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若き獅子たちの伝説
■クエストシナリオ
担当:
秋山真之
対応レベル:
‐
難易度:
‐
成功報酬:
-
参加人数:
8人
サポート参加人数:
-人
冒険期間:
2007年07月01日
〜2007年07月31日
エリア:
ビザンチン帝国
リプレイ公開日:
07月22日21:24
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●リプレイ本文
若き獅子たちの伝説
■第6回リプレイ:空は‥‥
●エフェソの地下神殿
十分な油とランタン。その他多くの資材を持ち込み、テオフィロス・パライオロゴス(ec0196)は詳しく調査を行った。
「この女神像は、掟の神テミスに間違いないだろう」
汚れた壁を照らすと、壁面に文字が書かれている。
「雷鳴の剣、計る、‥‥ガイ、王、‥‥賢者の石‥‥。あとは消えて読めない」
「読めるのですか?」
長渡昴(ec0199)の問いにテオフィロスは、
「少しはな。教師についてホメロスくらい読んだことがある」
ジャパン人の昴が漢籍を素読するような感じで、教養として単語の拾い読みくらいは出来ると言う。消えかかったギリシア文字から、幾つかの固有名詞の発音くらいは読みとれた。
「当て推量を加えての判断だが、ひょっとしたら、聖遺物‥‥いや実は古代に創られたアーティファクトの真贋を量るものかも知れない」
テオフィロスは前回剣に光を付与した像の、天秤を指して言う。当て推量だが仮に何も無くとも損害はない。
「この地を離れる前に調べるべきは調べ尽くしておきたい」
その言に昴も異存はなかった。そのためには正使であるガルシア・マグナス(ec0569)の帰りを待たねばならない。聖遺物の権限は彼に帰したからである。時を費やすことには為るが、その間にスフィルの傷も癒えるであろうし、別件の調査も進むはずだ。敵を防ぐにしても、荒野や街道よりはエフェソの街の方が都合良い。詳しい調査は他の者に委ね、テオフィロスは出立する。
旅立ちにあたり、ガルシアとのすれ違いを恐れみんなにぎりぎりまでこの地に留まる事を希望した。
「俺はデルファイへ行く。手懸かりを集め、合流して情報交換を行おう」
「可能ならば、手懸かりとなる聖遺物を携えるべきでしょうが、まだガルシアさんが戻ってきていません」
イワン・コウルギ(ec0174)は残念そうにこぼす。
「ああ。だが、デルファイに向かうならばもう待つのが限界だ」
テオフィロスは残念そうに言った。
その夜。蛇使い座が西に沈み、ペガサス座が南中する頃。木星が魚座の下に明るく輝いていた。もうすっかり元気になったスフィルは、半身を起こしベッドに座ると、傍らの人間にしか聞こえないような小さな声でこう言った。
「使節の警護は鉄壁です。しかし師よ。今日、一人のパラがデルファイへ向かい旅立ちました」
彼以外いない部屋の中で、誰に向かって発せられたのか。
●クロトの力
「そう?」
テオドラ后の返事は淡泊であった。
「そうって‥‥」
「止めて欲しかった?」
「い、いえ」
「自由民の貴方を、私が止める権利など無いわ」
「それはそうですが‥‥」
ちょっぴり寂しいイーシャ・モーブリッジ(eb9601)。
「但し、条件があります」
テオドラは、こればっかりは是非もないと金貨の袋を押しつけた。
「一月、腕利きの護衛を雇うには十分な物が入っています。ケマル!」
呼ばれた学師がまかり越す。
「彼が話したいことがあるそうです」
促されてケマルは口を開いた。
「時の戦士の力は、時を統べるもの。先頃発顕したそれは、世の時と貴方の時を違える力です。動きが倍になれば倍、四倍になれば四倍。八倍になれば八倍、使った時間分、主が貴方に与えた時が費やされます。どこまで使えるかは判りませんが、その分貴方は早く歳を取ります。力は乗った動物にも及びますから、馬ごと早くなればその馬も早く歳を取ります」
つまり、使いすぎればそれだけ早くお婆ちゃんになって仕舞うと言うことだ。
「そしてもう一つ。その間は普通に音が聞こえません」
これも注意しておくべきだろう。
「この先発顕するかどうかは判りませんが、なお幾つかの力が貴方には備わっています。恐らく、それが必要とされるような大事に至る迄、顕れることは無いでしょう。力を求めて自ら危機を招かぬ分別が必要です。時が満ちる前に、自ら求めた危機のために落命することがあっては為りません」
人を超える力故、野心溢れる者が陥る危険をケマルは諭した。
●謎の文書
「パラケルス殿!!」
転ぶように下馬するなり、汗だくの身体を戸口に差し込む。
馬を乗り潰さんばかりの勢いで、ガルシアは戻ってきた。
「これは‥‥」
出迎えた昴は、一目で大事と理解した。馬の脚には清潔な白い布が巻かれている。
馬を長く走らせると脚が充血してくる。普通はそのまま休ませねばならないが、息が上がって居らず脚が充血してきた場合の特別な処置がある。
「馬針を使うとは余程の事ですね」
馬針でツボを刺し悪血を流す。いわば馬の瀉血治療だ。そうして置いて清潔な布で包帯してやると馬はまた走れるようになるのだ。尤もこれは戦場往来の処置であり、いつもこんな事をやっていたら、馬の身体が保つ訳がない。
「解読を頼む」
ガルシアは、染みの具合までそのままに写してきた文書を卓に並べる。
「アラム語はなんとかなるが、こちらは直ぐには無理じゃ」
パラケルスはヘテ人の文字で書かれた文書を横に置いた。
「パラケルス殿でも無理か? ヘテ人の文字だと言う」
「ヘテ人? あの幻の民族の文字か!」
この分では読めそうもない。
「異教徒の魔法なら、読めるだろうが、わしには無理じゃな」
「それで、アラム語の方は?」
リョウ・アスカ(eb5646)が水を向けると、
「‥‥ほほう。これは‥‥」
見るなり、パラケルスは熱心に読み耽り始めた。興味深げに何度も相づちを打ちながら。人無きが如くに没頭している。ガルシア達は声を掛ける事も出来ずじっと待っていた。
やがて、
「マカベアがエルサレムを奪還し、主の神殿を再建した話が書かれて居る。指導者ユダの死とその翌年の大飢饉による艱難の日々。これは大した発見だぞ。マカベアの土地政策はヘロデと殆ど同じじゃ。いや、ヘロデがマカベア家の政策を受け継いだのであろう」
興奮しながら喋り続けるパラケルス。
「先生。皆さん困ってます」
オーフェンの声に我に返ったパラケルスは、
「こほん。聖遺物関係の話じゃな」
頷くガルシア。
「ここじゃ。ユダ・マカベアがエルサレムを奪還した後。神より授かった剣と石と竪琴と角笛をガリラヤの洞窟に納めたと書いてある。あの辺りは天然の砦での。根拠地となる無数の洞穴があり、ガリラヤ湖は地元の漁師でも風を読み違えるほど突然変わって、凪から急に嵐に為ることもしばしばじゃ。そしてマカベア家は、信頼の置ける者をその地に定住させ、宝物の番人にしたそうじゃ。その一人が使徒ヤコブの祖先のようじゃな」
「つまり、その剣が使徒ヤコブの剣と言うことですか?」
おそるおそるリョウは聞いた。
「そうじゃ。マカベアが納めた剣こそ、その剣に相違ない」
こうしてアラム語文書(もんじょ)の謎は解けた。しかし、ヘテ人の文書は彼にも読めない。
●ナルドの壷
パラケルスは、渡された物を光にかざし眺める。聖遺物・ナルドの壷の欠片と呼ばれる物だ。見た目は石膏そのもの。マグダラのマリアが主に注いだナルドの香油を入れていた石膏の壺の欠片だと言われている。
「分析のため、少し削っても良いじゃろうか?」
ガルシアの方を向き、真顔で尋ねる。
「そうしないとダメなのか?」
真偽は兎も角、帝国より託された有り難い聖遺物である。即答出来るわけなど無い。
「リョウさんから聞いた話だと、入り込んだ異物の正体はこれの粉末とルスキニアさんの睫毛と思われます」
「そうなのか? 本当にそうなのか?」
ガルシアはリョウに問い詰めるように訊いた。
「ええ。それ以外心当たりは有りません」
リョウは、何か拙いしくじりでもしたかのように当惑していた。
「‥‥その話が本当ならば、これは賢者の石と言うことになる」
「あ、あの。賢者の石と言うと、鉛とかを金に変える奴ですか?」
リョウはとて、そのくらいの学はある。
「世間一般にはそのように言われておる。じゃが、錬金術とはそんな浅薄な物ではない。世の風評は、山師が冶金術で銅に微量含まれる金銀を取り出して見せたり、金の精練を見た素人が、骨灰に鉛が吸われて金が残る様を勘違いしたに過ぎんのよ」
ガルシアは暫し考えていたが、
「ガルシア殿。欠片の破片でオブが誕生しました。少なくとも特別な物であることは間違い有りません。今ここで迷っている場合ではありまらせんよ」
イワンに促され
「極微量で良いのか?」
と尋ねた。息で吹いて飛んだ粉程度でオブシディアンが生まれたとするなら、調べるのは同程度の量で済むはずだ。
「ネズミの毛で粉を掻き取る程度で済むじゃろう」
パラケルスの答えに、その程度ならばとガルシアは許可を下した。
●お披露目
敬虔なるエフェソの信徒らを臨み。正式に神聖騎士となったガルシアが、お披露目のお説教をする。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
主は何を求められているのでしょうか?
預言者とは、主の御言葉を預かり人々に伝える役目を担っている人を言います。彼らはどんな言葉を伝えたでしょうか? 聞いていて楽しい。あるいは耳に心地よい甘い言葉を紡いだでしょうか?
いえいえそうではありません。彼らはむしろ、耳に痛い、人々が聞きたくないような言葉を語りました。そんな預言者の中から、今朝はアモスを選んでお話しします。
アモスは主の生誕より700年程前に生きていた人であると考えられて居ます。そして、多くの預言者がそうであったように、主の御言葉を預かるが故に、祭司や王から要注意人物としてマークされていました。このことはアモス書の7章10節以降を見れば判ります。
21節から22節にかけて、大変厳しい言葉が並べられています。神は何を憎み、そして退けられたのか? 今ここで数え上げると、祭り・きよめの集会・全焼の生け贄・穀物の捧げ物・和解の生け贄・歌、即ち賛美・琴の音、即ち賛美のための音楽‥‥。これら全てを神は憎んだと書かれています。
これらは何でしょう? 全て礼拝に関係したものです。神は、人々のいかなる礼拝も受け付けないと拒否されているのです。一体全体、これはどういうことでしょう?
捧げ物が粗悪な物だったのでしょうか? いえ違います。彼らは良く肥えた最上の家畜を選んで捧げていました。捧げ物には何の問題もなかったのです。
預言者アモスの時代は、主の民が非常に豊かであった時代です。人々が象牙の寝台に横たわっていたと、6章4節には書かれています。ですから、礼拝のために良い捧げ物を用意する事は、彼らにとって容易いことだったのです。
彼らは素晴らしい礼拝を捧げていると信じていました。そう。確かに見た目は立派でした。満月のようにどこも欠けることのない完璧な礼拝だった筈です。その賛美は耳で聞く限り、美しい物であったと思います。
しかし、神は彼らの礼拝を拒否されました。なぜなのでしょう? 神は何をお求めに為られて居られるのでしょうか?
その答えは24節にこうあります。「公義を水の如く、正義を常に水の流れる川のように流れさせよ」
人の目には美々しく、人の心をうっとりさせ、財産を惜しげもなく捧げ‥‥。しかしそれは人間にとって素晴らしい礼拝であっても、一番重要な事が失われた抜け殻だったのです。
神が求めるものとは、第一に公義であると言っています。欠けては為らない物は何か? それは正義であると言っています。しかもただそこにあれば良いという物ではなく。水のように、川のように、流れる物で無くてはならないと言っています。
「公義と正義」と言う言葉は、聖書の中に何度も出てきます。最も有名なのはイザヤ書の9章6〜7節でしょう。主の降誕を預言している所です。主が「ダビデの王座に就き、さばきと正義によってこれを堅く立てる」と書かれています。ここで書かれている「さばきと正義」とは、原書では「公義と正義」と全く同じ言葉です。「公義」とは神が定められた掟、あるいはそれに従った裁きそのものを指す言葉です。「正義」とは神が私たちに示す、神の正しさそのものを指します。
神はそれらを流れさせよと命じています。流れさせるのは私たちです。誰かがしてくれる、主に全てを委ねていればそれで良い。と言う物ではありません。
使徒行伝の2章には、主の復活より50日後に、使徒達に聖霊様が下った様が記されています。人々は怪しんで「この人たちは酒を飲んで酔っているのではないか」とさえ言いました。このとき使徒ペテロはこういいました。
「この曲がった時代から救われなさい」と。
ペテロは自分の生きている時代を「曲がった時代」と言いました。神の御子が人となって来られたのに、主を拒み、主を十字架につけてしまった。このことを指して「曲がった時代」と言ったのです。
曲がった時代は、当時だけでしょうか? あるいはアモスの時代だけでしょうか? 今も同じではないですか? 人々は尚も主を受け入れず、拒みながら生きようとしています。今の時代も主を十字架につける時代なのです。
私達は、主によってこの時代から先に救われました。今主は、何をなされているでしょう? 公儀と正義によって、この地上に御国を実現されようとしています。私達は、何をすべきでしょうか?
主はこのように祈れとお示しになりました。「御心が天で行われるように地でも行われますように‥‥」。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回、その原稿は長老が用意した物であるが、刻んだ人生の皺が彼の手による物であると皆信じた。
●蝶の誘い
満月の夜。傍らの女神像は正義の女神その天秤の前に、ガルシアは最も大切とされた聖遺物を置いた。ナルド壺の欠片・聖墳墓の墓石の欠片・聖ヤコブの剣・聖王ダビデの竪琴・モーセの杖・ギデオンの角笛・サムソンの髪。
「そう何度も起こらぬか」
ガルシアは予想通りの結果を確認した。今一度象の手に握らせても、剣はさらなる変化を見せない。もしやと天秤に掛けてみたが、特別変わったことは起こらない。しかし一通り試さずば、後で臍を咬むことになるやも知れない。
「うーん」
ランタンの光を集めて念入りに、昴は精査する。
「ここから先が有るような気がするんですが‥‥」
どこかにあると言う力の洞窟、勇気の泉。そして誘うもの蝶。
「蝶の意匠、蝶の文字‥‥綴りは‥‥えーと」
「蝶はラテン語ならばパーピリオーでP・A・P・I・L・I・Oだ。ギリシア語ならばプシューケー‥‥」
答えの途中でガルシアは考え込む。プシューケーには『息』や『魂』と言う意味もあるのだ。そしてここはギリシアの神々の神殿跡。
(「誘う物は魂? 息? 息は‥‥風?!」)
「蝋燭を!」
息を凝らし炎をかざす。ゆっくりと部屋を壁に沿って一回りする。アルテミスの像の後ろで、炎が揺らいだ。
「この向こうに、何かある」
「この隙間からですね」
昴は蝋燭を近づける。
「あ!」
そこに小さな、蝶のレリーフが見て取れた。
「満月の夜に来たれ‥‥か」
ガルシアはギリシア語で書かれた文字を読んだ。一方、蝋燭を手に蝶のリレーフに触れた昴は、
「動く。動きます!」
ガタンと蝶は、昴の指を受け入れた。するとどうだろう。壁が引き戸のように動かせるではないか。肘から手首の倍ほどの長さの石壁がスライドし、小柄な者ならば這って通れそうな通路が続いている。
●ホリディ
死にかけて居たのが嘘のよう。ベッドの少年の血色は、萌え立つような命の息吹を上げて、安らかに眠っている。のぞき込む昴の目が、母のように細くなる。毛布を直す手が少年の髪に触れたとき、
「うう〜ん」
少年のまどろみは醒めようとしていた。
未だ焦点の定まらぬ目が初めて認める者。
「おはよう。お寝坊さん」
茶目っけたっぷりに昴が言う。なんとか日用会話なら通じる彼女のアラビア語。
「スフィル殿、具合はどうですか? お互い初めての経験でしたが‥‥不 具 合はありませんか?」
昴はスフィルのおでこの髪を手で分けながら尋ねた。
「おまえは‥‥」
言ってスフィルは黙り込んだ。そして何とも言えない恥ずかしそうな顔をして、
「ありが‥‥とう」
そう、拙いラテン語で答えた。彼なりの感謝の気持ちかも知れない。そんな二人を後目に、
「えい!」
「おい、よせ、おまえ。あたたた」
同じく見舞いに訪れたリョウが、件の妖精? オブシディアンの手荒な歓迎を受けていた。幼児のように加減と言う物を知らないオブシディアン。
喜びも露わに顔面へ飛び込んでくる。
見たところ、スフィルの気持ちも大分落ち着いて来たみたいなので、昴が話を切りだした。
「それにしてもあれですね。何といいますか、ある意味私とスフィル殿は血縁と言ってもいいでしょうね。ヘタな義兄弟の契りよりも濃いかもしれませんよ?」
「‥‥姉弟? なのか‥‥おまえと」
スフィルは止血術や外科手術。開腹手術のための麻酔と言うものを知っている。しかし、他人の血で失われた血液を補う術(すべ)など聞いたこともない。
「遠い昔、同じ父から分かれたのかも知れない」
ぼそりと呟く。
「突き詰めて考えると開けてはいけないフタを開けようとしているような気持ちになりそうですね」
オブシディアンを頭に載せたリョウが、話に加わった。
「リョウ殿。おっしゃりたいことがあるのなら、率直にどうぞ」
冷めた笑みで昴が言うと、
「いえ、何でもないですよ。素敵な血縁者になってくださいな」
いかにも棒読みにリョウが返す。
「血縁者、ですか。ふふふ。確かに、何やら弟でもできた気分ですね」
愉しそうに昴は言いかけたが、
「実は私、下の子なのです。年下のイトコはいましたが、しょっちゅう会うわけでもありませんし、上は兄が一人いるだけで。それも、いつも家をあけてばっかりで、あんまり構ってくれませんでしたね」
その兄は帰れぬ旅に出た。途中からしみじみと想う。
「その分これから飽きるほど構ってやればいい。さぁ食事だ。腹が空くかも知れないが、まだ普通の食事は体に毒だ」
ガルシアが井戸で冷やしたスープをスフィルの横に置く。塩漬けの羊の肉を豆や葉野菜と一緒に煮込んだ物だ。
「スフィルも昴が会いにきてくれると嬉しいでしょう? そういえば、あなたも兄弟がいるのですか?」
リョウの問いにスフィルは答えない。貝のようにだんまり。
「スフィ‥‥うぁいてててて!」
なおも話しかけるリョウが悲鳴を上げた。あんまりリョウがスフィルにばかり構うので、オブシディアンが癇癪を起こしたようだ。髪を引っ張ったり耳に噛み付いたりして気を引こうとしている。
「よせ! おい! オブ!っててててて」
これが見た目よりけっこう痛い。
「はげたらどうする!」
妖精を捕まえ、握り締めるふりをするリョウ。
「妖精いじめはんたーい!」
さっきの仇と、からかう昴。
「妖精を握り潰した男として噂を広めてやろうか?」
ガルシアも人が悪い。
「世界で最初の人になれますね。きっと名前が残りますよ」
と昴。
「リョウ・アスカいじめはんたーい」
既に言葉遊び。リョウがムキになって言うと、彼の手の中でもがきながら
「はんたーい。はんたーい」
と繰り返すオブシディアン。いつの間にかスフィルもくすくす笑い始めた。
●空は‥‥
子供の御法を先に立て、比較的小柄な昴が細い通路を這って進む。暗い。ランタンの灯だけが頼りである。
「テオさんが居れば‥‥」
言っても詮無き事。彼は時間が許すぎりぎりまでこの地に留まったが、デルファイの地は遙か遠い。海路で半月以上掛かるのだ。
進む内に、内部は三角のちょうどおにぎりを横から見たような形になって広くなった。
御法はランタンを近づけ言った。
「ノミの跡があります。人の手で掘られたものでしょう」
幸いまだ分岐点は無い。偶像の部屋より延ばしてきた糸巻きは、回収して再利用出来そうだ。
程なく立てるほどの大きな空洞に至る。糸巻きの糸はまだ余っていた。
どうやら外に続いている天井の小さな穴から光が射し込んでいる。闇に慣れた目ではまぶしいほどの明るさだ。それが白い筋となって、床の一点を指している。
「床に奇妙な模様があります」
かなり積もった塵の下に円を機軸とした幾何学紋様が見える。そして差し込む光に輝く物が、円の中心に見えた。銀色のタブレットだ。さらにその横にも何か有る。
「クルミのような土器の器。これはギリシア文字のようですね」
昴は発音を拾う。意味はまるで分からない。
『ケレテウス・ヴァリドゥス、ケレテウス・オビドゥス、ケレテウス・ペッシムス、ケレテウス・カルディウス、ケレテウス・オムニス、ケレテウス・シミリウス』
「何でしょう? まるで呪文のようです」
そして石のサイコロが4つ。小指の先ほど小さい物が一つ、一番大きい物の上に載っかっている。大きさが似通った中位の物が二つ。これもまた大きい物の上に小さい物が置かれていた。糸で長さを測ると。一番大きい物の一辺が一番小さい物の12倍。残りの二つの一辺は、それぞれ9倍と10倍であった。その全てにペンタグラムが刻まれている。
これは何であろうと御法も首を傾げた。
目を細めて差し込む方を調べると、丁度満月がそちらに見えた。時刻と方角から見て、南中する満月の光が射し込むよう穿たれた穴であった。
謎を解けばさらなる謎。それはまるで、登っても登っても登っても登っても、近づくほど遠くなる空のように思えた。
●星の夜
真闇の空に浮かぶ星の下、イワンは番に立つ。まだ鳴りを潜めているが、何せ100人の刺客集団だ。遅れを取らぬよう抜き身の剣を引っ下げて、直ぐ取り出せるようポーションを忍ばせた。
「星が綺麗ですね」
交代のリョウがクレイモアを杖に横に立つ。その頭の上には、眠そうなオブシディアン。
「そういう言葉は、ご婦人に言うものですよ」
笑うイワン。
「いえ‥‥。村娘から聞いたんですが、来月の今頃、満天の星の下で恋を言い交わすお祭りがあるそうです。この日ばかりは女性の方から愛を告げることもはしたない事では無いそうで‥‥」
「愛を告げる星のお祭りですか」
興味深そうにイワンは応えた。そういえば暫く女を口説いていなかった。
●予言の地へ
隣町へ行くにも帆を張るギリシャの伝統は伊達ではない。エフェソから海路。デルファイへ向かう。デルファイはパルナソス山の南麓にある古代遺跡。アテネより遙か西方の地だ。海路であることと航路が有ることで、距離にすると半月を越す。単純に直線距離で量るならば、行方知れずヘテ人の都ハットゥシャよりも遠いだろう。
「一度、帝都に戻るか‥‥それとも久しぶりに家に寄って見るか」
テオフィロスは、波を枕に床に就く。
地球のヘソと呼ばれ予言の泉が湧き出た地、デルファイ。異教の神々に捧げられたオリンピアとは事になり、その神域は人の営みの中にあった。
既に予言の泉は枯れていると言われているが、かつては予言を求めて地中海世界の全ての国民(くにたみ)が、この地に集まって来ていたと言う
「掟の神テミス女神から太陽神アポロンに譲られた聖域‥‥」
テオフィロスはすっかり鄙びた街の土を踏んだ。異教の神とて、荒れるにまかされた神殿跡。めぼしい石材は建材として運び出され、朽ちた柱が墓標の如くそこにある。だが、かつての信仰の名残か廃墟すらも神々しい。このように人の手に拠って建てられた物は、千歳の月日が朽ちさせて行ったが、神が創りし給う天然の聖域は未だに威厳を保っている。
小さな祠を想像して来たが、デルファイの聖域は一つの街の規模。目の前に広がる物全てがデルファイである。デルファイの起伏の激しい荒涼とした風景。山腹を彩る段丘。未だ残る競技場。気が付くとテオフィロスは、識らず履き物を脱いでいた。
(「おや?」)
貴族の奥方だろうか? 普段は人気のないこの辺りに、剣を持った数人の男達に護られ、こちらへ向かってくる。馬に乗っているが、よくよく見ると足の先に水掻き。
テオフィロスは呟いた。
「驚いた。ケルピーを従えているとは、只の奥方では無いぞ」
「聞こえますか? テオさん‥‥」
若い女の子の声だ。辺りを見渡すが奥方一行以外誰も見えない。
「その声は‥‥ルカか?」
「聖王様の鍵は三つ。剣・杖・そして角笛」
「なんだって?」
構わず声は続ける。
「剣は力、主の恵み深き者の手に。角笛は勇気、統べる者の手に。あなたは神に愛されし者。杖を‥‥」
なぜかだんだんと声が小さくなって行く。
「時間が有りません。その方は時の戦士。あなたを弼ける方です。忘れないで!」
ぐらりと大地が揺れた。テオフィロスは目を開く。船が大きく揺れたのである。
「夢か‥‥。だがやけに生々しい」
確かにデルファイの地に彼は立っていた。足の裏が、土の感触まではっきりと覚えている。
船は順風に乗って予定よりも早くテオフィロスを送り届けた。そして、デルファイの地に立ったとき。テオフィロスは夢そのままの光景を見たのである。
●第7回『ほしまつり』選択肢(同時実現可能なものは複数選択可能)
ア:星祭り・真夏の夜の夢
イ:タブレットと立方体の謎
ウ:運命の地(デルファイ・滅びの都)
エ:スフィル君に○○・妖精さんと○○・御法君と○○
オ:その他
※移動者・新規参加者・再開参加者がいる場合。都合の良い場所から現れて下さい。
■解説
ビザンツは自分で道を切り開いてやろうと言う上級者向きです。セーフティーネットとして参加者は毎回のプレイングに以下の符号を付けることが出来ます。符号が意味する事を重点的に処理されますので、必ず明記してください。符号は矛盾しない限り複数書けます。勿論、目安ですので、プレイング如何によっては個人描写も業績を上げることも両立いたします。
訪ねるべき土地は、隔たっております。次回はバラバラに動く必要が在るかもしれません。また、人数が少ないため、一人で何役も働く必要があります。
特別な情報を得たと思われる方は、なるべく早く他の方と情報を共有して下さい。
A:プレイング重視。
仮令それを通すことでどんな酷い目に遭うとしても、書いたとおりの行動をさせて欲しい。
B:成り行き重視
分かり切った失敗行動の場合。出番が無くなっても良いからその部分のプレイングを無視して欲しい。
C:描写重視
大したことが出来なくても良いから、個人描写を多くして欲しい。
(物語の展開が遅くなる傾向があります)
D:業績重視
個人描写が無くとも、希望する方向に状況を動かしたい。
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