熱砂の地にて
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■クエストシナリオ
担当:高石英務
対応レベル:‐
難易度:‐
成功報酬:-
参加人数:19人
サポート参加人数:-人
冒険期間:2007年10月01日 〜2007年10月31日
エリア:エジプト
リプレイ公開日:01月28日16:17
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●リプレイ本文
目の前にたゆたうは淀んだ黒い光。地に伏せるは白き布に覆われた悲しき骸。
そして手にした黄金の輝きを持つ剣の光は、暗き石組のその場所をゆったりと包み込んでいた。
女の視線のただ一度、包帯の塊となった人ではなき骸を覗き込むと、そのまま自然に辺りを見回す。
黒光のさざめきが石壁を照らし出せば、そこには余りある、古代エジプトの呪の流れを組んだ様々な紋様が、まるで戒めの鎖が絡みつけられたように書き込まれていた。
ラミア・リュミスヴェルン(ec0557)はそれも意に介さず、イクナートンより吸い取られた黄金の光を放つ剣を手に、祭壇への階段に足をかけた。
「今こそ、力を」
虚ろではない、確固たる意志の瞳でラミアはつぶやきながら祭壇を昇り終える。
古き祭壇には真実を見抜くと言われる天空の神ホルスの瞳が刻まれ、黒く世界を満たしてたゆたう光とも、黄金の王の剣とも異なる柔らかな銀光を放っていた。
「そして、古き者たちを討ち滅ぼし、この地に張られた魔の操る糸を断ち切る。それこそが‥‥ウチの運命」
振り払えば粉のように光が剣より漏れる。その光で宙に魔法陣を描くように、あるいは心のままの踊りを踊るように、女はただ剣を闇の中にて振るう。
「そのために、古より封じられた冥界への扉を‥‥今」
その言葉はどのような朗々とした呪文よりも鋭く強く、あたりに響いていた。
■下りる帳は、光か闇か
「では、失礼します」
エミリア・メルサール(ec0193)がフェネック・ローキドール(ea1605)の目の前、その手に持った十字架を掲げて聖句を詠唱すると、一瞬、女の体が白い光に包まれた。
そのまま目を開くと、エミリアは静かに待つ久方ぶりの仲間に向けて、にこりと微笑みかける。
「大丈夫です。悪魔の気配はありません。失礼いたしました」
「いえ、お気になさらずに」
「まったく、本当に用心深いんだからなー」
「らなぁ?」
「まあ、これまでの経緯を考えれば、しょうがないですよ」
用心深く、不死者なる者を見分ける魔法をかけるエミリアの行動に、頬を膨らませながらケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)がつぶやくと、肩に止まった小さな友人と妹のように付き従う妖精に、ネフェリム・ヒム(ea2815)はなだめるような口調で苦笑する。
「確かにの‥‥まさかあ奴めが、あのような暴挙に出るとは思わなかったしのぅ」
「サラさんは?」
「眠った。泣き疲れたというか‥‥暴れ疲れたんじゃろ」
アルフレッド・ディーシス(ec0229)の問いかけに、やや疲れたようにアナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)は答えると、椅子を引き、腰掛けながら大きく息をついた。
ジョバンニ・ベルツォーニ(ez1112)。ヘンリー総督の友人で、エジプトでも指折りの探検家と噂される人物であり、今回のエジプト南部探索隊の隊長を務めている男。彼の友人関係は置いておくとしても、数ヶ月ともに旅した中で見られた彼の人柄は申し分ないといえた。
だが滅ぼされた守人たちの言葉によれば、一行と別れカイロに難民を送っているはずだった彼が、徒党を組んでメンフィスのピラミッドを占拠し、守人たちを破滅に追いやったという。
ジョバンニの妻であるサラ・ベルツォーニ(ez1130)は、その事実を信じず、確かめに行くと合流する前から騒ぎ立てており、その彼女を抑えるためにもこの村で留まっていたことが、一行がすれ違いもなく無事合流できた原因かもしれない。
「まったく、何が起こっておるのやら」
「ともかく、合流もできたことだし、まずは一段落、だが‥‥一難去ってまた一難、と言うところだろうな」
「そうですね〜、いつの間にかはぐれてしまった人たちもいるようですし〜」
寝床を確保して戻ってきたシェセル・シェヌウ(ec0170)の言葉に、書から目を離さずにユイス・アーヴァイン(ea3179)は応える。
「この辺でも、色々と異変が起こっているようですね〜。そのあたりも確認したいところですが」
「ああ。隊長殿もそうだが、ピラミッドでも何が起こっているのだろうかな」
「早急に確かめなければいけませんねぇ」
ユイスとアルフレッドの言葉に、シェセルは大きく、うなずいて同意した。
「償いとは‥‥これから、どうするつもりなのですか」
やっとのことで合流した、メンフィス近くの静かな村の一角で、探索隊の面々は一人の男と相対していた。
座る男の名はアデムサーラ・アン・ヌール(ez0192)。アトンのリーダーとして、エジプトでその名を知られた人物である。
だが、アン・シュヴァリエ(ec0205)の問いかけにも関わらず、その男は寝所の布の上に腰掛けたまま、静かに瞑想をしていたのみだった。
「しかし、セト神が現れたという話を聞くに」
反応のない一同を見回し、はばかるように小さくしかし強く、シェセルは疑念を口にする。
「私たち探索隊が動くこととなった太陽の遺跡の噂だけではなく、アトンという存在も、まさかセトにより計画されたことだったのだろうか?」
「アトン神は古来より伝わる信仰の源。‥‥それはない‥‥と、信じたい」
アデムサーラはシェセルの疑念に自嘲気味な笑みを浮かべ、つと、目を開いて言葉を発した。
「私は、この地で忘れられた、過去にあった太陽神を信じ、この地に、古き時代の誇りを取り戻すために、自分を曲げることなく行動してきたつもりだった」
そこまでの語気の強さはどこへいったのだろうか。男は迷うように口をつぐみ、表情に影を落として目を伏せる。
「だが‥‥その信仰はそもそも、私のものだったのだろうか?」
「でも‥‥」
「もし、私が騙されていたのであれば」
フェネックの声をさえぎるように、男は静かに言葉を紡いで、真摯な思いをつぶやいた。
「それは、私を信じてついてきてくれたものたちへの‥‥故郷への裏切りだ。だから」
「難しく考えすぎなんじゃないですかね〜」
ひっくり返しても解読には難しいところで書を閉じ、言葉の先を言ってはいけないと遮るように、いつもと変わらずユイスはつぶやいた。
「正直なところ、決意はもう十分あるわけなんですよ〜。あとはそれを実現する為、皆、本の僅か一押しするだけで‥‥それだけでよいはずなんですよね〜」
「ほんのわずか、一押しする‥‥」
「ええ」
ユイスの言葉を繰り返す男の声に重ねるよう、アンはその瞳を見つめてにこりと笑い、続けて真剣に表情を固める。
「あなたは英雄よ。かけがえのない‥‥私もあなたの運命にともに乗せてもらうわ。だから、悲しき道を選ばないで」
「‥‥ありがとう。異邦のものたちよ」
その声に迷いを払うよう数度、首を振ると、アデムサーラはすと立ち上がり、壁にかけてあった外套を手に取った。
「私は皆を止めに行く。ここまでしてもらっておきながら離れるというのは、いささか心苦しいが‥‥」
「お気になさらずに。我々は我々の。そして、あなたはあなたがしなければならないことをする。ただ、それだけのことです」
そう告げるシェセルとともに立ち上がった一同は、別れを惜しむように男と挨拶を交わす。
「最後に。真の道とは、けして古き姿を再生させることではありません。正道を進めるように‥‥その、心がけこそが大事なのです」
「果てない迷路の中で、出口はあると他者に希望を伝える‥‥結構、大変そうですけどね〜」
「まったく、だな」
真剣な表情で告げるシェセルと、常のようにまったく態度を変えないユイスの重い一言に、アデムサーラはふと、微笑んだ。
砂漠を駆ける風は、廃墟となった街を通り過ぎるそれよりも乾いていて、熱気をはらんでいた。
その熱さは人々の生きる気持ちの強さの表れなのだろうか、悪なるものに打ち壊されたカイロの町よりも、討伐隊が郊外に張った陣幕のほうが生き生きとして見える。
「それで、元総督はどちらに?」
「詳しくは。だが、カイロ市内に潜伏しているだろうというのがあの男の考えだ」
そんな喧騒が漂う空気の中、天城烈閃(ea0629)からの言葉をまとめた紙束に目を通す山本建一(ea3891)に、ハサネ・アル・サバーハ(ec1600)は、男の後ろに立つ眼光鋭い中東兵を睨むように視線を動かし、返事する。
「あの強欲な男が自らの宝を残したまま去るわけはない、という理由だがな」
「確かに‥‥」
メハシェファの正体は異形の魔物、このエジプトに古くから存在した悪神セトであり、ヘンリー・ソールト(ez0184)はその魔物と手を組み、宝と帝国の支配を狙っている。
話の途中、渡された紙束に書かれていたメハシェファの正体とヘンリー総督の目的を見つけた山本は、誰知らずとはなしに眉をひそめていた。
「お邪魔かしら?」
いぶかしげな表情の男の様子を見てか、尋ねる声とともに、天幕へと人影が入り込む。
「いえ、大丈夫です。お久しぶりですね」
「ええ。そちらも変わりなく」
天幕に入ってきたのは、数日前に到着したばかりのエセル・テーラー(ec0252)とニー・ギーレン(ez0194)だった。南部遠征隊がカイロより旅立つ前から数えて、数ヶ月ぶりとなる再会に、山本とエセルは静かに挨拶を交わす。
「短い別れだったけど‥‥偉くなったのね」
「そういうのは、好きではないんですが」
周囲に護衛のように立つ中東兵を見て苦笑交じりで微笑む女に、山本は心底まじめな表情で首を振る。
そうしなければ事態はもっと深刻になっていたとはいえ、総督府では、建一はメハシェファの部下の第一人者として動いていた。その人物が残るということに伴って生じる疑念を払うため、山本本人からの申し出により、彼には四六時中の監視の兵がつけられている。
「叛意のない者を見張るのは兵の無駄かもしれんが、まあ形だからな」
「それで安心が買えるなら安いものです。‥‥それで、挨拶に来ただけではないのでしょう?」
まったく申し訳なさそうな表情をせずに髭をしごく将軍に向けて、山本は水を向けると、ギーレンはその手を止めてうなずいて、人払いを命じる。
「アトンと、戦う必要がなくなるかもしれん」
「というと?」
「実は、私たちの‥‥探索隊のところにアデムサーラがいるの」
「!」
アデムサーラ・アン・ヌール。この地で帝国に反旗を翻したアトンのリーダーであり、今討伐軍と相対している一団の首領として、このカイロの街中でも何度か姿を見かけられている。故にエセルの言葉は、一同を驚かせるには十分なものだった。
「彼はアマルナの町で、不死者たちに囚われていたわ。それを私たちの仲間が救い出した。どうやら彼がイクナートンに出会ったころから、彼は囚われていたみたい」
「‥‥ということはやはり」
「ええ。今いる、アトンのアデムサーラは偽物、と言うことですか」
「話からすれば、アトンの動きが活発化した時期ともあう。間違いはないだろう」
真剣なまなざしで語るエセルの声を本物と判断しながら、ハサネは他の二人の男の表情を見つめると、山本とギーレンはそれに答えるように、考えを口にした。
「‥‥だが」
張り巡らされた蜘蛛の糸と、その全ての動きに納得がいったように沈黙する一同の空気を、将軍がためらいがちな言葉とともに破る。
「どうするのだ? 今ここで相対するアトンのリーダーが偽物とはいえ、奴らが帝国と総督府に対する脅威であることは変わらん。もちろん偽者は我らと手を組み講和する、ということはしないだろう」
その問いかけとも聞こえる声に、すぐに返答できるものはいなかった。
「ヘンリーの動きも読めぬしな‥‥」
「早急に片付けて、そちらの‥‥不死の王の復活も何とかしたいところですね」
山本はエセルの表情と手元に届けられた報告書を見比べて、将軍の心情に同意するようにうなずいた。
冷たき石組の暗き通路の奥から、暖かな灯りがすっと光の道を延ばす中、その向こう側から現れたのは数人の、探るような人影。
「こちらの方で間違いありませんか?」
「はい、大丈夫です」
先頭を進むアルフレッドの問いかけに、ティレス・フォンターヌ(ec1751)に寄り添うように守られたメリトアテンは静かにうなずいた。
「しかし、これほどの通路があるとは‥‥」
「昔から、遺跡にはそういうものがつきものですからね」
エミリアの嘆息に、王女から伝えられた通路と仕掛けを書き留めた紙片を手に、アルフレッドはこともなげに返す。
王家に伝わる秘事に関わるものとして、メリトアテンはピラミッドの通路と隠された仕掛けをいくつか、記憶に残していた。それを頼りに、敵よりも先んじて儀式を止めようと、探索隊の一部が今、こうして暗き通路を進んでいた。
その時、遥か、遥かに遠くから地響きのような音が響いたように思われた。
「もう、そんな時間か‥‥」
「残ってる時間はもうないってことかよ」
その地鳴りの音に気づいたかのように楠木麻(ea8087)は歯噛みし、土佐聡(ec0523)も時間のなさに舌打ちする。
合流した探索隊から送られた状況の整理の書状と、アトンについての使者が功を奏したのだろうか、今このときは討伐軍の一部がカイロより派遣されており、探索隊と合流して、ピラミッド周囲を取り囲んでいた。
その合流の時の噂と伝令の言葉を総合すれば、ピラミッドにはヘンリー元総督が陣取り、なにやら不穏な動きを見せていると言う。その報を元に、これまでにも何度か威力偵察が行われていたが、今回の地鳴りはそれよりもさらに大きなものだった。
「これが最後の攻撃というわけではないと思います。まだ、時間はあるでしょう」
ティレスの促しに一同はうなずくと、また静かに深く、闇の中を進んでいく。
探索隊の一行は状況の把握もあわせて、また再び二組に別れていた。
一組は地上で総督たちの軍に相対し、また討伐軍のあるかもしれぬ暴走を抑える者たち。そして今一つは、メリトアテンの言う遺跡の入口から、直接ピラミッドの中へと到達しようというものだった。
「この先を曲がれば、太陽のピラミッドの中です」
「‥‥そう簡単には行かないようだな、やっぱ」
王女の指差す通路の先、現れたのは白き包帯の衣をまとった骸。その古びた体に古びた槍を持ち、ゆっくりと構える相手に麻はつぶやくと、聡とともに構えて皆の前に出る。
「だが、ここで止まってる暇はない! 燃え上がれ、僕の精霊力よ!」
その麻の言葉とともに灯りを受けて黄金に照り返るその手から、高速の詠唱にあわせて黒い光が伸びていった。
「総員、突撃!」
砂塵をあげて駆けるは、この地に特有の駱駝乗りの騎兵。その勇壮な突撃の声とともに、数十騎がピラミッドに向けて突き進んでいた。
そびえるは巨大な偉容をたたえたピラミッド。その伝統の足元ではアリが這うかのように、野営を張った賊の陣が展開されており、こちらの突撃にあわせて対応しようと、慌てて展開する様が見て取れる。
「しかし、大丈夫かの‥‥この様子で」
「一度に総崩れということはないだろう」
急いで追いかけるように走るアナスタシヤのつぶやきに併走して、シェセルは静かに答え、その手にナイフのついたロープを構えくるくると回す。
戦いは瞬く間もなく前陣がぶつかると、乱戦に引きずり込もうとする歩兵と、機動力を生かしたまま駆け抜けようとする騎兵が先手を巡って入り乱れる状況となった。
そこに近づき回したロープの握る力を抜くと、空気を裂く燕のようにシェセルの手より刃が走り、騎兵に斬りかかろうとしていた戦士の腕を指し貫いた。手首を返しロープを巻き取って構え直す間、その戦士が怒りにまかせて走り来るが、次の瞬間、大きく一閃された緑の銀光に斬られ、敵はよろめいて倒れる。
「すまなかったな」
「気にするな。これも、仕事のうちだ」
エジプトの剣技の妙味か、滑るように相手を切り倒したハサネは、シェセルの言葉に感慨もなく応えると、辺りを見回し警戒する。そして変わらぬ調子で刃を振るえば、その鋭さに恐れをなしたのか、乱戦模様の戦士たちは攻撃を躊躇し、取り巻くように睨みつけるのみだった。
口数の少ない女戦士は、探索隊の面々には素性がわからぬものの、討伐軍とともに、ギーレン将軍の委任状を持って現れた。その書状の内容や印章には、アルフレッドの見立てるところ嘘は見受けられず、ともに現れた討伐軍の兵士とともに、今はピラミッドを牽制する戦いに身を投じている。
「そろそろ、下も動こうという頃じゃろうが」
危険を排するよう仲間からはぐれぬ距離で立ち、アナスタシヤは静かにつぶやいた。
予定では今頃、仲間たちが、ピラミッドにある秘密の通路を通り、中に潜入している‥‥はずである。
「今は彼らを信じて、集中するしかないだろう。こちらも、余裕があるわけでは‥‥」
「ぐわっ!?」
シェセルの答えを遮るよう、突如近くにいた騎兵の体が燃え上がると、悲鳴を上げた中東の騎士が転げ落ち、火傷に砂の上をのたうち回った。あわせて陽射しが強くなり、黄色と感じられた陽光は次第に白さを増していく。
「‥‥太陽が‥‥もう一つ?」
「‥‥陽の精霊の一種のようじゃのう。アトン神、太陽の神が現れたということか」
目の前の、一番大きなピラミッドの頂上には、天空に輝く太陽とよく似た、一つの煌々と燃え上がる球体が浮かんでいた。その体からは光の触手が数多に伸び、そしてその先からは陽光に似た、魔力の光がつと、放たれ無差別に周りを焼いていく。
「固まるでない! 狙われるぞ!」
「伝令!」
単純に、人の多いところを狙っていると見たアナスタシヤの叫びにあわせるよう、足早く近寄った伝令が、陽光の強さのみならぬ汗を額に浮かばせながら声を張り上げる。
「前線の方にて、ヘンリー元総督出陣。その剣に、徐々に前線が崩れています!」
「‥‥悪いことは続くものだな。さて、借りを返させていただこう」
ハサネの静かな舌打ちに続き、一行は周囲の乱戦をくぐり抜けながら前線へと急いだ。
「この先です、早く!」
「わかったよ!」
アルフレッドの叫びに応じて、殿で聡は迫るミイラを切り倒すと、距離を確かめて走った。
狭い通路の先、男が手招きする中に仲間が向かっていくのを確認すると、敵との距離を測って自分もそこへと駆け入る。
入り口を通り抜けてすぐ、横に回って石の扉を押せば、どしりと重い音を立てて扉は閉まり、その向こうで壁を叩く、哀れな亡者の音が響きわたっていた。
「ここが?」
「もう少し、先です」
麻の問いかけにメリトアテンが指差した先。その準備の間のように広い空間の先には、荘厳に飾り立てられた扉が立っていた。
一同は警戒を強めつつ扉に到達すると、その扉を開けるべく力を込める。
「っきゃっ‥‥!」
「!?」
重々しく扉が開いた瞬間、小さな叫びとともに何か褐色の柔らかいものが飛んできて、扉の横の壁にぶつかった。
「ラミア!」
「‥‥みんな?」
「ほう、遅れて来るは遠方よりの友、か?」
壁にぶつかり息を荒くするラミアと一行に向けて、その生き物は祭壇の上からしゃがれた声で低く笑う。
「あれは‥‥」
「あれは‥‥メハシェファ、さんです」
「‥‥まさか?」
アルフレッドに助け起こされるラミアの答えに、手紙で知っていたとはいえ、ティレスは小さく、疑念を口にした。
その姿はあらゆる獣を混ぜたとでもいうところだろうか。獣毛に覆われた立ち上がった犬に似た体に巨大な恐怖を感じさせる瞳。牛や山羊よりも巨大な角と、鰐を描くやと言うべき鋭き牙を持つその生き物は、青黒い舌を見せて笑っている。
「あれが旧神セト‥‥この地に闇を引き込んだ張本人です」
「あれが、大天使様の言っていた」
「来るぞ!」
エミリアのつぶやきの中、怪我人が後ろに下がる途中、セトよりうなり声にも似た詠唱が放たれると、黒き地獄の炎が放たれ麻を焼いた。
「待ってください‥‥神よ、今戦う者たちに魔を振り払う力を‥‥!」
エミリアが聖句を告げて白き光に包まれると、その神聖なる防護の力は聡に宿る。
次なる仲間に魔法をかけるべく動く女を背に、聡は鞘より月光を宿す刃を走らせ閃かせると、抜刀即座にセトに切りつけた。
「どうだ!」
「ぐ、わぁっ!」
目で追えぬ見えぬ一撃に油断し、セトの脇腹を抜けた斬撃は傷こそ大きなものではなかったが、刃に宿る退魔の魔力がその傷を一段、大きなものにしていた。
「それは、月姫の刃‥‥あの小娘だけかと思えば、アーマーンめ‥‥」
うなり声とともに少年を睨みつければ、セトはそのまま腕を振るった。鋭い爪を聡はかろうじて受け止め、続けて放たれた地獄の炎をエミリアの魔力によって小さな怪我と成せば、距離を確認して対峙する。
「あの怪我で、やっと互角、と言うところですね」
アルフレッドはその様子に通路での露払いとして用いていた弓をしまいながら、仲間の治療のために改めて魔力ある道具をとりだした。
「‥‥なめるなよっ!」
ティレスとエミリアがメリトアテンとラミアを守るように動くと、最初の不意打ちから回復した麻が叫び、走って距離を測る。
「極限まで高まれ‥‥僕の、精霊力!」
全力の魔力を込めた力が地の精霊を喚び起こし、黒き重力の光となってそれはセトへと放たれた。
聡はその直線からとっさに飛び退くと、残された魔のものは集中し抵抗しようと試みる。
だが、重力の光に一瞬よろめいたものの、セトはしっかりと床を踏みしめ、いまだ巨躯を誇っていた。
「残念だったな‥‥滅びろ!」
全身に傷を浮かべたセトが大きく息を吸い込むと、その口からは砂漠の竜巻にも似た、真空の息が吐き出された。それが麻を巻き込み舞い上げて壁へと叩きつけると、魔物は振り向きざまに聡に向けて地獄の炎を焚き付ける。
「魔法の武器でもない限り、これ以上は‥‥」
「‥‥!」
ティレスの漏らした言葉とその向こうで繰り広げられる防戦一方の様子を見て、ラミアはその手に黄金の光放つ剣をもって走り出した。
「死ねぃ!」
「‥‥それは」
振り下ろされた爪に一か八か、聡は剣を落として一撃を見据える。
「お前の方だ!」
「‥‥何!?」
夢想流の技、真剣白刃取り。刹那の賭けに勝ち、聡の両の腕はその巨大な爪を受け止め、眼前で防いでいた。
そのまま力で押さえ込めば、走り寄ったラミアが体重を預けて脇の傷口めがけ、王の剣を貫き通す。
「が、はっ」
血は吹き出なかった。滴ったかと思うそれは、すぐさま現世に形を保てなくなって空中にかき消えていく。
剣を引き抜きながらラミアが離れるのを確認して、聡は落とした刀を拾い上げ、構えた。
「バカな‥‥俺の、魔力を打ち破るだと? 貴様らでは俺に勝てぬはず。人間ごときが、この神に!」
「油断した、お前の負けなんだよ!」
その叫びに振り返った瞬間、黒き光がもう一発、倒れ込んだ辛い息の麻の手から放たれた。
それを顔面に食らい、重力の異常に巻き込まれた獣の体が倒れ込むと、ピラミッドそのものが軋みを上げたように思える。
すぐさま手にした銀の刃を閃かせて、聡が止めとばかりに刃を振るう。
旧き神の最後のあがき、爪の一撃が聡の肩を抉ったと同時、閃いた銀光はセトの体を断ちきると、醜き断末魔がピラミッドに響き渡った。
「よく、連れてきてくれました。では、どうぞこちらに」
烏哭蓮(ec0312)の薄い笑みに男は一つ礼をして下がると、連れられてきた二人の人物を案内するように歩みだした。
それは男と女だろうか、二人はその顔を隠したまま烏に従って後に続けば、案内される先は周りから比べてもひときわ豪奢な天幕だった。
「お連れしました」
「よく、いらっしゃった」
烏の声にそう応えるは、アデムサーラ。
そして、三人が中に入ったのを確認して閉められた天幕の中で、息を吐きながら隠した顔をあらわにした男は、やはりアデムサーラであった。
「よくぞ、ここまで化けたものだ‥‥偽物め」
「ほう、さすがに野良犬はよく吠えるな」
入ってきたアデムサーラは睨みつけながら憎々しげに言葉を述べ、待っていたアデムサーラは余裕の笑みで嘲りを返す。その様子を交互に見比べながら、肩をすくめるように烏は前に出ると、いつもと変わらぬ薄い笑みで、その考えを告げる。
「私にはこの際どちらが本物でも構いません。私の目的のためにより良く動いてくれる、勇者様であればよろしいのですから」
「だ、そうだ」
烏の泰然とした様子を睨みつけるアデムサーラを笑うと、これまでアトンに居たアデムサーラ‥‥神官アイの変化した姿のそれは、ゆっくりと本物に近づく。
「お前も、おとなしくあの都にて朽ちればよかったのにな。わしが作り上げたこの地獄に、わざわざ戻ってくるとは」
「仲間を見捨て、そのようなことを私が選ぶとでも?」
「お偉いことだな」
男の睨みつける視線を鼻で笑い飛ばすと、その脇で小さく体を縮める、女のほうへと視線を移す。
「それともその強がりは、女のせいか? まったく、人間という奴は‥‥っ!?」
蔑むように女を一瞥し、そして視線をはずしたその瞬間だった。
詠唱を高速で終えたアンが、そのローブを剥ぎ取ってすぐさま、手より黒き光を飛ばしてアイを打った。
邪悪なるものを打ち据える黒き神の光を、アイはアデムサーラの姿のままで受けると、不意を撃たれた衝撃と痛みに体を歪め、曲がった腕を見て悲鳴を上げる。
「ひ、ぃ‥‥な、なんだ、と‥‥! わしを、たばかったのか!」
「言ったでしょう‥‥勇者様は2人もいりませんしねぇ」
「だまれっ!」
アイはその瞳に憎しみを宿らせると、烏を地獄の炎で包み込んだ。
だがその隙、アデムサーラを後ろに下げると、アンは再びブラックホーリーの光で男を打ち据える。
「き、貴様ら‥‥貴様らの希望など、刈り取ってやるわ! アデムサーラ・アン・ヌールよ、地獄の炎に包まれるがいい!」
その言葉とともに、今までただ飛ぶだけだった黒き炎は、まるで意思を持つかのようにアデムサーラへと向きを変え、引き寄せられるように襲い掛かった。
だが、その炎は男のところに到達した瞬間、まるで焚き火の残り火に水をかけたかのように力を失い、掻き消えていく。
「なん、だと?」
「知らなかったのかしら。ジーザスの‥‥神のご加護よ」
目の前の信じられぬ光景に面食らったそのとき、目の前でアンが新たに魔法を唱えようとしているのを見て、あがくようにアイは後ろに下がると、天幕を立てる大きな柱に瀬をぶつけ、もたれかかった。
そのとき、闇にひらめく緑の光が、一瞬、一筋だけ、何かを断つようにアイの後ろに閃き走った。
「が、は‥‥っ?」
「人質も何もなければ、あなたなんて‥‥どうということもないもの、ね」
陽精霊の力で光を曲げ、見えぬ姿で潜んでいたテティニス・ネト・アメン(ec0212)が、その手にした翡翠の魔剣で一閃したその傷は、まるで干物を開いたかのような大きな傷をアイの背中に残していた。
そのまま白目をむいて数度、空をかきむしるように手を動かすと、どうと、アイはその場に倒れ伏す。
「ま、さか、このわ、しが‥‥?」
「その過信があなたの敗因よ」
倒れて痙攣する苦しい息の声を冷たく、テティは見つめるのみだった。
だがその息のまま、アイはにやりと笑うと、咳き込む息を無理やり吐き出して言葉を紡ぐ。
「だが、わしが死んだ以上、アデムサーラはその男‥‥この地を破滅に追い込んだ張本人は、お前になるのだ‥‥!」
「!」
その哄笑を伴った苦しい叫びに合わせるよう、アイが大きく息を吐き出すと、突然その姿が煙のごとくかき消えた。
そして夜闇は静かに静寂を迎える。
「‥‥アデムサーラ」
「構わない」
消えたアイの死体とたたずむ本物のアデムサーラを見つめる一同の中、かけられたテティニスの声に、静かにアデムサーラは微笑んだ。
「今こそ、間違った道を正す時だ。全てを告白し、そして‥‥総督府と話し合おう」
「死は、償いではないのよ。生きて‥‥皆のために生きてこそ、本当の償いになるのだから」
静かに継げる男の声に、続けて、静かにテティニスは尋ねると、男は目を伏せ、そして答えた。
「ああ‥‥もちろん死ぬことは考えてはいない。それは正しき道ではないと、教えられたからな」
その顔に浮かんだ優しげな笑みは、今雲間より顔をのぞかせた月の光にも祝福されているように見えた。
騎兵の斬りかかる一撃をヘンリーは微動だにせず、体で受け止めていた。
その身を覆う闘気の鎧は斬撃にもまったくひるみを見せず、にやりと笑って返す刀、男は手にした闘気の刃で騎兵を切り飛ばし、大地に転ばせる。
「噂のアラビア騎兵が」
落ちた男に追撃の蹴りを入れ、黙らせたあと、ヘンリーは耳障りな大声で笑いを上げた。
「この俺! 一人を倒せぬとは、片腹痛いわ!」
「いい気なものだな」
その声に振り向けば、放たれたのは陽光を反射して光るナイフの刃。それを避けるつもりもなく体に当てれば、オーラの鎧が傷一つつけることなくそれを弾き返す。
「何?」
「我がオーラの力の前には、それしきの刃など、蚊が刺したほどにも通じぬわ」
「ならば」
その隙に鈍重そうな男に回り込んで、ハサネが技を尽くして緑の刃を振るうが、その切れ味よき一撃もヘンリーの腕の皮一枚に小さな傷を残したのみだった。
「技などと言っても、しょせんそれだけの切れ味しか持たぬ!」
ヘンリーは飛び退きながら大きく腰を落とすと、距離をとったハサネめがけて重々しく走り、その全体重をかけて突撃した。
間髪入れずの攻撃に隙をつかれたハサネの体に桃色の光の刃が突き入れられると、光は腹部を大きく抉り、続けて馬車にはねられたかのように、女は跳ね飛ばされる。
「どうした、その程度か?」
血を流す腹の傷口を押さえて立ち上がるハサネにヘンリーはにやりと笑うと、何度か投げられるシェセルの攻撃も気にせずに女に近寄り、煌々と光る光の剣を振り上げた。
その時、ひょうと空気を切り裂いて放たれた矢が一筋、ヘンリーの頬をかすめて小さな傷を作る。
「!」
「ヘンリー!」
距離を取り、軽めの短弓を構えながら現れた天城は、続けて二本の矢を目にも止まらず手に持つと、引いては放ち放っては引いて矢を連続させる。
「うっとうしい!」
気を抜くか運が悪くなければ傷とはならぬものの、体に突き立つ矢の雨に舌打ちし、またその隙を狙って振るわれる女の緑光の刃に一言吐き捨てて、ヘンリーは距離をとり、指輪に念を込める。
「今日の所は退いてやる‥‥そろそろ、俺もあそこへと行かねばなるまい」
「待て、ヘンリー!」
「もうすぐ、お前たちとも本当におさらばだな‥‥あばよ!」
そのまま発動した魔力は黒い霞を立ち上らせて男を包むと、元総督はその場から姿をかき消した。
「勝ったようですね‥‥」
「残念ながらこれ以上の回復は。一人だけならまだしも、魔力が切れてしまって」
祭壇より降りた場所、祭壇の上で横たわる巨大な獣の姿を見ながら治療する一行に、エミリアはすまなそうにつぶやいた。
ぼろぼろな怪我人二人、麻と聡は壁により掛かりながらも、大丈夫だというように笑顔を向けて、目を閉じる。
「しかし、神を倒すことになるとは‥‥」
「気にすることは‥‥ありません」
ティレスの心配そうな瞳と声に、ラミアは力強くつぶやいて返す。
「あれは神ではなく、ただの魔物です」
そんな会話を横で聞きながら、持ってきた魔導具の力で回復を試みようと荷を探るアルフレッドは、ふと、視線を骸に向けていた。
目があった。
「みなさん!」
「が、はぁ」
アルフレッドが叫ぶが早いか、セトは大きく息を吐きながら、その朽ちかける寸前の体を持ち上げる。
一行は傷を押して構えを取るものの、すでに身の感覚はしっかりとなく、剣握る腕に力が入らぬものもいる。
「‥‥呪われよ」
「‥‥」
魔法の一撃が来るかと思われた瞬間、低く、ぼそりとした、気にしていなければただのくぐもりとしか思われる声があたりに響き渡ると、嘲りの笑いがセトより漏れる。
「呪われよ、熱砂の大地! 我の命持ちて開くは地獄の蓋! そして混沌の渦」
その叫びにあわせて、セトの体は黒い霞のように溶け出すと、ぐるぐると渦を巻いて部屋の上方に溜まっていく。
「なんだよ、あれは‥‥」
「わかりませんよ‥‥ただ、確実なのは、よくないことが起こってるってことです!」
聡のつぶやきにアルフレッドは強くなる空気の流れに帽子を押さえて叫び、そして仲間に下がるように声を上げる。
「メリトアテン様!」
渦を巻いた悪意はそのまま逆回しの竜巻のごとく、天井から、祭壇に横たわっていた干からびた死体へと吸い込まれていった。それを見て何かに気づいたように、メリトアテンは走り、そしてティレスの呼び声に一度だけ、一行のほうを振り返る。
「早く、逃げましょう!」
「‥‥私は月として、使命を果たさなければなりません」
声に頭を振り、そして祭壇の方を振り向くと、決意を込めた瞳とともに王女のその口から凛とした呪の音が漏れた。眼前では砂を周囲に従えた不死王、イクナートンのミイラだったものが立ちが上がり、涙を流していた。
闇色の、砂の涙を。
「太陽、月、星。全てはこの地の蓋として、遥かな古代の英雄が作り上げた封。今それなくば、その血を引く王と、女王と、神官が、太陽、月、星となりて、封を結ぶ」
「呪われよ‥‥セトの戒めと、アトンの絶対なる権威の元に。我より玉座を奪いし闇なる輩と、呪われた熱砂の大地に‥‥滅びを」
メリトアテンの声が響く中、それすらも覆い尽くすように闇色の砂が広がり、その風砂の流れの中に巨大な仮面が、王の顔が浮かび上がった。
戦いの中崩れ、小さく空いていた穴から漏れていた、アトン神のものと思われる陽光は、堰を切った水の流れのように部屋に流れ込んでは砂の中に吸い込まれ、闇と砂と光が部屋の中で渦を巻き上げる。
「封というのであれば‥‥私が代わりに!」
「残念ですが」
ラミアの声にメリトアテンは静かに微笑んだ。
「すでに太陽としては兄が。そして星として遠き子孫が、すでに封の儀式に入っています。あなたに教えている時間は‥‥もうない」
メリトアテンは微笑みのまま目を伏せ、目の前の砂の王と相対する。
「でも!」
「‥‥時間がありません‥‥今は早くここから逃げるんです。彼女のためにも!」
ディーシスはエミリアとティレスと目配せすると、メリトアテンの決意を見て静かにうなずき、ラミアを引きずり入口へと戻る。
「必ず、お助けします」
「神器を揃えてください。そして、真なる封を。我らの魂のみでは」
ティレスの問いかけにメリトアテンは振り向くことなく、答えを返す。
「地獄の鎌の蓋は閉じられても、セトの呪いは止められませんから‥‥!」
膨大な闇色の砂が流れ込んでくる瞬間、扉が閉じられ、暗黒の中に響き渡るは壁に叩きつけられる砂の音のみだった。
「‥‥なんだ、あれは?」
「‥‥わかりません」
カイロにしかれた討伐軍の陣地にて、騒ぐ兵たちの様子を確認すべく外に出た建一とギーレンは、その光景に息を飲み、そうつぶやくしかなかった。
方角はおそらく‥‥間違うことなく、三連のピラミッドのあるメンフィスの方。そこには煌々と、天空に輝く太陽とは異なる陽光が煌めいていた。
だが生命を象徴するかのような明るき光が一瞬止むと、次の瞬間、太陽が日食にて欠けるように、闇色の光に蝕まれていき、広がって見える光が次第に濁っていくのがわかる。
「セトが呪いでもかけたのだろうか‥‥アトンからの休戦の申し出、早くまとめねばならんな」
「ええ」
そうして二人がつぶやく間にも、まるで熱砂の大地を飲み込むがごとく、闇色の光は広がっていった。
「三つの神器?」
「うん‥‥真なる封印にはそれが必要だって、若長さんが」
「メリトアテン様も、同じ事を」
ピラミッドからは離れた討伐軍と合流しての陣地。ヘンリーが退いたことと突然のピラミッドの異変に、一同は大きく戦力を減じることはなく、ここまで戻ることができていた。
その異変は突然の地鳴りから始まっていた。その地鳴りが止むより前に、太陽のピラミッドの頂点で光を放っていた陽精霊アトンが、その体を次第に闇に蝕まれ始めたのである。
数日がたった今では、その太陽の身は全て闇となり、放たれる闇色の光はこの地では滅多に見られることがない、まるで黒雲が天空を覆ったかのような昏き光で辺りを照らしている。
その他の月と、そして星のピラミッドからは、弱々しくも抵抗するように一筋の白銀の光が天空を貫き、闇色の光に対抗しようと試みているようだった。
「まったく、最近姿を見せんと思ったら、そんなことになっておったとはのう」
いつもなら中に見えるであろうその人物のことを思い、頬をかきながら、アナスタシヤはその手にある錫上と、聡の腰にある刀と、そしてラミアの手にある剣を見つめて、大きく息を吐いた。
「まったく、最後まで大仕事、というわけじゃな」
「太陽、月、星にて全てのピラミッドに封印を‥‥か。早きに事をなさなければ、この地は呪いに包まれた地となる」
「そんなことはさせない」
シェセルのつぶやきに応じるよう、聡がそのぼろぼろの身を起こしながら強くつぶやいた。
「あんなものを、開いちゃいけないんだ。絶対に」
だがその決意を嘲笑うように、太陽のピラミッドの上空には竜巻が渦巻き、闇色の光を周囲に広げようと風強く吹きすさんでいた。
今回のクロストーク
No.1:(2007-12-18まで)
今回の物語を終わらせるために犠牲になるべき人をあげてください。
No.2:(2007-12-18まで)
犠牲にしたくない人はいますか?
No.3:(2007-12-18まで)
自分が犠牲になることで全てがおさまるのであれば、犠牲になってもいい人は手を挙げてください。