若き獅子たちの伝説

■クエストシナリオ


担当:秋山真之

対応レベル:

難易度:

成功報酬:-

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:2007年10月01日
 〜2007年10月31日


エリア:ビザンチン帝国

リプレイ公開日:10月23日22:32

●リプレイ本文

若き獅子たちの伝説
■第9回リプレイ:ふえはおどる


●再会
「ここは?」
 イワン・コウルギ(ec0174)とリョウ・アスカ(eb5646)は似たような魔法陣の上に姿を現した。少し迷ったものの外に出てくると、
「ひぃ!」
 洞窟の入口に居た女性を驚かしてしまった。
「イワン殿! それにリョウ殿では無いか」
 何時の間にこんな所へ。と言う驚きの声の主は、ガルシア・マグナス(ec0569)であった。
「エフェソの地下神殿の図形の前で、定めの儀式を行いました。そうすると、どうやら月魔法に拠らず月道が開いた模様です」
 イワンは手短に話す。
「新しい月道の発見か!」
 大抵の国に於いて、忽ち貴族に列せられるような大手柄である。
「主の民をエジプトの地より救い出された、主は生きて居られる」
 ガルシアは感慨深げに御名を誉めた。

 月道の入口は月が南中する時に開く。経験則ではあるが、西へ繋がる月道を出ると時が
戻り、東へ繋がる月道を出ると時が進むことが知られている。つまり、東西を双方向に繋ぐ月道の場合、西から東へ向かうとなぜか月道が開く前の時間に戻るので、同じ夜にまた帰ってくることも可能なのだ。ただ、事情も判らず不案内な異郷に現れたイワン・コウルギ(ec0174)とリョウ・アスカ(eb5646)には、そのような事は不可能。そもそも、どこに出るかも知らなかった訳だ。

 さて、別行動をしていた者達は、合流に際して情報を交換。
「急ぎ、みんなの持つ情報を共有しよう。下手に隠して共倒れになるみたいな事態は御免だからな」
 と、口火を切ったテオフィロス・パライオロゴス(ec0196)は、写しであるハトゥーシャの第一神殿の地図を見るや、言った。
「まるでドクロの様だ」
 人の頭蓋骨を右から眺めたような縄張りである。ガルシアも唸る。
「ふむ。神託と言い、地図と言い‥‥」
「神託? 神託ですか?」
 リョウが興味深げに聞く。
 先日、デルファイの神域に入った秦美鈴(ec0185)が、朦朧とした意識の中でこう口走ったそうだ。
「滅びの都の髑髏の目に、剣と杖と角笛を納む時。汝らは偉大な国を継ぐであろう」
 神殿の地図を横に置いた時。預言の泉が枯れて久しいデルファイの地で得られた神託は、意外な程に明快である。
「髑髏の目とはこの場所だ。間違いない。滅びの都とはハトゥーシャだ」
 テオフィロスは確信を持つ。
「確かにそうかも知れません。ヒッタイトが滅んだ後、アナトリア高原の奥地に、二度と都が作られることは無かったのですから。しかも、ツロやニネベのように戦で滅ぼされた訳でも、バビロンのように支配者を変えつつ時の流れの中で老衰して行った訳でも無いのです」
 イワンは半ば受け売りの解説を入れた。

●祝福の品
 昼なお暗い実験室。奇妙と形容すべき薬の匂い。硝酸に漬かるガラス器具。揺らぐランプの炎の元、薬を量る手を止めてじっと長渡昴(ec0199)の話に耳を傾けていたパラケルスは、
「ふーむー」
 と、低く唸ると一言。
「そう言うことがあったのか‥‥」
「ダーウードはダビデ王、スレイマンとはソロモン王の事でしょう。問題は、それが地上の王国の事なのか? それとも天の御国に対する事なのか? 私には判断着かないのです。ダビデの王国とその顛末は如何なる物だったのでしょう?」
「ペリシテ人との戦いでサウロ王が死んだ後、ダビデが王に就いた。政略・戦略・信仰の全てに優れた彼は、主の民の歴史上最も理想的な王じゃ。じゃが、そのダビデとて全き者では無い。遠征中の家臣ウリヤの妻パテシバに懸想して身ごもらせたのじゃ。それを誤魔化すために戦地より家臣を呼び、妻と休暇を過ごすよう申しつけたが、忠誠な武人であるウリヤは『仲間が戦場で苦しんでいる』と言って、家にも帰らず妻と顔を合わせもしない。窮したダビデはあたら忠臣を最前線へ送り、意図的に戦死させてしまった。因みに後にダビデがウリヤの妻パテシバによって生んだ子が、十番目の息子ソロモンじや。主に遣わされた預言者ナタンの譬え話に、自らの罪を悟り悔悟したダビデを、主は祝福される。と、ここまでは聖書にも詳しく記されている。一書(あるふみ)曰く、この時、ダビデはその証の品を与えられたと伝う。何分異端扱いされている記録であるし、確かにそれが当時の物であると云う証拠もないがの」
「剣と角笛と杖ですか?」
「そうじゃ。じゃが、本当に眉唾物の記録じゃ。お主から今のように聞かれなければ話すことも無かったじゃろう」
「それで、その後どうなったのですか? 三つの品は」
 昴は身を乗り出す。パラケルスも今度は完全に手を休め、薬の瓶に蓋をした。
「ダビデ王の晩年、三番目の息子のアブシャロムが叛乱を起こした。父を追い落として自ら王を称したが、ダビデ王は王国の隆盛を築いた聖王じゃ。彼に味方する者は多い。1度に800人の敵を倒したヤショブアム、手が剣について離れなくなるまでペリシテ人と戦ったエルアザル、みなが逃げて行く中で一人でレンズ豆畑で敵を退けたシャマ‥‥」
 異教徒にて嗜みのない昴に、説明して行く。
「‥‥結局、アブシャロムは主の加護を受けたダビデ王に破れ、将軍ヨアブの手に掛かって死んだ。と、云うのが聖書の記述じゃ。じゃが、先の記録が正しいならば、討たれたのはアブシャロムの影武者。本物は祝福を受けし三つの品を持ち、異国へ逃れた。一部の民と勇士も彼に付き従ったと、その書は綴って居る。その書には聖書と同じ言葉も書かれて居る。『主は誓われた。ダビデが生涯を終え、先祖と共に眠るとき、ダビデの身から出る子孫に跡を継がせ、その王国を揺るぎないものとする』と」
「それはソロモンの事では? あるいは彼の末裔から『救い主』が誕生する事だったのでは?」
「如何にも、それが正統な話じゃ。じゃが、イサクの子孫から主の民を興されたように、イシュマエルからも一つの民族が立てられた。エディドヤ(主に愛された者)たるソロモンもダビデの子であるが、アブシャロムもまたダビデの子なのじゃ。同じようになされて居ても不思議ではあるまい。王国はソロモンが継いだのは知っての通り。彼は『聞き分ける心』を望み、それ以外の全てをも与えられた。しかし、アブシャロムが持ち去った三つの品だけはソロモンは受け継ぐことが出来なかったのじゃ。ソロモンの子の時代に王国は分裂した。アブシャロムが持ち出したと言う祝福されし品があれば、後の歴史はどう変わったで在ろうか? いや、これは詮無き愉快な寄り道に過ぎぬ。ともあれ異端の書に拠れば、ダビデ王に与えられた祝福はアブシャロムが引き継いだのじゃ。その史はこう結ばれておる。『アブシャロムと共に逃れし者は、彼に油を注ぎ、逃れし者達の王とした。アブシャロムは涸れ谷で四十歳で王となり、四十年間王位にあった。ソロモンが老境に入ったとき、王妃達と側女達によって惑わされ、父ダビデの心とは異なり、自分の神、主と一つでは無くなった。しかし、アブシャロムは、彼を哀れんだ主に忠実な者であった。アブシャロムは先祖と共に眠りにつき、蝶の谷に葬られ、その子ヨナタンがアブシャロムに代わって王となった』と」
「つまり。ソロモン以降の堕落は、ソロモンが祝福の徴を受け継がなかった事に起因すると、その書は言っているのでしょうか?」
 いい加減頭が痛くなった昴の問いに、パラケルスは
「然り」
 と答えた。

●エレメント
 仲間に豆の袋を分かちながら、テオフィロスは教団が豆に触れるのをタブーとしていることを告げた。
「教祖ピタゴラスは、豆の戒律のために敵の手に掛かったと言われている」
 そして、彼が調べた情報を語る。
 ピタゴラス在命当時から、教団の存在は謎に包まれていた。現在残る彼らの事跡の殆どが、数学的な発見である。有名なところでは三平方の定理。彼らにとってはあり得ない悪魔の数。分数と整数で表せない数を見出したのも実は彼らである。
 ピタゴラスは初めて哲学者を名乗った者であり、魔術師としての逸話も残されている。彼は動物とも自由に話が出来、オリンピック競技の最中に空を飛ぶ鷲を口笛ひとつで舞い下りさせたといわれている。またアプリア地方で暴れ熊をおとなしくさせ、退散させたと言う。その他、透視術や瞬間移動の秘術にも通じており、遠く離れた2つの地点に同時に姿を現わすような離れ業も簡単にやってのけたとも伝えられている。
「歴史から教団は姿を消したが、今もジーザス教徒やアラビア教徒に擬態した隠れ信者が、実は多数存在するらしい」
 聞き入るイワンとリョウ。
「しかし、奴らの目的が判らぬ。今判っていることは、彼らは秘技を持って月道を治めていたらしいことだ。二人の話からすると、月魔法を使わずに月道が開いた。いや、あるいはその地に恒常的に掛けられた月魔法の力を、彼らの神器が制御しているのかも知れない」
 不思議な幾何学模様に備えられた4つの正多面体(プラトン立方体)。即ち、二つの立法に分けられる数は、ピタゴラス教団の秘蹟の一つであったのだろう。

「役に立つかどうか知りませんが‥‥」
 おそるおそるリョウが言いかける。
「お願いする。実は大切な情報かも知れない。後で臍を噛むのは避けたい」
 テオフィロスの誘いに、リョウは舌を滑らかにした。
「パラケルス殿の話によると、錬金術師は正四面体は火・正六面体は土・正八面体は風・正二十面体は水・正十二面体はエーテルと言うエレメントに当てはめるそうです。何でもこれを言い出したのはピタゴラスだそうで‥‥」
 話を聞いていて頭が痛く為ったとリョウは言う。

 こうして、少しでも役に立つと思われる情報が共有された。

●良き報せ
 長渡昴(ec0199)にエル・レオン叙任の話が届いたのは、月の初めであった。エフェソとデルファイを結ぶ月道の発見。これがその理由である。
「おめでとうございます」
 報せをもたらしたオーフェンは、イワンとリョウがデルファイに転移した事を告げた。7日頃には叙任のための使者が来ると言う。現実感のない思いがけない成り行きに、昴か宿で惚けていると、スフィルが部屋を訊ねてきた。
「これ。やる」
 一束の花。小さな白い花だ。
「私にか?」
 昴は口元を緩めて受け取った。そして、
「スフィル殿。今宵星を見に行きませんか?」
 丁寧な言葉遣いに、何事かあらんと言う反応がスフィルの顔に出る。
「還らざる時の為に。一緒に星を見たいのです。いえ。他意は無いですよ。御法殿も誘います」
「大事なことか?」
「ええ」
 昴はそう答えた。

 その夜。日没からランプの油を継ぎ足す頃。昴とスフィルと御法とは、広野の上に立っていた。
 東の空。登り来る源平星のその上に牡牛座が光る。その一点をスフィルに示し、昴は言う。
「あれが私の星です。私の国では、あの霞のような光は、数多の星が一つに集まるが故に『集る(すまる)星』。転じて『統ばる星』と言われます」
 懐かしい思い。遠く異国へ候えど、同じ月と同じ星。
「先日、あなたの兄上に逢いました」
「え?」
 昴の言葉に驚くスフィル。
「なにやら、私は大変な事に足を踏み入れて仕舞っていたようです」
 言って、アリーとの会話を語る昴。
 ゆっくりと省みて南の空。山羊座とその左上の水瓶座の間に、血のように赤い星が見える。
「占星術で何を意味するのか知りませんが、あの赫奕たる星は軍神マルス」
 来るべき予感にぶるりと胴震い。昴の表情が、戦びとたるそれに変わった。
「次の満月の夜。私は月道を通って滅びの都へ参ります。恐らく、あなたとの同道もそこまで。彼の地に着けば敵味方と分かれるでしょう。お互い、悔いの残らぬ様にしましょう‥‥長い様で短かったけれど‥‥嫌いじゃないですよ、あなたの事」
「おれも同じだ。昴」
 単に習熟せぬだけでは無いぎこちない言葉。暫し、間近に居る御法が口を挟めぬ会話が続く。
「御法殿」
 昴は彼にもあらたまった言葉を掛ける。
「スフィル殿と違い、あなたには行かねば成らぬ謂われはありません。いえ。私の願いを聞いて貰えるならば、残って欲しいのです」
 そう御法の手を取り懇願する。御法は戸惑ったまま昴の瞳を見つめていたが、やがて意を決し、
「はい。私に出来ることならば」
 と残っても良いと答えた。
「では、是非ともお願いします」
 言って昴は脇差しを取り、自らの後ろ髪を掴むや、しゅっと鎌で稲束を刈るように切り取った。
「ジャパンに帰った折りにでも、私の家に届けて下さい。兄妹揃っての親不孝をお許し下さいと、昴が言っておったと」

●叙任
 異教の神々の史蹟が遺るデルファイの地。ここにも帝国の拠点があった。一部の者しか知らぬ事だが、各地に隠された拠点がある。
 連絡のためイワン・コウルギ(ec0174)が訪れると、駐在員の長は、
「他の者も来ているのか? おまえら一行は何人だ?」
 と唐突に聞いた。
「何人と言われましても‥‥リョウ・アスカ(eb5646)・秦美鈴(ec0185)・テオフィロス・パライオロゴス(ec0196)・長渡昴(ec0199)・ガルシア・マグナス(ec0569)・イーシャ・モーブリッジ(eb9601)・そして俺の7人ですが。何か?」
 イワンは単純に今事に関わっている者の名を計上した。
「どえらいことをやってくれたな。おまえらに叙勲の勅令が降りた」
「はぁ‥‥」
 叙勲と言われてぴんと来ないイワン。
「月道発見の恩賞だ。希望者全員をエル・レオンに任命するとある。その他、ビザンツ皇帝の名に於いて許し得る叙任を行うと」
「今、その報告に来たのですが‥‥いや。月道発見は鳩を飛ばすほどの一大事かも知れませんが」
「パラケルス殿から当局に連絡があり、陛下には翌日の昼までに報告された。月道の確保と発見者の叙任をその場でお決めになられた。イワン、待たせたな。これでおまえも堂々とエル・レオンを名乗れる」
「俺は、叙任は相応しい手柄を立ててからと言いましたが‥‥」
「何を言う。帝国の未来に関わる功績だ。飛び地のエフェソが確保されたのだからな。月道で繋がっていれば、重囲されようと兵・武器・食料の直接支援が行える」
 数日宿で体勢を整えて居る間に、事は一気に進展したようである。
「当地にいる者は皆連れてこい」
 駐在員の長は皇帝陛下の名によって命じた。

「‥‥叙任ですか? と、言いますか、あなたは‥‥いったい」
 リョウはそんな話を持ってきたイワンの顔をあらためて見る。
「実は、お仲間になる以前に、エル・レオン叙任の内定をしていました。それゆえ、事実上のエル・レオンとして、任について居たのです」
 エル・レオンと言えば、一代貴族としての特権とか、独身者で構成される皇帝直下の親衛隊としての名声が知られている。しかし、その実体の多くは謎に包まれている。
「噂に聞く、エル・レオンの叙任ですか? 私も見学出来ますか?」
 イワンは笑い、
「あなたにとって幸運な手違いですが‥‥」
「え?」
「こちらのメンバーを聞かれて答えたところ。美鈴殿、あなたも最初からの者と、帝国の記録に記されて仕舞いました」
「えぇぇぇぇ!」
「月道発見の功により、希望者には皇帝陛下が任じることの出来る職に就かせて頂けるそうです。失礼ですが、美鈴殿」
「はい」
「独身ですか?」
 ずいぶん失礼なことを聞くものだと思いつつも、美鈴は
「まだですよー。でもなんで‥‥」
 と答えた。
「エル・レオン任命に当たって、独身で在ることが条件の一つなのです。無論例外もありますが」
「でも、私は魔法覚えてないよ」
「エル・レオンになれば精霊魔法を学べます」
 美鈴は、思いがけない展開にほんの少し考える。
(「面白そうだけど。飛び入りの私でもいいのかなぁ? だいいちエル・レオンって何なんだろ? ま、いいか」)
 そしてこう答えた。
「エル・レオンって何ですか? 成るのに実体を知らないのは拙いでしょ。勿論、他言は致しません」
 もっともなことだと、イワンは説明する。
「帝国の精鋭部隊。皇帝陛下直属の親衛隊。一代貴族。と、世間では色々言われています。しかし、その実体は、皇帝陛下の耳目なのです」
 広く各地に派遣され、地勢・国情・政情を探り、皇帝陛下にもたらす者。そして、いざ派遣された国や地方との戦いが起こった場合、その地の攻略を担当する中級以上の指揮官。あるいは辺境に一人赴き、現地で急募した戦力不十分な弱兵を率いて神出鬼没に敵に当たる隊長。
「‥‥これが帝国を護る裏のシステムなのです」
 イワンは明言した。
「なるほど、帝国を維持するには、中央の軍団だけでは少ないと思っていたが‥‥かような事があったのか。それで、自分も為らねば成らぬのか?」
「いえ。希望する者だけです。但し、今のことは他言無用です」
「当たり前だ。広く世間に知られては、影の軍団の意味はないであろう」
 ガルシアは大笑する。
「残念です。神聖魔法の使える方が転職すれば、修行次第で最も優れたエル・レオンに成れるのですが」
 多くの経験と鍛錬の末だが、極めれば剣も神聖魔法も精霊魔法も使える強力な戦士が出来上がる。
「あのう‥‥」
 イーシャはおそるおそる
「私は、寧ろレンジャーに為りたいと希望します。このことは勿論他言しません」
 縛られぬ自由人が良いと、イーシャは言った。
「さて。今度の叙任には自分は関係なさそうだが、祝福の為に立会人として参加したいがよいかな?」
「いえいえ、ガルシア殿。あなたもです。良い機会ですから、テンプルナイツの叙任を受けられては。陛下の勅令による叙任など、またと無い機会です」
「そうであったな。聖職者の叙任権は、確かに主の代官たる皇帝陛下にあった」
 ガルシアは呟くと、天を仰ぎ
「こうして、叙勲の栄誉を受けられる事、誇りに思います」
 天の父に向かって感謝した。


●叙任の辞
 急ぎデルファイに駆けつけた勅使と司教。および全会衆の前で、聖別の油を前にして、ガルシアは叙任の辞を語った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 愛する兄弟姉妹よ。もしあなたが一月後に死ぬとしたら、今日から一月何をしたいでしょう? もしもまだ心より主を受け入れていないのであれば、今、主の十字架の救いを受け入れて下さい。主、ジーザス様を信じなさい。そうすれば、あなたもあなたの家族も救われます。
 既に救われているあなたであれは、今までの人生を振り返る時間になるかも知れません。あるいは家族や友人に遺言を書くでしょう。あなたは遺言に何を書きますか? 例えば、あなたが貯めておいた財産を、愛する者にどう遺すか、どう管理すべきかを書くでしょうか? あるいは、あなたが今までどんな信仰を持ち、どんな艱難や試みに遭い、それをどう乗り切ってきたかを書くでしょうか?
 勿論、愛する者。子供や配偶者に遺す物質的な財産も重要です。しかし、この世の財産は、無くなったらなんの役にも立たないものです。また、この世の財産が多すぎて、子供達が悪い人生を送る事だって有り得ます。放蕩息子の父は、在命中に財産を分けてやったので、使い果たして困窮した我が子を救うことが出来ましたが。死に行くあなたにはそれが出来ません。
 しかし、子供達が霊的な財産である信仰を相続すれば、いかなる困難も子供達は乗り越えて行くでしょう。主の御心に適う者は、どんなことがあっても主が支えて下さるからです。
「主はご自分の心に適う人を求め、主はその人をご自分の民の君主に任命して居られる」
 
 エッサイの8人の息子が順にサムエルの所に来た時、初めに前に出たのは長子のエリアブです。彼は背が高く美しい容姿だったので、サムエルは彼こそ油を注がれる者だと思いました。しかし、主はサムエルにこうお命じに成りました。
「彼の容貌や、背の高さを見てはならない。私は彼を退けている。人が見るようには見ないからだ。人は上辺をみるが主は心を見る」と。
 その次に次男アビナダム、その次に三男シャマが前に出ました。結局、長子から七男まで主の御心に適う者は居なかったのです。祝福を受け継ぐ長子の特権・容貌の条件・学識の高さ・手腕など、皆自分の特徴を自慢しましたが、主の前に彼らが恃みとする物は、何一つ意味がなかったのです。
 最後に呼ばれたのは末子ダビデでした。この時ダビデはまだ子供でしたから、父は最初から選択する席に連れてこなかったのです。人が見て、指導者として通らない無資格者であっても、心の奥底までを観る主が見て御心に適う者であった故に、サムエルに油を注ぎなさいと言いつけたのです。
 サムエルの心に適っても、民の心に適っても、王になることは出来ません。主の御心に適う者だけが油を注がれるのです。「主の御心に適う者」とは何でしょう。それは畢竟「主の御心を引き継く者」すなわち「主がなさろうとする事を行うことが出来る者」に他なりません。つまり、信仰のある者だけが主の御心に適う者なのです。

 ダビデの兄達は、上辺の条件は全て整っていました。しかし、信仰が足りなかったのです。ダビデの信仰の強さは、ペリシテ人の将ゴリアテとの対決で理解できます。ゴリアテが杖と石投げを持って挑むダビデに、こう言いました。
「おれは犬なのか。杖を持って向かってくるが。さあ、来い。おまえの肉を空の鳥や野の獣にくれてやろう」
 この時ダビデは凛として、
「おまえは、剣と、槍と、投げ槍を持って、私に向かって来るが、私は、おまえがなぶったイスラエルの戦陣の神、万軍の主の御名によって、おまえに立ち向かうのだ」
 と言い放ち、信仰を持って戦いに出、石投げと一つの石でゴリアテの額を打ち、勝利を収めたのです。
 ダビデには信仰がありました。この信仰故に主の御心に適う者になったのです。主が居なくても自分、知恵や力や能力で出来ると言う高慢な信仰ではなく、使徒パウロのように「私は、私を強くして下さる方によって、どんなことでも出来るのです」と言う本当の信仰です。
 サウル王は戦いに赴くダビデに自分の鎧と青銅の兜を与えました。良く切れる鉄の剣も与えました。しかし、ダビデはゴリアテと戦おうと心に決めたときから、武器の力や人間の力に頼らず、主を信じて戦おうとしたのです。このような彼が、どのような人生を送ったでしょうか? 聖書は証言します。
「ダビデはますます大いなる者となり、万軍の神、主が彼とともにおられた」と。

 ダビデはまた、忠実な王です。同じくゴリアテとの戦いの前の言葉です。
「しもべは、父のために羊の群を飼っています。獅子や、熊が来て、群の羊を取って行くと、私はそのあとを追って出て、それを殺し、その口から羊を救い出します」
 誰もいない野原で一人で羊を飼う時も、羊一匹の命のために忠実であったダビデを、主と自分以外誰も見ていない現場において、小さな羊一匹のために使命感を持って忠誠を尽くすダビデを、主は王に相応しい者として認めたのです。
 ミナの譬え、タラントの譬えを思い出して下さい。忠誠を尽くして倍の実を結んだしもべに向かって「良い忠実なしもべだ。あなたは、わずかな物に忠実だったから、私はあなたにたくさんの物を任せよう」と言いました。ここに出て来るしもべとは、単なる召使いなどではなく、主人の財産を自分の裁量で自由に運用する事を任されている管理人なのです。
 使徒パウロも、コリント教会に宛てた手紙でこう言っています。
「管理者には、忠実であることが要求されます」
 主は、まさにダビデの忠実を良しとされたのです。

 ダビデはまた、信仰の王で従順の王です。羊を飼う者であった時も、将軍の地位にあった時も、戦場でも、サウルの剣を避けて荒野にあった時も。王の座に上った時も、主のみ言葉に従順でした。それゆえ、主が歴代の王を戒める時、
「あなたの父ダビデが歩んだように、全き心と正しさをもって、わたしの前に歩み、わたしがあなたに命じたことをすべてそのまま実行し、わたしのおきてと定めとを守るなら」
 と、おっしゃられたのです。

 ダビデは偉い王様でしたが、罪を犯さなかった訳ではありません。その最たるものが、ウリヤの妻バテ・シェバと姦淫し、あまつさえウリヤを戦場に送って意図的に戦死させてしまったことです。当時の王達は、民を全て自分のしもべとしていたので、ダビデも大したことではないと思っていました。しかし、預言者ナタンの警告を聞くや、目覚め、ダビデの良心はたまらなくなって、涙で寝具を濡らすほど悔い改めたのです。
「私の心も私を見捨てました」
 これはダビデの悔い改めの言葉です。
 義人はおりません。一人もおりません。罪の無い者で主の御心に適う者は誰一人居ないのです。ただ、罪を悔い改める人が、主の御心に適うのです。

 愛する兄弟姉妹。私は、神聖騎士に叙されるに当たり、かくの如く在りたいと願います。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 こうして、この日。テオフィロス達はデルファイで、昴はエフェソに於いてエル・レオンの叙任を受けたのであった。

●滅びの都
 エフェソの図形の光の中に飛び込んだ昴とスフィルは、荒涼とした廃墟の中にいた。
 それは当に滅びの都。野の獣とて立ち寄りもしない死んだ町。その町は、辺りを見渡す高台に位置する。元は立派な建物があったであろう痕跡の、石の堅固な基(もとい)は、歳を経て隙間に草が茂ている。入るとき南中していた満月は、僅かの間に傾いていた。
「月道を通ると、時が歪むと言うけれど‥‥」
 かつてジャパンより欧州へ参った時は、昼に戻っていた。それに比べれば僅かな時の歪みだが、月道を出て直ぐに確認できた訳ではない。
「他の人たちは?」
 当たりを見渡すが気配もなし。
「これからどうしますか? スフィル殿」
 それは、この場で分かれるかどうかの問いかけであった。
「おれはまだ。恩を返していない」
 スフィルは、今暫くは彼女に組みすると宣言した。
 昴とスフィルはランプを消し、満月の月の光を頼りに辺りを探索する。人工的な光は、敵が居た場合恰好の目印になるからだ。パピルスの写しを月光にかざし、位置関係を把握しようとするが、鳥ならぬ身の上、なかなか思うようには行かない。
 探索を始めて2時間と少し経った頃であろうか? 先ほど昴達が現れた月道が、再び光の柱を天に押し立てた。
「誰か来ます」
 二人は息を潜め廃墟の石組みの影を縫う。

 光の中に幾つかの影。
「ここはどこだ?」
 その声は‥‥。

「ガルシア殿!」
 昴の声に振り返る一行。二人、見かけぬ者も居た。
「昴殿にスフィル。来れたのか」
 テオフィロスの声。彼らはデルファイの月道から来たと言う。
「何れにしても、これで三つの物は揃いました」
 リョウの声。杖・剣・そして角笛。神託に織り込まれた三つの物はここにある。
「みなさんご注意を」
 イワンが注意を促す。それはそのまま、敵から見れば一気に全てを奪い得る条件が揃ったとも言える。
「まだ、その心配はない」
 と言ったのはスフィルであった。
「三つの品が主を選んだ今。主を損なっては意味がない」
 少なくとも今は襲わない。と断言する。実際、スフィルが知る限り襲撃は息を潜めていた。
 それに異を唱えるようにイワン。
「実は先日、私は風呂で襲われました」
「いえ。実は違う者かも知れません」
 昴は、取り調べの終わらぬうちに始末された女の、傍に置かれていた書き付けを見せる。山の老人の物であった。
「祝福を継ぐのが目的なら、決して台無しにはしないでしょう。でも、彼らの目的が、ただ秘密を守ることならば、どうなっても構わないと考えるかも知れません」
 テオフィロスは一瞥し、
「俺達も、スフィルの仲間も、主導権を握ると言うことを除けば目指す方向は変わらない。主がダビデに誓われた祝福を相続したい者達だ。しかし、得体の知れない連中がからんでいる」
「ピタゴラス教団か‥‥」
 その名がガルシアの唇から漏れた。
「少なくとも、神器を所定の場所に収める直前まで、山の老人達の襲撃は無いと思う」
 テオフィロスは考察する。土壇場で美味しいところをかっさらおうとすれば、寧ろそれまでは邪魔はしない筈であると。
「確かにそうよ。立場を換えて考えれば、万が一にも神器が破壊されるようなことがあっては困るわね」
 美鈴はゆっくりと頷いた。

●ふえはおどる
 見張りを立てて夜を明かし、日の出を待って探索開始。
 高台に登り見渡すと、月道は王城の奥まった部分にある。
「高さが足りないので確信はないが、右手の石垣は骸骨のように見えないか?」
 テオフィロスは右手の遺跡を指す。なるほど、右向きの頭蓋骨を後頭部方向から見たような感じだ。
「骸骨の目は‥‥あ、あそこね」
 イーシャは地図の写しと比較する。とうの昔に壁は崩れ、今は基(もとい)しか残らぬ廃墟。とは言え、その基の高さも実際には人の背以上。乗り越えて進むよりは通路に沿った方が容易く行ける。その道順を確認して丘陵を降りたとき。
「誰だ!」
 右方向を警戒して居たイワンが声を上げると。
「見つかって仕舞いましたか‥‥」
「兄貴!」
 スフィルの声。
「アリーさん」
 これは昴の声。
「ご安心を。我らはあなた方を守っているのです」
「どう言うことだ」
 進み出るガルシアにアリーと呼ばれた青年は、
「杖と剣と角笛とが、あなた方を主と選んでしまった以上、むやみに手を出せません。寧ろ護らねば成らない者となりました。別して、あなた方が私利私欲に走らぬ限りは‥‥」
 アリーが手を挙げると、あちらこちらから人影が現れる。そのうちの何人かは、まだ生々しい血刀を下げていた。
「あなた方を襲おうとしていた連中の一部は、この通り始末しました。誓って頂けますね? ただジーザス教徒だけのために事を成さないと。長子の権利には長子の義務が伴うものです」
 襲ってこない限り、事を荒立てる必要は無い。と、警戒しつつも一行は彼らを受け入れた。

 まさしく迷路のような道を辿り、地図の、丁度髑髏の目の辺りに来る。
 アリーは言った。
「あの場所が定めの座です。今こそ、杖と剣の座に着き、角笛を吹き鳴らして下さい」
「何が起こるのだ?」
 ガルシアは威厳を以て質問する。
「真の聖都への道が拓かれると言います。さぁ」
 そう言った時。
「隊長。敵の襲撃です!」
「ピタゴラスの手の者か!」
「直ぐにここへ押し寄せてきます」
 一人の伝令が急を告げた。

●第10回『美しい季節』選択肢(同時実現可能なものは複数選択可能)
ア:真の聖都を拓く(ダビデの遺産をどう扱うか・封印・放棄・独占)
イ:倒せピタゴラス教団(戦闘・全回のマップを参考にどこでどう戦うか)
ウ:近衛隊の日々
エ:世界市民として
オ:その他

※移動者・新規参加者・再開参加者がいる場合。都合の良い場所から現れて下さい。

■解説
 いよいよ最終回です。選択によっては全滅もあります。ダビデ王の遺産については良い物か悪い物かも判りません。また、人の手で制御できる物かも判りません。
 ピタゴラス教団との戦いは、神殿全体を使う白兵戦になるでしょう。有利なポイントを考えて戦って下さい。

「ウ:近衛隊の日々」と「エ:世界市民として」は、無事生き延びれた場合の後日談部分です。生き延びる予定ならば、必ず書いて下さい。書かない場合は、後世に名を残す壮絶な討ち死にを遂げることを希望して居るものとみなします。

A:プレイング重視。
 仮令それを通すことでどんな酷い目に遭うとしても、書いたとおりの行動をさせて欲しい。

B:成り行き重視
 分かり切った失敗行動の場合。出番が無くなっても良いからその部分のプレイングを無視して欲しい。

C:描写重視
 大したことが出来なくても良いから、個人描写を多くして欲しい。
(物語の展開が遅くなる傾向があります)

D:業績重視
 個人描写が無くとも、希望する方向に状況を動かしたい。