禁じると取ることが可能な聖句が使徒行伝でわずかに触れられているに過ぎない。もし、輸血禁止を神が思っているのであれば、なぜ神の子に直接しっかり言わせないのだろうか? 主は、旧約でモーセの律法が禁じた食物を指して、使徒の司・聖ペテロにこう仰られた。神が清めたものである。取って食べよと。命である血を与えて命を贖う行為は、主の十字架の似姿だ」
テオフィロス・パライオロゴス(ec0196)は、主の騎士たるガルシアの顔を見る。
「方法を食すと見るか、否かは、主観によるだろうな。故に、真に裁けるのは主のみだ。自らの血を持って、命を救う事は、尊き事、されど、その過程の技術が、御心に沿う物かは難しい事だ」
ガルシアの言葉を受け、イワンはパラケルスに聞いた。
「輸血をすれば助かるのか?」
頷く錬金術師を見、
「私は、命を贖うために血を捧げるのは、主の御旨に適うと思います。問題は血を与えれて長らえる是非。見て下さい。この異教徒は、輸血が無ければ主に背いたままで死んで行きます」
「救いを受けるために、命を繋ぐ方が良い。と言うことか‥‥」
ガルシアはイワンの言おうとすることを理解した。こうして全員の意見がまとまった所で、パラケルスは告げる。
「しかしこれは誰の血液を輸血しても良いというわけではない。彼の身体と合わない血は入れた後に固まり、やはり彼に死が訪れる」
「ではどうすれば?」
パラケルスの言葉に昴は詰めかかるように聞いた。せっかく縁あって助けようと思った命、そう決めたからにはなんとかして助けてやりたいと思ったのである。
「慌てるではない、まずは血の適合をみるためにはこの少年の血とお前達の血を少しづつもらう事にしよう。もちろんこれは強制ではないぞ。彼に血を与えても良いと思う者だけで良い」
パラケルスはオーフェンに道具の準備の指示を与えると、全員の目をゆっくり確実に見つめながらそう言った。聞いたこともない治療法である。失敗すると血を分かつ者の命も危ぶまれると言う。しかし、彼らは決断した。
数個の小さな器に同じ量の少年の血液が入れられ、乾いて固まらぬように塩水が加えられる。そこに同じ量の全員の血液が一人づつ別の器に注がれる。
パラケルスとオーフェンは各人と少年の血を手順にしたがって混ぜていき、しばらくそのままにして様子を診た。
「変化が表れてきましたね、わかりますか?」
オーフェンの言葉に全員が血液の入った器に注目した。
ほとんどの器の血液はほどなくして固まったにもかかわらず、ひとつだけまだ固まってない血液の器があったのだ。
「これは、どうやら貴方の血液らしいな」
パラケルスが誰の血液をまぜたかを書いたラベルを読み、その血液を昴の前に差し出して見せた。
彼女はその差し出された器を手にとって、ゆっくりと左右にゆらしてみる。たしかに血液は固まってはおらず、その揺れにあわせて粘りのある液体は揺れていた。
「さて、どうしますか?」
「え?」
「準備はこちらでしますが、後は輸血する人の意思次第ですよ」
「私は、この少年を助けると決めたのです。拾って繋ぎ得る命であるならば、拾って欲しいのが人情と言うもの‥‥私の血で彼が助かるならばやってみましょう」
昴の力強い言葉にパラケルスとオーフェンは頷くと輸血の準備を始めた。
段差のあるベットを用意して、昴と少年を寝かせる。
「大丈夫、気を落ち着かせて」
初めての事で緊張気味の昴を落ち着かせるようにパラケルスは優しく声をかけると、彼女の腕の消毒を始めた。ワインで丁寧に腕を洗い。その後にさらに強い蒸留酒で拭う。
やがてガラスの管が昴と少年の身体を繋ぐ。昴は腕に熱く脈打つ感覚を感じながら、ガラスの管を通る自分の血液の色を不思議な感覚で見つめていた。
●本の城壁
どちらかと言えばおどろおどろした部屋の中。山と積まれた夥しい巻物。
「学師様。これ全部読んだのですか?」
イーシャ・モーブリッジ(eb9601)は圧倒される。崩れてきて埋まったら、死んでしまうのではないだろうかと言う書物の山だ。
「‥‥そんなことはない。読んだのは半分くらいじゃ」
「そ、そうですよね」
イーシャは少し安心した。が、
「残りの半分はわしが書いた」
(「えぇ!」)
これだから学師と言う人は‥‥。
自力で帝都の図書館を漁ったが、調べ物は一向に進まない。難攻不落の本の城壁は、帝都の3重の城壁よりも、攻略者を絶望的な気持ちにさせる。その道程の遠さは、遙か東方インドゥーラよりも尚、果てしない旅に思えた。それで先日の学師を訪ねて来たのだ。
文書(もんじょ)に出てくる古(いにしえ)の王。イーシャがいたく興味を持ったことを喜び、学師は聞かれるままに解説する。
「ムワタリは ヒッタイトの王。ラーメススー・メリーアメンとはエジプトのファラオ、ラムセス二世のことだ。4つの角とは後の記述から恐らくエジプトの4つの軍団を指す。ゴシェンはエジプトで奴隷だったイスラエル人の居留地だ。
テシュブはヒッタイトの嵐の神、雷神。恐らくこの記述は、両軍が小都市したカデッシュの戦いを指すのだろう。エジプトの記録では大勝利となっているが、『誓約を破れば神々が子種を断つであろう』と、双方が神々に誓約した和解の文章(もんじょ)が遺っていることから考えて、引き分けであろうな」
「地図は?」
「地勢から見てヒッタイトの物だろう。だが、都にしては西に偏っているな」
「では、ガイの騎士とは?」
「学師とて、全てを識っている訳ではない」
「‥‥そうですか」
残念そうにイーシャ。
「‥‥いや‥‥待て‥‥」
今思い出したように学師。
「確かジョーンズ教授とジェームスが調べていた筈だ」
「ジョーンズさんとジェームスさんですか?」
しかし、二人は生死不明と言う。この後数時間、イーシャは尋ね得る限りの情報を聞き出して帰途に就いた。
●尋問
「おまえら、オレ、ころすか?」
その言葉は片言ではあったが、少し冷たい声だった。片言のラテン語だ。周りの空気が重くなり、沈黙の空気が流れた。殺す、そう本当ならこの少年は戦闘で殺していたはずの人間なのだ。
「大丈夫、殺すつもりなら助けるなんでしないでしょう?」
イワンはそういうとハーブティーを一口すすった。少年‥‥スフィルは全員の顔を確かめるようにゆっくりと一人一人見つめていく。
「おまえら、ぐうぞう、おがむもの、か?」
「アブラハムの子イシュマエルの末裔(すえ)よ。自分も天地の創り主を信仰している」
たどたどしいがアラビア語で答える。
「ガルシアさん。通訳お願いします。それでは今度は、こっちから質問してもよろしいですか?」
リョウは大きい身体をスフィルの視線にまで落として、見つめた。スフィルはリョウに驚き、ちょっと身を引きながらも頷く。
「あなたは本当にあの黒装束の集団の仲間なのですか?」
スフィルはガルシアが訳すリョウの質問に躊躇しながらも、昴の顔と交互に見ながらゆっくりと話し始めた。
「そうだ。オレたちは偶像崇拝者達が聖都を狙っていると聞いた。スレイマンが何をしたのかも知らないで、あの地の封印を解こうとしていると‥‥」
「封印?」
「知らないならいい。オレも恐ろしい物が封じられているとしか知らない」
詳しいことは余り知らないようだ。だが、恐ろしい物と言ったときの彼の怯えよう。
「なるほどね、それにしてもすっかり昴殿に懐いてしまったようだな」
ガルシアはニヤリと笑うと、昴の服の裾を掴んでいるスフィルを見た。
「まぁ、死にかけた御前さんを助けたのはその人だからな。感謝するが良い」
パラケルスの言葉にスフィルは目を見開くように昴を見つめた。昴は彼の視線に照れたように微笑む。
「スフィル殿の今後は協会に預けて治療しても良いし、彼の処遇を決めつつそろそろ動かなくてはな」
ガルシアは腕を組み、何か考えながら言った。それにイワンも頷く。
「そうですね、聖遺物の方もきになりますし」
イワンの言葉にスフィルはピクッと肩を震わした。
「聖‥‥遺物? 神の宝の事か?」
スフィルの言葉に全員が注目した。その勢いに彼の目に怯えと動揺が走る。
「何か知っているのなら教えていただけないか?」
昴は落ち着かせようと、ゆっくりと背中を撫ぜながら優しく語りかけた。スフィルは自分が知っているのとは違うかも知れないという前置きを話してから、彼の知っている神の宝の話しを始めた。
●ベルガモン
アッタロス王朝の都。それが町の始まりである。この町も、今は教会を中心として栄えていた。ガルシアとリョウを迎えた長老は、
「‥‥よくぞ参られた」
聖遺物を携え訪れた二人の男。遠い遠い帝都からの道程を思い、それだけを口にする。
程なく湯が運ばれ。疲れた足を浸しながら、ガルシアはもう一つの目的を口にする。
「兄弟よ。自分は聖都に関わる大事の任も帯びている。異教徒が手にせんと欲す手懸かりがこの地にあるらしい」
「聖都に関わる大事ですと?」
「はい。かなり大事らしいです」
リョウは、辺りに気を配りながら、手振りで筆談を申し入れた。アラビア魔法には、あたかもそこにいるかのように音を聞く魔法があるという。用心に越したことはないのだ。この旨は、筆談の最初に長老に告げた。
蝋板での筆談故、かなり時間は掛かったが、二人は古(いにしえ)の大図書館の閲覧と、翻訳の手はずの助力を得られることになった。
だが、既にその大半は失われたと言う。
(「何年か前に訪れた、ローマの教皇様の意を受けた方が人々を惑わす記録だと焼いて仕舞いました」)
「なんと言うことだ! 既に失われているとは‥‥」
ガルシアは思わず口にした。長老は深刻そうな顔をしながら
「はい。残念ながら」
と、答えつつ筆を走らす。
(「ご安心を、一部はここに残っております」)
なかなかの役者で有る。二人も合わせて失望の表情。
ガルシアは大きく息を吸い込んで言った。
「主の民をエジプトより救い出されし、主は生きて居られる」
取り出した文献は以下の3種。
――――――――――――――――――――――――
1.ラテン語の写本の記録。
2.焚書を免れた古い羊皮紙の欠片1
3.焚書を免れた古い羊皮紙の欠片2
――――――――――――――――――――――――
「どうですか?」
リョウがのぞき込む。
「ラテン語の写本はともかく、あとの二つは読めぬな」
ガルシアは指で文字を追いつつ答える。
「私には読めませんが、二つ目はアラム語で、三つ目がヘテ人の文字だそうです」
長老に読めないならば、ここには読める者が居ないと言うことになる。リョウはがっくりと肩を落とした。それでも、ラテン語の手懸かりがあった事を幸いと思わねばなるまい。
ガルシアは、貴族の教養としていささか絵画の心得があった。あともう少し修行を積めば絵師になれる程の腕前である。読めぬ文字を絵と見なして丁寧に書き写す。後日、読める者と巡り会えた時には物の役に立つように。
さて、乏しくなった資料を調べた限りでは、モイラ、アルゲイン ポンテス、アレス、アテナ、月の神殿については彼が教養として知っている範囲を超えなかった。文献の表現は、恐らくは比喩なのであろう。
ヘロストラトスの火に産声を上げし大帝については、マケドニアのアレクサンドロス大王が生まれたとき、ヘロストラトスと言う男が、自分の名を後世に残したいと言うだけの理由で、エフェソのアルテミスに捧げられた神殿に放火した記録があった。筆者は、霊験あらたかなアルテミス女神が放火を防げなかったのは、アレクサンドロスの出産に立ち会うために、宮を留守にしていたからであろうと記していた。
「ヘロストラトスの火に産声を上げし大帝とは、やはりアレクサンドロス大王か‥‥」
大王は、解きたる者は世界の王者となると伝えられる結び目を剣で切ることによって解き放った事で有名である。また、デルファイの神託を求め、巫女に強引に神託を求め、「汝は負けを知らぬ者」と言う答えを引き出している。
●異教の神殿跡
光は降り注いだ、燦々と。礼拝堂に指す光が、主の御徴を壁に映す。
今朝も軽やかに祈りの鐘が鳴り響く。青空に木霊する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
皆さん。世界で一番大きな影響を及ぼす人物は誰ですか? と、聞かれたら。あなたは誰の名を挙げますか? 勿論、主の御名が挙がるのは当然として誰でしょう?
はい。アレクサンドロス大王、アウグスチヌス、アッティラ大王を挙げる人も居ます。私は国父ガイウス・ユリウス・カエサルに学ぶと言う人や、神の代官にして人の子のうち最も優れた者、かのコンスタンティヌス大帝を尊敬する人もいます。哲人ソクラテスや医学の父ヒッポクラテスを私淑する人も珍しくありません。あるいは聖書のナアマン将軍の信仰に学ぶ人も居るでしょう。反対に悪い影響を及ぼす者と言う意味で、世の驕れる権力者達を挙げる人も居ます。
それでは皆さん。今までにあなた自身に一番大きな影響を与えた人は誰ですか? と尋ねたら、あなたは誰を選びますか? そして、なぜその人が一番影響を与えたのかを考えてみましょう。
私が一番影響を受けた人物は、やはり私の父だと思います。なんとなれば、私は父の下で育てられたからです。子供の頃、私は父から全てのことを学びました。その所為か、私の行動も考え方も父に似ているのです。
アブラハムの甥・ロトは、自分の父を亡くしアブラハムを父のように見て、いろんな事を学びました。今日は、彼ロトがアブラハムからどんな影響を受けたのか、創世記の19章1節から23節を元にお話しします。
主は、ソドムの罪が、滅びの裁きを受けざるを得ないほどの状態であるかを調べるために、御使い達をお使わしになりました。御使い達がソドムの街を訪れた時、ロトは主の計らいによってソドムの門の前に座っていました。ロトは訪問者達をみるなり立ち上がって彼らを迎え、額づいて伏拝み自分の家に招きました。ロトは彼らが御使いであると主の恵みによって知ったからです。
この時、御使い達はソドムの通りで一夜を明かし、淫らで背徳的な夜の姿を視察しようとしていました。ところがロトはソドムの罪悪が溢れている夜の通りでは、誰であっても安全に朝を迎えることが出来ない事を理解しておりました。それでロトは二人に丁寧に頼み込んで自分の家に招いたのです。
このあらましを考えると、ロトは自分の住んでいるソドムの罪を理解していましたし、出来る限り染まらぬようにしていたことも判ります。しかしそれでいながら、ロトは完全に罪を避けるためにアブラハムの元へ還る積もりはなかったようです。彼は俗世の楽しみに捕らわれてもいました。それでも、同時に積極的に罪を避けようとして居た事は、ロトの心にアブラハムに与えられた主の約束が生きていたからに他なりません。彼はアブラハムの影響を受けたが故に、ソドムの罪に染まっては居ませんでした。
その夜。ソドムの男達が「かれらを知りたいのだ」と言い、押し掛けました。ここで言う知るとは、肉体関係を持つ事です。性的な堕落が極まって、男が男を辱めると言うことです。帝国の法は男性同士、あるいは女性同士が関係を持つことも認めています。しかし、それはあくまでも当人同士が求め合う場合に限ってです。本人の意思に反して行うことは、男女の関係に於いても認められません。主の命令はもっと厳しく、男色の者は天国に入れない。とまで断言しています。
ソドムの男達は、ロトが自分の、まだ男を知らぬ二人の娘を変わりに差し出す。と言っても、聞き入れませんでした。ロトが支払おうとした代価は、私たちの基準では命を差し出すに等しいものです。しかし、確かに大きな犠牲ではありましたが、ソドムの堕落極まった倫理に於いては、結婚前の娘がどんな不道徳なことをしても結婚に全く悪影響がないほどのものでした。
大きな悪を避けるために小さな悪で折り合いを付けることは、信仰を持つ者として最善の方法ではありません。ロトは二人を保護しましたが、義のために固く立つことは出来ず、暴徒に自分の二人の娘を渡そうとしました。それは主の前に罪悪です。主の道において、悪を阻むために悪い方法を使うのは結局は悪いことだと心に刻みましょう。
さて、ロトは彼としては最大限の努力と犠牲を支払って御使いを守ろうとしました。しかし、ソドムの人たちは
「こいつはよそ者として来たくせに、裁き司のよう振る舞っている。さぁ、おまえを、あいつらよりも酷い目に遭わせてやろう」
ロトが危険な状況に置かれたその時、御使いが手を差し伸べて彼を家に引き込み、戸を閉めたのです。そして、主は御使いらの手で戸口に居た暴徒達の目を暗くして、彼らが戸口を探すことが出来ないようにされました。
ソドムの罪はこれで定まりました。二人の御使いはロトに自分の正体を明かし、ソドムの罪を見定め、街を滅ぼすために使わされた事を話します。そして、ロトとその家族に、急いでこの地を逃れるように促しました。ロトは急いで娘の婚約者の家へ行き、ソドムが今日滅ぼされるので一緒に逃げようと勧めます。しかし彼らは冗談とでも思ったのです。
この様に世に属している人達は、いくら福音を聞いても、救いの道を示されても、福音に対して侮る人が多いのです。主は、人間に自由な意志をお与えになりました。人は主に背いて滅びる自由もあるのです。世の享楽に耽っている者は主の裁きを信じないのです。
主は聖書全体を通じて、ただの一度も冗談を仰ったことはありません。まして、命。全知全能である主が、背きの罪を犯し続ける者をも軽々しく扱われない主が。命に関わる冗談を仰るでしょうか? しかし、ロトの婿達は主の救いを真剣に受け止めず、無視しました。
ロトはソドムを逃れましたがアブラハムのようには主の命令に従わず、ぐずぐずしていました。後ろにあるソドムと遠い山の間で迷っていたのです。アブラハムの影響を受けていたロトは、主のソドムへの裁きを確信していたました。しかし、ソドムに残してある財産に心を捕らえられていたのです。
さて。それにも関わらずロトが救われたのはなぜでしょう? それは彼が主とアブラハムの約束に属した人であったからです。
アブラハムは「自分のために親戚であるロトを救い出して下さい」とは祈りませんでした。彼が祈ったのは主の公義です。「主は悪人と善人を一緒に滅ぼすことはありません」と訴えたのです。ソドムには10人の義人も存在しませんでした。ロトも暴徒らよりも遙かにマシでしたが義人とまでは言えません。いえ。絶対に正しき主の物差しで計るならば、この世に一人の義人も存在しないと、聖書は証言しています。まことにまことに、救いは主の不可抗力的恩恵であり、全ては主の御手に拠っていることを理解しなければなりません。
愛する皆さん。ロトが主の恵みによってソドムから救われたように、あなたもあなたの家族も主の恵みによって救われたのです。
ロトがアブラハムの影響で主を恐れたため救いに預かることが出来たように、私たちも子供達を主にあって歩む者に育てようではありませんか。自らを子供達が模範とする信仰生活を歩むことによって。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お説教が終わり、祈りと賛美。周囲を異教徒に囲まれたエフェソはそれ故に信仰も堅い。しかし、この教会は、かつて存在した異教の神殿の上に建てられた物と言う。
「やはり‥‥」
テオフィロスは唸った。
かつてローマの神々に捧げられた神殿は、取り壊されて教会が建っている。征服者が陥した城の場所に城を創るように、異教の神殿の跡に教会は建てられる。アラビア教徒もエルサレムにあった教会の場所にモスクを創っている。その類推で確認したところ、アルテミスの神殿の基礎は、そのままエフェソ教会の基礎に為っているとの事。
「まだ昔の部分が残っているなら、調査をしたい」
「テオフィロス殿。構いませんが、当時から有る地下部分は、今地下墳墓となっています。使用している部分の先に、我々でも迷う通路があります」
「調べたことは無いのか?」
「いえ。特には」
(「しめた! 当時のまま残っている部分があるのか」)
「私たちが‥‥入って大丈夫ですか?」
おそるおそる切り出す昴。
「別に禁じられてはおりません。ただ、迷わぬように灯りと糸巻きは必要と思います」
天然の部分があったり、通路が部分的に崩れていたりして、チョットした迷宮だと言う。
「あ、怪物が居ると言う話は聞きません」
迷宮と言う言葉に反応したテオフィロスの目に、クレリックは言った。
●留守番
留守番の御法は、少しむすっとしながら錬金術師の家にいた。小さなローブを身にまとい、パタパタと宙を飛ぶ妖精。まだ回復しきっていないアラビア教徒の少年スフィル。ヴァレリー・セティオニス(ec0166)と共に見張りに居残ったのだ。交代で見張りをしているが、縛り付けているわけではない。
「そんなに、にらむな。オレ、にげない」
片言のラテン語で話しかけるスフィル。共通の言葉がこれだから仕方ない。共通の話題もない所為か、重苦しい空気が流れて行った。
夜。明けの明星が、一等美しく輝き始める頃。
見張りの二人は眠っていた。いや、正確にはヴァレリーは半ば眠り半ば起きていた。ただ身体は眠っており、ちょうど金縛りにあった様な感じで醒めていたのだ。
「おい。スフィル‥‥」
虜(とりこ)の少年を呼ぶ声。
「アブテルさん」
「しっ‥‥声がでかい」
声が小さくなる。殺気はまるでないためか、常ならば動くヴァレリーの身体は眠りから醒めない。今はっきりと動く頭と研ぎ澄まされた両の耳は、二人の会話を記憶する。
彼らの探していたコインがコンスタンティノープルで失われたこと。デルファイに●●をする女が現れたこと。そして、使節の●●●の中に●●の石と●●の剣が含まれていること。
「いいか。おまえは●●●め。●●に●●されろ。そして、●●●の●●●のそろうのを待て」
「はい。●●●は●●●●の手にあるべきです」
所々聞き取れぬものの、実はヴァレリーは少しはアラビア語を解するのであった。こんな事もあろうかと、話せぬ振りをしていたのである。頭がまだ少し眠っているせいか、所々理解出来ない単語があったが。
●疾風のアルゲインポンテス
光に浮かぶ通路。地下墳墓の入口より奥へ進む。当地では、教会の墓地に埋葬した遺体を何十年か経って自然に白骨化してから掘り起す。そして、教会の記録を添えて地下墳墓に移すのである。
「アンデットは‥‥出てこないでしょうね」
一番屈強なイワンは左手に松明を持ち、聖ヤコブの剣を預かったテオフィロスがその後ろ。殿(しんがり)はランタンと糸巻きを持った昴が務める。
「ここから先は、糸巻きが必要だな‥‥」
灯を近づけると、目の前に広がる風の抜ける穴は石材を切り出したような後。ここは石切場だったのかも知れない。
地下に入って2時間が過ぎた。中は結構広く、それなりに分かれ道もあった。しかし、規則的な通路のパターンで、糸巻きの糸は十分に足りた。
「どうやらここが一番奥のようだ」
テオフィロスは壁の岩肌に触れ調べる。
「ん? ここだけ壁が違う‥‥」
ランタンの灯りを近づけると、塗り物で壁の一角が埋められていた。
イワンは叩いて音を聞き分け、
「‥‥この先に空洞がある。どうします?」
昴も確認し
「この程度なら砕けるます」
暫く三人は顔を見合わせていたが。
「ここは私に任せて下さい」
デモンズシールドを構えたイワンが進み出た。三人の内で最も膂力に優れていたからである。
「ふぉぉぉぉぉぉぉ!」
裂帛の気合い。オーラの力が迸って彼の身体を鎧った。
「物陰に隠れて下さい。弾みでトラップが発動するかも知れません」
言って、渾身の力瀬を込めて塗り物の壁にぶち当たった。
二度三度。通路は震え、ひびが入り、そして遂に壁は崩れた。
「ああ!」
昴は声を上げた。中は大きな広間になって居り、進み行くと白い石像が灯に照らされる。
「アルテミスだ」
巨大な偶像が祭壇の向こうに立っている。
「これは生け贄を捧げる祭壇だな」
イワンが松明の先をかざすと、傍らに目隠しをして左手に天秤を下げるもう一つの女神像。右手は何かを握るように指を曲げている。
「ゼウスの二番目の妻にして、ホーライとモイライの母。そしてデルファイを譲った、アポロンの師匠‥‥」
テオフィロスは最近仕入れたばかりの知識を思い出した。像は恐らく『掟の女神テミス』であろう。すると右手が掴んでいる物は‥‥。
テオフィロスは聖ヤコブの剣の束を、像の右手に差し込もうと試みた。
「ぴったりだ。あつらえたようにぴったりだ」
するとどうだろう。差し込んだ剣が淡い光を放ち始めた。
(「蛍みたいだ」)
昴は光に見とれる。
「疾風のアルゲイン ポンテス。汝、智慧よ。神に愛されし者よ。初めの封印は解かれた」
女性? と思える声が響き、そして剣は下に落ちた。その輝きを残したままで。
地上に帰っても、鞘から抜くと蛍のような輝きを放ち続けるのであった。
●第6回『空は‥‥』選択肢(同時実現可能なものは複数選択可能)
ア:ヘテ人の都(距離の問題でイ・ウと同時選択不可)
イ:エフェソの地下神殿
ウ:デルファイ(要、理由付け)
エ:スフィル君に○○・妖精さんと○○
オ:その他
※移動者・新規参加者・再開参加者がいる場合。都合の良い場所から現れて下さい。
■解説
ビザンツは自分で道を切り開いてやろうと言う上級者向きです。セーフティーネットとして参加者は毎回のプレイングに以下の符号を付けることが出来ます。符号が意味する事を重点的に処理されますので、必ず明記してください。符号は矛盾しない限り複数書けます。勿論、目安ですので、プレイング如何によっては個人描写も業績を上げることも両立いたします。
訪ねるべき土地は、隔たっております。次回はバラバラに動く必要が在るかもしれません。また、人数が少ないため、一人で何役も働く必要があります。
A:プレイング重視。
仮令それを通すことでどんな酷い目に遭うとしても、書いたとおりの行動をさせて欲しい。
B:成り行き重視
分かり切った失敗行動の場合。出番が無くなっても良いからその部分のプレイングを無視して欲しい。
C:描写重視
大したことが出来なくても良いから、個人描写を多くして欲しい。
(物語の展開が遅くなる傾向があります)
D:業績重視
個人描写が無くとも、希望する方向に状況を動かしたい。
今回のクロストーク
No.1:(2007-06-01まで)
前回の第4回、実験室で誕生した小さな生き物に名前を付けて下さい。名前の由来やその理由もお願いします。但し、似姿となった人物の名前を使っては不可ません。