若き獅子たちの伝説

■クエストシナリオ


担当:秋山真之

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年09月01日
 〜2007年09月31日


エリア:ビザンチン帝国

リプレイ公開日:09月27日21:04

●リプレイ本文

若き獅子たちの伝説
■第6回リプレイ:君はペガサス


●モーセの杖
「古のロードの戦士と出会えるとは、光栄だ」
 テオフィロス・パライオロゴス(ec0196)の紹介に、ガルシア・マグナス(ec0569)は飾らぬ態度で歓迎する。
「と、言われても。私もまだ良くわかって無いのです」
 イーシャ・モーブリッジ(eb9601)は、我が事ながら備わりし力に未だ戸惑いを覚えていた。

 そんな出会いから1月余、行動の足場とするため宿に連泊。そこを基地に遺跡を巡っているテオフィロスとガルシアは、いつのまにか風変わりな学者として定着した。毎晩の学びを怠らず聖書研究に明け暮れる、年上のガルシアが師匠で、若いテオフィロスがその弟子と言うのが回りの評価であった。
「ふーむ」
 モーセの杖と呼ばれる聖遺物を、真珠を扱う商人のように傷の一つも見逃すまいと確認する。テオフィロスは伸びをし、
「本当にただの杖だ。煌びやかでも無く、神々しくも無く。どこにでもいる田舎の老人が手にするような木の杖だ」
 元々、眉唾物の聖遺物である。しかし、石膏の壺がどうやら賢者の石。聖ヤコブの剣が稲妻を放つ魔剣。ならばこの何の変哲もない杖が、特別な代物であっても可笑しくはない。何より、ルカの夢。
『剣は力、主の恵み深き者の手に。角笛は勇気、統べる者の手に。あなたは神に愛されし者。杖を‥‥』
 剣の力を引き出したイワン。イワンはヨハネのロシア語読みであり、『主は恵み深きかな』の意である。そして、テオフィロスの意味は『主に愛されし者』である。統べる者が誰かは判らぬが、これもまた名に負う者であろうと思われる。
「モーセの預言者に任命された弟アロンの杖ならば、少なくともソロモンが神殿を建てた頃までは存在した記録はあるのであるが、モーセの杖の記述は彼の死後に無い」
 それ故いかがわしさは、後代のサムソンの髪の毛、ましてさらに後代のヤコブの剣やナルドの壷の欠片と比べてもいっそうである。
「ん!」
 杖を乾いた布で拭いていたテオフィロスは、微かに残る赤黒い指の跡を見つけた。
「ふーむ」
 指の跡辺りが杖の重心。
(「投げよ!」)
 何者かが彼に命じた。テオフィロスはビクっとなって杖を取り落とす。しかし、この時は何も起こらず、乾いた音を立ててニ三度弾むばかりであった。
 それはさて置き。不思議な現象が起こったのは満月の夜。それも月が南中する時刻であった。南中する月と聞いて真っ先に思い出すのは月道である。
「月道ではないのか?」
 ガルシアはボソリ。
「やはり月道か‥‥」
 答えるテオフィロスの肩に手を掛けガルシアは言った。
「取りあえず。『主に愛されし者』がテオフィロス殿である可能性は高い。杖の護持を頼むぞ」

●華国三千年の歴史
 百雷の如き豪快な音。爆ぜる野菜と香ばしき匂い。燃える炎を我が手の如く御す者は誰ぞ。用うる物は打ち合わせて金属音を発する良き炭と、大きな鉄鍋。
「餡一丁上がりです」
 秦美鈴(ec0185)は
 お次は一抱えもある大きな魚。内臓を抜き、エラから上を濡れたタオルで包み油で揚げる。かなりショウ要素の大きなものだ。内と外から同時に火を通し、手早く上げる。ゆっくりと数を数え、再び油の中へ。
「よし。これでOK!」
 大皿に乗せて包丁を入れ、餡を掛ける。そうしておいて濡れタオルを取り、魚の頭を包丁の背でトンと叩いた。
 するとどうだろう。エラから下はすっかり火が通っている魚が、口をパクパクと動き始めたでは無いか。
 回りを取り囲んでみていた連中の驚いたこと。
「魔法使いか? 東洋の呪術師か?」
「ただの料理人です。活きが良くて美味しいですよ」
「信じられん。魔法も使わず、本当にこんな事が出来るのか‥‥」
「当然です。我が国では、百日の訓練を鍛。千日の訓練を錬と言います。そもそも華国三千年の歴史は‥‥」
 半ば出任せ、ハッタリの講釈が続く。舞踊、と言っても武道の型だが、美鈴のヘソを中心とした球の中に入った物は微塵に粉砕せんばかり。常動する流れるような包丁パフォーマンスも迫力満点の凄味があった。オリーブ油と海鮮の組み合わせは、地中海式食事の基本。パリパリとした鱗は焼き菓子のよう。
「はーい。餡に絡めて鱗をお召し上がり下さい」
「どこのお屋敷で修行したのかね」
 庶民のための料理とは思えぬ出来映え。いや。身よりも鱗を食わせると言う料理は、宮廷料理だ。これは王宮料理の特徴なのだが、一等落ちるので食べない部分。しかし棄ててしまうわけではなく、臣下に下賜する物である。一般に、他国の物と比べて華国料理にはこの手の物が多い。
「さ、そこの吟遊詩人さんも‥‥」
 美鈴はまだ人も疎らな酒場の隅で、竪琴の弦を調整している吟遊詩人に声を掛けた。

●君はペガサス
 広い荒野にポツンと一人。長渡昴(ec0199)は辺りを見渡す。下手な密室よりもこのほうが安全。見通しの良い周囲には、人の隠れる場所もない。
(「アラビア教徒の魔法には、その場に居るように音を聞くと言うものがあるでしょうが。ここには私一人」)
 あまつさえ空には低く雲が立ちこめ、陽精霊の魔法とて、昴の姿を捕らえることは無理だろう。
 昴は懐から取り出した角笛に唇寄せて息吹を込めた。
 高らかに鳴り響くその音は、戦の法螺貝にも似て勇壮。昴はまるで生まれながらの勇士になったような気がした。されど、心の奥で期待していたような徴は顕れぬ。
(「思い過ごし? いや、当初何の変哲の無いだと思っていた壷の欠片や剣がこれまで見た様な秘めた力を有しているのですから‥‥」)
 そして竪琴。生憎ほとんど素養のない分野なので、決して良い音とは言えない。弦を適当につま弾くだけだ。
 暫し待つ。特に変わった変化は何もない。昴は大きくため息を吐いた。
「私の腕なのか、それとも‥‥条件が適わないのか」
 吹き鳴らせばよい角笛はともかく、竪琴は特別な秘曲を演奏する必要があるのかも知れない。
「ん?」
 それは一陣の風。つむじ風が乾いた大地の埃を巻き上げ、そして、一筋の閃光が天と地とを貫いた。その落ちた辺りに人影が。誰かがこちらへ近づいてくる。

●クレリック修行
 空いた時間の全てを使って、近くの寺院を訪れ勉学と修行を重ねるガルシアは、次第に学識が備わり、回りから一目置かれる存在になっていった。
 デルファイの街の教会でその成果を試す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 私たちがこの目で体験する、一番身近で、一番偉大な奇跡があります。それは子供を産むことです。多くの人は、結婚すれば子供が産まれることを当たり前の摂理だと思っているでしょう。あるいは、望まずに孕ませてしまったと言う不心得者もいるでしょう。
 しかし、誰一人として主のご計画になく生まれる者は無く、主に祝福されずに産まれる人は居ないのです。生まれながらに主に呪われた者など、誰一人として存在しないことを覚えて下さい。不義の子も、異種族の間に産まれた子も、異教徒も、異教徒との間に産まれた子も、みんな主に祝されて生まれてきました。

 サラによるアブラハムの子イサクは、その誕生からして奇跡でした。
 主がアブラハムに子供を与えると約束したのは75歳の時です。そして、イサクを与えられたのがアブラハム100歳の時でした。私たちが思うよりも主の時間が遅いときがあります。しかし、主は、約束を違えません。主が誓われたことは必ず実現します。主の信実は疑う必要がない完きものです。
 そしてもう一つ、忘れては為らないのが、主は全能であらせられると言う事。いかに信実が主にあっても、全能で無ければ、100歳の男が、90歳の女によって子供を得ることが出来ましょうか? サラは自分の胎が閉じているとまで言いました。
 哲学者の中には、聖書の族長達の年齢の記録は採播年(穀物の収穫周期で約半年)と主張する者もおりますが、彼の説を容れたとしてサラは45歳。アブラハムもサラも、間違いなく人間です。エルフではありません。本来ならば子供を産める年齢で無いことがはっきりしています。

 人間の知恵では一笑に付すようなこの奇跡。アブラハムの反応はどうでしたでしょうか? 創世記15章6節を見て下さい。
「彼は主を信じた。主はそれを彼の義と認められた」
 と、書いてあります。そして、その後サラの反応はどうでしょう?
 使徒パウロがへブル教会の人々に宛てた手紙にこうあります。
「信仰によって、サラも、すでにその年を過ぎた身であるのに、子を宿す力を与えられました。彼女は約束してくださった方を信実な方と考えたからです」
 アブラハムもサラも人間です。生涯の中では、何度も、率直に主を信頼しなかったように見える箇所が書かれています。事実、二人は子供を授かると聞いた時、笑って仕舞いました。イサクとはそのことに因んで付けられた名前です。

 二人には信仰の危機がありました。その箇所を読み上げます。
「また、主はアブラハムに仰せられた。『あなたの妻サライの事だが、その名をサライと呼んではならない。その名はサラとなるからだ。わたしは彼女を祝福しよう。確かに、彼女によって、あなたに一人の男の子を与えよう。わたしは彼女を祝福する。彼女は国々の母となり、国々の民の王達が、彼女から出てくる』」
 主のこのような仰せに、アブラハムはどう反応したでしょう?
「アブラハムはひれ伏しそして笑ったが、心の中で言った。『100歳の者に子供が生まれようか。サラにしても90歳の女が子を産むことが出来ようか』」
 そうです。アブラハムさえひれ伏しながらも笑いました。人の知恵で推し量る限り、無理も無いことです。また、聖書はこうも記しています。
「アブラハムとサラは年を重ねて老人になっており、サラには普通の女であることが既に止まっていた。それでサラは心の中で笑ってこう言った。『老いぼれてしまったこの私に、何の楽しみがあろう。それに主人も年寄りで』」
 と、この時主は確かに約束されました。しかし、サラは信じられず笑ったのです。

 しかし、ヘブル教会の人々に宛てた手紙の中で使徒パウロは、偉大な信仰の英雄達と共にサラの名前を記しています。
「信仰によってサラも」
 と。

 もしも、不徳未熟なわたしがこの箇所を書いたなら、こう記したことでしょう。
「信仰が薄く揺らぎ、またひどく気まぐれでもあったサラも、後に信仰に拠って」
 と、しかし、サラは最後まで信じたのです。

 信仰が揺れ主を疑う事は、人間の性(さが)です。誰でも普通にあることです。しかし、大切なことはその疑いすらも超えて、みことばをしっかりと手離さず最後まで信じる事です。
 もう一箇所、聞いてください。主が、サラの懐妊が間近であることを話された直後の箇所です。
「サラは言った。『神は私を笑われました。聞く者はみんな、私に向かって笑うでしょう』」
 実は、このサラは言った。と言う一文には、サラの感謝と賛美が存在します。ヘブル語の原文を調べて行きますと、「言った」に当たる部分の単語に賛美や感謝の意味が含まれて居るのです。
 愛するみなさん。この箇所の笑いは肯定的な笑いです。感激と感謝があふれ出る、喜びの笑いです。主が誓いを果たされる確信の笑いなのです。そしてその後の経緯は次の通り。
「主は、約束されたとおり、サラを顧みて、仰せられた通りに主はサラになさった」
 人間の側から見ると、25年は長すぎる年月です。主は、主が定められた時が来ると与えてくださいます。サラもアブラハムも、もしも人間の常識で理解できる時期に、子供を授かっていたならば、恐らく普通の人と同様に平凡に受け入れたに違いありません。そこには、サラほどの賛美と感激は生まれようも無かったはずです。
 しかし、みなさん。考えてください。二人は人間的な望みが全て断ち切られた後に、わが子を授かりました。愛するみなさん。主が約束されたのに、祈っても祈ってもまだ与えられないことがありますか? 信実で全能なる主は、必ず誓いを果たされます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 識者の助けを得ているとは言え。なかなかのお説教であった。

「この分だと、テンプルナイツの叙任も遠くありませんね」
 袖で見ていた司祭がぼそりと呟いた。

●武士の娘
「モヤッとしてる時には、下手に考えるよりも体を動かしたほうが気が紛れるし、何より良い考えが浮かぶ場合もあるのですよ」
 という昴の提案で、スフィルと御法は剣の稽古を始めた。
 打ち合いではスフィルと昴達が扱う武器が違うことに戸惑いを覚えたが、これも昴の、
「程度の違いはあれ同じ湾刀・曲刀の流れの武器を使っている者同士、何か得るものはあるはずですよ‥‥たぶん」
 という頼りになるのかならないのかよくわからない言葉で進められることになった。
 小休憩時に独り言のように昴は家族のことを話した。
「私が何かを悩んでる時には、父上や兄が同じ理由でよく稽古をつけてくれたものです。母上はもう少し女らしい芸事を身に付けてほしそうでしたが‥‥こちらのほうが向いていたようですね」
 最後は苦笑混じりに。
 今の自分に在り方に後悔はないが、母のことを思うとすっきり割り切れないものもある。
 人には向き不向きがあるのだから、と言えれば楽なのだが反面、期待に応えたいと思うのも真実で、それが実の親ともなればなおさらだった。
 生きることに簡単なことなどないだろうが、それでも武器を取るか取らないかの差は大きいだろう。
 ちらりとスフィルと御法を見れば、二人の目に迷いはなく、昴は口の端を笑い損ねたふうに歪めた。
 結局、一番モヤモヤしているのは自身か。
 昴は一度空を見上げ、再び剣を手に取った。

●吟遊詩人
 宿に招かれた吟遊詩人。名をマレーアと言う。喉元を隠す服、ハスキーな声。立ち振る舞いからは男とも、女とも区別が着かない。
「おみやげだよー」
 美鈴が持ち込んだのはほっかほかの魚。
「‥‥うん。なかなかいける」
 美味いそうにテオフィロスは白身をつまむ。
「奥さん。旦那さんは濃い口好みだよ。味付けはねぇ」
 塩加減を説明する美鈴。顔をしかめてテオフィロスは
「お嬢さん‥‥」
「はい?」
「なんか勘違いしてるようだから、念のために言っておくが。異種族愛に興味はないぞ」
「ええぇぇ!」
 想定内とは言え、あまりにも露骨な反応に顔に左の掌を当てるテオフィロス。
「あのう‥‥。こないだ説明したと思いますが」
 イーシャも困った顔。
「いいかい。この際、イーシャさんが美しいとか、気だてがいいとか、優しいとか、聡明であるとか。家柄がよいとか、金持ちであるとか、名声が高いとか。そんな事は一切合切関係ない。パライオロゴス家を繁栄させるためには、同じパラとの間に子供を設けるのが自然だろう」
 通常、異種族同士の恋愛は、男同士、女同士のようなものである。魂が引き合うことこそ珍しくもないが、結婚相手とは考えていない。大抵の場合、女性は異種族の男の前では、平気で裸になれる。年頃の娘が飼い犬とお風呂に入っても、恥ずかしいとは思わぬ様に、羞恥心を感じることすらないのが当たり前だ。
 美鈴の誤解を解くまでに、日は沈み夜の帳が降ろされた。

「あのう。そろそろ良いですか?」
 やっと話が落ち着いた頃。マレーアは切り出した。
「‥‥済まない。ずいぶん待ったが、ガルシア殿は今日は他でお泊まりのようだ」
 詫びるテオフィロスに
「知りたいのはピタゴラス教団の事でしたよね」
 マレーアは語りだした。

●戦士の休息
 一度縁が結ばれるとお互い不思議な力で引き付け合うようになるのだろうか。
 リョウ・アスカ(eb5646)は人々の中に彼女の姿を見つけたとたん、心に安らぎを感じた。
「フィッダさん」
 と名を呼べば、振り向いた彼女の瞳にパッと光が射す。リョウに会えて嬉しい、と瞳が語っている。
 リョウはフィッダの腕の中の荷物に、買い物の途中だったのだと気付いた。
「持ちましょう」
 そう言ってフィッダが遠慮の声を発する前に荷物を取り上げる。
「ありがとうございます。実はまだ買うものがあったので‥‥」
「そうでしたか。それならここで俺と会えてラッキーでしたね」
 わざと軽い調子でリョウが言えば、フィッダもようやく雰囲気を和らげた。リョウの好意に甘えることにしたようだ。
「今日は暇なのですか?」
「暇と言うか何と言うか‥‥」
 別の目的もあったのだが、今のリョウにとって果たしてどちらが本命なのか?
 けれどそれを口にするのは恥ずかしすぎて、リョウはセリフの後半を濁した。
 それをどう受け取ったのか、フィッダはふと悪戯な笑みを浮かべて隣を歩くリョウの顔を覗き込んだ。
「‥‥もしかして、私に会いに来てくれたとか!」
「!」
 大胆とも取れる発言に、リョウの歩みは数歩ぎこちなくなる。下手すれば足がもつれそうなほどに。
 驚きを隠せない目は、くすくす笑うフィッダを凝視していた。
 あなたはそういうキャラだったのですか!?
 と、目は訴えていたがフィッダは気付いていない。
 それどころか笑う彼女の様子からリョウはからかわれたのだとわかってしまった。
 戦場ではもっと冷静でいられるのに、フィッダの前では動揺の連続で。
 彼女の小さな言葉や何気ない仕草やふとした目線に、リョウの全神経が漏れなく反応してしまう。
 自分の存在が根こそぎ奪われてしまいそうな感覚。
 だが、それは決して不快なものではない。
 もしもリョウ・アスカという存在をこの世から消し去るものがあるとすれば、それはきっとこのフィッダだろう。彼女以外にはありえない。
 リョウを生かすも殺すもフィッダしだい?
 そこまで考えて急に笑いがこみ上げてきたリョウ。
 どうやらそれは顔に出ていたらしく、フィッダが不思議そうに首を傾げている。
 ふとリョウはちょっとした仕返しをしたくなった。
「そうですね‥‥あなたの言う通り、会いに来たんですよ。どうやらあなたの笑顔なしでは一日が始まらなくなってしまったようです。──どうしてくれます?」
 さて、フィッダはどんな反応をくれるだろうか。
 目を真ん丸にして足を止めた彼女の頬はみるみる赤く染まっていき、その熱は首や耳にまで達した。今ならリンゴと並んでも違和感はないだろう。
 予想以上の反応に、仕掛けたリョウ自身も照れてしまいそうになったが、そこは笑顔でごまかしたのだった。

●予言の泉
 なんの痕跡もないデルファイの洞窟。その中に図形と石はあった。
「自分には智慧が足りぬようだ」
 感覚的に、これは月道ではないかと言う思いもあるが、月道とはバードの月魔法ムーンロードによって開くもの。年のせいとは言えぬが、船底に着く蛎殻のように、固定概念がブレーキを掛ける。そして分別が、少年のような無謀なことを押し留めるのだ。
(「あの時、光の柱に飛び込んで居ればどうであったろう?」)
 ガルシアは考える。

 そこへイーシャとテオフィロスが一人の吟遊詩人を伴ってやってきた。
「マレーアと申します。以後もお見知り置きを」
 ハスキーな声で挨拶した。
「月道を開く魔法をご存じたそうです」
 イーシャは説明する。
「マレーア殿。デルファイの伝承をご存じか?」
 ガルシアは立ち上がって問う。
「予言の泉ですね?」
「おおそうだ」
「それは洞窟の一つです」
「洞窟?」
「はい。巫女が一人で洞窟に入って神々と交信し、出てきた時に神託を授かったと聞き及びます。出てきてしばらくの間は意識が朦朧とし、我が業は我が事為らずの呈で、神託を告げた後倒れ込んで気を失う者も多かったとか。後で神託を覚えていない者も居たそうです」
 予言の泉とは、神託を授かる神域の洞窟を指すらしい。あるいは、先日訪れた場所がそうなのかも知れぬ。ガルシアはふむと腕を組み。
「宜しければ、しばらくの間おつきあい願えまいか? 然るべき報酬は用意する積もりだ」

●幻の都
 ぼんやりと灯りが照らす地下の部屋。錬金術師パラケルスと助手のオーフェン二人が、真顔であちこち探している。その様がほうっと霞み、ぐらっと揺れ。ついにはふっと消えた。

「‥‥昴殿」
「んー。は、え、あ‥‥」
 待ちくたびれてうたた寝していた様だ。
「見つかりましたぞ」
 パラケルスは、ボロボロのパピルスに記された物を見せる。
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口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口
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口口口口口口口口口口口口口口口■■口■■■■■■口■■■口口■口■■■田口口口
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(注:遠く目を離して絵としてご覧下さい)
「エジプトのスパイの報告書にある、第一神殿と目される絵図の一部じゃ」
 絵は古すぎてインクがかすれ。微かにその姿を辿れるばかり。
「北はどちらですか?」
 昴の問いにパラケルスは、
「判らぬ。報告書によると、図の上方向に山地、あるいは丘陵があるそうじゃ。『Γ(ガンマ)』状に丘陵が図の左側にもあると言う。ハトゥシャは世界で初めて鉄を創ったとされるヒッタイト人(びと)の都じゃ。第一神殿は王宮と並ぶ重要施設。じゃが、こちらは同じ神を信じる者ならば、神殿への貢ぎ物を納めに入ることは出来たようじゃ」
「それにしても、よくここまで縄張りを明らかにしましたね。神殿と雖も堅牢な石造りであれば、いざというときの砦と機能しましょうに」
「報告者以外は皆殺されたそうじゃ」
「そうでしょう」
 神殿は、大まかに見れば人の頭蓋骨を右側から見たような形をしている。この形そのものに宗教的な意味があったかどうかは知らない。しかし、このような複雑な縄張りの建物を造る技術は、かなりのものであっただろうと思われる。
「それで、シトゥシャの場所は」
「それが、アナトリア高原のただ中。と言う以外、何も伝わっておらんのじゃ。恐らく現在は、人の住まぬ廃墟となって、文字通り埋もれて居る可能性が高い」
「‥‥そうですか」
 昴はがくりと肩を落とした。

●神託
「ここです。この中に入り、巫女は神託を受けました」
 マレーアは、今では誰も省みない小さな洞窟を示した。
「予言の泉とは、こんな小さな所か?」
 テオフィロス・パライオロゴス(ec0196)は訝しそうに中を覗き込む。
「中に入るのは潔(いさぎよ)い者で無ければなりません」
「潔い者?」
 マレーアの言葉を反芻するイーシャ。
「そうです。男を知っている女。あるいは女を知っている男が入ると、息が詰まって中で死んでしまうと言われています。只の言い伝えかも知れませんが‥‥」
 テオフィロスとイーシャは顔を見合わせた。こんな時、普通の男だったら間違っても女を知らぬとは言わない。反対に、慎み有る女だったら経験があるとは言わないものだ。
「尤も、言い伝えの古い詩(うた)にある『乙女』には、処女の他に若い女性や女の子と言う意味もあります」
 イーシャは美鈴の方を見た。
「え? 私?」
 一般に東洋人は若く見える。まして童顔の美鈴は、女の子と言っても通用する。
「仕方ないですね」
 と言いつつ準備する。腰にロープを結わえ、革袋に空気を包み。
「中で倒れたら引きずり出して下さいよ」
 と何度も念を押し中に入った。

 どれくらい時間が経ったであろう。美鈴は自分を覗き込むみんなの姿を見た。

「これがデルファイの神託か‥‥」
 ガルシアは髭をしごきながら難しい顔をした。

●月の道
 月は満ち。再び南天に差し掛かる。イワンとリョウは羊皮紙の内容通り、二つの立方体の位置を入れ替える。
 月に向かって器をとり、水を満す。器を月光に供え唱和した。
「ケレテウス・ヴァリドゥス、ケレテウス・オビドゥス。
 ケレテウス・ペッシムス、ケレテウス・カルディウス。
 ケレテウス・オムニス、ケレテウス・シミリウス」
 するとどうだろう。図形の円が月の光と同じ色に輝き、上間で真っ直ぐ伸びる光の柱となった。そこに浮かぶのはいつぞやの光景。片方はテオフィロス達が見えた光。もう片方はアラビア教徒達が見えた光。
「月道‥‥ですよね」
「どう見ても‥‥」
 右か左か、迷った末に二人は一方を選ぶ。イワンは意を決し、その中に飛び込んだ。そしてリョウも後に続く。

 光の柱は6分間ほどして消滅した。

「新しい月道か。だとしたらこれは大したお手柄です」
 オーフェンは師匠に向かって感激の言葉。だとしたら関わった者が特別な名誉を得るには相応しい功績である。


●第9回『ふえはおどる』選択肢(同時実現可能なものは複数選択可能)
ア:滅びの都で
イ:謎の青年アリー
ウ:ピタゴラス教団の魔手
エ:スフィル君に○○・妖精さんと○○・御法君と○○
オ:叙任を受ける(エルレオン・テンブルナイツ)
カ:その他

※移動者・新規参加者・再開参加者がいる場合。都合の良い場所から現れて下さい。

■解説
 ビザンツは自分で道を切り開いてやろうと言う上級者向きです。セーフティーネットとして参加者は毎回のプレイングに以下の符号を付けることが出来ます。符号が意味する事を重点的に処理されますので、必ず明記してください。符号は矛盾しない限り複数書けます。勿論、目安ですので、プレイング如何によっては個人描写も業績を上げることも両立いたします。
 訪ねるべき土地は、隔たっております。次回はバラバラに動く必要が在るかもしれません。また、人数が少ないため、一人で何役も働く必要があります。
 特別な情報を得たと思われる方は、なるべく早く他の方と情報を共有して下さい。

 残り回数僅か。
 アを選ぶ方は、開始時から滅びの都に居ることが出来ます。
 叙任は今回アンケートに答えた方のみ選択できます。一緒に選んだ選択肢と行動によって、叙任のタイミングが変わることがあります。


A:プレイング重視。
 仮令それを通すことでどんな酷い目に遭うとしても、書いたとおりの行動をさせて欲しい。

B:成り行き重視
 分かり切った失敗行動の場合。出番が無くなっても良いからその部分のプレイングを無視して欲しい。

C:描写重視
 大したことが出来なくても良いから、個人描写を多くして欲しい。
(物語の展開が遅くなる傾向があります)

D:業績重視
 個人描写が無くとも、希望する方向に状況を動かしたい。


今回のクロストーク

No.1:(2007-09-08まで)
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