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若き獅子たちの伝説
■クエストシナリオ
担当:
秋山真之
対応レベル:
‐
難易度:
‐
成功報酬:
-
参加人数:
8人
サポート参加人数:
-人
冒険期間:
2007年08月01日
〜2007年08月31日
エリア:
ビザンチン帝国
リプレイ公開日:
08月24日01:46
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●リプレイ本文
若き獅子たちの伝説
■第6回リプレイ:ほしまつり
●ピタゴラス
安置の場所から持ち出して良いのかも判らない。狭苦しい思いをして、隠されし聖域に着いたイワン・コウルギ(ec0174)と長渡昴(ec0199)。そして、パラケルス。
「聞いた話では、とことん偶像を排するアラビア教徒がメッカの最高神殿に安置した象徴は、立方体の石だと言います。これもなんらかの神を示す物なのでしょうか?」
暫し考えて感想を述べるイワン。
「定規とコンパスを使って書かれたような紋様ですね」
昴は描かれし図形を大まかなイメージで写し取る。
黙って石の立方体を眺めていたイワンは、急に感心したような顔になって言った。
「昴さん。右と左の体積の合計は等しく有りませんか?」
「12×12×12+1×1×1は‥‥1729 10×10×10+9×9×9は‥‥ほんとだ1729」
「ふーむ」
パラケルスは糸を使って図形の直線を量り始めた。
「3:4:5、5:12:13、7:24:25、9:40:41‥‥全て正数比じゃな。ん? まて‥‥この数は」
続いて立方体に書かれた図形を見る。
「‥‥」
パラケルスは絶句した。
「ここは‥‥とうに滅びた邪教団の聖所でもあったようじゃな」
「邪教団?!」
「俗にピタゴラス教団と言う」
「ピタゴラスと言うと、古代ギリシア数学の泰斗のあれですか?」
昴はジャパン人故その程度しか知らない。一方、
「数を信仰するカルト教団だったと聞いています」
帝国の者であるイワンは、少しばかり詳しい知識を持ち合わせていた。
パラケルスは頷き、
「彼らが神聖な物としたのは数学的な美じゃ。『魂の浄化のために数学を研究する』と言う連中でな。数学の真理を秘密とし、時にはそれで人をも殺した。それでもそれが学問の内に留まっているうちは良かったが、彼らが政治に手を出したとき、権力の鉄槌が加えられたのじゃ。よもやこんなところでその残滓が見られるとはな」
ピタゴラスの死後。教団は四散したと伝えられる。
「でもそうすると140年の後まで、教団が存在したと言うことになりますね」
アルテミスの神殿の火災とその改修開始は、主の生誕より356年前。ピタゴラスの死は主の生誕より496年前と伝えられる。すなわちその時に創ったと考えるならば、少なくとも教団は140年後まで存在したと言うことになる。
「では、この謎の言葉は‥‥」
イワンはランプの灯を近づけて問うた。
「‥‥しかし、これはどういうことだろう? ギリシア文字で書かれているのに、音を拾えば古い時代のラテン語じゃ。ケレテウス・ヴァリドゥス、ケレテウス・オビドゥス、ケレテウス・ペッシムス、ケレテウス・カルディウス、ケレテウス・オムニス、ケレテウス・シミリウス‥‥強きケレテウス、ケレテウス・オビドゥス。悪しきケレテウス、ケレテウス・カルディウス。全てのケレテウスは均しくケレテウス‥‥どこかで読んだフレーズじゃな」
異言を語るように、パラケルスは解き明かした。
「‥‥はて。これは、迂闊に弄るのは拙いかも知れぬ。文献を調べさせてくれ」
パラレルスは文様を数値で書き留め、今は石の立方体を動かさずに出ることを勧めた。
「球に全ての角が内接する正多面体をプラトン立方体と言う。全部で5種あり、正四面体は火・正六面体は土・正八面体は風・正二十面体は水・正十二面体はエーテルじゃ。ここは地の精霊の祭壇なのかも知れぬ」
(「遺跡‥‥満月‥‥『繋がっっている』場所‥‥帰らずの道? ‥‥そんなまさか、ね」)
昴は遠い世界へと旅立った兄の事を思い浮かべていた。
●邂逅
頂から立つ雲の峰。蒼天から滴り落ちる陽の光が、岩肌を灰とレンガ色に染め分ける。岩壁に浮かぶ疎らの緑。雲がゆっくりと流れている。
寂れているがデルファイの地は、神の存在を肌で感じられる場所である。
「この風景は‥‥」
デジャヴュ。いや、予知夢か。夢の色より鮮やかな風景の中を、テオフィロス・パライオロゴス(ec0196)は歩いていた。
(「‥‥驚いた。まるっきり夢の通りじゃないか」)
しかも、
貴族の奥方だろうか? 普段は人気のないこの辺りに、剣を持った数人の男達に護られ、こちらへ向かってくる。馬に乗っているが、よくよく見ると足の先に水掻き。
過日の夢のように、現れた女性。
「あのう‥‥」
向こうから話しかけてきた。
「あなたはルカさんをご存じですか?」
テオフィロスの顔に驚愕の色が浮かぶ。
「私はイーシャ・モーブリッジ(eb9601)。夢に導かれてこの地を訪れました」
●ほしまつり
「星祭り?それは七夕みたいなものですか?」
真夏のある日、ガルシア・マグナス(ec0569)から『星祭り』という言葉を聞いて昴は小首をかしげた。
「七夕というものは知らないが、この地で行われている伝統的なお祭りだ」
「お祭りですか、楽しそうですね」
ガルシアのお祭りという言葉に今度はリョウ・アスカ(eb5646)が身を乗り出す。
「それだけじゃないぞ」
三人の会話を聞いていたパラケルスは悪戯な笑みを浮かべた。
「この日にしかでない特別な夜店が出ることもあるし、なんといっても別名『愛の日』ぢゃ。星空の下に涼を求めて集まった男女が愛を語らい、時には女性からの愛の告白だってあるぞ」
女性から愛の告白‥‥そう聞いてリョウはなんとなくドキっとした。リョウ・アスカ25歳、そろそろ微妙なお年頃なのである。
「夜店ですか、見てみたいですね。スフィル殿のリハビリがてらに行ってみるというのはどうでしょうか?」
昴は嬉しそうにポン!と手を叩くと皆の顔を見た。
ここ数日、昴の甲斐甲斐しい世話のおかげもあってスフィルの回復力には目覚しいものがあった。
最近では日に一度、昴と周辺を散歩していることもある。
昴の提案もあり、スフィルを含め4人は夜の星に導かれるように異国の祭りに向かうことにした。
「うわあ‥‥」
星祭にスフィルも誘って4人で向かうと、真っ先に昴が感嘆の声をあげる。
ガルシアから星祭の説明を聞いた時にてっきり日本の七夕のようなものだと想像していた彼女は、まったく違う異国情緒漂う雰囲気に感動していた。
「これはこれは‥‥思っていたより大きいお祭りですね」
リョウも周りをぐるりと見回しながら楽しそうな声を上げる。
熱帯夜の続く中でひと時の涼を求める人、出会いを求める男女、そしてその人々を引き寄せるかのように道に品物を並べる夜店。
「さぁさぁお兄さん、年に一度のお祭りなんだ、彼女にこの星の輝きと同じアクセサリーをプレゼントしてはどうだい?」
「お目当ての人の気を引くにはウチの香油が一番だよ」
「串焼きはいかがですか?」
4人が歩いていると瞬く間に店の人々が声をかけてくる。
道の脇ではお酒だろうか? いやいや。ここはアラビア教徒の勢力圏だ。お酒とは違う物だろう。飲み物で喉を潤しながらなにやら語り合っている男女もちらほらと見かけた。
「この大通りを抜けた先に星見の丘があるらしい、いってみるか?」
ガルシアは人ごみを避けるように歩きながら、3人に提案した。
「星見の丘‥‥良いですね、行ってみましょうよ」
しかし、その道のり意外と困難を極めた。
その名の通り星祭りなのだ、星を一番綺麗に見れる場所があればその目的が愛を語るにしても、星を愛でたり祈りを捧げるにしても人が集まらないわけではない。
まるで巡礼のように一つの所にゆっくりと向かう人ごみに、いつしか4人はバラバラになり人ごみに飲まれていく。
「おい、皆大丈夫か?」
ジャイアントであるリョウやガルシアは体が大きいのでまだ確認はできた。ガルシアの呼びかけにリョウはなんとか腕をあげて自分の居場所をアピールさせる。
しかし、ジャイアントはほかにもいないわけではない。
いつしか人に押されるように流されていき、姿の確認が難しくなってきた。
「仕方ない、向かう場所は同じだ。無理をせず丘で落ち合おう」
「わかりました」
「はい」
どこからかはわからないが、何とか昴やリョウの返事がガルシアに聞こえたきがした。
少なくとも行く場所はみな同じ、ガルシアはこれ以上注目を浴びないように声を上げるのをやめて丘へ向かうことにした。
「やれやれ、あとで神殿に瞑想に向かおうと思っていたがもう少し先になりそうだな」
一方リョウはいったん人の流れから外れてわき道にそれることにした。最後にガルシアを確認した時に、自分が一番前を歩いていたようなのでここで一度休憩をとれば合流できると思ったからだ。
「ふぅ、今日は涼しいとはいえこう人が多くてはやはり暑くて喉が渇くな」
誰に聞かせるわけでもなく、丘へ向かう人の流れを見ながらリョウはため息をついてその場に座って一休みした。
「大丈夫ですか? これ、飲みます?」
座り込んだリョウの目の前に冷たい空気が漂った。
視線を上げるとそこにはわずかに氷が入った冷たい果物水があった。
「ああ、ありがとうございます。」
リョウは御礼を言いなが受け取り、差し出した人を見て驚いた。
「あ‥‥あなたは!」
そこには同じジャイアントの女性がたたずんでいた。女性の方もリョウの方を見てビックリした顔をしている。
「まぁ、あなただったんですね。星祭りで会えるなんてなんて偶然!」
その女性は以前、出会った事のある娘だった。リョウは彼女に井戸から水を、そしてその後にパンとチーズをもらった事がある。その後、彼女の父親に家の地下室へと連れて行かれたのだ。
「また喉が渇いて休んでいたのかしら?」
ふふふ‥‥と娘は悪戯っぽい笑みを浮かべてリョウに言った。
「いや、仲間と星祭りを見物に来たのは良かったのですが、この人ゴミではぐれてしまって‥‥」
リョウはしどろもどろになりながらも、何とか事情を説明する。
「まぁ、こんなに大きいのに迷子みたいね」
リョウの説明に娘はクスクスと楽しそうに笑った。
「あの‥‥その、ここで出会ったのも何かの縁と‥‥それでですね、良かったら一緒に星でも見に行きませんか?」
娘の笑い顔を見ているうちに、リョウは思わずそう言っていた。
娘はビックリした後、何か考え事をするようにうつむく。
「‥‥」
「だ、だめですよねやっぱり。あなたにも予定とかアレとかソレとかあるでしょうし」
沈黙に耐えられずにリョウは慌てて作り笑いをしてこの場をごまかそうとした時、娘は顔を上げてリョウに手を差し出した。
面をくらっているリョウに向かって娘はにっこりと笑いかける。
「フィッダ」
「え?」
「一緒に星を見に行くのにお嬢さんとか娘さんとかだと不便でしょ?私の名前はフィッダよ」
「あ‥‥俺はリョウ、リョウ・アスカです!」
リョウはそういうと、フィッダの手を取り星見の丘への人の流れに再び加わって行った。
昴とスフィルがガルシアを見つけて合流してから1時間後、リョウもようやく合流した。
「リョウ殿、ずい分遅かったな自分達より先に進んでいたと思っていたのだが、何かあったのか?」
すっかり待ちくたびれて三人は買ってきた食べ物も飲み物も、リョウの分まで食べてしまっていた。
「ええ、少しだけ」
リョウは星を見上げながら答える。
「ほほう、それはそれは、後でじっくり聞かせてもらえないかな」
ガルシアはリョウの首に腕をかけると、ニヤリと笑う。
「ちょっ‥‥勘弁してくださいよー」
リョウは慌ててその腕から逃れるように離れた。
「今日は星祭りですし、何か素敵な事があっても不思議じゃありませんよ。それよりせっかく合流出来たのですから、星をゆっくり眺めましょう」
昴はガルシアとリョウのやりとりも気にせず、満天の星空を眺めているスフィルを見ながら二人をたしなめる。
星祭りは年に一度の不思議な日。
星の巡り合わせに彼らがどう導かれて行ったのかは彼等しか知らない。
そして、彼等の知らない星の導きもまたゆっくりと巡っているのである。
●居酒屋
強いオリーブ油の匂い漂う鄙びた街の居酒屋。二階は宿になっている。
エンマ麦のパンに塩茹した野菜と魚。水で薄めたワイン。そして山羊のチーズ。街でただ一軒の居酒屋に、質素な、けれども心づくしの料理が並ぶ。
「杖? 杖で宜しいので?」
「ああ。杖だ」
代書屋にガルシア宛の手紙を頼む。なんとかまとまり、羊皮紙に清書した書簡にサインする。
――――――――――――――――――――――――――――――――
親愛なるマグナス殿
主の御名を崇む。
主が成された業を我は知る。
僅かな言葉が我を主に在る者とした。
主を畏れるテオフィロスは、主の民ルカの助言により杖を求む。
我もまた欲す。モーセが燃える芝の前で与えられし徴を。
我が縁(よすが)とすべき徴を。
テオフィロス・パライオロゴス
――――――――――――――――――――――――――――――――
その傍らで、イーシャは、他の旅人を捜していた。吟遊詩人を捜すためである。
(「手慣れている‥‥」)
帝都の貴婦人には、慰みに商売女の真似をする者も多いと聞く。しかし、酒の勧め方、飲ませる呼吸、自分は飲まずに相手に呑ませる手管。どうして玄人はだしである。気が付くと、対して多く無い旅人達を、すっかり酔い潰してしまった。
残っているのは、どう見ても吟遊詩人には見えないローブの若い女性。
「おいしい?」
連れている灰色の雛鳥に、魚を噛んで与えている。その手は武術の鍛錬をしている者だけにあるタコがある。雪の肌に黒い髪。黒水晶のようなその瞳。身のこなしから一廉の武人であろうと思われた。
(「まるで、彼女の回りに結界が有るみたいだ」)
自身もいっぱしの腕を持つテオフィロスは、知らず身構えていた自分に気付き、
「ふっ」
照れ隠しの笑い。
「お嬢ちゃん。どちらから来たの?」
声を掛けたのはイーシャであった。
「え! 私?」
女性に飲み物を勧められ、興味津々な目を向ける。飲み物が普通に酒ではなく、わざわざ高価な果汁であったため。ちょっと不機嫌に
「これでも19ですよ」
と答えた。言葉のニュアンスから、子供に見られたと思ったのだろう。
「ごめんなさい。えーと‥‥」
「秦美鈴(ec0185)。神聖ローマから来ました」
同じジーザス教国でも、神聖ローマは帝国(ビザンツ)の奉じる黒の教えに対し、白を国教とする。万事リベラルな帝国に対し、非常に狭量な教義を信奉する。
俗権においても、一人の君主を神の代官と祭り上げ、その臣下と言う立場に置ける法の上の平等を建前とする帝国と異なり、身分制度は厳しく社会の流動性も低い。古代ローマ帝国の正統後継者としての対抗意識意識もあって、二つの帝国は光と影のような存在であった。殊に、異邦人や異教徒、特に異種族に対する排斥の惨さは、帝国の自由な空気に慣れ親しんだ者にとって理解の範疇を超える物がある。
「あちらはそうなんですか? 帝国(ビザンツ)は才能と幸運が有れば、一代で出世出来る国ですよ」
話し込むイーシャと美鈴。二人の会話に耳を傾けるテオフィロス。
こうして夜は更けていった。
●星はすばる
♪る・り・は・り・し〜んじゅか〜 こ・ん・ごうせ・き・か〜♪
人の流れに流されながら、御法と昴はスフィルとはぐれないように手を繋いであるいていた。
自分が思っていたようなお祭りとはまた違うものではあったが、なんとなく七夕を思い出して彼女は口ずさんでいた。
「何の歌だ?」
スフィルは昴と繋いでいる手を引っ張って質問した。
その時、初めて自分が歌っていたことに気付いて昴は恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。
「私の国の歌ですよ、七夕というお祭りの事を歌ったものです」
「たな‥‥ばた?」
「ええ、色々なお話しがあるのですよ。年に一度、天の川という星の川を挟んで暮らす恋人が会える日とか、ご先祖様の霊を向かえる日だとか、天に向かって願い事を託す日だとか」
伝統や慣わしや国の習慣等の細かい部分を話しても難しいと思い、昴はスフィルに簡単に掻い摘んで話した。
横で御法が続きを歌う。
♪瑠璃玻璃 真珠か 金剛石か
星は降る ピカピカ 願いを照らす
スワンの架け橋 二人を結ぶ
星は降る ピカピカ 誓いしこの日
彦星様です 翼を渡る
星は降る ピカピカ 凛々しきお顔
織り姫様から 形見の小袖
星は降る ピカピカ 雲無き み空
来年再び 晴れるといいね
星は降る ピカピカ 二人の遠さ♪
歌詞が尻取りに成っている。スフィルはそれでも不思議そうに話と歌に聞き入っていた。
「望み、叶うのか?」
「うーん、どうでしょう。こういう形の紙に‥‥あ、短冊と言うのですけれど、それに願い事を書いて吊るすのですよ」
昴は手で長方形の形を作って、それに何か書くマネをした。
「それでですね、次の日に燃やして煙が天に昇って行けば願い事が叶うと私の国では信じられているのです」
「へえ‥‥」
スフィルは自分の知らない異国の風習の話しを物珍しそうに聞き入る。
珍しく自分から興味を持っているスフィルに気を良くして、昴はなんだか彼が本当の弟のように可愛く見えた。
「星祭りにはそういう風習はないのですか?」
昴の何気ない質問にスフィルの顔が急に曇った。
「わからない」
「スフィル?」
「オレ、星祭り知らない。行った事無い」
「ご両親に連れてもらった事がなかったのですか? それとも他の国に?」
「親? いない、知らない。オレ、拾われた」
スフィルの言葉に昴はしまったと心の中で思った。
祭りの雰囲気と高揚した気持ちで一瞬心が緩んだが、スフィルは素性が分かっていない暗殺集団の一人であり、敵なのだ。
子供と言うことで多少の恩情もあるが、一応は捕虜なのである。
せっかく懐いてくれていたのに、このままでは元の木阿弥になってしまう。
瞬き数回分の沈黙だったが、昴には周りの音が耳に痛いぐらいに感じる沈黙の時間だった。
「そうだ、もし良かったらあとで短冊を書いてみましょうか? スフィルに何が願いがあるなら天に思いが届くかもしれませんよ」
「本当か?」
昴の思わぬ提案にスフィルの目は輝いた。
「ええ、でもその前にガルシア殿やリョウ殿と合流しなくては。お二人に飲み物と何かつまむものを買って皆で星を眺めましょう」
「わかった、星眺めて、戻ったら、願い事する!さぁ行こう、早く、早く」
「わわっ、スフィルそんなに引っ張らないで」
子供らしい一面を見たスフィルを見てほっとする反面、昴は少々心配になって苦笑いを浮かべながら小さく呟いた。
「この国の神様は異国の風習でも願いを叶えてくれるでしょうか?」
●ジーザス様は誰ですか?
テンプルナイツへの道は、決して難しくはない。されど、その道を辿る者は鮮(すくな)い。
「わしが教えられるのは、ほんの入口に過ぎぬ。そこから先は自得するしかないが、くれぐれもサタンの罠に陥り召さるな。知恵の実は命の実では無い。時に、知恵こそが全てを過てる躓きの石となる。くれぐれも、主を知ることが知恵の太初(はじまり)じゃとお忘れ召さるな」
エフェソの長老とガルシアの一対一の学びが続く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マタイの16章15節にこうあります。
「ジーザスは彼らに言われた『あなたがたは、わたしを誰だと思いますか?』」
これは福音書に何度か出てくる質問ですが、人間が一生の内で受ける最も重要な質問です。人間の永遠の運命は、実にこの一句にあるのです。仮令、聖書の全ての教理を、主の霊を受けた預言者の如く完全に解き明かせたとしても。ただ一つ、この事を理解できないならば意味がありません。その人が王であっても皇帝であっても、司祭であっても教皇であっても関係有りません。御子がお生まれになる以前の話ならばいざ知らず、情け深くても、柔和であっても、親孝行であっても、友のため正義のために命を投げ出す人であっても、全く関係有りません。ジーザス様が誰であるか? この真実に目をつぶる者は永遠の滅びに至るのみです。
ところで、使徒パウロがコリント教会の人々に当てた第二の手紙において、別のジーザス様を宣べ伝える人たちが居ます。ガリラヤ教会の人々に当てた手紙の1章6節では、パウロは「ほかの福音」がある。とも記しています。
私達は、私達の信じるジーザス様が、本当のジーザス様であるか? それとも人間が創り上げたジーザス様であるか? また望みを抱いている福音が、本当のものであるかを、ただ御言葉(みことば)、すなわち聖書から確認しなければなりません。
ある異教徒はラビ、すなわち教師であると言っています。アラビア教徒達は預言者の一人だと言っています。また、ある異端の者は、ジーザス様は遥か遠い昔に父なる神によって最初に作られた被造物であると言っています。
では、神の御言葉である聖書には、なんと書かれているでしょう? 人間の考えでは無く、神の啓示である聖書こそ、私達を正しい道へと導いてくれるのです。ジーザス様が誰であるか? はっきりと記されているのです。
それでは聖書を開きましょう。まず最初に、ヨハネによる福音書。主の弟子の一人であるヨハネが記した記録から、学びを始めてゆきましょう。
「初めに、言葉があった。言葉は神とともにあった。言葉は神であった」
同じ1章の14節からこの「言葉」がジーザス様であることが明白です。
「言葉は人となって、私達の間に住まわれた」
同じ単語を使って確かにこう証(あか)されています。
同じ福音書の5章17〜18節にはこう記されています。
「ジーザスは彼らに答えられた。『わたしの父は今に至るまで働いておられます。ですからわたしも働いているです』このためユダヤ人達は、ますますジーザスを殺そうとするようになった。ジーザスが安息日を破っていただけではなく、ご自身を神と等しくして、神を自分の父と呼んで居られたからである」
ここで使われている『等しい』と言う言葉は、原書では「イソス」の語です。そして、この単語はヨハネの黙示録の21章16節でも使われております。
「都は四角で、その長さと幅は同じ(イソス)である」
ヨハネはここでジーザス様はご自身が父なる神と本質に置いて同質であると主張された。と、述べているのです。
異端者はこれをパリサイ人の誹りだと言っていますが、精霊様の助けによって書かれた福音書は、ジーザス様が御自ら父なる神と同質であると仰られた。と、証言しています。
そして、ジーザス様が誰であるかを正しく理解するために必要な、重大な御言葉がヨハネによる福音書にはもう一つあります。20章28〜29節にはこう書かれています。
「トマスは答えてジーザスに言った。『私の主。私の神』。ジーザスは彼に言われた『あなたはわたしを見たから信じたのですか。見ずに信じる者は幸いです』」
ここでトマスはジーザス様のことを『私の神』と呼んでいます。もし、異端者の言うとおり、ジーザス様が神でないならば、ここに記録されているトマスの告白は間違っており、ルステラでパウロとシラスが神に祭られようとした時これを拒んだように、トマスを叱り、心得違いを正されたでしょう。ジーザス様は弟子達の不信仰や愚かさや驚きを覚えられましたが、天に帰る間際になってもトマスがご自分のことを正しく理解していないと知ったなら、きっと驚かれたに違い有りません。
新訳だけでは有りません。旧約、すなわちモーセの律法の時代から、ジーザス様が誰であるかが証されているのです。
預言者イザヤの書にこうあります。
「ひとりのみどりごが、私たちのために生まれる。ひとりの男の子が、私たちに与えられる。主権はその肩にあり、その名は『不思議な助言者、力ある神、永遠の父、平和の君』と呼ばれる」
異端者達は、『力ある神』と言う言い方は父なる神には用いられず、『全能の神』が冠せられると、屁理屈を言いますが、同じイザヤ書の10章21節を見ると、直ちにそれが何の根拠も無いでたらめと判るはずです。
「残りの者、ヤコブの残りの者は、力ある神に立ち返る」
ここに記された力ある神とは、父なる神に他なりません。
また、別の方向から検証しましょう。
異端者どもが言うように、ジーザス様が神ではなく被造物に過ぎないならば、礼拝することも祈ることも、それは大いなる罪です。しかし、聖書の中でそのような事実が有れば、また、命じているならば。それはジーザス様が神である確かな証拠となります。
ルカによる福音書4章8節に於いて、ジーザス様がサタンの誘惑に対して言った言葉です。
「ジーザスは答えて言われた。『あなたの神である主を拝み、主にだけ仕えなさい』」
申命記6章13節にあるように、父なる神はご自分以外を礼拝することを禁じています。このことを頭に置いて、ヘブル教会の人々に宛てた第一の手紙を読んでみましょう。
「さらに長子をこの世界にお送りになられるとき、こう言われました。『神の御使いはみな、彼を拝め』」
ここで使われている『拝む』はルカによる福音書4章8節で使われている言葉と同じ、『プロスキュネオー』です。
マタイによる福音書14章33節・同28章9節・ヨハネによる福音書9章38節。マタイによる福音書8章2節・同9章18節・同15章25節。マルコによる福音書5章6節‥‥。何れの場合もジーザス様は人の礼拝を受けて、それを拒もうと為されませんでした。
さて、同じ『プロスキュネオー』が他の者に関わって使われている箇所を挙げましょう。
使徒行伝の10章25〜26節。
「ペテロが着くと、コルネリオは迎えて、彼の足下にひれ伏して拝んだ(プロスキュネオー)。するとペテロは彼を起こして『お立ちなさい。私も一人の人間です』と言った」
ヨハネの黙示録19章10節。
「そこで、私は彼を拝もう(プロスキュネオー)として、その足下にひれ伏した。すると彼は私に言った。『いけません。私は、あなたや、ジーザスのあかしを堅く保っているあなたの兄弟達と同じしもべです。神を拝みなさい(プロスキュネオー)。ジーザスのあかしは預言の霊です』」
これを見ても、プロスキュネオーと言うギリシア語は、敬意を捧げるなどと言うものではありません。敬意ならば、初代の教皇様でもある使徒ペテロや、御使いが受けて差し支えないものです。プロスキュネオーが神を礼拝する物であるからこそ、御使いもペテロもそれを拒んだのです。
さて、祈りも神に捧げられる物です。聖書に於いて祈りを捧げられるものがあるとすれば、それは神に他なりません。
使徒行伝には、最初の殉教者ステパノの記録があります。彼は死ぬ前にこう祈りました。
「『主ジーザスよ。私の霊をお受け取りください』そして、跪いて、大声でこう叫んだ。『主よ。この罪を彼らに負わせないでください』こう言って眠りに着いた」
7章の59〜60節です。異端者どもは、59節の主がジーザス様を指し、60節の主が父なる神を示すと戯言を言います。しかし、59節の主にはキュリオス。60節の主にもキュリオスと言う単語が当てられています。ステパノはジーザス様に向かって祈ったことは明白ではありませんか。異端者どもが言うように、ジーザス様が神でなければ、ステパノは偶像崇拝の罪を犯していることになります。しかし、聖書のどこにも彼の最後の祈りを批判する箇所はありません。
ジーザス様は、御自らも御自身が祈りを捧げられる対象であることを明言されております。ヨハネによる福音書14章14節で、弟子達の前で明言なされました。
「あなたがたが、私の名によって何かを求めるなら、私はそれをしましょう」
これは神でなければ決して口に出来ない言葉です。
ジーザス様は誰ですか? 小さい子供ならば迷い無く答えられるでしょう。しかし、私たちは学び経験して行く内に、時としてそれを見失うことがあります。知恵が真の智慧を閉ざし、学識が目の覆いとなるのです。
最後にあなたに問います。ジーザス様は誰ですか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ガルシアにとって、なにやら考えさせられる一夜であった。
●予言の洞窟
洞窟は思いのほか深く、また、幾つもの枝道を持っていた。
「何処まで続いているんでしょうね、この薄気味悪い穴倉は」
イーシャの声に、不安が滲む。それでも彼女は、先を行くテオフィロスとの距離を詰めようとはしなかった。
(「夢の事もあるけど、彼だって一応男だし‥‥」)
探索に没頭しているテオフィロスは、彼女のそんな葛藤に気付く筈もなく。
「何者かの出入りがあるのは確かだな」
彼は、壁に掛けられた松明を見遣る。その間隔は遠く、足下が覚束ない程に辺りは暗い。自前の灯りを持ち込まなかったことを後悔し始めていた、その時。風を切る音と共に、突然松明の炎が消えた。不覚にも視力を奪われた二人。彼らの耳は、迫り来る複数の足音を捉えていた。
「正面!」
テオフィロスが叫んだ短い言葉の意味を、イーシャは即座に理解した。躊躇無くエウリュトスの弓に矢を番え、狙いを定めぬままに放つ。狭い洞窟、逃げ場は無い。
暗闇の向こうで、悲鳴が上がる。それでも、肉薄する足音は止まらなかった。微かに煌いた鈍い光は、刃のそれに違いない。
「こいつら‥‥」
鋭く速い短剣の突き込みを鎧とシールドソードで凌ぎ、押し返す。襲撃者は舌打ちを漏らすと、力押しの速攻を早々と諦め、互いに連携して翻弄する戦い方に変えて来た。この狭い場所では、取り回しの利く短剣に分がある。しかも、闇と狭さに惑うこちらに比べ、敵は明らかにこの場での戦いに馴れていた。
「ここは不味い、一端下がるぞ」
「‥‥そうも行かないみたい」
背後からも、足音。イーシャの矢が先頭の一人を射倒したものの、後続が声も上げずに迫って来る。
「目は慣れたか? 後方に斬り抜けるぞ」
大丈夫、と頷いたイーシャが次の矢を引き絞る。と。
「ちょっと、何をしてるの貴方達!!」
唐突に現れた若い女性の口ぶりは、まるで悪童を叱る様だった。ぎょっとして振り向いた襲撃者達は、彼女が翳したランタンの明るさにたじろぐ。果敢な一人が踵を返し突き込んだ短剣を、彼女、美鈴は手刀で叩き落し、胸を打って退けた。重なる様に、呻き声と短剣が転がる乾いた音。僅かの間に、一人が肩を射抜かれ、また一人が強烈な突進を食らい、血反吐を吐いて突っ伏していた。
形勢の変化を悟ったか、襲撃者達が何事かを叫ぶ。彼らは現れた時と同様の速やかさで、負傷者を連れ方々の枝道に逃走してしまった。
「こらっ、待ちなさい!」
追おうとした美鈴を、テオフィロスが制止する。
「ここはあいつらの縄張りだ。構造も良く分からないし、深追いは止めた方がいい」
「そう‥‥そうね、でも、何なのあの変わった格好の人達は」
「説明はしかねるな。装束は、この辺りの民族衣装だと思うが」
へえ、と感心する美鈴。でも、この辺りの言葉とは違った様な、と首を捻る。
「自信を持って言える訳ではないけれど、彼らの言葉、ずっと古い時代のギリシャ語だと思います」
イーシャの指摘に、そうか、と考え込むテオフィロス。イーシャは昔、耳元で散々に知識を垂れ流してくれた嫌味な男を思い出して嫌な気持ちになったが、今この時役立った事に、指先のささくれ程度には感謝しておく事にする。
「ところであなたは、何故こんなところに?」
イーシャに聞かれ、そうだった、と真剣な表情で二人に向き直った美鈴。
「異種族同士の恋は辛いかも知れないけど、だからって早まっちゃだめ! 強く生きて行かなきゃ!」
力説する彼女に、イーシャとテオフィロスが顔を見合わせる。そのきょとんとした表情に、美鈴、だんだん語尾が曖昧に。
「‥‥え、だって思い詰めた顔した男女が危険な洞窟に入って行ったって言うから、てっきり‥‥」
●滅びの都
満月の夜。アルテミスの神殿の奥で、月が南中する時刻を待つ。
「ケレテウス・ヴァリドゥス、ケレテウス・オビドゥス。
ケレテウス・ペッシムス、ケレテウス・カルディウス。
ケレテウス・オムニス、ケレテウス・シミリウス」
記録の儀式が行われる。強きケレテウス、ケレテウス・オビドゥス。悪しきケレテウス、ケレテウス・カルディウス。全てのケレテウスは均しくケレテウス。するとどうだろう。
「これは!」
二つの円それぞれに、映像が浮かび上がった。一つはどこかの洞窟。その中に見知った姿がある。
「テオフィロスさん!」
二人の女性が一緒にいる。一人は西洋人で、もう一人は東洋人。声も漏れるように聞こえる。
「異種族同士の恋は辛いかも知れないけど、だからって早まっちゃだめ! 強く生きて行かなきゃ!」
東洋人の女性が力説する。
「おやおや。おさかんなことで」
リョウは苦笑い。
直ぐに映像は変わった。今度はさっきの一向にガルシアが加わっている。ガルシアは叫んだ。
「昴殿! それにイワン殿ではないか」
「ガルシア殿。こちらの姿が見えるのですか?」
イワンが話しかけたが、こちらの声は届かないようだ。
もう一つは、どこか廃墟のようである。その中に‥‥。
「ああ!」
思わずスフィルは声を漏らした。恐らく見知った人物だろう。髭を蓄えた老人と屈強な若者達の姿が映った。
「‥‥ハトゥシャ?」
昴は会話から拾った単語に反応した。
●第8回『君はペガサス』選択肢(同時実現可能なものは複数選択可能)
ア:モーセの杖
イ:ハトゥシャ
ウ:角笛の謎
エ:スフィル君に○○・妖精さんと○○・御法君と○○
オ:月の道
カ:その他
※移動者・新規参加者・再開参加者がいる場合。都合の良い場所から現れて下さい。
■解説
ビザンツは自分で道を切り開いてやろうと言う上級者向きです。セーフティーネットとして参加者は毎回のプレイングに以下の符号を付けることが出来ます。符号が意味する事を重点的に処理されますので、必ず明記してください。符号は矛盾しない限り複数書けます。勿論、目安ですので、プレイング如何によっては個人描写も業績を上げることも両立いたします。
訪ねるべき土地は、隔たっております。次回はバラバラに動く必要が在るかもしれません。また、人数が少ないため、一人で何役も働く必要があります。
特別な情報を得たと思われる方は、なるべく早く他の方と情報を共有して下さい。
A:プレイング重視。
仮令それを通すことでどんな酷い目に遭うとしても、書いたとおりの行動をさせて欲しい。
B:成り行き重視
分かり切った失敗行動の場合。出番が無くなっても良いからその部分のプレイングを無視して欲しい。
C:描写重視
大したことが出来なくても良いから、個人描写を多くして欲しい。
(物語の展開が遅くなる傾向があります)
D:業績重視
個人描写が無くとも、希望する方向に状況を動かしたい。
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