若き獅子たちの伝説

■クエストシナリオ


担当:秋山真之

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年04月01日
 〜2007年04月31日


エリア:ビザンチン帝国

リプレイ公開日:04月19日23:56

●リプレイ本文

■第三回リプレイ:若い星の歌

●上陸
 ロードスから風に恵まれ2日の潮路。見張りと待機の労はあったものの楽な旅であった。務めを果たし、スミルナ近くの湊で降り立った勇士達。
「ここで降ろして貰うのは良いとして現地の情報が欲しいですね?」
 長渡昴(ec0199)は詳しいことは何も知らない。
「帝国の情報網は各地に伸びていると聞きます。だから俺達のことは、多少は現地にも通達されているはずです」
 リョウ・アスカ(eb5646)の意見にテオフィロス・パライオロゴス(ec0196)は、
「そうだな。必要が有れば向こうから接触してくるはずだ。ジル閣下が便宜を約束された以上、なんとかなるだろう」
「焦らぬ事です。私から見て人間やパラがまぶしいくらいのエネルギーを発して輝いて見えるのは、主に与えられた日々の差でしょう。しかし、時には私のような長命種族を真似てみるのも良いかも知れません。まことにまことに、主の御前に一日は千年のようであり、千年は一日に過ぎないのですから‥‥」
 生活年齢に相応しくない爺むさい事を言うイワン・コウルギ(ec0174)。決して端麗とは言えぬ容貌に、賢者の如き貫禄を見せる。

 昨日のことである。
「アッタロス2世の街ということで、フィラデルフィアに向かおう」
 テオフィロスが言ったのは、見渡す限りの海原を望む船の上であった。アッタロス2世は又の名をフィラデルフォスと言う。
 その時帝都への報告についても議題に上ったが、
「迂闊な連絡は逆手を取られる恐れがある上、ロードスの失敗しか報告することが無そうですが‥‥」
 妙に生々しい夢告を得たテオフィロスと違い、イワンは現時点の報告には消極的だ。それに場合によっては連絡には金が掛かる。商船護衛は軍務でもあるため、報酬は船賃と相殺と為ったものの、いつ金が必要になるか判らない。旅の初めに辺り大金を託されたのはその所為だ。
「下手にこちらから動かない方が良いと言う訳か」
 真意を問うテオフィロスにイワンは、
「得失を勘定すると、私たちは情報収集に長けた者ではありません。情報収集するどころか、敵に情報を流すことに為りかねないと思います」
「そう言えば、帝国の飛び地とは言えアラビア教勢力下の初めての土地です。習慣を知らずに悶着を起こすのは得策ではありません」
 昴が緊張した面持ちで釘を刺す。
「昴殿の対策としては、女の服を着てベールを着けるか。あるいはいっそ女と見紛う美しい若武者として通すべきでしょう」
 イワンが忠告した。武人である昴の場合、いっそ男で通した方が自由が利くと。
 アラビア教圏の女性の公的立場は制限されている。平たく言えば女性二人と男性一人が同等である。そもそもの理由は女性保護が理由とは言え、義務も権利も男性の半分の扱いだ。遺産相続も男性の半分。但し、男は家族のためにそれを使う義務があるが、女性は完全に自分だけのために使う権利がある。自分のための可処分所得で見れば、女性は男性の倍以上優遇されているとも言える。
 昴は、暫くして様子を見に来た商人に、悶着が起きやすいアラビア教諸国の常識の説明を求めた。
「そうですね。先ず禁酒。これはジーザス教の礼拝で主の血を頂く場合以外は厳禁です。次に御子ジーザス様の事を彼らはイーサーと呼んで居ます。しかし、彼らは偉大なる預言者として尊敬していますが、神の御子とは認めていません。腹が立つでしょうが、彼らを教化しようとせぬ事です。基本的に自分が異邦人で有ることを心得、彼らに価値観を押しつけようとしなければ大丈夫です」
「なにか。彼らならではの変わった風習はありますか?」
「‥‥例えば塩でしょうか。同じ塩壷の塩を分かち合った者は、義兄弟と見なされ、互いに助け合うことを神の前に誓った事になります。その間柄に於いて殺人が有れば親族殺しに問われますし、塩を分かち合った相手からの盗みは盗賊団でもやりません。うっかり塩を舐めてしまった盗賊が、盗んだ品物をそのまま置いて退散したと言う例すらあります」
 何でも聞いて於くものだ。昴は感心して耳を傾けた。

●珍解釈
 酔客から変わったコインを手にしたイーシャ・モーブリッジ(eb9601)は、テオドラ皇后のサロンを訪ねる。帝都の図書館は情報の腐海。古代文字を読める訳でも、伝承知識に通じている訳でも無いイーシャにとって、これが一番の近道なのだ。
「ふむ。これは‥‥」
 学師が改めると、アサリオン(銅貨)を12等分する線に沿って、円周上に【§TempusFugit】(砂時計のような絵文字と「時は過ぎ行く」と言う言葉)と刻まれている。
 何より珍しいのはその柄だ。少額貨幣ほど流通し、損耗が激しいのは古今東西変わらぬ理屈。然るに、鋳造したばかりのように文字以外に傷はない。絵柄もはっきりとしている。ただ一つ違うのは、それが経年変化で自然な錆をまとっていると言うことだけだ。
「これは最近刻まれた物ですな」
 学師は小文字の存在を示す。古い綴りに小文字は存在しない。しかし、刻まれた文字の中まで緑色に染まったアサリオン。
「この肖像は、マウレタニア王ユバ2世そのものです」
 学師は奥へ行き、デナリウス(銀貨)を1枚持ってくる。まったく同じ肖像が描かれている銀貨には「REX YBA」と記されている。アウグストゥスの計らいで王位に就いた学識高い人物である。プリニウスの記録に拠れば博学で有名であったらしい。

「コインに使われる大文字省略形に着目してT=Tribunicia=トリブニキア(首長・司)、F=Felix=フェリクス(幸運)と見ると‥‥」
「あのう‥‥それは流石に考えすぎでは‥‥その論で行くと【幸運の司】と言う意味になりますけど」
 まるでこのコインが幸せをもたらすかのような話である。

●スミルナの教会
 ここもアラビア教圏に浮かぶ孤島の一つ。朝に夕に礼拝に集う人の姿。帝都でならば、寧ろ偽善に感じられるほどの只管な求道の姿がここには有る。
「まるで我を救えと主に強制しているように感じますね」
 アン・シュヴァリエ(ec0205)は短くそう言った。
「アン様。お顔が優れませんわね」
 額に滲む脂汗に気付いたルスキニア・サビーヌス(ec0338)が肩を貸す。温暖なイスパニアと比して、雪も積もるアナトリア地方。水も違えば食べ物も違う。暗殺者100人と言う現実を目の当たりにして、心労も有ったのだろう。アンは酷く体調を崩していた。
 正使のガルシア・マグナス(ec0569)は教会の一室に寝台を創り、アンを休息させる。
「無理はせぬ方がいい。これも想定内だ」
 そう言いながら旅の日程を調整する。警護を集める準備もあるため、元々有る程度の滞在は計算していた。いつまでもトルコの役人だけに頼っているわけにも行かない。
 教会は祈りのテーマにアンの病の平癒を加え、ルスキニアも薬師の元を訪ね回った。

 まぶしいアンダルシアの光と影。河が天然の濠になっている懐かしいトレドの街並み。美しいサフランの花。そう言った物が熱にうなされたアンの脳裏に浮かんでは消える。うわごとで出てくるのは懐かしい名前。
「‥‥原因は分からぬが衰弱が激しい。症状は風邪だが、食べ物が原因かも知れない。ふむ、イスパニアの人か‥‥。ならば温暖な土地で療養するのが良いだろう」
 薬師は吐瀉剤を調合し、胃の中をすっかり空にした後、塩を加え一旦煮立て酒精を飛ばしたエールを飲ませる。病人食だ。

 夕刻。一日の務めを終えた人々が憩え頃。
「‥‥アラビア教徒諸兄には偶像に見えるかも知れぬが、聖遺物は先人達の信仰の記念である」
 役人達を招いての宴が和やかに盛り上がったのを見、おもむろにガルシアは切り出した。
「微かなる三日月の光。闇を切り裂く一振りの剣。翼は大鷲の如く力強く、嘶きはジンを蹴散らさん。まこと主の御名は誉むべきかな。主の証人(あかしびと)は幸いかな。主は国民(くにたみ)毎に証人(あかしびと)を立て、主を拝す道を説かれたり」
 預言者のように厳かにガルシアは宣う。
「主は我らに先人の信仰の記念品(聖遺物)を以て、主の道を歩む事を許された。聖徒達の歩みを辿らせるためである。我らが主。天地の創り主たる神は。‥‥ノアに船を命じられし神、アブラハムを万民の父と選ばれし神、エジプトより主の民を解き放たれた神は生きて居られる。ならばどうして、我らが父、信仰の父アブラハムの裔たる我らが赦し合えぬものであろうか
?」
 ジーザス教・アラビア教ともに、仰ぐ神は同一である。また、モーセの書を聖典に数えるのも同じである。ただ、それぞれに遣わされた預言者が異なり、それぞれに相応しい道を示されただけなのだ。ガルシアはその事を強調した。
「何故、それをおっしゃいます?」
 役人の一人が口を開いた。
「ここに来る途中に襲われた。帝国の旗を掲げ、『人違いで有れば去れ、トルコの保護を受けしビザンツの正使なり』と叫んだが、賊は構わず襲ってきたのだ。自分は、聖遺物を偶像と信じる行き過ぎた信仰を持つ一部のアラビア教徒であると見た。帝国にはアラビア教は刃で信仰のあり方を強要すると言う説を唱える者もいる。何が是で何が非なのか諸兄に伺いたい」
「‥‥そんなことはありません。間違っても狂信者どもが正しいアラビア教徒であると、勘違い召さるな。現にあなた方が聖遺物を届けにジーザス教徒の飛び地を回る、この便宜を諮っているではありませんか」
 客として招いた者を害しては、王国の面目は丸潰れ。信義に悖る行いをする訳がない。と役人達は口を揃える。
「ならば、我らが信仰の父の神故にお願いする。トルコが主の前に正義を行いたいのならば、我らを護衛して欲しい。また、敵の待ち伏せも考え、今ここでスミルナ→フィラデルフィアの順番に、教会を巡る順を変える事にする。狂信者共が、彼らにとっては偶像である聖遺物を教会に届けることを妨げぬように」
 こうしてガルシアは、かなりの数の護衛を着けて貰うことに成功した。

●聖遺物
 自分が全て預かることになった聖遺物。
「あの布陣を見ても、撤退の見事さを見ても、恐らくはいずれかが『鍵』なのであろう」
 ガルシアは厳しい目で並べられた品々を見る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.ナルド壺の欠片
 マグダラのマリアがジーザスに捧げたナルド香油を入れていた石膏の壺の欠片
2.墓石の欠片
 ジーザスが3日間葬られていた墓を封印していた石の欠片
3.聖ヤコブの剣
 ジーザスを捕縛しに来た者の耳を切り落とした剣
4.聖王ダビデの竪琴
 聖王ダビデが使ったと言われる竪琴
5.モーセの杖
 預言者モーセの使ったと言われる杖
6.ギデオンの角笛
 士師ギデオンが三百人の勇士と共にミディアン人たちを討った時の物と言われる角笛。
7.サムソンの髪
 デリラが士師サムソンから切り取ったと言われる髪の毛の一房。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ジーザス縁とふれこみの品が3つ。何の変哲もない石膏の欠片・石の破片は置くとしても、この聖ヤコブの剣。話こそいかがわしいがなかなかの業物だ。聖書に名には記されていないが、ジーザスの為に剣を取り捕縛者の耳を切り落とした男は、恐らくは雷の子ヤコブであろう。故に彼の名が冠されるのは判る。
 旧約時代の物が四つ。誰の髪の毛かも判らないサムソンの髪を脇に置くと、モーセの杖・ギデオンの角笛・聖王ダビデの竪琴は何やらいわくは有りそうだ。
「よもやジーザス縁の品をアラビア教徒が狙っているとは思えない。特に、預言者であるが神の御子では無いと否定している甦りに関する物は何の価値もないだろう。だとすれば、旧約時代の物か‥‥」
 彼らの読みでモーセはムーサー、ノアはヌーク、ジーザスはイーサーと言うと謂う。

●隊商
 この時代の治安は悪い。帝国の威光が及ばなく為った現在。ある意味、聖パウロの時代よりも旅の困難は増えた。彼の時代とて、様々な困難があったのだ。
 国と国とを結ぶ商人達は、隊を組み護衛を雇って危険を減らす。そのコストは商品に上乗せされるが、それでも無事に商いを果たせば利益は大きい。
 ヴァレリー・セティオニス(ec0166)ら一行が出会ったのは、そんな商人の一団であった。
「フィラデルフィアかい? こないだちょっとした地震があったそうだ。最近の建物の内いくつかは崩れたそうだが、古くからの建物はびくともしなかったそうだ。いったいどんなやり方で積んだんだろうね。総督は1年の免税を宣言したそうだよ」
 流石、彼らの情報は早い。
「そうですか。これから向かう先なので、最近の様子を知りたかったんです」
 昴は食料の取引をしながら興味深く話を聞く。
「わしらはこれからビザンツの方に行くが、一緒にどうだね? 最近海賊が出ると言う話だ。腕利きを捜している所だよ」
 昴はちょいと考えて、
「ビザンツですか‥‥」
「短い間だが、旅の仲間は多い方が安全だ。食事くらいはこちらで持つぞ」
 一度大きな町へ行き、連絡を取る必要もある。しかし、まだ帝都に戻る時ではない。
「そこの兄さん。あんたはどうだね?」
 いきなり声を掛けられたリョウは、
「俺?」
 と言う素っ頓狂な声を上げる。
「残念だが、丁度そっちから来た所だ」
 テオフィロスが、大剣を履くリョウの影から現れた。
「そうか。悪かったな」
「寧ろ、帝都に行かれるならばこれを届けてくれませんかね?」
 イワンはにこやかに羊皮紙に金を添えて渡す。
「‥‥ってあんた。手紙は封をするものだ。見るつもりは無かったが丸見えじゃないかね。それに、届ける金の倍はある」
 目に飛び込んだのは、なまめかしい恋文である。真新しい羊皮紙だが、所々に修正で削った跡がある。
「帝都の遊女で、私の馴染みが居るんですよ。出来れば金を届けて欲しいんです。手数料と一夜の遊び代はここからお取り下さい」
「色男め。判った。確かに届けよう」

 商人と別れた後、イワンは言った。
「これでとりあえずの連絡は済みました」
「あれが繋ぎだったのか?」
 テオフィロスは気付かなかったとイワンの顔を見る。
「いえいえ。商人が宛先の遊女に届けてくれれば、そこからジル閣下のお手元に届きます。元々大した報告ではないので届かなくても良いのですよ」
 しかし、封もしない手紙は熱烈な恋文だ。
「判らなかったのですか? あの削り跡の文字だけを繋げると、『ロードスに非ず』となります」
(「こいつ。何者だ?」)
 テオフィロスはまじまじとイワンの顔を眺めた。

●痣
 何度見ても、イーシャの目には何の変哲もないアサリオン(銅貨)。光にかざし、裏返し、机に叩いて音を聞く。それでも只のアサリオン。
 丁度机にコツコツと当てていた時だった。弾みで硬貨が指から抜けた。正確には、指に鋭い痛みを覚えて取り落とした。
「痛ぁい。‥‥血が出てるわ」
 思わず舐めて指先を見る。人差し指に痣のような物が出来ていた。

●愛の負債
 アンが病床についた後の聖日。スミルナ教会の長老は全会衆の前に立って話をした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 神は愛です。ゆえに教会は愛によって建てられるのです。愛が無ければ教会は建てられません。私たちは愛によって教会を建てて来たでしょうか?
 ローマ人への手紙の12章8節から10節。今日は、この3節から愛について学びたいと思います。

 8節にこう書かれています。
「誰に対しても、何の借りもあってはなりません。但し、互いに愛し合う事については別です。他の人を愛する者は、律法を完全に守っているのです」と、あります。
 この箇所は知恵を以って読まねばなりません。聖句は完全に正しいものですから、読み違えては却って害を為すのです。
 この箇所も他の箇所も、貸し借りがあってはならないと言っているのではありません。実際に、裁き司達の時代にも貸し借りは一般的で正当な行為でした。勿論律法は貧しい人に利息を付けて貸すことを禁じています。出エジプト記の22章25節ではっきりと書いています。しかし、正直で正当な利息を付けて貸すことは禁じていません。主も山上の垂訓で「求める者には与え、借りようとする者は断らないようにしなさい」とお仰せです。
 旧約の時代も新約の時代も、貧しくて他に手段の無い人には、貸すことの出来る人は、利益を度外視して救済するように命じて居ます。と同時に、仕事上のことで投資のために経済的な借金をすることも認めています。例えば、マタイによる福音書の25章のタラントの譬えでは、主人は自分の金を賢く投資した二人の僕(しもべ)を褒めています。しかし、委ねられた金を地中に埋めて用いなかった僕を厳しく非難し、こう言いました。
「だったら、おまえは私の金を貸し付けておくべきだった。そうすれば私が帰ってきたときに利息がついて返してもらえたのだ」
 今、多くの事業は、増築したり、新しいことに挑戦するとき、金を借りないで行うことは出来ません。また貧しき商売人は、その日の仕入れの金を借りずに商売が出来ません。働く意思を持った者に、正当な商売として元手を貸し付けるのは借り手を尊重する事です。主は、それぞれに自分の働きでパンを得る事を求められるからです。
 但し、聖書は自分の贅沢や遊びのために借りることを認めては居ません。どうしても借りなければなら無い時、借りた物は何でも、必ず返すように命じています。

 さて、次にパウロは一見飛躍した話の展開をしています。全てのジーザス教徒は、永久的負債を抱えていると言っています。経済的、財政的なものとは別に、全てのジーザス教徒は互いに愛し合うと言う負債があるのです。それはまるで悪徳高利貸しのように、払っても払っても絶対に払い終えることが出来ないものです。しかしわれわれは主の憐れみによって、いつでも払うべき物が与えられ、支払えば支払うほど、支払うことが出来るよう富んだ者にしてくださるのです。

 互いに愛し合うことは、まず第一に自分の兄弟姉妹に対してすべきことです。主、御自ら明言されています。主が弟子達の足をお洗いになった時、それはあの時代では奴隷の仕事でしたが、主は敢えてそれを為されました。そして弟子達に互いに愛するようにお命じになられました。
「あなたに新しい戒めを与えましょう。あなた方は互いに愛し合いなさい。私があなたを愛したように、そのように、あなた方も互いに愛し合いなさい。もしあなた方の互いの間に愛があるなら、それによって、あなたが私の弟子で有ることを、全ての人が認めるのです」と。

 愛をテーマとしたヨハネによる第一の手紙でも、互いに愛し合うよう勧められています。2章10節に「兄弟を愛する者は、光の中に留まり、躓くことは有りません」とあり、3章23節には「神の命令とは、私たちが御子ジーザスの御名を信じ、救い主が命じられた通りに、私たちが互いに愛し合うことです」と書かれ、また4章7節には「愛する者達。私たちは互いに愛し合いましょう。愛は神から出ているのです。愛のある者は皆、神から生まれ、神を知っています」とあります。そして、4章21節には「神を愛する者は、兄弟をも愛すべきです。私たちはこの命令を救い主から受けています」と書かれています。
 パウロもこのことについて何度も何度も繰り返しています。コロサイ人への手紙3章12節から14節には、「それゆえ、神に選ばれた者、聖なる。愛されている者として、あなたがたは深い同情心、慈愛、謙遜、柔和、寛容を身につけなさい。互いに忍び合い、誰か他の人に不満を抱くことがあっても、互いに赦し合いなさい。主があなたを赦して下さったように、あなたもそのようにしなさい。そしてこれら全ての上に愛を着けなさい。愛は結びの帯として完きものです」とあります。
 使徒ペテロも、主にある者が主の願ったように愛し合っていない事を知って手紙を書きました。ペテロによる第一の手紙の1章22節で、「あなた方は真理に従うことによって、魂を清め、偽りのない兄弟愛を抱くようになったのですから、互いに心から熱く愛し合いなさい」と言っています。

 しかし、これらはその一歩に過ぎません。互いに愛することは、他の信者を愛するに留まらず、未信者をも愛することを意味しています。主は「自分の敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい」と仰いました。この種の合いは、ただの感状や気持ちの問題ではありません。コロサイ人への手紙3章にあったように、愛は同情心、慈愛、謙虚、柔和、寛容と共に始まるのです。相手がどういう人で有ろうと、良いことをして上げるのです。
 仮令遠く離れて手の届かない人であってもその人のために祈り。仮令何か傷つけられる様な事が合っても、その人を赦すのです。
 特にその人のために祈り、その人を赦せるように祈り、あなたが赦した事によってその人が神を求めるようになるならば、これほど素晴らしい愛はありません。
 しかし、愛は祈りによって支えられますが、祈るだけでは不可ません。直接的具体的に実現するものです。主の譬えにある良きサマリア人のように、見知らぬ人にも声をかけ、介抱し、費用も出して助けてあげるのです。

 今、この地に聖遺物を運んで下さったアン・シュヴァリエさんが病に臥しておいでです。そしてルスキニア・サビーヌスさんがその付き添いで療養の地に向かいます。皆様が主に委ねられた献金の中から、費用を造りたいと思いますが、ご賛同をいただけないでしょうか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 提案は程なく賛意を得、アンの転地の準備が開始された。

●出逢い
 フィラデルフィア。地震によって出来た深い断層が、壕のように街を囲んでいる。兵糧責め以外では陥すことは叶わぬ位の天然の要害である。
 しかし、そこへ行くには先ずスミルナで準備をしなければならない。この街もビザンツの飛び地だけあって、リベラルな雰囲気がベースにある。とは言え、周りは全てアラビア教徒の土地だ。彼らの手前ストイックな環境を保つ必要がある。このためか、色街や遊興施設の類は表には出てこない。
「まるで修道院みたいな街ですね」
 ジャイアント人口も、人間に比べれば少ない。好み以前に対象と行き違わないのが残念だ。それでは、とプラトニック迄範囲を広げて街を行く。
 それでも帝都に比べればあかぬけない女性が多い。
「お嬢さん」
 意を決して声を掛けた。同じジャイアントの娘である。
「ふふり」
 と笑い、娘はリョウの手を取る。
「あ‥‥積極的過ぎます。お嬢さん」
 女好きな割には純情なリョウ。娘は近くの井戸まで導いて
「はい。ここは家の井戸だから、お好きなだけ飲んで構いませんよ。旅人さん」
 水を汲んでくれた。渡された柄杓を取るとぐいと飲み干す。冷たい冷たい清い水だ。
「はぁ〜」
 大きく息を吐く。娘は家からパンとチーズと苦菜を少し持って来て、
「はい」
 リョウに差し出した。娘はにこにこしながら見つめている。リョウは少しばかり躊躇ったものの、ありがたく頂戴する事にした。
 井戸の水と出された食物をゆっくりと味わっていると。
「お客人。中へ入らんかね」
 娘の父親、すなわち家の主は、リョウを家に招く。そして、
「良いワインがあるんだが‥‥」
 と、地下室に案内した。

●合流
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 【腕利き募集】

 ビザンツからの正使を護衛を募集する。
 アナトリアの七教会に、信仰の記憶である『聖遺物』を届けるビザンツの使者を
 盗賊の難から護る腕の立つ者を募集する。

 但し、ジーザス教徒に対し偏見のない者に限る。
 敬神のあまり、彼らに布教せんとする者は直ちに任を解かれるものなり。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ラテン語とアラビア語で書かれた立て札が、スミルナ教会の前に立っていた。

「渡りに船だ。行こう」
 テオフィロスはリョウと昴と手を掴んで引いた。
「マルティヌス殿のお説教の時、隣にいた人たちですね」
 昴は思い出す。向こうは知らずとも、こちらは顔を覚えている。
「アンとか言ったな。あの綺麗な女の人は‥‥」
 顔が緩むリョウ。
「おや? もっと若い女性が好みでは無かったのですか?」
 イワンが意地悪く口にする。彼から見ればリョウの女性経験はままごとのようなものである。
「イワンさぁ〜ん」
 むすっと膨れるリョウ。腕と度胸じゃ負けないけれど、なぜか女にゃチョット弱い。

 程なく、一行は護衛志願者としてガルシアの前に現れた。
「‥‥百人の暗殺者だって!?」
「テオフィロス殿。そのことも一因と思われるが、うちの一人が酷く体調を崩してな。水も適わなかったのだろう。そこで護衛の者を割いて転地療養させることにした。故国イスパニアがまだ物騒なのでな。対岸で暖かいエジプト辺りでも‥‥」
 このため、使節の護衛はかなり手薄になる。
「委細承知しました。別の任務を帯びている私たちですが、叶う限り力を貸しましょう」
 イワンはガルシアの手を取り約束した。
「‥‥アンさんが病気‥‥転地療養‥‥」
 リョウはちょっと落ち込んでいる。ジャイアントと人間。種族が違うので恋愛と言うわけではないが、かなり好意を持っていたらしい。寧ろ肉の欲を伴わぬので、思慕の念はより純粋なものであるのだろう。
「で、これからどちらへ? 同じ帝国の任務を果たすものとして、可能な範囲内では協力したい」
 テオフィロスが聞く。
「まだしかとは定まっていないが、道なりに行けるところだ」
「ならば、フィラデルフィアはどうだろう? フィラデルフィアに一緒に行くなら互いの任務が一致する」
「ふむ。それも良いかも知れない」
「道々、互いの情報を交換しよう。ひょっとしたら有益な情報を掴んでるかも知れない」
 テオフィロスは武器を持つ手を、ゆっくりとガルシアに向かって差し出した。

●別れ
 病人であるアンのために仕立てられた輿。手配された船。
「御法くん。ガルシア父さんを頼んだわよ」
 アンは手を取り頼み込む。100人の刺客ってシャレにならない状況だけど。前回の襲撃の時は御法くんのおかげで難を逃れた形になっている。
「私はアン様に付き添って行くけど。あなたはもう立派なサムライだわ。‥‥夕べ話したこと忘れないでね」
 ルスキニアは御法を抱きしめ、耳元で囁く。
「アンを頼む」
 ガルシアは口数少なくそう言った。
 輿に載せられ港へ向かうアン、そしてルスキニア。ガルシアと御法と新たなる同行者はフィラデルフィアへ。

 翌日。ラピスラズリの様に澄んだ海の上を、船は進んでいた。
「アン様。今は、身体を治すことだけ考えて下さい」
 ルスキニアは看護しながら気鬱になりそうなアンとおしゃべりを始めた。

●若い星の歌
 深い渓谷を下って行くのは、ガルシアと近衛候補の一行である。
「思ったより広いですね」
 先頭を行く使節の護衛の長モリスは、要所に鎹を打ちロープを渡しながらそう言った。
「存外に暖かいぞ。地熱がある」
 と、テオフィロス。底にこの熱があるならば、真冬でも植物は枯れないだろう。
「そうですね。デメテールも娘に会えるのでしょう。ひょっとしたらここは冥府に近いのかも知れませんね」
 不吉な冗談だが、確かに道は地の底に下って行くような感がある。一歩一歩慎重に時間を掛けて底まで降りた時、黎明に出発した彼らは南中する太陽を見た。
 地熱のせいかかなり暖かい。空気の淀みを心配したが、風は緩やかに谷全体を流れている。谷の底に広がるのは初春とも思えぬ緑と、可憐な花々の絨毯であった。
 名前は知らないが、白い小さな花を咲かせそれが雪のように白く広がっている。大地と同じ広がりで、本当の白さで。

「テオフィロス殿。何か感じませんか?」
 イワンは問う。彼は先日の夢のお告げを重く見ている。彼は、主に愛されし者の名を冠す益荒男が選ばれし勇士であるのでは? と、踏んでいるのだ。一方、テオフィロスはテオフィロスで、
「ガルシアさん。さっきも聞いたが、あなたが預かっている聖遺物について何か聞かされていないか?」
 暗殺者達が狙う使節が、エルサレムの権利書を持っているのでは? と目星を付けていた。
「その可能性はあるかも知れない。たかが使節一行を襲うには大がかりすぎる」
 ガルシアは表情を険しくして言った。

「ここが宜しいですね」
 モリスは、谷の探索は一日では終わらない。と、覚悟を決めて宿営地を整備する。元々の護衛の一行は、見事なまでの手際で壕を造り掻き上げの土塁を築き、灌木を束ねて柵を巡らす。ちょっとした陣地が瞬く間に出来て行く。規模こそ小さいが本式のローマ式宿営地だ。
「やるなぁ」
 感心するリョウに、
「本職です」
 と、モリスは笑う。そして昴に
「あなたの天幕はこちらに用意しました」
 それは、中央付近の良い場所に設置されていた。

 夜半。そそり立つ壁面の上に、乙女座が姿を現した。母の女神の真珠星が明るく輝く。
 やはり夜は肌寒い。爆ぜる焚き火に湯を沸かし、口にして暖を採る昴。
「え?」
 ガルシアの傍らの御法が指を向け、
「あれは‥‥なんでしょう?」
 見ると遠く、岩壁の方に光る物が見える。地上に降りた星のように明るく瞬く。高麗笛のような調べが微かに、昴の耳にも聞こえてくる。
 その時だった。交代で仮眠を取っていたテオフィロスが、むっくりと起きあがっておぼつかない足取りで歩いて行く。
「‥‥ルカ。どこだ? そっちか?」
 声を掛けようとした昴とガルシアを留めるイワン。
「しっ。邪魔をしないで。彼は呼ばれています」
 そう言って彼を護るように尾行する。昴も同行した。
 半ば夢、半ば現(うつつ)と言うところだろうか? ふらふらと歩むテオフィロスは谷の絶壁にやってきた。そしていくつか空いた洞穴の一つに入って行く。岩肌には苔が茂り、ほんのりと明るい光を放っていた。
 カキっカキっ。昴は鍛冶道具を利用して分かれ道に来るたびに一歩進んで振り返り、岩肌に出口の方向を示す>の印を着ける。道は緩やかに下って行く。何度目かの分岐の後、広い空間に出た。
「ルカ! ここだな!」
 テオフィロスの声に反応するかのように、ボッ! ボッ! ボッ! ボッ! と自動的に炎が灯った。まぶしい光に浮かび上がる石像。石像から重々しい声がする。
「テオフィロスよ。汝、智慧を望むや? 力を望むや? 勇気を望むや? 元気を望むや?」
 迷わずテオフィロスは叫ぶ。
「智慧だ。俺は智慧を望む」
「昴よ。汝、智慧を望むや? 力を望むや? 勇気を望むや? 元気を望むや?」
「え?」
 咄嗟に混乱する昴。
「汝、智慧を望むや? 力を望むや? 勇気を望むや? 元気を望むや?」
 声は再び繰り返す。まよよと心に決めて昴は、訳が分からないまま答えた。
「私はサムライです。真の勇気を持たぬ者は何一つ持っては居ません」
「イワンよ。汝、智慧を望むや? 力を望むや? 勇気を望むや? 元気を望むや?」
「力です。勝ち取るための力を望みます」
 最も落ち着いた声で応えた。
「汝らは智慧と力と勇気を欲した。まもなく時が満ちる。汝ら求道者よ。‥‥求めよ‥‥求めよ‥‥さらば与えられるだろう‥‥」
 訳の分からぬ言葉を遺して、突然炎はかき消えた。
「他の谷にある、智慧の祠と、力の洞窟。そして勇気の泉を見いだすが良い。蝶が汝らを導くだろう」
 闇が辺りを包み。三人は地震のように揺れる大地に倒れ伏した。

 気が着くと、朝の光が射し込んでいた。狭い岩の裂け目の上の方から光が射し込んでいる。裂け目の両壁に手足を突っ張って昇って行けば抜けれそうな程度の高さだ。
「俺が見てくる」
 テオフィロスが上り詰めると、岩の裂け目から地上に出られる。遠くに宿営地が見えた。

●第4回『アドベンチャーマーチ』選択肢(同時実現可能なものは複数選択可能)
ア:智慧の祠・力の洞窟・勇気の泉
イ:○○殿に侍る(同意が有ればPC指定も可)
ウ:愛とロマンに生きる
エ:学師を訪ねる
オ:その他

 ビザンツは自分で道を切り開いてやろうと言う上級者向きです。セーフティーネットとして参加者は毎回のプレイングに以下の符号を付けることが出来ます。符号が意味する事を重点的に処理されますので、必ず明記してください。符号は矛盾しない限り複数書けます。勿論、目安ですので、プレイング如何によっては個人描写も業績を上げることも両立いたします。

A:プレイング重視。
 仮令それを通すことでどんな酷い目に遭うとしても、書いたとおりの行動をさせて欲しい。

B:成り行き重視
 分かり切った失敗行動の場合。出番が無くなっても良いからその部分のプレイングを無視して欲しい。

C:描写重視
 大したことが出来なくても良いから、個人描写を多くして欲しい。
(物語の展開が遅くなる傾向があります)

D:業績重視
 個人描写が無くとも、希望する方向に状況を動かしたい。

今回のクロストーク

No.1:(2007-04-04まで)
 有る遺跡で石像があなたに尋ねます。理由も含めて書いて下さい
「汝、智慧を望むや? 力を望むや? 勇気を望むや? 元気を望むや?」

No.2:(2007-04-04まで)
 有る遺跡で石像があなたに尋ねます。理由も含めて書いて下さい
「汝、夢を求むや? 時を求むや? 愛を望求むや? 正義を求むや?」